南極でゴジラを見張ってたらテロリストが来た件 作:よよよーよ・だーだだ
B-36(英語: Consolidated Vultee B-36 )は、アメリカ合衆国のコンヴェア社が開発しアメリカ空軍で運用された戦略爆撃機である。
大量の各種通常爆弾の他、全長25フィート (7.6 m)、総重量42,000ポンド (19,000 kg)のサイズと重量を持つMark.17 水素爆弾が搭載可能であり、B-36はその就役期間においてMk.17を搭載できる唯一の爆撃機だった。
正式な愛称は存在しないが、公式な場でもしばしば“ピースメーカー (Peacemaker 平和主義者)”との表現がなされ、これが半ば公式な呼称となっている。
――Wikipedia『B-36 (航空機)』の記事より抜粋、要約
世界で100番目の都市が陥落した日、人類は最後の賭けに出た。
「……サイコトロニック・ジェネレータ、出力安定」
「脳波同調率、98%」
「転送系統、オールグリーン……」
Gフォース本部地下深くの特殊実験室。壁一面のモニターには、瓦礫の山と化したシドニーの街並みが映し出されている。その中心で、巨大な影が微動だにせず佇んでいた。
巨大な影の名前は、ゴジラ。
「……サエグサ君」
声が響く。振り向くと、Gフォース司令官であるアソウ大佐が厳しい表情で立っていた。
「これが最後のチャンスになるだろう。世界は、君に懸かっているのだ」
「……はい」
サエグサ=ミキは小さく頷いた。人類の持てる限りの核も化学兵器も、バイオテクノロジーの結晶も、何一つゴジラには効果がなかった。各国の軍事力を結集しても、この巨獣の進撃を止めることはできなかった。
残された道は、Gフォースの怪獣コミュニケーターであるミキのテレパシー能力と、それを増幅させるサイコトロニック・ジェネレータを組み合わせたゴジラとの直接対話だけだ。
「…………。」
ミキはジェネレータに接続されたヘルメットの装着を確認し、目を閉じた。生まれながらに持っていたサイキック能力。かつてミキ自身は呪いだと思っていたそれが、今や人類最後の希望になっている。
「接続、開始します……」
意識が闇の中へと沈んでいく。最初は靄がかかったような混沌。サイコトロニック・ジェネレータが彼女の脳波をゴジラのそれへと同調させていく。
見えたのは、眩いばかりの光。
……想定外だった。これまで彼女が接してきた怪獣たちの精神世界とは、まったく異質の空間。ゴジラの精神は、純粋な光で構成されていた。憎しみも怒りも見当たらない。そこにあるのは、この惑星への深い慈しみの念だけだった。
「こ、これは……!?」
ミキの意識がゴジラと同調する。突如、数億年分の記憶が彼女の中に流れ込んでくる。
生命が誕生した太古の海。幾度となく訪れた大量絶滅。そして、その度に蘇る生命の輝き。ゴジラはそのすべてを見守ってきた。地球という惑星の意思そのものとして。
人類の文明は、その目には明確な異常として映る。超高層ビル群は大地に突き刺さった無数の釘。工業地帯から立ち上る煙は、母なる星の肺を蝕む毒気。戦争、環境破壊、開発――それらはすべて、惑星の調和を乱す「暴力」だった。
そして、ゴジラはその暴力を取り除いているのだ。
なんと簡単なことだったのだろう。文明の破壊は、彼にとって浄化の儀式。混沌を取り除き、本来の静寂を取り戻す――それこそが、彼に与えられた神聖な使命だったのだ。私たち人間ときたら、そんなこともわからなかったなんて。
……けれど、すぐに思い至る。
それで消されてしまうのでは、たまったものではない。
すぐさま我に、そして人間としての本分へと立ち返ったサエグサ=ミキは、今度は自分の方から語りかけた。
『……お願いです、ゴジラ! 私たちの声を聞いてください!』
モニター上のゴジラが、わずかに首を傾げた。ゴジラの意識が、元気よく応える。
『あっ、人間さんだ! お話できるんだね!』
『はい。私たちには、人類文明には、意味があるのです』
ミキは必死に言葉を紡ぐ。人類の歴史、芸術、音楽、詩、愛、そして希望――サエグサ=ミキは人類の持つ美しいものすべてを、その想いの中に込めた。
しかし、ゴジラの返答は予想外だった。
『わぁ! 人間さんのお部屋、とってもキラキラしてるね!』
