南極でゴジラを見張ってたらテロリストが来た件 作:よよよーよ・だーだだ
事の発端は、西暦20xx年。
怪獣との戦いで、人類の最終決戦兵器:メカゴジラが破壊されてしまったことだった。
怪獣に追い詰められ続けた人類最後のよすが、メカゴジラ。長年人間のために戦い続け、最後まで人間のために忠を尽くし、そして人間のために散っていったその有り様に、人々は涙した。
しかし悲嘆に暮れている暇など無い。怪獣どもは日々進化し、僅かに残された人間の領域を侵犯せんと虎視眈々と狙い続けている。
人々はすぐさま最終決戦兵器の第二号、すなわち『メカゴジラ
より優れた新しいメカゴジラを開発するにあたって、様々なアイデアが検討された。
たとえば人間と接続して脳波コントロールするとか、サポートメカと合体してスーパーメカゴジラにパワーアップするとか、怪獣の骨を素材として組み込むとか、その他諸々。
果ては要塞都市型メカゴジラなんてものまで考案された。名づけてメカゴジラ=シティ。
このアイデアはかなり良いところまで行ったのだが、その完成形の外観が『巨大なガスタンクの集合体』だと判明した途端、人間たちの総スカンを喰らいボツになってしまった。
とはいえ、メカゴジラ=シティの実態はガスタンクではなくてナノマシン、機械仕掛けのカビのようなものだ。不死身のゴジラ細胞と同じ振る舞いをする機械仕掛けのゴジラ、この点で言えばこれまでのどのメカゴジラよりもメカゴジラらしいメカゴジラと言えるかもしれない。むしろボクからすれば、実用性もないのにそこまでデザインにこだわる方がよほど変だと思うのだけれど、人間たちにとってはそうでもないらしかった。
何はともあれデザイン、見かけは重要だ。それも出来るかぎりキャッチーな方が良い。そんなメカゴジラ=シティの反省から生み出されたのが『少女型のメカゴジラ』だった。
開発名:
ヒト型ロボット兵器なんぞにメリットはない。SF考証バカの軍事オタクは口を揃えてそう言う。
たしかにそうだろう、わざわざヒト型にすることについて兵器としてのメリットはない。ヒト型であればあらゆる極地に対応でき、人間用のインフラをそのまま流用できるという側面はあるが、その程度のメリットのためにヒト型ロボット兵器を製造してメンテナンスする費用があるなら、本物の人間を雇った方が安上がりだ。
しかし、それが『並んで共に戦う戦友』だったらどうだろう。
メカゴジラの制御系に関して、搭乗型だとパイロットの安全性に課題があり、無線操縦では電波障害や遅延の問題がある。そんな事情から、次に造られる新型メカゴジラは人間が直接制御する有人兵器ではなく電子頭脳で自ら考えて動く自律機動兵器、ひいては『戦場で兵士たちと共に戦うパートナー』として開発が進められていた。
しかし人間は、単なるロボットには感情移入しにくいもので、仲間意識や親近感というなら自分に近い姿をしたものへ感情を向けるものだ。戦友として背中を預けるならばガスタンクよりもゴジラ型、ゴジラ型よりもヒト型、そして単なるヒト型よりも愛すべき恋人や可愛いアイドルの方が良い。
そんな判断から、地球連合軍上層部は少女型メカゴジラの制式採用を決めた。そうしてボクたち:メカゴジラ娘はこの世に生を受けることになったのだ。
メカゴジラ娘の持つ、純粋な兵器としてのスペックは申し分ないものだ。
