マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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懐事情

 先日起きたサンタクロースとの交戦により特異課のみならず応戦に来ていた退魔課も多くの犠牲者を出した。デンジくんらの所属する特異課に限っては壊滅的といっていいほど魔人はほとんど死に、生きている者も半分近くは満身創痍の状態で救出されたほどだった。

 そんなこともあって退職者も幾人かは出た。こうした大型の悪魔との戦いがあると、そうして志半ばに辞めていく者は多い。

 

 要は戦いが終わっても公安は大変ということだ。人員が減った分、他の都市から人材を融通してもらうしかない。パトロールに出られる者が足りない場合は民間に頼ることもある。

 そんなわけで、足りない分を補うようにここ数日は市街地でのパトロールに私たちは専念していた。

 

(デンジくんらはしばらく休みか……。ま、しゃあない。あんなことあった後やしな)

 

 デンジくんらが所属する退魔課は戦いの渦中にいたこともあり、先に記していたように悲惨な状態になっていた。そのため上の判断により、じき迫る銃の悪魔との対戦に備えて退魔課のメンバーには一時の暇が与えられたようだった。

 

「ねーねーヨツナさん。私たちにも休みってないの?」

 

 と仕事の合間に訪ねてきたのはレゼだ。レゼは黒瀬や天童と同じく私の直轄の部下ということになっているので、特異課とはちょっと待遇が違う。

 なので、特に怪我を負った様子もないデンジくんやパワーちゃんが遊び呆けているのを横目に、真面目に彼女は働いていた。

 だが……やはり年頃の女子としては我慢できないものがあるらしい。膨れっ面で、溜め込んでいた不満を放出するように話した。

 

「あれからずっと、外に出ても悪魔退治ばっかりで……たまに呼ばれて本部に行っても書類書かされて……」

「よう仕事やっとるやん」

「違うぅ!」

 

 レゼは机に突っ伏して叫んだ。

 ちょうど今は彼女が言うところの「書類書かされて……」の時間で、黒瀬天童の指示を受けながらペンを走らせハンコを押している。

 

「私も遊びたい……! またアレ、ないんですか? 護衛の仕事!」

「あんなん何回もあったら公安潰れるわ……」

 

 人員の損失もそうだが、主に始末書の面で。

 

「働くってこういうことやしなぁ。んまあ、休み取れば遊べんこともないけど……」

「じゃあ休みましょうよ……!」

「せやけど、仕事は後回しにしても消えやんで……?」

 

 つんつん、と私は今レゼが書いている書類を指差した。

 

 レゼは爆発という特異性があるため、他と比べて周囲への被害が尋常でない。飛び上がればそれだけで道はボコボコだし、屋内戦闘などしようものなら壁天井床全てが壊れる。

 

 特にあの日はデパート内部での戦闘が多々あったらしく、(もちろんレゼだけが全ての損害を引き起こしたわけではないが)ガラスは全て割れ、道は道でなくなってしまった。

 結果、廃墟と化したデパートに関する書類プラスサンタクロースとの戦闘における事情聴取とで、てんやわんやの状態であった。

 

「ヨツナさんも書かなあきませんよ。車、盗んでぶっ壊したんですから」

「ひぇ……」

「緊急時とはいえ、無免許運転しよったんですから。今回の功績と併せて給料プラマイマイですわ」

「プラマイマイ?」

「プラス、マイナス、マイナス」

「えぐいことしよるわ!」

 

 これだとボーナスは期待できなさそうだなとガックリ肩を落とす。

 

(実際……今回うちがなんかええことしたか言うたら、大したことはしとらへんねんな……)

 

 したことといえばクァンシと戦って、サンタクロースちょっとだけ斬って、あとは魔人を探していたくらいだ。

 戦闘は主にデンジくんやレゼが行っていたし、決め手になったのもデンジくんの光のパワーと宇宙の魔人のハロウィンなのだから、この程度のマイナスで済んだことを喜ぶべきだろうか。

 

(一番喜ぶべきなんは、こいつらが無事やったっちゅうことか)

 

