頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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赤城レッドサンズ戦第二戦
雨のレインバトルを得意とするS14ドライバー
中村賢太相手に最初こそ苦戦していた友奈ハチロクコンビ

だが何年も走り込んだ地元と、雨の感覚を掴んだことでその後反撃に転じた彼女は呆気なく勝負を決めて連勝を決めた。


その一部始終を見ていた涼介は、密かに赤城の歌姫に対して興味を懐きつつリベンジへ燃えるのであった…。





第十三話 ハチゴーでも!

 

 

 

翌日

秋名山頂上にて 

交流戦当日

  

 

 

「……へ?」

 

 

 

いよいよ交流戦開始まで秒読みといったところ、だが周りの雰囲気とは対照的にイツキのメンタルは今にも粉々に砕けそうになりつつあり道端にへたり込んでいた。池谷達が説得に行ってくれたとはいえ、その程度で拓海がいくと言うはずがない。

 

そのため自分から謝りに行こうと道をトボトボと歩きかけたが友奈の必ず来るという説得と、もし真相を話したらどうなるかと考えた恐怖に負けてしまい今に至っていた。このまま人生が終わってしまう…そう思い諦めムードになっていたイツキであったが…

 

 

 

「なにやってんだ…イツキ…、道路の真ん中でへたり込んで…」

 

 

「…た…た…たっ…」 

 

 

 

だがそんな彼の耳に聞き慣れたエンジンサウンドが聞こえてくるとともに自分の背後からヘッドライトの光が照らしてくる。恐る恐る振り向いたイツキの視線先、そこには白黒のパンダカラーのハチロクが目の前で止まっており運転席からは拓海が顔を出していた。

 

その表情は特に変わらないホゲーとした笑みを浮かべてはいるが、なんで拓海がここにいるのかと思ったイツキは口から言葉が出ず呆然としている。

 

 

 

「邪魔だぞー、ひくぞひくぞ?ホラホラ」ウリャウリャ

 

 

「やめてくれー(ひーっ)」

 

 

「…(汗)にしても本当に来てくれるとはね…!ってきりもう駄目かと思ったよ…(安堵の表情)」

 

 

 

だがそんなイツキが面白かったのか拓海はハチロクをぶつけない程度に動かして戯れ合うように迫っていく。最近まで乗り気じゃなかった人間の行動とは思えないその姿に、一部始終を見ていた友奈は思わず苦笑いを浮かべてしまうがすぐに安堵した表情で彼へ声を掛けていく。

 

 

 

「うん、二人ともごめん遅くなって…」

 

 

「たく…みぃ…!」

 

 

「イツキが前言ってた意味…ようやく理解したよ…。走り屋っていうのは車で挑戦されたら…、受けて立たないといけないんだろ?」

 

 

「たぁぅびい〜!!(拓海と言ってるのつもり)」

 

 

「ってか来るなら早くきてよねー?を私が説得しなかったらイツキ君どうなってたことか…、というか泣いちゃってるし…」(ムス)

 

 

「悪かったて…(汗)それについては…」

 

 

 

彼も申し訳なさそうな雰囲気を浮かべてはいるが、イツキにとっては本当に拓海が来るとは思っていなかったため感無量状態になりかけていた。そこに止めを刺すような親友からの言葉で涙線がはち切れて思わず号泣してしまう。

 

来るとは言われたもののかなりギリギリだったため、友奈は不服そうな表情をしながら遅いと突っ込んでいく。まあ彼女がいなければ間違いなくイツキは先走ってしまっていたため、どうなっていたかと思うと無理はない。拓海も表情から察したのか苦笑いしつつ改めて悪かったと口にした。

 

 

 

「まっ、それはいいけどギリギリまで引っ張ったんならちゃんと勝ってきてよね!負けたら容赦しないからっ♪」

 

 

「鼻っから負けるつもりはないしな…、店長が言ってたGTRがどのくらい凄いか…しっかりこの目で確かめるさ…!」

 

 

 

 

 

 

一時はどうなるかと思われたが、啓介の説得や祐一の巧みな誘導によって火がついた拓海は交流戦へ姿を現した。文太がハチロクをセッテングするため持ち出し、ギリギリまで帰ってこないという一面もあったが辛うじて間に合った様子。

