頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第四十二話 拓海 怒りのガムテープデスマッチ

 

 

 

 羽南が三角板や発煙筒を設置している合間にもクラッシュしたハチゴーの元へとやってきた友奈は、幸いにも原型を留めて開くことが可能な助手席のドアを勢いよく開けた。

 するとそこには朦朧としながらも意識を保っていた女子高生らしき少女の姿がそこにはあり、友奈はその娘に大丈夫かと呼びかけていき、彼女もハッとした表情を見せながらこちらに視線を向けていく。

 

 

「とりあえずドアを開けて…っ!助手席のドアからいけそう…!よっと…!」ガコッ

「…!?」

「大丈夫ですか!?すぐに助けますからね…!」

 

 

 見た感じ顔に軽い擦り傷程度をしている程度で大きな怪我はしてはいないため、病院で手当てをすれば問題ないようにも見える…が問題はそれよりももう一人の方と言ってもいいだろう。

 車外に出すのを手伝おうとしたその瞬間に少女が訴えるような口調で助けを求めながら指さした先、そこにはハンドルから展開したエアバッグに頭を突っ込ませ、あちこち怪我だらけで気を失っている姿が…

 

 

「とりあえず一旦外に…!事情はひとまずあとで…」

「わっ私は大丈夫です…!そっそれよりイツキくんを…!!」

「…!?イツキ君!?ちょ!大丈夫!?しっかりして…!!」

ー酷い怪我……、やっぱ運転席から突っ込んだのが響いてるか…ー

 

 

 なんとなく車で想像してはいたもののここまで酷い状態となれば流石の友奈でも冷静さを保つことは不可能、慌てた表情で肩を揺らしながら呼びかけを試みるものの何度ゆさっても反応が返ってくることはない。

 ただこのままでは不味い…そう判断した友奈は一旦ハチゴーを離れると、発煙筒やら三角板を置き終わった羽南に対してすぐに麓の公衆電話に向かってほしいと依頼していく。

 

 

ー想像はしてたけど…、ここまでとは…ってか完全に気を失ってる……容態は不明だけど…このままだと流石に不味い…!ー

「ちょっと待ってて!すぐ戻るから…!(ダッ)羽南ちゃん!お願いなんだけど麓の公衆電話まで行ってくれる!?」

 

 

 当然自分達…いやこの時代は携帯電話が一般的に普及していないため、こうした場合はもっぱら公衆電話を使うことが多い。

 事情を聞いた羽南はそれは大丈夫なのかと混乱を隠せない驚きの表情を見せながら尋ねるのに対し、容態がはっきりしないから出来る限り急いで欲しいと急かすように依頼する。

 

 

「えっちょ、それはいいけど…イツキ君とか大丈夫なの!?」

「…正直怪しいかも…気を失ってるっぽい…!同乗してたこのほうは軽いけがで済んでるけど…いや今はそれより!とりあえず麓の公衆電話で消防とかに電話して…!早く!」

 

 

 もちろん切羽詰まっている状況というのは親友の焦り具合から察したようで、押されながらも頷いた羽南は飛び込むようにスープラの運転席に飛び込むと、素早く1速にギアを叩き込みロケットスタートで発進。

 後輪を激しくホイルスピンさせながらクラッシュしたハチゴーを避ける形で走り出すと、そのまま暗闇の峠にエキゾーストサウンドを響かせる形でコーナーの奥へと消えるように走り去っていくのであった。

 

 

「あっうん…!わっわかった…!!」

ボムッ

ギャァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し経った頃、渋川のガソリンスタンドでは何時ものように拓海と池谷が日が落ちた中でもやってきたお客さんの対応に追われていた。

 すると店内のフロントで事務作業をしていた店長の近くに置かれた携帯電話が鳴り響いたため、慣れた手つきで店長が手に取りながら電話に出ていく。

 

 

プルルル

「はい、こちら渋川ガソリンスタンドです」

 

 

 電話の話し方的に友奈だったらしくどうしたのかと最初こそ何気ない口調で話していた店長であったが、彼女の口から衝撃的な言葉を耳にしたのか思わず立ち上がりながら珍しく声を荒げてしまう。

 

 

「おー友奈ちゃんか、一体どうs…何!?それは本当か…!!」

 

 

 その後一言二言やり取りを交わしてから電話を切った店長は慌てながらお店の出入り口ドアを開けながら外に出ると、相変わらず作業に精を出している拓海達へ樹が事故ったことを告げる。

 もちろんそんなことを聞いては平然としてられるわけもなく、2人は驚いた表情を露にしながら店長の方へと視線を向けていき、池谷が場所は何処だと尋ねていく。

 

 

ダッダッダッ!

