南極でゴジラを見張ってたらテロリストが来た件 作:よよよーよ・だーだだ
わたしの祖父は〈
海底軍艦:轟天号といえば、南極で怪獣王ゴジラと大決戦を繰り広げ、見事勝利を収めて『怪獣黙示録』を終わらせた最強無敵の万能戦艦だ。
「おじいちゃん、“ゴーテンゴー”の おはなし をして!」
そうやって幼いわたしがせがむと、生前の祖父は「そうかい、ユウコ」とわたしの頭をわしゃわしゃと撫でながら武勇伝を得意気に話してくれた。国連配下の対怪獣特務戦闘軍:Gフォースの元隊員だった祖父は若い頃に轟天号へ乗っていたことが自慢で、当時の思い出について振り返るとき祖父はとても楽しそうだったのをよく覚えている。
「こっちの腕の傷はゴジラと戦ったとき、こっちの目の方はドーヴァーでマンダとやりあったとき、足の傷は『惑星大戦争』で大魔艦やヘルファイターどもとやりあったときだな。あのときは大変だった……」
最強無敵の轟天号、回転キャタピラとスーパーロケットで陸海空すべてを制覇! 流れるような美しい流線型の未来ボディ! 各部に取りつけられた全十一門の轟天砲! 艦首についた巨大ドリルで侵略者のUFOもぶっ壊す! そして必殺、絶対零度冷線砲とエーテル破壊爆弾で怪獣たちも侵略者もやっつけろ!!……
祖父が話してくれる轟天号の思い出話は夢いっぱいの心が躍る冒険譚で、孫娘のわたしはそんな祖父と轟天号のお話が大好きなお爺ちゃんっ子だった。
そんなわたしだから祖父のようになりたいと憧れるのも当然の帰結で、将来の進路は怪獣絡み、それもGフォースと子供の頃から心に決めていた。
『イマドキ怪獣絡みの仕事、それにGフォースだなんて……』
『あなたの成績や学歴なら民間に行った方がいいんじゃないかなあ? Gフォースって激務薄給、それも3kらしいよ?』
『なによりあなたは女の子なんだから、怪獣とやり合うのは男どもに任せておけばいいじゃない……』
諦める機会や理由はいくらでもあったけれど、わたしはそれでもどうしても夢を捨てられなかった。大学卒業を控えたわたしが「Gフォースに入りたい」と言ったとき、周囲が反対し、両親とさえ喧嘩してしまった中でも祖父だけはわたしの夢に賛成してくれた。
「ユウコ、おれの跡を継いでくれて爺ちゃんは嬉しいぞ! 立派なGフォース隊員になって、世界の平和を守ってくれよな!」
うん、ありがとうお爺ちゃん! わたし、頑張る!
そういってわたしは大学院を卒業後に採用競争試験を受験して合格、晴れて国連直下の対怪獣特務調査機関モナークの職員となり、さらに厳しい訓練を経てGフォースへ配属となったのだ。
わたしが採用競争試験が合格したのを見届けるかのように祖父は亡くなったけれど、祖父はきっと今も天国からわたしのことを見守ってくれていると信じている。
そして過酷だった研修も昨日で無事終了。今日からしばらくは移動日なので実際に現場へ入るのは数日後だけれど、これから配属後初めての現場業務となる。
……行ってくるね、お爺ちゃん。
机に飾ってある祖父の遺影へお参りをしてから、わたしはその日も自宅を出た。
南半球の最果て、南氷洋に囲まれた極寒の地:南極大陸。そこに今回のわたしの任地がある。
観測船のデッキ上から見える真っ白な氷原、その中でも一際大きな氷山の麓に築かれた、巨大な人工のドーム建屋が目を惹く。
その光景を前にして、白い息を吐きながらわたしは呟く。
「ここが、〈ゴジラ・サイト〉……」
国連対怪獣防衛前哨基地第04号、通称:ゴジラ・サイト。
かつて轟天号を旗艦とした旧Gフォースの連合艦隊がゴジラと最終決戦を繰り広げた地であり、そして現在は怪獣ゴジラが封じ込められている場所でもある。
……ここで祖父は戦ったのか。そう思うとなんとも感慨深いものがある。
南極といえば、怪獣に絡んだ怪談や都市伝説が数多くあることでも知られている。
たとえば、南極大陸の地下に
実際、ペンギンの変異した冷凍怪獣や南極怪獣マグマ、宇宙大怪獣キングギドラの同族など、『怪獣黙示録』の時代には南極でも怪獣は見つかっている。特にキングギドラは宇宙怪獣だし、あるいは上述の都市伝説で宇宙怪獣が絡むものはその目撃談が形を変えて伝わったものなのかもしれない。閑話休題。
さて、Gフォースになったわたしの初仕事、今回の任務について軽くおさらいをしておこうと思う。
『怪獣黙示録』が終わり平和を迎えてから久しい現在、Gフォースは組織再編で特務機関モナークの指揮下となり、その役割は『怪獣との戦い』ではなく『怪獣の監視』へとシフトしていった。
世界各地に築かれた怪獣監視用の
その中においてわたしが果たす役割は『前哨基地査察官』。各前哨基地を周りながら適切に運用管理が
特に、わたしの今回の任地であるゴジラ・サイトは重要な拠点だとされている。ゴジラ単体の破壊力もさることながら、ゴジラの存在が周囲にもたらす影響力には凄まじいものがある。ゴジラ一体が封印されたことが『怪獣黙示録』終焉の切っ掛けとなったように、もし逆にゴジラが復活するようなことがあれば『怪獣黙示録』再発の引き金となりかねない。
……初仕事とはいえ、課された任務の重大さに緊張を覚える。武者震いという奴だろうか。
「……タニ査察官!」
物思いに耽っていたわたしは、名前を呼ばれて我に返った。見ると観測船のクルーがわたしに声をかけてくれていた。
「まもなく上陸します。準備を」
「あ、はい、いま行きます!」
クルーの指示に、わたしは慌てて返事をする。
いよいよ南極へ上陸したら、まずは現地のスタッフと顔合わせだ。それから数日かけて前哨基地を査察……といった流れになるだろう。
(……よし! 気合いを入れていこっ!)
ぱんぱんっ。
わたしは、南極の冷気で赤くなった自身の頬へ喝を叩き込み、下船の準備に取り掛かった。
上陸したわたしは、まず基地のメンバーとの顔合わせを行なった。
「国連対怪獣特務戦闘軍Gフォースから派遣されて参りました、前哨基地査察官南半球担当のユウコ=タニです! 何卒よろしくお願い申し上げますっ!」
過去のコミュニケーション研修を思い返しながら、わたしは可能な限り愛想よく声を張り上げた。
査察官にとって必要なのは現場との信頼関係構築、信頼関係構築において大事なのは第一印象、だから出来るかぎり好印象にしなくては。そのようなことを考えつつ、わたしは頭を深々と下げる。
「あー……どうもご丁寧に」
そんなわたしを出迎えたのは、白衣を着た男性だった。見たところ齢の頃は60代半ばくらい、無精髭にボサついた胡麻塩頭のその男性はひどく疲れ切った、力の抜けた表情をしている。
「えっと、あんたが今度来た新任の査察官? おれがこの基地の司令だ。まあ雪と氷以外は特に何も
……これは『歓迎されている』のだろうか。それとも『新人の小娘相手だし適当にあしらってさっさと済ませよう』とか思われている?
