頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第五十五話 決着

 

 

 

ギャァァァ

 赤城峠の麓、ゴール地点の少し前にある18コーナー付近に陣取っていた池谷と健二は近くでレッドサンズのメンバーがやり取りしていたのを聞いた際、友奈が涼介に抜かれた状態でここまで迫ってきてる状況に焦りを見せていた。

 

 

「おっおい池谷…!すぐそこまで来てるぞ!!」

「あぁ、…こりゃ不味いぜ…ここのコーナーを抜ければゴールはすぐそこ…大ピンチだ…」

 

 

 もちろんそれは峠の3人娘の灯たちも知っており、案外このまま決着がつくかもねと凪沙や香苗はそんなことを口にしていく。

 確かに彼女の言う通りここまで抜かされずにくればあとはゴールラインを先に越えるだけ、最後まで何が起こるか分からないため油断こそできないが、それを踏まえても勝利は確実だろう。

 

 

「ここまで高橋涼介が先行をキープ…、案外このまま決着がつきそうかしら?」

「まあね、最後まで油断は出来ないけど。余程のことが起きない限り…」

 

 

 だが灯だけはそうではないようで、恐らく…いや必ずここで大番狂わせが起こると自信満々に予言していく。

 というかそのためにわざわざ有名ポイントではなくゴール手前の最終コーナーに陣取ったのだ。

 

 

「いやー何言ってるのー、勝負はこれから!ここで大番狂わせがきっと…いえ必ず起こるんだから!」

「そういえばわざわざ今回は有名ポイントじゃなくてゴール手前に陣取りたいって言ってたわね…、ここが1番特等席だからって…」

「そうっ!!」 

 

 

 がいくら灯の予想とはいえどそんなピンポイントで起こるもんなの?と疑問げに尋ねた香苗に対して、彼女はまあ見てみればわかるよっ!とニコニコしながら降りてくるのを今か今かと待ちわびる。

 

 

「…っても本当にそれ当たるの?勝負なんて何が起こるか予想なんてつかないわよ」

「大丈夫ー!まあ見ててって!説明するよりも見たほうが早いから!」

 

 

 その頃ダウンヒルを疾走していた涼介は、相変わらずタイヤの熱ダレに苦戦しながらもほぼペースを落とさないようごまかしごまかしで走っていた。

 とはいえ流石に全て誤魔化せるわけではなく、やはりというか本来よりかは僅かにペースが落ちてるのは否めない。

 

 

ゴアアアアア

ーちっ…!!ー

ゴクッ

 

 

 しかしそれとは対照的にタイヤがの余力がある友奈は、後追いということもあって落ち着いた走りを見せており、綺麗なスキール音を響かせなが追いすがるようにハチロクを走らせていた。

 

 

「っと…!!」

ギャァァァ

 

 

 ゴールまであと少し…仕掛けるのは最終コーナー、そう心のなかで決めながらもコーナーの手前でフルブレーキ。

 ヒールアンドトゥで1速にギアを叩き込みながらステアリングを切り込み、ゼロカウンターの四輪ドリフトでギャラリーを沸かせながら目の前を通過していく。

 

 

ー仕掛けるのは…この先の一個先最終コーナー…ふぅ…よしっ!ー

ウォンウォン!!

ドギャァァァ!!

「すげぇ!?四輪ドリフト!」

「綺麗なラインだぜ!涼介にも劣ってない!!あんなライン地元の奴でも出来ないぜ!!」

 

 

 もちろん雰囲気が変わったのは涼介も察していたが、あと少しでゴールということもあって何があろうと自分の勝利は揺るぎない…!と思いながらアクセルを踏み込んでFCを加速させる。

 

 

ゴアアアアア

ーっ雰囲気が変わった…いよいよ来るか…、まあいい、何があろうとオレの勝利は揺るぎない!このまま突っ走る!ー

 

 

 こっちの雰囲気を察したか…内心そんなことを思いながら絶対にぶち抜く…!そう意気込みながらシフトアップ、追いすがるようにハチロクを加速させた。

 

 

ー…察した…、けどやることは変わらない…!このまま…ぶち抜く!!ー

ゴアアアアア

 

 

 

 

 

 

 

 

「きたきた!!2台突っ込んでくるぞ!!」

 

 

 ギャラリー達の叫び声と共に縺れあった2台が激しく競り合いながら池谷達の陣取っているコーナーにFCを先頭にし後ろにハチロクが続く形で突っ込んできた。

 相変わらず涼介が先頭、喜びを露にしているレッドサンズメンバー達とは裏腹に池谷達は不味い…という表情を見せながら見守るしか出来ずにいた。

 

 

「うっしゃ!涼介さんが先頭だ!!」

「このままいってくれ!レッドサンズの意地を歌姫に見せてやれ!!」

「……相変わらず高橋涼介が先頭か…、まずいな」

「おっおい池谷…」

「分かってる、今は友奈ちゃんを信じるしかない」

 

 

 そんな2人の陣取るコーナーに突っ込んできた涼介はここぞと言わんばかりにフルブレーキング、ヒールアンドトゥで2速に叩き込むとステアリングを切り込む。

 

 もちろん友奈もそれに続く形でハチロクを減速させる…はずなのだが、フルブレーキングで減速しつつもステアリングを右側に振りハチロクをアウト側に動かすと、そのまま空いていたスペースに車を飛び込ませた。

 

 

「っ!!」

ウォンウォン!!

