頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第三十一話 AE86(結城友奈) VS MR2(滝沢明日香)

 

 

 明日香と友奈によるバトル当日

赤城峠頂上 ダウンヒルスタート地点

 

 

 それからバトル開始直前まで時間はあっという間に過ぎ去っていき、日が落ちた赤城峠は暗闇に包まれた空模様とは打って代わりたくさんのギャラリー達がコースの至る場に散るように陣取り賑わいを見せていた。

 

 やはりあの赤城の歌姫がバトルをするということで群馬エリアでは大きな話題になっているのだろう、とあるコーナーで陣取りながらあたりをキョロキョロ見渡していた池谷や健二は思わず驚きの声を漏らす。

 

 

「…にしても本当にギャラリーが多いよな、…流石友奈ちゃんといったところか…」

「そりゃレッドサンズ相手に連勝すりゃ嫌でも有名になるさ、下手したら今じゃ拓海以上に知名度あるかもしれないぞ」

 

 

 するとしばらくして特徴的なRB26サウンドが響いてきたと思ったら、ナイトキッズのステッカーを貼った黒色のR32 GTRがコーナー近くの駐車スペースへとやってきた。

 まあナイトキッズのステッカー貼っているR32となれば誰かなど一目で分かるというもので、池谷たちの予想通り運転席からナイトキッズリーダーでもある中里が姿を現していく。

 

 

ウォンウォン

「ん?ありゃR32か?」

「おっおい池谷、あれナイトキッズのステッカー貼ってあるぞ…もしかして」

「……」ボムっ

「もしかしなくても…ナイトキッズリーダーの中里だな……」

 

 

 とはいえ彼が赤城に来ること自体珍しいということではない。なんせ明日香がナイトキッズとつるんで走っていることは知っているため、そんな彼女が赤城の歌姫とバトルするなら来て当たり前のようなものだろう。

 

 

「まあでも別に珍しいことではないよなぁ…、噂じゃナイトキッズのナンバー1を争う中里って奴ともうひとり相手によくつるんでるって話だ」

「そりゃ来ない方が逆におかしいってもんだよ」

 

 

 だがそれよりも池谷達が気になるのはバトルの行方、いくら友奈のホームコースとはいえど相手は話を聞く限り後追いにめっぽう強いとか…

 つまり下手すれば彼女の走りが丸裸にされてしまうどころか、弱点すら上手く突かれてしまう可能性があるということだ。

 

 

「だがそれよりも問題なのが相手のMR2乗りなんだよな…、友奈ちゃんの話を聞く限りじゃ後追いに強いと聞くし…」

「けどここは友奈ちゃんって子のホームコースだろ?それにレッドサンズ相手に連勝してるなら尚更…」

「あほう、後追いが強いってことは下手すりゃ友奈ちゃんの走りが分析されちまうってことだ。相手の実力にもよるが場合によっちゃ苦しい戦いになるぞ、健二」

 

 

 そんなことを池谷達が話している頃、頂上のスタート地点には今回のバトル主役の1人である友奈と羽南の姿が他の走り屋やギャラリー達に紛れるようにいた。

 しかし羽南はどうやら寝不足なのか、眠たそうにあくびをしており、その様子を見ていた友奈が大丈夫なにかと声をかけていく。

 

 

「ふぁぁ……眠む……」

「大丈夫?羽南ちゃん、なんか寝不足っぽい感じだけど……」

 

 

 だが眠れなかったのが昨夜家のプールで遊んだ時に祐也にされたラッキースケベで完全に意識してしまったことが原因など、口が裂けてもいえないので適当に誤魔化してその場を切り抜けようとする。

 

 

「あっえっ、いやー今日のバトルが楽しみすぎて全然寝れなくてさー…あはは」

ーいっ言えない…、祐也にラッキースケベされて意識するようになったとか…!ー

 

 

 しかしそのタイミングで当時の張本人でもある祐也が合流したことで、思わず裏返った声を出してしまったことでこの試みも無駄になってしまう。

 普段祐也に見せないような反応を見せたことに、友奈は知らないうちに何かあったな?…と内心思いながら少し悪笑みを見せていく。

 

 

「ういーっす、少し遅れたわ」

「はにゃ!?…あっゆっ祐也か、やっやほー///」

「……」ニヤリ

ーふーん、この感じ…さてはなんかあったかな?ー

 

 

 だが流石に色んな人がいる場所で尋ねるほど性格は悪くないようで、バトルが終わって落ち着いてから本人に確かめてみるか…と思いながらいつもの表情に戻す。

 するとそのタイミングで聞き慣れた声が聞こえてくると共に、視線を向けた先には明日香と友奈達にとっては初対面の由紀の姿があった。

 

 

ーまっ流石にここで聞くのもアレだし、バトル終わって落ち着いてからでも…ー

「おっいたいた、やっほー3人共♪」

「ん?あー明日香さん、どうもです」

 

 