眩い光の中で、ゴジラの思念が無邪気に響く。その「お部屋」――人類の文明は、ゴジラの目には散らかったおもちゃで埋め尽くされた遊び場のように映っているようだった。
『でもね、こんなの全部汚いの。
ゴジラの思念が溢れ出す。そこに広がる壮大な光景に、ミキは震えた。
生命のない静寂の海。空には星々が瞬き、波は永遠に繰り返し打ち寄せる。地上には苔とシダだけが生える広大な大地。火山が時折噴火を繰り返し、大地を新しく塗り替えていく。
人工的な音は一切ない。ただ、風と波と時折の地鳴り、そして人間以外の生き物たちの喜びの声だけが響く世界。
『ほら! キレイでしょ? お母さん地球が一番キレイな姿なの!』
ゴジラの歓声が、ミキの意識を揺らす。彼にとって、それは本当に美しい光景なのだ。
『でも、私たちには可能性が――』
『あはは、人間さんたちっておかしいなぁ』
ゴジラの精神が子供のように跳ねる。
『だって見てよ?』
新たなヴィジョンが押し寄せる。街並みが溶け、ビルが崩れ、道路が砕け、すべての人工物が土に還っていく。そこに芽吹く小さな草。風に乗って運ばれる胞子。何百年、何千年かけて、地球が自分を癒やしていく過程が、まるで早送りフィルムのように流れる。
『ねぇ、こっちのがずっとずっといいでしょう? 地球がね、自分で自分をキレイにできるの! スゴイでしょ?』
ミキの背筋が凍る。その「キレイ」な世界に、人類の居場所は微塵もない。
ミキは震える声で問いかける。
『これが……平和だというのですか?』
『うん!』
答えたゴジラの言葉は、歓喜に満ちていた。
『人間さんたちのおもちゃ、全部お片付けしちゃおうね! そしたら地球はまた、笑顔になれるの! ボクね、その笑顔が大好きなんだ……!』
その瞬間だった。
「異常値検知!」
「サイコトロニック・ジェネレータ、出力限界値超過!」
「脳波同調率が200%を突破!」
警告音が実験室に響き渡る。モニターの数値が危険な速度で上昇していく。
『あ、もうお別れの時間かな? じゃあね、人間さん! ボク、これからもセカイをキレイにしていくからネ!……』
制御不能となったサイコトロニック・ジェネレータが、けたたましい金属音を上げ始めた。ミキの意識がゴジラの精神に飲み込まれそうになる。
実験室が混乱に陥る。
「切断しろ! 強制切断!」
「ダメです! システムが応答しません!」
「サエグサ君、サエグサ君ッ!!」
アソウ司令官の叫び声が遠くに聞こえる。しかし、ミキの意識は別の場所にあった。
永遠の静寂。生命なき青い惑星。ゴジラが見つめ続けてきた美しい光景が、彼女の精神を埋め尽くしていく。その圧倒的な存在の前で、人類などあまりにも小さく、儚い。
――パキン、という音。
サイコトロニック・ジェネレータのヘルメットにヒビが入った。その瞬間、まるで糸が切れたように接続が遮断される。ミキの体が後ろに倒れかけ、実験室のスタッフが慌てて支える。
彼女の鼻から一筋の血が伝う。しかし、その表情は歪んでいた。笑いか、泣きか、はたまた泣き笑いか、それさえも分からない。
「……サエグサ君! 大丈夫か!」
アソウ司令官が駆け寄る。彼女は震える手で顔を覆い、長い沈黙の後でようやく言葉を絞り出した。
「どうだった?」
アソウ司令官の声には、かすかな期待が混じっていた。
モニターに映るゴジラの姿が、どこか寂しげに揺らめく。ミキは震える指で制御パネルに触れ、まるで幼い子供をなだめるように優しく語りかけた。
「……無理でした」
ミキの声は掠れている。
「想像もできないほどの時を生きてきた存在、まるで子供のようでした。でも、その純粋さが……」
アソウ司令官の長年の軍人生活で鍛え上げられた表情が、一瞬だけ崩れた。やがて力なく笑いながら、深いため息をつく。
「……まるで、蟻の巣を掘り返して遊ぶ子供のようなものか」
その時、警報のけたたましい音が実験室を切り裂いた。赤いランプが室内を不吉に照らす。
「ゴジラ、急速浮上!」
「波高値異常! 沿岸部に津波警報発令!」
「目標、東京湾に向けて進路を取っています!」
モニター上で巨大な背びれが海面を切り裂く。白い飛沫が月明かりに輝き、まるで銀の雨のように降り注ぐ。
つづいて実験室の窓から、遠雷のような咆哮が響いてきた。
「――――――――――――ッ……!」
