頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第三十話 嫌悪するワケ

 

 

 相変わらず日差しがカンカンに差し込んでくる中、渋川市内にある駅前ロータリーの路駐スペースには、鳩の近くに止まっている見慣れたハチゴーレビンの姿があった。

 もちろんその近くには地面に落ちている食べかす求めて地面をつつく鳩に囲まれる形で樹と拓海の姿があるのだが、何やら樹の様子がいつもと違うように見える。

 

 

「おぉい、本当だろうな拓海ぃ…。これでもしジョークだったら……絶交だからな…!!」

「……」

 

 

 どうやら事の経緯は昨晩拓海にかかってきたなつきからの電話が関係しているようで、以前話していた樹に紹介したい女の子が居るからその子と一緒に出かけないかとのこと。

 だがまだ半信半疑な樹は本当に大丈夫なのかよ…と信じられない口調でつぶやくが、拓海が心配しなくてもいいとフォローしていく。

 

 

「ってか本当に来るんだろうなぁ…?女の子連れて…」

「大丈夫だと思う、茂木がそう言ってたんだから。友達連れて来るって」

 

 

 まあなにせ女の子と遊びに行くなんて年齢イコール彼女いないという樹には夢みたいなことだろう、どんな子かな…と相変わらずガチガチに固まりながらもそう呟いた。

 

 

「可愛い子かな…?」

 

 

 しかしその想像でストッパーが解除されたのか、徐々に良からぬ方へと想像が膨らんでいき、何時ものモードに戻った樹の表情はもうスケベという言葉が似合うぐらいになっていく。

 

 

「ナイスバディかなぁ…?それとも…ちょー美人かなぁ!?なぁ…!?」

 

 

 だがそんな樹とは対照的に相変わらず落ち着いている拓海は、茂木から聞いた情報で中学時代の知り合いであるということを親友に伝える。

 するとびっくりするぐらいに我に戻った樹は、一瞬クールさを装いながらかっこ付けながらあまり期待し過ぎないことを宣言。

 

 

「茂木の中学時代の知り合いって言ってたけど…」

「…いや、俺ルックスはそこそこなんだ。あまり期待しすぎると外れた時がっかりするから」

 

 

 しかしやはり内心は楽しみで仕方ないようで、すぐに崩れながらニヤけた表情を見せると、同時に少し前に約束していたことを守ってくれた拓海に対して感謝の言葉を述べながら軽く膝でつついていく。

 

 

「うへへぇ、拓海ぃ~!お前ほんとっ約束守ってくれたんだな!!」

 

 

 最初こそ突かれただけでは表情をあまり変えなかった拓海だったが、嬉しさのあまり親友からヘッドロックのようなことをされると流石に表情が崩れた。

 オーバー過ぎるんだよと苦しそうに突っ込みを入れたが、樹はあまり気にしていないようでむしろ女の子乗せて秋名最速になるとか意味不明なことを口走る始末。

 

 

「おれいい友達もって幸せだよー!」

「おいおぃ…!!オーバーなんだよ…!」

「見てろよー!女の子隣乗せて…、秋名山最速の男になってやるー!!うわはっはっはっ!」

 

 

 …がそんなテンションアゲアゲでやかましい樹にトドメを刺すと言わんばかりに、鳩達が飛び上がるとその中の一匹が糞をボンネットに向けて投下。

 まあ案の定綺麗にど真ん中に命中したことで、樹は先程のドヤ顔からとんでもない悲鳴を上げながら急いでハチゴーに駆け寄る。

 

 

バサバサバサバサ

ポトッ

「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!?」

 

 

 その後すぐに飛んでいった鳩に不満をめちゃくちゃ漏らしていく樹だったが、今更そういったところで後の祭りというもの。

 とりあえずタオルで投下された糞を一生懸命拭いている樹を、ボーっとしながら見ていた拓海だったが約束の時間が近づいているため、そろそろ来てもいい頃だとふと口にしていく。

 

 

「やったな〜クソー!!俺のレビン俺の〜……」キュッキュ

「……もうそろそろ来てもいい頃だとは思うけど…」

 

 

 するとそういった直後、突然背後から大きな声と共にいきなり背中を押されたことで一瞬びっくりしたような表情を拓海は見せていく。

 だがすぐにその声の主に気づくと若干のジト目で後ろに視線を向けていくと、彼の予想通り背後からラフな格好をしたなつきがニヤニヤしながら顔を出してきた。

 

 

「わっ…!!」

「……っ!?………」ジー

「拓海くん待った?」

「おっ脅かすなよ……」

 

 

