頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第二十二話 明日香の秘策

 

 

 羽南によるチェックが終わり、伝票の仕上げを作業を終えた親に引き継ぐと受け取った部品を載せた台車を押しつつ宗一に挨拶しながら彼女はその場を後にしていく。

 そんな彼女の後ろ姿を見ていると、いい娘だろ?と裕司が少し自慢げに受け取った伝票片手に隣へやってきた。

 

 

「っと…これでよし、それじゃ失礼します♪」

「………」

「いい娘だろ?オレが言うのもなんだが」笑

 

 

 娘さんなんですか?と尋ねる宗一に対して、そうだよと答えながらよくうちの工場で整備作業を手伝って貰ってるんだと話す。

 個人のモータースという関係で人が集まらない関係で、羽南のような身内戦力は本当に助かるようでお陰でかなり助かっているとか…

 

 

「あの子、娘さんなんか?」

「あぁ、そうだぞ。よくうちの工場で整備とか手伝って貰ってんだ、なんせ個人のモータースだと人が来にくくて…」汗

「あー…」

「やっぱ大手ディーラー系列が給料とかもいいもんで…、けどうちはそれなりに来るから…アイツがいると本当に助かるんだ…」

 

 

 宗一自身もも叔父の鉄工所を手伝っているため彼の言うことは何となくわかる。

 もちろんこっちの方が人手状況はまだいいが、それでも若い人手はなかなか集まらず、よく叔父からお前がうちに来てくれて助かるよとよく言われていた。

 

 その気持ち…何となく分かりますと答えると、そいつはどうもと口にしながら2枚ある伝票のうちの返す用を宗一へと返していく。

 

 

ーうちはどうしても古い鉄工所だからな、若いやつがあまりこないんだ。けどお前が来てくれたお陰で大助かりだ、ありがとな…ー

「…その気持ち分かりまっせ。おれも叔父に似たようなこと言われとったので」

「ははっ、ソイツはどうも。それと伝票も」

 

 

 手渡された伝票を受け取ると、ふと裕司がそういえばこっちに来てそれなり立つのにまだ関西弁が抜けてないことに気づき、まだ慣れてなさそうだな…と笑いながら指摘。

 

 どうやら無意識に関西弁で話してしまったのか、指摘されて慌てて気づいた宗一は未だに大阪にいた時の癖が抜けなくて…と照れくさそうに弁明する。

 

 

「あっどうも」

「…そういえばお前、まだこっちに適応しきれてなさそうだな。さっき関西弁出てたぞ」

「あっえっマジですか!?…いやー、出来れば標準語話せるようにはしてんですけど…どうしても大阪に居たのが長いもんで…」

 

 

 別に自分は気にしないが、こっちで暮らす以上標準語は話せるようにしとけよ?じゃないとイントネーションや発音で苦戦するぞと念押しされると善処します…と宗一は答えていく。

 

 

「別に俺は気にしないが、こっちで暮らす以上ある程度標準語は話せるようにしとけー?じゃないとイントネーションとか発音で苦労するぞー」

「あはは…ぜっ善処します…」汗

 

 

 その後伝票片手に軽トラックに戻った宗一は、荷台に台車を収納してから運転席に乗り込んでエンジンを始動。

 わざわざお見送りに来てくれた裕司と軽く一言二言話ながら、ゆっくりと駐車場を後にする。

 

 

「っと……(ボムっ)それじゃ、お邪魔しました…!」

「おう!叔父さんによろしくな!!」

ブロロロ

 

 

 道中、駐車場から出る際にタイヤチェンジャー付近で作業している羽南の姿が目に入ったが、向こうもこちらに気づいたのか帽子を下げながら軽く会釈してくれた。

 当然宗一も頭を下げながらも駐車場から多くの車が行き交う幹線道路にタイミングを見計らい、合流していく。

 

 しばらくステアリングを握りながら軽トラックを走らせていた宗一だったが、そういえばあの子の名前聞いてなかったな…とふと思い出す。

 

