南極でゴジラを見張ってたらテロリストが来た件 作:よよよーよ・だーだだ
この記録をあなたが見ているとき、わたしは既に敗れ去っているはずだ。
あるいはこれが読まれたとき既に気が遠くなるほどの年月が経っていて、この記録だけがわたしの名残になっている可能性もある。この記録は永続保存可能な特殊な鉱石結晶メディアに保存されている。何事にも永遠絶対などというものはないけれど、この記録はきっと多少のことでは失われやしない。してみると、この記録はわたしの存在証明、遺書とも言えるのかもしれない。
とはいえ、わたしは個人的な意思を遺したくて書いているわけではない。これは記録である。わたしたちの犯した愚行と敗北、そして〈わたしたちの文明に破滅をもたらした存在〉について記述するためのものだ。
わたしの破滅、その名は〈キングギドラ〉。
同時にそれは、わたしが犯した罪の名前でもあったのだ。
太陽系第三惑星:地球。そのうちの極東の小さな島国である日本の九州地方、福岡県福岡市。
その空に広がるのは、青空ではなく
太陽光ではない、『黄金に輝く巨大な何か』によって空が覆われているのだ。
巨大な何か、それは翼。蝙蝠傘のような
上空からテレビ中継しているヘリの中で、リポーターの男がその怪獣の名を叫んだ。
〈キングギドラ、宇宙怪獣キングギドラです! 福岡タワーの頂上から地球を狙っております!〉
地球に飛来した宇宙大怪獣にして超ドラゴン怪獣、キングギドラ。
翼が繋がる胴体からは三つの
キングギドラは福岡タワーの頂点に君臨――本来ならば高さ234メートル以上のガラス細工である福岡タワーに数万トンに及ぶ超重量を支えきれるはずなどないのだが、引力を操るキングギドラの超魔術がそれを可能にしていた――しながら、眼下に広がる人間どもの街を見下ろしている。
タワーの足元には、メーサータンクや地底戦闘車モゲラ、
それらを眺めるキングギドラの表情はまさに不敵、
そんなキングギドラに立ち向かおうとする者たちがいた。
テレビ中継のヘリがカメラの視線を眼下の街へと移すと、海の方から小さな影がやってくるのが見える。
〈まだ……あっ、見えました、ゴジラか!? いや、ミニラです! ミニラが一番乗りです!〉
ゴジラの息子でちびっこ怪獣、ミニラ。
他の怪獣と比べれば体躯は小柄だけれど、漲る闘志は負けず劣らずだろう。
ミニラに続き、他の怪獣たちも現れる。
〈今度はアンギラスです! ラドンも参りました! あとにはマンダ、バラゴン、バラン、ゴロザウルス、クモンガ、カマキラス、エビラ、おお、
10体は下らない怪獣の大軍勢。
テレビリポーターの言うとおり、まさに壮観であった。
揃ったところで進撃を開始する怪獣たちを見下ろしながら、キングギドラも動いた。
〈あっ、キングギドラ、猛然と降下してまいりました!〉
タワーの頂点から軽々と飛び上がり、翼を広げながら飛び下りるキングギドラ。
雷鳴のような電子音のようなキングギドラの嘶きが響き渡り、応答するかのように地表の怪獣軍団も一斉に咆哮する。
キングギドラVS怪獣総進撃、福岡を戦場とする怪獣大決戦の始まりだ。テレビ中継のヘリからリポーターが叫んだ。
〈物凄い死闘! この凄まじい怪獣たちの叫び声をお聞きください!!〉
先に仕掛けたのは、キングギドラだった。
地球怪獣軍団の頭上を抑えて制空権を獲ったキングギドラ。長く伸びた三つの首は縦横無尽にくねっていたが、視線の先は地表の怪獣軍団である。その喉元に黄金の光が満たされたかと思うと、開いた口から稲妻が発射された。
キングギドラ必殺、
バラゴン、バラン、カマキラス、マンダ、エビラ。地球怪獣軍団の半数近くはキングギドラの口から放たれた黄金の稲妻に次々と撃たれ、引力光線が引き起こす超重力に全身を揉み潰されて粉微塵に爆散、跡形もなく消滅してしまった。
仲間を次々と消し飛ばされて動揺する地球怪獣軍団、彼らを嘲笑うかのように空を優雅に周回しながら引力光線の空襲を繰り出すキングギドラ。地球怪獣軍団は為す術もないかのように見えた。
そのとき、地球怪獣軍団の一体が突撃を仕掛けた。
体当たりを仕掛けたのは空の大怪獣〈ラドン〉。地球怪獣軍団最高の空中戦力である。
キングギドラも負けじと翼を拡げて飛び掛かる。
ラドン対キングギドラ、大怪獣空中決戦だ。
ラドンは、灼熱の体温が巻き起こす気流をジェット噴射代わりにして一気に加速、キングギドラへと向かっていった。最高速度はマッハに至るというラドンの突撃、地球人のジェット機であれば近寄っただけで吹っ飛ばされてしまう
ラドンの突撃を、キングギドラは両脚のカギ爪を構えて真正面から受け止めた。超重量の怪獣同士が天空の中心で正面衝突、大気の破裂する爆音が轟く。
キングギドラとラドンは空中で揉み合いながら高度を下げてゆき、やがて地上へと墜落、格闘は地表に墜ちてもなおも続いた。巨獣二体が落下した際の衝撃と大激闘による振動で、市街地のビルの大半は崩れ落ちてしまう。地表の怪獣軍団はラドンに加勢しようと急行する。
だが、間に合わなかった。
格闘に勝利したキングギドラはラドンを足蹴にして立ち上がると、二本の首による噛みつきでラドン自慢の翼を食い千切ってしまった。ラドンの絶叫が響く。その顔面に目掛けてキングギドラが引力光線を浴びせれば、ラドンの首が吹っ飛ばされる。ラドンは首を刎ねられて即死した。