判断が難しいところではあるけれど、とりあえずわたしの挨拶は及第点ではあるようなので良しとしよう。
気を取り直して、わたしは早速本題に入った。
「では、ブリーフィングのあと査察を開始させていただきます!」
はきはきと予定を伝えるわたしに、基地司令は「まあ、あんまり気張らずにな」と言った。
「査察の時はおれが適当に案内してやるからついてきな、お嬢さん」
「はいっ、ありがとうございます!」
挨拶もそこそこにブリーフィングを済ませたあと、わたしは基地司令の案内に続いて基地内の査察を開始した。
南極前哨基地ゴジラ・サイトは大きく分けて三つのエリアに分かれている。一つは『本部棟』、もう二つが『居住棟』、三つ目がドーム建屋を含む『研究棟』だ。
まず最初に案内されたのは本部棟にあるモニタールーム。大画面とコンソールが並び、モニターでドーム建屋の内部を監視している。
モニターに映っているのは無数の監視画面、そしてドームで封印された氷原の地下深くである。氷壁の奥深くに透けて見える、黒いシルエット。
「これが、ゴジラ……」
思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
身長50メートル、体重1万トン、茨の背鰭に長大な尻尾、そしてモニター越しでもわかるその風格はまさにキングオブモンスターだ。氷漬けにされたゴジラの姿は、まるで巨大な黒曜石とクリスタルから削り出した壮大な芸術作品のようにも見えた。
驚嘆しているわたしの隣で、基地司令がぼそりと呟いた。
「こいつが目覚める時が来ないことを祈るばかりだよ。次に復活したら今度こそ世界が滅びちまうだろうからな」
そう言う司令は遠い目をしながら、昔を懐かしんでいるようだった。基地司令の年齢についてわたしは60代半ばだろうと見込んでいるのだが、もしも本当にそうだとすれば彼もまた『怪獣黙示録』を経験した世代のはずだ。あるいは基地司令も、ゴジラの全盛期を目の当たりにしていたかもしれない。
「……まあこれだけぐっすり眠ってるなら、もうしばらくは世界の終わりも来なさそうだけどな」
そうですね、とわたしは頷く。
怪獣王ゴジラの生態は計り知れない謎に満ちているが、ひとつ明確に判明している数少ない弱点として『低温に弱く、冬眠してしまう』という点がある。事実、過去の対ゴジラ戦でも、北方神子島での生き埋め作戦やゾルゲル島のシャーベット計画など、氷漬けにする作戦で一時的とはいえゴジラを無力化することに成功している。その点を踏まえれば、南極の氷の底こそゴジラが眠るのに最も適した土地なのかもしれない。
ところで、わたしは懸念に思っていることがあった。
「あ、あのっ」
「なんだい、“査察官のお嬢さん”」
……これも先ほどから気になっているのだが、ここの基地司令はわたしのことを『お嬢さん』と呼んでくる。ひょっとして新任だから低く見られている、言い方を変えれば『ナメられている』のだろうか。
「お嬢さんじゃないです、タニです」とわたしがすかさず指摘すると、基地司令はかったるそうに答えた。
「はいはいわかったよ、お嬢さん。で、なんだ」
だからお嬢さんじゃあないですって。訂正してもらいたかったけれど話が進まないのでとりあえず脇に置き、わたしは先ほどからの疑問点を訊ねてみた。
「さきほどから案内していただいてますけど、モニター監視員はどちらですか? 見当たらないようですが……」
わたしの認識が正しければ、規則上は監視員が常時最低3人でのローテーションによる監視体制だったはずである。しかし実際のモニタルームには案内役の基地司令とわたしたちがいるだけで、監視モニタをモニタリングしている人員:監視員が一人もいない。何か理由があるのだろうか。
わたしの質問に、基地司令は答えた。
「ああ、コーヒーだ」
コーヒー? 何かの符牒ですか?
わたしがそう訊ねると基地司令は最初「ぶふっ、面白い冗談だなオイ」と噴き出した。しかしわたしが真剣に訊ねていることがわかると、途端に眉間へ皺を寄せた。
「おいおい符牒って……コーヒーはコーヒーだよ。コーヒー休憩。喫煙ルームだろ」
それってまさか。わたしは恐る恐る訊ねた。
「まさか、『誰もモニタリングしてない』んですか!?」
わたしが問い質すと、基地司令は「あー大丈夫大丈夫」と笑って答えた。
「見ろ、センサーも計器もちゃあんと動いてる。異常があれば警報鳴るだろ」
「警報、って……それじゃあ監視員を常駐させている意味が無いじゃあないですかっ」
あまりの適当さにわたしはつい声を荒げてしまうのだが、基地司令は「人手が足りねえんだよ」と答えた。
「人手、って……充分な人数がいるはずでは?」
「ところがどっこい、足りてねえんだよな。基地の運営を回すだけで精一杯、増員要求出しても通りゃしねえし」
そんなっ。思わず声を挙げてしまうわたしに、基地司令はさらに付け加える。
「それにどうせ起きやしないしな。こちとらあいつを見張って数十年なんだ。5分10分抜けたところで起きたりはしねえよ」
わたしは呆れてしまった。
憧れの祖父が教えてくれたゴジラと轟天号の大決戦。そのあとを引き継いでいるのが、こんな杜撰な監視体制だったなんて。
呆気に取られるわたしの一方で、基地司令は「まあまあ落ち着けお嬢さん」と肩を叩いてきた。
「ここの勤務、ゴジラ・サイトの見張り番なんてこんなもんさ。あんたの前任者も最初は驚いてたが、これで問題が起きたこともねえしな」
「そ、そうなんですか……?」
「言ったろ、『気張るな』って。査察なんてさっさと適当に終わらせちまおうぜ。お嬢さんもこんなむさ苦しいだけのところに長居なんかしたくねえだろ?」
だから『お嬢さん』じゃあないですってば。内心で憤慨しつつも、わたしは基地司令に従って査察を続けた。
その後の査察は数日程かけて行なったが、その結果は酷いものだった。
万全の監視体制としなければならないはずのローテーションやスケジュールは、人手不足で完全に破綻していた。先はコーヒー休憩と言っていたが、そのような形でも休憩を挟まなければ回らない状態だったのである。
居住棟について、さほど広くない施設なので散らかったりはしていなかったが、生活必需品が足りておらず、各員の持ち寄りで回している有り様だった。
最悪だったのは設備、特に対ゴジラ用の設備の状態だ。パワードスーツとドローン数機だけは基地の保守作業でも使われるので辛うじて稼働可能な状態で維持されていたが、他は全滅だ。M6000TCシステム、単一指向性爆弾地雷ブラストボムの地雷原、全自動メーサー砲台……万一ゴジラが復活したときに備えて設置されていたはずの超兵器たちは、どれもこれも老朽化していて使えなくなっていた。
「どの設備も定期的な部分更新や全更新が入っているはずでしょう? それらは一体どうなってるんですか?」
「『書類上は』だろ。国際機関と言ったって所詮は役所、ましてやどこかの国が明確にケツを持つわけでもない。そう珍しいことじゃないさ」
「それにしてもこれは酷すぎます! ここにある設備は全部、ゴジラが暴れだしたときに食い止めるため用意されていたものですよね? なのにこんな有様じゃあ、もし次にゴジラが復活したらどうするんですか」
ミーティングルームでわたしが問い詰めると、基地司令は手先でペンを弄びながらあっけらかんと答えた。
「ま、そのときは死ぬだろうな、おれたちも」
そんなっ、開き直らないでくださいよっ!
つい激昂してしまったわたしに、基地司令は言った。
「あんたは若そうだから知らねえだろうがな、『怪獣黙示録』の頃のゴジラを知ってれば、こんなチンケな兵装なんて焼け石に水だってのはすぐわかる。仮に万全の状態だったところで本気のゴジラを止められはしねぇ。だったらこんな設備、維持する意味なんかねえよ」
「た、たしかにそうかもしれないですけど……」
つい口籠ってしまったわたしに、基地司令は続ける。
「ま、所詮仕事だ。給料もらえりゃそれでいい。あまり気張らずに済ませた方が気が楽だぜ」
……もういい。
そうやってへらへら笑い飛ばそうとする基地司令を見ている内に、わたしはキレた。
「……この件、報告させてもらいます」
「はい?」
虚を突かれた様子の基地司令へ、わたしははっきり告げる。
「査察官としてこの基地の現状は到底看過できません、すべてまとめて中央本部に報告させていただきます! いいですねっ!」
最後通牒のつもりだった。何のための査察だ、何のための査察官だ、これ以上
ところが、基地司令は平気な顔をしてこう嘯いたのだった。
「別にいいぜ。言いたきゃ言えばいい」
んなっ……!?