 

ー…そういやあの子の名前きーてへんかったな…ー

 

 

 だがわざわざ聞きに行くのもアレな上に、うちの常連ならまた何処かのタイミングで会えるためその時に聞けばいいか…と呟く。

 その間にも県道を走り抜けるアクティは、軽トラック特有の高いエキゾーストサウンドを響かせながら次の目的地へ向けて疾走していくのであった。

 

 

ーでもまあ、どーせ常連なら何処かのタイミングで会えるやろ。その時にでも聞けばええかー

ブロロロロロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間はあっという間に経った夜9時頃、相変わらず日中の賑わいが嘘のように静まり返り暗闇に包まれた赤城山では静寂を切り裂くようなエキゾーストサウンドが響き渡る。

 

 コーナー奥からスキール音が聞こえてきて、ヘッドライトの光が見えたと思った矢先、飛び出すようにリトラクタブルが特徴的な赤色のMR2がリアを派手に滑らしながら飛び出して来た。

 

 

ギャァァァァァ

ゴワァァァァ

 

 

 そんな愛車のステアリングを握る明日香は、走り慣れた妙義や秋名と性格の違う赤城峠のダウンヒルに興味を見せながらもMR特有の加速でコーナーを立ち上がっていく。

 

 

ー何本か走ってみたけど…、赤城は上り下り共に前半後半にヘアピン区間…中間はストレートが比較的に多い。秋名や妙義とはこれまた違った性格だなー

 

 

 赤城の歌姫とのバトルが間近になっているため、ここ数日はここのコースレイアウトを叩き込むためかなり走り込んでいるようだ。

 なんせ相手は憧れていた上に群馬エリアでもトップを争う走り屋、そんな相手と走るとなれば、情けない走りなどは出来るはずもないので必然的にステアリングを握る手の力が強くなる。

 

 

ーけどここ数日の走り込みで大体の感覚は染み付いてきた…、なんせ相手があの赤城の歌姫…チャレンジャーである身としては情けない走りは出来ない…!ー

 

 

 だが勝負の勝ち負けは彼女からしたらほとんど関係がないと言っていいもの、今の持てる実力をどれだけ全開でぶつけられるか…そのほうが大切と言ってもいいだろう。

 絶対に悔いのないバトルにしてやる…!と言わんばかりにに意気込みつつアクセルを力強く踏み込むと、270馬力を誇る2.0L直列4気筒ターボが唸りを上げて更に加速。

 

 暗闇に包まれた赤城のダウンヒルに吠えるようなエキゾーストサウンドを響かせながら、疾走するようにMR2は走り抜けていくのであった。

 

 

ーそれに勝ち負けなんて鼻っから関係ないようなもんっ!友奈ちゃん…いや赤城の歌姫相手に今の私でどれだけ通用するか…!絶対に悔いのないバトルにしてやるんだから…!!ー

ゴァァァァァ

ギャァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 普段ならば走り屋たちの溜まり場となっている赤城峠頂上、だが今日は平日やバトルといったイベントもないことからかなり閑散としている。

 だがそんなガラガラな駐車場には、レッドサンズのステッカーを付けた白のFC・黄色のFDが停まっており、近くでは高橋兄弟がたむろしていた。

 

 どうやら話の雰囲気的に涼介の練習に付き合う形でついてきたようで、わざわざ付き合って貰って済まないな…と口にする兄に対して、タバコを吸いながらも気にすんな…と啓介は返していく。

 

 

「すまないな啓介、急に付き合って貰って」

「別にいいってことよ、どーせオレも丁度走りに行こうと思ってたからいいタイミングだし。…それよりも」

 

 

 しかし余程のことがなければ走りに行くことのないアニキがわざわざ出向いたということは、近いうちにアクションを起こすということを啓介は理解していた。

 …まあその宛も既に分かっているようで、近いうちにいよいよ赤城の歌姫に仕掛けるのか…?と尋ね、涼介も当然と言わんばかりの返答を返す。

 