ガチャリ

「おいっ!大変だ!イツキが事故ったぞ!」

「えぇ!?何処で!」

「秋名の峠らしい…!!友奈ちゃんが教えてくれたんだ…!!」

 

 

 友奈からの情報で秋名の峠で事故をしたとのことで、現在は渋川市内にある市立病院に運ばれているとのこと…仕事は店長が引き継ぐとのことですぐに病院へ向かうことにした2人は仕事着のまま慌てる形で、池谷のシルビアで向かうために車の方へと向かう

 

 

「今市立病院に運ばれたそうだ…!!2人ともすぐにいってきてくれ!!」

「はい!」

 

 

 その後渋川ガソリンスタンドから車で10分ほど、市内中心部に位置する市立病院へ到着した池谷達は、慌てるように車から飛び降りると駆け足で病院の出入り口へと向かう。

 そこには見慣れたカーボンボンネットにド派手なエアロウィングが特徴的な赤色の80スープラが止まっており、それを横目に2人は中へと入っていく。

 

 

キキッ

「……あっ…、あれって…」

「羽南ちゃんのスープラか、…とりあえず中入るぞ」

 

 

 すると入ってすぐのところでスープラの持ち主である羽南が2人を持つように立っていたようで、彼女も池谷達に気づくとこっちだと告げながら駆け足で樹が入院しているとされる病室へと案内する。

 

 

ガララ

「…あっ池谷先輩に拓海君!こっちこっち!イツキ君の入院してる部屋案内するから…!」

「助かる…!」

 

 

 その道中で何があったのか知らないのかと尋ねた池谷に対して、自分もはっきり分かっていないと答えながらもたまたま気分転換に秋名を通ってた最中にクラッシュしたイツキのハチゴーを目撃したのだと説明していく。

 

 

「にしても友奈ちゃんが電話してくれるとは…、一体イツキに何があったんだ?」

「それがさっぱり…、たまたま秋名通って帰る途中にクラッシュしたイツキ君のハチゴーを目撃しただけだから…」

 

 

 そんなことを話している間にもイツキが入院している階の病室前へとやってきた2人は、羽南が扉を開けるかたちで先に入った後に続くかたちで室内へと足を踏み入れる。

 部屋自体は4人部屋で手前のベッドにイツキがいたようで、丁度手当てが終わり看護婦さんからの処置をしてもらっていたタイミングだったらしく、イツキも2人に気づくと笑みを浮かべた。

 

 

ガチャリ

「大丈夫か!イツキ!!」

「あっ!先輩…!拓海ぃ!」

 

 

 もちろんイツキに付き添う形で友奈の姿もあり、イツキの怪我の具合などを彼女に聞きながら、本人にも一体何があったのかと心配する口調で池谷は話しかける。

 

 

「あっ池谷先輩、拓海君」

「友奈ちゃん…どうだ?イツキの容態は」

「一応骨折とかはしてないみたいですけど、念には念をってことで入院するってことになって…」

「そうか…、にしてもどうしたんだよイツキ…」

 

 

 ただ心配をかけたくなかったのだろうが、何時ものおちゃらけた表情を見せながらオーバー過ぎですよと宥めながら、大したことはないが友奈の言った通り精密検査なども兼ねてしばらく入院することになったことを明かしていく。

 ちなみに本来ならば今日は沙織ちゃんとデートしていた日ということもあって、拓海は彼女はどうしたのかと尋ねると、樹が答える前に友奈が遮る形で、軽い怪我だけだったから入院は不要ということで先に帰った旨を説明する。

 

 

「ちょっとオーバーなんですよ、見かけほど大したことはないんですけど…一応友奈が言った通り精密検査もしようってことで入院って話になって」

「沙織ちゃんは?…一緒だったんだろ?」

「あぁ…彼女は」

「イツキ君と一緒にいたこならもう帰ったって、軽い怪我だけだから精密検査とかはしなくてもいいだろうって」

 

 

 どうやら沙織がその怪我で済んだのもイツキがクラッシュする直前までナビ側がぶつかはないようにステアリングを切っていたお陰だったようで、車も上手くスピンしたお陰でリアのトランクがやられたぐらいで済んだとか…。

 …が問題は何故イツキがそんな事故をしたのか、沙織ちゃんという一般人を乗せている状態ならお調子もののイツキであったとしても無茶は絶対しないはず…。

 

 

「オレナビ側がぶつからないように必死でステア切ったから…!!」

「車は、ハチゴーはどうした」

「上手くスピンしたお陰でリアのトランクが逝かれたぐらいで済んで…、車は羽南ちゃんとこのオヤジさんが預かってくくれるって」

「そうか…」

ー何故だ、いくらイツキだとしも一般人の女子を乗せてる状態で無理なんか絶対しないはず……一体何が…ー

 

 

 そんなやり取りをしている間にも手当てが済ませた看護婦は、終わった旨を伝えながらお大事に…と一言告げながら一同のいる病室を後にしていき、池谷たちもありがとうございましたとお礼を述べていく。

 こうして知り合い以外誰もいない状態になった途端、先ほどのおちゃらけた表情が嘘のように樹が肩を震わせながら突然丸まり始めた。

 

