頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第三十三話 歌姫の弱点

 

 

 

 夜ということもあってか昼間の賑やかさが嘘のように静まり返った赤城峠、だか夜は夜で昼間とは違った一面を見せることも…。

 

 暗闇に包まれ街灯の光や月の明かりで一部照らされた山に児玉するように甲高いエキゾースト音を響かせながら、友奈のハチロクと明日香のMR2は激しく攻め合いながらダウンヒルを疾走していた。

 

 

ギャァァァ!!

ゴァァァァ!!

 

 

 コーナーが迫ると慣れた手つきで2台ともフルブレーキングからのヒールアンドトゥで2速にギアを叩き込みながらステアリングを切り込み、リアを滑らせ白煙を上げながらド派手なドリフトで流していく。

 当然その様子はギャラリーたちも目撃しており、歓声を上げながら各々感想を口にしつつ目の前を通り過ぎる2台を見送る。

 

 

ウォンウォン!!

ギャァァァ!!

「すっげー!!見ろよあの2台!!ギリギリのツインドリフトすんげーや!?」

「やっぱうめー奴はうめーぜ!あんなの相手の実力信用してなきゃ無理だ!」

「赤城の歌姫も流石だがあのMR2のやつもなかなかの腕だぜ!!」

 

 

 もちろんコーナーの要所要所にレッドサンズメンバーで構成された偵察要員が配置されており、疾走して走り去っていく2台を見ながらメンバーの1人が無線機でスタート地点にいる史浩へと報告していく。

 

 

『こちら61コーナー!!今通過しました!!位置は変わらず赤城の歌姫が先行!ですがMR2も離されずに食いついてます!』

 

 

 それを聞いたスタート地点にいる史浩はそうかと返答して無線を切ると近くでFCに寄りかかっていた涼介にメンバーから送られてきた情報をそのまま伝える。

 もちろん予想はしていた展開なのか特に気にした様子も見せずに涼介はそうかと返答していき、隣にいた啓介は当たり前だと言わんばかりの口調で話していた。

 

 

 「そうか、わかった(ピッ)。相変わらず赤城の歌姫が先行、だがあのMR2もぴったり張り付いてるそうだ」

「ったりめーだろ、俺を地元で負かしといてあっさり蹴りなんてつけられちゃーそれこそ示しがつかねぇ…」

 

 

 近くでは無線機の会話を聞いていた樹が拓海達の元へと戻ってきてからその旨を話しており、それを聞いた祐也はそう簡単には決着がつかないよなぁ…と口に零していく。

 確かに友奈の実力は折り紙付きだがそれは明日香も例外ではなく、それこそナイトキッズの上位グループと絡める実力を持っているため由紀の言う通り一筋縄ではいかないだろう。

 

 

「さっき聞いたら友奈ちゃんがまだ頭押さえてるって、けど明日香ちゃんも負けてはなさそうだぜ」

「…だよなー、いくら折り紙付きの実力がある友奈でもそう簡単には決着をつけれーねよなぁ…。相手が相手だし」

「そりゃそうよ…!なんせこっちはナイトキッズとつるんでるし、それに走りを教えて貰った私だからこそ分かるしね…!」

 

 

 だが2人の会話を見ていた羽南は何処となく嫉妬しているのか、何とも言えないような感情に包まれていた。今までは祐也が他の女の子と話していても気にならなかったのに、意識するようになってからは気になって仕方ない様子。

 

 

「……」

ーなんでだろう、今までは気にならなかったのに…。祐也が他の女の子と話してるとなんでかモヤモヤする…ー

 

 

 しかし彼女の変化に気づいていない他のメンバーは相変わらず2人のバトルに関して話し合っていたのだが、ふと樹が明日香が友奈を抜くとしてもどう仕掛けるのかと疑問を口にする。

 確かに明日香も速いのは速い、しかし友奈には現状致命的な弱点が見当たらない以上真っ向勝負が続く現状では抜くチャンスが考えられないのだ。

 

 

「でもさ、1つ気になったんだけどさ」

「ん?なんだイツキ」

「いやさ、確かに明日香ちゃん速いけど…今の友奈ちゃんを抜くチャンスってあるのかなーって…。ほら友奈ちゃんの走り弱点があるようには見えないし…」

 

 

 言われてみれば確かにそうであり、伊達に親からの英才教育で叩き込まれてるだけはあるからな…と祐也が呟く。

 もちろんそれは由紀も同様であり、明日香に勝っては欲しいものの真っ向勝負で歌姫の地元赤城で勝つとなればかなり厳しいよねと苦笑いを浮かべる。

 

 

「…まあ確かにそうだよな、アイツ親から英才教育みっちり受けてる上であの走りだ。ぶっちゃけ隙が見当たらん」

「それは激しく同意、私も明日香ちゃんには勝ってほしいけど…赤城の歌姫相手に地元勝負となると…相当タイミング合わないと厳しい気が…」

 

 

