マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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朝を迎えて

(ヨツナ視点)

 

 夜明けごろになると一部の犬達が目を覚ましだすので、それに合わせて私も目を覚ますようになっていた。家で飼っている犬の数があまりにも多いので、朝夜と時間を分けて散歩をしなければ道を歩くのも困難なくらいだったからだ。

 小型犬ならまだしもうちにいるのは大型犬だ。散歩の大変さは想像に難くないだろう。

 

「彼、まだ気分悪そうやなあ。難儀なこっちゃ」

 

 起きて出るとキッチンの方で目玉焼きを作るマキマがいたので、朝の挨拶を交わしてからそんなことを話した。

 

 昨日やって来た少年の顔色は随分と悪い。家に帰って休めば良いと提言したのだが、時間が時間だったので結局こちらで一夜を過ごすことになっていた。

 ご飯自体はモリモリとよく食べていたようなのだけれど、突然気分を悪くして吐いてしまったらしい。食べ物が腐っていたのか心配になったのだけれどそういうわけでもなし。アレルギーだろうかと思ったけれど、目に見えるような肌の発疹もなかったのでなんとも言えなかった。

 

「寝顔もなんや気分悪そうやし、悪夢でも見とるんやろか」

「どうだろう。それなら起こした方がいいのかな」

「う〜ん……ま、魘されとるわけでもないし、そっとしといたろか」

 

 ただあんまりにもその表情が可哀想だったので、背中を少しだけさすってやる。こんなことで彼の苦しみが和らぐとは思わないが、不思議とそうしてやりたいと思ったのだ。

 

 すると、そうして私が彼の頭を撫でているのを見たのか、いつの間にやらキッチンからリビングにやって来ていたマキマがこんなことを訊ねてきた。

 

「彼のこと、そんなに気になるの?」

「まあ、せやな……気になる」

 

 返答には少し迷った。私自身、彼をこうも心配する気持ちがどこから湧いて出ているのかが分からなかったからだ。

 ただ理由は分からなくても、心配する気持ちは本物だと感じたから、曖昧ながらも答えた。

 

 するとマキマは「そっか」とだけ言って、ソファで眠る彼と私との間に割り入るようにして机の前に座り、それから「朝食を食べよう」と私にも座るよう促した。

 断る理由もなかったので促されるままに着席する。

 

 いったいなんだったのだろうかと疑問に思いつつも、彼女が用意してくれたパンや目玉焼き、サラダといった朝食に手をつけた。

 

(実際、うちはなんでデンジくんのことがこんなに心配なんやろか……そら体調悪そうな人おったら誰が相手でも心配にはなるけど、こうも心苦しなることがあるんか)

 

 昨日彼が体調を崩し始めたときから抱いていた違和感を、このとき初めて具体的に捉えられた気がした。

 

 心配は誰にだってする。

 けれどこの心苦しさは赤の他人へ向けるには珍しい感情だと思う。マキマにだって、そう簡単には向けることのない気持ちだ。

 

 そんなことを食べながら考えていたものだから、食事の最中は会話もなかった。食べ終わると二人で食器を運び、そこからは私が洗い物をした。

 

 マキマはマキマで、今日は用事があるらしい。

 

「そうだ」

 

 とスーツに着替えていたマキマがキッチンに顔を出して言った。

 

「今日は仕事があるから、デンジ君と一緒に外行ってくるね」

「ん、分かった。ほなうちは犬っころの散歩行ってくるわ」

 

 と返すと、マキマは考えるように顎に手を当てて、「いつくらいに散歩は終わりそう?」と訊ねてきた。

 

 どうしてそんなことを訊くのか疑問に思ったけれど、それをわざわざ話の合間に挟むのもわずらわしかったので、「今が五時ちょっとやから、洗いもん終えてからってなると……七時前には帰れるんちゃうかな」と答えた。

 

「そっか……じゃあ悪いんだけど、今朝の散歩はナシにしよう」

「ナシ? ええんか? 犬の健康とか」

「仕方がないよ。今日はそういう日だから」

 

 それより、とマキマが話した。

 

「今日は外が騒がしくなるけれど、絶対に外には出ないようにしてね」

「……? なんの話や? 祭?」

「そんなものかな」

「はっ、真っ昼間から祭なんてあるわけないやん」

「…………」

 

 マキマはネクタイを結びを終えると、真っ直ぐな目でこちらを見た。「外に出ないで」という言葉を念押しをするように。

 

「……別に構わへんけど、いつまでなん?」

「夜には終わるかな」

「ほな夜まで自宅待機っちゅうことか。ほら犬っころども、今日の散歩はないからさっさ飯食うて寝えや。あーほら、遊んだるやん」

 

 散歩がないと分かるや否や(犬に人の言葉が分かるとは思わないけれど)、目を覚ましていた犬たちはその有り余る元気をじゃれつくというやり方でぶつけてくる。

 一体相手ならまだしも、大型犬複数体とじゃれつくと立ってもいられない。

 

 床に倒れ伏してああだのこうだの言っている私の方を見て、マキマは笑った。

 

「じゃあ行ってくるね」

 

 いつの間にか目を覚ましていたデンジくんを連れて、マキマは玄関から外に出た。私はそれを見送って、少しの間の平穏を犬達と過ごすのだった。

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