頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第四十五話 AE86(藤原拓海)VS EG6(庄司慎吾)

 

 

 

 そんなこんなでいよいよガムテープデスマッチが始まろうとしつつある中、スタート地点である秋名峠頂上では2台のエキゾースト音が響き渡る間にも、ナイトキッズのメンバーがそれぞれそれに向けた準備を進めていた。

 まあ準備と言ってもその名の通りガムテープデスマッチを行うためのものであり、右手をガムテープでグルグル巻きにして完全に固定させるというもの。

 

 その光景をみていた健二はやっぱり強引にでも止めるべきだったんじゃないかなー…と不安そうな表情を浮かべながらとそんなことを呟くが、こうなった以上拓海を信じるしかない…と池谷は覚悟を決めた表情で答えていく。

 

 

「…大丈夫かなー…、やっぱり強引にでも止めるべきだったんじゃ…」

「…こうなった以上、拓海を信じるしかないだろ」

 

 

 そうこうしているうちにガムテープデスマッチの準備が整ったタイミングでコースやゴール地点の準備が整ったというナイトキッズメンバーからの報告を受けたスタート合図担当のメンバーの1人がそろそろ始めるか…!と話していき、慎吾もノリノリで答えながら拓海の方へと視線を向けようとした矢先。

 

 割ってはいるような声と共に、先ほどまで静かにしていた友奈が飛び出すように拓海君に少し話したいことがあるから待ってほしいと切り出してきた。

 

 

ピピッ

『オッケーだ』

「ゴールの準備はいいぞ、そろそろ行くか!」

「オッケ……「あっあの!ちょっとスタート待ってください!拓海君と話したいことが…」」 

 

 

 ここにきてまたバトルから逃げるように説得するつもりか…そう思った慎吾は、友奈を睨見つけるような表情で邪魔をするんじゃない…と少し強い口調で制止しようとする。

 …が返ってきた言葉は黙っててくださいという普段の彼女なら絶対言わないような言葉であり、思わずこれには慎吾は口を閉じてしまう。

 

 

「あぁ?…ここにきてまたバトルから逃げるような説得かよ…いい加減に」

「…黙っててくださいっ、そんなんよりも大事な話するだけですから」

「……!?ちっ…」

 

 

 だがそんな慎吾の相手もほどほどにハチロクの運転席に近づくと窓をノックしてから運転席のドアを開ける形で友奈は拓海へと話しかける。

 最初こそ池谷先輩たちと同様に止めに来たのだろうか…と思った拓海だったが、明らかにそんな雰囲気じゃないことはなんとなく伝わってきたので、どうしたのかと尋ねていく。

 

 

コンコン

ボムッ

「拓海君、ちょっといいかな?」

「……?どうかしたの友奈ちゃん」

 

 

 もちろん彼女がわざわざバトルスタートを遅らせてまでやってきた訳は、文太から頼まれたガムテープデスマッチを攻略するためのアドバイスに関して…であり、一度しか言わないからしっかり聞くようにと友奈は念押し。

 拓海も珍しく彼女からのアドバイスということもあって、一瞬驚きはしたもののすぐに真剣な表情を浮かべるとともに耳を傾けていく。

 

 

「今回のガムテープデスマッチ、その攻略法を知ってるからアドバイスしたいの。時間もないから単刀直入に…1回しか言わないからしっかり聞いて」

「………(頷く)」コクッ

 

 

 その後宣言した通り単刀直入にアドバイスを伝えると、ハチロクから離れるように運転席ドアを閉めながら後にしていき池谷たちの元へと戻っていく。

 ステアリングを回すんじゃなくて、車の挙動を利用して曲がること…そう告げられた拓海は一瞬どういう意味かと首を傾げるがカウントが始まると再び真剣な目つきで視線を前に向ける。

 

 

「いい?ガムテープデスマッチは右手を固定されてる、だからステアリングを使って曲がろうなんて考えは駄目。車の挙動を利用して曲がって、限界舵角の計算がこのバトルの突破口だから」

「車…挙動……、限界舵角の計算…」

「以上、絶対に勝ってね。…もちろんクラッシュは駄目」スタタ

「……「それじゃカウント行くぞ!!」…っ」

 

 

 10秒前という合図と共にカウントが始まり、それに合わせる形で2台は回転数を上げながら甲高いエキゾースト音を秋名峠へと響かせていき、ゼロと共にスタート合図が下されると弾かれたように激しくホイルスピンをさせながら飛び出した。

 

 

「スタート10秒前!!