絶句するわたしに、基地司令は皮肉な笑みを浮かべながら続ける。
「この状況が『ヤバイ』ってことをおれが認識してない、とでも思ってたのか? 設備の増強だの更改だの増員だの、必要な要望はこっちから散々上げてたさ。だけど、どういうわけか上に届かないまま終わっちまう」
そう語る基地司令の言葉は、まるでわたしを教え諭すようでもあった。
「つまりな、国連のお偉方はもう怪獣の監視管理なんて『やる気がない』んだよ。予算も人員も、怪獣どもと戦うためのものなんて
けど、けれど。わたしはなんとか口を開いて反論を試みる。
「ならなんで告発しないんですか!? こんな明らかな中抜きや不正、告発すべきじゃあないですか!」
「告発、誰にだ? 国際司法裁にか? あんな何の強制力もない制度が御飾りでしかないのは、あんたでもわかってるだろ」
「し、しかし……」
「喉元過ぎれば熱さ忘れる。皆そんなもんだ、誰も彼も『怪獣黙示録』のイヤな思い出なんて忘れちまいたいのさ。それより、あんたこそどうしてそんなに必死になってんだ? ゴジラの被害を直接被った世代、ってわけでもねえんだろ?」
「……っ」
基地司令の言葉にわたしは何も言えなかった。反論できなかったのだ。
基地司令の言うとおりだ、わたしは直接ゴジラの被害を受けたわけでもなければ、この目でその猛威を見たことすらない。そんなわたしに、当時を知る世代である基地司令の判断をどうこう指図など出来るのだろうか。
沈黙するわたしに対し基地司令は苦笑を浮かべながら、「まあ気持ちはわからなくもないがな」と呟いた。
「『怪獣黙示録』を経験してる人間なんて今じゃもうほとんどいねえし、いてもみんな恰好の良いことや耳触りの良いこと以外は口を閉ざすだけさ。世界中の誰もがそうだ、『あの頃』のことをなかったことにしたがってる。こんな基地のことなんて非正規雇用の誰かさんに押しつけて忘れたい、それが今の世の中のニーズなんだよ」
そんな……。
唖然としているわたしに、基地司令はふとこんなことを言い出した。
「……お嬢さん、おれは昔、海底軍艦の轟天号に乗ってたんだ。ゴジラを
「えっ」
わたしが憧れた祖父と同じ轟天号のクルー、その打ち明け話。突然の告白で戸惑うわたしを尻目に、基地司令は言った。
「乗ってたと言っても当時はガキで下っ端だったからな。大したことはしてねえんだが、轟天号がゴジラを封印するときに乗ってたのは事実だ。世界中で暴れまくってたゴジラをこの氷の底にようやく封じ込めたとき、あのときは本当に『これでやっと平和になる、世の中はもっと良くなるんだ』と思ったもんさ」
だがな、と基地司令は続ける。
「実際にはそうはならなかった。怪獣どもがいなくなった途端に、今度は怪獣より厄介なものが現れ始めた。なんだと思うね」
謎掛けめいた言葉。その答えが思い浮かばないわたしに、基地司令は現実を教えてくれた。
「『平和ボケ』だよ。怪獣どもが暴れなくなった途端、人間はだらしなくなり始めた。常に見張っておくべき怪獣どものことなんか忘れちまって、金や資源も人員も頓珍漢な方向にばかり費やして、その結果がこのゴジラ・サイトってわけだ。予算はどんどん削減されて今じゃあこっちが税金を喰う『怪獣』扱い、ここに送られてくる増員も大抵は他所でやらかして左遷されたような奴ばっかりで碌なのが来ねえ」
基地司令は手先でペンを弄びながら、こう締めくくる。
「別に『平和なのが悪い』って言いたいわけじゃあない。おれだって平和なのは善いことだと思うさ。だけどこんな有様を見せつけられちまうと、あの頃おれたちがあれだけ必死になって勝ち取った“平和”ってなんだったんだろうな、って思っちまうよ」
強い諦念の滲んだ基地司令の言葉に、わたしはもはや何も言い返せなかった。
……ふう。
査察の結果を報告書にまとめ終えたあと、わたしは一人、休憩室で物思いに耽っていた。
念願だったGフォースとしての初仕事、胸に懐いていた使命感と期待感。しかし今回突き付けられたゴジラ・サイトの有り様は、わたしが一人で勝手に夢見ていたそれらを根底から揺るがすのには充分な酷さだった。
怪獣を監視する前哨基地は世界各地にあるが、最強最悪の怪獣ゴジラを見張っているはずのゴジラ・サイトですらこの有様なのだ。他の前哨基地では果たしてどれだけ腐敗しているか、もはや想像もつかない。
『怪獣黙示録』の終焉、そんなのは仮初の平和にすぎなかった。その薄氷の状態を支えているのが『南極の分厚い氷』というのもなんだか洒落が効きすぎている。
そして基地司令の言った『平和ボケ』という言葉が重くのしかかってくる。『怪獣黙示録』が終わって平和であることが当たり前になった結果、人々は『平和』の尊さを忘れてしまった。怪獣がいなくなった途端に堕落し始めた人々。
……わたしも、同じなのかな。
人々の堕落を嘆いているけれど、かくいうわたし自身もその一員ではなかったろうか? そう思うと、とても怖くなった。
腐敗した国連上層部や為政者たち、彼らの振る舞いを戒めるべき立場にあったのに、わたしたち一般大衆ときたらその現状に興味関心を払ってすらいなかった。その挙げ句がこの体たらくじゃないのか。基地司令の言うとおり、わたしは世間知らずの『お嬢さん』でしかないのかもしれない。
そうやって考え込んでいるわたしのところに、後ろから声を掛けてくる人物がいた。
「よお、お嬢さん」
基地司令だった。
「お嬢さんじゃあないです、タニです。いい加減覚えてくださいよ」
わたしがすかさず言い返すと、基地司令は「まあまあ」と宥めながらこう言った。
「報告書は進んでるかい。進んでないならどうだ、一杯」
その両手には湯気の沸き立つマグカップが二つ。わたしのためにコーヒーを淹れてくれたらしい。
「……ありがとうございます、いただきます」
わたしは差し出されたマグを受け取り、口をつけながら進捗を報告する。
「報告書はちょうどまとめ終わったところです。明日提出して完了にしようかと」
「ふーん、そうかい。随分難しそうな顔してるから、ここの状況を上にどう言おうか悩んでるのかと思ったよ」
「そう思うなら改善していただけると嬉しいのですが」
「そいつは無理だな。お嬢さんの報告で上が動いてくれるなら話は別なんだが」
そう言っておどけてみせる基地司令。きっと悩み込んでいるわたしを見かねてのことだと思うのだけれど、今のわたしは上手く表情を取り繕えなかった。
「どうでしょうね。一応全部書きましたけど、どこまで通るものか……」
わたしの表情がよほど険しかったのだろうか、基地司令は声の調子を変えてこう言った。
「……ま、あんまり気に病むなってことだな。結局のところおれたちは見張り番を粛々とこなし、あんたはその様子を見て上に報告する、お互いに出来ることをやるだけ。それが人類を守ることになるって信じてな。それにお嬢さんみたいな真面目な奴、おれは嫌いじゃあないぜ」
……えっ?