もはやそれは、ミキの耳には子守唄のように聞こえた。無邪気な破壊者による、慈愛に満ちた消滅の歌として。
ミキは静かに告げた。
「……撤退命令を出してください。あの子は……ゴジラは、今度こそ本当に私たちを消してしまうつもりです」
「うむ、わかった……!」
その言葉を受け、アソウ司令官が通信機に向かって叫ぶ。
「第一、第三部隊、即時撤退! 民間人の避難を最優先!……」
それは、人類という「イタズラっ子」に対する、46億年の歴史を持つ「遊び相手」からの最後の宣告だった。
……終わりの始まりはまるで子供が新しいお絵描きを始めるときのような、希望に満ちた真っ新な純白。
ただし、その画用紙は人類という名の落書きで汚れた地球。
そしてその消しゴムは、ゴジラという破壊者なのだ。
最初の一年で、沿岸部の主要都市は跡形もなく消え去った。
計画的な破壊は、まるで庭師が雑草を抜くように整然と進んでいく。東京、ニューヨーク、上海、シンガポール——。青白い熱線が夜空を切り裂き、百年の歴史を刻んだ高層ビル群は一瞬で溶解していった。溶けた鉄骨は真っ赤な川となって街路を流れ、アスファルトの地面を焼き尽くしていく。
二年目、人類は内陸への大規模避難を開始した。
しかし予想を遥かに超えるゴジラの移動速度の前に、その努力も徒労に終わる。シベリアの大地にも、サハラの砂漠にも、巨大な足跡が刻まれていった。
三年目、世界人口は半分以下まで激減。
残された人々は必死に地下都市を建設し始めるが、地を這う放射能は、やがて地中深くまで染み込んでいった。
四年目、人類の組織的な抵抗は完全に崩壊。
各地に点在する地下シェルターだけが、かろうじて最後の砦として機能している。地上では放射能を帯びた新種の植物が増殖を始め、瓦礫の山々を鮮やかな緑で覆い尽くしていった。
五年目、世界人口は10億を割り込む。
地表の90%は「浄化」され、原始の生命力を取り戻しつつあった。突然変異を遂げた生物たちが新たな生態系を築き始め、夜空には久しく途絶えていた星々の輝きが戻ってきていた。
……遠雷のような足音が響く度に、地下シェルターの人々は身を震わせる。
その音は年々穏やかさを増し、まるで太古の子守唄のように、大地を優しく揺さぶっていた。
さらに二十年後、世界は完全に様相を変えていた。
かつての文明の痕跡は、原色の花々に覆い尽くされている。突然変異した植物たちは、青や紫、深紅の花を咲かせ、廃墟を極彩色の絨毯で包み込んでいた。崩れたビルの骨組みからは蔦が這い、折れた鉄骨には翡翠色の苔が繁茂している。
放射能を帯びた生態系は、人知を超えた速度で進化を続けていた。空には虹色の羽を持つ巨大な鳥が舞い、地表では新種の獣たちが縄張りを築いている。夜には発光する花が青白い光を放ち、まるで星空のような景観を作り出していた。
最後の人類は、深い地下で細々と命をつないでいた。もはや地上に出ることは叶わない。放射能の海と、変異した生物たちの脅威が、彼らを完全に封じ込めていたからだ。
そして百年後。
新しい世界の中心で、ゴジラは悠然と佇んでいた。
「――――――――――――ッ……!」
咆哮が大地を揺るがす。それは勝利の雄叫びでも、怒りの叫びでもない。
まるで画家が己の傑作を前に感動するように。
まるで母親が子供の成長を喜ぶように。
慈愛に満ちた、深い満足の声だった。
最後の人類は、やがてそれを理解するだろう。
これが本当の「平和」なのだと。
人智を超えた46億年の歴史が選んだ「平和」が。
まるで、優しい母親が散らかった部屋を片付けるように。
まるで、画家が真っ白なキャンバスを取り戻すように。
この惑星は、ついに望んでいた静寂を取り戻したのだ。
……こうして、永い時を生きるキングオブモンスター:ゴジラによって「平和」はもたらされた。人類という「騒音」は消え、永遠の静寂が戻ってきた。それは残酷で美しい、真実の姿だった。
人類の残した記録、その最後の
「我々人類は、この惑星の一章に過ぎなかったのかもしれない。悠久のときを紡ぐ地球という歴史書の、ほんの数行の加筆に過ぎなかったのかもしれない」と。
丸一年以上投稿してなかったですが、こっちもたまに投稿します。よろしくお願いいたします。
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