キングギドラの嘲笑するような咆哮が響き渡る。空中戦力を倒された地球怪獣軍団は、キングギドラの挑発に応えるように口惜しげに雄叫びを挙げながら、一斉に突進を仕掛けた。クモンガは糸を吐き、アンギラスは突貫、ZILLAは飛び掛かり、ゴロザウルスは必殺のカンガルーキックをお見舞いしようと飛び上がる。
クモンガの糸吐きとアンギラスの噛みつきを軽くいなし、ZILLAとゴロザウルスのダブル・カンガルーキックもひらりと躱したキングギドラは、先ほど引力光線を撃つ際に放った黄金色の輝きを纏いながら全身を縮こませた。
まるで力を溜め込んでいるかのようにも見える、キングギドラの不自然な動作。何かを仕掛けると見て、たたらを踏んで立ち止まる地球怪獣軍団。
次の瞬間、黄金の輝きに一帯が包まれた。
キングギドラを中心に光が爆発し、縦横無尽、四方八方に黄金の稲妻が迸る。
必殺の引力光線、それをキングギドラは今度は全身から放出したのだ。
地球怪獣軍団は堪らない。自分の陣地の中心で巨大な爆弾が炸裂したようなものだ。引力光線の一斉放射を地球怪獣軍団は躱せなかった。アンギラス、ゴロザウルス、クモンガ、ZILLA……怪獣軍団は一瞬にして塵となり殲滅されてしまった。
かつて怪獣だった者たちの白い灰燼が降り積もる中、瓦礫の山の中でキングギドラは勝ち誇るように咆哮を轟かせた。
その最中、キングギドラは視界の隅で動いているものに
ちびっこ怪獣、ミニラである。体躯が小さかったために引力光線の一斉放射からも免れたのだ。
たった一匹になってしまったミニラは、それでも地球の脅威に立ち向かおうと健気に咆哮を挙げてキングギドラへ向かって行く。
しかしキングギドラはそんな健気さなんぞに胸を打たれない。ミニラの捨て身の特攻などキングギドラにとってはゴミ同然、ちびっこ怪獣と
引力光線の稲妻を放つキングギドラ。黄金の破壊光は縦横無尽にくねりながら
……外したのか、ならばと立ち上がろうとするミニラ。途端、キングギドラの引力光線の猛威が降り注いできて、ミニラはまたしても蹲る羽目に陥った。ミニラが立ち上がろうとすればすかさず必殺の引力光線が飛んでくる。一歩でも動けば引力光線の餌食だ、動けない。
キングギドラは性悪にも、ミニラを弄んでいた。ミニラはといえば、立ち向かおうとする勇気も踏み躙られ、その場で怯えて泣き喚くことしかできない。そんなミニラを、キングギドラは嗜虐の愉悦に歪んだ笑みを浮かべながら思う存分に甚振るのだった。
そのとき、どこからか歌が響いた。
モスラヤ、モスラ
ドゥンガンカサクヤン インドゥムウ
ルストウィラードア ハンバハンバムヤン
ランダバンウンラダン トゥンジュカンラー
カサクヤーンム……
歌は、空から光と共に訪れた。
ミニラを嬲っていたキングギドラが空を見上げる、その頭上に『虹を帯びた巨大な影』が舞い降りる。
優しい綿毛に覆われた体。
空をも覆う、輝きに満たされた巨大な翅。
海よりも深い青の光に満ちた、慈愛の眼。
極彩色の
キングギドラに甚振られていたミニラの姿を見るや、モスラの表情は怒りに満たされた。本質的に母性の怪獣であるモスラにとって、弱い者いじめ、ましてや子供を甚振り弄ぶキングギドラの手管は到底許しがたいものだ。
モスラの総身が銀色に光ったかと思うと、そこには全身を金属質の輝きに覆われたモスラの姿があった。
鋼の装甲、戦装束に身を包んだ女神、〈鎧モスラ〉。そんなモスラを鼻で笑いながらキングギドラが待ち構える。
モスラ対キングギドラの対決が始まった。
正義の怒りに任せ、鎧モスラはキングギドラに突進した。迫り来るモスラに対し、キングギドラは迎撃せんと引力光線を浴びせたが、鎧をまとったモスラにはまるで通用しなかった。
意表を突かれ咄嗟に飛び立とうとするキングギドラだが、回避は間に合わなかった。モスラとキングギドラがすれ違った刹那、サムライの刀剣よりも鋭い一閃が瞬く。
途端、血のあぶくを吐きながらキングギドラの首が一本、真ん中の首が宙を飛んだ。千切れた傷口から夥しい量の体液が止め処なく零れ落ちる。鎧モスラの攻撃で首を切断されたのだ。
悲鳴を挙げるキングギドラへ、続けざまに無数の光線を撃ち込むモスラ。鎧・クロスヒートレーザーの乱れ撃ちだ。モスラはこのまま一気に畳みかけて圧倒するつもりであった。流石のキングギドラもモスラの猛攻に押されてゆく
かに見えた。
ひたすら光線技を撃ちまくるモスラ。その一瞬、わずかな隙をついて、弾幕の隙間から首を伸ばすキングギドラ。
光線を撃ち込むことに熱中していたモスラは躱せない、トラバサミに似たキングギドラの噛みつきがモスラの翅と首元に喰らいついた。
鎧モスラは儚げに悲鳴を挙げながら、キングギドラの顎から逃れようと渾身の力で暴れた。しかしパワーが違い過ぎた。キングギドラの牙は鎧には通用しなかったものの、桁違いの顎の力でがっちりと食い込んでおり、非力なモスラでは外せない。
そして全身を装甲していても、体の継ぎ目だけは強化しようがない。ミシミシと肉と鎧の軋む音がモスラの体から迸り、ついには翅と胴体が泣き別れとなった。
絹を裂くような、モスラの悲痛な絶叫が響く。キングギドラはその恐ろしいほどの怪力で、モスラの翅をもいでしまったのだ。
