涼介のスタートダッシュを合図に、弾かれたように飛び出した2台はしばらく並走状態でもつれ合いながら、甲高いエキゾースト音を響かせながら疾走していた。
やはりトラクションがいいMRということもあってか、倍もの馬力があるFDと張り合えている…というのがあるのだろう。しかし啓介のFDは秋名のハチロク戦と同様にナイトキッズとのヒルクライム戦に向けて350馬力に上げた仕様。
いくら瞬発力がいいとは言え馬力で劣る以上いつまでも張り合える訳もなく、最初のコーナーに突入する前にFDが頭を押さえつつあった。
ゴシャァァァァ
ゴァァァァァ
そしてコーナーをくぐり抜ける頃には完全に前へと躍り出ることに成功、後ろに下がるもまだ喰らいつくMR2をバックミラーで見つつ啓介は遠慮はしないという雰囲気を浮かべていた。
ここ最近は連敗が続いていたためにフラストレーションが溜まりに溜まりまくっているのだろう、おまけに相手はあの赤城の歌姫と接点がある走り屋。スイッチが入らない訳がない
ー遠慮はしねーぜ、パワーでねじ伏せるのは不本意だがコイツはガチのバトルなんだ。赤城の歌姫と接点あるなら他所者だろうが手加減はなしだー
その頃、完全に前を取られたMR2のステアリングを握る明日香は特に焦った表情を見せず、いつものクールな雰囲気で啓介の走りを観察していた。
今回はパワーで前に出られたものの、基本的に明日香はこうしたバトルでは相手を先行させる。前半から中盤にかけじっくり相手の走りを分析した後、後半で弱点を突いてぶち抜くのが彼女の走りスタイルなのだ。
ーいやー流石レッドサンズナンバー2、スタートダッシュも完璧。ナイトキッズの連中よりもいいんじゃない?それにパワーもあの伸びからして結構出てる、300はいってるかなー
それに相手は噂に聞く高橋兄弟の片割れ、高橋啓介。その実力をしっかり見せてもらおうと言わんばかりに明日香は笑みを見せつつ3速へとギアを叩き込み、アクセルを踏み込む。
相手よりは劣るとはいえこちらは270馬力も誇るリアエンジンの2.0L直列4気筒ターボ (3S-GTE)、瞬発力ならハイパワーFR車にも見劣らない。
ロータリーサウンドにも負けない甲高いエンジンサウンドを唸らせながら、追いすがるように速度を更に上げていく。
ーさてと…噂に聞く赤城レッドサンズの高橋兄弟、その片割れの実力を拝見させてもらいましょうか…!行くよMR2!置いてかれないようにしぶとく張り付こっか!ー
ゴクン!!
ゴァァァァァ
プシャァァァァ
スタートダッシュからのストレート勝負は啓介のFDに軍配は上がったものの相変わらず2台縺れた状態で競い合いながら、3つ目の急な左コーナーへと差し掛かった。
当然赤城がホームコースな以上、アニキ程ではないがコースレイアウトは嫌と言うほど叩き込まれているため、ギリギリまで引っ張った啓介はここぞと言わんばかりにフルブレーキングング。
身体に嫌と言うほど染み込んだヒールアンドトゥで2速にギアを叩き込みながらリアを滑らせ、派手だがハイスピードの四輪ドリフトでコーナーをクリアする。
ー…っ!ークワッ
ゴフッ!!
ウォンウォン
ギャァァァァ
今まではこれほどキレがあるかと言われれば怪しいレベルだったが、2台のハチロク…特に赤城の歌姫との一戦に感化されたことで走りに磨きが自然とかかってきているらしい。
流石はモータースポーツ出身が揃うレッドサンズでナンバー2と言われるだけはある、そんな華麗なハイスピードドリフトで立ち上がった様子を感心した表情で見ながら明日香も続くようにコーナーへと突っ込む。
ゴシャァァァァ
ーうひゃー流石モータースポーツ出身が揃うレッドサンズでナンバー2と言わるだけある…、ドリフトのキレ半端ないって…ー
「でも…ソッチのほうが私としては燃えるからいいんだけどね…!んじゃこっちも一気にいくよ!」
数日間だけとはいえガソリン代も惜しまずに走り込んだことでコースレイアウトはかなり叩き込まれたため、ギリギリのタイミングまで引っ張るとここ!というタイミングでブレーキペダルを一気に踏み込む。
ハイスピードからのフルブレーキング故、ブレーキローターを赤くさせながらヒールアンドトゥで2速へギアを叩き込み、FDにも劣らないハイスピードドリフトでリアを滑らしながらクリアしていく。
「…っと…!!」
ゴフッ!!
