マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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詰問

「マキマさんの目的は、やっぱし護衛なんかじゃないですよ」

 

 と呟いたのは吉田ヒロフミという民間のデビルハンターだった。外部の者であるという立場から、これまで強い意見を発する機会のない彼であったが、戦況が乱れこうして少人数で情報共有をする場において己の持論を──おそらく、確証を得たのだろうことを──慎重な顔つきで語った。

 組織の内状を知らないからこそ得られるそうした客観的視点からの指摘は珍しかった。

 

「護衛にしては人数が多くて目立ちすぎるし、なによりマキマさんが依頼したの全員三流のやつですよ。俺含めてね」

「なら俺は四流になっちまうぞ」

「一流も老いには勝てないでしょ」

 

 冗談めかして発せられた岸辺さんの言葉に、彼は難なく返事をした。こうしたやりとりは既に二人の間では慣れたものらしい。……ここのところ岸辺さんは様々な立場の人間とコネクションを作っているようだったから、確かにマキマは怪しいもののそれと同じくらいに岸辺さんの立ち回りも怪しく見えはするのだった。

 

 しかしまあ、今は一触即発みたいな雰囲気でもなさそうだし、今後仕事を共にする可能性もあるかと吉田くんと岸辺さんの問答に口を割って入ってみることにした。

 

「三流って、それうちも入っとるんか?」

「ええはい。右腕が怪我で動かないと聞きましたよ。そんなんじゃ全力で戦えないでしょ」

「それもそうやな」

 

 三流と呼ばれることに不満はなかった。現に、クァンシを相手に明確な有効打を与えられなかった現状では、その立場に甘んじておくのがかえって気が楽でもある。

 それにまあ、吉田くんも冗談を交えて話をしている節はあるのだから──世界からやってくる刺客に対して十分とは言い難い護衛の質であると認識しているのは嘘でないにしても。

 

「となると、マキマの目的はなんやろか」

 

 私なりの持論はあるが、ひとまずは彼らに問うてみることにした。

 吉田くんは悩んだそぶりをした後に「分かりません」と両の手のひらを挙げて答えた。

 

「あんまり関わりたくないですね。厄ネタの匂いがしますから」

「ま、それが一番賢明やろなあ。所属しとる組織も民間公安っちゅう風に違うんやから、学生で無関係の立場におる君は深う首突っ込まん方がええで」

「でしょうね。……期末テストも近いですし、しばらく事が落ち着くまではデビルハンターも休業した方が良さそうです」

 

 疲れた身体を解きほぐすように、吉田くんは目一杯その場で伸びをした。

 

「俺に分かるのは、マキマさんもサンタさんも、なにか俺達の知らない目的で動いているってことですよ」

 

 彼にとってそれはさして興味のある事柄ではないのだろう──意識して一歩踏み出さずにいられているのなら、危機管理能力の高い少年だなと自然に思わされた。そうした中で、一言岸辺さんが「だろうな」と相槌を打った。

 

 私はそれが気になって、岸辺さんの方に身体を向けて訊ねた。

 

「マキマについてなんか知っとるんですか?」

「詳しくは分からない。だが、マキマは怪しい」

 

 彼はそう断言してみせた。食事会などでマキマを交え三人で食事をすることは幾度かあったが、そういったときには影にもみせない冷たさが含まれた声色であった。

 だから私はつい身構えてしまう。こうした冷たさが、彼のデビルハンターとして長く生きてきた刃であるだろうから。そうしてその刃がヒヤリと首筋を撫でるようでもあった。

 

「マキマの目的……俺なりに持論はある。だがな、ヨツナ」

 

 彼はしっかりとこちらを見つめて話した。

 度々、重要なことを話すとき、彼はこうして目を合わせて話す。どうにも真剣な様子だったので姿勢を正したが、なんとも予想していない言葉が次に飛び出した。

 

「お前には話せない」

「……理由聞いてもええですか?」

 

 予想外の返答に反射的に訊ねた。

 岸辺さんは煙草をふかしながら言った。横目で私の方を見ながらである。

 

「さっき、クァンシが侍らせている魔人の言っていたことが気にかかる。悪魔の肉って、どういう意味だ? お前、身体の半分がそうだっていうじゃねえか」

 

 吐き出された煙が空に消える。その言葉は私に対して問いかけるのと同じくらいに、不満を吐き出す息であった。

 私と彼とはそれなりに長い付き合いであった。だからこそ、仮にそうした“一ノ瀬ヨツナは純粋な人間でない”ような事実があるのであれば、それに気がつくことのなかった岸辺さん自身に対する馬鹿馬鹿しさというのが彼の心にはあるだろうし、なによりなにも話していなかった私への不満も含まれているのだろう。

 

 ちょっと困ったな、と私は少し口角を上げて返事をした。

 

「相手の魔人が苦し紛れに言いよった言葉やないですか?」

 

 その返答に、即座に岸辺さんは斬り返す。

 

「その可能性は薄い。なぜって、急を要する場面で話すようなことじゃない。……それにあの魔人は確かにそういった概念的なものを見抜けるらしい。俺が契約している悪魔もバレた」

 

 まだ大きく岸辺さんは煙草の煙を口から吐きだした。

 私は部下の方に視線をやった。あの現場にいなかった天童黒瀬は、私たちがなんの話をしているのかあまりよく把握していないようで、動揺したように縋る目つきでこちらを見ている。

 

 私は虚勢を張るように胸を張って、あくまでも堂々とした態度で話した。

 

「うちはこれまで、公安に楯突くようなことはしたことありませんよ」

「だからこそだ。マキマの目的もよく分からないが、お前の目的も俺には分からねえ」

 

 よりいっそう視線の厳しさを強めて彼は言った。

 

「お前は敵か? 味方か?」

「…………」

 

 その問いに易々と答えることが私にはできなかった。「はあ」と大きなため息をついて、気だるげに両頬を手で包んだ。

 

「なんちゅうか……うちもよう、分からんのですけど……」

 

 なんと説明すればいいのか……。

 といったところで、現実逃避のために視線を泳がせていたデパートの方で異変があることに気がついた。さっきまで物音ひとつ聞こえてこなかったので、それだっておかしいといえばおかしいのだが、今になってワラワラと少数の人形が外で集まっているのに気がついた。

 

「……なにかいますね」

 

 そう呟いたのは吉田くんだった。彼は良くも悪くも中立的な立ち位置で、そうした雰囲気を壊す発言に躊躇いがなかった。

 岸辺さんはそれに大きな溜息を。私は助けられたような気持ちで、屋上の柵越しに地上の様子を眺めた。

 

 わらわらと集う人形ども。それはやがて山となり、大きな形を象っていった。そうして出来上がったのは、まさしく異形と呼ぶに相応しい悪魔の姿。

 

「……ッ、なんや動きあったみたいなんで、うちちょっと行ってきますわ」

「その怪我でか?」

 

 呼び止める岸辺さんの声が聞こえたが、私は部下から刀を二本受け取り具合を確かめた。両手で持つことはできないので、一本は抜き身で、もう一本は紐で鞘ごと肩に掛けた。

 

「ええ、この怪我でです。うちの本業は悪魔退治なもんで、たまには仕事しなボーナス減らされてまうんで」

 

 そう言って私はビルの屋上から飛び降りた。ちょうど下に悪魔がいるのが幸いした──抜き身になった刀を左腕で支え、重力に引かれるままに大型の悪魔の頭をてっぺんから真っ二つに切り裂いた。

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