思わず聞き返すわたし。しかし基地司令はそれっきり何も言わず、ただ黙って窓の外を眺め続けていた。その背中はどこか寂しげで、わたしはそれ以上追及することができなかった。
そうしているうちに基地司令は「あ、そういえば」と話題を変えた。
「お嬢さん、帰るのは明日だったか?」
ええ、とわたしは頷く。
査察は終了、報告書も出来上がっている。明日には迎えの船がやって来て、ゴジラ・サイトにおけるわたしの初仕事は終了だ。そう説明すると基地司令は納得したように手をぽんと打ち鳴らす。
「なるほどなあ。そりゃあ名残惜しいよな。よし、今夜は盛大にパーッとやるか!」
「パーッ、ですか……でもわたし、規則上お酒は飲めませんよ?」
そう答えると基地司令は「まあそう固いこと言うなよ」と言った。
「査察は終わって報告書も出来たんだろ? ならもう仕事は終わり! あんたはずっと真面目にやってたし、最後の夜くらいは羽を伸ばしてみてもいいんじゃねえか?」
そう言われてみて、わたしは改めて考え直してみた。
……確かに明日出発してしまえばしばらくは移動日で、また次の前哨基地への査察だ。数日程度の付き合いでしかなかったとはいえ、この南極の前哨基地ともお別れになることを思うとやはり心寂しいものを感じなくもない。
何より、基地司令からここまで気を遣われてしまっている自分が何とも情けなく思えた。
だからわたしはこう答えた。
「……そうですね。やりましょうか、パーッと」
そう微笑みながらのわたしの返答に、基地司令は「そうこなくっちゃあ」とニカッと笑い返してくれた。そこでわたしは慌てて付け加える。
「あ、でもお酒はほどほどに、ですよ? 本当は酒宴なんて禁止なんですから」
「わかってるわかってる、嗜む程度だろ? そっちこそ潰れんなよ~?」
「大丈夫です、こう見えてお酒は強い方なので」
「ほほう、そうかい、そいつぁ楽しみだ」
そんな風に空気がほぐれたときのことである。
基地内で警報が響いた。
〈緊急事態発生、非常事態発生。全職員はただちに持ち場につき、指示あるまで待機せよ〉
そのアナウンスを聞いて、基地司令の顔色が変わった。すぐさま壁の通信機に取り付き、通信を始める。
「何があった!?」
〈南極基地より南南東の方角、国籍不明の飛行体あり。当前哨基地に向かって飛行中!〉
国籍不明の飛行体? 何者だろう。
突然の事態にわたしが反応しかねている一方、基地司令は通信機を放り出して駆けだした。
「本部に連絡は!?」
〈駄目です、ジャミングと降雪の影響で必要な通信環境を確保できません!〉
「くそったれめ……ヘリポートだ! いくぞ、お嬢さん!」
あ、ちょ、ちょっと待ってください! わたしも慌てて席を立って後を追う。
基地内の廊下を駆け、階段を降りてさらに入口を抜け、屋外のヘリポートへ。
強い地吹雪が吹きすさぶ真っ白な銀世界と化した屋外ヘリポート、そこでわたしたちを待っていたのは、巨大なティルトロータ型垂直離着陸機であった。機体番号は塗り潰されており、機体に描かれたロゴはモナークでもGフォースでもない、わたしが見たことのないものだった。
「これは……一体……?」
わけもわからず、立ち尽くすことしか出来ないわたしたち。
その目の前で垂直離着陸機の後部扉が開き、中から男たちが姿を現した。その人数は十名以上で、服装は防弾仕様の雪原迷彩。顔には目出し帽を深々と被り、両手にはアサルトライフルをかまえている。
正体不明の武装集団に、いきなり銃を向けられているこの異常な状況。わたしが緊張する一方、基地司令の方はそれでも平然とした態度を崩さず言い放った。
「来て早々いきなり銃とは穏やかじゃあないなオイ。こっちの査察官殿の方がよほどマナーとか心得てたぜ」
その言葉に、武装集団のひとりが口を開いた。
「……おまえたちがここの管理者か?」
その男は、他の者たちよりもひと回り背が高く、全身を覆う防弾服も分厚い。どうやら彼がリーダー格らしい。
そんなリーダー格の男に対し、基地司令は「だったらなんだって言うんだい?」と肩をすくめた。
「人に聞く前にまず手前から名乗るべきじゃあねーのか。だいたいあんたらどこの誰だ、こっちの査察官殿みたいに『国連から来ました』ってわけじゃあなさそうだが」
挑発めいた基地司令の言葉だが、武装集団リーダーの男はそれで納得したようで「……それもそうだな」と低い声で答えた。そしておもむろにマスクを脱ぐ。
武装集団リーダーの男は、渋い声から予想していたとおり老齢だった。年齢は基地司令と同じおおよそ60代、頭髪は薄い白髪、顔の彫は深く、両目は落ちくぼんで頬も痩せこけている。しかし老いてなお衰えぬ眼光は鋭く、まるで猛禽類のような迫力と威圧感を全身に帯びている。
武装集団リーダーの男は言った。
「これは失礼した。わたしは〈真巨神擁護戦線〉の一人だ」
真巨神擁護戦線、ですって?
その自己紹介で、わたしは思わず声を漏らしそうになった。
真巨神擁護戦線。過激な怪獣保護で知られる環境保護団体〈巨神擁護機構〉から更に尖鋭化して分裂した過激派であり、そのリーダーはロリシカ国隠密部隊の元凄腕エージェントだと噂されている。噂の真偽はともかく、真巨神擁護戦線は現在も国際手配されている危険な武装集団だ。
突然現れた国際級犯罪者たちを前にわたしがたじろぐ一方で、基地司令の方は怯むことなく言い返した。
「……で、そんな大物エコテロリストの大先生が、こんな辺鄙な南極くんだり何の用だ。まさか観光旅行ってわけでもあるまい?」
「もちろんだとも。我々の目的はただひとつ、『巨神の解放』だ」
巨神の解放? その言葉の意味を解しかねているわたしたちに、テロリストリーダーは語った。
「この南極の地に眠り続けている〈大いなる災厄の巨神〉にして怪獣王:ゴジラを目覚めさせ、そして解き放つこと。それが我々の目的だよ」
封印されたゴジラを解き放つ、だって? 一体何を言っているんだろう、この人は。
「あんなもん解放してどうすんだ。火を囲んで、肩でも組んで、
鼻で笑う基地司令に対し、テロリストリーダーもククと笑って返した。
「なかなか面白い男だな、キミは。今の世界でゴジラ復活す、となれば“目指す先”は一つしかあるまい?」
「……ま、そういうこったろーなぁ」
テロリストリーダーと基地司令、二人の間に交わされる会話。その底意を悟ったわたしは戦慄する。
……ゴジラ復活す、それはすなわち『怪獣黙示録』の復興に他ならない。つまり、テロリストリーダーたちの狙いは『世界を滅ぼすこと』だ。
だけど、何のために。わけがわからないわたしに、テロリストリーダーは語り続ける。
「我々は『怪獣黙示録』を復興して人間の世界を滅ぼして今度は怪獣、いや巨神たちの手に世界を返還し総てをゼロからやり直す。それこそが、我ら真巨神擁護戦線が掲げる大義である」
「……正気で言ってんのか?」
つい零れ出た基地司令のぼやき。わたしも同感だ、とても正気とは思えない。
「無論。そのために我々はここまで来たのだ」
そう言い切るテロリストリーダーの顔には、迷いや躊躇の色など一切見られなかった。この人は本気なのだ。テロリストたちは本当に『怪獣黙示録』を起こそうとしている。
「断ったらどうする? もし止めようとしたら?」
「その場合は残念ながら……」