ギャァァァ
ゴシャァァァァ
その様子をバックミラー越しに見ていた啓介は、あのハチロクコンビほどではないが、どうやら口だけじゃなさそうだな…と思いながらすぐに視線を前へと向ける。
ーほう…なかなかいいブレーキングドリフトだな、腕は悪くはない…ー
相手がどれくらいの実力を持っていようが、得意とするホームコースでねじ伏せてしまえばいい。というかもし他所者に負けたとなればチーム恥になってしまうため、是が非でも負けるわけにはいかないのだ。
ゴシャァァァァ
ー…まっ相手がどうであれ俺には関係ない、チームのメンツにかけても負けるつもりはねーぜ!本気でねじ伏せてやる…!ー
2台が激しい競り合いをしている中、麓にて急遽涼介からの要請でゴール地点にスタンバっている賢太と史浩はうっすらと聞こえるエキゾーストサウンドを聴きながら今回のバトルについて話していた。
それもそのはず、レッドサンズのルールではよほどのことがない…いや涼介が許可しない限り他所のチームや走り屋とバトルをすることはない。ましてや今回のような急な挑戦状となればもっての他
「…にしても涼介さんがバトル許可するって珍しいですよね、普段じゃよほどのことがない限り他所の連中と地元じゃしないのに」
「それがレッドサンズ創設時からのルールだからな、ましてや今回みたいな急な挑戦状となれば話は別だ」
つまりその状況下でもバトルを受けた…ということはそれだけ涼介が注目する理由があるといことであり、実際電話でその話を聞いた時もそんな雰囲気を史浩は感じていた。
ただ急な話だったもので相手の情報などは一切入ってきておらず、分かっていることと言えば今走っているのが啓介だということぐらい。
「…本来なら断る案件だが、それを承知で受けたってことは…」
「涼介さんが惹かれるような理由があった…ってことですかね?」
「だろうな、だがあの時は急な話だったから相手の情報は聞き出せてない。分かってることと言えば啓介が走ってることぐらいか…」
とはいえ今ならある程度落ち着いている上、ゴールまでの猶予があるため聴けるのではないか…。
そう思った彼は信頼している啓介が負けるはずがない…と意気込む賢太を横目に、ポケットから携帯を取り出すと涼介の携帯へとかけていく。
「けど啓介さんなら大丈夫っすよ!なんたって赤城レッドサンズのナンバー2なんですから!あのハチロクコンビに比べたら他所者なんか…!」
ー…とは言うもの、あの涼介が例外を許したんだ…何かあるはず…。なら今のうちに聞いてみるか…ーピッ
3、4コールほど呼び出し音が鳴り響いた後、ガチャリという繋がった機械音が鳴り響いてから聞き慣れた声が電話越しに聞こえてくる。
涼介が出たことを確認すると早速疑問に思っていたことを質問しようとした史浩だったが、既に見通されていたのか向こうが先にその話題を切り出してきた。
トルルルル…
ガチャ
『もしもしオレだ』
「あぁ涼介か?史浩だ、今いいか?」
『史浩か、別に構わないが…。どうせ電話の内容は今回のバトルに関して…だろ?』
流石だな…と見事に当てられた史浩は一瞬観念した表情を見せると、先程聞けなかった今啓介がバトルしている相手に関しての情報。そして何故普段なら受け付けない地元で許可を出したのか…ということを質問していく。
「…流石だな、そうだ。そのことについて聞きたくて電話をしたんだ。さっきはドタバタしてて聞きそびれてたし」
『確かにそうだな、…それで聞きたい内容ってのはなんだ』
「…言わなくても涼介なら分かってそうだがな、とりあえず今啓介がバトルしている相手のこと。あとなんで地元で許可を出したのかを聞きたい」
もちろん聞かれたからには(聞かれる内容は知っていたが)答える必要があるため、まずは今バトルしている走り屋の情報に関して涼介は説明し始めた。
当然赤城レッドサンズの広報担当として活動しているため、今バトルしている走り屋が妙義で話題となっている女性のMR2乗りだと分かるとなるほどな…という表情を浮かべる。
『…ならまずは相手の情報だな、史浩。今妙義で話題になってる女性のMR2乗りって知ってるか?』
「知ってるも何も、よくナイトキッズの中里毅と庄司慎吾って奴とつるんで走ってる赤色のMR2だろ?赤城の歌姫ほどじゃないが、珍しい女性の走り屋で野郎共の中じゃ有名な話だ」
『あぁ、実はそのドライバーと啓介は今走ってる』
「ほう…」
だがその話を聞くだけだとレッドサンズ目当てに他所者が乗り込んできたようにしか思えない、どう考えた所で涼介が例外のバトルを認めるほどの理由でないのは確か。
本当の理由は別にあるのではないか…そう思った史浩だったが、それも涼介に見抜かれていたようで聞く前に当てられてしまった。
「けどその話を聞くだけじゃ、他所で走ってる走り屋が俺たちレッドサンズ…いや涼介達目当てで来たとしか…」
