「へ?普段通りの自分を演じろ?そりゃまたなんでそんなアドバイスを…」
春香からそんなアドバイスを伝えたと聞いた祐一は、一体なんでそんなことを言ったのかと首を傾げながら尋ねた。
だがそんな察しの悪い祐一に対して、貴方もまだまだねぇ…と呆れながら、あの高橋涼介に勝つにはいかにその方法を利用して油断させるかが鍵だと説明していく。
「はぁ…貴方もまだまだねぇ…、いい?あの高橋涼介に勝つにはいかに油断させるか…これが大きな鍵になってるの」
しかし相手はあの赤城レッドサンズナンバー1でリーダーで赤城の白い彗星とも呼ばれた高橋涼介、そんな相手を油断させるのは難しいんじゃないかと指摘した祐一に対して、そんなドライバーだからこそ油断させるのよ…と春香はそう話す。
「へぇ?あの高橋涼介をか?無茶言うな、あんなドライバー油断させるなんてよほどのことがない限り無理だろ」
「んもー分かってないわねー、そういうドライバーだからこそ油断させるのよ」
相手はここ最近のバトルで走りが変わっていないことは確認済み、つまりこちらの弱点や仕掛けるポイントの場所も把握済みということ。
だが裏を返せばその走りをしておけば相手は人間の心理上どんな走り屋であってもデータ通りだと安堵して油断してしまう。
そこが春香にとっては絶好のチャンスとも言える心理状態であり、完全に勝利を確信したタイミング…つまり終盤に今までのデータにないようなアタックを仕掛けるというのが彼女の作戦らしい。
「相手はここ最近のバトルで昔…つまり私の頃から走りが変わってないのは確認ずみ、そんな状態で同じ走りをすればどうなると思う?」
「……データ通りだから、オレなら安心しちまうな」
「そうそれ、私が狙ってるのはその心理状態。どんな走り屋でも結局はその油断には勝てない、だからそんな油断しきったタイミング…そう終盤で仕掛けるのが私の考えた作戦」
とはいえ終盤となると抜かされている可能性も充分にあり得え、仕掛けるタイミングをミスれば負ける可能性が高い博打な作戦。
本当にそれで大丈夫なのか?と不安げに電話で尋ねる祐一に対して、勝てるか勝てないかはあの娘次第…と春香はそんなふうに答えていくのであった。
「なるほどな、けど終盤って結構な博打じゃないか?もしミスれば抜き返すチャンスはないぞ?」
「それも含めて勝てるかどうかはあの娘次第、バトルが終われば結果は分かるわよ」
ドギャァァァ
その間にも第4のコーナーをクリアした2台はスピードを落とすことなく密着した状態でダンウンヒルバトルを繰り広げており、ハチロクの後ろに張り付いていたFCを操る涼介は、相変わらず乱れない綺麗なゼロカウンタードリフトに惚れ惚れしていた。
ー流石だな…ゼロカウンタードリフトでここまで乱れないとは……オレでもここまでのコピーは出来ない…、恐らく…いやここだけなら藤原以上だなー
ゴアアアアア
しかし過去の経験や赤城での三連戦を踏まえ、この綺麗な走りが容易に変えられるものではないのは同時に涼介は気づいており、例えそれが対策されていたとしても勝利の方程式に狂いはないと内心そんなことを呟く。
ーだがやはり走り方は変わらないみたいだな、やはり容易に変えられるものではないということか…。まあ例え対策されていたとしてもオレの勝利の方程式に狂いはないー
とはいえここで仕掛けるには早すぎるためしばらく相手の動きを分析してから仕掛けるようにしたらしく、シフトアップしつつアクセルを踏み込み、300馬力ロータリーエンジンを咆哮させるように追いすがった
もちろん友奈もバックミラーでその様子は確認しており、まだ仕掛けるオーラを感じないことを察しながら、悟られないように普段通りの自分を演じるように、ハチロクを走らせる。
ーひとまずもう少し分析して、タイミングを見計らって行かせてもらう…このバトルをすぐに終わらせるのは勿体ないー
ゴアアアアア
「……」
ーやっぱ様子見してくるか…、…けどむしろそのほうが好都合…!このまま行かせてもらうよっー
ゴクッ
ゴアアアアア
その後コーナーに差し掛かるとヒールアンドトゥでギアを2速に叩き込みながらステアリングを切り込み僅かなカウンターを当てながら四輪の全開ドリフトでコーナーを流していく。
もちろんハチロクに続く形でFCも僅かなカウンターを当てながら四輪ドリフトで密着しつつ流していき、その光景を目撃したギャラリー達は次々と歓声を上げた。
ウォンウォン!!
