マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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シャイニング パワー

「だいぶ気持ち悪くなってねえか〜?」

 

 軽い調子でぼそりとデンジくんが呟いた。彼の視線の先には闇の中で蠢く二足歩行のなにかがいて、それは人形と呼ぶには既に手遅れなほど人の形を大きく逸脱してしまっていた。

 

 複数の節を持ったいくつもの腕、だるま落としのように顔が重なった脚、胴は少し長くなって女性的な膨らみを奇怪に増やしている。美しかった黒髪は自由に伸びて艶やかさを失っていた。開き切った瞳孔は死者を思わせるものでありながら、ギラギラと光るその様はまさしくガラス玉のようでもある。

 

「フフ……この素晴らしさを理解できないとは」

 

 誇らしげに彼女はこちらを見据えた。微笑みすらも、その裂けた口では不気味に見えた。

 サンタクロースは球体関節を滑らかに駆動させ手足の具合を確かめる。複数ある腕を操るのは至難の業かと思われたが、昔からそうであったかのように彼女は一種芸術的な構えで我々の前に立ち塞がった。

 素早くかつ繊細に動く彼女の手や腕は、先ほどまでとは違った闇の色とでも言うべきものに染まり始める。それが何を意味するのか察しがつかないほど愚かな私たちじゃない。

 

「マズイな……本格的にヤバなってきた」

 

 時は既に夜。希望の日は没し、長い長い夜がやってきたのだ。

 

 闇の中で即座に再生するサンタクロースは、もはやこの暗幕に閉ざされた街においては無敵と呼称して余りある存在だ。そんな存在と対峙して逃げ出す者は誰一人としていなかったが、同時に明確な勝利のビジュアルを描けている者もいなかった。

 

「話の通じる相手でもなし……どうしたもんか」

 

 相手の目的はおそらくデンジくんの心臓なのだろうが、だとしたら先程彼らが地獄に落ちていたのだというときになぜ襲わなかったのかが疑問に残る。サンタクロースの目的はもっと別のところにあるように思われた。

 となると、条件次第なら交渉もありうるだろうか……いいや、そうなら相手から話があると条件を持ちかけられるだろう。そうなっていないのだから、つまりそれは違うのだ。くだらない希望は捨てて、私はまた敵の様子を探るために視線を巡らせた。

 

 見るに、闇の悪魔の力は絶大だ。建物の影でさえあの再生速度を誇るのだから、夜になってしまった以上打破することは不可能に近い。ライトかなにかを照射して……などと考えたが、ライトだのなんだのが用意された自分にとって不利な戦場にサンタクロースがそう易々とやってくるとは思えない。

 やはり簡単にはいかなそうだと唇を噛む。

 

(うちのできることなんて壊すか切るかだけや……闇の悪魔ん力がある以上、時間稼ぎになるかどうかすら分からへん)

 

 相手の力量を測るためにクァンシが豪速で矢を数本弾いた。唸るようにしなり目標目掛けて一直線に向かっていったのだが、日のある頃は相手を蜂の巣にしていた矢は複数ある手で容易く掴み取られてしまった。

 それを見てクァンシは冷静に言った。

 

「明らかに速くなったな」

「せやな。夜の恩恵受けとる」

「んー、あれはダメですね。私じゃ無理です」

 

 輸血パックに入った血をまるで紙パックのジュースでも飲むみたいにちゅうちゅうと飲み下しながらレゼは事の趨勢を見守っていた。彼女の爆発を用いれば爆炎で光を生み出すこともできなくはないだろうが、なんにせよ爆発であれば一瞬に近い煌めきだ。その一瞬でケリをつけなければどうあがいても相手は再生してしまう……。

 

「ヨツナさんはどうにかならないんですか?」

「無理や。斬れんことはないけど、どこ斬っても死なんやつは殺されへん」

「ふむ……」

 

 再生できないくらい粉々にしてしまえばいいのか……?

