EG6とのバトルから翌日
まだ辺りが暗く日が昇っていない早朝3時頃、渋川市内にある拓海が暮らす藤原豆腐店では静寂な時間を打ち破るように大きな声が響き渡っていた。
その原因の主は拓海の親であり藤原豆腐店を営む藤原文太であり、豆腐の配達時間にはまだなっていないものほ拓海を叩き起こす形で呼び出していく。
「拓海!拓海ぃ!起きてるか!ちょっと来い!」
もちろん拓海も言われずとも起きており、何だよ…と眠たそうに頭をポリポリしつつも、まだ配達の時間じゃないのに呼び出す文太に対して不満そうな表情を浮かべながら二階から顔を出す。
「起きてるよ…!いつもの時間だろー?」
だがどうやら配達以外の話があるらしく、文太はとりあえずちょっと降りてこいと手招きしつつも先に下の方へと降りていき、拓海も渋々その後をついていく形で階段を降りていく。
「いいから、ちょっと来い!」
「ちえっ…」
その後1階へと降りてきて靴を履くと豆腐店の作業場を通り抜けてお店の外へと拓海が出てくると、文太が外に立っており少しご立腹な口調で目の前に停められたハチロクを横目に話始める。
コツコツ
「なんだ、このザマは」
どうやら昨日ナイトキッズのEG6とガムテープデスマッチをした際、ぶつけられたことにキレたことで暴れに暴れまくった時にハチロクをぶつけまくった傷が文太にバレてしまったらしい。
しかしその際の記憶が一切ない拓海は覚えがない旨を話つつ、まだ寝ぼけてるのかあくびをしつつ文太がぶつけたんじゃないかと責任転嫁していく。
「お前どっかにクルマぶつけてきたな、ガードレールに擦ったような傷が三箇所もあるぞ」
「…おれ覚えねーけど……、オヤジじゃねぇの?」(あくび)
だが昨日は一回も文太はハチロクに乗っておらず、あまにも呑気すぎる拓海を見て怒りを爆発させながら、お前しかいないと指摘しつつ、リアバンパーからフェンダーにかけて出来たガードレールと擦った傷を指さしながら再度問い詰める。
「……俺は昨日一回も乗ってねぇよ!!お前しかいねーんだ!!よく見てみろ!!バンパーからフェンダーのこの傷!!」
すると傷をみたことでようやく眠気が覚めたのか驚いた表情を見せていた拓海…そこでようやく自分がぶつけたことを明かすのかと思われたが、…まだ眠気がとんでなかったのか誰がこんなことを…と明後日の言葉を口にしていき、文太からげんこつをお見舞いされていく。
「うわ!本当だ、ひでぇ誰だチクショー…!」
「お前だって!!」ゴンッ
「いてーな、何すんだよ…!」
だがげんこつをされたことでようやく我に返ったのか、何だよ…と煙草に火をつけながら尋ねた文太に対してそういえばオレ昨日ぶつけてきたかも…とそんなことを口にしえいき、あやふやな返答に何だよそれ…と文太は突っ込みをいれる。
「…っあ!」
「なんだよ…」カチッ
「そういえば…かすかにぶつけたような気がする…」
「なんだよそりゃ、ガキのくせに朦朧としてんじゃねーよ」
そう言われた拓海は、昨夜のEG6とのバトルをした際にその相手がすごくムカつく奴だったことや途中から怒りがマックスになって訳わかんない状態になり、バトルの勝敗をよそにそのまま家に直行、速攻で寝た旨を文太に明かしていく。
どうやらそれであやふやな返答になってしまったようで、文太にぶつけたことを報告しなかった理由も単純にふて寝したことが原因らしい。
「昨日…オレすげームカつく奴とバトルして…、途中でキレて…わけわかんなくなって…カッカして帰ってきて…速攻で寝ちまったから…」
それを聞いた文太はタバコを咥えた状態で一間空けると、何があったかは知らないが車をぶつけるようじゃまだまだだと指摘していき、オレなら絶対ぶつけないとも口にする。
「どういう成り行きかは知らねーが、ぶつけるようじゃまだ甘いぜ。…オレなら、絶対ぶつけない」
だがその後拓海に対してバトルは勝ったのかと訪ねていき、うんと拓海が答えるとそうか…と一言答えながら文太は笑みを浮かべていく。
「…それで、勝ったのか?」
「…うん」
「そうか…」ニヤッ
