雨の邂逅   作:山背としや

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[七滴目:夢路晴彦]

 

目の前でぶっ倒れた嵐を見て、全然役立たずな自分に怒りが立ち込めた。

 

敵が、何をしてきていたかも分からない、どう立ち回ればいいかも分からず、ただ嵐に転々と運ばれただけだった。

 

 

力不足だ。

 

 

ちょっとケンカが強いから、他と違う能力があるからと、敵を見くびっていた。奥歯がギリギリと音を立てる。

 

 

遠くの方から、サイレンがゆっくりと近付いてきて、救急車両が通りに停車した。

 

救急隊員と武智が短いやり取りを行っている間に、別の隊員が手際よく担架に嵐を移乗させる。

救急車にはチカちゃんが同乗し、オレと武智がその場に残された。

 

「着いていかなくて良かったのか?」

「…………オレが行ったって、何にもなんねーだろォよ。」

「お前にゃ移動する力は無いのか?」

「人それぞれ出来ることは、違ぇんだよ。

…………オッサン、命拾いしたな。」

「…………そうか。さて、これからどうするか…………。一般市民を巻き込むのは良くねぇ、な。

別の方法を探って見るか…………。」

「あんまり嗅ぎ回らねぇ方がいいって忠告、聞いてねぇのかよ?」

「馬鹿言うな。警察が犯人から放っとけと言われて放るかよ。能力者に接触出来ればあや良くば。

…………と思ってお前たちに近付いたが、危険に晒しちまったら、警察の面目が立たねぇ。地道に調べていくさ。」

「…………。懲りねーオッサンだな。」

 

武智もその場を去り、一人取り残された。

 

 

「どうも。」

「!!!!?」

 

突然、真後ろから声をかけられた事と、相手の顔が数センチという位置にまで近付いていたにも関わらず、全く気配に気付かなかった事に大きく動揺する。

 

「あぁ。怪しまないでください。悪いようにはしませんから……。

武智刑事のお知り合いと言う事は、社会の裏側の人間なのでしょう?あの人はそういう人から情報を得て手柄を立てているんですから。

……もっとも、俺もあの人の手札の一枚ですがね。」

 

聞いてもいないのにべらべらとよく回る口先だな。薄暗い露路からひっそり出てきた顔面包帯野郎が怪しくない訳が無い。

ジロジロ相手の様子を観察していると、その男はニタリと気味の悪い笑いを顔に浮かべて、更にベラベラと話しだした。

 

「そうそう、貴方の能力はだいぶ凡庸性が高そうだけれども……。残念ながら、使いこなせていないようだ。

……東雲くんも。

前にちょっかいかけた事があってね……。ただ……あの時と変わらない。相手から逃げるだけで、上手く能力を生かせていないんじゃ……この先、生き残るには難しいね。」

「……アンタ……。何者だ?」

「俺は、犬居清忠。サイキッカーだよ。その辺のゴロツキ相手に商売している。

……君。随分と今日は悔しい思いをしたんじゃない?何も出来なくて、ただただお荷物のように運ばれてさ……。能力があっても、それを発揮出来ないんじゃ意味が無いもんね。」

 

見ず知らずの相手に見透かされ、怒りと焦りが綯い交ぜになった感情が噴出する。

 

「……テメェッ!分かったような口聞いてんじゃねぇぞ!」

「事実でしょう?多少の力を持っている人間が見れば直ぐに分かりますよ。

でも……。

君はラッキーだ。俺という能力者に出会えたんだから。俺がサイキッカーとしての生き方ってのを教えてあげるよ。」

「生き方だァ?……そんなモン教えてもらう筋合いねぇよ!……さっきは遅れを取っちまったが、ケンカの相手が目に見えてる状況で、包帯ヤローなんかに負けるかよ!」

「……フン。君が簡単に意に削ぐ人間とは考えてないよ。

……さぁ。"アングリー・ゴーリー"……。サイキッカーとして俺が君よりも優れている事を証明してちゃんと、身を弁えてもらうからな。」

 

相手の影から、黒い人型の巨大な何かが現れる。

これが包帯ヤローの能力だろう。その物体はゆっくりと方向を向き直し、オレを見据えるように構えた。

黒の巨人が大きく腕を振りかざしたと同時に思い切り右前方へ踏み込み、包帯ヤローに接近する。

自分の胴で隠した右手には、小さく電流が発火音を鳴らしていた。

そのまま巨人の剛腕は空を切り埃を巻き上げる。空振ったことを確認してから、オレは包帯ヤローに電磁'n(ショッカー)を放つ。

 

