マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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ダークパワー

(デンジ視点)

 

 デンジは目を覚ますと、夕方が近づいた灰色の空の下でマキマの胸の中にいた。気絶してばかりで記憶は飛び飛びのため、どうしてこうなったのかという経緯は曖昧だ。デパートの中を走っていたら痛い思いをして、次に、よく分からない場所で痛みに悶えていた気もする。けれど今こうしてマキマの胸の中で抱かれていることに、デンジはぼうっとした頭のまま身を預けているのだった。

 

 近くで大きな爆発の音が聞こえた。ああ、まだ何かが起こっているのかと、遠いところでなにかを考えていた。あんまりにも記憶が朧げなものだから、彼は闘志を正しく持てていなかった。

 だからそう、マキマの囁くような一言と、胸いっぱいに注がれた血液が彼の心臓を震わせる。

 

「デンジ君、助けてくれる?」

 

 胸のスターターが引かれた。脳天を突くような痛みと、無理に起動した内臓とで、臓物がひっくり返るような気持ち悪さを抱える。死んで生き返るといつもこうだ、気持ちが悪い。

 

(だがよぉ、この気持ち悪さの原因はどいつだ? ここ最近イライラして、俺ぁ落とし前つけてやんねえと気が済まねえ)

 

 涎が垂れるように、口端から血が漏れた。それを啜るように肺で息をすると、デンジは勢いよくマキマの胸元から起き上がり、そうしてあたりを見定める。

 どこか開けた場所のようだ。空が近いので、すごく高いところなのかもしれない。建物の下の方ではなにかものが爆発する音が聞こえる──よし! 行くか!

 

 そんな気になって、彼は一言「ワン!」と叫ぶと、屋上の地面に空いた暗い暗い穴の中へ身を投じるのであった。

 

 暗い穴の中では、時折轟音と共に灯りが見えた。建物そのものが崩れてしまいそうな地響きに、デンジは強敵の気配を感じつつあった。

 

「よっと」

 

 チェンソーのチェーンを建物にひっかけ、上手に地面へ着地する。ちょうどその時、タイミングを見計らったかのようにデパートの出入り口が崩落し、なにか大きな生き物のような──それでこそ、人型に近い、気味の悪い悪魔がデパートの側面を突き破って落っこちてきた。

 その後ろに追従するのはレゼの姿だ。傷はないのか血に塗れた様子はなく、いつか戦ったあの恐ろしい爆発の規模とスピードで悪魔を追いやっていた。

 

「おぉ、レゼェ!」

「あ、デンジ君!」

 

 一瞬気を取られた様子であったが、レゼは勢いを緩めることなくそのままサンタクロースの足を吹き飛ばした。レゼが優勢にあるようだが、なぜか彼女は焦ったようにその力を奮っていた。

 

 連続して空気が爆ぜる。

 一種の爆撃機が街を襲ったかのように、かつてのアパートはすっかり廃墟と化し、道路にはガラスの破片が散らばっていた。

 

「こいつ、暗いところだとすぐ再生する! やっと外に出せた!」

「ああ? 再生?!」

「そう! 闇の悪魔!」

 

 地獄では意識が曖昧であったデンジにとっては意味のわからない文言であったが、後を詰めるようにレゼが突っ込むのを見て、それをただ見ているわけにもいかずデンジも手を出そうとした。だが……。

 

「ちくしょう! 人形がいるんだった!」

 

 押し寄せる人形の群れ。地上は多数の敵が存在する地獄であり、そんなことをすっかり忘れて降りてしまった以上、レゼのように空を飛ぶことはできないデンジはそのチェンソーを振り翳し一体一体乱雑に処理していった。

 しかし悲しいかな。いくら人とは違う力を持っていても、同時に襲ってくる多数の敵はデンジにとって不得手であった。

 やがて周囲を囲まれ、身動きが取れなくなって……万事休すかと思われたその瞬間、空を切る弓矢のような音が聞こえるのだった。

 

「あ!?」

「ノコギリ男。アイツをぶっ殺すまで手を貸せ」

「あ……? 誰だよお前」

「アイツ、私の女達を殺しやがった……」

「誰だってんだよ!」

 