基地司令の言葉を受けたテロリストリーダー、その目配せで他のテロリストたちが一斉に銃を構えた。銃口はすべてこちら、わたしたちの方へ向けられている。
「……やれやれ、まともとは思えないな。トチ狂うのもたいがいにしといた方が良いぜ」
基地司令による直球の罵倒に対し、テロリストリーダーは「狂ってる、か……」と復唱しながら答えた。
「本当に狂っているのはこの世界、人間たちの方だ」
なんですって。
聞き返したわたしたちに、テロリストリーダーは滔々と語り続ける。
「この愚かしく醜い人類文明は今まさに滅びようとしている、この星もろとも巻き添えにしてな。だからこそ今我々は立ち上がらねばならない、この地球を破滅から救わなければならん。そのためには『怪獣黙示録』の復興こそが必要なのだよ。『怪獣黙示録』で罪深き人類を浄化する、その一手を選ぶなら、やはりそれは行き詰まった先の破局ではなく人類自身の手で進んで行われるものであるべきだ。我々はその手助けをするに過ぎん」
勝手な持論をぶち上げているテロリストリーダーに、基地司令は「御高説はごもっともだがね、」と返した。
「あいにくおれたちはそこまで人間を見捨てちゃあいないんでね。それに、そんなバカげた誇大妄想話に付き合ってやれるほど暇でもない」
そして続けて、こう告げる。
「悪いことは言わん、とっとと帰んな。ゴジラは、いや怪獣は、あんたらみたいな小物の手に収まるような代物じゃあねえ」
基地司令からの忠告を、テロリストリーダーは「フン」と鼻で一蹴した。
テロリストリーダーが手を上げると同時に、彼の部下たちが再び銃を構える。
「最後にもう一度だけ訊ねておくが、この基地を明け渡してもらえないだろうか。素直に投降したら『怪獣黙示録』復興時にも生き延びられるように便宜を図ってやらんでもないが」
「だから『帰れ』って言ってんだろーが。あんた、人の話聞いてんのか?」
「……交渉決裂だな」
こいつらを拘束しろ。テロリストリーダーの指示で、テロリストたちは一斉にわたしたちへ躍りかかった。
抵抗空しく、わたしと基地司令は拘束されて本部棟の食堂に監禁された。基地にいた他の職員たちもそうだ、全員武装解除の上に両手を縛られ、テロリストの監視下で食堂へと集められている。
すぐに殺されなかった理由についてテロリスト連中いわく『我々は殺しはしない、裁きは巨神に任せる』とのこと。まぁ要するに、自分たちの目的のために人殺しをする度胸もないだけだろう。
見張りのテロリストは2人。武装はしているが不意を突けば制圧可能かもしれない。
「くっ、このっ……!」
わたしは後ろ手に通された手首の縄をどうにか解けないか、気合を込めてもがいてみた。けれど、固く結ばれた結び目はびくともしない。
そんなわたしを見かねたのか、隣にいる基地司令がこっそり耳打ちした。
「やめときな、お嬢さん。年頃の娘の柔肌に傷でも残しちゃアいけねえよ」
しかし、とわたしは食堂の窓から研究棟、そしてドーム建屋へと目を向けた。ドーム内部が今どうなっているかは窺い知れないが、きっとテロリストリーダーの仲間たちがゴジラを復活させる準備を進めているに違いない。
「でも、このままじゃ……ッ」
「心配すんなって。たまに来るのさ、こういう頭のノボセた馬鹿が。南極まで来るようなのは珍しいがな」
いいか、ちょっと待ってろ。そう言うと、基地司令は見張りの目を盗んで後ろ手の腕を動かし始めた。
……何をしているんだろう。わたしが訝しんでいる中、基地司令の腕の方で「カチャン」と小さな金属音がした。
「ほらよ」
そして基地司令の右腕が、肘の辺りからするりと抜け落ちた。
「そ、その腕……!?」
基地司令の腕は、機械製の義手だったのだ。驚愕するわたしに基地司令は「まあ昔、ちょっとな」とウィンクしてから、見張りのテロリストたちの死角へ音も無く忍び寄り、そして肩を叩く。
「……おい」
「あん?」
振り返ったテロリスト、その顔面へ基地司令は先ほど外した自分の義手を鈍器代わりに叩き込んだ。
「ぐぼぉッ!?」
ぐしゃっ、と鼻の骨が潰れる音。突然の奇襲により、テロリストの片割れは一撃で昏倒した。
余所見をしていたもうひとりの見張りも相棒が倒されたことに気づき、即座に反応した。
「き、貴様っ……!」
そしてテロリストは銃を構える。基地司令はすぐさま懐に飛び込もうとするが、間に合わない。
……まずい!
もはやわたしは居ても立っても居られなかった。両手を後ろに縛られたままその場を立ち、大声を上げながらテロリストの方へと向かってゆく。
「でやあッ!!」
「ッ!?」
基地司令の方に気を取られていたテロリストは、突然襲ってきたわたしに反応できなかった。わたしから渾身のタックルを食らい、縺れ合うようにしてその場へ倒れ込む。
「このアマッ……!」
すぐさま起き上がり銃を構えたテロリストだったが、その顔面へ基地司令が蹴りを叩き込んだ。
ごきっ。
硬いブーツによる強烈な一撃がテロリストの顔面へ炸裂。鼻か顎の砕ける音が鳴り、テロリストはそのまま脳震盪を起こして昏倒した。
基地司令はその場に引っ繰り返って起き上がれないままのわたしの方へ振り返ると、後ろ手に縛られたわたしの腕を解いてくれた。
そして先ほど外した義手を嵌め直しながら、基地司令がわたしに言った。
「……やるじゃあないか、お嬢さん」
「お嬢さんじゃあないです、タニですってば」
すかさず言い返すわたしの言葉に、基地司令は微笑む。
「……そうかい、“タニ査察官”。おかげで助かったよ、ありがとな。てっきりデスクワーク専門の文官なのかと思ってたぜ」
「一応訓練は受けてますから。そんなことより……」
わたしは倒したばかりのテロリスト二人組をちらと見やった。殺してはいない、気絶させただけだ。幸い他のテロリストにはバレていないようだが、それも時間の問題だろう。
わたしは言った。
「先に他の職員たちを解放しましょう。まずは安全を確保しなくては」
「了解、査察官殿!」
わたしの提案に基地司令も頷き、食堂の基地職員たち全員の縄をほどきに掛かった。
わたしが基地職員たちを解放して研究棟・ドーム建屋に到着したとき、事態はわたしの予想以上に悪い状況になっていた。
(ドーム建屋の屋根が開放されてる……)
核ミサイルの直撃にも耐えるように設計された頑強な屋根、それがコントロールルームからの操作で完全に開け放たれていた。荒天で濁った空から白い雪がちらちらと降り注いでいて、開かれた屋根の下には巨大な氷塊、そしてその深奥には氷漬けで冬眠状態のゴジラが安置されている。
あとは氷を砕くなり融かすなりすればいい、そうすれば南極大陸の地底からゴジラが復活して、テロリストリーダーたちの目論見通り『怪獣黙示録』が復興されることになる。
……急がなきゃ。
テロリストたちの監視を掻い潜りながらコンテナの影へと身を隠していたわたしは、先ほど気絶させた見張りから奪った銃を両手で構え、テロリストたちの前へと躍り出た。
「そこまでです、テロリスト!」
そう叫んだわたしの声でテロリストたちが一斉にこちらへ振り返り、わたしは銃口を向けられた。敵は10人、こちらはわたし1人。こちらも武装しているとはいえ、正直多勢に無勢ではある。
……でも、負けるわけにはいかない。わたしは怯むことなく銃を構えたまま声を張り上げる。
「大人しく投降してください、さもないと発砲します!」