包帯ヤローに直撃した筈だった。

眼前に居たのは、あの巨人だった。

 

 

「どういう事だ!?」

 

一瞬にして巨人は包帯ヤローの前に立ち、盾になっている。

更に奇妙な事は、攻撃を受けたのは巨人のはずだが、包帯ヤローが苦悶の表情を浮かべ低く呻く。

 

「バーストによる自然発電か。……これはかなり応用の効く能力だねェ……!

更に力を発揮するには、これから、君がどう使うかだ……。良いねェ……。本当に……益々欲しくなるよ……!」

 

ニタリと口元だけが笑う。歪んだ表情に、これまで感じたことが無い恐怖を覚える。

 

「気色悪ィ事言ってんじゃね──ッ!

まだまだ、オレの電磁'n(ショッカー)はこんなモンじゃねぇぞ?」

 

手元に集中する。

暴走を起こすかもしれないが、電磁'n(ショッカー)の出力を極限まで高める。青白い閃光が自分を中心に半径3メートル四方に閃いている。

 

「コレが最大出力ッ!! 全力で味わいなァァァッ!! 」

「かかって来なよ!”アングリー・ゴーリー”。……受け止めろ!」

 

最大出力の電磁'n(ショッカー)を、巨人は両手を広げ迎え撃つように受け止めた。巨人の全身に電気が走る。

包帯ヤローにもダメージがあるか確認するが……。

さっきとは変わって攻撃を受けた形跡が無い。

 

「君の能力がバーストで起こした電撃だと分かれば、対処の仕方もある。”痛みは教訓”……。痛みは人間を成長させる手段だ。

……さぁ。次は俺の番だな。」

 

 

言い終わらない程で相手の姿が視界から消える。

振り返るとライズで既に背後に移動していた。次に受けるだろう攻撃に備えて、体の前方で受身をとるが、衝撃を受けたのは背後に控えていた巨人からの剛腕だった。

 

前方に体がよろめく。うずくまりかけた所に、包帯ヤローが体を滑り込ませ、顎に重い拳が下方向から真直線に振り上げられた。

宙に浮く感覚は一瞬だった。

 

直ぐに体制を立て直し、オレは本能のまま巨人の後ろにライズで回り込んでいた。

首に腕を回し渾身の力で締め上げる。

包帯ヤローが喉元を掻きむしりながら、酸素を求め喘いだ。

巨人がすぐ様大きく体をひねり、その動力によってオレの体は首元から引き離される。

 

もう一打撃を加えようと、体制を整えるよりも先に巨人の腕が眼前に迫って来ていた。受身をとって、相手の打撃を正面で受け止める。反動で後ろに仰け反ってしまった所を包帯ヤローは見逃さず、一蹴した。

 

──まるで歯が立たない。

普通のケンカなら、負ける事なんて有り得ないのに。

 

「……さて。馬鹿でも、これぐらい歴然と経験の差を目の当たりにしたら俺の言ったことは理解できるはずだ。

君は、能力を持ってしても今のままでは俺に太刀打ちさえ出来ない。……俺が強い訳じゃない。君が弱いんだ。

どうする? 選べよ。 この先もまともに能力を使えず、卑怯な大人の餌食になるか。能力の使い方を覚えて、有効に使い賢く生きるか……。選択は君次第だ。」

 

 

──力の使い方……。

これまでずっと予期せぬ暴走を続けてきたこの能力を、自分の意思で使いこなす事が出来るなら。

思い通りに使えるようになれば、周りからの視線も変わるんじゃないのか?

オレにも、まともに生きる道が出来るんじゃないか?