どういう形であれどキレた状態でバトルに勝てるほど成長した拓海が嬉しくて仕方なかったのかもしれない、その後お店の中に戻ろうとした文太だったが、ふと彼に対して例のハチロク乗りはどうだったと尋ねた。
「…そういや拓海、例のハチロク乗り…どうだった?」
だがそれだけでは言葉の意味が分かっていなかった拓海は何だよそりゃ…と変な表情を見せながら首を傾げる。
するとそれを聞いた文太はお前の友だちに同じカーボンボンネット仕様のハチロクのお嬢ちゃん乗りがいるだろと口にしていき、そこでようやく友奈のことを言っていることに拓海は気づく。
「…何だよそりゃ」
「ほらいるだろ、お前の友だちに可愛いお嬢ちゃんのハチロク乗りが…ボンネットが黒のカーボン仕様の」
「…あー友奈ちゃんか…」
だが彼女がどうしたのかと拓海が尋ねていくと、ソイツからアドバイスを貰ったんだろ?と言ってもないのにまるで知ってるかのような口調で尋ねていき、それを聞いた拓海は思わず驚いたような表情を見せた。
しかしそこには文太は触れず、どうだったんだ?と改めて聞いていき、拓海はしてもらった…と答えつつ、すごく分かりやすかったとも答える。
「そうだ、ソイツからアドバイス貰ったんだろ?」
「えっなんでオヤジがそれを知って……」
「んで…どうだったんだ?ソイツのアドバイスは」
「…どうって……、まあすごく分かりやすかったよ……オレみたいな奴にも理解出来るように短く印象の残る言い方してくれたし…」
それを聞いた文太はそうか…と答えると、それ以上話すことなく相変わらずタバコを咥えたままお店の奥へと引っ込んでいき、拓海はそんな文太を横目に傷ついたハチロクのボディを優しく撫で下ろしながらしゃがみ込んでいくのであった。
「…そうか」
コツコツ
そして日が昇った午前中のある日、相変わらずカンカン照りな渋川市内某所に構える市立病院の複数の人たちが入院する部屋、その窓際のベッドでは樹が苦しそうな声を上げながら腕立て伏せをしていた。
「うぐ…!ぐぉ!ぬぉ!」
するとそんな最中お見舞いにやってきたなつきと拓海が顔を出しつつ、拓海が大丈夫かー?と少しニヤけながらも親友を心配するかのように話しかける。
どうやらイツキ曰く精密検査の結果も問題なしとのことで近いうちに退院出来るように調製してもらっているらしい。
「大丈夫かーイツキ?そんなことをして」
「あっうん!検査の結果も異常なし、次期退院さーっ!」
その後2人以外誰かいていないことをちらっと確認するとなつきがお見舞いの花を飾っておくね?と伝えながら花瓶片手に一旦病室を後にしていく。
そんな彼女にお礼を言いつつ病室から出たことを確認した樹は、拓海に向き直ると何処からか耳にしたであろう昨日のガムテープデスマッチバトルに触れ、勝ったんだってな!と興奮気味に話す。
「これお見舞いの花、飾っとくね?」
「サンキュ、…聞いたぜ拓海!やっぱ勝ったんだってな!ガムテープデスマッチ!」
もちろん拓海もあぁと答えていき、 それを聞いた樹はFR潰しと言われていたガムテープデスマッチに簡単に突破して勝利するなんて天才だよ!と嬉しそうに答える。
「あぁ…」
「くぅー!!やっぱすげーよ拓海!FR潰しのバトルでも簡単に突破しちゃうんだから天才だよ!!天才!!」
そんな樹を横目に窓際へとたった拓海は、あのバトルだけは今までにないほど絶対に勝ちたいという思いがあったことを明かした。
当然慎吾にムカついたこともあるが、それよりも更に何が何でも負けたくないという思いも経験していたらしく、こんな気持ちになったのは初めてだと話していく。
「…イツキ、オレあのバトルにどうしても勝ちたかったんだ」
「ふぇ?」
「アイツにムカついたこともあるけど、それだけじゃない。絶対に負けたくないって思った、走っててこんな気持ちになったのは初めてだ…」
それを聞いた樹は、だんだん走り屋っぽくなってきたよなぁ…と染み染みしながらそう指摘していくが、拓海は走り屋ってそんなんじゃないと慌てて照れ隠しのようにも否定する。
