その後拓海の同乗走行をしてもらうことになった池谷は、自身の愛車であるシルビアの運転を彼にお願いする形でご機嫌な表情を見せながら乗り込む。
ちなみに拓海はというと横でエンジンを始動させて、軽くアクセルを更かしながら車の状態を確認していた。
ボムッ
ウォン!!ウォン!!
そんな上機嫌な池谷に対して良かったなーと声をかけながら、過去に拓海に同乗して貰った際に起こった失神事件に触れていき、もうあんなことになるんじゃねーぞと念押ししていく。
もちろんそんなことになったなんて知らない由紀は、それはそれで大丈夫なのか?と呆れたような表情を見せるが、上機嫌な池谷は2度目出し問題ないと自信満々に答えた。
「良かったなー池谷、もう失神するんじゃねーぞ?」
ーえっ…池谷先輩失神してんの?健二先輩のいいぶりからして過去に拓海君の横に乗ったことあるっぽいけど…、ってかそれはそれで色々と心配nー
「大丈夫大丈夫!これで2回目だしな…!」
とまあ色々と話したところで早速本題に入ることにしたようで、シルビアの運転席に座っている拓海に何時でもいいぞと合図を送る。
それを確認すると拓海は慣れた手つきでクラッチを踏みながらギアを1速に入れていき、アクセルとクラッチを繋ぎながら車を発進させていく。
「んじゃビシッと頼むぜ!拓海っ!」
「…じゃあ、行きますよ」
「おうっ!」
ガコッ
ブォォォォ
駐車スペースからゆっくりと出ていくとUターンする形で本線に合流した拓海の操るシルビアは、最高出力175馬力を発揮するCA18DET型エンジンを唸らせながら健二達の目の前を通過し、秋名のダウンヒルへと繰り出した。
ゴォォォォ
その後車内で具体的に何をすればいいかと拓海に尋ねられた池谷はブレーキングドリフトを頼むと依頼。
相変わらず何を考えているか分からない表情で分かったと答えながら、拓海はアクセルを踏み込んでいた右足を更に奥まで一気に押し込み、さらにシルビアを加速させていく。
「…何をすればいいんですか?先輩」
「うーんそうだな…?ブレーキングドリフト頼むよ」
「分かりました…」
ガバっ
ウォォォォォ
プジャァァ
本人は至って人の車ということもあって控えているつもりではあるのだが、池谷はいきなり初めての車で行くのかと驚きながら反射的に身構える。
「あっおい…、いっいきなり行くのか?1本目で…」
まあそうなる気持ちになるのも無理はない…、なんせ普段ならこんなに鳴らないはずのターボの過給器音が何度も鳴り響いており、おまけにもう既に自分の全開走行を有に超える速度が出ているのだ。
車窓の景色もジェットコースターのように後ろへと高速で流れており、これには池谷も速すぎないか…と拓海へ訴えていく。
ゴォォォォ
プシャァ!!プシャァ!!
「い…いいくらなんでも速すぎないか!?」
しかし拓海にとってこれぐらいは普通のようなものなので、特に聞く耳を持つこともなく速度をぐんぐん伸ばしながら最初の左コーナーへと飛び込んでいく。
最初こそなんとか抑えていた池谷だったが、流石に恐怖を感じたのか思わず助手席の持ち手を持ちながら悲鳴を上げた。
ゴアアアア!!
「ほわああ…!!あぁぁ!!?」
だが拓海は相変わらずのへーとした表情をしながらも慣れた手つきでフルブレーキングからのヒールアンドトゥで2速にギアを落とし、カウンターを切りながらリアを滑らせる。
するとシルビアはリアから白煙を上げながら、池谷の悲鳴をかき消すようにハイスピードの四輪ドリフトを披露しつつコーナーを流していく。
ウォンウォン!!
ギャァァァ
「ぁぁぁぁ!!?ぁぁぁぁ!!」
とはいえ拓海にとっては慣らしのつもりでドリフトをしたのだが、池谷にとってはもう全開走行以前のめちゃくちゃ怖い相乗りに変わったようで、涙を横Gで流すほど目元から零していた。
しかしそんな彼とは対照的に何事もなく立ち上がったシルビアは、再びエキゾースト音を唸らせながらストレートをかっ飛ばしていくのであった。
「ぁぁ……あ…ぁぁあ…」
ギャァァァ!!