 当然明日香と一緒にいる彼女のことはほとんど知らないため、そちらの方は…と尋ねた友奈の質問に答える形で明日香が由紀のことを説明。

 もちろん由紀もそれに続く形で自己紹介をしながら、明日香のMR2の横に止まっているスターレットを指差しながらついでに紹介していく。

 

 

「…?そちらの方は…」

「あーそういえば初めてだっけ、アタシのクラスメイトで中学からの親友の……」

「飯田由紀、これでも走り屋であそこのスターレット乗ってるの。よろしく♪」

 

 

 親友の挨拶が終わると明日香は今度由紀に対して、友奈たちの自己紹介をしていき、3人もそれに答える形で簡単にだが挨拶と名前を名乗っていく。

 

 

「んで由紀ちゃん、こっちが最近知り合った走り屋仲間の……」

「結城友奈って言います、白黒のハチロクで赤城の歌姫やってるのでお見知り置きを♪」

「降矢祐也だ、青の初代ランエボに乗ってる。よろしく」

「はいはいー♪焔羽南でーすっ!友奈と最速コンビ目指してまーす!あっ車はあそこの80スープラねっ!」

 

 

 出来ればそこから色々と交流をしたかったのだが、あっという間にバトル開始の時刻が迫っていることに気づいた明日香が友奈に向き直りながら今夜の本題に入ることに。

 もちろん友奈もそれは分かっているため、先程羽南に対して見せていた悪笑みが嘘のように真剣な表情を見せながら話を聞いていた。

 

 

「……っともうこんな時間か、出来ればこのまま由紀の紹介したかったが…。友奈ちゃん、そろそろ始めてもちいか?」

「……はいっ!問題ないです、こっちはいつでもいけます…!!」

 

 

 それを聞いた明日香は了解と言わんばかりに笑みを見せると、再度確認する形で今夜のバトルに関しての流れを説明していき、友奈も間違いがないことを確認していく。

 そして確認を含めての話が終わるといよいよバトル開始に向けて動き出すようで、明日香がスタートラインに車を並べるように指示する。

 

 

「オッケー、わかっているとは思うがバトルはダウンヒル1本。よーいドン方式で先にゴールラインを越えたほうが勝ちだ、問題ないな?」

「はいっ、それで合ってます♪」

「なら早速バトル始めるとするか、あそこのスタートラインに車並べてくれないか?私が手前で友奈ちゃんが奥って感じで」

 

 

 もちろん友奈もわかった旨を伝えると、祐也達にそれじゃ行ってくることを伝えながらスタートの合図を羽南にお願い出来ないかと依頼。

 当然羽南も断る理由がないため、いいよと答えながら駆け足でスタートラインまで移動していく。

 

 

「分かりました♪あっ羽南ちゃん、スタートの合図お願いできる?」

「ほいほいー♪おまかせあれ!」

 

 

 その間にも2人がそれぞれ乗り込んだハチロクとMR2のエンジンが始動、双方ともリトラクタブルヘッドライトを開きエンジンサウンドを奏でてながらゆっくりと発進。

 

 するとギャラリーたちも2台が動き出したことでいよいよ始まることを察したようで、ざわつきながらも思わず釘付けになってしまう。

 

 

キュルル

ウォン!!

ブロロロロ……

「2台が動き出した…!!いよいよおっ始めるぞ…!!」

「やべぇ…鳥肌立ってきた…、一体どうなるんだこのバトル……」

「地元でのバトルだから歌姫が当然有利だろうけど…、明日香ちゃんもなかなかだからな…ナイトキッズとしては負けてほしくないぜ…」

 

 

 そんなざわつき始めたギャラリー達から少し離れた場所には、見慣れたFCとFDが2台仲良く停車しており当然ながら近くには高橋兄弟の姿も確認できた。

 やはり地元でのバトルな上に双方とも啓介を倒すだけの実力を持っているため、主に涼介はかなり注目しているのだろう。

 

 実際啓介の言う通り今回のバトルではコーナーの至る場所にレッドサンズの偵察要員を配置しており、隅から隅まで情報収集を行うつもりだとか…

 

 

「…いよいよ始まるみたいだぜ兄貴、…ってか驚いたぜ。まさかコーナーの至る所にうちの偵察要員ほぼ全員駆り出して配置してんだからよ」

「当然だ、彼女達はここでお前を倒すほどの実力を持っているんだ。それに赤城の歌姫は今後仕留める目標、情報収集はしっかりとしないとな」

 

 

 相変わらず本気になったアニキは恐ろしいぜ…そんなことを口にしながら頭をポリポリしていた啓介だったが、ふと自分が明日香とバトルをしたあとに涼介がしてきた提案のことを思い出す。

 赤城の歌姫に関する有益な情報とは何なのだろうか…そう思った啓介はこの際ということで、何気なく尋ねていく。

 

 

「……そういやアニキ」

「ん?どうした啓介」

「俺があのMR2乗りの女走り屋とバトった後、赤城の歌姫に関して有益な情報があるとか言ってたけど…あれどういう意味なんだ?」

 

 

