ユーリア・ワイルドスミスの開発日誌   作:かませ犬

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1 右ポケットとパウダー

 

「煙突飛行」とは、煙突飛行粉(フルーパウダー)を用いた安心安全()()な、魔法使いの移動手段のことである。

 

国際秘密保持法が施行されると、魔女や魔法使いはマグルの市街地を無遠慮に箒で飛び回るわけにはいかなくなった。

しかし姿現しは子供や未成年魔法使い、体の弱い魔法使いには使えない上、()()()()リスクがある。

 

そのため、煙突飛行粉(フルーパウダー)が開発されて以来、誰もが使える移動手段として煙突飛行が重宝されているのだ。

 

 

 

ユーリアはホグワーツの暖炉を当たり前のように使うつもりでいた。

 

 

だがホグワーツの暖炉はご存知の通り……。

 

 

 

「はぁ? なんで煙突飛行が使えないの?」

 

持ち込んだ煙突飛行粉(フルーパウダー)をレイブンクローの談話室の暖炉に投げ込んだが、炎はちっともエメラルドに染まらなかった。

レイブンクローの寮生はどうも変な行動をとる生徒に慣れているようで、くすくす笑いながらもユーリアの言動を遠くから見守っている。

 

「ユーリア。ホグワーツの暖炉は封鎖されてるんだよ」

「なんで?」

 

ユーリアの剣幕に、同室になった女子生徒はたじろいだ。

 

「か、勝手に部外者が入ったら困るからじゃない?」

「部外者? ああ……確かに。じゃあ、ふくろうを使わないといけないんだ」

 

 

煙突飛行ネットワークはマグルでいうところの”電話”のような使い方をすることができる。

煙突飛行粉(フルーパウダー)を投げ入れ、目的地を行って顔を火の中に入れるのだ。そうしたら暖炉越しに向こうと会話ができる。

この便利な方法が一般的ではないのは、おそらく火に顔を入れることへの忌避感があるからだろう。

全身を炎に包まれるのは平気なのに顔をつっこむは怖いのか、とユーリアは昔から不思議に思っていた。

 

 

ホグワーツの暖炉が使えないとなれば、ユーリアは実験を一時中断せざるをえない。

なぜなら煙突飛行粉(フルーパウダー)の改良の効果を確かめるのに暖炉が必要不可欠だからだ。暖炉を使わずに煙突飛行粉(フルーパウダー)改良するなんて、料理をせずにレシピを考えるようなものだ。

 

──こんなことなら教えてくれればよかったのに。

持っていきたい荷物はすべて持っていけ、とやけにしつこく言われた理由が分かった。両親はユーリアが煙突飛行で家に戻れないと知っていたのだ。

 

「どこかに使える暖炉はないの?」

 

近くの上級生は肩をすくめた。

 

「校長室の暖炉なら使えるらしいよ」

 

さすがのユーリアにも、稀代の大魔法使いダンブルドアに暖炉を使わせてくれと頼む勇気はなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

ユーリアには友達がいない。

 

もともと変わった生徒が多いレイブンクローの中でも、ユーリアは頭ひとつ抜けて変わっていた。

煙突飛行粉(フルーパウダー)と煙突飛行のことしか頭になく、口を開けばいつもそれ。ローブの至るところから改良した煙突飛行粉(フルーパウダー)が出てくる気味の悪い一年生だ。

誰も話しかけようとしなかったし、彼女も友人を必要としなかった。

 

彼女の奇妙な趣味とワイルドスミスという姓から勘のいい生徒は煙突飛行粉(フルーパウダー)の関係者だと気づいたが、誰もそんなことは気にも留めなかった。

 

 

唯一、グリフィンドールの赤毛の双子を除いて。

 

 

 

「その右ポケットの煙突飛行粉(フルーパウダー)

「いくらで売ってくれる?」

「「いい値で買うぜ!」」

 

ユーリアは案外、この双子が嫌いではなかった。

しょっちゅう廊下で騒ぎを起こすし、ときどき悪戯も仕掛けられるが、それが悪意ゆえでないことを分かっていたからだ。

 