しかし樹はかえってやる気が出てきたのか、退院したらテクニックを磨きまくって秋名のレビトレコンビの相棒として恥ずかしくない走り屋を目指そう!と意気込む。
「お前…だんだん走り屋っぽくなってきたよなぁ」
「っいや、走り屋ってそんなんじゃ…」
「よーし!退院したらオレもテクニック磨くぞぉ!秋名のレビトレコンビの相棒として恥ずかしくないようになぁ!」
するとそのタイミングで花瓶に水と花を入れたなつきが戻ってきて何の話をしてたのかと興味深げに聞いてくる。…、があんま公には言えない話なのであーいやと誤魔化しながら話題を変えるように沙織ちゃんは元気かと尋ねていく。
「ねぇなんの話?」
「あぁいや!…ところで沙織ちゃんは、元気?大丈夫?」
しかしあまり触れないように気を使っていたのかなつきがやべっ…という表情を一瞬浮かべたものの、直ぐに何事もなかったような雰囲気で樹によろしく言ってたと上手く誤魔化すような感じで返答する。
それを聞いた樹はそっか…と何とも言えないような表情を一瞬浮かべたものの、直ぐに気持ちを切り替える形で退院したらみんなでドライブ行こうと話していく。
「あっ…えっうっうん!イツキくんによろしく言ってたよ…!」
「そっか……よーし!退院したらみんなでまたドライブ行こうなー!」
その言葉になつきはうん♪と返答していき、拓海は少しバツの悪そうな感じを見せながらも平然を装う形で応えていくのであった。
「うん!」
「あっ…あぁ…」
「それじゃお大事にねーイツキ君」
「池谷先輩達には元気にしてたって伝えとくから、早く退院したら顔出せよ?」
「おう!お見舞いありがとうな!」
なつきと拓海が樹に見送られる形で病室を後にしたタイミング、2人が歩いていく廊下とは反対側の角から覗き込むように彼女を睨見つける由紀の姿が…
相変わらずあの子のこと嫌いなんだね…と覗き込む親友を横目に見ていた明日香は、やれやれという表情を浮かべながらそんなことを呟いていた。
「……」
「相変わらずなつきちゃんのこと嫌いなんだねぇ……、まあその気持ち分からなくもないけど……」
しばらくそんな感じで見つめていた由紀だったが、2人がいなくなったことを確認すると明日香にそろそろ行くよと告げると今来たと言わんばかりの平然を装いながら角から歩き始める。
するとそのタイミングで恐らく拓海たちと入れ違いになったであろう羽南と祐也のツーコンビが反対側からやってきて鉢合わせた。
「……よし、帰った。明日香行くよ」
「はいはい、ってか拓海君となつきちゃんって仲いいんだねぇ。最近一緒に良くいるから」
「…あんな奴の何がいいんだか…ってあ、羽南ちゃんに祐也」
「あっ由紀ちゃんに明日香ちゃん!」
「ういっす、お疲れー」
どうやら2人も樹お見舞いに来たらしく、偶然だねーとそんなことを病室前で話していると、そういえば友奈ちゃんはどうしたのかと明日香が尋ねる。
「2人もお見舞い?」
「うん、そんなとこ」
「偶然だなー、拓海達にさっき会ったと思ったら今度は2人だし」
「ところで友奈ちゃんは?姿見えないけど…」
すると羽南が、友奈は今日スタンドのアルバイトでお見舞いにこれない旨を明かしていく。やはり抜けた分人手がいるようで、樹が抜けている間は彼女がその穴を埋めるかたちで頑張っているとのこと。
もちろん見舞いにはこれないというわけではなく夕方に時間が取れそうだからその辺で顔出しに来るらしく、2人は先に行っててと言われて今に至るらしい。
「あー友奈ちゃんはバイトでこれないって、樹君が抜けてる穴を埋めるかたちで頑張ってるみたいで…」
「あーそうか…」
「でも今日夕方ぐらいに時間が取れるからそこで来るって、だから私たちだけでもお見舞いに行ってて言われてこうして来たって感じ」
「なるほど」
とまあそんなことを話しながらもお見舞いのお菓子やら何やら持って病室へと入った一同、…が目の前の視界に飛び込んできたのはとても先ほどお見舞いされたとは思えないほどに布団に包まり泣いている樹の姿だった。
「とりあえず中入ろっか、ここで立ち話もなんだし」