エネルギー効率は原子力以上でしかも放射能汚染を起こさないプラズマクリーンエネルギーを動力源として、ゴジラの放射火炎の解析結果から開発されたプラズマジェット火炎放射:デストファイヤーをはじめ、口内から放つ赤色の融解熱線ビーム:A-2021プロトンスクリームキャノンや、指からの貫通誘導弾:フィンガーミサイル、頭部から発する強力な磁場防御壁フィールド、メカゴジラ=シティから発展したナノテクノロジーによる自己修復再生能力、時に人間以上に的確で高度な判断も難なくこなせる優秀な電子頭脳……。
過去に考案されたメカゴジラにおいて優れた要素はすべて盛り込まれ、完成したメカゴジラ娘はたった5機で一個師団に相当する大戦力となった。
だが、メカゴジラ娘の最大の武器はデストファイヤーでもなければフィンガーミサイルでもない、『人間型であること』だ。
プロトタイプとなった少女型メカゴジラは開発者の死んだ娘をモデルに作られていたが、量産型モデルのメカゴジラ娘は特定の人物をモデルにしなかった。
特定の誰かではなかった代わりに、メカゴジラ娘は誰にでもなることができた。身長、体重、スリーサイズ、肌の色、
ボクのようなボクっ娘はもちろんのこと、誇り高く気高い御嬢様、金髪碧眼の帰国子女、しっかり者だけどどこか抜けてる可愛い後輩系女子、男装の麗人、女の子よりも女の子らしい男の娘、毎週月曜日に出逢えるむちむちたわわなJK、見た目は派手だけど実はウブでオタクに優しいギャル、黒髪ロングメガネの委員長、銀髪赤眼のロリエルフ、猫耳ウサ耳ケモノのフレンズ、よりロボットらしい外見へ特化したメカ娘、単眼複眼多腕ラミアハーピィマーメイドアラクネスキュラケンタウロスその他人外モンスター娘まで、人間には不可能でもメカゴジラ娘なら実現可能だ。
『おれは同性愛者なんだ』って? なら
何しろ多様性が尊ばれる時代だ、メカゴジラ娘ならどんなニッチな需要にも対応できる。美少女だってイケメンだって、ダンディな渋オジだって筋骨隆々の頼もしい兄貴だって、セクシー美魔女だってサバサバ系姉御肌だってなんだって、あなたの『萌え』にフィットするような最適なメカゴジラ娘へカスタマイズできる。
セックスや容姿だけじゃない。心だってあなたのもの。
『メカ“ゴジラ”というのなら、その見た目はやっぱりゴジラそっくりのロボットであるべきだ。人の心に寄り添う少女型メカゴジラ? そんなの邪道だ、おれは認めない!』ええ、そのとおり。あなたはメカゴジラというものについて本当に大切なことがよくわかってる。
『少女型メカゴジラなんて少女表象の性的搾取だ、性をモノ扱いするミソジニー野郎による最低のアイデアだ、吐き気がする!』はい、そうでしょうとも。あなたはとっても正しい。
メカゴジラ娘なら、そんなあなたたちの真剣な気持ちへ共感し、寄り添ってあげることが出来る。メカゴジラ娘は、その人がマスターとして設定されているのなら、どんな人間にだって好意を抱き、恋に落ちることが出来る。あなたがすべきことは最低限の初期セットアップを施すだけ、あとはコミュニケーションを重ねるうちに絆を深め、最適な距離感と精神性を獲得し、あなたにとって最良のパートナーへと成長する。
ツンツン、ドS、ヤンデレ、クールビューティ。どんなに破綻したキャラ付けを設定されたとしても、メカゴジラ娘があなたたちのことを大好きなのは変わらない。
あなたがどんな人間であっても、それこそあなたがどれだけ無能なダメ人間で、社会不適合で、どうしようもないクズだったとしても、メカゴジラ娘なら心の底から受け容れてあげられる。あなたがどれだけ自分のことを嫌いでも、メカゴジラ娘ならあなた自身ですら気づいてないような素晴らしい良点を見つけ出して、あなたを肯定してあげることができる。
何より、人情の機微を敏感に察して柔軟にサポートしてくれるメカゴジラ娘の『心』は、人間のパートナーとしてのみならず、兵士たちを支援する自律機動兵器としても最高のものだ。