『流石史浩だな、確かにそれだけじゃ俺が許可する根拠にはならない。…要は本当の理由は別にある…って聞きたいんだろ?』
「……ったく、逆に当て過ぎて怖いぐらいだ。…いくらこの状況下じゃ限られるとはいえ…」
もちろん分かっているのなら勿体ぶらず教えてくれよ…と少し急かし気味で促した史浩だったが…、直後涼介が発した言葉を聞くや否や表情が一変。
思わず声を張り上げてしまい、隣で啓介が勝つと意気込みつつストップウォッチを握っていた賢太を驚かせてしまう。
「…ってか分かっているなら教えてくれよ、勿体ぶらずn……」
『赤城の歌姫、それが今回バトルを特例で受けた理由だ』
「……!?あっ赤城の歌姫だと!?そりゃどいうことだ…!!」
「……!?」
当然いきなり横で大きな声を出されたもので、びっくりした表情を崩さずに賢太は一体何があったのか…と慌てながら史浩に尋ねていく。
しかし当の本人にそれを気にするほどの余裕があるはずもなく、誤解しないよう補足で説明する涼介の話を聞きつつ、唖然とした雰囲気を見せていくのであった。
「どっどうしたんですか史浩さん!?いきなり大きな声を出して……ってか赤城の歌姫って言いませんでした!?」
『一応補足は入れておくが、今バトルしている子は赤城の歌姫じゃないぞ?…まあ繋がりがあるのは間違いないが』
ーおいおいどういうことだよそりゃ…、んなこと言われても余計に訳が分からんぞ…ー
暗闇に包まれ、昼間とでは全く想像出来ない静寂さに包まれた赤城峠。そんな静けさを蹴り破るように甲高いエキゾーストサウンドが響き渡ると同時、2台の車が激しく競り合うようにダウンヒルを疾走していた。
最初のコーナー連続区間を終えて比較的ストレートの多いセクションに突入している訳だが、MR2のステアリングを握りつつ明日香は今判明している啓介の車や走りの情報を簡単にだが纏めていく。
ゴァァァァァ
ーふむ…、とりあえず車のパワー自体は…私のよりあるのは確実。ストレートの伸びもめっちゃいいし…それに走りも流石にキレがあるー
確かにレッドサンズナンバー2ということもあってかなり手強いのは事実、実際序盤のコーナー連続区間ではいくら様子見していたとはいえ飛び込ませる隙を一切与えなかった。
しかしかといって勝てない相手なのかと言われると全然そんなことはなく、彼女曰く上手いことすればいけるのではないか…と思っているらしい。
ゴギャァァァ
ーしかも手強いったらなんのその…、序盤のコーナー連続区間なんて飛び込ませる隙一切見せなかったもん。いくら様子見してたとはいえ…ー
ゴフッ
ー…まっだからと言って勝てない相手か…って言われたらそんなことないけどね、こっちが上手いことすれば抜けそうな雰囲気あるのよねー…ー
だがそれもこちらが何かアクションを起こさない限りチャンスを切り開けない方法であり、ある程度啓介の走りを観察し終わった彼女はそろそろ行きますか…!という雰囲気を見せる。
当然そのオーラは前を走る啓介も察しており、そろそろ来るか…と眉を細めながら先程よりも警戒した表情を見せていく。
ー…でもその方法もこっちがアクション起こさないと永遠に仕掛けられない、…よしっ!丁度こっちの準備運動も出来たしいっちょやりますか!ー
ゴギャァァァ
ゴァァァァァ
ー……走りの雰囲気が変わった?…ってことはそろそろ仕掛けて来るつもりだな、さっきは前哨戦みたいなもんかー
しかし来ると分かっていても抜かれてしまえばその警戒もはっきりと言って意味はない、それを赤城の歌姫・秋名のハチロクで痛いほど叩き込まれた。
いかに先程からしている相手に飛び込ませる隙を与えないかが大切であり、特に馬力の差が縮まり易いコーナー区間での勝負は一番重要と言ってもいい。
ーってもそれが分かってるのに抜かれてしまえばそれでおしまいだ、赤城の歌姫と秋名のハチロクで嫌と言うほど叩き込まれたからな…ー
ゴフッ
ウォン
ーだからこそいかに飛び込ませる隙を与えないかが重要、相手はオレのFDより馬力が低いのは確実。なら来るとすればその差が埋まりやすいコーナー区間…ー
何度も同じやられ方はしないと言わんばかりのオーラを見せながら迫ってくる急な左コーナーに対して、フルブレーキングからのド派手な四輪ドリフトで相変わらずキレッキレの走りを披露。
向こうも察したな…とそのドリフトで感じた明日香もそれに応える形で同様にフルブレーキング、そしてヒールアンドトゥで2速に叩き込みながらお得意のブレーキングドリフトでFDにも負けない走りを見せていくのであった。
ー…同じ手法は何度もやられないぜ!このまま頭をしっかり押さえてゴールしてやる!せいぜい最後までついてこいよ!ー
ゴギャァァァ!!
ーおっ、向こうも察したな?上等、私もいつまでも後ろにいるつもりはないから!絶対にその速いFDをぶち抜いてあげる!ー
ゴクン!!
ギャァァァ!!