 

8っ!!

 

7っ!!

 

6っ!!

 

5っ!!

 

4っ!!

 

3っ!!

 

2っ!!

 

1っ!!

 

GOっ!!」

ゴクッ

ドギャァァァ!!!

 

 

 出だしは互角…いやハチロクのほうがその後の伸びがいいのかぐんぐんと加速していき、そのままEG6の前へと躍り出ていく。

 だがEG6の搭載するテンロク最強とも言われるB16A エンジン、170馬力にも及ぶ心臓部はカタログ値で130馬力ほど、いくら軽いとはいえハチロク相手に加速勝負で負けるはずがない。

 

 あえて先行させたな…そう弾かれるように飛び出した2台をみて直感で判断した友奈の予想は的中、ナイトキッズのメンバーがあえて先行させたなという話し声が池谷たちの耳へ飛び込む。

 

 

「始まっちまったな…」

「死ぬなよ…拓海…」

ーハチロクが先行……、EG6のドライバー…敢えてアクセル抜いたな……シビックのB16Aなら加速勝負で抜くことなんて容易いはず…ってことはー

「フハハッ、慎吾のやつわざとアクセル抜いて後ろについたな」

 

 

 まあこの状況で敢えて後ろにつくということは間違いなくハチロクが崖下に落ちるのをじっくり見るということしか考えられず、慎吾のたちの悪い性格から容易に想像出来る。

 そもそもガムテープデスマッチ自体FR殺しの方式、事故せずに走り終えるだけでも化け物ではあるが、そんな状態では長く持つはずもなく、コーナー3つも持たないと小馬鹿にするように、敢えて池谷たちに聞こえる声で話していく。

 

 

「ハチロクが崖下に落ちるのをじっくり見るためだろ、このルールで事故らねぇFRなんて化け物だ」

「あのハチロク、コーナー3個も持たねーよ」

「「へへへっ」」

ーやっぱり……そういう魂胆か…ー

 

 

 バトルを本人の意思でさせたとはいえかなり不味い状況なのでは…そう思い不安でしかたない池谷と健二の不安を他所に弾かれるように飛び出した拓海のハチロクは、EG6を突き放そうと言わんばかりの加速でスタート直後のストレートを疾走。

 …がその後ろを一定の感覚でEG6が追走しており、そのステアリングを握る慎吾は、ハチロクごときにテンロク最強のエンジンが負けるはずがないと豪語していく。

 

 

ゴァァァァ

ウォン!!

ーふっいい気になるなよー、B16Aはエンジンの最高傑作だ。本気を出せば型遅れの4AGエンジンにスタートダッシュで遅れを取るわけがないぜー

 

 

 実際スタートダッシュで離れていた2台の距離もぐんぐんと縮まっており、ハチロクのエンジンとEG6のエンジンとでは同じテンロクでも圧倒的差があると言わんばかりの加速力の差が生まれていた。

 いくつコーナーをクリア出来るかな…後ろからじっくりみさせてもらうぜと内心そんなことを思いながら、先行する拓海のハチロクを追随していく。

 

 

ーいくつコーナーをクリア出来るか、後ろからじっくりみさせてもらうぜー

ンバァァァァ

 

 

 しかし拓海はそんな怪しいオーラプンプンの慎吾など眼中になく、ただ前を真剣な目つきで見つめながらこのバトルだけは絶対に負けられないと言わんばかりの表情で、レブに当てながらもキンコン(100キロを超えると鳴る安全装置みたいなもの)を鳴らしながら最初のコーナーへ向けて疾走していくのであった。