 しかしそんなことを気にしていないウッキウキな樹の呑気に挨拶を交わしながらやって来たことに気づくと、なつきは紹介するよと視線を2人とは違う方向に向けながらそう口にする。

 その視線の先には黒髪の短めツインテールな長めのズボンを履いたおヘソもろ出し女性が立っており、なつきはお互いの自己紹介をささっと済ませていく。

 

 

「ういーっす!」

「紹介するね、友達の沙織。拓海君と樹君」

 

 

 もちろん紹介された沙織も挨拶を交わしていくが、樹は何かビビッときたのか先程の呑気な表情が嘘のように消えてなくなっていた。

 だが沙織のニコッとした笑みを見せられると思わずうっとなってしまい、挨拶を返す拓海の横でいい顔だと呟くのであった。

 

 

「どうも」

「……」

「…♪」ニコッ

「ゔっ…!?…いい笑顔だぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあ樹の恋に花が咲きそうになっているのと同時刻、拓海達がいる同じ駅前ロータリーから少し離れたコンビニ。

 そこには見慣れた赤色のMR2と灰色のノースリーブと赤黒のシマシマショートパンツの私服に身をまとった明日香の姿があり、どうやら腕時計をチラリと時折見ていることから誰かを待っているらしい。

 

 

「ふーむ…、少し早く来すぎたか?とは言ってももう少ししたら来るとは思うが…」

 

 

 すると聞き慣れたエキゾースト音が耳に飛び込んでくるや否や来たかな?と口にしながら視線をそちらに向けていくと、1台のブルーイッシュシルバーメタリックカラーが特徴的なスターレットがコンビニの敷地へと入ってきた。

 

 

ウォンウォン

「…って噂をすれば来たな」チラッ

 

 

 どうやらこのスターレットのドライバーは明日香と知り合いのようで、入ってくるとそのまま彼女のMR2の隣へとバックで駐車。

 スターレットの心臓部でもある1.3L直列4気筒ターボ (4E-FTE)が静になるのと同時に、運転席側のドアが開き金髪のセミロングが特徴の女性が降りてきた。

 

 

ウォンウォン

ゴフッ

「……よっと」ボム

 

 

 彼女の名前は飯田由紀(いいだ ゆき)、拓海達と同じ高校に通う18歳の女子高生で明日香とは中学時代からの友人。

 金髪セミロングが特徴的ではあるものの、別に染めたというわけではなくれっきとした地毛だとか…。

 

 そんな由紀は親友と目が合うと笑みを見せながらお待たせと口にしながら、車を挟む形でお互いに挨拶を交わしていく。

 

 

「お待たせ明日香ちゃん、少し待ったかな?」

「全然ー、むしろアタシが早く来すぎたぐらいだよ」汗

 

 

 とまあそんなことを話しているとふと由紀が少し離れた先の駅前ロータリーにいる樹達に気づいたようで、おやっ?という表情になる。

 しかしそれも最初の方だけでありそんな彼らと共にいるなつきに気づくや否やげっ…という雰囲気を見せながら、あからさまに嫌そうな顔を見せていく。

 

 

「ん?あれは……樹君に拓海君かn…げっ……その近くにいるのって茂木……」

 

 

 なにせなつきを初めとして拓海達とは同じ高校通っており同学年、しかも樹とは高校1年生の頃クラスメイトだった経験もあるのだ。

 だがそれでも何故彼女にだけ嫌悪そうな顔を見せているのかと言うと、知っての通り拓海となつきは復縁してほぼ付き合っているようなもの。

 

 もちろんそれは由紀も知っていたのだが、ある日学校から帰宅途中にたまたま通り過ぎたベンツに見知らぬ男と乗っているのを目撃。

 過去に中学1年の時、母の浮気が原因で離婚している過去もある彼女にとって、拓海という相手がいながらパパ活に走るなつきは女の敵と言っても過言ではない。

 

 

ーなんでアイツが拓海君や樹君と……、パパ活してるくせによくのうのうと過ごせるもんだよー

 

 

 しかし完全には表に出していないようで、明日香に何か見つけたのかと訪ねられると何でもないと言いながら話をそらすように今夜行われる赤城でのバトルに話題を変える。

 

 

「ん?どーした由紀ちゃん、なんか気になるもんでもあったー?」

「えっ?あーううん、何でもないっ!それよりもさ明日香ちゃん、今日だったよね?赤城でのバトル」

「そーだよ、いよいよ今日だねー」

 

 

 もちろん明日香が負けるなどとは1つも想像していない…というか自分自身彼女に走りを教わっているため考えられないものの、相手はあの有名な赤城の歌姫。

 そのへんはどうなのか…と親友から尋ねられた明日香は、どうだろうと口にしながらも出来ることをやるだけだと笑みを見せていく。

 