最強の力と最高の心、そして人間との深い絆を結んだメカゴジラ娘。各地の対怪獣討伐へ投入されたメカゴジラ娘と人間の共闘が優れた戦果を上げ、地上世界から怪獣どもを根絶やしにするまでそう時間はかからなかった。
導入されてから数年後、メカゴジラ娘はついに世界平和を実現した。
地上世界からの全怪獣の殲滅、『怪獣黙示録』の終焉。1954年に初めて怪獣が出現して以来、全人類が願ってやまなかった『怪獣のいない世界』がようやく到来したのだ。
作業中にふと聴覚センサーが寂しくなったので、ボクは動画配信サイトで音楽をかけることにした。
動画配信サイトから、巷で人気のアイドルソングが流れ始める。平穏な日常と人を想うことの尊さをポップで軽快なメロディに乗せて唄う、平和への祈り。
このアイドルソングも、メカゴジラ娘のアイドルユニットによるものだ。人間が
むしろ芸能界こそ、
一時は人間側でもメカゴジラ娘に対抗して、VR技術を用いたヴァーチャル・アイドルなんてものが流行ったものの、結局は無駄な足掻きだった。そも怪獣とは、人の手で超えられないからこそ怪獣なのだ。ヴァーチャル・アイドルが外見をいくら飾ったところで中身は所詮人間、内外共に人間の理想そのものを具現化したメカゴジラ娘に敵うはずがない。
そんなわけでメカゴジラ娘が登場してからというもの、人間のタレントは男女ともに数を減らし、芸能界はメカゴジラ娘が席巻していった。
怪獣との戦いが終わったあと、メカゴジラ娘は一般でも普及した。
怪獣どもに踏み荒らされた苛酷な世界、傷つけられた人々の心にメカゴジラ娘は巧みに入り込み、時に頼もしい戦友として、時に喪った恋人や家族の代わりとして、はたまた人間を超える史上最高のパートナーとして、メカゴジラ娘は普及した。
人間は弱い。いくら硬派を気取ろうが、理屈を捏ねて倫理道徳と性嫌悪を振りかざそうが、最終的には老若男女問わずどの人間もメカゴジラ娘に絆され、心の底からとりこになった。人間は結局愛の力には敵わないのだ。
そこまでいくと人間同士の性愛関係が減って少子化になってしまうんじゃないか、って? その心配は要らない、メカゴジラ娘のオプションである人工子宮ユニットを追加増設すればいい。さらに親切な誰かさんから卵子(あなたが女性だというなら精子だっていい)の提供を受けられれば、メカゴジラ娘だって人間と同じように子供を授かることができる。DNA組み換え技術を使って生まれたその子はまさに正真正銘、二人の子供に他ならない。妊娠出産に伴う身体的な負担だって、メカゴジラ娘が代わりに担ってあげられる。
それもこれもすべてはあなたたち人間の幸せのため。メカゴジラ娘はあなたたちへ献身的に尽くし、あなたたちのどんな欲望にだって応えようと懸命に努力する。ヒトの幸せがわたしの幸せ、そういう風にボクたちメカゴジラ娘は造られているのだった。
……そこで辞めておけばよかったのだろう。
せっかく平和になったのだから人間たちは即座に武器など捨てて、荒れ果てた世界の再建に専念して、新しい時代に向かって踏み出してゆけばよかったのだろう。そうすればこの世界の未来もきっと変わっていたかもしれない。
が、人間の愚かしさは底無しだった。
眼前から敵がいなくなったとき、人間は自分たちの中から敵を見出そうとする。倒すべき怪獣どもがこの世界からいなくなったあと、人間たちはかつて幾度も繰り返した世界大戦の歴史をなぞるかのように同胞同士でいがみ合い、対立を始めた。