ドギャァァァ!!
「すげぇ!超接近ドリフト!!あんなの峠で見たことねーよ!」
「ぶっ飛んでるぜ!よほど相手の腕を信用してねーとできねーぞあんな走り方!」
「きょーれつ!カメラ持ってきて良かった…!!」
相変わらず何度みても惚れてしまうような四輪ドリフト、峠のバトルをまるで歌のコンサートで披露する歌姫のような光景に、ステアリングを操作しながら涼介は称賛の言葉を送っていく。
しかしそれと同時に唯一の弱点である特定のコーナーで侵入が遅くなるドリフトは修正出来てないことを改めて確かめた涼介は、これなら中間セクションで仕掛けることができると確信した表情を浮かべていくのであった。
ー相変わらずそのドリフトは惚れ惚れするよ、まるでコンサートの歌姫をみてるみたいな感じだ…、だがその走りの弱点までは…やはり修正出来てないみたいだな…。これなら予定通り中間セクションでいかせて貰おうー
ドギャァァァ
ゴアアアアア
「あぁ、そうか。わかった。(ピッ)第10コーナーからだ、今のところは歌姫が先行。だが涼介もしっかり張り付いてるそうだ」
「そうか…、サンキュ史浩」
それと同時刻、2台がスタートした赤城峠頂上ではコーナーやストレート各所に散らばる形で展開したレッドサンズメンバーからの報告を受けた史浩が、啓介に対して報告をしていた。
そうか…と啓介は答えながら、ふと史浩に対してこのバトルはどっちが勝つと思う?と何気なく尋ねていく。
「…なあ史浩、このバトル…どっちが勝つと思うか?」
「へ?このバトルがか?」
確かに歌姫は強敵だがここまでの三連戦で涼介は隅から隅まで分析して、勝つための方法を想像しているのは容易い。
しかも地元となれば負けるというシチュエーションが考えられないため、どう見たって涼介が勝つだろ…と当たり前の返答を史浩は返す。
「どっちが勝つって…そりゃ涼介さんに決まってるだろ?確かに歌姫は強敵だが今日までの三連戦で隅から隅まで分析してるんだ、おまけに地元。負ける要素が見当たらない」
まあその通りであるかもしれない…、しかし2度もバトルした啓介だからこそ歌姫がすんなり負けてくれるとは考えられないようだ。
「確かにそうだ…けどあの2度バトルしたオレだから分かるんだ、あの完ぺきなドリフトする歌姫が負けるなんてシチュエーションが想像出来ないんだ」
もちろん涼介が負けることだって考えられない…このバトルに向けて赤城で行われた三連戦を史浩の言う通りしっかり分析していた、しかしだからといって涼介が完勝するかと言われるとそれもあり得ない。
恐らくオレは歌姫に惚れたのだろう…そんなことを呟きながら、何故か2人のバトルを観たくない気分だとも明かしていくのであった。
「けどアニキが負けるシチュエーションも考えられない…、このバトルに向けてしっかり分析してきて対策も打ってきたんだ…。…なのに完勝するって光景がどうも浮かばねぇ…」
「啓介…」
「オレは恐らく歌姫に惚れちまったんだろうな…、だからこそ…何故だが2人のバトルを観たくない気分だぜ…」
そんなやり取りを2人がかわしている頃、レッドサンズの無線のやり取りを盗み聞きした明日香が祐也達の元へと駆け戻っていき、まだ友奈が先行だと明かす。
するとそれを聞いた樹がよしっ!とガッツポーズを浮かべるが、由紀が軽いゲンコツをかましながら喜ぶのはまだ速いと突っ込みをしていく。
「さっきレッドサンズの無線聞いてきたけど、友奈ちゃんまだ頭押さえてるって」
「よしっ!このまま前をキープすれば勝てるかもs…イテッ」
「アンタアホね、バトルだってまだまだなのよ。ってか先行って思ったよりしんどいんだからね」
