マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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地獄からの生還者

 突如現れた悪魔を頭から斬り裂き見事二分割にはしたものの、相手の命を確実に奪い取ったという手応えはまるでなかった。ただ無機物を斬っているような──そんな、生命を感じさせない一方的な命のやり取りを私はあの刹那に経験した。

 

 故に、私は驚きから目を見開きつつ──敵の厄介さ加減にため息をついた。

 こういった敵に出くわすのは初めてではなかったが、しかしそう頻繁に遭遇するタイプの敵でもない。言ってしまえば珍しいやつなわけで、経験則上こういう斬り応えのやつは決まって面倒なのである。

 

(身体が異形っちゅうことは、その在り方も異形っちゅうことか……)

 

 振るった刀の様子を見ながら周囲へ注意を払う。随分と硬い様子だったが、叩けば壊れる陶器のような脆さがあるようにも思えた──刀の刃で斬るよりも、峰で叩くなり鞘で殴りつけるのが一番だろうかと冷静な思考で判断する。

 

 しかしあいつは……あの姿形から見るに、サンタクロースと呼べば良いのだろうか。手下の数を多く減らされてからというものの大きな反応は見せていなかったが、先ほどデパートの上空に現れた巨大な手であったり、静かになったデパート内部の状況、またこのタイミングで姿を現したことなど……そういった情報から鑑みるに、およそ一連の出来事はあの悪魔の仕業であると思われる。

 もっとも人形の悪魔という概念にできることの範疇を超えた事象もいくつか見られる。どこまでがやつの起こしたことで、なにがそうでないのかといった考察は一度保留にし、ただ相手を倒すことだけに思考を専念させた。

 

(しっかし……人形の見た目しとるからって、弱点まで人と同じなわけやないか。心臓の辺り斬ったけど、そう簡単にはやられてくれへんみたいやしな……)

 

 仮に相手が武器人間であれば、確実に心臓を真っ二つにして再起不能にしているところだった。だが苦しみこそすれ死んでいないあたり、命に直結するような弱点は他のところにあるらしい。

 

 私が着地に手間取りよろついている隙を見計らって、二分割になった悪魔は──人形の悪魔と契約しているということは、サンタクロースと呼べば良いのだろう、人の心の根底にある恐怖心をくすぐるような見た目をした女は──分たれた半身を抱えて咄嗟の大ジャンプを披露した。

 

「ん」

 

 だがそう易々と取り逃すわけにもいかない。私は不安定な姿勢ではあったが力強くコンクリートを踏み抜き、今まさに跳び立とうと脚を曲げ溜めている悪魔の右脚を薙ぎ払うように打ち砕いた。

 

「小癪な……!」

「なんや君、喋れるんか」

 

 それでもヤツは跳びあがる。ただ片脚がないぶん中途半端な跳躍となった。それでもなんとか姿勢を維持することでデパートの外壁にまるで蜘蛛のように張り付いたのだった。

 そうして複数ある腕で壁にしがみつき、屋上を目指してゆらゆらと左右に振れながら動き出した。ただ半身が別れているのはやはり不便なのか途中立ち止まり、安全な高さまでいったところで回復に専念している様子が見られた。

 

「チッ……面倒やな」

 

 さすがにここからあの高さまで跳び上がると人の域を越えなければならない。あいにく今の私は人間だ。そのため刀は腰に差して、デパートの屋上まで階段を使って上がることにした。

 とはいえ一段一段上がっている暇はない。二段飛ばし、三段飛ばし、四段飛ばし……なるべく早く、決して取り逃すことのないよう急いだ。

 

「……! どないしたんや!」

 

 唐突に視界に入った異様な光景に目を見開く。

 長い長い階段を駆け上がると、そこで血みどろになったデンジくんとマキマが重なって倒れているのを見つけた。デンジくんはまるで死んでしまったかのようにぐったりとしていて、マキマに至っては右腕が複雑に折れ曲がった重傷である。

 

「なんや、なにがあった?!」

「? ああヨツナ。下の方が騒がしいと思ったら……そういうことか」

「そういうことかって……どないしたんその怪我」

「そういえばヨツナは巻き込まれてなかったんだっけ……。私たち、地獄に行ってたんだよ。今はちょうど帰ってきたところ」

「あ〜? ようわからへんねんけどっ」

 