 

「だいたいアニキが何も無い日に峠に出向くということは近いうちにアクションを起こす…ってことだろ?…いよいよ近いうちに仕掛けるのか?…赤城の歌姫に…」

「…流石だな啓介、御名答だ」

 

 

 今日までにレッドサンズは赤城の歌姫相手に連敗、更に地元を暴れ回られたとなればチームリーダーとして黙って居られるはずもない。

 …いやそれよりもかつて短期間だがあのハチロクとやり合い決着をお預けにされた身としては、ドライバーが違えどあの時の引導を渡すチャンス。

 

 当然この勝負は赤城レッドサンズのリーダーとしてのメンツもあるが、赤城の白い彗星として野心溢れる一個人の走り屋としての思いが強いと言ってもいいだろう。

 

 

「ここまでレッドサンズを…いや赤城をかき乱されてチームリーダーのオレが黙っている訳がない、チームのメンツもあるしな。…だがそれよりも」

「…?」

「かつて短期間だが彼女とやり合った身としては、あの時お預けにされた白黒をはっきりさせる必要がある。…例えドライバーが違えど赤城の歌姫には変わりはない」

「…本気なんだな…アニキ」

「もちろんさ、赤城の白い彗星として心が疼くのは秋名のハチロク以来だ。今度こそ引導を渡してやる」

 

 

 いつにもないアニキの気迫に思わず息を呑んでいた啓介だったが、ふとその耳に下から微かに聞こえてくるエキゾースト音が飛び込むとん?という表情になる。

 当然その音のした方に視線を向けると、その間にも音の主はどんどん近づいて来ているようで微かだった音も徐々に大きくなっていた。

 

 

「………(ゴクッ)ん?この音は…」

ウォォォォォン

ゴフッ

 

 

 誰が上がってきてるな…とエキゾーストサウンドに遅れる形で照らされたヘッドライトの光を見つつ呟いた啓介に対して、少し前から自分達以外に走る音が聞こえていたからその音だろう…と涼介は指摘していく。

 

 

「アニキ、誰か上がってくるぜ。こんな平日に走る物好きも居るもんだな」

「…まあ俺たちが休憩し始めたタイミングでエキゾーストサウンドが聞こえ始めたからな、恐らくそのドライバーだろう」

ゴァァァァァ

 

 

 それからしばらくするとヘッドライトの主である赤いMR2がいい感じのエンジンサウンドを響かせながら、高橋兄弟のいる駐車場へと入っていた。

 普段あまり見ない車なので他所者なのは間違いなく、何気なく啓介が視線を向けている間にも入っていたMR2は適当に空いている駐車スペースに停車。

 

 その後運転席ドアが開くと共に車内から赤髪ロングの女性(明日香)が姿を現し、かなり走り込んでいた疲れなのか少し背伸びをしながらも愛車に寄りかかっていく。

 

 

「………」

ーMR2か…滅多に見ない色だから他所者だろうな…ー

ボムっ

「んぅー…!!いやーけっこう走り込んだから疲れが…」汗

 

 

 赤城の歌姫といいここ最近女性の走り屋…特に若い子が増えてきたよな…とのんびりくつろいでいる彼女を見つつ、啓介はそんなことを呟いた。 

 それはそれで面白いじゃないかと弟に乗っかる涼介だったが、まさか赤城レッドサンズの高橋兄弟に見られているとは知らない明日香は何やら悩んでいる様子で…

 

 

「……なんか、最近女の走り屋…多くなってきたよな。赤城の歌姫といい特に若い連中が……」

「それはそれで面白いじゃないか、彼女(歌姫)のような速い走り屋が出てくれば更に…だ」

「うーん…、ここ数日の走り込みでだいたいは掴めたけど……なんかイマイチアレだなー…」

 

 

