赤城山麓、高橋宅にて
「……」カタカタ
コンコン
「アニキ、はいるぜ」ガチャ
当たりも日が落ちた頃、高橋宅の一室では涼介がいつものようにパソコンと向き合う形でカタカタという音を立てながら作業をしていた。
すると、聞き慣れた声と共にノック音が聞こえてくると共に、啓介が扉を開けながら入ってくる。
もちろん訪れた理由は涼介がついに歌姫に対してバトルの挑戦状を叩きつけたことに関してであり、こちらに向き直るアニキを横目に腰掛けながらいよいよだな…と話していく。
「啓介か、どうした?」
「どうもこうも、聞いたぜアニキ。歌姫に挑戦状叩きつけたんだってな」
「あぁ、そのことか。情報が伝わるのが速かったな、明日お披露目しようと思ってたんだが」
どうやら史浩から話を聞いたらしく、それを聞いた涼介はアイツは…とやれやれな表情を浮かべながら知ってるなら隠す必要はないな…と開き直る。
「史浩から聞いたんだよ、アニキがコソコソしてて怪しかったから」
「ったくアイツは…、まあいい。知ってるならもう隠す必要は無さそうだしな」
実際その通りであり、直接挑戦状を叩きつけたわけではないが花束に手紙を添えて赤城の歌姫がアルバイトで働いているスタンドの前に置いてきたらしい。
それで伝わるのかよ…と話を聞いた啓介がそんなことを呟くのに対して、彼女ならきっと伝わるさ…と啓介は確信の表情を浮かべていく。
「啓介の聞いた通りだ、まあ直接挑戦状を叩きつけた訳じゃなくて手紙の添えた花束を彼女のアルバイト先の前に置いてきただけだが…」
「マジかよ、それで本当に伝わるのか?」
「問題ない、彼女ならきっと…伝わるさ」
まあそれはいいとして啓介は本題として、赤城の歌姫戦での勝算はちゃんとあるんだろうな?と尋ねる。
もちろん過去の歌姫が行ったバトルでのデータ、それを徹底的に収集し分析してきて隅から隅まで弱点やら走りを分析してきた涼介となれば勝算がないわけがない。
当然あると涼介は答えながら、車も赤城の峠に合わせて足回りも変更、更にエンジン馬力も340馬力から310馬力にダウンした旨を明らかにした。
「…まあアニキだからいいけどよ…、ところで勝算はあるんだよな?アレだけ分析してたんだから」
「当然、公道最速理論の時間を削ってまで徹底的に分析したんだ。もちろんFCの方も今までに足回りを赤城に更に寄せたセッティングで松本と詰めた、馬力も310まで落とした」
ちなみにエンジンのさらなる馬力ダウンも考えたものの、相手が高回転型レース用エンジンを積んでいる普通のハチロクではないということで、30馬力ダウンで留めたらしい。
とはいえ啓介からすればかなりの馬力ダウンには間違いなく、正気かよ!?と思わず声を上げてしまう。
「出来ればもう少し落としたかったが、流石に相手がレース用エンジン積んでる普通のハチロクだとな…。それ以上は下げないってことで落ち着いた」
「っておいおい正気かアニキ!?馬力を落とすなんて…!!しかもレース用エンジン積んでるハチロク相手に……」
だがダウンヒルというのはヒルクライムみたいにパワーがあればいいというわけではない、馬力があればあるほどタイヤやブレーキに負担が増える上、速度も乗りやすいということで必然的に制動距離が増える。
実際啓介もローパワー秋名のハチロクと、レース用エンジンを積んでるとはいえ馬力がしたの赤城の歌姫とやり合った際は、ハイパワーがかえって啓介自身を苦しめ、苦い敗北を期していた。
「おいおい啓介、ダウンヒルはパワーがあればいいって訳じゃないんだぞ。パワーがあればあるほどタイヤやブレーキに負担は増えるし、制動距離も必然的に長くなる」
「……」
「お前や中里がハチロクにダウンヒルで追い回されたのも結局は今まで味方していたパワーが苦しめたからだ、そうだろ?」
「…確かにアニキの言う通りだ、ストレートで振り切ってもコーナーですぐに詰められる。アクセルも気持ちよく踏めねーからフラストレーションたまりまくりっていうか…」
それを間近で見ていたからこそ同じ失敗を踏まないため今回のパワーダウンに繋がったらしく、同時に相手は綺麗なドリフトを得意としているなら、こちらも同じ方法で挑みたいという思いもあるらしい。