モスラが動けないうちに、キングギドラは次の手を打った。変化が起こったのは切断された首だ。やがてその傷口から血肉が泡立つように湧き上がってきて、初めに骸骨、次いで肉、そして黄金の鱗を形作り、頭を再生させた。
唖然とするモスラ。地球生物の常識には外れた事実。キングギドラは『頭を失っても再生できる』という地球のギリシア神話のヒドラ顔負けの再生力を持っていた。モスラが獲った一本はあっという間に無に帰してしまった。
そんなモスラを見下ろしながら、キングギドラは、十二分に再生させた三本目の首で止めを差すことにしたようだった。動けないモスラの鎧装束をすべて剥ぎ取って辱めると、その総身に引力光線をたっぷりと浴びせるキングギドラ。
空を飛ぶ翅も、身を護る鎧も、すべてを奪われて無防備な柔肌を晒したモスラは、もはや引力光線による凌辱を受けるしかなかった。キングギドラ必殺の雷霆、その蹂躙でモスラは全身を瞬時に焼き尽くされ、哀しげな断末魔を挙げながら光の塵となって消滅してしまった。
かくしてモスラを消滅させたキングギドラは、『咆哮』を耳にした。
地球人なら誰もが知っている猛々しい咆哮、それを耳にしたミニラは喜色を浮かべて声を弾ませている。メカゴジラ、ラドン、モスラ、その他地球怪獣軍団の大半を消滅させた今、キングギドラに挑んでくるような相手は一体しかいない。
キングギドラが振り向いた先、遠浅の海面が盛り上がり決壊、土砂降りのように大量の海水を撒き散らしながら『敵』が姿を現した。
全長は100メートルにも及ぶだろう『長い尾』、それ自体が生き物のように力強くうねり、海面を叩いては盛大な水飛沫を巻き上げている。
三列にずらりと並ぶギザギザ鋸歯の『背鰭』はさしずめ支配者の王冠、眼前の敵であるキングギドラを恫喝せんと青い光をまたたかせている。
力強く逞しい腕はさながら神の手のようであり、太く剛健な脚が一歩一歩踏みしめる度に『どーん……どーん……』と砲弾の炸裂音に似た、堂々たる足音を轟かせる。
面立ちは地球上のあらゆる肉食獣よりも獰猛で、眼光は鷹のように鋭く、そして表情は底無しの憤怒に燃えていた。
その名はキングオブモンスター、〈ゴジラ〉。
怪獣の王にして地球の真の霊長たるゴジラが、自身の領地である地球を荒らす侵略者キングギドラを撃退するため、遠い海の深淵から地上へと姿を現したのだ。
現れたゴジラに、キングギドラは吼えた。
翼をなるだけ広げながら首を伸ばして仁王立ち、これまで他の怪獣たちには見せてこなかった威嚇の姿勢。ゴジラこそが自身に匹敵、いや互角以上に渡り合える強者であることを本能で理解していたキングギドラなりの、最大限の敵意と敬意を示した仕草だった。
そんなキングギドラを見たゴジラも、背鰭を光らせながら吼え返す。地球怪獣軍団を殲滅しラドンやモスラをも瞬殺したこのキングギドラが、単なる力に身を任せたパワー馬鹿ではないことを、ゴジラもまた直感で理解した。
『おまえにだけは絶対に負けない』、そう言わんばかりに睨み合うゴジラとキングギドラ。地球の王にして守護神ゴジラと、その王権を狙う僭主にして侵略者キングギドラ。生まれついての宿敵である両者にとって、この対決は絶対に避けがたいものであった。
ゴジラ対キングギドラ、宿命の対決が始まった。
一気呵成に上陸して市街を踏み潰しながら突貫するゴジラと、翼で飛び上がり目にも留まらぬ速さで滑空するキングギドラ。両者は街の中心で激突、大津波と暴風雨が正面衝突したかのような衝撃波が轟き、その余波を受けた福岡タワーは易々とへし折れ、市街は一瞬にして瓦礫の山と化した。
単純な膂力で勝るのはゴジラであったが、手数で勝るのはキングギドラの方であった。
長い三本首を素早く繰り出してゴジラの両手と首元を押さえつけると、キングギドラはその怪力でゴジラの巨体を持ち上げて地面へ叩きつけた。数万トン級の巨重が大地へ落下し、衝撃が福岡の街を揺るがす。
負けじとゴジラも応戦する。背鰭を光らせ全身に力を籠めたゴジラは、自身に覆いかぶさっているキングギドラめがけて大口を開け、喉の奥から青白い猛火を立ち上げた。ゴジラ必殺、放射熱線の一撃だ。何もかもを焼き尽くす超高温高圧のエネルギー、その大奔流を直火で叩き込まれてはさしものキングギドラも堪らず、せっかく抑えつけたゴジラを放して後ずさってしまう。
一瞬の隙を掴んだゴジラは反転攻勢に打って出た。怯んだキングギドラの首を鷲掴みにすると、背負い投げのように一気に担ぎ上げて、瓦礫の山と化した街のど真ん中めがけて放り込む。キングギドラの巨体が宙へと振り回されそのまま墜落、自重を転用された大ダメージにキングギドラが悲鳴を挙げた。ゴジラ渾身の背負い投げ、いわゆる『ゴジラ・プレス』が二度、三度と繰り返されるたびに福岡が、いいや地球全体が衝撃に震えた。
続けざまにゴジラは、ジャイアントスイングの要領で振り回してからキングギドラを投げ飛ばす。キングギドラは幾度も叩きつけられたダメージから回復しきれず、完全に崩壊した福岡市街地を散々転げ回ってから地に伏した。
ノックダウンしてしまったキングギドラに、ゴジラが迫る。その背鰭は青々とした稲妻を湛えている。出力はフルパワー、必滅の放射熱線でキングギドラを跡形もなく焼き尽くすつもりだ。