「だねっ、やっぱろーイツキ君。調子はどうd…」
「ちくしょー…!走り屋に女なんて要らねぇ!!」
「…へ?」
一体何があった…そんなことを呟く祐也の横で羽南がどうしたのー?と話しかけていき、その声で羽南達がきたことに気づいた樹は慌てて飛び起きながら何でもないと誤魔化しを試みる。
…だがアレを観られたら誤魔化しが効くはずもなく、どうせ沙織ちゃん関連でしょ?と由紀に痛い所を指摘され、うぐっ…と言いながらもそうだと正直に白状していく。
「…どうた?これ…」
「お~いイツキくーん、お見舞いきたよー?」
「っは!?羽南ちゃん!それに祐也や明日香ちゃん、由紀ちゃんまで!いらっしゃい!」
「…イツキ君、さっきのもしかして沙織ちゃん絡みでしょ?」
「ゔ……まあ…はい……」
今流石にそれは指摘しないほうがいいんじゃ…と明日香が小声で耳うつが、由紀は気にする素振りを見せることなく気を使うのが苦手なことや、しっかりフォローすると切り返していく。
その後明日香に対してイツキに言いたいことがあるんじゃないか?と訪ねていき、そこでそういえばそうだった…と彼女はそんなことを言いながらお見舞いの菓子を差し出しながら深々と勢いよくお辞儀しつつ謝罪した。
「…由紀あんまそれは指摘しないほうがいいんじゃ……」
「…確かにそっとするのも大事だけど、私気を使うの苦手だもん。心配しなくてもしっかりフォローはするつもり…それより明日香は言いたいことあるんじゃない?」
「あっそうだった…(コホン)イツキ君」
「ん?どうかした明日香ちゃ…」
「この度は本当にごめん…!!」
ドラマばりの謝罪に樹は驚いたような表情を浮かべるが、やはりそれだけ気にしていたいたのかもしれない。もちろん謝ったところでどうにかなる問題ではないものの、せめて入院費や通院費、車の修理代は慎吾から絞り出しても用意する旨を伝えていく。
「うえ!?あっ明日香ちゃん…?」
「あのクソ慎吾のせいで怖い思いさせちゃって…!もちろん謝っても済む問題じゃないのは分かってる…!けどまずは謝らないとって思って……」
「……」
「とりあえずアイツには入院費とか通院費、車の修理代を絞り出させるから…そのへんはこっちに任せてイツキ君は治療に専念して貰えたら……」
自分がしたわけではないが、やはり自分と関係あるチームのメンバーが故意でやったとなればそれこそ申し訳ない気持ちで一杯になってしまうのかもしれない。
しかし樹は明日香に謝る必要はないと答えていき、むしろ色々してくれるだけでもありがたいことや、例のEG6は拓海がこてんぱんにしてくれたためスカッとしたとも答えた。
「とりあえず改めるけど本当にごめん…、私が止められてたらこんなことには…」
「…明日香ちゃんが謝る必要はないよ、元はといえばこうなったのはオレのせいもあるし…何よりあのムカつく野郎は拓海がこてんぱんにしてくれたからな…!!」
その後ハチゴーはどうなっているのかと尋ねると、羽南が現状うちで預かってることや、リアやフロント周りも損傷してて、エンジンにもダメージが入ってるかも説明。
同時にお父さんから聞いた情報ではエンジンは載せ替え確実だとも言われたことを告げると、それを聞いた樹は派手にやっちまったなーとポリポリと頭をかく。
「あっそういえばハチゴーって今どうなってるんだ?」
「ハチゴーならうちで預かってるよ、ただフロントとリアが損傷してて、板金はもちろん足回りとかエンジン載せ替えは確実だって」
「そっかぁ…、まあ派手にぶつかったからなぁ…」
するとそのエンジン載せ替えに関して羽南がお父さんからの伝言として、ハチロクのエンジンである1.6L直列4気筒DOHC「4A-GEU型」が丁度使えそうな奴が1個あるからそれに載せ替えてみないかと提案されたことを伝えていき、それを聞いた樹はマジで!?と興奮気味な表情を見せていくのであった。
「あーそれとお父さんからの伝言なんだけど、もし治すのであれば知り合いの解体屋から程度のいいハチロクのエンジン引っ張ってこれるって」
「えっ!?それマジ!?」