頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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これはかつて群馬最速と歌われていた『赤城の歌姫』と呼ばれた一台のハチロク。

その走りを受け継ぐ一人の走り屋の物語である。
(リメイクして再投稿です)


プロローグ 赤城の歌姫

 

 

19XX年7月終わり‥

赤城山、赤城峠にて

午後9時‥   

 

 

ゴァァァァ!!!

 

 

 

暗闇に包まれた赤城峠、昼間なら普通の山道としての姿をしているが夜となれば全くの別世界が広がっている。本来であれば虫の鳴き声が山全体に響き渡るはずだが…それを遮るように一台の甲高いエンジン音が響き渡ってくる。

 

 

 

ゴフ!!

 

 

啓介「……!」

 

 

 

コーナーの影から飛び出るように純正ウィングをつけた黄色のFD3Sが勢いよくドリフトで現れる。車体横後方には赤文字の英語表記でレッドサンズと書かれており、ドライバーの実力もかなり良さそう。

 

そう、彼こそがここ赤城峠をホームコースとしている赤城レッドサンズ所属の高橋啓介だ。見た目はザ・走り屋には見えないが、リーダーでありNo1の実力を有しているFC3S乗りの高橋涼介、その弟でありモータースポーツや走り屋界では『高橋兄弟』や『ロータリー兄弟』と呼ばれるほど有名らしい。

 

実力も折り紙付きで、お兄さんほどではないものの啓介自信も兄の公道最速理論を叩き込まれているためレッドサンズでは2番目に位置するほどレベルは高いようだ。

 

 

 

ーったく…本気で飛ばすと地元でも着いてこれないか…、俺が言うのもなんだがまだまだヒヨッコだな(フッ)ー 

 

 

 

どうやら今日は仲間と走っていたようだが、本気でかっ飛ばしたせいで置いていかれてしまっているようだ。バックミラーで少し前までいたはずの仲間の車が見えなくなったのを確認しやれやれという表情を浮かべている。

 

 

 

ーと言っても流石にやり過ぎたか…、しゃーない少しペース落として待ってやるか…アイツらならこれですぐ追いつくはずだ…ー

 

 

 

だが流石にやり過ぎたと思ったのか、追いついてくるのを待つためにアクセルを少し開けてペースを落とすことに。するとペースを落とした直後にバックミラーに一台のヘッドライトが勢いよく映り込む。

 

 

 

ーやっと来たか……ってん?…ーー

 

 

 

ようやく仲間が追いついて来たかと思っているようだが、その車は明らかに尋常じゃないペースで彼のFDの背後に迫ってきた。それを見て啓介は何かがおかしいと思ったのか眉を上げて、もう一度バックミラーに視線を戻す。

 

 

 

ーいや待て…!うちのチームの車じゃない…!MR2か180SX(ワンエイティ)か!?ー

 

 

 

ライトの形から後ろの車は自分と同じリトラクタブル式のヘッドライトだということはすぐに分かった。なんの車か探ろうとしているうちに後ろの車はあっという間に啓介のFDのケツにピッタリと張り付くように付いてくる。

 

 

 

ーくっ…!…上等じゃねぇか…!!この赤城でオレに喧嘩を売ったらどうなるか…軽く捻ってくれるわ…!ー  

ゴクン!!

 

プシャァァァァ!!!

  

 

 

自分のチームではないのにここまで追い上げてきたことに一瞬驚きを隠せなかったがすぐに切り替えて戦闘態勢に入り、シフトアップしてアクセルを勢いよく踏み込む。それに答えるようにエンジンサウンドが甲高く響き、ロータリーロケットと言われた加速力を見せつけるように飛び出す。もちろん後ろの車もペースを上げて追いすがるように加速していく。

 

 

 

啓介「くっ!!」

 

 

 

ストレートでフル加速したと思ったらすぐさまコーナーが迫ってきたためフルブレーキングで減速、ヒールアンドトゥで3速から2速へとギアを叩き込みつつ啓介はステアリングを切り込む。

 

 

 

ギュルルルオ!!!