そんなわたしに反応したのはテロリストたちのリーダーだった。今にも撃ち返してきそうな勢いの部下たちを両手で制止し、テロリストリーダーは嫌みたらしい猫撫声でわたしに話し掛ける。
「やあ、お嬢さん。その勇猛さはなかなか見所がある」
だが、とテロリストリーダーは鼻で嘲笑った。
「少しばかり遅かったな。準備は完了した、あとはこのスイッチを押せば終わりだ」
そう言ってテロリストリーダーは、テーブルの上に置いてあった小さなリモコンを手に取った。無線式のリモートスイッチ、きっとゴジラを封じ込めている氷を爆砕する爆薬の起爆スイッチだろう。あれを押されたら何もかも終わりだ、ゴジラが解放されて世界は終わる。
なんとかして止めなくては。でもその前にわたしは、気になっていたことをテロリストリーダーへと訊ねた。
「……どうしてこんなことを?」
「なに?」
わたしの言葉に怪訝な反応をしているテロリストリーダー、そんな彼と仲間のテロリストたちへわたしは問う。
「あなたたちにも親兄弟、家族や大切な人がいるでしょう? 『怪獣黙示録』を復興するだなんて、その人たちが怪獣に踏み潰されるかもしれないじゃないですか。それでもいいの?」
今回テロリストリーダーが目指していると語った『怪獣黙示録』の復興。それはすなわち、怪獣たちに人間が踏み潰されてしまう時代へ逆戻りするのに等しい。しかしいくら過激派エコテロリストだからといって巨神擁護機構はもちろん、真巨神擁護戦線だってそこまでは目指してはいないはずだ。
……かつてわたしの祖父の世代の人たちが死に物狂いの奮闘の末にようやく掴みとり、そのあとわたしたち現場の人間が懸命に保とうと努力している平和な世界。それをわざわざブチ壊してしまおうとするテロリストたちの心持ちが、わたしにはどうしても理解できなかったのだ。
わたしの心からの問い掛けに、テロリストリーダーは「大切な人、か……」と遠い目をした。
「そんなものはとっくのとうに喪くしたよ、人間同士の争いの中でな」
そしてわたしは悟ったのだ、とテロリストリーダーは答える。
「見ろ、この虚構と欺瞞だらけの偽りの平和を。長いあいだ隠密部隊のエージェントとしてこの世界の安寧を支えてきたが、闇から眺めた世界の真実の姿はどうしようもないものだということをつくづく思い知らされた。環境破壊、戦争、政治腐敗、そしてそれらを気にも留めず見向きもしない愚かな民衆ども……今の世界で生きとし生ける人間は誰もがそうだ、みな己の都合や利害のことしか考えていない。こんな人間の世界など存在する価値も無いしもはや救い様が無い。こんな平和ボケの中でただ腐り果ててゆくしかないならば、いっそ巨神のような偉大な存在に滅却されて速やかにその文明の幕を引くべきだろう」
……なんて酷い言い草だろう、と思った。
長年隠密部隊のエージェントとして生きてきたというテロリストリーダー、彼の人生に何があったかはわからないし知り様もないが、何があったにせよそんな身勝手な虚無感や絶望の巻き添えにされて滅ぼされるのではたまったものではない。
それに『虚構と欺瞞だらけの偽りの平和』『世界の真実の姿はどうしようもないものだ』って? 一体何様のつもりなんだろう。人が一生懸命にやっていることを踏みにじることしか出来ないこんなテロリスト風情に、世の中を支えるために日々頑張っている人たちの何がわかるっていうんだ。
だからわたしは言ってやった。
「……『人間は怪獣に滅ぼされるべき』? ふふっ、馬鹿じゃないの」
なんだと、と眉を吊り上げたテロリストリーダーに、わたしは声を上げて笑いながら言い放つ。
「あなたなんて、自分の思い通りにならない世の中を逆恨みして、そのために都合の良い大きな力へ縋りつこうとしてるだけでしょうが。そんなの、いざとなったらパパやママに泣きついてる幼稚で我儘な子供と変わらない。自分のことしか考えていないのはあなたの方じゃないですか」
うふふふはははは!
精一杯に笑い飛ばしながら、わたしはさらに付け加える。
「それに、そんなちっぽけなあなたごときが気軽に弄べるほど、世界の運命も怪獣たちも軽いものじゃない。きっとあなたもすぐにその傲慢さの
そんなわたしの嘲笑にテロリストリーダーは不機嫌そうに顔を引き攣らせていたが、すぐに余裕の笑みを取り繕って言い返してきた。
「……まあ、キミはまだ若い。いずれわかるようになるさ、お嬢さん」
「わかりたくもないですね、そんなの」
即座に吐き捨てるわたしに対し、テロリストリーダーはただ薄笑いを浮かべているだけだった。
……この人たちとはどうやっても絶対に分かり合えないな、とわたしは確信した。
「もういい、お喋りはここまでだ」
と、テロリストリーダーが合図をすると、周囲のテロリストたちが再び銃口を持ち上げてわたしの方へと向けてきた。
「巨神の裁きに委ねようとも思ったが、おまえごとき取るに足らん小娘、偉大な巨神たちの手を煩わせるまでもない。今この場で処刑してやる」
テロリストリーダーによる死刑宣告を受け、すぐにわたしも両手で銃を強く握って応じた。先述したとおり敵は10名、こちらはわたし1人。訓練生時代はそこそこ銃火器の扱いが得意で成績優秀だったわたしだけれど、今回は人数差が多すぎる。どんなに早撃ちが得意だったとしてもわたしは間違いなく撃たれることになるだろう。
……でも、わたしは引き金を引くのを躊躇わないだろうと思う。ここで殺されるのだとしても構わない。だってお爺ちゃんと約束したんだから、『立派なGフォース隊員になって、世界の平和を守る』って。
決死の覚悟を決めて睨み付けるわたしに、テロリストリーダーは言い放つ。
「さらばだ、Gフォースの査察官殿」
撃たれることを覚悟した、まさにそのときである。
わたしの背後から轟音が響いた。
「!?」
一斉に振り向くテロリストたちとわたし、その視線の先で重たい駆動音とともに搬入口のシャッターが開いてゆき、奥から巨大な影が一歩一歩こちらへと進んでくる。
そしてシャッターの奥から、音が割れ気味の大声が響く。
〈そこまでだぜ、テロリストの大先生よお! さっさと査察官殿から離れるこった!!〉
現れたのは30式機動戦闘服:パワードスーツ。声の主は基地司令殿だ。そう、パワードスーツを操縦しているのは基地司令殿である。
このパワードスーツは本来、設備保守および雑魚怪獣からの警備のために稼働可能にしてあったものだ。それを基地司令が起動したのである。
「ひ、怯むな! 撃て、撃て!!」
テロリストたちも即座に反応した。リーダーの号令で手下のテロリストたちは、わたしへ向けていたライフルの銃口を一様にパワードスーツへと向けて発砲した。
かんかん、きんきん。
軽い金属音の雨霰が響き渡り、パワードスーツの装甲表面で火花が飛び散った。10名のテロリストによる一斉射撃、人体だったら間違いなく蜂の巣になっているはずである。
〈効くかボケェ!!〉
しかしテロリストによる銃火は、パワードスーツには通用しなかった。本来パワードスーツは怪獣との戦いを想定されて設計されている。所詮は対人兵器でしかないアサルトライフル如きでは、パワードスーツの装甲を到底貫けはしない。
四方八方から銃弾を撃ち込まれながら、パワードスーツの中で基地司令が吼えた。
〈喰らえ、レールカノン!〉