 

こうして秋名第二戦、妙義ナイトキッズリーダーである中里毅との激しいダウンヒルバトルが幕を開けた。

最初こそ4WDとFRのいいとこ取りで公道最速とまで謳われたGTRに苦戦するかと思われた。…が地元を隅々まで知り尽くした拓海のドライビングテクニックとGTRより圧倒的軽いハチロクの車重が効を奏し、中里の熱くなりやすい性格を逆手に取った溝走りで見事勝利。

 

またもや秋名に最速伝説が一つ刻まれたのである…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

渋川GSスタンドにて

 

 

「いやー、昨日といい一昨日といい凄い日だったよ」

 

 

「ホントっすよね。赤城じゃ友奈ちゃんがレッドサンズにレインバトルで勝ち…、秋名では拓海がハチロクでGTRを倒しちゃうんですから」

 

 

「友奈ちゃんのバトルは見に行けなかったが、二人の話を聞くだけでニヤニヤが止まらなかったな(ニヤニヤ)」

 

 

「まあそれはけっこう分かりますよ先輩、俺だってナイトキッズとの交流戦が終って心に余裕が出来たときなんかもう笑いが止まりませんでしたもん…(笑)」

 

 

 

秋名での激闘から一夜明け、GSスタンドでは樹や池谷の二人がが集まっており昨日や一昨日の出来事を振り返りつつ話している。場所やドライバーが違えど知っている2台のハチロクが勝利を収めたことがよほど嬉しかったのか、ニヤニヤと笑みを浮かべながら振り返っていた。

 

ちなみにその張本人である拓海と友奈の二人は今日は休暇のためお休みでここにはいない。

 

 

 

「拓海に関しては今後が楽しみって奴だ、例のナイトキッズとの交流戦でかぜんやる気になったみたいだしますますこれから化けそうだよ(自慢気に)」ウンウン

 

 

「それをいうなら先輩、友奈ちゃんもそうじゃないっすか?だって現時点でレッドサンズ相手に連勝してるんっすから!」

 

 

「確かにな、友奈もなかなかのドライビングテクニックの持ち主だし拓海とともにこれからが注目ってやつだ」

 

 

「まさに群馬のダブルエースのハチロクコンビですね…!!くぅー!!俺も早くハチロク買ってガンガン走り込んでその中に入りたいっすよ…!!」

 

 

「ははっ、まあ頑張れよ。…というかお前、そういや今日やけにテンション高くないか?…いやまあテンション高いのに限ってはいつも通りなんだが」

 

 

 

池谷や樹の言う通り、秋名でのナイトキッズ戦・そして赤城でのレッドサンズ戦でそれぞれ拓海や友奈のハチロクコンビが勝ったというのはかなり大きい。池谷は今後の成長に期待だなという笑みを浮かべており、樹もその言葉で更に興奮したのかいつものガッツポーズをしながら、早くその仲間に入ってやると意気込んでいた。

 

そんな後輩を見て思わず笑みを浮かべていた池谷であったが、ふと今日の樹のテンションがやけに高い(まあ普段から高いので我々には分からないが)ことに気づきどうしたのかと尋ねていく。

 

 

 

「くぷぷ…、流石先輩…!早くも気づいちゃいましたかー」

 

 

「なんか含みがある言い方だな…。しかもいつもより気味悪い笑い方だし…、勿体振らずに教えてくれよ」

 

 

「それは山々ですけど言うのは止めておきます(クーッ)。なんせこうゆうのは先に言っちゃうと面白くないですからねー」 

 

 

「なんだよそれ…変なの…」

 

 

「それは明日になれば分かりますよー(それではナイショにしておこーっ)」クプププ

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

GSスタンドにて

 

 

 

「「「あああーっ(ええっ)!!?」」」

 

 

 

それから翌日、いつも通りと思われたスタンドからは周囲に響き渡るような一同の驚く声が上がっていく。何事かと思われたがそれはスタンドの敷地内に視線を向ければすぐにその原因は分かった。

 

 

 

「へへっ…♪(買っちゃった)」

 

 

「マジかよイツキ!?ガチでレビン買ったのかよ!」

 

