頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第四十六話 進化するドリフトの天才 

 

 

 

 秋名峠頂上

 

 2台がスタートをして第1コーナーをクリアしたのと同時刻、スタート地点では道路の真ん中に突っ立っている形で池谷と健二が不安そうに走り去った先の暗闇を見つめていた。

 すると池谷がふとバトルが始まる前に友奈が拓海と何やら話していたことを思い出すと、彼女のもとに駆け寄っていきそのことについて尋ねていく。

 

 

「……そういえば」

「え?あっおい池谷…!」

「友奈ちゃん、ちょっといいか?」

「え?あっはい…どうされましたか」

「いや、さっき拓海と話してたこと…なんだけど」

 

 

 もちろん聞かれた友奈も隠す理由がないため、実はと…と拓海を探して彼の実家である藤原豆腐店に立ち寄った際に親父である文太から彼にアドバイスをしてほしいと言われたことを明かす。

 それで何かいい攻略法がないか悩んで際に、昔春香から言われたことを思い出してそのことを拓海に伝えたんだとも話していく。

 

 

「あれですか…?実は……」

「…なるほど拓海のおやじさんが…」

「はい、それで何かいいアドバイスないかなって考えてたんですけど…。ふと昔お母さんに言われたことを思い出して…それで…」

 

 

 だが知っての通り文太と友奈は今日が初対面、いくら走り屋としての話を拓海から聞いていたとしても、実力をみていないのにわざわざ見慣れた自分を通り越して頼むとは到底思えない。

 一体なんで…とそんなことを思っていた池谷だったが、それよりも拓海のガムテープデスマッチを思うとじっとしてられなくなったため、健二に後を追うぞと明かしながら車の元へと駆け出した。

 

 

「……なんでわざわざ友奈ちゃんを…、いくら走り屋としての話を拓海から聞いていたとしても…いや、それよりも今は…」

ギャァァァ

「俺、じっとしてられねぇ。俺等も後を追ってみようぜ!!」

 

 

 とはいえ自分達の実力でレベルの高すぎる2台を追うことなど不可能に近いといっても過言ではない、それを聞いた健二が無謀すぎると慌てて止めようとする。

 …が追いつこうなど池谷も鼻っからそんなことは思ってもなかったようで、万が一拓海が事故を起こし酷い怪我をした際に少しでも早く助けて上げようというところらしい。

 

 

「え!?無理だよ池谷!!オレたちの腕じゃもう追いつけっこないって!」

「追いつこうだなんて思っちゃいない、万が一拓海が事故って酷い怪我でもしたら…少しでも早く助けてやらないとだろ!」

ボムッ

 

 

 それを聞いた健二は一瞬唖然とした表情で突っ立っていたが、エンジン音を始動させる音で我に返ると自分もついていくと告げながら慌ててS13シルビアの助手席へと飛び込むように乗り込む。

 その後飛び出すようにコースへ出てきたシルビアは暗闇のダウンヒルへと消えるように走り去っていくのだが、その様子を見ていた友奈は真剣な目つきのままふと星空満点の空を眺めていくのであった。

 

 

キュルルルル

ブオン!!

「…あっおい俺も行くよ!!」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、なんとかクラッシュを回避することに成功した拓海は相変わらず慎吾に煽られながらもガムテープで固定された右手を小刻みに操作しながらコーナーを無難にクリア。

 

 車内にはキンコンという音と車外から聞こえるエキゾースト音やスキール音がBGMとして聞こえてきており、その中でも拓海な真剣な表情を崩すことはなかった。

 

 

「……」

キンコン…キンコン

ドギャァァァ

 

 

 やはり友奈からのアドバイスを思い出したのがかなり大きかったらしく、しばらくセーブした状態でコーナーをクリアしつつハンドルの舵角を小刻みに調整して試行錯誤していたが、コツをつかんだ途端目つきが変化。

 それと同時に今までセーブされていた分が一気に開放されたも言わんばかりにハチロクのペースがアップ、弾かれたようにコーナーからの加速で立ち上がる。

 

 

「……!」

ギャァァァ

ゴァァァァ

 

 

 ストレートで3速にギアを叩き込みつつ、指で弾きながらガムテープデスマッチの攻略法が掴めたぞ…と拓海は呟きながらも、次のコーナーでいつもと変わらない…いやむしろ速くなってると言わんばかりの四輪ドリフトで流しながら突っ込んでいく。

 

 

「…そうか、掴めたぞ。このバトルの攻略法…!」

ゴクッ

ドギャァァァ!!