 

 

ゴァァァァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃第1コーナー、外側のガードレール先に設置された退避スペースには多くの車やギャラリー達が詰めかけており、2台が来るのを今か今かと待ちわびていた。

 ちまみにそのギャラリーの中には気になって見物にきた祐一と拓海や明日香を探していたお陰で中途半端なタイミングで秋名に来たお陰で、秋名峠頂上に上がず、第1コーナーに陣取ることになった由紀と羽南の姿も…

 

 

「でもよぉ、本当に曲がれるのかよ。ガムテープで手を縛って?」

「……」

ー気になって見に来たのはいいが…、大丈夫か拓海の奴…ー

「…はぁ結局明日香見つけらないどころかバトルに間に合わず止められなかった……」

「拓海君も何処ほっつき歩いてたのか…、ってか本当明日香ちゃんは何してるのよー…!」もーっ

 

 

 そんなこんな話しているうちにギャラリー達のきたぞという声と共にエキゾースト音がどんどん近づいていき、ヘッドライトの光と共にストレートの奥からハチロクとEG6が姿を現しながらこちらへとやってくる。

 噂をすれば…そう思っていたのも束の間、由紀は拓海のハチロクがオーバースピード気味であることに気付く。

 

 

ギャァァァ!!

「…!!きたぞ!」

ゴァァァァ

ンバァァァ!!

ー…噂をすれば…ってか拓海君なんかオーバースピード気味じゃない?ー

 

 

 実際ほかのギャラリーたちも同じ意見のようでヤバいんじゃないかと騒いでおり、祐一もガムテープデスマッチだから流石にスピードをいつもより落としているだろうと思っていたため全然スピードを落としていないハチロクに違和感を感じていた。

 

 

「おい、あのハチロク。完全にオーバースピードじゃねぇのか?やべぇぞ」

ーいつもより…スピードを落としてんじゃねぇのか…?ー

 

 

 だがそんな不安を他所に拓海は第1コーナーに差し掛かると慣れた手つきでフルブレーキングしつつヒールアンドトゥで4速から2速にギアを叩き込みながらステアリングを切り込み、リアを滑らせながらお得意のハイスピードドリフトで突っ込む。

 その様子をみていた慎吾は威勢がいいなーと褒めながら、何か忘れちゃいないか?と内心忠告交じりの言葉をつぶやいていく。 

 

 

ギャァァァ

ウォンウォン!!

ドギャァァァ!!

ー元気いいなぁ、だが何か忘れちゃいないかぁ?ー

 

 

 実際慎吾の予想は的中、いつもの感覚でステアリングを切ろうとした拓海だったが曲げる途中でガムテープによって固定された右手が邪魔をして切れないことにハッとした表情で気付く。

 だがすでにハチロクはリアを滑らせた状態でコーナーに突入しており、ステアリングを切れないことでインにつくことが出来ないお陰でどんどん車体はアウトへと膨らむ。

 

 当然その光景は後ろで見物していた慎吾も目撃しており終わったな…と言わんばかりに笑みを浮かべると、せめてガードレールを突き破って落ちる光景でも見ておくか…とアウトへすっ飛んでいくハチロクを見つめる。

 

 

ゴッ!!

ー!!?ー

ー逝ったな…終わりだぜー

ギャァァァ!!

 

 

 もちろん吹っ飛びかけている先にいるギャラリー達も突っ込んでくると思っているため慌ててその進路上から逃げるように散り散りになっていき、羽南や由紀も躓きそうになりながらも慌てて退避。

 拓海も周りの景色がスローで流れるのを横目に突っ込むであろう先を見つめながら、無情にもガードレールを突き破って落下するしかない…そう思いかけていたのだが…

 

 

「うわぁぁぁ!!?こっちに突っ込んでくるぞ!!」

「ひぃぃ!!?逃げろお前ら!!このままじゃ巻き添えだぞ!!」

「うわわわ!!?ヤバいヤバい!?」

「ちょ羽南何躓きそうになってんのよ!ってか拓海君の馬鹿!ガムテープデスマッチでそんな速度だしたらそうなるに決まってるじゃない!?」

ー…!!ー

 

 

 しかしその直後ハッとした表情を浮かべると固定されていた右手に左手を添えるとそのまま体制で無理やりステアリングを切り込んでいき、ガードレールギリギリをドリフトで流しながらなんとか衝突を回避。

 そのまま減速を最小限に抑えながら立ち上がると、コーナーを立ち上がって先行のまま暗闇のダウンヒルへと消えていく。

 

 

ギャァァァ!!