そう言って、パワードスーツは両腕の武器を構える。パワードスーツの主兵装はアーム部分を換装した〈対獣20ミリレールカノン〉。対怪獣用の兵装であり威力は戦車砲並み、人体であれば直撃した時点で挽肉になること請け合いの超強力な重火器である。
それらを基地司令のパワードスーツは容赦なく発砲した。ライフルの銃声などとは比較にもならない重たい砲撃の炸裂、レールカノンの砲弾はテロリストたちの周辺へと着弾し、氷の大地を撃ち砕いて爆音を轟かす。
「ひ、ひいっ!」
レールカノンの砲弾はテロリストたちに当たらなかったが、威嚇としては充分な効果を示した。
直撃すれば木端微塵になるであろう強烈な砲撃、それを目鼻先へと撃ち込まれたテロリストたちはひとたまりもない。
まるで蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うテロリストたちを、パワードスーツの基地司令は嘲笑う。
〈おらおらどーした、偉大な巨神サマを復活させるんじゃあねーのか、オイィ!?〉
「くそ……!」
忌々しげにテロリストリーダーが悪態を吐いた。これで形勢逆転だ、今のテロリストたちの武装ではパワードスーツに敵わない。不利を悟って後ずさるテロリストたちに、〈いいかいテロリストの大先生、この世であんたらが知らないものが二つある〉と基地司令は言い放った。
「知らないものだと……?」
怒りと屈辱で表情をゆがめているテロリストリーダーへ、基地司令はさらに続ける。
〈ひとつはこのおれ、そしてもうひとつはゴジラだ。ゴジラの猛威はこんなチンケなパワードスーツなんか目じゃあねえ。自分たちのちっぽけさを重々に理解出来たなら、とっとと降参するこったな!〉
……作戦成功だ、とわたしは思った。
そもそもわたしがテロリストたちの前に姿を現したのは陽動、囮だ。テロリストの連中がわたしに気を取られている隙に、基地司令がパワードスーツへ乗り込み起動、パワードスーツの火力でテロリストたちを制圧する。そういう作戦だったのである。
続けてわたしもテロリストたちに告げる。
「そういうことです、だからあなた方も投降してください! これ以上抵抗するようなら発砲します!」
発砲、無論それはパワードスーツのレールカノンによる砲撃も含まれる。わたしが構えている拳銃で撃たれる程度ならまだ助かる見込みはあるかもしれないが、レールカノンで撃たれたら即死は免れない。
圧倒的な兵力差を前にテロリストたちは屈するしかない……かのように見えたのだが。
「……くくっ」
突然笑い出したのはテロリストリーダーだった。
「……何がおかしいんです!?」
妖しく笑うテロリストリーダーにわたしが問うと、彼はニヤニヤと笑みを浮かべたままこう答えた。
「いや、やはり人間は愚かだと思ってな。これで勝ったつもりだろうがお生憎様、おまえたちは自分の足元がよく見えていない」
足元、だって?
言われて思わず足元へと目線を移してみると、わたしは氷の大地に大きな亀裂が入っていることに気づいた。先ほどのレールカノンの砲撃によるものだろうか、いや、それにしては亀裂が深すぎる。
……まさか。嫌な予感を覚えたそのときである。
氷の奥底から、青い光が灯り始めた。
地底奥深くから届いた妖しい幽光、足元の青い光はどんどん輝きを増してゆき、やがて一帯は青い光に包まれる。
同時に鳴り出したのは周囲のものが震える振動音、やがて大地までもが大きく揺らぎ始める。揺れ動く南極の氷原、明らかに地震のそれではない揺れは、徐々に激しさを増してゆく。
「なに、これ……!?」
〈おいおい、マジかよ……!〉
場の異様な緊張が限界にまで張り詰めたまさにその時、氷の大地が轟音と共に爆裂、大きく裂けて陥没した。
「な、なんだ!?」「うわあ!!」「た、助け……!」そうやってテロリストの何名かが巻き添えを受け、悲鳴を上げながら地の底へと落下してゆく。
「きゃあ!?」
〈タニ査察官!〉
危うくわたしも崩落に巻き込まれそうになるが、間一髪で基地司令のパワードスーツに助けられた。わたしを小脇に抱えたパワードスーツは、砕けて飛び散る氷塊や岩盤をホバリングで躱しながらそれらが及ばない安全圏へと撤退する。
「ありがとうございます……一体、何が起こってるんです!?」
わたしの問いに、パワードスーツ内から基地司令が答える。
〈どうやらおれたち、上で派手にドンパチ
やり過ぎた? やり過ぎた、ってまさか。
「まさか、“起こしてしまった”、ってこと……!?」
〈だろうな……!〉
頭上で繰り広げられたわたしたちとテロリストたちの銃撃戦、その激しい銃声で、『氷の下にいたもの』が目を覚ましてしまったのだ。爆薬で吹っ飛ばす必要など最早ない、地の底に封じ込められていた『怪獣王』、それが今復活しようとしている。
わたしたちが吹っ飛ばされてきた氷塊で潰されないように精一杯な一方、テロリストたちは狂喜に満ち溢れていた。「見ろ!」とテロリストリーダーの勝ち誇る声が聞こえてくる。
「爆弾など必要ない、これで『怪獣黙示録』は復興される! さあ災厄の巨神よ、世界を思うがままに蹂躙するがいい!」
ははは、はははははは!!
氷原が砕けて崩れてゆく最中で響く、テロリストたちの高笑い。勝ち誇ったように笑い続けながら、テロリストたちは退散していった。
他方、氷の地割れから何とか逃げ延びたわたしは、すぐさま次の一手へ行動を移した。
「今すぐドームを封鎖して……」
核ミサイルの直撃に耐えるドーム建屋。今は開放状態になっているが、これを封鎖してみたらあるいは。
そうやってドーム閉鎖に向かおうとするわたしを、パワードスーツから降りた基地司令が「やめとけ」と制止した。
「もう無駄だ、査察官。ヤツが目覚めちまったんだ、今さらこんな蓋をしたところで抑えきれやしねえよ」
「でも何もしないわけには!」
居ても立ってもいられないわたしだけれど、基地司令は渇いた笑いを返しただけだった。
「テロリストの大先生の言うとおりさ、これで『怪獣黙示録』は復興される。あいつが一度復活しちまったら、もはや人間なんかじゃ止められはしねえ」
そ、そんな……。
そうこうしているうちにわたしたちは、完全復活を遂げた『そいつ』を見た。
まず目を惹くのは、巨大な背鰭。まるで並び立つ山脈のような三列の鰭は、黒い巨体の背中で青い光を眩いばかりに明滅させている。
次いで
そして現れたのは、黒い巨体。身長はおよそ50メートル、体重は1万トンに及ぶという。両腕両脚はとにかく逞しく、怪獣の基準で言ってもまさに筋骨隆々だ。
まさにそれは、神話や伝説に登場する伝説の生物。人類史上で最も恐れられてきた、破壊と殺戮の象徴たる強大な怪獣の王。
キングオブモンスター、ゴジラ復活す。
……ゴジラって、なんて大きいのだろう。
怪獣という存在の巨大さ、そして人間のちっぽけさ。そのあまりに大きすぎるスケールの差に、わたしはただ身を竦めることしか出来なかった。
ただただ驚くばかりのわたしたち、そこへ聞こえてきたのはティルトローターの回転音。
「おい、あれ!」
基地司令が指差したその方向へ目線を向けてみると、雪が降りしきる灰色の空に黒い飛翔体の姿があった。空高く舞い上がり離れてゆく垂直離着陸機の群れ、先ほどテロリストたちが乗ってきたものだ。
「あいつらっ……!」
退散してゆくテロリストたちの姿を見て、わたしは歯噛みする。