ウォンウォン!!

 

 

 もちろん走りが変わったことは後ろを走っていた慎吾も気づいており、いくらなんでもガムテープデスマッチの適応力が早すぎることに思わず眉を細めながらも最初のカウンターだけで鮮やかにクリアする光景に驚きを見せていた。

 

 

ギャァァァ

ーちっ…何故だあの野郎?最初のカウンターで鮮やかにクリアしていく…信じられねぇ…ー

 

 

 それもそのはず、ガムテープデスマッチはいくら上手くても素人がいきなりやってクリア出来るものではなく、安全に行こうとすれば行くほど穴にハマりやすくなる言わば蟻地獄のようなバトル。

 今でこそ完璧にマスターしている慎吾だが、ガムテープデスマッチが出来るようになるまで、右手を持ち替えずに峠を走る練習を山のようにやってきた。

 

 

ーガムテープデスマッチはいきなりこなせるようになるほど甘くはない、安全に行こうと思えば行くほど罠が多い蟻地獄のようなルールだからなー

ギャァァァ

 

ー俺だって実際にガムテープを巻いて曲がれるようになるまでは右手を持ち替えずに走る練習を山のようにやってきたんだー

 

 

 とはいえどんなにコツをつかんだ拓海のテクニックによってハチロクがコーナーをハイスピードで流したとしても、慎吾は腐ってもナイトキッズナンバー2と呼ばれるほどのテクニックの持ち主。

 

 コーナーに侵入する際は左足ブレーキはもちろんなことEG6でコーナー進入時にサイドブレーキを引く(「フロント荷重」を作った状態でリアを強制的にブレイクさせるテクニック)操作を使い、FRにも負けないコーナリング速度でクリア。

 その後のストレートではテンロク最強とも言われるB16Aエンジンのパワーにものを言わせ、ハチロクの背後へとピタリと張り付く。

 

 

ンバァァァ

ー長い直線ではエンジンのパワーがモノをいうぜ?NAのテンロクDOHCなら、世界中探してもB16Aに勝てるエンジンはないー

 

 

 シビックといえば…いやホンダ車のVTECエンジンといえば高回転型のエンジン、回せば回すほど気持ちいいエキゾースト音に慎吾の闘争心は一気に掻き立てられていた。

 

 

ーへへっ、レッドゾーンまで一気に吹けるこの音この陶酔感…死ぬほどたまんねぇ…!ー

ゴァァァァ

 

 

 そのせいもあってか長いストレートを利用して慎吾はハチロクの左側の空いたスペースに飛び出すと一気に加速、そのままハチロクに横並びしていく。

 もちろん拓海もそれに気づき、慎吾の不気味な笑みを目の当たりにすりと思わずくっ…という表情になるが再び前を向きながらアクセルを更に踏み込み、レッドゾーンギリギリまで加速させる。

 

 

ゴァァァァ

キキッ

「…!」

「……」フフッ

 

 

 …が抜く気はなかったのか直後EG6はあっさりとラインを譲っていき、再びハチロクが頭を押さえる形でストレートを疾走。

 いや抜く気がないというよりかはいつでも抜くことが出来るという見せつけみたいなものであり、もっと焦らせたい慎吾は背後からガンガンプレッシャーをかけていく。

 

 

キキッ

「……!」

ーわかったかぁ?抜く気になればいつでも抜けるってことがよぉ!オラオラもっと焦った方がいいぜ!…ガンガン攻めてみろ?ー

 

 

 しかし今の拓海にはそのプレッシャーは全然効果がないというか、むしろそれを気にしないほどの余裕が生まれてきたこともあってか、走り出した時よりも更にガムテープデスマッチバトルが形になりつつあった。

 更には友奈がバトル前にアドバイスをしてくれたハンドルを使って曲がろうとしちゃ駄目という言葉の通り、できる限りハンドルを切らずに曲がったほうが速く走れることにも拓海は気づいた。

 

 

ギャァァァ!!

