雨の邂逅   作:山背としや

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三滴目:夢路晴彦

 

 ――昨日。

角までは、少しずつ距離を縮めていたはずだ。角を曲がった所で追い付けたはずだ。

 

少なくとも、姿が見えなくなるまでいきなり距離が離れるなんて事は有り得ない。

 

 

「ちくしょう……! アイツ。バカにしやがって!」

 

ただの喧嘩に飽き飽きしていた日常から、ちょっとだけ楽しそうな玩具を見つけられたと思ったら……、

その玩具はオレから逃げていく。それも、捕まえられない速さで。

 

東雲嵐は、オレを「サイキッカー」と呼んだ。

「サイキッカー」……。オレみたいな奴の事か? 

 

 恐らく、東雲嵐は「サイキッカー」だ。瞬間移動みたいな能力がある。かなり厄介な能力だ。

 

「ああいうのと、ケンカした事ないなァ」

 

 満たされないものを、何かにぶつける事が、当然の様になっていた。

ただし、自分の周りで自分と同じ能力を持つ人間に出会う事が無かった。

能力者同士で、思いっきりケンカしたら何時もよりもスカッとしそうだ。……アイツ、弱そうだけど。

 

 

週末を迎える前に、随分と東雲嵐がどういう人物なのかが分かってきた。

学校で優等生にも関わらず、どこか浮いている存在なのは、[ヤバいやつらに目をつけられてて、何時もボコられている]とか、[学校中のワルを、裏で操ってて悪いことをしている]など、信憑性が無いにも程があるウワサばかりが立ち、避けられた結果の様だった。

 

学校中のワルを束ねているのなら、オレがあいつを知らない訳無い。ヤバいやつらに目をつけられてるかは知らないが。

 

能力についても、ネットで色々と調べてみた。

これまで、自分の持つ力について調べた事が無かったが、どうやら世には密かに超能力と呼ばれる力を持っている人間が一定数はいるらしい。

その総称を「サイキッカー」と呼ぶ事が分かった。

 

力にも種類があるようで、色々とゴチャゴチャと書かれていたが、取り敢えず自分の力がバーストと呼ばれる種類に属して、東雲嵐がどんなに追いかけても追いつけないのは、相手がライズという力を持って、一時的に身体能力を上げて、追手から逃れているからだろうということを理解した。

 

力の使い方が分かった所で、自分にライズが使えるか甚だ疑問だが、コレを使えば東雲嵐を追従するのは難しくはなさそうだ。

 

周りに誰も居ないことを確認する。

イメージの中で、自分は短距離走で世界新記録をだした選手の足の運びと、自分を重ねる。

風になった様なイメージ。

 

足に力を込めて、一歩を出したところで数十メートル先の街灯に体から突っ込む形で動きが止まった。

 

自分が思っているよりも遥かに先に体が進んでしまった。

 

「いってぇぇぇ! ……ッチックショー!」

 

ライズ自体は使えているらしい。それは分かった。

 

今度は、具体的に到達点を決める。

ここから、向こうの花壇の手前までを移動……。

 

イメージはそのまま、到達点を目指す事に集中した。今度は成功する。

……オレって、ライズの才能があるんじゃねぇ? 

 

次は……。

 

「トランス……。……ふーん」

 

 要は、テレパシーって奴か。コレは中々難しそうだ。

ライズは具体的にどうするかをイメージしやすく、どうやって力を発揮すればいいか分かり易かったが、トランスというのは精神的な部分に働きかけるので、これといって目的も無く他者へ向けて発信すると言うのが、まず前提から逸脱していると言うことと、目の前の誰かに発信するのならまだしも、誰もいない所ではどうやって力を発揮すればいいのかイメージしづらい。

 

とりあえず……。

 

『オイ! 東雲ラン! 聞こえたなら、返事しろ!』

 

ただ、頭で念じて見るだけだが、出来ているのだろうか? 