 

「昨日やけにニヤニヤしてたのはこれだったか…!にしてもここまで状態がいいなんてけっこう値段したんじゃねーかお前!?」

 

 

 

池谷や健二、はたまた友奈の愛車が止まっている中へ紛れ込むように一同が驚きを上げた原因であるピカピカのレビンが鎮座していた。その横ではレビンのオーナーであり騒動の張本人でもあるイツキがドヤ顔を浮かべながら寄りかかっている。

 

まさか高校生であるイツキがこんな状態のいいレビンを手に入れてくるとは思っていなかったようで、健二や池谷はかなり興奮気味に食い込んでおりその横では友奈や拓海でさえも驚いているらしくおぉっという顔をしていた。

 

 

だがここまで状態がいいとなると値段もそれなりになるため、けっこうな金額したんじゃないかと池谷から尋ねられるが…

 

 

 

「それがけっこう良心的なお店でして…!程度の割には凄い安く買えたんですよー!」くーっ

 

 

「となりゃ相当な掘り出しモンじゃねーかよ!まさかこれ事故車とかじゃねーよな!?」

 

 

「びっくりした…、まさか本当にイツキが買っちゃうなんてなー」

 

 

「そりゃイツキ君だって車欲しいに決まってるよー♪しかも拓海君や私とハチロクコンビ組みたいってあれほど言ってたし…!」

 

 

 

どうやら良心的なお店で程よい値段で売っていたようで、満面の笑みを浮かべながら経緯を樹は説明していく。ここまで状態がいいのにお手頃な値段なレビンはそうそうないもの、まさか事故車じゃないのかと健二は疑う始末。

 

まさか本当に買ってくるとは思っていなかったのか、拓海は普段じゃ見れないような驚きを終始見せながら親友を見つめている。だがそれに対して友奈は、樹の気持ちが分かるのか満面の笑みをしつつそりゃ買うに決まってるとツッコみを入れていく。  

 

 

 

「友奈ちゃんの言う通りだぜ!それにコレ以上お前に遅れを取るわけには行かねーからな!!(ドヤ顔)今日から二人と肩を並べる下り最速のハチロ乗りを俺は目指すぜ!」イエーイ

 

 

「……(テンションたけーっ…)」

 

 

 

そのお陰で更にブーストが掛かったのか、これからどんどんテクニックを上げていき最終的には二人に並ぶ下り最速のハチロク乗りを目指すと樹は高らかに宣言。車が納車されるだけでこうもテンションが変わるのかと思った拓海は開いた口が塞がらない状態になっていた。

 

 

 

「でもオレ本当に嬉しくて昨日なんか寝れなかったっすもん。自分の愛車が納車されるなんて思うとさー」あはは

 

 

「まあイツキのその気持ちは分からなくもない、俺もS13納車される前日なんて嬉しくて寝れなかったしな」

 

 

「池谷の言う通りだよ、みんな車買ったら必ず通る道って奴だ。おれも180SX納車される前日なんてイツキとほとんど一緒だったし」ウンウン

 

 

「やっぱそうですよね…初めてのマイカーなんですもん(目を輝かせながら)」

 

 

「私もお母さんからハチロク貰う時は嬉しくてその日はなかなか寝れなかったねー、懐かしいよ♪」

 

 

 

やはり自分の愛車が納車されるということはそうゆうことなのかもしれない、樹がレビンを撫でながらそう呟くと周りもそうだよなと同意しながら頷いていく。実際池谷や友奈、健二も同じような感じだったようで、愛車が来る前日の自分の姿を想像しながら振り返っていた。

 

 

 

「にしてもレビンのノーマルホイールに70のタイヤは泣かせるぜ、ちょっと試しにイツキエンジン掛けてみろよー」(ワイワイ)

 

 

「いいですよ…!えへへっ」ガチャ

 

 

 

ノーマルホイールに70タイヤという泣かせる組み合わせに池谷は染み染みとしながらも、早くエキゾースト音聞きたいという気持ちからかイツキへエンジンをかけてみろよと促す。

 

もちろんそれはイツキも同じ気持ちであったため、ニコニコと答えながらレビンの運転席へとドアを開けて乗り込んでいく。

 

 

 

ヒュルルル!!