「右ポケットだけでいいの? 左ポケットもあるよ」

 

ユーリアの言葉に二人はにやりと笑った。

 

 

 

ユーリアは常に五種類の煙突飛行粉(フルーパウダー)を隠しもっていた。

ローブの左右ポケットにスカートのポケット、それから首に下げた小さな袋。

 

ユーリアの改良煙突飛行粉(フルーパウダー)の存在が双子に知られたのは、スリザリンの上級生にちょっかいをかけられたのがきっかけだった。

 

「おっと」

 

廊下ですれ違いざま、ユーリアは足を引っかけられて転んだ。

ちょっとくらいの嫌がらせなら我慢できる。

ユーリアは石畳に倒れて擦り傷を負ったが、その上級生は謝るそぶりすら見せず、仲間たちと嘲笑を飛ばした。

 

「お前、ワイルドスミスだろ。城中の暖炉に煙突飛行粉(フルーパウダー)を入れまくってるんだってな。そんなにママが恋しいのか?」

 

頭にかっと血が上った。

ユーリアは右ポケットの袋から煙突飛行粉(フルーパウダー)を一つかみ取り出すと、そのスリザリン生に投げつけた。

 

粉が身体に当たった瞬間、彼の体から青い炎が立ちのぼる。青い炎は一瞬で大きく広がり、彼の姿はすっかりなくなってしまった。まるで煙突飛行で移動したかのように。

 

慌てるスリザリン生たちをよそにユーリアは駆け出した。

その先で待ち構えていたのが、一部始終をしっかり見ていたウィーズリーの双子、フレッドとジョージだ。

 

 

 

「正確な効果を教えてくれ」

「投げつけたら、相手が燃え上がってどっかに行っちまうんだろ」

「どこに行くか分かるのか?」

 

ユーリアは首を横にふった。

 

「分からない。半径100メートル以内のどこかに飛ばされる。色々試してはみたけど、まだ特定の場所に飛ばせたことがないの」

 

例のスリザリン生は近くの中庭の噴水のてっぺんで発見されたらしい。

数百回以上の実験と試行錯誤を重ねているが、範囲が広がるだけで特定の場所を指定することはできなかった。

 

逆に移動ライターは、移動範囲こそ狭いものの、自分の好きなところに飛行できる。

移動距離と場所の指定、両方を贅沢取りしているのは本家煙突飛行粉(フルーパウダー)だけだ。やはりあれを超える道具は並大抵の努力じゃ作れない。

 

「どっかにめりこんだことはある?」

「壁とか」

「地面とか」

「机から頭だけ出るなんてことがあったり?」

「今のところ一度もない。ただ絶対にないとは言い切れないから、使うときは自己責任ね」

「スリルがあっていいね」

 

1カップ10シックルで取引が成立した。

煙突飛行粉(フルーパウダー)の五倍の金額だが、ユーリアに利益を得ようという気はない。ただ本家の五倍の材料費がかかっているだけだ。

 

たった10シックルでもウィーズリーの双子のさもしい財布には痛い出費だが、新たな悪戯の種と将来有望な開発者とのコネができると思えば安いものだった。

 

「ところで、どうやって作ったんだ?」

「俺らにも作れるかな?」

「昔フレッドと一緒に煙突飛行粉(フルーパウダー)を作ろうとしたことがあるんだけど」

「小麦粉やら石灰やら、ドクシーの鱗粉やら混ぜてな」

「ああ。でもダメだった!」

「爆発でうちのリビングは黒っこげさ!」

 

双子の勇気にユーリアは感心した。

ユーリアも実験のさなか、よく爆発を引き起こす。聖マンゴに運び込まれた回数は同世代でダントツ一番ではなかろうか。

 

両親には「こんな子供は世界のどこにもいない」と呆れられていたが、まさかこんな近くに同類がいたなんて!

 

 

 

ユーリア・ワイルドスミス、11歳。

 

 

人生で初めて友達ができた日だった。それも二人も!

 

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