 

『おーーい! し・の・の・め、らーーーん! どうした? オレ様が怖いのか?』

 

拡声器を使って遠くに向かって叫ぶイメージで念じてみる。しばらく、東雲嵐をなじってみたり、悪口を並べ立ててみたり、終ぞ言葉が無くなったら、最近気に入った曲のフレーズを思い浮かべてみた。

 

「んーー……。出来てる感じがしないな……」

 

応答が無い為、出来ているかどうかさえ分からない。諦めて、次のバーストを使おうと思った所で、驚くべき事が起こった。

 

目の前に、例のハコが現れたのだ。

 

「……あれって……!」

 

次の瞬間、不機嫌そうな出で立ちの東雲嵐がハコの中に瞬時に現れる。

 

(……なんて下手クソなトランスだ。殆ど聞き取れやしないが、俺を罵っていたのだけは分かった)

 

まるでイヤホンで音楽でも聞いてるかのように直接声が聞こえてくる感じ。コレがトランスって奴か。

 

「あんだけ無茶苦茶言ってれば、お前から来てくれるかもな〜って思ってたんだ。……それに、いいタイミングだな」

 

「……? いいタイミング?」

 

残す所のバーストというのは、自分の力。[電磁'n(ショッカー)]はバーストの力で発動している。これまでは直感的に使っていたり、思いがけずに発動してしまったりしていたものだったが、その原理がわかった今、[|電磁'n(ショッカー)《ショッカー》]をコントロールする事も難しくないかもしれない。

 

「ちょっと、練習台になってくれねぇかよ?」

 

バチンと発火音をさせ電磁'n(ショッカー)が発動する。

その勢いのまま、東雲嵐に向かって電流が走った。普段は思ったように電流は向かないので、それなりにコントロールが出来ているようだ。

 

「いきなり、何をするっ! ……俺はお前とやりあう気なんて……!」

 

電磁'n(ショッカー)の電撃をハコの中に閉じ込め、攻撃を防がれた。

 

「だーかーらー。練習だって。ちょっとケンカの相手してくれればイイんだよ」

 

ドンドン電磁'n(ショッカー)を使い、電撃を相手に発するが、その全てをハコで防いだり、ライズで避けたりと、一向に向こうから攻撃を仕掛ける素振りは無い。

 

「てめぇもなんか使ってこいよ! 実践練習にならねぇだろぉ?」

 

「……だから、俺はケンカをしに来た訳じゃない……」

 

呆れが混じった声色でそれだけ言うと、それまで点々と出現させていたハコを手元に出したまま、電磁'n(ショッカー)を止め続けた。箱の中に電流が渦巻いている。

 

突如、ハコをオレに向けそのまま前へ数歩前進する。

 

あのハコに入れられたらマズい。

 

咄嗟に、後ろへ引いた所に違和感を感じた。感じた時には、遅かった。

自分の真後ろには、別のハコが出現していたのだ。オレが引くことを予想して、背後に気付かれない内にハコを出していやがった。

 

予想通り、ハコの内部からはどんなに叩こうが、衝撃は全く通用していないようだ。

 

「おい、こっから出せよ!」

「それは、お前の返答による」

「あン?」

「俺のPSIは、空間操作系PSI[トリックルーム]。お前が今いるボックスと俺の手元にあるボックスの中身を自由に行き来させることが出来る。

お前の出したこのバーストの中に、お前をぶち込んでやっても良いんだぞ? 

嫌なら、俺の話を聞け」

 

弱そうな面してんのに、案外と容赦ねぇ事してくれてんな。

ショック死もしくは、焼死はしたくはないので、大人しく東雲嵐に従うことにしよう。

 

「……。よし。分かればいいんだ」

「てめぇ、殺す気かよ?」

「何も分からないフリしたサイキッカー狩りなんて事だったら、俺が危ないんでね」

「はぁ? サイキッカー狩り?」

「やっぱり、お前は先天的なサイキッカーか」

 

先天的? 能力は生まれついて持つ物じゃないって事か? それも初耳だが、サイキッカー狩りってのは何だ? 

相当マヌケな顔をしていたのか、相手は大きくため息をつき、ゆっくりと語りだした。

 

自分は、久しぶりに他人との関わりに興奮していた。

東雲嵐は、少なくともオレを異端者としては扱わなかった。同じ能力者として対等に相手をしようとしている事に、どこか嬉しさを感じる。

 

居場所を見つけた気がした。

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