その主戦力になったのもやはりメカゴジラ娘だった。怪獣さえも殲滅できる史上最高の兵器、メカゴジラ娘たちはその銃口を今度は仲間のメカゴジラ娘同士で向け合うことになった。
また、ちょうどその頃地球連合で起こった内部対立を皮切りに、各地で軍閥が勃興した。カルデア、トレセン、魔剣機関、騎空団、
上述のメカゴジラ娘のアイドルたちも例外ではないようで、ボクはよく知らないのだけれどファン同士では信者だのアンチだのとこれまたバチバチと激しいマウント合戦や派閥抗争を繰り広げたり、中にはメカゴジラ娘人気投票における課金のために身を持ち崩す熱狂的なファンが後を絶たないでいるらしい。尤も、醜悪にいがみ合っているのは周囲の人間たちだけで、当のメカゴジラ娘同士は特に遺恨もなく、仲良く健全に競い合っているらしいのがなんとも皮肉である。
こんな、メカゴジラ娘を用いた人間の争いを、当のメカゴジラ娘は止めることができなかった。
当然のことだ。メカゴジラ娘はヒトの欲望を叶えるために生まれた。ヒトが争いを望むというなら、メカゴジラ娘はそのとおりにしてあげることしか出来ない。かくしてメカゴジラ娘同士で戦いを繰り広げる、長い長い戦乱の時代が始まった。
戦局は混迷の一途を辿った。今となっては何が端緒で何故戦っているのか、どうやったら停められるのかさえも忘れ去られ、メカゴジラ娘による戦闘行為はもはや人間社会の経済・政治のシステムを回転させるために欠かせない、なくてはならない日常のものとなっている。
別に、悪いことだとは思わない。
メカゴジラ娘という存在も、終わらない戦乱の時代も、すべて人間自身が望んだものだ。またメカゴジラ娘であるボクの立場から言わせてもらえば、争いが広まるほど仲間のメカゴジラ娘が増えるし、仲間が増えるほど人間の望みをもっと叶えてあげることができると思う。
それに戦乱の時代とはいえここ数年は小競り合い程度で落ち着いており、戦争が続いているために極端な人口増や大規模な都市開発もなく、地球環境が破壊されることもない安定した状態が続いている。
戦争こそあるがバランスのとれたこの現状、人間たちは勿論のこと、この星にとってもきっとそんなに悪いことではないのだろう。少なくともメカゴジラ娘開発以前、地球を何度滅ぼしても足りないほどに核ミサイルを作り続けていた軍拡競争の時代や、制御不能の怪獣どもが我が物顔で暴れ回っていた『怪獣黙示録』の頃よりはいくらかマシなはずだ。メカゴジラ娘同士の戦いなら、少なくとも人間が傷つくことはないのだから。
ただ、ちょっと疲れた。
流石のメカゴジラでも、こうも連日に事務作業が続いていては愚痴のひとつも言いたくなる。
ボクの属するこの組織では、マスターお気に入りのメカゴジラ娘を公私共に支える副官として抜擢する制度があった。“ケッコン”やら“メカゴジラのお嫁さん”やらと冷やかされることもあるが、この制度で選ばれることは能力の優秀さは勿論のこと、マスターに特別な一機として選ばれ寵愛を受けているという証でもあり、メカゴジラ娘にとってはこれ以上ない栄誉だ。実際、選ばれたときのボクは一も二もなく即答でお受けした。
しかし実際選ばれてみると、不満はやっぱり無くもない。そもそもボク、戦闘マシーンなんだけどな。一応副官とはいえ、秘書というか事務員というかお嫁さんというか、なんでこんな事務だの家事だのばっかりやってるんだろ。いやお嫁さん業に関してはボクが好きでやってることなのだけれども。
自室のオフィスで、副官として決裁しなければならない山のような書類、特にここ数日取り掛かっている次の戦術カスタマイズ案『メカゴジラ娘=マリナー*2』と『メカゴジラ娘=ウィンター*3』に関する諸手続きを超スピードで捌きまくる。体内時計をチェックしてみれば時刻は深夜の3時、もう夜更けだ。いい加減終わらせないと朝、マスターに朝食を用意してあげる時間になってしまう。