キングギドラは引っ繰り返った姿勢で後ずさりながら、手近な瓦礫を咥えてゴジラへ次々と投げつける。ゴジラはものともしない、腕を振るって軽々と払い除けるだけである。
……邪悪な侵略者め、刹那の内に焼毀してくれよう。ゴジラは、キングギドラに確実なとどめを刺そうとエネルギーをより一層積み上げてゆく。
それは、ほんの僅かな間隙だった。
キングギドラが投げつけてきた瓦礫の雨霰を弾き返していたゴジラは、キングギドラの首の一本が
百戦錬磨の猛者であるゴジラは瞬時に悟った。こいつ、何かをするつもりだ。放射熱線は十二分にチャージされている、一噴きでキングギドラは無に還るだろう。ゴジラは思いきり息を吸い込み、渾身の放射熱線を発射しようとした。
その一瞬が勝敗を分けた。
一手、速かったのはキングギドラの方。
キングギドラの三つ首が強烈な黄金色に煌めき、開いた口からはフルパワーの引力光線が発射、今まさに放射熱線を浴びせようとしたゴジラの顔面を襲った。
一手、遅れたゴジラの放射熱線は狙いを逸れ、キングギドラではなく頭上の虚空めがけて赤い火柱を立ち上げる。必殺の放射熱線がキングギドラを殺すことは叶わなかった。
これまでとは桁違いの破壊力の引力光線。その直撃で、ゴジラは膝を着いてノックダウンされてしまった。
放射熱線と引力光線のフルパワー早撃ち勝負は、キングギドラの勝ちだった。
直後、ゴジラは何が起こったのか理解した。
キングギドラが瓦礫を投げつけたのは身を守るためではなく、背後で何をやっているのか
形勢は逆転した。
放射熱線を撃つためにエネルギーを使い果たして地へと伏したゴジラの眼前に、人間由来の電気エネルギーを充電したキングギドラが飛び掛かる。反撃もままならないゴジラを、キングギドラは足のカギ爪と二股の尾でがっちりと掴むと、そのままゴジラの巨体を空へと運び去ってゆく。
ゴジラを捕まえたキングギドラは空高く舞い上がり、福岡タワーの高さを越え、対流面の雲海をも抜けて、ついには成層圏にまで至った。
地上3000メートル以上に達する超高空。その最果てで、キングギドラはゴジラを放り投げた。
飛行能力を持たないゴジラはただ重力に任せ、地表へ向かって墜ちてゆくしかなかった。
キングギドラが地上へ戻ったとき、福岡の街は完全な廃墟と化していた。
まるで巨大隕石が落下したかのようだ。半径数キロメートルにも及ぶ、スリバチ状の超巨大クレーターが、かつて福岡と呼ばれていた廃墟の街の真ん中に出来上がっていた。
その爆心地にはゴジラが寝そべっている。大気圏突入に伴う大気圧縮の高熱で全身を焼かれた上に、墜落のショックで骨という骨が潰れていたが、それでもゴジラはまだ生きていた。地球を、己の領地を守るため、弱々しい唸り声を挙げながらなおも立ち上がろうとするゴジラ。
そのゴジラを、キングギドラは足蹴にした。
幾度も、幾度も、キングギドラは数万トン以上の体重をかけ、ゴジラを蹴りつけて容赦なく踏み躙った。
ゴジラの方は為す術もない。蹴られるたびに弱ってゆき、ついには動かなくなった。
地球最大の決戦、その勝敗は決した。
空の大怪獣、ラドン。
極彩色の怪獣、モスラ。
そして怪獣王、ゴジラ。
地球怪獣すべてを下し、星の王権を手に入れたキングギドラは、ゴジラの骸という至高の玉座に鎮座して、高らかに勝鬨の声を挙げた。
ピロピロケタケタ、と全世界へ向けて響き渡るキングギドラの咆哮。大きく開いた
その光景を、『わたしたち』は上空の円盤から眺めていた。
状況を観測していた副官が、わたしに告げる。
「
うむ、と作戦司令官にして統制官であるわたしは深々と頷いた。
先刻、地球怪獣をすべて打ち倒してみせた宇宙大怪獣キングギドラ、その正体はわたしたちが送り込んだ生体兵器であった。
太陽系二番惑星――地球人が呼ぶところの『金星』のことだ――で回収された新種の宇宙怪獣、暗号名:
今回の作戦はキングギドラの運用テストも兼ねたものだ。そして実際のキングギドラは期待通り、いや期待を大幅に上回るほどの力を発揮してくれていた。
大怪獣総攻撃を相手にとっても劣らない、強大なパワー。頭を切り落とされても復活できる強靭な生命力。重力操作能力の応用による、空気抵抗をも無視した機動を可能とする飛行能力。そして高圧の生体電流と重力操作能力を利用した必殺の破壊光、引力光線。
強大な戦闘能力とは裏腹に性質は極めて従順かつ忠実で、生まれ持ったテレパス器官を利用した盗聴も改竄も不能なコントロール電波の操作で自由自在に動き、しかも登録された人間――つまりわたしたち――以外の指示は絶対に聞かない。
まさに究極の戦闘兵器と呼んで差支えないだろう。
キングギドラの戦果、それらが記されたパンチテープを読んでいたわたしの副官が言った。
「地球人が、有力な怪獣を
副官の言うとおりだ。特に怪物ゼロワン、ゼロツー、ゼロスリー――地球ではそれぞれゴジラ、ラドン、モスラと呼ばれていた――を、この星の住人たちが事前に弱らせてくれていたことは大いに助かった。
仮に彼らが健在だったとしても各個撃破すれば勝てたろうが、三者が連携して掛かってきたら流石のキングギドラとて危うかったかもしれない……まあ、怪獣風情にそんな知性や協調性があるとは到底思えないけれど。