ブェン!!

びょえっ!びょえっ!

 

 

ー…あれ?待ってハチロクのノーマルマフラーってこんな音しないよね…、もうちょいいい音すると思うけど…ー

 

 

「…なんか冴えねぇ音だよな…」

 

 

「マフラーノーマルだとこんなもんなのか…?」ブェェン

 

 

「手始めにマフラーだけでも変えねーとな!拓海ん家のトレノみたいにいい音出して走りてー!!」クゥー

 

 

 

だがイツキがセルを回してエンジンをかけて少しばかり吹かした瞬間、エンジンサウンドを耳にした友奈は先程まで浮かべていた満面の笑みが嘘みたいに唖然とした表情になってしまう。池谷や健二も異変に気づいたのか、ノーマルマフラーだとこんなに冴えない音なのかと疑問の顔をしながら見合わせていた。

 

しかしそんなことなぞ知らないイツキは早くマフラーを変えて拓海のハチロクみたいないい音を出したいと意気込んでいるご様子。

 

 

 

「…(なんか嫌な予感がする…)イツキ君、ちょっとボンネット開けてくれない?」

 

 

「えっ、どうやるんだ?」

 

 

「ほらっイグニッションの下にレバーあるでしょ?それを引けば開くからっ」

 

 

 

直感的にではあるが何か嫌な予感を感じっ取ったようで、友奈イツキに対してボンネット開けるようお願いする。一瞬どうやるか分からなかったものの指示通り、イグニッション下のレバーを引いてレビンのボンネットロックを解除していく。

 

 

 

ガコッ!

バクン

「……(目を細める)」

 

 

「…友奈ちゃんもか…」

 

 

「あっ店長…、もしかして店長も…」

 

 

「あぁ…コイツは間違いないな…アレで」 

 

 

「はい…」

 

 

「…?」

 

 

 

ロックが解除されるとともにボンネットを開けた友奈はしばらく無言のまま目を細めつつエンジンルームを静かに見つめていた。その後、彼女と同じようにマフラー音で察したのか横からどことなくヌッと現れた祐一もタバコを加えて覗き込みながら友奈となにやら話し込んでいる。

 

まあ他のメンツには何を話しているのかなんて分かるはずもなく(というか聞こえないように小声で話してる)しばらく困惑した表情を見せていた。

 

 

 

バァン!

「……やっぱりな…」

 

 

「え?やっぱりって…」

 

 

「おまえ間違ってるぞイツキ、コイツはハチロクのレビンじゃない…。正真正銘のハチゴーレビンだ…!」

 

 

「…!?はっハチゴーで店長…まさかあの、AE85…!?」

 

 

 

しばらく見つめていた二人であったが、祐一が確信した表情を浮かべながらボンネットを勢い良く閉めた。一体どうゆうことなのかと池谷が尋ねると、ハチロクだと浮かれていたイツキに対してコイツはハチロクレビンじゃなくてハチゴーレビンだとハッキリと答えていく。

 

最初こそなんのことか分からなかった池谷や健二であったが、店長が放った一言でまさかという顔をしながらもしかしなくてもあの『AE85』じゃないのかと口に出す。

 

 

 

「そっ、『AE85』。通称ハチゴーは当時としては革命的な1600ccの4バルブヘッドのDOHCエンジンを搭載したAE86に対して、1500ccのSOHCエンジンを搭載したおっちゃんクルマとしてカタログにライナップされた車種なの」

 

 

「おっ…おっちゃんクルマって…」

 

 

「そのSOなんちゃらってエンジンは何が違うんだ…?名前が違うのと排気量以外特に変わってなさそうだけど…」

 

 

「あほう、ハチロク自体とじゃ月とスッポン以上に差があるんだよ。当時圧倒的に走り屋からの人気を得ていたハチロクに対して、その影に隠れていたハチゴーは見た目の割に見合わない性能もあって不遇ってレベルじゃすまんぐらいの扱いを受けてきたんだ」

 

 