 というのもコースのレイアウトやらライン取りは掴めたものの現状あまりピンと来ていないようで、どうしたものか…と首を捻りながら考えているらしい。

 彼女曰く誰かと一緒に走ればピンと来るようだが、生憎今日は1人なのでそんなことは出来ず、誰か連れてくれば良かった…と内心ため息を零していた。

 

 

「正直誰かと走らないとピンと来ないんだよね私、特にこういうあまり来ない峠なら尚更ー…。はぁ誰か連れてくれば良かった……」

 

 

 もちろん対戦相手である友奈を覗いてであり、近くに手頃な走り屋(特に地元)が居ないか…と視線を向けるが平日ということもあってか見る限りでは見つからない。

 やっぱ居ませんよねー…と呟きながら反対側に視線を向けると、何かに気づいたのかおっ…?という表情を浮かべる。

 

 

ーまあ最悪地元の走り屋捕まえればいいんだけど…、生憎今日は平日……そりゃ誰も居ませんよねー…ー

「はぁ…参ったなぁ、出来れば万全の状態で……おっ?あれって……」

 

 

 その視線の先には黄色のFDと白色のFCが止まっており、近くにはそのドライバーであろう黒髪と金髪のイケメン男性2人がたむろっていた。

 言わずがもな群馬エリアの走り屋では超有名な赤城レッドサンズの高橋兄弟であり、もちろん2人のことは知っている明日香は平日にも居るもんね…と興味深そうに見つめていく。

 

 

ー白と黄色のFC・FD…、それにあそこにいる人たちって……赤城レッドサンズの高橋兄弟よね?案外こんな平日の夜にも出没するもんなんだ…ー

 

 

 しばらく何気なく見ていた彼女だったが、直後何やら閃いたのか丁度いい…と言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 …というのも赤城レッドサンズの高橋兄弟は群馬エリアではトップクラスの実力を有しており、尚且つ赤城峠は誰よりも走り込んでいると言ってもいい。

 

 

ー……待てよ、ふふ…いいこと思い付いた。レッドサンズの高橋兄弟って群馬エリアじゃトップクラスの実力、なら赤城の歌姫とやり合う予定の私にとってはいい相手じゃん♪ー

 

 

 まさに相手にとって不足はないと言えるチャンス、もちろん明日香の性格上強い相手でもお構いなしなので放っておくはずもなく…どうバトルをふっかけようか…と考え始める。

 

 

ー……そうと決まれば早速ふっかけたいところ…なんだけど…、どうバトルの挑戦を叩きつけようか…ー

 

 

 普通なら直接バトルを申し込むというのがセオリーだが、残念ながら赤城レッドサンズは余程のことがない限り地元ではバトルを受け付けないときた。

 なので正攻法で言っても相手がそのチームリーダーと弟なら弾かれる可能性が高く、バトルする前の難易度がアホみたいに高いと言ってもいい。

 

 …だが明日香には何やら策があるようで、この手を使えば行けるでしょ…と笑みを密かに浮かべるとゆっくりと啓介達に歩み寄っていく。

 

 

ーレッドサンズは余程のことがない限り地元じゃバトル受け付けないで有名だから…ねぇ、正攻法じゃほぼ無理なんだけど…ー

「…まっ、それも問題じゃないんだけどね。こっちにも策はあるから♪」

 

 

 当然彼女が歩み寄ってくるのは2人も気づいており、啓介がなんかこっちに来てるぞ…と少し面倒くさそうな表情を見せながら伺う。

 だが涼介は何やら明日香の目的を既に察しているのか、啓介や明日香に気づかれないよう密かに笑みを浮かべている。

 

 

「…おい、なんかアイツこっちに来てないか…?はぁ…今日はそんな雰囲気じゃないのに…面倒だぜ…」

「……」

ーあの雰囲気……、ふっなるほどな…。それが目的か…、平然を装っていても見え見えだぞ?ー

 

 

 その間にも寄ってきた明日香は先ほどのにやけを隠しながら平然を装い、何気なく尋ねていくのであった。

 

 

「あのすみません、そちらのお二人さん。ちょっといいですか?」

 

 

 

 

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