頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

37 / 45
第三十五話 ガチンコバトルの行方

 

 

 赤城峠最終セクション、最終コーナーから2つ手前の右コーナーには上と同様に多くのギャラリー達が陣取っており、聞こえてくるエキゾースト音を聞きながら今か今かと待ち浴びるようにざわざわしている。

 

 その中でに紛れるように陣取っていた池谷や健二の2人も例外ではなく、歌姫が抜かれたという情報は既に耳にしていたためそわそわしながら話していた。

 

 

ギャァァァ

「にしても友奈ちゃんが抜かれるとはなあ……、びっくりだよ本当」

「あぁ、レッドサンズ相手じゃほぼ負けなしだったんだが……やっぱナイトキッズのツートップとつるんでるだけはあるよ」

 

 

 とはいえこのまま走られると間違いなく歌姫が負けてしまう可能性が出てくるため、池谷は表上では平常心を保っているものの内心はかなり心臓バクバクで冷や汗を垂れ流していた。

 

 

ーとは言っても、このまま走られると友奈ちゃんの負けは確実……もちろん諦めてるとは思ってもないが……心臓バクバクだぜ…ー

 

 

 そんな池谷の不安を他所に2台は激しい一進一退の攻防戦を繰り広げており、コーナーに差し掛かると、フルブレーキングで減速。ヒールアンドトゥで2速にギアを叩き込んでステアリングを切り込み、四輪の全開ドリフトでコーナーを流していく。

 

 

ウォンウォン!!

ドギャァァァァ

 

 

 2台とも綺麗なツインドリフトを彷彿させるようにコーナーをギリギリの密着具合で流していくのだが、やはりリアタイヤにガタが来ている明日香のMR2はかなりしんどいようで少しふらつきながらガードレールギリギリに立ち上がる。

 

 

ゴォォォァァァ

「ちっ…!!」

ーリアタイヤが言う事を……、あーもう後少しだから落ち着いて…!!ー

 

 

 まあそんな感じでなんとか制御している明日香に対し、お得意のライン走りをキープしていた友奈のハチロクはまだタイヤに全然余裕があるため、非常に安定した走りでMR2のリアに張り付きながら綺麗なドリフトでコーナーを脱する。

 

 

「よっと…!!」

ドギャァァァァ

 

 

 当然観戦していたギャラリー達は惚れるようなドリフトやライン取りにアドレナリンドバドバでテンション最高潮になっており、目の前を勢いよく通過する2台を見送りながら声を上げていた。

 

 

ゴォォォァァァ

「すっげー!!2台ともギリギリのドリフトすんげーや!!」

「MR2もそうだが、歌姫はやっぱ格別だな…!!ドリフトのキレがあるし、なにより見てて惚れちまうようなライン取りだ…!!」

「流石は赤城の歌姫って呼ばれるだけある……くぅー!最高だぜこりゃ!」

 

 

 とはいえいくらタイヤが苦しいとは言えど今のところなんとか制御出来ている上にチャンスを相手に与えておらず、このまま最終セクションのコーナー2つ、3つクリアすればゴールは目前。

 最後まで気を抜かなければ勝てる…!そう意気込んでいた明日香はヘッドライトの光に照らされるように目の前へ現れた右コーナー(No.18)を確認すると、慣れた手つきでヒールアンドトゥでギアを2速に叩き込みながらフルブレーキングをかましていくのだが…

 

 

ーあとコーナー3つクリアすればあとはゴールするだけ……、相変わらず苦しいことには変わりないけど……このまま隙さえ与えなければ…!!ー

ゴクン

ウォンウォン!!

 

 

 しかしやはり限界に達していたタイヤでは踏ん張りが利かなかったようで、ブレーキングドリフトで流していたリヤタイヤが完全な熱ダレで制御不能になってしまいとっ散らかってしまう。

 もちろん明日香もそれに気づいて慌てて立て直そうとしたのだが、車体が完全にコーナーの途中で横を向いてしまい時すでに遅しな状態に⋯

 

 

ギャン!!