プシャァァァ
ゴアアアア
その頃スタート地点、もとい秋名峠頂上に残っていた樹達は見送った時の明るい表情とは裏腹に心なしか心配そうな表情を見せていく。
まあ健二が大丈夫かと呟くのも無理はない、なんせ池谷は過去に拓海のハチロクに同乗した際、堂々と失神をかましているのだ。
「…大丈夫かな、池谷の奴」
もちろん樹から事情を聴いた女子組、その中で特に由紀は拓海君は昔からそういう所あるからねーと苦笑いでそんなことを口にしていた。
別に手加減が出来ない…というのではないが、周りに合わせた手加減が彼自身苦手のようで、普段の生活なら気にはならないものの、こうした同乗となると大きな弊害になるとか…。
「…まあ拓海君、周りに合わせた手加減が苦手だからねー…。日常生活なら問題ないけど、同乗とかになると話は別かも」汗
ということはこのままでは前回の同乗走行と同様にコーナー3つ目で発生した失神事件の再来なのでは…とオーバーリアクションで叫んだ樹が、その後冷静に指摘していく。
「…ってことは…また…」
『どわぁぁ!!断末魔の絶叫が秋名山に児玉する!!恐怖のダウンヒル!!
池谷先輩…コーナー3つ目で…しっ…しっ…失神事件!!』チーン
「…の再現じゃないでしょうね」
そんな樹の言葉を聞いていた羽南は、それはそれで先輩大丈夫なのか…と不安そうな表情を見せながら、同じハチロク乗りの友奈もそんな感じなのだろうか…と1人呟くのであった。
「……」汗
ーそれはそれで大丈夫…?ってか同じハチロク乗ってる友奈もそんな感じなのかな…同乗とかしたことないし…ー
頂上で樹達がそんな心配をしている間にも、まるでジェットコースターのように次から次へと迫りくるコーナーをハイスピードのドリフトでシルビアはかっ飛す。
拓海は慣れのつもりで流れ作業のようにコーナーを処理していたのだが、池谷は怖すぎるあまりかもうル○ージみたいな叫び声を連発させていた。
ギャァァァ
「ぁぁぁ!!?ほほぉほわぁぁ……ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙!!?」
だがやはりある程度慣れたおかげかコーナーを既に3個過ぎた段階でも失神はしていないようで、伸びてはいるもののなんとか意識を保っているらしい。
それと同時に初めて乗る車でいきなりドリフトをかます拓海のドライビングテクニックに驚きを見せる。
ー……すっすげぇ…、初めて乗った車で…いきなりドリフト……ー
更に自分のシルビアがこんなにも速かったのか…と今まで気づかなかった事実にも驚きを見せていると、先ほどまで無言だった拓海がこの車に慣れてきたと突然口走る。
ー俺のS13って…本当はこんなに速かったのか…?ー
「うちのクルマとちょっと違うけど…大体わかりましたよ、このクルマの乗り方」
だがまだコーナー3つを抜けたばかりであり、流石にこれには池谷にも早すぎないか?と恐怖を一瞬忘れて突っ込みを入れていく。
しかし本人は慣れてきたことでスイッチが入ったのか本気のドリフトやる旨を伝えたのだが、そうなると池谷の思った通り先ほどしていたドリフトの説明がつかない。
「えっ…だってまだコーナー3つしか…」
「…いきますよ、ドリフト」
ードリフト…?じゃあ…今までのは…?ー
つまり拓海の発言から察するに今までのドリフトは前座に過ぎず、慣れてきたこれからが本番ということを伝えたかったのだろう。
最初の頃より更にアクセルを更に強く踏み込むと弾かれたように一気に加速、ターボ音を響かせながら速度を一気に乗せていく。
当然先ほどよりも更に加速Gが来るとなれば平然といられるはずもなく、再び池谷は持ち手を握りしめながら悲鳴を車内に響かせる。
ゴアアアア
プシャァァァ
「ぁああ…ぁぁぁ!!?」
どんどんコーナーが迫っていき、このままでは突っ込んでしまう…そう思った池谷だったのだが、その前に拓海がブレーキペダルをリリース。テールランプを点灯させた瞬間にフルブレーキング、ヒールアンドトゥで2速に叩き込むとステアリングを切り込む。
すると車の荷重を前輪にかけたことによって、後輪の荷重が抜けたのかサイドブレーキを引いてないのにリアが滑り始め、先ほどのドリフトより鋭い突っ込みでコーナーへと飛び込むのであった。
「ぁぁぁぁ!!!?」
ウォンウォン!!
ギャァァァ!!
