マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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お酒に酔って

 マキマとの食事を終えて家に帰るとレゼら部下三人が卓を囲んで談笑に興じていた。彼らが囲む机の上には寿司桶が並べられていて、どうやら晩は出前を取って寿司を食べたらしいと思われた。

 

 マキマと二人高級レストランに行くことになり、私一人良いものを食べるのは忍びなかったので三人にはいくらかのお札を渡してあったのだが、それで美味しく腹を満たしたのだろう。

 美味しいものを食べ、親しい仲同士楽しく話し合っていたので、彼らのその緩やかな表情を見て私は不思議とホッと落ち着いた心持ちになった。壁越しでも聞こえてくるような笑い声を聞く限り、彼らはご機嫌な様子だった。

 

「なんや君ら、寿司食っとったんかいな」

「ええ……あ」

「……被ってしもた。ま、どうせ君ら食うやろ」

 

 手土産がないのも寂しいので寿司を買ってきたのだが、夕飯で同じものを食べていたらしい彼らにはタイミングが悪かっただろうか。とはいえ買ってきたのだから食べないわけにはいかない。包みを開けてそれをつまみつつ、私は安酒の入った缶を開けた。

 

 天童黒瀬には私が家を留守にしている間、レゼの監視(という名目のお留守番)を頼んであった。あくまで彼女は私の保護下にあるので、仕事中のみならず私生活においても監視の目を置かなければならないのだ。

 仕事などで外に出るときは必ず私が随行しなければならないのだが、こうして家から出ない状況であれば多少は規制が緩んだ。天童黒瀬の二人もそれなりに実力はあるのだし、私の元で戦いに参加していた実績もある。それに家という特定の位置は公安としても外から監視がしやすいとのことなので、例外的に家にいる場合は私がレゼから離れることが認められていた。

 

 もし仮にだ。レゼが家から出ようとして無理に抵抗をすると、この家を監視している公安の職員がそれを抑えるために攻撃することになるだろう。そうなると天童黒瀬を巻き込むことになるので、レゼにとってはその危険性が拘束具となっている。言ってしまえば彼ら二人を人質のように使っているみたいであまり気分は良くないが、それでレゼが自由に暮らせるのならと考えるとまったく不自由な話である。

 

「留守番ご苦労さん。君ら明日も仕事やろ、酒はほどほどにしときや」

 

 言って彼らから少し離れた位置にある椅子に座る。居間から少し離れたキッチンにある椅子で、居間にはこたつ用の卓しかないのでこうして椅子に座ると部下三人の姿が俯瞰的に見ることができた。

 彼らが幸せそうな様子を眺められる幸せ空間だ。そこに座って、少し物思いに耽りたい気分だった。

 

 物思いというのはマキマのことだ。あのときマキマが話したことは色々あった。結論こそあの場では出せなかったが、「返事、待ってるから」と言われたのでいつかは答えを出さなければならないのだろう。それが私にとっては悩みの種であったのだ。

 

 そんな私の悩みを、浮かない雰囲気を、長年付き添ってきた部下たちは表情を見ただけで察したのか、遠慮なくこんなことを訊ねてきた。

 

「マキマさんとの夕食、どないでした?」

「どないって……美味かったわ。そらあんだけの値段するわな思た」

「ええー、いいなあ。私も食べてみたいな」

 

 と言ったのはレゼだ。風呂は済ませてあるのか既に寝巻き姿で、まるで幼い子供のようにナイトキャップをかぶっている。いつもの長い前髪がないので珍しく額が露わになっており、いつもより幼い顔つきだった。

 

「アホ言うな。そない頻繁には行かれへん。自分で稼いで行きぃ」

「ケチ!」

「まあまあレゼちゃん。で、なんの話したんです?」

「なんの話って……」

 

 ふと思い返されるのはあの台詞だ。思い返してみても、どうしてそんなことをマキマが言ったのか、私には分からない。

 心当たりがないのもそうだが、マキマがなぜあんなことを言ったのかが──それら言葉の意図が私には掴みかねた。

 

『私、知ってるよ。ヨツナのことなら全部』

『一緒に逃げちゃおう』

『一緒にチェンソーマンを倒そう』

 

 肝心なことを話しているようで、その実、一方的に放たれた言葉の数々。マキマは私を信頼して話してくれたのかもしれないが、その信頼に見合うほどの価値を私は私自身に見出せていなかった。

 

 なにを知っているのだろうか。なんのために逃げるのか。倒すって、なにを目的に?

 

(なに言うとるか分からへんゆうねん……うちに何を求めとるんや?)

 

 チェンソーマン、というのはデンジくんのことか?

 倒す、というのはどういうことか?

 

 なにより、マキマはどうしてそんな重要そうな話を私なんかに?

 

 疑問ばかりが連なる。考えれば考えるほど、分からないことが増えていく。

 

 ただ強いて言うのならば、チェンソーマンという単語には聞き覚えがあった。昔マキマが話していた気がするが、酔った席の場だったので記憶が曖昧だ。

 

(すまんマキマ……多分前から大事なことは伝えてくれとったんかもしれへんけど、そんとき酔っとったせいでなに言うとるかホンマ分からへん……)

 

 酔ったら思い出すかと思い、食事の帰りの道すがら酒を買い込んで飲みながら帰ってきたわけだが、頭が段々ダメになるばっかりでよりますます謎が深まっていった。

 

「マキマと……なに話したかは、よう覚えとらへんわ。せやけど雑談ってそうゆうもんやろ?」

 

 黒瀬の「なにを話したのか?」という質問にはそう答えた。

 それから思い出したように、天童に服装や化粧のことで世話になったと礼を言った。

 

「レゼちゃんのことはちゃんと話しはりました?」

「レゼ?」

「休暇のことですよ。デンジくんらと遊べるように」

 

 と天童がついでのように話す。実際、彼女らにとって重要なのはそこだった。レゼが十分に遊べないのはかわいそうだという意見は私も同じだったので、そこのところは私もよく理解していた。

 

「ああ、あれなら、銃の悪魔の討伐終わって落ち着いたら、休み取れるよう手配する言うとったわ」

「だって、レゼちゃん。よかったな」

 

 なんて話がまた居間にいる三人の間で話される。

 

「せやけど、銃の悪魔の討伐ってだいぶ先やなかったでしたっけ? 九月とかでしょ?」

「それまでの辛抱ってこっちゃな」

 

 今はまだ年末年始。半年以上は休みがないと考えると、いつになく過酷だ。

 

「まぁデンジくんらは大した怪我しとらんらしいし、早いとこ仕事場にも復帰しよるやろ。それで我慢しとき」

 

 作戦があるのは九月か。なら、返答の期限はそれまでだろう。

 悩ましいとはいえ、長いのも考えものだなと、私はぼんやり熱を持った頭で思った。

 けれど貫かなければならない芯はあるだろうと、半年後に答えることになる返事の言葉を私は考えていた。




原作読んでで気付かなかったんですけれど、世界の刺客編から終盤のあの展開まで半年以上の時間が空いてるんですね……。ビックリしました。
とはいえ半年分幕間を書くわけにも行かないので、多少時間をスキップして書きますね。
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