ギャァァァ

ーやば!?完全にバランス崩した⋯!!とりあえず立て直し⋯⋯って駄目かこれ⋯!完全に横向いたし⋯ー

 

 

 こうなってしまったら今できることと言えばガードレールや後続の車にぶつからないように逃げるようにスピンすること、どうにか当たらないように心で祈りながらもステアリングを上手いこと微調整して車をスピン。

 

 当然その様子は後続の友奈も目撃していたが、いつかこうなることは予想していたのか特に焦る様子も見せずに慣れた手つきでステアリングとアクセルを微調整して明日香が開けてくれたスペースにハチロクを突っ込ませた。

 

 

ーこうなったら上手いことスピンして避けるしかないか⋯!!お願いだから上手いこと抜けてよ友奈ちゃん⋯!!ー

ギャァァァ

ー⋯ビンゴっ!やっぱりスピンしたか⋯っでも明日香ちゃんが開けてくれたスペースがあるから⋯!ー

ゴクン

ゴァァァァ

 

 

 18コーナーに陣取っていたギャラリー達は目の前でスピンしていくMR2を見て一瞬突っ込んでくるかもと思ったらしく、慌てて退避しかけるがその後空いたスペースにねじ込むように入ったハチロクを見るやその足を止めて驚きの声を上げる。

 

 

「うぉ!?MR2がスピンしたぞ、ってかこっち来るんじゃねーか!?」

「たっ退避⋯!!巻き添えだけは⋯⋯、っておいハチロクが突っ込んできたぞ!!」

「うひゃー!?あの僅かなスペースにねじ込みやがった⋯!!しかもほぼノーブレだぞ!!」

「ひゃー!?肝座ってんな⋯流石は歌姫だ!」

 

 

 その間にも空いたスペースにねじ込んだハチロクはスピンしながら出口のアウト側ガードレールギリギリに停車するMR2を横目に、高回転型エンジンを唸らせながらコーナーを綺麗に立ち上がって加速していくのであった。

 

 

ゴァァァァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとかぶつからずにコーナー出口で斜めに停車していたMR2の運転席では、張り詰めた空気が一気に抜けたのか座席の背もたれに寄りかかりながら一息つく明日香の姿が⋯⋯

 

 

「ふぅー⋯⋯」

 

 

 バトル自体にはスピンという結末で負けてはしまったものの、精一杯今出せるだけの力を出し切っての結果なので本人的には悔いが残っていないらしい。

 むしろこんな楽しいバトルは久しぶりだと、笑みを零しながら走り去ってなお聞こえてくる綺麗な音色を奏でるようなハチロクのエキゾースト音に耳を傾けているのであった。

 

 

「⋯⋯なんか、久しぶりにこんな楽しいバトルしたかもっ。流石は友奈ちゃん⋯いや、赤城の歌姫さんかもね♪私ももう惚れちゃったかも」

 

 

 ちなみに派手にスピンしたスキール音はその先の最終2つ前のコーナーに陣取っていた池谷含めたギャラリー達にもしっかり聞こえており、どうなったんだとざわつきを見せながらざわつく。

 

 

「おっおい今の音って⋯」

「間違いない⋯スピンした音だよな⋯⋯」 

「いっ池谷、今のって⋯」

「あぁ⋯⋯わかってるさ健二」

ーどっちだ⋯どっちがこのバトルを制するんだ⋯ー

 

 

 しかし中里だけはスピンした後に聞こえてくる惚れるようなタイヤのスキール音を耳にするや否やどっちに勝敗がついたのか察したのか、表情を崩すことなくストレートを挟んだ奥のコーナーをマジマジと見つめていた。

 

 

ギャァァァ⋯⋯

「ふんっ⋯⋯」

ーこの音⋯、となるとスピンしたのはアイツか⋯ー

 

 

 すると先ほど微かに聞こえていたスキール音がハッキリ聞こえてきたと思ったら、コーナーの奥から照らすヘッドライトの光に遅れる形で、勢いよく見慣れた白黒のパンダカラートレノが姿を現す。

 つまりこのバトルの結果は赤城の歌姫が勝利、その現実を目の当たりにすると池谷と健二、一部ギャラリー達は思わず歓声を上げる。

 

 

ギャァァァ!!