「…まあ『回らない』『フケがわるい』『パワーない』っていう三拍子が代名詞ってぐらいSOHCエンジンは悪い意味で有名だから…。本当かどうかは分からないけど今どきの軽自動車にも負けるカメグルマとも言われたし…ハチゴーに乗った人からは遅すぎて後ろから蹴り飛ばしたくなるっていう感想を前見たことがあるよ…(ため息)」

 

 

「そっ…そんな…」ヘナヘナ

 

 

 

店長や友奈が説明している通り、見た目はハチロクソックリだが中身は月とスッポンぐらいの差があったハチゴーはウルトラハイパー不人気車としての扱いを受けてきた。まあエンジンといい足回りも出来としては最悪と言ってもよく、本当か否かは分からないが軽自動車にも負けるレベルとも言われるらしい。

 

まさか自分の買ってきたレビンがハチロクではなくハチゴーだったという衝撃的な事実に力が抜けたように樹はヘナヘナとしながら地面へとへたり込んでしまう。

 

 

 

「そういえばオレ…レビンに拘り過ぎてハチロクとは一言も言ってなかった…」 

 

 

シーン(ずーん)

 

 

 

先程の楽しそうな感じは一体どこへ行ったのかというレベルでなんとも空気が重く気まずい雰囲気に包まれていた。しばしの間なんて樹へ声をかけたらいいのかという感じになっていたが…

 

 

 

「く…く…!」

 

 

「ぶぶっ…!」

 

 

「「ぶわーっはっはっ!!」」

 

 

 

まあハチゴーといえば車好きの間では完全なるネタ車、当然重い空気がずっと続くはずもななんとか堪えていた池谷と健二が爆発したように吹き出しながらスタンド全体へ笑い声を響かせた。

 

 

 

「すまんイツキ…!」ぶっぶっー!

 

 

「悪いとは思ってるんだがどうしても笑いが堪えきれなくてな…!」くくくっ

 

 

「……?」

 

 

「よりによってハチゴーを見つけてくんなよー!(ひーっ)」あははっ

 

 

「そうだよな…!(くるしいだめだァ)今どきハチゴーだなんて探さうと思っても見つからないくらい希少価値高いんだぞォ!」

 

 

「……(ダッ!)」

 

 

「あっおいイツキ!!」

 

 

「まっ待ってくれよ!!」

 

 

 

本人達も申し訳ないと堪えていたようだが、どうも耐えきれなくなってしまったようで笑いを吹き出しながらお腹を抱えつつ弁明していた(まあそうは見えんが)。だが彼からすればコケにされたのも同然のため、いきなり背を向いて走り出してしまう。

 

池谷や健二も慌てて止めようとしたが、気づいた頃にはイツキは走り去ってしまいどうしていいか分からない状態に陥っていた。

 

 

 

「……(ギロ)」ダッ

 

 

「…拓海が睨んで来たぞ…」ボソッ

 

 

「まじか…」ボソッ

 

 

 

イツキが走り去った直後、黙ってみていた拓海が笑っていた池谷や健二を一瞬睨みつけるとそのまま無言で親友の後を追いかけていった。睨まれたことはもちろん気づいてはいたが、普段見せないような表情を見せたため思わず二人は淀めいてしまう。

 

 

 

「…お前ら笑いすぎだ。イツキの身にもなってみろ」

 

 

「「すみませーん…(池谷が笑うから…)」」

 

 

「そうですよ…、イツキ君だって好きでやらかした訳じゃないんですから。というかそこをフォローするのが先輩達の役目でしょ…」ジトー

 

 

「…友奈ちゃんに言われるとグウの音も出ません…」(シュン

 

 

 

祐一も流石にやり過ぎだと少しキツめの口調で注意し、その通りだと言わんばかりに二人は謝罪の言葉を口にする。もちろん友奈からもジト目のお説教が飛んできて、なかなか痛いところをつかれたため更に申し訳なさそうな顔になった。

 

 

 

「…とりあえず私は二人を呼び戻して来ますから、後でちゃんと謝っておいてくださいね」ダッ

 

 

「アッハイ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」はぁはぁ

しーん…

 

 

 

その頃スタンドの裏口では逃げ出した樹と追いかけてきた拓海の二人の姿があり、息を切らしながらしばらく無言のまま立っていた。だがその雰囲気を先に破って樹が口を開く。

 