 

「はい、おしまい。お大事に」

「「どうも、ありがとう御座いました」」

スタスタ

「……」

「…ん?」

 

 

 …そう秋名でクラッシュした現在は単なるハンドル操作のミスではなく、突如として姿を現した赤色のEG6に煽られまくり、最終的にリアをどつかれたという衝撃的な理由。

 それを聞いた池谷や拓海…いや羽南でさえも驚きの表情を露にし、その相手が紛れもなく自分をどついて挑発してきたあのEG6で間違いないと確信する。

 

 

「…秋名走ってたら、後ろからEG6に煽られて…」

「EG6!?またアイツか!!」

「多分…赤色のEG6だったから…、コーナーで後ろからいきなりプッシュされて…」

「プッシュって…ってことはスピンさせてクラッシュしたって……」

 

 

 ただ友奈はなんとなく察していた…というか看護婦がいた際の会話に違和感ありまくりだったという点や、クラッシュしたハチゴーを観た際に明らかにガードレールなどにぶつけたことは違う傷があったことに気付いており、まさか…と感じていたらしい。

 

 

ー…なんとなくイツキ君の話かたがおかしいとは思ってた…それにハチゴーにあったあの傷……予想したくはなかったけど…、まさかあのEG6がやってくれるとは…ー

 

 

 完全にやられた…そう内心思った池谷は、何よりも可愛い後輩に手を出さへたことに対して怒りを露にしながらも同時にどうしたものかと…腕を組みながら参ったな…という表情を浮かべていた。

 …がそんな池谷よりも更に怒っていたのが言わずがもな拓海であり、樹をクラッシュさせたことに対して完全に頭に血が昇ってしまったのか、ガムテープデスマッチでも何でもやってやる!…という表情を見せると、そのまま病室を後にしていく。

 

 

「あの野郎…!!またやりやがったか…!!くそぉ…」

「…俺、やりますよ。ガムテープデスマッチでも何でもやってやる…!!」

 

 

 しかし相手は樹をクラッシュさせたうえに池谷をスピンさせるような走り屋、何をしでかすか分からない上に危険だらけなガムテープデスマッチとなればそれこそ命がいくつあっても足りない。

 慌てて停めようと飛び出した池谷であったが、たまたま通りかかった看護婦の台車とお見合いでぶつかってしまい、動きを停められてしまう。

 

 

「…おい待てよ拓海!!…拓海!!(ガコン)あっ!?すみません…!!」

 

 

 だがそれでもなんとか停めようと池谷は考え直すように訴えていき、あとからやってきた羽南も無理がありすぎると必死で辞めさせようと試みる。

 …が完全にスイッチが入ってしまった拓海が素直に聞き入れるはずがあるわけもなく、絶対に負けるつもりはない…そう覚悟を決めたセリフを吐きながら廊下を一人歩いていくのであった。

 

 

「アイツの挑発に乗るな!!ガムテープデスマッチなんて無茶苦茶だ!!」

「そっそうだよ拓海君…!!もし拓海君に何かあったらそれこそ…!!」

「俺、絶対に負けませんから!!どんなことがあっても…!!」

 

 

 

 

 

 

「はぁ…これからどうなることやら……」

 

 

 あれから少し時間が経った頃、そろそろ受付が閉まるということで樹にまた来ることを伝えながら病院を後にし、池谷と別れた羽南は愛車のスープラに腰掛けながらどうしたものか…とため息を零すように頭を抱えていた。

 

 まあナイトキッズのEG6がまさかそこまで強硬手段を取るとは思っても無かったうえに、明日香に相談してもう大丈夫だと思っていた矢先の出来事。おまけに拓海が完全にキレて手が付けられないとなればそうなるのも無理はない。

 

 

「明日香ちゃんに相談した矢先にコレだし…、まさかナイトキッズのEG6がそこまで強硬手段取るとは…お陰で拓海君は完全にキレちゃってるし……」

 

 

 このままでは相手の思う壺でありなんとか辞めさせられないものか…と考えていた羽南であったが、あそこまでいくとどうにも出来ない上に、親友に怪我をさせたとなれば誰だってそうなる…と友奈に言われ、そりゃそうか…とため息を零す。

 

 

「…このままじゃ相手の思う壺…、なんとか辞めさせられないものか……」

「……多分無理だと思う、完全に拓海君キレちゃってるもん…。でも気持ちはわかる、…だって大切な親友に手を出されたんだもん。誰だってそうなるよ」

「だよねぇ……」ハァ…

 

 

 いくらバトルを受けてほしいからってここまでするか…!と元凶でとあるEG6に対して怒りを露にする羽南を横目に、友奈は落ち着いた表情で夜空を静かに見上げていくのであった。

 

 

「んもー!!いくらバトル受けてほしいからってここまでする!?いくらなんでも理不尽じゃんこれ!!」

「………」

 

 

 

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