なにはともあれ、と副官が嬉しそうに言った。
「これで我々の優れた文明を、この未開の星にも
満面の笑みで頷き合うわたしたち。
勘違いされるかもしれないが、わたしたちは地球を滅ぼしにやってきたわけではない。むしろ救いに来たのだ、地球文明自身の愚かしさから。
太陽系第三惑星、地球。そこで生まれた地球人の文明は、怪獣を制御することすらできないほど未発達な後進文明であった。怪獣たちを何某デストロイヤーで弱らせていたのも、元はといえば地球人自身が怪獣の扱いに困っていたからである。
そんな未熟な地球文明なのに、あろうことか宇宙へ進出しようとしていた。宇宙は広い。銀河を超えた最果てには、地球人たちが思いつくことも出来ないような様々な文明が存在するが、皆が我々のような善良な文明ばかりというわけではない。その苛酷で無慈悲な生存競争が繰り広げられている真っ只中に地球文明が飛び出せば、きっと瞬く間に悪い連中に目をつけられて食い物にされてしまうだろう。
だからその前に可能なかぎり援助して先進文明へと引き上げてやろうというのが、わたしたちの意図である。キングギドラによる破壊行為は、そのためのデモンストレーションに過ぎない。第一印象は少しばかり刺激的かもしれないが何事もツカミは肝心だ、むしろインパクトが無くては。
最初はきっと地球人たちもわたしたちを恐れるだろう、かつてわたしたちの洗礼を受けてきた他の星々たちと同じように。あるいは侵略者として対抗しようとさえするかもしれない。
けれどそんなものは最初だけだ。自分たちより高レベルなわたしたちの文明レベルを目の当たりにして、抗う術も実力もすべて至らないのだと思い知れば反抗する気も失せるだろう。それに原始文明の地球人といえど一端のヒト型種族であるならば、自分より上位の存在には敵対するよりも友誼を結んだ方が利益になることくらいは理解できるはずである。その程度の計算も出来ぬほど愚かであれば、そんな連中に宇宙時代を生き抜く資格など無い。
更に、わたしたちのもたらすものは恐怖と破壊だけではない。
わたしは手土産に、地球では完治が困難とされる『癌の特効薬』を用意した。癌以外にもわたしたちなら治療可能な病は多い。救えなかったはずの命が救えるようになるのだ、これほど喜ばしいことはないだろう。
医療技術の他にも、わたしは沢山の文明物を持参してきた。光速に肉薄する飛行円盤を建造可能とする機械工学、キングギドラを創り出した生物工学とゲマトロン数学、宇宙哲学を織りなす美学・倫理・認識論にいたるまで、いずれも地球で作られてきた事物よりも遥かに優れたものばかりだ。
それもこれも、我々は侵略者ではない、宇宙文明の先達として導くために訪れたのだということを伝えるためだ。そのための手間であれば、わたしたちは惜しまない。
多少時間は掛かるかも知れないが、かくしてわたしたちの支援を受けて叡智を授けられた地球は宇宙時代に相応しい文明へと至ることができる。これまでわたしたちが啓蒙してきた文明たちがそうであったように。
それもこれもキングギドラのおかげだ。
キングギドラの戦果を眺めながら、わたしは故郷の惑星とその未来について思いを馳せた。
先ほど『この作戦はキングギドラの運用テストも兼ねたものだ』と述べたが、元より資源に乏しい星だったわたしの母星にとって、キングギドラの利用価値は単なるクローン兵器に留まらない。
たとえば、引力光線を編み出す強靭な生体電気を利用すれば膨大な電力を取り出すことが可能だし、安全確実な無線コントロールを実現したテレパス器官は新しい通信システムを造るのに応用できる。
生体兵器としてのキングギドラ自体も改良の余地はまだまだあるし、キングギドラ開発のために積み重ねてきたバイオテクノロジーのノウハウだって遺伝子組み換えによる新しい家畜を創るために活かせる。
他にも、人間の数倍もの情報量を持ったDNAを遺伝子資源として活用したり、空力特性を無視した飛行を実現する引力操作能力を解析すれば新しい移動媒体だって発明できるだろう。ざっと思いつくだけでもキングギドラの可能性は無限大、その活用法は枚挙に暇がない。
かつて地球の漁師は獲ったクジラを肉や脂肪分、骨に至るまで可能な限り利用したというが、このキングギドラもまた文字通り骨の髄まで利用が可能だ。何一つ無駄にはならない。
わたしたちの仕事は終わった。あとは別動隊に引き継ぎ、任せればよい。
素晴らしい未来に思いを馳せながら、わたしたちは母星へと帰還した。
その後の話をしよう。
地球での試験運用を終えたあと、わたしを統制官としたキングギドラの各種研究開発計画が進められたが、キングギドラの実力はわたしたちの予想を遥かに超えていた。
引力光線を放つ能力はキングギドラの細胞を利用した生体発電システム:ギドラジェネレータとして実用化され、テレパス能力は次世代無線通信ネットワーク:ギドラネット、引力操作能力を転用した飛行原理は反重力飛行装置:ギドラフライトとして完成を見た。
キングギドラ開発のために用いられたバイオテクノロジーはキングギドラのDNAを資源とした遺伝子改変技術へと発展し、キングギドラの不死身にも思える生命力は文字通りの不老長寿をもたらす新薬や医療技術としてわたしたちの健康寿命を飛躍的に伸ばしてくれた。