ー…、いい感じにスピードが乗れる…ハンドルはなるべく切らないで曲がったほうが速いのか…ー

『いい?ハンドルを使って曲がろうなんて考えは駄目』

ー…友奈ちゃんもそんなこと言ってたな…、…やっぱり友奈ちゃんは凄いや……俺なんかとは全然違うっていうか…ー

ゴァァァァ

 

 

 もちろん走りが変わったことは慎吾も気づいており、プレッシャーをどれだけかけても乱れないどころか、走り始めの直後のヨタヨタしていたのが今では走りに鋭さが増している現状に焦りを浮かべていくのであった。

 

 

ギャァァァ!!

ーくそぉ何故だ?プレッシャーをかけても乱れない、走り始めた直後のヨタヨタしていたのに…別人のように走りに鋭さが増していく…!ー

 

 

 

 

 

 

 

 スキール音やエキゾースト音が秋名に児玉している中、2台が下ってくる先にある右コーナーにはコチラにも同様に多くのギャラリーが詰めかけており、そこにはあの高橋兄弟の姿もあった。

 どうやら2台とも潰れてなさそうだな…そんなことを呟く啓介に対して、涼介はもしここで潰れているなら俺の見込み違い…俺のターゲットにはならないと口にしながらも、何処か嬉しそうな表情を見せていく。

 

 

ギャァァァ

「来たぞ、どうやら2台とも潰れてはいないようだな」

「…ふっ、もしここまで来られなければ俺の見込み違い。あのハチロクは俺のターゲットにはならない」

 

 

 その間にも2台は仲良くくっついたまま右コーナーへと猛スピードで突っ込んできたものの、ギャラリーの1人が1台上がってくる奴がいるぞ!と慌てた無線片手に報告。

 しかし無線を聞く手立てのない2台は全くスピードを落とすことなくコーナーへと侵入、…だが上がってくる車の存在は拓海も気づいていたらしくアウトいっぱいに車体を寄せた。

 

 

ギャァァァ

「来たぞ!」

「ヤバい!上がってくる奴がいるぞ!!」

ゴァァァァ

「…!!」 

 

 

 だが驚くのはここから、アウトいっぱいに車体を寄せた拓海はヒールアンドトゥで2速にギアを叩き込みながらフルブレーキング…その後は車線から一切はみ出すことなくハイスピードの4輪ドリフトで対向車スレスレで流していく。

 当然普通に対向車ありでも車線をはみ出さないドリフトは難しいはずなのに、それをガムテープを巻いた状態となれば話は大きく変わってくるため、思わず啓介はハイテクニックだ…と驚きを露わにする。

 

 

ウォンウォン!!

ドギャァァァ!!

キュルルル!!

「なっ!?半分の車線だけでセンターラインをはみ出さない4輪ドリフト!!…すげぇハイテクニックだ…!」

 

 

 まあそれもそのはず、秋名のハチロク…拓海の強さであり平然とあの走りをやってのける上に、対向車とのすれ違いでも全く乱れない。

 啓介の言う通り本当にガムテープを巻いた状態で走っているのか…と疑いたくなるような走り方ではあるものの、涼介の指摘通りかなり早い段階でガムテープデスマッチの走り方をマスターしたのだろう。

 

 

「…アレを平然とやってのけるとはな、しかも対向車とのすれ違いにも全く乱れない」

「…本当にガムテープで縛ってるのか?…とっくの昔に剥がれちまったんじゃないのか」

「恐らく、アイツはかなり早い段階でこのデスマッチのコツをつかんだ」

 

 

 まあ要はステアリングに頼らなくても荷重移動でコーナーを攻めることが出来るということであり、拓海は短時間でそれを覚えた…ということになる。

 ただそれでもマスターするまで早すぎると涼介は思っていたようで、恐らく誰かに分かりやすくてインパクトのあるアドバイスを貰ってこその走りだろう…と涼介はそんなことを呟く。

 

 

「…というと」

「ステアリングに頼らななくても荷重移動でコーナーを攻めることが出来る、アイツは短時間でそれを覚えた」

「…ったくなんて野郎だ」

「奴は間違いなく進化してる…、…だがそれでも短時間でマスターするには早すぎる。恐らく誰かのアドバイスがあってのあの走りだろう」

 