何より、今日のようにお荷物になるのだけは、もう勘弁だ。

 

オレは強くなりたい。

こいつはオレにそれを教えてくれるかもしれない。

少なからず、暴走させない程のコントロールを身につけるには話ぐらい聞いてもいいだろう。

 

 

「……オレも、力をコントロール出来るのかよ?」

「もちろん。要領さえ分かってしまえば誰にだって……。」

 

 

暗い露地裏に向かって歩く包帯ヤローの後ろに着いてそのまま暗がりに向かって歩いていった。

ビルとビルの狭間を縫う様に歩いて行き、方向感覚もおかしくなってきた頃。

 

古臭い一つのビルの前で 犬居清忠は立ち止まった。

ビルには扉の左右に提灯が掛けられていて、一字ずつ文字が書かれている。左側は「痛」右は「狂」と提灯の正面に手書きで書かれている。

 

──あまりセンスが良いと思えない選択だ。

 

「ここは、俺が出会った能力者を集めて、能力の安定した発動を行えるように養成している。好きに来て、好きに能力を磨けばいい。」

「……ちょっと待てよ。そんなにサイキッカーってのは居るのか?」

「ああ。裏側には居るんだよ。ふつふつと煮えた負の感情を抱えて、己の渇きを癒そうともがいている奴らが。」

 

ビルの中に入ると、立ち込める埃とカビの匂い、湿気による淀んだ空気が更に薄気味の悪い印象を培養させている。

 

風除室を抜け直ぐにエレベーターホールがあり、ボタン部分はくり抜かれていてエレベーターは使えないようになっていた。すぐ横にある階段から犬居は地下に続く下り階段を降りていく。

後を続くように降りていくと、更に強いカビ臭さに肺がひりつく。

 

犬居は階下の右側へ通路を曲がっていく。その後ろを続いて行くと、かなり広い空間が目の前に広がった。地下だと言うのにやけに明るいし、天井も高く、開放感がある。

明るさは蛍光灯の数によるもので、天井の高さは上階がすっかり抜けている事に寄るからだ。

 

 

「自由に来て、自由に力を試して貰って構わない。ここは孤立した無法地帯だ。」

「……さっきから、一人でどうしろってんだ……。」

 

 

──言い終わるか終わらないか……。

突然の熱波と風圧に身体が圧される。

 

「オモチャ?これが新しいオモチャ?」

「止しな。ヒナ。」

「……なんだぁ?コイツ……。」

 

未就学児か、小学1〜2年程の幼さが残る少女と、少女に寄り添うようにオレとあまり変わらないぐらいの女が連れ立って温風の渦から現れた。

 

 

「なぁーんだぁ。ヒヨっ子かぁ。……それに、ヒナよりもずーっと弱そう!」

「ヒナ。見かけで判断しちゃ駄目だよ。持ってる力は強い……。」

「あぁ。ヒナにナオ……。丁度いい。君達ならPSI(サイ)のコントロールのいろはをよく知ってるだろ?こいつに叩き込んでやってくれ」

「犬居……。また狂犬みたいなのを連れて来て……。ヒナが危ない事はさせない。PSI(サイ)のコントロールならアタシが引き受ける……。」

「え──ーっ!ナオだけ遊ぶなんてズルい!ヒナだって遊ぶ!」

「ヒナ。こいつは力の制御が出来ない狂犬だ。ヒナが相手をする事は無い。」

「…………。じゃあ、制御出来れば遊んでいいんでしょ?」

「ヒナ……。そんなに遊びたい?」

「うん!……だって、ヒナは新しいオモチャ大好きだもん!」

「……分かった。でも、遊ぶ時は私も一緒。」

「……じゃあ、ヒヨコちゃん!ちゃんとコントロール出来るようになってよね!」

 

 

軽やかなステップを踏み、部屋の隅へヒナと呼ばれたガキが移動した。

部屋の中央には犬居、ナオ、オレが一定の距離感で立っている。

 

 

「じゃあ、夢路晴彦。ここの存在は誰にも教えたりするなよ?俺はもう戻るが、後は適当にしてくれ。

さっきも言ったが、ここは自由に使ってくれて構わない。この場所の秘密さえ保持出来ればな……。」

 

 

犬居は、元来た階段の方へ向かい、そのまま地上階へ向けて立ち去って行った。

 

「……。お前、PSI(サイ)はいつ開花したんだ?」

「生まれてすぐだよ。これまで能力も種類があるなんてのもよく分かってなかった。最近、そういうのに詳しいヤツと親しくなったから、PSI(サイ)にも種類があるって事ぐらいは分かるぜ。おめェはどんな能力を使うんだよ?」

「生まれたてで開花した奴が自分の能力をコントロール出来ないのはよっぽど力が強いか、阿呆なだけだ。お前は見た所自分の力に飲まれる程力は強くない。コントロール出来て然るべきものを何故コントロール出来ない?」