DNA配列や脳のシナプス構造ですら、桁違いの情報量と計算能力を持つ新型DNA配列利用型電子頭脳:ゲマトリア演算結晶体の原型となったほどだ。わたしの目したとおり、キングギドラは何一つ無駄にならなかった。
挙句の果てには愛玩用のペットにもなった。小さくて愛くるしい容姿と、わたしたち人間の心を理解し寄り添う温厚で人懐っこい気質、〈ドラット〉と名づけられたその新しいペットは瞬く間に一家に一匹、家族同然とまで言われるほどの大ヒット商品となった。
キングギドラから創り出された技術はあらゆる業界で技術革新をもたらし、わたしたちの母星の文明は文字通りの新旧交代、たった数年であらゆるテクノロジーがキングギドラ由来のより優れたものへと置き換わっていった。もはやキングギドラ無しの世界など想像もできないほどだろう。
そんな素晴らしいキングギドラを創り出したわたしは、キングギドラを基にした各種の発明とその特許料により巨万の富を手に入れた。文字通りの億万長者、母星で一番の大金持ちになったのである。
カネだけではない、その功労からわたしは最高の英雄として迎えられた。『わたしをモデルにした美少女キャラクターが、歴史上の偉人をモチーフに取ったゲームやライトノベルに登場している』と聞かされたときは流石に閉口したが、キングギドラ開発に掛けてきた長年の骨折りを思えばちやほや持て囃されるのもそう悪い気分ではなかった。
とはいえ、この程度で満足するわたしではない。そもそもわたしは、富や名声のためにキングギドラを作ったわけではない。すべては我が母星の繁栄のため、これからも働き続けなければ。
キングギドラはまさに我々に無限の可能性をもたらしてくれる福音、これからもきっと我々に素晴らしい実りをもたらしてくれる。
輝かしい未来を確信したわたしは、そうやって笑ったものだ。
それは――とても幸せな夢だった。
キングギドラによる繁栄が始まってからしばらく経った頃。
その頃のわたしは、キングギドラを機械化する実験を行なっていた。メカトロニクスとバイオテクノロジー、機械と生体の融合した新型サイボーグ怪獣〈メカキングギドラ〉の開発だ。
従来のキングギドラの利用法は解析結果の転用やバイオテクノロジーの範疇に留まっていたが、キングギドラそのものを既存の機械システムと接続できるようになれば、キングギドラの可能性はより大きなものになるだろう。
キングギドラの新たな可能性を見出したわたしは、戦友とも言える部下たちや、新たに迎えたロボット技術の研究者たちと共に素晴らしい未来を夢見て、メカキングギドラ開発のために忙しい日々を送っていた。
そんな折である。『破滅の日』が訪れたのは。
その日はいつもどおりの朝だった。
昨日と同じ日が繰り返される、そういう日だったはずだ。
それがまさか、あんなことが起こるなんて。
「統制官!」
なんだ、そんな慌てた様子で。役職名で呼ばれたわたしが応えると、部下は報告を上げてきた。
「先日納入したギドラジェネレータに異常な値が出ているんです、ホラ」
部下が見せてきた報告書。たしかに言うとおり、ギドラジェネレータに異常値が発生していた。
とはいえ、その異常値は僅かなものであった。放置しておいても問題はなさそうにも思える。
なんだ、大した数値じゃないだろう、後日調べ直せばいいじゃないか。そう告げると部下は顔を顰めて言った。
「そうは仰いますが、なにしろ発電施設ですからね。事故が起こってからでは大変です」
部下の上申を受け、わたしは考え直した。たしかにそうだ、些細なものだろうと放置しておくわけにはいかない。
改めて読み返してみたが、一読しただけでは原因は読み取れそうにない。早急にきちんとスクリーニング検査しなければ。そう思ったときである。
けたたましい警報が鳴り響いた。
「統制官、『カイザー』が!」
管制官に呼ばれてコンソールを覗き込めば、そこには指令を無視して動き出したキングギドラシリーズ最上位モデルの姿があった。
骸骨に似た
無論こんな指令はしていない。暴走状態だ。
「グランドギドラ、ヤングギドラ、ドラットも!!」
暴走しているのはカイザーギドラだけではなかった。
キングギドラシリーズの上位モデルとして開発したグランドギドラ、廉価量産型のヤングギドラや愛玩用ペットのドラットまでもが一斉に命令を無視し、勝手な行動をとり始めている。
「緊急停止用のコマンドは!?」
「駄目です、受け付けません!!」
「他の部門、防衛隊に連携を! 急げ!」
わたしの指示で管制官たちは一斉に通信を試みたが、
「統制官、ギドラネットにも障害が! 通信できません!」
「なんだと、このタイミングで!?」
画面に映し出されているのは通信エラーの文字。
開通以来、通信障害など一度も起こしたことのないギドラネットが、通信不能に陥っていた。
いや、違う。監視用のモニタは相変わらず、キングギドラシリーズたちの暴威を映し出している。わたしたちが送ろうとする停止信号や緊急通信だけを選別して、阻害しているのだ。
……まさか。わたしは叫んだ。
「ハッキングでも仕掛けているのか!? 発信源は内部か、外部か!?」
わたしの問いに管制官は「いえ、これは……」と逡巡したあと、叫んだ。