「そういうのだ、まあ他には彼女が綺麗なドリフトを得意としてる。なら同じ土俵でバトルするまでだという理由もあるがな」
「…同じ土俵で」
とはいえ明日は間違いなく群馬エリア…いやその近隣エリアの他県でもバトルに関しての噂が広がっているのは間違いなく、祭りみたいに大騒ぎになるだろう。
明日はいろんな意味で荒れるな…そう呟いた啓介に対して、あぁ…と答えながら、明日のバトルはレッドサンズリーダーとしてではないことを覚えといてほしいと涼介は告げていく。
「……明日は間違いなくいろんな意味であれるな」
「あぁ…、だが啓介。明日のバトルはレッドサンズのためじゃないってことは覚えといてほしい」
それを聞いた啓介はどういう意味だ?と首を傾げなが尋ねると、涼介は明日のバトルはレッドサンズとしてではなく、赤城の白い彗星としてのバトルである旨を明らかにしていき、あの日の夜つけれなかった決着をつけるためのバトルだとも口にしていくのであった。
「へ?そりゃどういう……」
「明日のバトルはレッドサンズとしてじゃない…赤城の白い彗星として…あの日つけれなかったバトルの蹴りをつけるための…バトルだからな」
群馬県内某所
友奈宅にて
「なるほどねー、高橋涼介からの挑戦状をもらったとー」
啓介と涼介が話している頃、群馬県内某所にある友奈宅のキッチン兼リビングのテーブル席では向かい合うかたちで2人が腰掛けており、昼間の経緯を友奈から聞いた春香はなるほどねーという表情を浮かべていた。
レッドサンズの主戦力とも言えるドライバー2人を倒しているのだから目をつけられるのは時間の問題だというのは友奈もわかってはいたが、まさかこうも早くとは…と呟く。
「まあレッドサンズのドライバー2人倒してるし…その一人はその高橋涼介の弟でナンバー2…いつかは来るとは思ってたけど…思ったより早いっていうか…」
もちろん相手である高橋涼介はモータースポーツ出身で赤城レッドサンズのリーダー、更に走りに関しては群を抜いていることは知ってはいる。
だが詳しくは知らないため、元走り屋の母に何か知っていないのかと尋ねて今に至るらしい。
「お母さん的にはどうなの?その高橋涼介って…、モータースポーツ出身で群を抜いて速いことは知ってるんだけど…」
「そうねぇ……」
そう聞かれた春香はお茶をすすりながら少し考えると、自身も数年前にまだ赤城レッドサンズが結成されてなくて涼介が赤城の白い彗星として1匹狼だった頃、一夜限りのバトルをしただけの関係だから何とも言えないと答えていく。
「…(ズズズ)まあ私も数年前、まだ高橋涼介が赤城レッドサンズ結成してなくて1匹狼だった頃、一夜限りのバトルしただけの関係だから…何とも言えないわねぇ…」
とはいえ走りに関しては春香的には今も昔も変わっていない気がするらしく、走りの特徴としては当時は相手の得意分野でねじ伏せる走りを得意としていたらしい。
その時は最終的に引き分けで決着つかずじまいだったものの、恐らく今回のバトルの挑戦状は数年前の決着をつけるためじゃないか…と春香的にはそう思っているようで、それを聞いた友奈の表情も少し引き締まる。
「まあ強いていうなら相手の得意分野でねじ伏せる走りが得意だったかしら、そこためならとことん相手の走りも追求してマシンのセッティングも組むような人だから」
「…相手の得意分野でねじ伏せる…」
「まああの時は最終的に決着つかずじまいだったけど…、恐らく今回の挑戦状はその時の決着をつけるため…じゃないかしら」
「……」
なのでそのバトル以降から歌姫が得意としている走りは徹底的に分析されているのは間違いなく、そうなればその当時と今で走りのスタイルが変わっていないのは恐らくバレている可能性が高い。
仮にそうじゃなくても何度かバトルをしている際にデータの分析をされているだろうから、こちらの手の内はすでに露見していると言ってもいいだろう。
「まっ当時と走りが変わってないのはバレバレだろうし、仮にそうじゃなくても手の内は全て把握されてるかもね」
「……やっぱりか、…ってことはこのままバトルを挑んでも…」
「えぇ、ほぼ負けるでしょうね」
もちろんそれでは春香としても面白くないし、数年前の決着をいい形で終わらせたいため、友奈に対してアドバイスを一度しか言わないからよく聞くように…と念押ししていく。