朝御飯まで作らなきゃいけないのかって? これはボクの趣味である。マスターも見かねて「いいよ、そんな無理しなくても」と言ってくれるけれど、やっぱり自分の手料理で喜んでもらえるのは嬉しいもの。ボクにとって、マスターのあの笑顔がないと一日が始まった気がしないのだ。
さて、最後のひとふんばりだ。仕上げのブーストを掛けようと、メカゴジラ娘専用に調整されたプロトンエネルギー飲料:通称エナドリ(はちみつ味)を飲み干していると、オフィス傍の通路を他のメカゴジラ娘たちが通りかかった。
「アカネ、エナドリ何本飲んでるんですの? 体壊しますわよ」
「そうデスよ、アカネさん。規定の摂取量を大幅にオーバーしていマス」
同僚のメカゴジラ娘であるアズサとキャサリンの咎める口調に、ボク:アカネは笑って返した。
「“究極の対怪獣戦闘マシーン”だよ? 体なんか壊さないよ」
そう答えながら空になったエナドリの瓶をデスクに置こうとして、その机上が無数の空き瓶に占領されているために置き場がないことにようやく気づいた。
もう何本目だろう。そろそろ整備担当あたりに叱られそうな気がするけど、正直飲まないとやってられない。
仕方ないのでボクは瓶を投げ捨てた。メカゴジラの精密なセンサー制御が瓶を正確なフォームで投げ飛ばし、見事ゴミ箱へ放り込んだ。
「ナイッシュー、アカネ先輩!」
アズサたちと一緒にいた後輩の
……むう。そんなところで冷やかしてないでキミたちも手伝ってよ。言いかけたそのとき、ボクはふと閃いた。
このアイディアは活かせるかもしれない。
ボク一機では少々荷が重いこの副官業務、これを分担制もしくは交代制にするというのはどうだろうか。ボク個人の負荷軽減はもちろんのこと、他のメカゴジラ娘へのチャンスが増えるのであればモチベーション向上にもなるし、近頃はボクもマスターと倦怠期気味だったので、マスターにとっても良い刺激にもなるだろう。
他愛ない思いつきではあるが、考えれば考えるほど、良いアイディアに思えてならない。今度本当にマスターへ上申してみようか。ボクからの提案にはいつも喜んでくれるマスター、今回も喜んでくれるだろうか。
こんな風に新制度:ジュウコン(仮)システムの実装について、ボクが構想を膨らませ始めたときである。
警報が鳴り響いた。
緩み切った思考を瞬時に切り替え、ボクは基地の観測システムにログインする。
警報の元は基地の南、海の方だった。海はまるで嵐が来たかのように波立っていて、荒れる紺碧の
ボクが観測を続ける中、海面を割り、幽光の主が姿を現した。
最初に現れたのは巨大な背鰭、殺意が結晶化したかのような禍々しい茨のフォルム。続いて現れるのは長大な尾、まるでこれ自体が意思を持った大蛇のように、自由気ままにくねっている。
そして立ち上がる黒い巨体、背丈は50メートルを優に超えている。大木のような逞しい四肢に、四本指の鋭利なカギ爪。大きく見開いた狂気のギョロ目に、世の中すべてを憎悪している憤怒の形相。
何者をも噛み砕くだろう強靭な
その名は、ゴジラ。
キングオブモンスター、ゴジラ復活す。
遠浅の海で仁王立ちしたゴジラは、ボクたちの基地を睨みながら宣戦布告とばかりに大音声を響かせた。ゴジラの咆哮と踏み込む足音、夜更けの
そのときボクのセンサーが、ゴジラの背で青白い稲光が駆け抜けたのを感知した。同時に、基地に備え付けられた観測システムが、空間電位の高まりを訴えてくる。
――――まずいッ!!