ゴァァァァ

「おっおい池谷!あのハチロク⋯!!」

「あぁ、赤城の歌姫だ!友奈ちゃんが勝ったってことだよ⋯!!」

「うぉぉぉ!!流石歌姫だ!やってくれたぜ!」

「ったりめぇだ!俺らレッドサンズに連勝してて、よそ者に負けることなんてあり得ない話だからな!!」

 

 

 もちろん全員が喜んでいるという訳ではなく、明日香側だったナイトキッズのメンバーはまさか相手のホームコースとはいえ彼女が負けるとは⋯と驚きと困惑の表情であ然としていた。

 だが中里だけはクールな表情を崩さずにくるりと向きを変えると、無言で愛車であるR32GTRの元へと歩んでいく。

 

 

「嘘だろ⋯明日香が負ける⋯⋯?」

「マジかよ⋯、いくら相手のホームコースとはいえナイトキッズじゃ下手すりゃNo.1って言われてんのに⋯」

「⋯⋯」クルッ

 

 

 自分が秋名で負けた秋名のハチロクといい、赤城でレッドサンズを含めた相手に猛威を振るっている赤城の歌姫。この2人のハチロク乗りが群馬エリアの勢力図を大きく変えるだろう⋯、そう思いながらも歌姫が赤城以外を走ったらどうなるのだろう⋯と密かに興味を示しているのであった。

 

 

ー秋名のハチロクと⋯赤城の歌姫⋯、この2人のハチロク乗りが今後の群馬エリアの勢力図を変えるだろうな⋯⋯ー

 

 

 

 

 

 

ーだがそれよりも⋯だ、歌姫が赤城以外を走ったらどうなるか⋯それが俺的には気になって仕方ないぜー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麓のゴール地点、ストップウォッチ片手に他のギャラリー達に混じるように陣取っていた賢太はエキゾースト音が聞こえてくると来た⋯!と言わんばかりの表情で待ち構える。

 

 

ゴァァァァ

「⋯っ!来たぞ!」

 

 

 するとエキゾースト音が聞こえてから少ししてヘッドライトの光と共に奥から姿を現したハチロクを目にするや、予想通りの結果になったか⋯と息を呑むように見つめていた。

 

 

ゴフッ!!

ーやはり歌姫の圧勝か⋯⋯、そりゃそうだよな。よそ者相手に負けてちゃ話にならねぇ⋯ー

 

 

 そんなことを思いながらもタイムを測るために目の前を通過するのと同時にストップウォッチのタイマーを止めた賢太であったが、数字をみる否や思わず二度見をしてしまう。

 

 

ゴァァァァ

カチッ

「⋯タイムは⋯っては!?」

 

 

 というのも前回高橋啓介戦、いわば歌姫のデビュー戦みたいなバトルで涼介が叩き出したレコードとほぼ同じタイムを出した訳なのだが⋯

 あろうことか今回のタイムもそれとほぼ同じ⋯いや正確には多少のズレはあるものの、それでも許容範囲レベルなのだ。

 

 

ーうっ嘘だろ⋯!?前々回の啓介さんの時のバトルとタイムがほぼ同じ⋯!?⋯いや正確には多少誤差はあるけど⋯ー

 

 

 つまり歌姫とバトルしていたMR2乗りも下手すればレッドサンズレベルの実力を持っている(まあ実際知られめないだけで、啓介は赤城のダウンヒル戦で負けているわけだが)ということであり、これには賢太も頭を抱えてしまう。

 

 

ー勘弁してくれよ⋯、下手すりゃ俺たちレッドサンズクラスの実力ってことになるぞこのMR2乗り⋯。このタイムの歌姫に張り合えたってことは⋯ー

 

 

 そんな賢太の目の前を通過した友奈のハチロクはそのままの流れでゴール地点の真横にある駐車場へと突っ込むように車を止めていく。

 すると運転席から降りたタイミングでターボ音が聞こえてくると共に、スピンから復帰した明日香のMR2が姿を現して、同じように目の前を通過していくと、友奈のいる駐車場へとやってくる。

 

 

ゴフッ

ボム

「ふぅ⋯⋯」

プシャァァァ

ウォンウォン

 

 

 その後ハチロクと並ぶように止めると、中から全力のバトルを終えてスッキリしたのか満面の笑みを浮かべた明日香が運転席から顔を出すように降りてきて、友奈へ労うように声をかけていく。