 その点に関しては、本当に良かったと思う。あれほどの激戦の中で傷一つつかなかったというのは奇跡に近いだろう。

 

「っちゅうか、君ら途中からなにしとったん?」

 

 戦いに夢中になって頭から抜けていたけれど、そういえば二人はどうしていたのだろうかと疑問になって訊ねた。途中、というのは岸辺さんや吉田くんと合流してからのことだ。

 

「岸辺さんらと一緒におりました。サンタクロース出てきたん見てヨツナさん突っ込んでったんは見とったんで応戦には行こう思ったんですけど、足引っ張るだけか思うて……」

「ふーん。まま、君らが元気ならそれでええんやけど」

 

 実際あの戦いで罰の悪魔の力が有用に働いたかどうかは分からない。呪いの悪魔のように明確な死を与えるタイプではないから、闇の悪魔とやらの力を手に入れていたアイツにダメージこそ与えても明確な致命傷は難しかっただろうと考える。

 死なれるくらいなら、生きていてくれた方が良い。

 

「話戻しますけど」

 

 とレゼ。

 

「休み取れないんですかあ? なにかこう、夏休みみたいな」

「夏はもう終わったわ」

「じゃあ、今は秋だから……秋休み」

「んなもん世間一般にはない。あるとしたら冬休みやな」

 

 はぁ、とため息をついたレゼと目を合わせる。連日の仕事続きで、いくら若いとはいえ疲れがあるように思えた。

 

 元気ではあるのだろうが、その元気を放出する先が悪魔退治というのもいかがなものだろうかとふと思う。

 

「うーん……」

 

 一日くらい休みは取れそうなものだが、なにしろ今、私たちが担当している仕事は銃の悪魔の肉片回収を行っていた時代とそう変わっていない。パトロールしつつ強い敵が出てきたら倒しに行く、みたいな仕事なので、一日に二、三度都内のどこかに呼ばれるのだ。となると休みを取ったとしても休日出勤を余儀なくされる。

 

(レゼ一人だけ休ませるわけにもいかんからな……。レゼは、うちの監視下に置くっちゅう条件で公安におるわけやし)

 

 というわけで、ただでさえ人が足りていない公安で強い悪魔の相手が可能な便利屋扱いされている私たちに休みなんてものはないのだ。それはレゼも変わりない。

 

「悪魔はいつでも出てくるしなあ……」

「えぇー」

 

 それに今は銃の悪魔討伐に向けて実力のある者たちが召集されていると聞く。事実、私たちの元にも参加を求める連絡があった。

 そうなるとやはり実力を持った人物が一部に集中し出すし、準備やら何やらで忙しいようなので、私たちの仕事はこの時期まさしくピークを迎えていた。

 

「ぐむむむ……」

「ほらレゼ、さっさと手ぇ動かしぃ」

 

 黒瀬に言われてレゼは渋々とまた作業に戻った。

 

「ぐむむむ……」

 

 しかしあまりにも可哀想だ。なにかしてやれることはないのだろうか。

 

「せや」

 

 考えていると、一つのひらめきが生まれた。

 そういえばこのあと予定があるんだ。そのときにでも訊ねてみよう。

 

「なあレゼちゃん。今日の夜マキマと飯行くから、そんとき休めるよう頼んどくわ」

「? 夕飯は、食べに行くんですか?」

「せや。前に貸し作ってもうたからそれ返すためにな。高級レストランや。うちの奢りで」

「へえ……高級レストラン?」

「そそ。前、服買いに行った場所あるやろ、あっこの近く」

 

 言うと、天童が神妙な面持ちでこう話した。

 

「……あそこのレストラン、前から気になっとったんで調べたことあるんですけど、ヨツナさんが思っとる三倍は高い思った方がええですよ」

「ええ?! さ、三倍?」

 

 三倍……。ただでさえ最近は出費が多いのに、誰も私の懐事情は鑑みてくれない……。

 

「……とっ、ともかく、ダメ元で聞いとくわ。飯食うて相手も上機嫌やろうし……」

 

 緩慢な動きでタンッとハンコを押す。力のない笑みがより部下からの同情を誘った。

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