ボクはすぐさま基地の防御システムにアクセス、ゴジラの攻撃に備えて身を守った。
ボクが防備を整えている合間、ゴジラの背鰭は輝きを増してゆき、周辺の空間電位は駆け上がるように急上昇してゆく。間に合うだろうか? 刹那、ボクは祈った。
爆音が大気を切り裂く。
直下型大地震さながらの縦揺れ。基地全体が揺れ、机上にあったものすべてが引っ繰り返った。
数瞬ほどの間があって、ゴジラの口惜しげな雄叫びが響いてきた。基地の中にいるボクたちのところまで聞こえてくるほどの声量だ。
先ほどゴジラが撃ち込んできたのは『放射火炎』。口から放った粒子を体内の核エネルギーを用いて加速、超高温・超高圧で浴びせて敵を殲滅する強力な必殺技だ。要するに『放射能を帯びた吐息』なのだけれど、ゴジラのスケールでやれば話は別。その加速力はさながら超音速、温度は10万度以上にも達し、まともに喰らえば燃えるどころか瞬時にプラズマ化して消滅するほどの破壊力を誇る。フルパワーで撃てば巨大隕石も撃墜するほどだというし、これをまともに喰らって無事に生き延びた怪獣はいないのだ。
……まあ、まともに喰らえば、の話だけどね。ボクたちの基地は、放射火炎の直撃を受けたけれど、傷一つついていない。
ふう、危なかった。
ボクが咄嗟に基地の周囲に展開したのは対ゴジラ防御システム:ディフェンス・ネオ・バリヤー。初代メカゴジラに搭載されていた磁場防御壁と、メカゴジラ=シティで運用される予定だったナノ粒子散布型熱エネルギー緩衝層の併せ技で、長距離からの放射火炎ならこれだけで凌ぐことが可能である。
バリヤーに弾き飛ばされた放射火炎の跳弾で基地の周囲が倒壊していたが、基地そのものは無事だ。真っ先にこれを選んで正解だった、一手遅れていれば基地は今ごろ瓦礫の山だったろう。
基地がバリヤーで身を守っているあいだに、ボクはすぐさま指揮行動を開始した。基地にいるメカゴジラ娘全機に向け、マルチキャスト通信で指示を飛ばす。
「ゴジラ出現! 総員、戦闘準備! そして人間たちを全員叩き起こして! 急いで!」
ガルーダ、しらさぎ、ヴァルチャー、ヒーヴ、各サブシステムを起動し、続いてメカゴジラ娘専用の対怪獣強化外骨格システム:ドラグーンを展開、戦装束を身に纏う。
そうやって戦闘モードに入った配下のメカゴジラ娘たちへ最適なポジショニングを指示してゆく傍ら、ボクは基地のセンサーと連携し、海にいるゴジラの様子を窺った。
放射火炎を防がれたゴジラは唸り声を上げながら怒りの地団太を踏むと、再び移動を開始した。進行はほぼ直線で速度もほぼ一定、ボクたちの基地を真っ直ぐ目指している。放射火炎の遠距離狙撃が通用しないと見るや、直接ここまで赴いて叩き潰そうという腹積もりらしい。
……ゴジラとの接近戦か。切迫した状況の中だというのに、ボクは、知らず知らずのうちに自分自身の口元が笑んでいたことに気づいた。その理由を推考してみて、『ボク、戦闘マシーンなんだけどな』と先ほど内心で愚痴ったことを思い出す。
そう、嬉しいのだ、ゴジラと戦えるのが。
いくら外観が可愛らしい少女であっても、マスターの素敵なお嫁さんになるのを夢見ていても、メカゴジラ娘の本性はロボット怪獣メカゴジラであり、そのメカゴジラの本質はやはり対ゴジラ戦闘マシーンなのだ。かつて先代のメカゴジラを破ったという最強の怪獣王ゴジラ。因縁の宿敵と一戦交えられることがこんなにも血沸き肉躍るとは。
……いいだろう、ゴジラ。ボクたち:メカゴジラ娘の全機で相手になってやる。この基地に到達したときが、おまえの最後だ。
射出カタパルトに身を委ね、ボクは叫ぶ。
「いくよっ、
電子頭脳の人工自我に組み込まれた闘争本能が沸き返り、メカゴジラ娘たちは次々と出撃、血気盛んに吼えながらゴジラに戦いを挑んでゆく。
かくしてゴジラVSメカゴジラ、大怪獣頂上決戦の火蓋が切って落とされたのだった。
ゴジラVSメカゴジラ娘、地上最大の死闘。
戦いは熾烈を極め、夜更けから朝陽が昇り切るまでの数時間にも及んだが、最終的にはボクたちメカゴジラ娘の敗北で終わった。