 まるで旅行に行って帰ってきたみたいな、そんな気軽さで彼女は言う。謎の余裕と事態の深刻さとの間に生まれたギャップは私の眉間に不快混じりの皺を作った。

 

 しかしいくらマキマが斜に構えたような態度をとっていたとしても、事態はあいも変わらず深刻なのだ。サンタクロースは単に私から逃れることを目的として屋上を目指していたわけではないようだ。……おそらくは、この屋上で死に瀕したデンジくんの心臓を狙っているに違いない。

 

 そう考え、手前ここに取り出したるは一つの輸血パック。デンジくんに飲ませるようにアイコンタクトをしてマキマの元へ放った。

 

 そうして私はようやく辺りの様子に目を向けるのだった。受け止め難い現実を、しかと見つめる覚悟ができた。

 

「しっかし……えらいやられてもうたな」

 

 バタバタと、両腕のない人間が屋上に倒れている。そのほとんどはスーツを着ており、およそ戦闘には参加できまいといった様子だった。

 こっぴどくやられたのか無傷の人間なんていなかった。なにがそうさせたのか、決して生きてはいないだろうと一目見てわかるほどの者もいた。誰も彼も顔は暗く染まっていて、安らかな死に顔なんてのはどこにもなかった。

 みんな何かに抗ったのだろう。抗って、戦って、そして負けたのだ。

 

「はぁ〜……、やってもた……」

 

 意識のある者と、ない者がいた。息をする者と、しない者がいた。どうしようもなく死んでしまった者と、どうしようもなく生き残ってしまった者とが、このデパートの屋上で共に添い寝をしているのだ。

 

「…………」

 

 地獄とやらで懸命に戦ったのだろう。レゼの身体は三分の二が失われ、もはや息などなかった。幸いにも彼女は武器人間であり、重要なところが損なわれていない。おそらく首のピンを抜けば生き返るだろう──

 

(誰も彼もそうなら、こないにセンチな気持ちになることもないっちゅうのに)

 

 硬いコンクリートの床に膝をついて、甲斐甲斐しく介抱をするようにレゼの上体を胸元に寄せた。その冷たさに唇を噛ましめながら懐から輸血パックを取り出そうとしたとき──

 

「素晴らしいです……見てください、私の身体を……」

 

 地面が強く揺れたかと思うと、コンクリートを突き破ってサンタクロースが姿を現した。人形の悪魔はその四肢を惜しげもなく稼働させ、まるでプレゼントをもらった子供のように手足を見せびらかした。

 

「闇の中で、あなたにつけられた傷が瞬時に回復しました。あと半年で死を迎えるハズだった身体が、こんなにも再生するのですね……」

「あ……? 闇ん中ぁ?」

 

 なるほど。一度側面からデパート内部に入り込み、暗闇に身を投じることで回復したということか……。だからこうして中から突き破って現れたと。

 

 はたしてその再生能力が人形となんの関係があるのか……。おそらくは異なる悪魔の力もこいつは所有しているのだろう。そう考えると、ますます厄介だ。

 そのうえ、私は今の出来事ですっかり気分が悪くなってしまった。ただでさえ仲間がやられて鬱憤が溜まっていたというのに、こうも乱されると我慢ならない。

 

「……ええ雰囲気んとこ邪魔すんな!」

 

 怒りから腰に差した刀を投げつけた。弾丸のような空を裂く音と共に、それはサンタクロースの腹部に大きな穴を開ける。

 

「チッ……いま起こしたるからな」

 

 輸血パックを口で破り、その切り口をレゼの口元へ当て、血を無理矢理喉奥に流し込む。

 これだけ飲ませれば十分だろうと判断した私はレゼを抱えながら人形の悪魔まで駆けて寄った。

 

「これがうちらの力やぁ!」

 

 サンタクロースの胸元に潜り込むと、そのタイミングでレゼの首にあるピンを引き抜いた。私の行動は絶大な爆発とともにヤツの身体を砕き飛ばし、轟音と共にレゼの復活を訪れさせるのだった。

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