 

 

ボム

「いやーっ!完敗だよ♪流石は歌姫って呼ばれてるだけはあるな♪途中までけっこういい感じだったんだけど⋯!」

 

 

 とはいえ友奈も地元の赤城でのストリートバトルで抜かれたのはこれが初めての経験なので、明日香の走りも充分速かったよといつもの明るい表情で接しながら返答する。

 

 

「ううん♪明日香ちゃんも充分凄かったよ!赤城で抜かれたのはこれが初めてだからさっ、それに勝ったってもギリギリだったし」汗

 

 

 そんな感じでお互いを褒め合うように話していた2人だったが、ふと明日香が突然右手を差し出してきた。

 最初こそその意味が分からずに困惑していた友奈だったが、これからも親友として⋯そして良きライバルの走り屋仲間としての誓いの意味を込めた握手だと告げられると納得したように握り返していくのであった。

 

 

「んじゃ最後に⋯!」

「⋯?その右手は⋯」

「何いってんのー、これからも良き親友やライバルとしての意味を込めた握手だよっ♪」

「…あっなるほど!そういうことなら喜んで!」ギュ

 

 

 

 

 

 

 

「これからもよろしくねっ♪」

「うん!こちらこそ!よろしく明日香ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 その頃スタート地点には歌姫が勝ったという報告が飛び込んでおり、大勢いたギャラリー達は各々の反応を見せながらざわついていた。

 もちろんそれはいつものメンツも例外ではなく、樹と羽南は喜びの表情を全開に見せており、由紀は少し悔しそうにしながらも仕方ないか…と半分割り切っている始末。

 

 

「ゆっ友奈ちゃんが勝った…!!やっぱすげーよ友奈ちゃんは!」

「でしょ!抜かれた時はどうなるかと思ったけど、でも私はやってくれると信じてたよ♪」

「いやー…悔しいけど…、やっぱ赤城の歌姫相手じゃ簡単に勝てないよねー」汗

 

 

 そんな3人の様子を静かに見ていた祐也は、拓海に対して最近お前変わりつつあるよなと何気なく口にしていく。

 すると拓海も何となくそれに気がついているのか、最近走りに対して楽しいやら興味が湧いてきたとそんなことを口にこぼしていくのであった。

 

 

「…拓海ってさ、なんか変わったよな…ここ最近。走りに興味が明らかに湧いてきたっていうか…」

「……まあ…な、俺でもなんでか分かんねーけど…。面白くなったっていうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 拓海達から少し離れた先、愛車の近くで史浩からバトルの結果を聞いた涼介はやはりか…と笑みを浮かべながら予想通りの結果と言わんばかりの雰囲気を見せていた。

 だがすぐに真剣な眼差しに変わると赤城の歌姫のデータが取れたかと尋ねていき、史浩も問題ないと答えていく。

 

 

「なるほど…、まあ予想した通りだな。…それよりもデータは取れたのか?」

「あぁ、バッチリだ。コースラインやブレーキングのタイミングもろもろ取れるものはしっかり取れた」

 

 

 その会話を横で聞いてきた啓介はいように本格的に満を持して行くのか…と尋ねると、涼介は当たり前だと口にしながら星空満点の青空をみあげる。

 

 

「…いよいよ本格的に仕留めるのかアニキ?」

「当たり前だ、前々から話していたがこれからは本気で仕留めるために準備を進めるつもりだ…なにより」

 

 

 だが歌姫狙いなのは涼介だけではない、元関西の走り屋である前田宗一を始めとして、神奈川や東京をホームコースとしつつ、積極的に北関東遠征に出向いている峠の三人娘の1人、日野原 灯もそうだ。

 

 それぞれの思いを胸に、各々に歌姫を仕留めるために秘密裏に準備を進めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「これはレッドサンズの威信じゃない、赤城の白い彗星としてのバトルなんだからな」涼介

 

 

 

「赤城の歌姫か…、おもろそうやな。関西上がりの走り屋が何処まで行けるか試してみたいもんや」宗一

 

 

 

「いいねー、あの走り屋とバトルしたら私の最速理論がいい感じに纏まるかもっ♪最初に歌姫を倒すのはレッドサンズでもない…!この私なんだから!」灯

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。