 啓介からそう聞かれた涼介は一瞬考えるような素振りを見せながらも、別に隠す必要もないことから明日香に何を話そうとしていたのかを質問みたいに振りながら説明することに。

 確かにダウンヒルではトップクラスの実力を赤城の歌姫は有しており、秋名のハチロク以上に勝負強さが自慢でもある。

 

 

「……そうだな、啓介。お前は赤城の歌姫をどう思う?」

「え?いきなりかよ…、まあ悔しいが走りもいいし勝負強さもあってつけ入る隙がないっていうか…」

「啓介の言う通りだ、彼女は秋名のハチロク以上に優れた走り屋とも言えるだろう。もちろん藤原が劣っているわけではないが…」

 

 

 一見すれば走りもいいし隙もないようにも思えるが、涼介曰く赤城の歌姫には特徴的な走り故の弱点が存在しているとか…

 

 

「それだけ聞けば彼女につけ入る隙はない、…だがあの特徴的な走りにはそれ故に克服出来ない弱点が存在しているんだ」

「へ?特徴的な走り故の弱点…、なんだそりゃ…」

 

 

 しかしそこから先を教えてくれるほど甘くはないようで、答えはバトルの最中に教えるとしよう…といいところではぐらかされてしまう。

 相変わらずな涼介の優柔不断な発言に思わずため息を零していた啓介だったが、直後スタートの準備が整ったのか、合図を任された羽南の元気な声が響き渡ってきた。

 

 

「…まあ、答えはバトルの最中に教えるとしよう。ネタばらしは好きじゃないからな」

「…はぁ、勘弁してくれよアニキ。相変わらず優柔不断なんだk『それじゃ!カウント始めるよー!!』」

 

 

 どうやら啓介と涼介が話している間にスタート準備が整ったようで、スタートラインに並ぶ形で停車していた2台はエキゾースト音を奏でながら合図を今か今かと待ちわびていた。

 するとカウントダウンが始まる直前、明日香はお互いの車の窓が空いていることを確認すると、友奈に今回のバトルでの意気込みを語りだす。

 

 

ウォンウォン!!

「ねぇ!友奈ちゃん!」

「ん?どうたしの明日香ちゃん…!」

「今回のバトル、悪いけど勝たせてもらうから♪」

 

 

 最初こそ驚いた表情で明日香を見つめていた友奈だったが、すぐに真剣な笑みを見せると自分こそ絶対に負けないから…!と負けずに言い返していく。

 その間にも2台の準備が整ったことを確認した羽南は、片手を高く上げながらカウントダウンを始める。

 

 

「……私だって!明日香ちゃんに負けるつもりないから…!!」

「おーいいねっ!こりゃ気合いは入りそーだ♪」

「それじゃカウント始めるよー!!

スタート5秒前!!

 

4っ!!

 

3っ!!

 

2っ!!

 

1っ!!」

 

 

 指が全て降りたタイミングで羽南がスタートを示すように拳を勢いよく振りかざすと、弾かれたように2台は激しくリアをホイルスピンさせながらも飛び出した。

 当然ギャラリーたちも目の前を並走しながら爆走していく2台を見るやアドレナリンドバドバの絶好調で盛り上がり、由紀や羽南も混じるようにそれぞれの親友に声援を送っていく。

 

 

「GOっ!!」

ドギャァァァァ!!

ごしゃぁぁぁぁ!!

 

「いよいよ始まったぞ!!」

「くぅ~キョーレツ!!アドレナリンドバドバだぜ!やっぱ上手いやつのスタートダッシュは格別だ!!」

「頑張れ明日香ー!!派手にやっちゃって!!」

「いっけー友奈!!歌姫の実力を見せつけちゃえ!!」

 

 

 その間にも飛び出した2台はしばらく並走するように走っていたのだが、明日香はタイミングを見計らいつつ僅かにアクセルを微かに緩める。

 いくら相手がレースエンジンを搭載して高回転に強いハチロクとはいえ、ミッドシップで2.0L直列4気筒ターボの270馬力もあれば、明日香の実力で前を抑えることはいとも簡単だろう。

 

 しかし彼女の走りスタイルは序盤は先行の走りの観察で相手の実力を把握して、中盤以降で仕掛けるタイプ。なので後追いのほうが絶対的に有利なのだ。

 

 

ーさーてとっ、友奈ちゃんには申し訳ないけどお約束の展開だから先行って貰うね?私は後追いで輝くもんなので♪ー

カパッ

 

 

 もちろん友奈も明日香の企みには気づいていたが、むしろその挑戦に受けてて立つといわんばかりの表情を見せると迷わず更にアクセルを踏み込む。

 そんな彼女の気持ちに答える形でハチロクは甲高いエンジン音を咆哮させながら、高回転までタコメーターを振り切りながら熱気に包まれた赤城のダウンヒルへと疾走していくのであった。

 

 

ー後追いか…、いいよっ!その挑戦受けてあげる!!ー

ゴクン!!

ウォォォォンン

 

 

 

 

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