 

 

 

直後テールランプが点灯し、リアを滑らせながら怒涛のスピードで四輪ドリフトを繰り広げコーナーを流していく。流石は地元というだけあり、ラインや走りもかなりいい。それに赤城レッドサンズNo.2と言われるだけの実力はあるようだ…。

 

 

 

ーコーナー2つも抜けりゃバックミラーからは消えるだろうよ…!せいぜいレッドサンズNo.2の実力を思い知るんだな…!ー

 

 

 

 

コーナーを抜けて立ち上がりの加速でも流石は350馬力もあるロータリーエンジンというだけあるのか、並のスポーツカーなら簡単に突き放せそうな加速を見せつけてくる。続いてきたコーナーも同じようにド派手な四駆ドリフトでハイスピードで流して立ち上がっていく。 

 

 

 

ー流石にこれで離れただろう…地元で俺の本気について来れるやつはアニキしk…(チカ!!)『何っ!?』ー

 

 

 

コーナー2・3個抜けたところで流石に離せただろうと思いながら啓介は再びバックミラーを見て驚きの表情を露にして思わず声を荒げてしまう。そこにはあれだけの全開走行にも関わらずまるで背後霊かのようにピッタリと張り付いて見えるヘッドライト光があったのだ。

 

 

 

ーなっ…何が起こってるんだよ…!あれだけの走りをしてほとんど差がないだと…!?それどころかさっきよりも詰められてる気がするぜ…!ー

 

 

 

啓介からすればそれは全く有りえないような状況でもあった。今までこの赤城で自分の全開走行について来れる人間とすれば兄である高橋涼介ぐらい、それ以外の走り屋でついてこれた人間はいなかったのだ。だがこの状況はどうだろうか…?

 

自分のチームでもましてやあまり見ない車にここまで追いかけられているということ自体、彼にとって完全に想定外の事態でもあった。まさかの状況に混乱を隠せない啓介であったがコーナーが迫ってきたため再びフルブレーキングで減速してヒールアンドトゥでギアダウン、ステアリングを切り込んで鋭い突っ込みのドリフトで流していく。

 

だが後ろの車もそれとほぼ同じスピード…いや下手をすれば啓介以上のスピードでガードレールギリッギリの四輪全開ドリフトで更にその差を詰めて立ち上がる。

 

 

 

ー離れねぇ…!それどころかコーナーでどんどん詰めて来やがる…!こっちは精一杯逃げてるってのによ…クソ…!ーゴクン!!

 

 

 

どんなに逃げても逃げてもまるで一度捉えたら離さないスッポンのように後ろの車はFDを追い回していた。そのせいで啓介はストレスがどんどん溜まっていき思わず声を荒げるように声をふと上げてしまう。

 

 

 

啓介「クソッタレがぁ…!!ジョーダンじゃねぇぜ!!俺は赤城レッドサンズナンバー2だぞ!!」

ゴァァァァ!!

 

 

 

そうこうしていくうちに二台は連続ヘアピンのあるコーナーに差し掛かっていく。もちろん啓介はインに飛び込ませないためにステアリングを切って左へとラインを変更する。しかし後ろの車はそれを待ってましたと言わんばかりその開いたアウト側に滑り込ませていったのだ。

 

 

 

ーなっ…!?ここでアウト側からだと…!?ー

 

 

 

まさかこのタイミングでいかれるとは思わなかった啓介は驚愕の表情を浮かべて思わず右側へと視線をチラリと向ける。いくら開いてるとはいえスペースとしては微妙な間隔にも関わらずその車は臆することなくジワジワと追い上げていく。

 

 

 

ー何がどうなって…。…!…コイツは…!!?ー

 

 

 

一体何がどうなっているのか分からなくなりかけている啓介であったが並んだ際にその車の全貌が見えたのか思わず目を見開いてしまう。黒のカーボン式ボンネットに白黒のパンダカラーを施された車体、特徴的なリトラクタブル式のヘッドライト、これに該当する車種は一台しかない。

 

 

 

ーはっ…ハチロクだと…!?ー

 

 

 

まさか背後霊のように赤城のダウンヒルで自分を追い回していた車の正体がハチロクだと思わなかったようで思わず呆気に取られてしまう。が…その間にも並んだと思ったハチロクはFDよりも踏み込んだブレーキングで減速して無理やりにラインを抑えるように前へと躍り出ていく。

 

 

 

ーなっ!?ー

 

 

 

完全にやられてしまい、啓介が我に戻って気づいた時にはすでにハチロクはFDを抑えるように前へと躍り出ていた。無理やりにねじ込んだためかなり苦しいラインであるはずなのに、それを感じさせない鮮やかな走りを見せつつガードレールギリギリまで車体を寄せてへアピンを立ち上がる。

 

 

 

ークソが…!逃がすかよ…!!ー

 

 

 

地元のプライドがある以上啓介も簡単には下がらず、アクセルをさらに踏み込んでハチロクに追いすがろうとするために加速していく。だがそんな熱き思いも次の瞬間一瞬で崩れ落ちるとも知らずに……、

 

 

 

ギャァァァ!!