 

 

嫌な目付きだ。

人を見下す嫌な……。

 

ナオは溜め息を一つその場に置くようについた。

 

 

「感情の揺れ……。それは能力者にとって、一番見せてはいけない。感情の起伏は、能力の制限に関わる。お前のPSI(サイ)コントロールが不十分なのはそのせいだ。」

「ンなモン分かってるよ!……ッチ。分かりきってるわ……。

もっと、テクニックとかそんなもんを教えてくれるんかと思ったよ。」

「……分かっているなら、制御出来るように組み込めばいい。感情と別の部分で制御する。自分の能力のプロセスを反芻してみろ。」

「プロセスヲハンスウ?」

「…………。お前はバカなのか?」

「テメェ、女だからってチョーシ乗ってんじゃァねぇゾ?

……やっぱ、最初から気に入らねぇと思ったが、大アタリだ。テメェに教わるのはナシだ。

オレ様は、オレ様でぜってェにコントロール出来るようになってやる!そん時にボコす。」

 

 

制するナオを振りほどいて地上階に出た。

 

外へ出て大通りの方角へ出る。

この辺りは、丁度遊び歩いている土地で道に困らない。

 

色々あったせいで、天候の事をすっかり忘れていたが、いつの間にかすっかり晴れて、空には雲の切れ間から星がチラチラと見えた。

 

眠らない街を抜けて、暗い住宅街に向かって足早に歩いた。

 

 

 

錠の確認もせずに、ノブを押し開く。

 

──施錠はしていない。

玄関を上がり、目の前の階段に足をかける。部屋に直行するつもりだった。

 

 

「……。遅かったのね……。」

 

母親が、遠慮がちに視線を合わせながら抑揚のない声で聞く。

 

「あぁ……?……どうでもいいだろ?」

「……またケンカ?」

「……どうでもいいって言ってンだろ!?ほっとけよ!」

「……今度は何処の子?……大ケガさせてないでしょうね?」

「……ほっとけってんだ!」

 

踵を返し、家を出た。後ろから怒鳴る声が聞こえる。聞かぬフリして一心不乱に走った。

近所に住む悪い友人の部屋を訪れ、一晩停めてもらい、街に繰り出した。

 

行き先は、ランが運ばれた病院。

あの後、一体どうしてるかと、珍しく中々寝付けなかった。

近くのコンビニで遅い朝食となった。

サンドイッチを牛乳で流し込んでいく。

 

開院と同時に来院した。

受付で確認しようと足早に近づくと、後ろからトレーナーの裾を掴まれ上体が後退する。

振り向くと、そこに居たのは昨日の騒動で出会ったランの妹、チカちゃんの姿だった。

 

「あなた、昨日……。ラン兄さんと一緒だったでしょう?」

「えっと、君は……。チカ……ちゃんだったよね?

オレは、夢路ハルヒコ。……ランは……。具合、どうなんだ?」

 

 

ランの妹の東雲チカは、控え目に言っても可愛い。

大きな瞳は色素が薄く、黒目がちで垂れ目な目元が可愛さを際立たせる。

顔は小さく卵形。

綺麗に弓形に整った眉。

小さい唇。

背丈はオレの頭一つ分下位の所を見ると150後半ぐらいで、程よい体型。

──全く似てない兄妹だ。

 

「一晩休んだから大丈夫だって、お医者さんとケンカ中。たぶん帰ることになると思うから、少し待っててもらえます?」

「じゃあ、大した事ねェのか……。」

「……。お医者さんじゃ、どうしようも無いって事。」

「……それって悪いって事か?」

 

看護師がチカちゃんを呼び、少し離れた所で短く何かやり取りする。

 

「兄さん、帰ることになるそうだから手続きしてきます。」

 

言い残して、看護師と連れ立って院内の奥へ向かっていった。天井から吊るされた案内板に目を走らせると、「退院患者会計受付」と張り出された一角へ入っていく。

とりあえず、出入り口に近いベンチボックスへ腰を落ち着かせた。出てくるのを待つしかないだろう。

 

しばらくすると、見慣れた長身が院内奥から姿が見えた。左手に紙袋を下げている。「退院患者会計受付」へ入っていったかと思ったら、間髪入れずにそのままロビーへ引き返してきた。