 

 

「ほっといてくれ…、別にオレに構わなくていいからさ拓海…」

 

 

「…そんなこと言ったって」

 

 

「そもそもみんなをびっくりさせようと思ってナイショで車探しをしてたのが間違いだったんだよ…。どうりでハチロクの割には安いと思ったしさ…」

 

 

「……」

 

 

「そんなことも知らずに一人で勝手に盛り上がって死ぬほど恥ずかしかったし…、どうせお前も心の中では笑ってんだろ?」

 

 

 

「…違うよ!!」

 

 

 

ハチロクだったと思っていたものがハチゴーだったという衝撃はそれはもう想像出来ないもので、完全にテンションだだ下がりしていた樹は少しばかり当たりが強くなっていた。…がしばらく無言で聞いていた拓海はそれは違う、ときっぱりと親友の発言を否定していく。

 

 

 

「…へ?いい加減なこというなよなー拓海、俺のどこがいいっていうんだ…」パパー

 

 

「……」

 

 

「間違えてヘンな車買っちまったっていうのによー…、それよりお前の方がよっぽど羨ましいぜ。家に変えれば本モノのハチロクがあるんだから…」

 

 

「そーゆうことを言いたいんじゃないと思うよ?拓海君はっ!」

 

 

「…?」

 

 

「この声…友奈ちゃんか…」

 

 

 

なんで本物のハチロクが家にある拓海が間違えてハチゴーを買った奴を羨ましいがるのが樹には理解出来ないようで、どこがいいんだよと疑問形で話していく。もちろん彼も何か言いたげの様子だったがその前に背後からの声が聞こえそちらに視線を向けると、二人を追ってきたと思われる友奈の姿が…

 

 

 

「そうゆうことじゃないって…」

 

 

「だって拓海君のハチロクはお父さんの奴でしょ?だから自分の車なんかじゃない、でもイツキ君のハチゴーは自分だけの車でしょ?」

 

 

「そうだけど…それを言うなら友奈ちゃんのハチロクは自分のじゃん…」

 

 

「まあそうだけど…(汗)でもあれはお母さんから貰った車であって私が買った奴じゃない、だから自分で車を探して買ったイツキ君は羨ましいよ♪」

 

 

「……」

 

 

「それにハチゴーだって評価は低くてもちゃんとしたいい車だと私は思うよ?駄目なところはこれからしっかり手を入れて上げればいいしっ!」

 

 

「…友奈ちゃんの言う通りだよ、それにちゃんとテクニックを上げていけばハチゴー?だって早く走れるさ。ダウンヒルは馬力の差は小さくなりやすいしさ…」

 

 

「そっ!もしあれなら私や拓海君がみっちり教えてあげるから♪それに手が掛かったほうがなんか愛着湧かない?それなハチゴーなら尚更ねっ♪」

 

 

「……へへっ…そうかもな」

 

 

 

最初こそはハチゴーなんて…と思ってたイツキであったが、友奈や拓海の話を聞いていくと自然と愛着が湧いてきたようで少し嬉しそうな笑みを浮かべながらいつもの雰囲気に戻りつつあった。

 

本物のハチロクを持っているとは言えどどちらも自分で買ったり持っている訳ではないため、イツキのように自力で愛車を買ったりするというのは案外羨ましいのかもしれない。

 

 

 

「どうせ最初は下手っぴなんだし、案外ハチゴーの方が俺にはぴったりだよ…」

 

 

「うんうん♪」

 

 

「…なんか愛着湧いてきた、ハチゴーだろうがなんだろうが俺の車なんだし大事に乗っていくよ…!ありがとうな二人とも!」

 

 

「別に…」(照れくさそうに)

 

 

 

まあいろいろとあった訳だがなんだかんだ言ってハチゴーが気に入ったようで、誰になんと言われようとこれからも大事に乗っていくことを高らかに宣言していく。その後手助けしてくれた二人に改めて樹は感謝の言葉を口にしていき、拓海は照れ臭そうに頭をぽりぽりかいて、友奈は嬉しそうな表情を浮かべていくのであった…。 

 

 

 

 

 







第十四話 峠デビューでいきなりトラブル!?
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