「ぁぁ……」チーン…
それからしばらくして同乗走行を終えた拓海の操るシルビアはスタート地点であり健二達のいる峠頂上へと戻ってきて駐車スペースへと入っていく。
停車してからしばらくすると助手席ドアが開き、心配そうに見つめる健二達の目の前に、イモムシのように力が抜けながら失神をせずに済んだ池谷が這い出てくる。
キキッ
「……ほぇ……」ボム
「おぉ…(笑)今度はちゃんと起きてた」
「成長しましたね、池谷先輩」
ー……大分伸びてるけどね…ー汗
その後助手席のドア伝いになんとか立ち上がりながらも呆然とした表情を見せる親友に対して、健二が同乗走行でブレーキングドリフトのコツは掴めたか?と尋ねていく。
「……」
「どうだった池谷?ブレーキングドリフトのヒントは掴めたか?」
しかし池谷から返ってきた返答は全然とのこと、どうやら拓海の走りが異次元過ぎて掴めるものも掴めなかったらしい。だがそれに呆れながら驚いた健二の指摘通り、それではわざわざ拓海に頼み込んで同乗走行をして貰った意味が無くなってしまう。
「……全然、まるでわからん…」
「なんだそりゃ、何のためにわざわざ拓海に頼み込んだんだよ」
とはいえ池谷からすれば何気ないように繰り出す拓海のテクニックが自分とは比べ物にならないようで、レベルが違うという収穫が得られたようだ(←おい)。
…まあそんな結果を収穫と言っていいのかは怪しいもので、見当違いなことを聞かされた健二と樹はまるでド○フのようにずっこけ、羽南と由紀は苦笑いを浮かべていた。
「…そういうけどな健二、拓海の場合あまりにも簡単そうにとてつもない技繰り出すから…」
「……」
「レベルが違いすぎて参考にならないということがよーく分かった!!大収穫だ…!!」
「「はぇぇ…」」ズコー
「……」汗
しばらくそんな感じでワチャワチャしていた5人だったが、ふと下の方から甲高いエキゾースト音が複数台聞こえてくることに気づき、音がする方に視線を向けるとヘッドライトらしき光が目に入ってくる。
ンバァァァァ
ギャァァァ
「……?」
最初なんの車が上がってきているかわからなかった一同だったが、羽南だけは特徴的なエキゾースト音でVTECエンジンだと分かったようで、ホンダのシビックかインテ当たりかな?と予想。
すると彼女の予想通り下から3台ほど車が列をなして登ってきており、そのうち先頭を走る車がVTECエンジンの主でもあるシビックのようだ。
ー1台はVTECエンジン…ってことはシビックかインテ当たり?ー
ンバァァァァ
ーやっぱり…シビック系のエンジンは特徴的だからわかりやすいよ、ってかあれはEG6かー
だが同時に池谷はその赤色のシビックに見覚えがある…というか、少し前にに秋名でシルビアのリアをどついてスピンさせたEG6のようで、間違いないと確信していく。
「EG6…!この前の奴だ!間違いない…!!」
その間にもEG6を先頭に現れた3台はゆっくりと池谷達の目の前を通過していき、奥まで進むと道路を挟んだ向かい側の駐車スペースにUターンする形で侵入。
睨みを利かせる池谷を横目に丁度真ん中あたりまで来ると順番にゆっくりと停車、運転席ドアが順番に開くと共に、慎吾を先頭に次々と降りてきた。
ウォンウォン!
ボムッ
「……」
その際由紀は3台に妙義ナイトキッズのステッカーが貼られていることに気づき、もしかして親友の明日香が言っていたダウンヒル担当のドライバーか?と勘づく。
だが降りてきた慎吾は道路を挟む形の向かい側に停まっている秋名スピードスターズや由紀達の車を一通り見渡すと、ふと目に入ったハチロク(ハチゴー)に視線を止めた。
ーあの3台…妙義ナイトキッズのステッカー貼ってる…ってかあのEG6?もしかして明日香ちゃんが言ってたダウンヒル専門の…ー
「……」
本人は特に威圧したりなどはせず余裕な雰囲気を見せていたのだが、ぶつけられてスピン…おまけに挑発までされた池谷はかなり頭に来ているようで喰ってかかるように話しかける。
「…にゃろぉ…、おい!お前だろ!!少し前に俺の車に当てやがったの!!」
だが怒鳴られたEG6のドライバーである慎吾は、特に気にした様子も見せずタバコを呑気に吸いながらとぼけたような返答を返す。
しかし池谷は忘れたとは言わんばかりに、自分のツートンカラーのシルビアを指差し、コイツにぶつけたんだぞと更に詰め寄っていく。
「…誰?お前」
「忘れたとは言わせねーぞ!このツートンのS13だ!」
すると車を見てようやく思い出したのか、アレかーと他人事のようにわざとらしく白状したため、池谷の怒りはジワジワと爆発しかけていた。
まあそりゃそうだ、直前にサイドスピンの練習をしていたため事なきを得たが、下手をすれば退院したばかりのS13が再び入院送りになるところだったようなもの。
文句の1つ2つは言いたくなるというものだ。
「…あー、アレか」
「アレかじゃねぇんだよ!!一歩間違えれば…大怪我だったんだぞ!!」
普通なら形だけであっても謝るもの…(もちろん駄目ではあるが)なのだが、慎吾は謝罪をするどころかそっちが悪いんだろと言わんばかりの口調で反論。
これには池谷は怒り気味の何?を口にしていき、羽南と由紀は感じ悪…という表情で睨みを利かせているのであった。
「へっ冗談だろ?アレはお前が悪いんじゃねーか」
「なにィ…?」
ー何アレ、感じ悪。友奈どころか祐也とも比べるに値しないわー
ーナイトキッズはガラが悪いとは明日香ちゃん言ってたけど……、コイツはそれ以前の話かもー