直ぐにオレの隣に腰を下ろし、同時に短くため息が漏れる。

 

「あの金は、チカの学費に充てようと思ってたのにな……。」

 

視線が遠くを指している様で、それを追うように同じ方を見ると、会計で茶色の定形封筒から会計を済ませるチカちゃんの姿があった。

 

──あの封筒の中身のことを言っているんだと察した。

 

「お前、学校終わったら即居なくなるけど、普段何してんの?」

「バイトだよ。」

「……コンビニ店員?」

「俺が?……笑える。」

「笑えねぇ。メチャクチャ感じ悪そう。」

「酒屋のレジ打ちとか品出し。本屋の棚卸し、後は新聞配達。」

「ふーん。本屋とかは想像できるわ。」

 

普通の会話が続いた事に驚きつつ、かなり掛け持ちでバイトしている様子にも驚きが隠せなかった。

 

「つーか。そんなにカネが欲しいのかよ?」

「……。高校卒業したら、奴から離れて生活しようと思ってたんだ。チカと一緒に家を出ようって。そう考えてた。

まぁ、金は無いに越した事は無いね。色々あったが、だいぶ手続きも済んだし、あの家を担保に住める部屋を見つけて移れば、少しはマシになるだろ。」

「ふーん。」

 

──高校を卒業したら……、か。

改めて考えてみると、自分はこれと言ってやりたい事も進みたい進路も無い。

兎に角『今』があればいい。

 

 

「……ハイ。男子諸君。会計が済みましたので移動をお願いしまーす。」

 

チカちゃんのハキハキした声が頭上から飛んできた。

既にランは立ち上がり、出入口へとチカちゃんと一緒に移動している。

 

「お前ら、これから帰るのか?」

「ん?……そうだが?」

「……あ、そう。」

「?……ハルヒコ。お前も来るんだろ?」

「え?」

「ハルヒコさん。お昼一緒にどうですか?昨日の残りですけど。用意できるんで。」

「……いや。えっと……。」

「なんだ?遠慮する様なタイプじゃないだろお前?」

「い、良いのかよ?着いて行っても?」

「嫌なら別に帰っていいが。」

「ンだよ!行くっつーの!」

 

あんまりにも普通に受け入れられてるもんだから。気遅れするだろうが。

バスで移動し、見慣れた地元町へ戻ってくる。東雲兄妹と連れ立って、2人が暮らす家に上がった。

 

扉が開かれて直ぐに煙草の匂いが鼻についた。

リビングは、ビールの空き缶が散らばりそれをひとまとめにしたごみ袋が重ねて隅に積まれている一角があった。入って目についたのは、壁にぽっかりとした大きなへこみや、こぶし大の穴が開いているかなり荒れた内装だった。

余程の暴力が行われてなかったらこうはならないだろうと想像がつく。

適当な場所に腰を下ろした。

 

「思ってんのと大差なくて安心したわ。」

「そりゃ、どーも。」

「兄さん、お皿出して貰っていい?」

「あぁ。」

 

キッチンに二人とも入っていき、ランはチカちゃんに言われた通り皿を出したり、炊飯器から米をよそったりチカちゃんを手伝い、出来上がった物を運んでくる。

テーブルにたちまちふわっと湯気が立ち込み、野菜炒めが大皿に盛り付けられ現れた。他に数品小皿が並び、チカちゃんがテーブルに戻ってくる。

 

「さて、残り物ですが……。どうぞ!」

「いっただきまーす!」

 

チカちゃんの言葉を他所に、箸は大皿に向かっていた。

絶妙な塩味に箸は止まらない。遅めの朝食だったはずだが、ご飯茶碗2杯分は普通に平らげた。

 

「滅茶苦茶うまかった──ー!ごっそーさま!」

「全く容赦なく平らげましたね!……その神経に脱帽って感じです!」

 

満面の笑顔から繰り出される台詞とのギャップに言葉を失う。

もしかして、チカちゃんって結構性格ヤバめなのでは?