ゴァァァァ!!

ー危なかった……ラッキー…ー

 

 

 手の筋が切れるかと思うぐらい今までにないほど無理やりステアリングを切ったものの、そのお陰もあってガードレールを突き破ってハチロクごと崖下に転落という最悪の事態はなんとか回避することに成功。

 だがその後ろを追走していた慎吾は、クラッシュを回避されたことが面白くなかったのか思わず舌打ち交じりの表情を浮かべる。

 

 

ー手の筋が切れるかと思ったぜ……ー

「……ちっ」

ゴァァァァ!!

ドギャァァァ

 

 

 その頃ぶつかると思って慌てて退避していたギャラリー達は、なんとか立ち上がって走り抜けた秋名のハチロクに対して驚きの表情を露わにしていた。

 …まあどう考えてもあの体制は突っ込むと言わんばかりで立て直しが不可能とも言える状態だったので、普通ならば突っ込んでいてもおかしくはないのだが……

 

 祐一も同じ意見だったらしく冷や汗を手で拭いながら無茶するぜ…と、ぽつりそんなことを愚痴で零していく。

 

 

「たっ…立て直しやがったぞ……」

「すげー…、絶対に逝ったと思ったのに……」

「はぁ〜…、無茶しやがる…」

 

 

 もちろんそれは2人も例外ではなく、びっくりしたあまり腰が抜けて地面にへたり込みながなんとか首の皮1枚繋がった…と羽南がため息交じりの安堵を浮かべていく。

 その隣では由紀がこんなバトルされたら心臓がいくつあっても足りない、というかもし何かあったら樹に顔見せができないため終わったら説教しないと…不服そうな表情を浮かべていた。

 

 

「はぁぁ……(ヘナヘナ)なんとか首の皮1枚繋がった……、完全に逝ったと思った……」

「…あんな走りされたら心臓がいくつあっても足りない、…ってかもしこれで何かあったらイツキに顔を合わせられない。…後で説教しないと」はぁ…

 

 

 その頃なんとかクラッシュを回避した拓海であったもののこのまま同じように走っては先ほどの二の舞い、もしくは勝手に消耗して勝つことが出来ないというのはなんとなく分かっていた。

 なのでアクセルを踏み込みながらも少しペース調整するのだが、そうなると今度は慎吾から激しいプレッシャーを受けてしまうため、内心少し焦り気味の表情を見せていく。

 

 

ゴァァァァ

ー……ー

「オラオラァ、さっきまでの威勢は何処行ったー?」

「くっ…っ!」

 

 

 だがそんな時スタートダッシュの直前に友奈から告げられたアドバイスが拓海の脳裏を過る。

 もしかしなくてもこれならガムテープデスマッチを攻略できるかもしれない…そう踏んだ拓海は、早速試してみることにしたらしく、慎吾から煽られるのもお構いなしに走り方を変えながらダウンヒルを疾走していくのであった。

 

 

ーくそっ…煽られっぱなし…ムカつく…けどあの走りをすると流石に色々と…ー

『いい?ガムテープデスマッチは右手を固定されてる、だからステアリングを使って曲がろうなんて考えは駄目。車の挙動を利用して曲がって、限界舵角の計算がこのバトルの突破口だから』

ーっ!そうかそういうことか、友奈ちゃんの言ってた意味が分かってきたぞ…ひとまずそれを試してみようー

「その間煽られるのは必須だけど…、やるしかない。このバトルに勝つためには…!」

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