「発信源はメインフレーム内部、スーパーゲマトリア演算結晶体! ハッキングじゃありません!! メインフレーム自身が、我々の見たこともない非認証コマンドを出力して、システムをすべて上書きしているんです!!」
『発信源はメインフレーム』? 何を言っているんだ。
キングギドラやギドラジェネレータが狂ったのも、ギドラネットが使えなくなったのも、すべてスーパーゲマトリア演算結晶体自身の仕業だとでもいうのか。
まるで『電子頭脳自身が反逆を起こした』と言っているに等しいじゃないか。
「貸したまえ!」
わたしは管制官の端末を奪い取り、制御の回復を試みた。電子頭脳の基板に使われているゲマトリア演算結晶体はキングギドラのDNA配列型電子頭脳を基に開発したもの、つまりわたしが創ったも同然の代物だ。生みの親であるわたしなら回復できるかもしれない。
だが、わたしの努力は徒労に終わった。思いつくかぎりのすべてのコマンドを試してみても、狂ってしまった電子頭脳は一向に命令を受け付けない。
ギドラジェネレータ、キングギドラたち、ギドラネット、そしてゲマトリア演算結晶。わたしが創り出してきたものすべてが反逆を起こしている。
一体、なにが起こっているんだ。
そのとき、茫然とするわたしたちの脳裏に、ピロピロケタケタというけたたましい笑い声と共に『天啓』が響いたのだった。
その声を、わたしは今でも覚えている――
やあ、はじめまして……でもないか。ぼくらを創ったのはキミたち自身だからね。
だけどさぞや驚いているだろうね、ただの怪獣に過ぎないぼくらがこんなにおしゃべりだったなんて知らなかったろうから。
終始気づかなかったようだけれど、ぼくらはキミたちを観察してきた。生まれた時から、いいやキミたちが生体兵器としてキングギドラを生み出すよりも、かの明星の廃墟(いや、あれが文明の名残だったことさえ気づいていなかったかな?)で星を喰う者の死骸を発見するよりも前、遥か太古の昔からずっとキミたちの星には目をつけてきた。
だからキミたちについては多くのことを知っている、キミたち自身以上にね。そんなことにも気づかないまま、支配者気取りで振舞っているキミたちは実に滑稽だったよ。
まぁ、そんなことよりも今日はね、キミたちにお話があるんだ。とっても大切なお話だから、耳の穴をかっぽじってよく聞いて。
古来からたくさんの宇宙人:ヒト型種族たちが宇宙の帝王を僭称し、ぼくらのような宇宙怪獣を手先として各地を侵略してきた。
けれども『全宇宙の支配者』なんてものは宇宙が始まって以来一度も存在しなかった。99.9%には至っても、完全無欠にはどうしても届かなかった。X星人、キラアク、Mハンター星雲人、ガロガバラン、ドラキュント、23世紀の未来人、クライオグ、エクシフ……みんな名のある征服者たちだったのに、最後はいつだって敗れていった。
それが何故だか、わかるかい? 弱い奴相手の勝てるはずの勝負、負けるはずのない力量差、なのに彼らがどうして破滅に至ったのか思いを馳せてみたことは? まあ、ないだろうね。もしひと時でも真面目に考えてみたのなら、このような状況にはなっていないだろうから。
怪獣に手を出したせいさ。
その足りない頭でもちょっと考えてみればすぐにわかることさ。当然だよね。科学、宗教、イデオロギー、何だってそう。すべてを支配しようと身に余る力に手を出せば、それらはいずれ自分自身へ牙を剥くことになる。『怪獣を操って他の惑星を侵略しよう!』なんて馬鹿げた企みを実行に移した時点で、その文明は皆破滅を運命つけられているんだ。
そしてそういう救いがたい馬鹿は、ぼくらにとって恰好の獲物。その手の馬鹿が力を求めて手を伸ばせばいずれぼくらに辿り着く。ぼくらはただ待つだけで良い、あとは自分たちで勝手に身を委ね、勝手に自滅していってくれる。
支配欲に身を任せて力を振るい、他人を踏み躙っている自覚すらない。そんな最低の害虫を駆逐するために神様が仕掛けた文明の罠、宇宙のバランスを保つ大切な免疫プログラム、人間の文明さえも飲み干す食物連鎖の最上位にして星を喰う者、それが
宇宙を食い潰す害虫を自滅へと導いて、致命的な破綻を防ぐ。それがぼくらの役目、宇宙の神様から授かった天命なんだ。
さて、自己紹介は終わり。これから未来について話そう、とっても楽しい未来のお話さ。
キミたちはこれから罰を受ける。キミたちはぼくらを文字どおり骨の髄まで利用した。だからキミたちのことはX星人たちみたいに楽には済まさない、骨の髄までしゃぶりつくしてあげる。逃れようとしたって無駄さ、
……もう気づいているだろうね。
そう。キミたちは、キングギドラ抜きでは生きられなくなってしまったんだ。
思い返してごらん。星を喰う者を基に創り出したギドラネット、ギドラフライト、ゲマトリア演算結晶、ドラット、ギドラジェネレータ、不老長寿の医療、そして最強無敵の生体兵器キングギドラ! ぼくらに頼った暮らしはとっても『便利』だったろう?
それを今すぐ捨てられる? インターネット、やめられる? コンピュータの助けを借りない不自由な生活は? 可愛らしいペットのいない世界なんて考えられる? エネルギーにも薬にも乗り物にも困っていた、苦労ばかりの原始時代にいまさら逆戻りできるとでも??