それを聞いた彼女も真剣な表情を浮かべながら、母親から告げられた高橋涼介に打ち勝つ方法を聞いていくのであった。
「でもそれは何も対策してないで飛び込んだ場合、こっちもそれを予期したことをすれば十分に勝機はあるわ」
「ってことは…何か策があるの?」
「ええっ、これから聞くことは一度しか言わない。だからしっかり聞いておくことね」
「うん…わかった…!」
、
翌朝、群馬県内は今日もカンカン照りの日差しが差し込んでおり相変わらず暑い日々が続いていた。
…が走り屋達はそれ以上に今日行われる赤城の歌姫と赤城の白い彗星とのバトルに関して熱く盛り上がっており、軽いお祭り状態みたいな感じで大騒ぎになっていた。
「おい聞いたか!いよいよ高橋涼介が赤城の歌姫に挑戦状叩きつけたらしーぜ」
「あぁ!今朝からあちこちお祭り騒ぎだぜ!とうとう動き出したか赤城の白い彗星…!!」
「やべーよ!オレ今から鳥肌たちまくりだぜ!今日は寝れそうにないぞ!!」
何処からその情報が漏れたかはわからないが、昨夜祐一が予想していた通りの状況になっており、それは遠く離れた東京、神奈川エリアでも…
「ありがとう御座いました、またよろしくお願いします
」ペコッ
出版社に勤め自動車系雑誌を取り扱っている葉山 香苗は、この日も車関係の取材を終えて訪問先を後にすると駐車場に停めてある愛車、アスリートシルバーのBNR34 スカイライン GT-Rに乗り込みエンジンを始動。
するとちょうどそのタイミングで携帯電話が鳴り響いたため、カバンから取り出すと見慣れた電話番号を確認しなが電話に出ていく。
「よっと…えーっと次の訪問先は…(ぴりり)ん?…あー灯ちゃんか、(ピッ)もしもし灯?どうしたの急に電話なんて…」
電話の相手は灯…なのだが、出るなりかなり興奮気味の声が聞こえてきたため、こりゃ今夜また連れ回されるぞ…と直感的に判断した香苗は苦笑いを浮かべながら、どうしたのと尋ねる。
『あっ香苗!聞いてよ聞いいて!ビッグニュース入ってきたわよ!今までにないぐらいに!!』
ーこのハイテンション…あー今夜も連れ回されるぞー(汗)ー
「落ち着きなさいよ灯…、んで何があったの一体」
どうやら今彼女が絶賛注目している赤城の歌姫と赤城レッドサンズナンバー1で、赤城の白い彗星と呼ばれていた高橋涼介が今夜赤城でバトルするらしく、それで彼女が興奮気味だったらしい。
それを聞いた香苗もなるほどね…と納得した表情を浮かべており、確かに興味深いバトルね…とも答えていく。
『いやそれがさ!今私が注目してる赤城の歌姫さんと赤城レッドサンズの高橋涼介が今夜赤城でバトルするらしいのよ!!』
「なるほど…道理で興奮気味なのはそれが理由なのね(汗)…まあでもそれはそれで興味深いバトルにはなりそうかも」
もちろん灯はそうなれば何が何でも見に行く性格なので、早速今夜飛び込みでバトルを観戦しに行くらしく香苗にもついてきてほしい旨を明かす。
ちなみに凪沙には既に話して(巻き込んで)おり、今夜一緒に見に行くということで話をつけているらしい。
「んで、どうせ今夜見に行くから私にも来いって言いたいんでしょ?」
『大正解!ってかもう凪沙には既に話してて、一緒に見に行く話はつけてるから♪』
本当とことん気になる走り屋ってなると行動力が化物になるわね…そんなことを思いながら、ちょうど今夜予定が空いているため見に行く旨を伝える。
するとそれを聞いた灯が、ソレじゃ仕事終わりにいつもの場所で集合で!そう告げながら嵐がまるで過ぎ去ったように電話を切っていくのであった。
「…本当興味のある走り屋ってなると行動力が化け物になるわね…(汗)まあ私も今夜予定空いてるから、せっかくだし見に行こうかしら」
『んじゃ決まりだね!とりあえず集合場所はいつもの場所で!よろしくー』ピッ
彼女とのやり取りを終えた香苗は携帯をカバンにしまいながら一息つくと、次の訪問先に向かうためにクラッチをつないでギアを1速に叩き込みながら発進。
幹線道路に合流するとその心臓部であるRB26DETTサウンドを奏でながら、走り去っていくのであった。
「…ふぅ、よしっ。次の訪問先向かおうっと」
かごっ
ブロロロロ…