 

 とはいえそんな走りを出来てアドバイスを出来る走り屋など群馬エリアを探してもかなり限られているというもの、…いや同じハチロク乗りである赤城の歌姫以外考えられない。

 それを聞いた啓介はアイツならやりそうだな…と頭をポリポリかきながら口にしていき、涼介はやはりあの2人は俺にとって仕留めがいがあると笑みを浮かべていく。

 

 

「…ま藤原にアドバイスが出来る奴なんて、赤城の歌姫以外考えられないが…恐らく彼女もラインを制限したドリフトやステアリングに頼らないドリフトなぞ、容易いだろう」

「ったくアイツならやりそうだな…」

「だがそれでこそあの2台のハチロクを仕留める甲斐がありそうだ」フッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃相変わらずダウンヒルを疾走していた2台だったが、ハチロクの後ろにへばりつく形で走っていたEG6の運転席では、ステアリングを操りながら慎吾がとんでもない食わせ物に出会ったと愚痴をこぼしていた。

 あそこまでやられるとなると単なるまぐれではなく、確実にこのドライバーは上手いということになる。

 

 

ゴァァァァ!!

ーくそぉ…とんでもねぇ食わせ物だぜ、あそこまでやられちゃあまぐれじゃねぇー

 

 

 しかしそれでもまだ勝てる自信があるのか、自分はナイトキッズリーダーの中里より甘くはないぜ…と呟きながら笑みを浮かべており、要はどんな手を使っても勝てばいいんだと言わんばかりの表情を見せていた。

 

 

ーけどそれは毅のように甘くはねぇぜ?要は勝ちゃいいんだよ、どんな手を使ってでもな…!ー

ゴァァァァ

 

 

 慎吾が何か良からぬことを企んでるとは知る由もない拓海は、ようやくコツをつかんだガムテープデスマッチで思うがままにハチロクを操りながらハイスピードでダウンヒルのストレートを疾走していく。

 その後コーナーに差し掛かったことで慣れた手つきでフルブレーキング、ヒールアンドトゥで3速に叩き込みながらステアリングを切り込んだ…直後

 

 

ー悪く思うなよぉ?秋名のハチロクが解体屋送りの鉄くずに変わるだけだぁ…ーニマァ

ウォンウォン

ゴクッ

ドギャァァァ

 

 

 リアが滑るのを待ってましたと言わんばかりにEG6がコーナー前なのに減速を一切せずに侵入、ハチロクのリアをどつく形で慎吾はフロントを接触させる。

 当然ドリフトの体制に入っていた状態で突っ込まれれば拓海であったとしても立て直すことは困難に近い、そのままバランスを崩したハチロクはコーナーの途中でスピンしてしまう。

 

 

ゴンッ!!

ー!!?ー

 

 

 しかしその後咄嗟の判断でブレーキを踏みながらクラッチを踏み込みつつ、拓海はステアリングを微調整。スガードレールなどにぶつからないようにしながら器用にハチロクをスピン。

 その際にEG6が空いたスペースに突っ込む形で抜き去っていくのが見えたものの、それと同時にギアを3速から2速に叩き込み、ハチロクが前を向いた瞬間にアクセルを床まで踏み込み一気に加速。

 

 体制を立て直しつつ3速にギアを叩き込み、ぶつけて逃げの体勢に入っていた慎吾のEG6に追いすがるように再び疾走し始める。

 

 

ゴクッ

ギャァァァ

ゴッ!!

 

ゴァァァァ!!

 

 

 

 なんとか体勢を立て直したことで一瞬安堵した拓海だったが、直後にわざとぶつけてきた慎吾に対して激しい怒りが湧き出てくる。

 どう考えてもクラッシュさせるつもりでぶつけてきたな…そんなことを思いながら、お前みたいなカスには絶対に負けないと言わんばかりの表情を露わにしていくのであった。

 

 

ー…ムカついた…わざとやりやがったな…、テメェみたいなカスには…ぜってぇ負けないからな…!ー

ゴァァァァ

 

 

 

 

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