 

「でも相手はあの赤城の歌姫なんでしょ?明日香ちゃんが負けるとは思ってもないけど…、実際どうなの?」

「うーん…、どうって言われてもなー。まあ出来ることをやるだけだよ♪」

 

 

 だが気合いだけではどうにもならないため、リラックスも兼ねてこうして由紀をドライブに誘ったというわけだ。

 バトル前にそんなことをしても大丈夫なのかと言う彼女に対して、家でおとなしくしているよりは全然気分転換出来るからいいと明日香は満面の笑みで返す。

 

 

「…まあでもそれだけじゃ私でもどうにもならないから、こうして由紀ちゃん誘ってドライブする訳だけど」

「大丈夫なのそれ、バトル当日のお昼に動き回って…」

「いーのいーのっ!こうした方が私としてはリラックス出来るから…!!」

 

 

 とまあそんな感じで話していたものの、いつまでも立ち話もなんだからということで早速本題であるドライブに2台で出ることに。

 自分が先導するからその後についてきてと告げると、明日香は愛車であるMR2の運転席に乗り込んでいく。

 

 

「んじゃ立ち話もなんだし、早速ドライブ行こっか!先導は私がするからその後ついてきてっ!」

「…りょーかい♪」

 

 

 バトル当日のお昼なのに変わらずなテンションに改めて親友のメンタル強さに感心していた由紀だったが、自分も遅れないようにスターレットの運転席ドアを開けながら乗り込む。

 

 

ーほんとっ明日香ちゃん凄いや(汗)あのメンタルは真似できそうにない…、っとわたしもそろそろ…ーボム

 

 

 すると2台の心臓部とも言える3S-GTEと4E-FTEが軽く咆哮するようにエンジンを始動。MR2を先頭にその後をスターレットが続く形で発進すると、エキゾースト音を奏でながらゆっくりとコンビニを後にしていくのであった。

 

 

ウォンウォン

ブロロロロロ

 

 

 

 

 

 

 

 

群馬県

渋川市某所

 

「なぁ聞いたか?」

「あぁ聞いたよ、うちのナイトキッズとよくつるんで走ってる滝沢明日香っていうMR2乗りが今日赤城でやるんだろ?赤城の歌姫と」

「最初聞いた時はびっくりしたぜ、まさか明日香からバトルを申し込むなんてな」

 

 

 当然明日香と友奈のバトルは群馬県内の走り屋にまたたく間に拡がり、ここ数日はその話で持ちきり状態になっていた。

 特にナイトキッズとよくつるんで走っている関係か、妙義での話題は他の峠以上に盛り上がっており一体どんなバトルになるんだとメンバー達は話し込んでいた。

 

 

「とはいえ明日香ちゃんも速いからなー、うちのナイトキッズのナンバー1を争う中里さんと慎吾さんとつるんでるだけはあるし…」

「けど歌姫はどうだろうな…、なんせ赤城レッドサンズ相手に2連勝だぞ。しかも地元の赤城で」

「果たしてどんなバトルになるのやら……」

 

 

 とまあそんな感じでワイワイガヤガヤしていたナイトキッズのメンバーだったが、その会話をたまたま耳にした前田宗一はほう…といった表情を見せながら聞いていた。

 

 丁度今日は休みということもあってか、せっかくなら今話題になっている赤城の歌姫のバトルを拝みでもいくか…と口にしていく。

 

 

「……」

ーなるほどなー、どーりで走り屋連中が騒がしいと思ったら…。丁度今日工場の仕事はお休みやしせっかくならいってみっか…噂の赤城の歌姫というもんも気になるしー

 

 

 するとそんな宗一を後押しするように今日何処で何時からやるという話も聞けたため、尋ねる手間が省けたなと内心思いながらも飲んでいた缶ジュースの空をゴミ箱に捨てながら愛車である白色のシビック・タイプR(EK9)の元へと戻る。

 

 

「そういえば何時からだったっけ?バトルって」

「確か赤城峠頂上で8時からだったような…」

ーなるほどな、赤城峠頂上で8時から…聞く手間が省けたわー

 

 

 運転席のドアを開けて乗り込むと、シビック…いやホンダの誇る心臓部VTECがエンジン始動と共に軽く咆哮。

 その後EK9に搭載されているB16Bサウンドを奏でながら、相変わらずバトルの話で持ちきりなナイトキッズメンバーを横目にファミレスを後にしていくのであった。

 

 

ブロロロロロ

 

 

 

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