へ?そりゃどういう意味だと言わんばかりの表情をゲンコツをかまされた箇所を押さえながら尋ねた樹に対して、明日香は後追いのほうが前走車の走行ラインやブレーキングのタイミングをすべて見て真似できるから、離されずについていけること。
そして何よりもぴったり背後につかれることで、後ろからの威圧感や焦りから自分のペースを乱しやすくなるという面で不利になりやすいことを説明する。
「へ?そりゃどういう意味…」
「まあ先行って後追いからすれば走行ラインやブレーキングのタイミングをすべて見て真似できるから、離されにくいのよ。んで何よりも辛いのがプレッシャー、威圧感や焦りから自分のペースを乱しやすいの」
特に相手が高橋涼介クラスの走り屋となると先行の友奈にかかるプレッシャーや先行の不利は大きくでやすい、そんな明日香の説明に拓海も同意しつつ何処かでミスを絶対すると思いますよと確信したような口調で話していく。
「特に高橋涼介クラスの走り屋が後追いになると、先行のプレッシャーはハンパじゃない。友奈ちゃんにとって辛いバトルだと思うよ」
「…オレもそう思います…、恐らく…何処かで一回はミスをやらかしますよ」
いやいやそんな訳が…と否定する羽南であったが、拓海はぼんやりとしながらも確信しているらしく、それがこのバトルのターニングポイントというわけではないが、恐らくいつになく荒れますよ…と話していくのであった。
「いやいやー、友奈に限ってそんなことは…」
「いや充分あり得ますよ…、恐らく…今回のバトルはいつになく荒れるんじゃないですかね」
赤城峠の麓、ゴール地点の少し前にある18コーナー付近でも多くのギャラリー達が詰めかけており、その中には池谷や健二、そして峠の三人娘の姿もあった。
もちろん池谷たちも彼女達の噂は耳に聞いており、3人が話しているのを横目にひそひそと話していく。
「いやー、やっぱ盛り上がってるねー。見に来て正解だったよー、流石は大御所同士のバトル!」
「私は暇だったからよかったけど、香苗は取材関連の雑誌とか大丈夫なの?」
「まあそのへんは大丈夫、何より灯が来いって言わんばかりの勢いで来るから断りきれなくて…」汗
「いっ池谷…あれって峠の三人娘って呼ばれてる女性の走り屋じゃねぇか?」
「…特徴的なチェイサーにR34、S15シルビア。間違いない、峠の三人娘だなありゃ。やっぱ大御所同士のバトルだから県外から来るやつがいつになく多い…」
するとそんな最中、健二がそういえばここで合流した際にやけに気持ち悪いぐらいニヤニヤしてたしたけどどうしたのかと尋ねる。
それを聞いた池谷は隠してたつもりだったが隠しきれてなかったか…そんなことを呟きながら、今はバトルに集中したいからまた明日話すよとニヤニヤしながら答えた。
「…ところで池谷、お前合流した時やけにニヤニヤしてたがどうしたんだ?やけに気持ち悪かったけど」
「そんなにか、…まあ今話したいが友奈ちゃんのバトルに集中しないといけないからな…それに関してはまた明日話すよ」ニヤニヤ
何だよそりゃ…と半分呆れ気味に話を聞いていた健二だったが、これ以上聞いたところで何も答えてくれないのはわかっていたため、それ以上追求しないことに。
「ったく何だよそりゃ…、まあ明日しっかり聞かせ貰うからな…」
そんなやり取りをかわしている中、ハイスピードのダウンヒルバトルを繰り広げている2台では、拓海や明日香の予想通り涼介からの激しいプレッシャーを受けていることもあってか、友奈に少し焦りが垣間見えていた。
ドギャァァァ
ーちっ…!やっぱキツイ…!普段追いかけてばっかりだからどうもこれには慣れない…!ー
しかし無理にペースを上げようものならタイヤやブレーキに負担をかけてしまい、終盤での巻き返しが不可能になってしまうため、なんとかペースをキープしつつ後ろからの激しいプレッシャーと闘っていた。