……なんて、卑怯な奴らなのだろう。口先では「『怪獣黙示録』で怪獣たちの手に世界を返還し、総てをゼロからやり直す」とかなんとか格好の良い主張を並べていたけれど、結局は連中も我が身が可愛いらしい。ゴジラに世界を滅ぼされる中で、自分たちだけは安全なところへ逃げて高みの見物を決め込むつもりなのだ。
そうこうしているうちに、ゴジラの背鰭の輝きは眩い青白い輝きを燦々と灯していた。もうおしまいだ。わたしたちがそう覚悟した、まさにそのときだった。
ゴジラの鼻先が空へとズレた。
ゴジラの放射熱線、その標的となったのは足元のゴジラ・サイトではなく雪で濁った空の向こう、テロリストたちを乗せて逃げてゆく垂直離着陸機の方だった。耳障りな騒音を立てているテロリストたちの垂直離着陸機を、寝起きのゴジラは鬱陶しげな目つきで真っ直ぐ見据えている。
つまり今ゴジラが狙っているのは、足元にいるわたしたちではなく、空を飛んで逃げてゆくテロリストたち。
テロリスト側もゴジラから狙われているこの状況にようやく気づいたようで、垂直離着陸機たちは慌てて軌道を変えて散開しようとしていた。
だが遅い、もう間に合わない。ゴジラの背中の輝きが最高潮へ一気に駆け上がってゆく。
そして放たれる、青白い
灰色の空を貫くゴジラの放射熱線。大気を焼く音と共に、轟く爆発の連鎖が南極の夜空を赤く染め上げた。
ゴジラの放射熱線は、テロリストたちの垂直離着陸機を全機まとめて撃墜してしまった。かつて隕石さえも撃墜したという逸話を持つゴジラの放射熱線、その直撃を前にテロリストたちはひとたまりもない。きっと苦痛すら感じなかったろう。
「は、はは……」
わたしの口からつい零れてしまった、乾いた引き攣り笑い。これがキングオブモンスター、ゴジラだ。あまりにも圧倒的すぎる破壊力だった。
しかもこれでさえ『寝起きの一発』、つまり今のゴジラはちっとも本調子ではないのだ。先日からの査察で基地司令が『基地の設備が万全の状態だったところで本気のゴジラを止められはしない』と語ったことが今ようやく、心の底から理解出来たような気がした。
呆然と立ち尽くしているわたしたちを尻目に、ゴジラは再び大きく口を開こうとしていた。
再び放射熱線を撃つのだろうか、それとも勝利の咆哮を挙げるのだろうか。誰もが知ってるあの大音声、『怪獣黙示録』復興の
ところが、である。
――ふあぁー……ふぅ。
実際にゴジラの口から洩れたのは、勝鬨にしては随分と間の抜けた声だった。
……こんなの怪獣王の咆哮じゃない、まるで『
大怪獣が唐突に繰り出した俗っぽい仕草でわたしが拍子抜けしていると、ゴジラが不意にこちらへ振り向いた。双眸を細めた、如何にも機嫌の悪そうなゴジラの目つき。
「ひっ……!」
すわ、踏み潰されるのだろうか。
身長50メートルの巨体から睨みつけられて、途端にわたしは射竦められてしまう。
……確信をもって断言するが、このときのゴジラはたしかにわたしを見ていた。わたしや基地司令がどこの何者でゴジラ自身とどう関わりがあるのか、そんなことまでは流石にゴジラも知らなかったとは思うけれど、少なくともこのときゴジラがその気になっていればわたしたちなど容易く捻り潰せたはずである。
ゴジラの巨体を息を吞んで見上げているわたしと、そんな虫けらみたいなわたしたちをじっと見下ろしているゴジラ。
わたしたちの見つめ合いは、しばらく続いたろうか。
――……ふん、くだらね。
そう言いたげにゴジラが鼻を鳴らす音が響いたかと思うと、次にゴジラはわたしたちが予想もしなかった行動に出た。
「ゴジラが、戻ってゆく……!?」
そうなのだ。目覚めたばかりのゴジラは氷の穴から外海に出てゆくのかと思いきやその逆、なんと這い出てきた穴の中へとそのまま帰って行ってしまったのである。轟音と共に南極大陸の大地を揺らし、怪獣王ゴジラは欠伸をしながらその巨体を地下へと沈めてゆく。
ゴジラがその全身を完全に地下へと沈め、背鰭や尻尾の先端までもが完全に見えなくなってからもしばらくは地鳴りと地震が続いていたが、やがて完全に収まった。あとは残ったのは静寂、ただひたすら雪が吹きすさぶ風の音が響いているだけである。
……まるでこれじゃあ。わたしは呆気にとられながら思いついたことを呟いた。
「“二度寝”、ってこと……?」
起きて再び暴れ出すかと思いきや、そのまま再び穴蔵に引っ込んで眠り込んでしまったゴジラ。つまりは、二度寝である。
……冷静になって考えてみれば別におかしなことでもない。人間だって早く起きすぎてもう一度寝てしまうことくらいあるし、ゴジラとて生き物なのだから一旦目覚めても眠気が取れなければ引き続き眠ってしまうことだってあるだろう。先程の放射熱線は人間で言うなら、うるさい目覚ましを寝惚けて停めてしまったようなものだろうか。
しかし、まさかゴジラが二度寝してしまうなんて。戸惑うばかりのわたしの横で、基地司令が口を開く。
「まぁ、やっこさんも暴れる気分じゃなかったんだろうな。どこまでも気儘な野郎だぜ、まったく」
そうぼやいた基地司令の声は心底呆れていて、だけどなんだか嬉しそうでもあった。
基地司令の言ったとおりだとわたしも思う。そう、ゴジラは気儘だ。わたしたちGフォースだろうがテロリストだろうが、人間の都合なんてゴジラには関係ない。
暴れたければ暴れて、起きたければ起き、眠たければ眠る。とにかくやりたいことをやる、それが怪獣だ。そんな怪獣たちの気紛れを前にした人間の営みなんて、精々その足元で散々振り回されるだけのことなのだ。
何はともあれ『怪獣黙示録』は回避され世界は救われた。ゴジラが二度寝を決め込んでくれたおかげで。
……あ、そういえば、と基地司令がこんなことを口にした。
「中央本部に出すあんたの報告書、全部書き直しだな」
……あ。
言われてみればたしかにそうである。
といってもテロリスト襲撃にゴジラ復活未遂、もはや査察どころじゃあない気もするが、とりあえず。
「そうですね、あはは……」
わたしは苦笑いして答えた。
最近暑くなってきましたし、南極が舞台ってのも涼しくて良いかな~って思いました。
あ、そうそう、そういえばア〇プラのゴジラ見放題終わっちゃったんですよね。くそう、おのれア〇ゾン。これを機にコンプリートボックス買おうかなと思う一方、ア〇プルでモンスターバースのドラマをやるなんて話もあるのでそっちに乗り換えるかなんてことも考えたり。
前回 > 次回
怪獣紹介
・ゴジラ
身長:50メートル
体重:1万トン
主な技:放射熱線(放射火炎)
異名:水爆大怪獣、怪獣王、キングオブモンスター
言わずと知れた怪獣王。
たまに聞かれるんですが、サイズ設定は決めてあるもののどのゴジラかは決めていないので、容姿については好きなゴジラで想像してください。放射熱線も口から吐かないゴジラもいるので「口から吐く」とは書かないようにしていたりします。
次はどんなのが読みたい?
-
魔法少女バトラちゃん
-
ロリ化ジェンデストロイヤー
-
偽聖女とチタノザウルス
-
転生者掲示板を荒らしまくるオルガ
-
ゴジラに転生する話
-
ゴジラの放射熱線砲を作った男
-
ゴジラの運動会
-
キノ「メカゴジラ=シティ?」
-
大魔神と魔法少女(仮)
-
エイリアンのR-18小説
-
ヤンデレモスラに死ぬほど愛される人類
-
ウルトラマンチーレム
-
ウルトラQ:イイネゴンのマユ