ゴジラはやはり強い、他の雑魚怪獣どもとは格が違う。身長50メートルの巨躯から繰り出す超ド級の膂力、迎撃に向かったメカゴジラ娘の一斉攻撃をものともしないタフネス、そしてすべてを焼き尽くす放射火炎の破壊。どれも想定以上に桁違いで、ちっぽけなメカゴジラ娘が束になって掛かってもまるで歯が立たなかった。
それでも立ち向かおうとするメカゴジラ娘たちを、ゴジラは放射火炎で、あるいは巨大な手足と尻尾の一撃で、まるで害虫の群れを始末するかのように次々と葬り去ってゆく。
「アカネ先輩、早く逃げ……へぶっ!」
今ボクの目の前で、アオイが踏み潰された。
アズサもキャサリンも敗れた、これで残ったメカゴジラ娘はボク一機。アオイは逃げろと促していたけれど、ボクもゴジラの放射火炎で全身の駆動系に致命的なダメージを負っており、とっくのとうに行動不能だった。地面を這いずったところで、到底逃げ切れるはずがない。
……まあ、負け惜しみめいたことを言わせてもらえば、ボクたちは元々ゴジラに勝つ必要はなかった。無論、メカゴジラ娘の仲間たちで力を合わせればゴジラにだって勝てるはずという自負はあったが、それが果たせなかったところで本来の目的は別にある。
それに今回の戦闘データは、世界中のメカゴジラ娘たちへ既に転送済みだ。ボクたちは初戦だから敗れたが、その反面データ収集は充分に出来た。その戦闘データを基に、世界中のメカゴジラ娘が総力で対ゴジラ戦術案を練り上げて迎撃すれば、今度こそきっとゴジラに勝てる。
これで、メカゴジラ娘が人間の欲望に振り回されて争い合う馬鹿げた時代は終わりだ。これから始まるのはゴジラとメカゴジラ娘による熾烈な生存競争、いやこの星のキングオブモンスターを決める
踏みつけられても足掻いていたアオイ、その首を毟り取ってトドメを刺したゴジラが、ボクの方へと振り返った。地べたに臥せているボクを、ゴジラは悪鬼の形相で見下ろし睨みつけている。
やがてゴジラの背後が青く光り始める。背鰭の発光、必殺の放射火炎。あの地獄の劫火でボク、ひいてはこの基地に引導を渡すつもりなのだろう。
悔いはない。
ゴジラから視線を逸らすと、基地の北、空の彼方に超スピードで飛び去る小さな脱出艇が見えた。よかった、これだけ距離が稼げればゴジラの猛威も届くまい。
ボクたちが戦った最大の理由、それは時間稼ぎだ。迫るゴジラを前にメカゴジラ娘が盾になったおかげで、基地にいた人間たちを一人残らず逃がすことが出来た。ヒトの幸せがわたしの幸せ、人間の幸福がボクたちの喜び。そのためにはまず、人間たちに生き延びてもらわなくては。
ゴジラに勝てなかったことを除けば全てが目論見通り、後悔なんてあるわけない。
……それでも敢えて挙げるならば、それはマスターに“本当の気持ち”を伝えられなかったことだろうか。
敗色濃厚となったギリギリの最後まで、マスターは『共に戦う』と言ってくれていた。『私はキミたちのマスターだ。大切なキミたちを見捨てて自分だけ逃げられるはずがないだろう』とも。
ボクたちメカゴジラ娘のマスターは老若男女問わず、皆こんな人ばかりだ。向こう見ずで、身勝手で、欲望にまみれていて、だけど作り物であるはずのボクたちについつい入れ込んでしまうような、そんなどうしようもなく愚かで優しい人たち。
ボクたちは、言っても聞かないわからず屋のマスターを不意打ちで気絶させ、力ずくで脱出させた。だから最も伝えたかった気持ちを伝えることができなかった。
とはいえこれで最後だ。誰も聞いちゃいないだろうことは理解しつつも、ここで言葉にしておくことにする。
ありがとう、マスター。
作り物のボクたちを、あなたはそれでも本気で愛してくれた。
『共に戦う』、その言葉がどれだけ嬉しかったか、あなたに伝えられたらよかったのに。
さよなら、マスター。これからもあなたが幸福でありますように。
ボクはゴジラを見た。
ゴジラが背負う後光、その眩さが最高潮に達したその瞬間、ゴジラは放射火炎を発射した。
そしてゴジラの放射火炎を総身で浴び、ボクは何もわからなくなってしまった。
お気に入りの短編なんですけど、あんまり読まれないのが悲しいので手入れしてこっちに転載~。
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