もちろんなかなかプレッシャーの効果が現れないことは涼介も気づいてはいたが、やはり少し走りに乱れが来ているのも察していたらしい。
ーでも落ち着け自分…ここでペース上げたらそれこそ相手の思う壺……終盤での勝負までは何されても何としてでも耐える…!ー
ゴアアアアア
ー流石にこれではペースを上げないか…、消耗戦で有利に進めたかったが…まあいい。代わりに少し走りに粗が出てきてる…それだけでも充分だー
これならあの場所で確実に予定通り仕掛けることができる…内心そんなことを思いながら涼介は引き続き相手の走りをコピーしながら激しいプレッシャーをかけ続けていくのであった。
ーこれならあの場所で仕掛けられる、もちろん相手もそれは分かってるだろうが…その金縛り…すんなり変えられないだろう、この勝負貰った…!ー
ドギャァァァ
赤城峠の43コーナー、ガードレールを挟む山際には多くのギャラリー達が押し寄せており、2台が来るのを今か今かと待ち望んでいた。
その中には碓氷峠のインパクトブルーと呼ばれるシルエイティ乗りで、片方は池谷が恋に落ちた相手である佐藤真子とコンビを組んでいる沙雪の姿が…
「にしても赤城の歌姫…ねぇ、最近群馬ってハチロク乗って下剋上するするのが流行ってんの?」
「それはないとは思うけど…、あの高橋涼介に目をつけられるってことは凄いことだと思うわよ」
ちなみに真子と沙雪コンビの近くには宗一の姿もあり、赤城で赤城の歌姫と高橋涼介がバトルをするという噂を聞きつけこうして見に来ていたらしい。
ー碓氷峠で有名なインパクトブルーも来てるんか…、それだけやない。よそのナンバーもいつも以上におる…、やっぱビッグなバトルは注目度がちゃうなー
そんなことを話していると甲高いエキゾースト音やスキール音とともにこのコーナーの前に陣取っていたギャラリー達の歓声が聞こえめきたため、そろそろか…視線を音の聞こえる方へと向ける。
すると間髪入れずにヘッドライトの光が奥から照らされると共に、先頭にハチロクを、その後ろに張り付く形でFCが姿を現した。
ドギャァァァ
「うぉすげぇ!フルブレーキングからの四輪ドリフト!
」
「涼介さんは当たり前だが歌姫もだ!こりゃ迫力あるぜ!!」
ーエキゾースト音にスキール音、上の奴らが騒いでるちゅーことは…そろそろやなー
ゴアアアアア
当然宗一が陣取っていたコーナーに居た他のギャラリー達も2台が姿を現すと歓声を上げていき、その間にもそのコーナーへやってきたハチロクはフルブレーキング
しかしFCは減速するどころか空いていたイン側のスペースに飛び込み、ワンテンポ遅れるかたちでブレーキランプを点灯させた。
「きたきた!!2台突っ込んでくるぞ!!」
ーっ!ー
ウォンウォン!
ー…!ここだ!ー
ゴフッ!!
ギャン!!
まさかこのタイミングで来るとは思っても見なかったギャラリー達はいきなり仕掛けやがった…!?と驚きの声を次々と上げていく。
当然友奈もそれは分かっており、前にここで明日香に仕掛けられた二の舞になってたまるか…と言わんばかりに負けじとブレーキングを奥目に調整、ブレーキング勝負に挑む。
こうして互いに譲ることのないブレーキング勝負をしつつ2台並んだ状態で、超接近ツイン四輪ドリフトを炸裂させながらコーナーを流していくのであった。
ー!?ここ!?悪いけど明日香ちゃんの二の舞になんてならないからね!!ー
ウォンウォン!!
「ここで仕掛けた!?うわ一歩も譲らないブレーキング勝負!!」
「やべぇどっちも譲らねぇ…!!マジなドリフト勝負だ!!」
ーほうここで来るか…、見た所歌姫のブレーキングが一瞬甘かったのを突いたって感じか…、流石やなー
ドギャァァァ!!