 

 

「ちょっと。ハルヒコ皿を持ってこい。」

「お、おぅ?」

 

 

いそいそと、自分の周りの皿を重ねて、ランの後を追いキッチンへ運ぶ。

ランが、テーブルを拭くチカちゃんに聞こえないように声を落として言った。

 

「チカ、全部食べてくれて嬉しかったって言いたいんだろうと思う。

小さい頃から、人見知りなんだ。気を許せる様になれば普通なんだが、それまではあぁやって皮肉っぽくなる。」

「そ、そうなん?人見知りっぽく見えないけど?」

 

 

──人見知りがああはならんだろ。と心の中だけで訴える。

多分、ランは妹の言動に違和感を感じさえしていない。

 

「さて、私は友達との約束がありますので、出かけます。ハルヒコさんにお願いがあるんですけど、兄さん無理ばっかりしますので、兄さんの監視お願いしますね〜。」

「え、監視って……。」

「ほら、行ってこい。」

 

チカちゃんは、どたばたと玄関へ消えていった。

 

 

「さて。……何か用でもあったんだろ?

──昨日のサイキッカーの事か?」

「……。んまぁ、そんなトコだ。オレにちょっとしたコツを教えてくれりゃあ良いんだけどよ。」

 

言い始めてから、コイツもコントロールはなんて事無くこなしてるから、昨夜のナオの様に馬鹿にしてくるかも。と言葉を逡巡した。

コイツ、滅茶苦茶感じ悪いし。絶対に馬鹿にするな。と覚悟を決めて口火を切った。

 

「オレは、あん時ただの荷物だった。力もロクに扱えないでイキっててよ。

だから、電磁'n(ショッカー)をコントロールしたいんだ。」

PSI(サイ)のコントロールのコツを知りたいって事か?」

「お、おう。」

「そうか。じゃあ、とりあえず開けた場所に移るか……。

それで……、手始めに最大出力でPSI(サイ)を使い続けて見てくれ。」

 

ランの言った言葉を聞き、オレはその意図を理解出来ずに固まった。

こちらの事なんてお構い無しに、ランはさっさと外履きを玄関から持ってきて、トリックルームで例の広場へ移動した。もちろん、学校の裏門を経由する。

ランの能力は便利な様で、マンガで読む様な思った通りに何処にでも行ける訳では無いから、不便な能力だなと思った。

 

「フルパワーで、お前の……電磁'n(ショッカー)だっけか?使い続けるって事だ。俺がここにトリックルームを発動させといてやる。」

「……分かったけど、なんでそんな事するんだ?」

「まぁ、やってみろ。」

 

 

ランが目の前に箱を出現させた。

いつも出現させる物よりも箱は大きいサイズになっている。

 

「へぇー。大きさ変えられるのか。」

「まぁ、これにも限度はあるがな。」

「そんじゃあ、ちょっくらやってやりますか。」

 

手の中で発光する稲光をそのままトリックルームへ向け放出する。

 

「やっぱりな。」

「は?何が?」

 

一人、納得いったような満足そうな表情に、全くわかっていない自分は、そんなランの様子にイラつく。

 

「……俺も、あの場から逃がす事しか出来なかった。……少し、俺にも付き合え。」

「へぇ。実践演習ってトコ?案外と、体育会系なのな。」

「一応、男やってるからな。」

 

言い終わると、ライズで後ろへ回り込まれている。すかさず、右手を背後に振り回していた。ランはというと、それをしっかりと取り押さえ、オレの勢いに息を合わせるように腕に体を巻き付けるように体制を移動させてそのままオレの腕を締め上げる。

これまでの人生ケンカの毎日だ。ランくらいの締め上げ慣れている。ただし、あいつはライズで身体能力を上手く爆発的に上げていて腕を引き抜くのには力を絞り出したところでビクともしない。

左手に閃光をチラつかせる。直ぐにランが距離をとった。

こっちの一発を受けるのは相当嫌がっている様子だった。

 

「そもそも、コントロールしてるんだ。俺たちは。無意識の領域で暴走させないように。」

「……そんでも、オレは暴走させてんじゃねぇか。」

「感情の爆発に任せてPSI(サイ)を発動させて、無意識の制限のトリガーの弾き方を知っちまった。だからハルヒコは暴走を起こしやすい。無意識でそのトリガーを引いちまうんだ。

だから、覚えるんだ。トリガーを引かないでいい使い方を。」

「……どうすりゃいいんだよ?何も分かんねぇよそんなもん。」

「まぁ、やってくうちに掴むだろ。お前は、俺よりそういうのは早そうだし。」

 

頭上から、どこからともなく土砂の雨。トリックルームで土を抉ってきたのか。土砂を避けた先に先回りしていたランが、電磁'n(ショッカー)を詰めたハコごと近づいてくる。