 だとしてもどうやって? レゼの爆発であればと考えたが、それができたなら日のあるうちにヤツは死んでいる。

 サンタクロースはただ力にばかりかまかけているのではなく、技量も非常に高いと思われた。レゼも接近して爆発することは幾度もあったのだろうが、腕いくつかを犠牲に離脱するなどして影に入り即座に回復したのだろう。そんな状況から、今はさらにもっと不利に追い込まれている。

 

 どうしたものかと考えあぐねていると、そこでクァンシがこんなことを話した。

 

「コスモが要る」

「あ? 小宇宙?」

「私の女だ。……魔人なんだが、アイツがいればなんとかなるかもしれない。だがさっきから姿が見えない……」

 

 言われて周りを見渡すが、ぱっと見てまともな女性というのは見当たらない気がした。一般人は既に人形だし、レゼは爆弾、クァンシは弓矢のような姿形に変貌してしまっている。

 もっともそのコスモと呼ばれる少女は魔人であるというから私たちと同様におかしな格好をしているのだろうが……少なくとも魔人である以上人形になってしまったということはないだろう。

 

「うーむ。デパートで岸辺さんらと話しとったときにおった子ですか?」

「それはまた別の子だ」

 

 そう言うクァンシの目には悲しさが混じっていた。

 

「コスモは溢れた目玉が特徴的な愛らしいお嬢さんだ。一目見れば分かるんだが、それが見当たらない」

「迷子かいな……」

 

 どういうわけでその魔人が必要になるのかがはっきりとしない。教えてくれ無いだろうとクァンシに視線を送ったが、人の形をしていない頭は無愛想にも何の変化も起こさなかった。

 

「じゃあクァンシとうちとでそのコスモっちゅう子探すわ。レゼちゃんはさっきまでサンタクロースと闘っとったし、ある程度戦い方分かってきたんちゃうかな思うからそっち任せる。デンジくんはレゼと闘うたことあるから、レゼのやり方分かるやろ。合わせたってな」

「うし! よく分かんねえけどよお、闇だってんなら光ン力見せつけてやるぜ! なぁレゼえ! 江ノ島行きてぇしよぉ!」

「え、江ノ島? なにいきなり?」

 

 変にヤル気のあるデンジくんは待ちきれないといった調子で両腕のチェンソーを勢いよく奮い立たせてサンタクロースに向かって走り出した。それを見かねたレゼはデンジくんの背を追いかけながらこちらを振り向いて話す。

 

「時間稼ぎってことですか?!」

「せやな。倒すことは考えんでええから、なるべく血ぃ温存して闘いや!」

 

 と役割分担をし、私は彼らに激励の言葉をかけた。

 さてここからは私のできることをしよう。変にでしゃばるよりは若い力に任せたほうがいいだろうし、あの二人が人探しに向いているとは思えない。

 

 さあ、クァンシに例のコスモが居そうな場所を訊ねよう。そう考え声をかけたところで、背後から一際大きな爆発の音が聞こえてきた。レゼには血を温存するようにと伝えたばかりだし、こんなに大きな爆発があるものかとつい驚いてレゼらの方を振り返る。

 

 すると、ガソリンスタンドが大いに燃え盛り爆炎をあげているではないか。その炎の中からはデンジくんが空になった一斗缶を投げ捨て、全身で火を燃やしながら確かな足取りで歩いて出てくる……。

 

「オレが燃え尽きンのとオマエが死ぬの、どっちが早ェかなァ! 教育テレビの理科でやってたけど忘れちまったから、こうなりゃ実験だよな実験!」

(しもた! デンジくんには時間稼ぎするよう言うとらんかった……!)

「前からやってみたかったんだよなあ……! 実験! 光ン力で頭が段々良くなってくよぉ〜!!」

(やばぁ……うわ、やっばぁ……)

 

 全身が炎で包まれたデンジくんは、レゼの援護を待たずして人形の悪魔に突っ込んでいった……。

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