キュ!!

 

 

 

ーっ…!?この音は…ー

 

 

 

先程の熱い啓介とは裏腹に表情が固まってしまう。彼の目に映ったのは、まるで歌姫と思わせるようなスキール音、そして誰が見ても惚れてしまいそうな理想的なラインを描いて鮮やかな四輪ドリフトを披露しているハチロクがそこにいた…。

 

 

 

ー………ー

 

 

 

それはあまりにも美しく、あの啓介でさえ見とれてしまうような走りを見せたハチロクはそのまま消えるようにコーナーに突っ込んでいってしまう。遅れてFDが立ち上がりストレートに出たときには既に遥か彼方へ走り去っていく。

 

モータースポーツ界を目指している関係か、彼自身もいろんなプロドライバーのドリフトはほぼすべて見てきたつもりだ。しかしこのハチロクが繰り広げるドリフトは今までの考えを一変させてしまうような走りであり、群馬エリア有力候補でもある高橋涼介でもあの走りが出来るかと言われれば難しいだろう。

 

 

 

ーなんなんだよ…腹立つぐらい鮮やかなあのドリフトは……俺の知ってるドリフトじゃねぇ……ー

  

 

 

完全に戦意喪失してしまったのかFDはそのままスローダウンしてしまい路肩に寄せる形でハザードを炊きながら止まってしまう。それから啓介は少しハンドルに寄りかかり完全に拍子抜けたような顔をしかけていた。 

 

 

 

ー……いや…あのハチロク…どっかで…まさか…!!ー 

 

 

 

…どうやらあのハチロクについて何か引っ掛けることがあるようで少し考えていた啓介であったがその答えはすぐに浮かび上がった。そもそも、あの歌姫かのようなスキール音や誰でも魅了してしまうような走りは誰にでも出来るような走りではない。…ということはつまり…

 

 

 

ームカつくぐらいキレイなライン取り…そして歌姫かのようなスキール音を響かせて誰でも魅了してしまうようなドリフト…間違いねぇ…!というかそんな奴は一人かいねぇだろ…!昔赤城で猛威を振るったハチロク!!確かつけられた名前は…ー

 

 

 

 

 

 

        ー赤城の歌姫!!ー

 

 

 

 

 

 

ゴフ!!

 

 

 

「啓介さん!!見ましたか!!あのハチロク!!」

 

 

 

それから数分ほど経過した頃だろうか、FDに寄りかかってタバコを吸ってた啓介のもとに遅れていたレッドサンズメンバーの白のMR2と赤のS13シルビアが追いつてきて後ろに止まる。降りてきた二人の表情はかなり焦っておりこの感じだとあのハチロクと遭遇したのだろう。

 

 

 

啓介「あぁ……見たよ…。この目でな…」 

 

 

「啓介さんも…何者なんだ…あのハチロク…。」

 

 

「何いってんだ…ハチロクじゃねぇよ…あんなの…」 

 

 

 

こちらも同様何が起こったのか頭の整理が追いついていないようで本当にあれはハチロクなのかと自問自答している始末だ。そんな二人を見ながらも啓介は走り去った暗闇のダウンヒルへと視線を向ける。

 

 

 

ー俺のプライドはズタズタだぜ…。誰にも負けないと思っていたこの赤城であっさりとぶち抜きやがったからな…。だがなぜだ…なぜ数年も音沙汰がなかったのにこのタイミングで赤城に現れた……何が目的なんだ…『赤城の歌姫』…!ー

 

 

 

 

一体何故、かつて群馬エリアでトップを争える実力を有して数年突如として走り屋の世界から消えた赤城の歌姫が再び走り出したのか……?

 

 

そして啓介達は知る由もなかっただろう…この群馬エリアで再び新たなる最速物語が始動しようとしていることに…

 

 

 

 

 

 

頭文字Dー歌姫の最速録ー 

OP fight for liberty uver

 

 






赤城レッドサンズナンバー2と言われている高橋啓介を地元であっさりと千切ってしまったハチロク。

一体どんなドライバーが乗っているのか…?
そして…何故また走り出すか…


止まっていた歯車が再び動き出します…!!
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