 だがその2人の反応を否定するように、拓海がそんなことはないんじゃないかと否定気味で珍しく口にした。

 確かに明日香が友奈相手に赤城でぶち抜くとなれば難易度的は高い、しかし拓海に言わせれば友奈にはまだ露見していない弱点があるのではないか…と踏んでいるらしい。

 

 

「…いや、それは違うと思うよ。確かに友奈ちゃんは速いけど…、だからって弱点がないわけじゃない」

 

 

 それを聞いた羽南がどういうこと?と首を傾げながら拓海に尋ねるが、彼自身も詳しくは分かっていないようでなんとなくそう感じたとか…。

 なんだそりゃ…と抜けたような表情を見せていたが、そんな親友に対して多分バトル中にそれがわかること…そして明日香がそれに気づくかがターニングポイントだと拓海はそう口にしていくのであった。

 

 

「?それってどういうこと」

「あっいや俺もイマイチわかってないんだけど…」

「なんだよそれ…、ピンとこーねな」

「…まあバトル中に分かるよきっと。けどそれが多分…いや確実にバトルのターニングポイントに俺はなると思う」

 

 

 

 

 

 

 

 拓海が何かしら感じていたのと同時刻、友奈のハチロクを猛追するようにMR2を走らせていた明日香は何かに気づいたのかあれっ?という表情になりながらステアリングを握っていた。

 

 

ゴシャァァァァ!!

「ん?」

ーあれっ…これって……ー

 

 

 最初こそ気の所為かと思っていたものの、ある特定のコーナーを何度かクリアしていくうちにあれっ?という疑問は確信へと変わっていく。

 

 

ーいやそうだ!気の所為じゃない!ってことは…ー

ギャァァァ

 

 

 どうやら友奈の走りを後ろで観察していたことで彼女の弱点に気づいた様子、となれば仕掛けないという選択肢は彼女の性格上まず考えられないだろう。

 次のコーナーで早速仕掛ける…!内心そう思いながらも笑みを見せつつアクセルを踏み込むと、甲高いエキゾーストを響かせながらプレッシャーをかけるために車間を詰める。

 

 

ー…よし…なら仕掛けないと損…だよね!悪いけど友奈ちゃん!このバトル…貰った!ー

ゴクン!!

ゴァァァァ

 

 

 当然雰囲気が変わったことは前を走る友奈も気づいており、何か仕掛けてくる…内心そう思いながらバックミラーでピタリと張り付くMR2のヘッドライトを見つめた。

 しかしだからといって引く訳もなく、何を企んでいるかはわからないがこのまま全力で逃げ切る…!そう意気込むとハチロクの高回転エンジンを唸らせながら負けじまいと加速していく。

 

 

ゴァァァァ!!

ーっ!明日香ちゃん雰囲気変わった…何か来るかもこれ…、けど…!だからってすんなり譲りたくはないね…!このまま逃げ切らせて貰うよっ!ー

 

 

 もちろんヒートアップしつつある2台のエキゾースト音は43コーナーに陣取っていたギャラリー達にもしっかりと聞こえてきており、そろそろだな…とざわつきながら陣取るように待ち構えていた。

 

 

ゴァァァァ

ギャァァァ!!!

「来たぞ…そろそろ来るんじゃねーか?」

「あぁ…、白熱してんのが音だけでひしひしと伝わってくるぜ……」

 

 

 ちなみにそのギャラリー達に紛れるように峠の三人娘がさも居て当たり前と言わんばかりの雰囲気を見せながら(主に灯が)立っており、灯が今か今かと待ちわびるようにスタンバっていた。

 

 

「きたきた…!!もうすぐ来るんじゃない?ってか丁度ギャラリーしてるコーナーでヒートアップしてくれるとかついてるかも!」

ゴァァァァ

 

 

 しかしその隣では親友を横目に苦笑いを浮かべている凪沙の姿があり、なんとなく予想はしていたもののまさかまたここ(群馬)に来るとは…と口にする。

 もちろん2人がいるということは当たり前ながら香苗の姿もあり、ちょっと呆れている凪沙をまあまあと宥めていた。

 

 

「…まあ予想はしていたけど、またここに来るとは…完全にあのハチロクに虜になってるわね…灯…」汗

「あはは…(汗)まあ気持ちは分からなくはないけどね、私もハチロク乗ってたから…」

 

 

 その間にも徐々にエキゾースト音が大きくなってきたと思ったらヘッドライトの光が道を照らして少ししたタイミングで、影から勢いよく2台が飛び出すように姿を現す。

 相変わらずハチロクが先頭なのには変わりないもののそれでもぶつかりそうなほど密着している2台に、ギャラリー達はアドレナリンドバドバで盛り上がっていく。

 

 

ギャァァァ!!

ウォォォァア!!