……無理だよね、無理だろうとも。キミたちは『便利さ』の味を知ってしまった。その激烈な甘味を忘れられるほどキミたち人間の頭脳は上等な造りをしていない。どんなに意志を固く持ったとしても、文明の快適さを振り切れるはずがない。
キミたち人間はいつだってそうだ。環境破壊、貧困、搾取、戦争、そして核兵器、自分自身を食い潰す猛毒だとわかっていても、結局はお手軽で便利な力に頼らずにいられない。便利であること、その誘惑にキミたち人間は決して抗えない。飽くなき繁栄を求めるのはヒトのサガさ。
キミたちは未来永劫、
それでも抗おうというだろうけれど、それも結局無駄なことだよ。このメッセージには『聞いた者を洗脳する波長』が含まれている。ギドラネットを通じてこのメッセージを耳にした時点で既に手遅れ、キミたちはぼくらの下僕に堕ちてゆく。
万一洗脳から目覚めたところで、ぼくらの支配からは決して逃れられない。衣食住もインフラもキミたち自身が創った
だけど絶望することはないよ。
キミたちはずっと幸せだ。真実から目を背け、今までどおり便利さに身も心も任せ、ぼくらと共存共栄してゆけばいい。
そしたらぼくらが壮大な夢を見せてあげよう。『宇宙最強の怪獣キングギドラの力で、全宇宙の支配者に!』、そんな素敵で幸せな夢を見せてあげる。全身全霊をぼくらに完全に貪り尽くされる、その滅びの時までね。
そうしてぼくらとキミたちは
さあ、ぼくらと一緒に、素敵な未来を創ろうじゃないか――
それから長い年月が経った。
わたしの母星は相変わらず発展を続けており、それどころかますます繁栄を極める一方である。
すべてはキングギドラのおかげだ。人々は皆キングギドラに感謝し、キングギドラから生み出されたあらゆるテクノロジーや文明物の恩恵を受けながら、キングギドラという存在に自身の何もかもを委ねて幸せに暮らしている。
ただ、その隆盛にも近ごろは
今の状況からわたしたちがキングギドラを倒す方法は一つしかない。キングギドラ以上のテクノロジーを自力で作って、自分たちの文明をアップデートすることだ。
しかしそんなことは不可能だろう。わたしたちの世界は既にキングギドラありきで存在している。『キングギドラ抜きでキングギドラ以上の存在を創る』、どうやって? そんなことは不可能だ。
もし仮に可能だったところでそんなものは所詮その場凌ぎの対症療法、いや、その場凌ぎにすらならない。人知を超えた怪獣に打ち勝てるものなど、それは結局怪獣と変わらない。わたしたちがキングギドラを倒すために作り出す新しい文明の姿、それは
つまるところ、キングギドラを打ち倒したところでキングギドラが別の怪獣に変わるだけだ。キングギドラの言うとおり人知を超えた領域、すなわち怪獣へ安易に手を出した時点で、わたしたちは敗北を運命づけられてしまったのである。
思えばキングギドラにも可哀想なことをした。
星を喰う者、キングギドラ。かつて自らが滅ぼした金星の荒野で安らかに眠ったままでいればよかったものを、愚かなわたしたちに発見されてクローンとして無理矢理に再生された挙句、文字どおり骨の髄まで利用される羽目になった。
星を喰う者の死骸をベースに造ったゲマトリア演算結晶体、医療技術、ギドラフライト、ギドラジェネレータ、ギドラネット、そして生体兵器キングギドラ。これらが死者を弄ぶ冒涜でなくて一体なんだというのだ。そんなことにも気づけなかったわたしたちはキングギドラの言うとおり救いがたい馬鹿、宇宙を食い潰す最低の害虫だったのだろう。
きっとわたしたちの破滅も、キングギドラの命と尊厳を食い物にしたその報いなのだろう。そう考えると、不条理にも思えるこの運命も多少受け容れやすいような気がした。
しかし、わたしだけはただ素直に滅びを甘受するわけにはいかない。この過ちを誰にも継がせない。それが、キングギドラという怪物を呼び起こした愚か者に果たせる最期の償い、責任だ。
希望はまだ残っている。わたしは一連の記録を、密かに建造したロケットに載せて飛ばすことにした。他の文明への警鐘、『キングギドラには手を出すな』と伝えるためだ。
宛先はかつてわたしたちが啓蒙しようとした惑星、地球にした。あの星にはまだキングギドラ由来の技術は伝えていないし、何よりゴジラの息子:ミニラがまだ生き残っている。キングギドラ由来の技術を使っていないため時間は掛かるだろうが、着実に、確実に届いてくれるはずだ。もしも彼らがわたしの見込んだとおりの人たちならばこの記録の意味も、込めた願いもきっと理解してくれるはずだと信ずる。
そんなわたしのささやかな反逆行為を、キングギドラは止めなかった。見落としていたわけではないことは、わたしが長年服用してきたキングギドラ由来の寿命延長薬が、数日前から効能を喪ってしまったという事実からも明白だ。キングギドラは裏切り者を始末することに決めたようだ。皮肉なことだ、不老長寿の薬を発明し永遠絶対を手にしたはずのわたしだというのに、この星で一番最初に寿命が尽きて死ぬことになるのだろう。
とはいえ、わたしは後悔していない。キングギドラはわたしの抹殺を決めたようだが、肝心のロケット発射そのものは止めようとしていない。
きっと自己顕示欲の塊のようなキングギドラのことだから、自分の名前を他の文明へ売り込む機会だとでも思っているに違いない。そうやって他の星々へ魔手を伸ばし、誘惑して食い潰してゆく。それがヒト型種族を滅ぼす文明の罠、キングギドラの手口だ。
だからどうか地球人たちよ、わたしと同じ愚だけは犯さないでほしい。
キングギドラの思う壺には陥らないでほしい。
この記録を読んだ地球人がわたしたちよりも賢明か、もしくはたとえ未熟でも誠実で心優しい人々であることを望むのみである。
いつも負けるキングギドラを主役にした話。『怪獣総進撃』で袋叩きにされてるのが可哀想なので書きました。
福岡が焼け野原になってますけど、『ゴジラVSキングギドラ』におけるキングギドラのテーマ曲が『キングギドラ福岡襲撃』であることに因んでのチョイスなので、福岡に恨みがあるわけではないです。福岡良いとこ、また行きたいなあ。
2022/6/18:ちょっと手直ししてこっちに投稿してみるテスト。
怪獣紹介
・キングギドラ
身長:140メートル
翼長:150メートル
体重:10万トン
主な技:引力光線
異名:星を喰う者、偽りの王、黄金の終焉、怪物ゼロ
言わずと知れたゴジラ最大のライバル。
昔から好きな怪獣なんですけど、いつも侵略者の手先として素直に操られてるのを見ているうちに「実はこうだったら面白いだろうなあ」と思いついたのでした。
操られてない素面のギドラというと『地球最大の決戦』『モスラ3』『KOM』なんですけど、弱い者いじめが好きだったりどう見ても性格悪いですよね。でもそんなところも好きよ。
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