──反射でライズで後ろへ退いた。

少しづつ、感覚でPSI(サイ)を使って対応している自分に気づく。

 

「無意識の制限……。」

 

──覚えがあった。

暴走した自身のPSI(サイ)を無意識的に終息させた経験を。

PSI(サイ)暴走をさせたまま家を怒りに任せ飛び出したあの日。

公園で治まるまで、身を潜めるつもりだった。雨宿りしている先客がいる事を知らなかった。暴走を続ける自身のPSI(サイ)が、雨宿りをする女子高生に向かって青白い電光が走る。

──ハッと息を飲んだ時に、急激にPSI(サイ)が解除されたのを感じた。

あれは、いつも通り自身のパワー切れで暴走が治まったと思い込んでいたが、普段のPSI(サイ)の解除の背景とは明らかに違う一点があった。

 

「頭痛も、目眩も無かったなぁ……。」

 

意識してコントロールした訳では無いが、暴走していた能力を無意識に制御し止めていた。そういう事か。

 

「ごちゃごちゃ考えるのは、性にあわねェ……!要は、体に叩き込めば良いんだろ!」

 

以前相手した時と同じ状況。何度も同じ手を食うと思われているのか、同じ様に立ち回られているのが、腹立つ。

──真後ろにはハコが用意されているはず……。

ライズで後ろへ引いた直後に背後を確認すると、……あった。

──トリックルームの2つ目の箱。

何度も、同じ轍は踏まない。

ライズで後退している体を無理に横へなびかせた。急に移動した反動で多少足元がもたついたが、ハコに囚われるのは防いだ。

 

 

「……案外と考えてるんだな。」

「ッテメェ、オレが頭空っぽだって言いたいンかよ!?」

「まぁ、少ねぇのに違い無いだろ?」

 

会った時から思ってたが、失礼なヤツだ。

お返しと言わんばかりに、電磁'n(ショッカー)を前方に鋭く、前に飛ばすイメージでランへ向けて打ち出した。

 

──やはりハコで受け止められた。

ランに近接攻撃を繰り出そうと、電磁'n(ショッカー)を放つとそれをトリックルームで制止されるやり取りが続いた。

いわれた通り、最大出力での能力発揮を繰り返しているが、能力は暴走する兆しは一向に見せない。

どうやら無意識的な制御と言うのが働いているんだと納得した。初めてコントロールが出来ていると自覚する。

それと同時に、限界というのも初めて自覚する。

出力がどんどん落ちていき、今や線香花火のようなひょろひょろとした発火が掌の中で燻るばかりだ。

 

「くっそ。まったく電磁'n(ショッカー)が発動しない……!」

「……そろっと限界の様だな。……はぁ。すっごい体力だなぁ。流石というか、何というか……。」

 

浅い呼吸を繰り返すランが、腰に手をやりその場に佇んだ。

バテるのはランの方が早かったのか、終盤はライズで電磁'n(ショッカー)を避け続けていたように思えた。

 

 

「演習じゃあ、オレの方が勝ちだな!」

「どうだ?自分の能力の底……。分かったか?」

「あぁ。これが今の限界って感じだな。そんで、トリガーっつうの?一線みたいなもんも何となくわかったぜ。」

「……少しは役に立ったか?」

「バリバリだぜぃ。」

 

──これで、ナオを見返せる。

 

「……。余計なお世話かもしれないが、何か裏のありそうな話は聞かない方がいい。力を利用されるだけだぞ。」

「大丈夫だって!……オレはお前なんかよりは上手く世渡りしてるっつーの。」

「……まぁ。忠告はしたぞ。」

 

ランに犬居との事を見透かされているような気がした。

何故か犬居の事を話すべきでは無い。そう思った。ランは、チカちゃんと共に、普通に一般社会に溶け込む生き方が合ってる。

 

……オレは。

オレは、この力を上手く使って一人社会に立たなけりゃ、この先に生きる意味なんて無くなっちまうんじゃないか?

──利用されるだけ利用されると分かってんなら、逆に利用してやればいい。黙って使われるだけの犬じゃない。犬には犬なりの生き方がある。噛み付く相手も、時も自分で決めてやる。

オレが生きる道は、この力で切り開いた先にあるはずだ。

 

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