「きたきた!!2台そろって突っ込んでくるぞ!!歌姫のハチロクが先頭だ!!」

「流石赤城の歌姫!!隙すら感じさせないってところか!!」

「だが後ろのMR2も負けてねーぞ!きー抜いたらすぐぶち抜きそうな勢いだ!!」

 

 

 そんな大盛りあがりなコーナーに突っ込んだ友奈は慣れた手つきでフルブレーキングしつつヒールアンドトゥで2速にギアを叩き込む。

 その後はいつものように綺麗なライン取りをするためにステアリングを調整しながら切り込もうとしたのだが…

 

 待ってましたと言わんばかりのタイミングで明日香のMR2が僅かに空いたアウトにねじ込むように突っ込んできた。

 

 

「っと!」

ゴクン!!

ウォンウォン

ー貰った!!ここしかない!!ー

ギャァァァ

 

 

 もちろん仕掛けてきたことは友奈も気づいてはいたものの、気づいた頃には完全に横に並ばれたせいでブロックするのはほぼ困難な状況に…。

 …いや明日香の得意としているブレーキングだからこそなせた技と言ってもいいだろう、ほぼ同じタイミングでフルブレーキングをした2台はブレーキランプを光らせながらリアを滑らせるようにド派手な四輪ドリフトでコーナーへと突っ込む。

 

 

「嘘っ!?」

ーっ!このタイミングじゃブロック出来ない…!!ほんとっ明日香ちゃんのブレーキング鋭すぎる…っ!ー

ウォンウォン!!

ギャァァァ!!

「ここで来るか!?MR2が横ならんだぞ!!」

「今まで並ばれたことがない歌姫が…どうなってんだこりゃ!?」

「っ!2台そろって突っ込んでくるぞ!!」

 

 

 とはいえ2台同時にコーナー勝負となるとラインも制約されて思うように走れない上に、普段仕掛ける側のほうが多い友奈にとって主導権を握られるというのはかなりキツイものがある。

 当然勢い任せに突っ込んだ明日香はそんな彼女にもお構い無しにガンガンに攻めていき、ドリフトでジリジリとアタマを出していく。

 

 

ギャァァァ!!

ーあーもう…!ラインの主導権握られてるから思うように走れない…っ!いつもは握る側だったのがここにきて響いて…!ー

ーやっぱり思った通り!あとはここまでねじ伏せれば立ち上がりの加速勝負で!ー

 

 

 その様子はギャラリーたちは驚きを露にしながらまさかレッドサンズが手を焼いていた歌姫を呆気なく抜かれている光景に声を上げながらざわついていた。

 

 

「ウッソだろ!?ここで仕掛けるのかよ!!」

「レッドサンズがあれだけ苦戦してる赤城の歌姫を呆気なく……、なにもんなんだよあのMR2のドライバー……」

「流石はナイトキッズの中里さんが認めているだけはあるな……、女だからって油断ならねーぜ…」

 

 

 もちろんその間にも目の前を勢いよく通過した2台だったが、やはりレース用エンジンを積んでいるハチロクとはいえ馬力も上で立ち上がりのいいミッドシップ相手に立ち上がり勝負はかなりキツイ。

 

 案の定立ち上がりの加速勝負でジリジリとハチロクは後退していき、次のコーナーに差し掛かる頃にはMR2が完全に頭を押さえる形で突っ込んでいくのであった。

 

 

ギャァァァ!!

ー…流石に立ち上がり勝負じゃ加速のいいミッドシップ相手には無謀か…、ほんとっ明日香ちゃんに一杯喰わされたよ…ー

ーよっしゃ!頭とった!!このまま逃げ切らせて貰うからね…!!ー

 

 

 その様子を見ていた香苗はMR2のドライバーのテクニックに興味を示しており、あの僅かなチャンスをモノに出来るとはなかなかやるじゃないと口にしながら2台見送っていく。

 隣では凪沙が先ほどのコーナー入り口での勝負で偶然か必然か一瞬ハチロクの突っ込みが甘かったことを見抜いており、恐らくその隙を突いたんじゃないかと指摘する。

 

 

「はえー、あの僅かな隙間にねじ込んで抜くとは…なかなかあのMR2乗りもやるわね」

「まあそれもあるけど一番はさっきの突っ込み勝負、偶然かどうかわからないけどハチロクの突っ込みが一瞬甘かった。それを上手く突いたんじゃないかしら」

 

 

 当然このまま続けば明日香に勝敗が上がりそうではあるが相手はレッドサンズ相手に連勝を続けている赤城の歌姫。

 そう簡単に終わるはずがある訳もないどころか、ドヤ顔で口していく灯の言う通りこれからが本番と言っても過言ではないだろう。

 

 

「まあこのまま行けばあのMR2が勝ちそうではあるけど……、あのハチロクさんも諦めてないから案外これからが本番かもね」

「そう!凪沙の言う通りだよっ!私が見抜いた赤城の歌姫さんがそうやすやすと負けるわけがないからねっ、ここからが面白くなるってもんよ!」

 

 

 もちろんそれ以外にも負けてほしくないという思いが灯にはあるようで、夜空を見上げながら内心意気揚々に意気込んでいくのであった。

 

 

ーまっそれ以外にも負けてほしくないってのもあるかな、私とバトルするまではしっかり楽しませて貰わないとっ♪ー

 

 

 

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