 人形に囲まれていたところを助けられたのは事実だったのと、あの変な悪魔を倒すという目的は一致していたので、デンジはよくわからないまま首を縦に振って立ち上がった。

 

 しかし、周りを見渡すと倒したはずの人形がまた動き出していた。首だってないのに、健気なものだ。

 

「強化されてるな……本体を倒さないと意味はないようだ」

「アイツなら今レゼが戦ってるぜ。任せてりゃいいんじゃねえのか?」

 

 視線を一瞬、空で戦うレゼに向けてデンジは言った。

 弓の様相を呈した女もまた空を見上げる。ただその視線の先は一度レゼに向かうと、すぐに空そのものに移された。

 

「駄目だ。あのバクハツ娘、もうじき血が足りなくなって倒れる」

「あ……?」

「血を使いすぎだ。……この戦いはタイムリミットがある。夜が来たら終わりだ、だから急いでるんだ」

 

 

 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎

 

 

 事実、レゼは急いでいた。

 爆発という力は人形という脆い特性に対し有効性が強いものであったが、もっとも相手もただ攻撃されるだけではなかった。

 レゼには一度、こうして悪魔のような形姿になる前のサンタクロースとサシでやりあった経験がある(デンジが呪いの悪魔に倒されたのち、彼の心臓を守るために闘った)。そのため、一度敗れていた彼女は相手の力量の高さをよく知っていた。なんせサンタクロースは日中であってもその闇の悪魔の利点を生かすべくデパート内部の闇の中で非常に粘り強くレゼの体力を削ったのだから。

 こうして外に出て、日の下に晒されても、サンタクロースは夜が近付いているのを把握して時間稼ぎをするように立ち回っている。正直いまのところ、レゼには決定力が欠けていた。

 

「ハァ、ハァ、……まずい、夜が来る」

 

 爆発、身体の再生には体力を使う。日が没するのがタイムリミットだと決めたレゼは、それまでに全ての力を出し切るつもりであった。だからこそこうして夕方になり、刻々と街に影が差すようになり始めると、レゼは夜が近づく焦りと共に身体が鈍り始めた焦りを持ち始めた。

 

(まずい……これ以上派手なことはできない。まさかここまでとは、失敗した……!)

 

 壁に張り付きながらサンタクロースとの距離を離した。いくら爆発させても急所につながりそうな場所は外され(そもそも頭やら胸やら爆発して飛ばしているのに動きの鈍る様子がないところから、明確な急所はないのかもしれない)、複数ある腕で波状攻撃を仕掛けられる。

 段々とレゼは不利な状況に追い込まれていた。

 

(う〜ん、きっついなぁ……)

 

 建物の壁を利用した空中戦に挑んだのは、地上にいる人形の群れを避ける目的と、サンタクロースが建物の中の闇に隠れるのを避ける目的があった。けれどそれが仇となっていたことに気付く。

 

(ヨツナさんもデンジ君も、私みたいに空に浮けない。……一人でやれるって言っちゃったし、困ったなあ、ほんと)

 

 調子に乗っちゃったかな、とレゼは自嘲気味に笑うと、ヒラヒラと手を振って壁から手を離し、自重落下で地上に降りた。

 

「降参〜! 私じゃダメ!」

 

 デンジのいるところに降りると、そこには弓のような姿をした武器人間が一人と、それからヨツナさんがいた。彼女は両手に刀を握って立っている。

 

「お、レゼ。どうやった? あいつ」

「ダメです! 無尽蔵に回復するのもそうですけど、なにより致命的な弱点が見当たらない! そのうえ厄介なことに、相当の手練れですよ」

「うーん、逃げたほうがええか?」

「逃げても意味はない。どのみち、いま決着をつけるしかないんだ……」

 

 皆共々に、道の向こう側を見つめた。その先には徐々に輪郭を変化させていく敵の姿がある。

 

 街には帷が下ろされた。電飾は壊され、黒洞々たる夜がサンタクロースの気配を更に不気味に変化させた。

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