ーここっ!!ー

ギャン!!

 

 

 当然ここで仕掛けるとは思っても見なかったギャラリーはもちろんのこと、想定していないラインからのアタックに涼介も驚きを露にする。

 

 

「なっ!?嘘だろ!ここで仕掛けた!!」

「アウト側に飛び込んだぞ!コーナリング勝負をする気か!?」

ーなっ!?ここでだと…!?ー

 

 

 しかしアウト側に飛び込まれ並ばれた以上防ぐことは出来ない、だがかといって譲る選択肢を涼介が取るはずもなくそのままコーナリング勝負に持ち込む。

 

 

ーくそっそこで並ばれては…だがここで譲るわけにはいかない…!お望み通りコーナリング勝負だ…!!ー

ドギャァァァ!!

 

 

 もちろんその様子を池谷たちも目撃しており、ここで仕掛けるのか…と思いつつやはりまだ諦めてなかった!と歓声を上げていく。

 その近くでは香苗や凪沙が本当にここで仕掛けるとは…と驚きの表情を見せており、灯が言ったでしょ!と興奮気味の表情で見つめていた。

 

 

「こっ…ここで行ったぞ!?」

「あぁ!友奈ちゃんやっぱ諦めてなかったんだ…!!」

「嘘っ、ここで本当に行った…!」

「だから言ったでしょ!私の予想は当たるって!」

 

 

 互いに譲る気のない本気のコーナリング勝負、最初こそはほぼ並んだ状態で走っていたが、やはりタイヤの熱ダレを起こしている以上涼介は満足な走りが出来ず、ズルズルとアウトに膨らみながら後退していく。

 

 

ドギャァァァ

ーちっ…ラインがキープ出来ない……タイヤの熱ダレがここまで響くとは…!ー

 

 

 しかしそれとは対照的に友奈のハチロクはタイヤに余力があるためラインを外したコーナリングでもブレることなく綺麗なドリフトでコーナーを流しており、後退するFCとは裏腹にジリジリと前へと躍り出る。

 同じ走りをしていてここまで差が出るのか…内心そんなことを思いながら勝負あったな…と涼介はそう呟いた。

 

 

ーそれに対して歌姫はタイヤに余力がある…同じ走りでここまで差が出るとは……ー

「…これは、勝負あったな…」フッ

 

 

 実際コーナーから立ち上がる歳には完全に形成が逆転、歌姫が涼介の頭を抑える形で立ち上がっておりFCの悲しげなエキゾースト音がハチロクにも負けないほどに赤城の峠へと響き渡る。

 その一部始終を目の当たりにしていたギャラリー達は唖然とした表情で突っ立っており、池谷や健二も凄いもんを見たな…そんなことを口にしていく。

 

 

ゴアアアアア

プシャァァァ

「……涼介さんが…抜かれた……」

「嘘だろ…あんな呆気なく」 

「池谷……」

「俺たちは…凄いものを見たかもしれないな…」

 

 

 だがそんな池谷達とは対照的に灯は予想が的中したことに喜びを露にしており、嬉しそうな表情を見せながらジタバタしていた。

 とはいえ凪沙の指摘通り呑気に喜んでもいられないのも事実、灯が憧れていた高橋涼介がやられたとなれば群馬エリアの勢力図は大きく変わってくる。

 

 何より歌姫の実力が想定していたよりも高いということになれば、もしバトルをした際に苦戦するのは明らか。

 

 

「よっしゃ!予想的中!やっぱわざわざここで張って正解だったよ!」

「…いやあんた呑気に喜んでる場合?高橋涼介を倒したとなれば歌姫の実力は想定していたよりも上、もしバトルをすれば苦戦は必須よ?」

 

 

 しかし灯は全く気にしてないどころか、むしろそのほうが燃えるからどんどん速くなって貰っても構わないとのこと。

 相変わらずなんだから…とやれやれした表情で凪沙に見られている灯は、よりあの歌姫に興味が湧いていくのであった。

 

 

「全然!むしろどんどん速くなって!その方が燃えるから!!」

「はぁ…、相変わらずっていうか…。こんな走り屋めったにいないでしょうね」

「まあでも灯らしくていいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤城峠ゴール地点、ここにも多くのギャラリー達やレッドサンズのメンバーが陣取っており2台のゴールを今か今と待ち望んでいた。

 すると甲高いエキゾースト音が響き渡ってきたため、ギャラリーの一人が来たぞ!と声を上げていく。

 

 

ギャァァァ!!

「来たぞ!そろそろ降りてくる!」

 

 

 一部のレッドサンズメンバーは涼介さんが勝つに決まってる!そんなことを豪語していたが、紛れるようにギャラリーを決め込んでいた毅はエキゾースト音で察したのかアイツか…そんなことを思っていた。

 

 

「どっちだ…どっちが勝つんだ…」

「涼介さんに決まってら!あの人が負けるはずがねぇ!」

「……」

ーこのエキゾースト音…なるほどな……アイツかー

 

 

 その後コーナーの奥からヘッドライトの光が見えると共に甲高いエキゾースト音を響かせながら2台が飛び出すように姿を現す。

 が先頭を走っていたのは涼介のFCではなく歌姫のハチロクであり、その事実を知ったギャラリーやレッドサンズのメンバー達は驚きの声を次々と上げた。

 

 

ギャァァァ!!

プシャァァァ…!

「うげ!?うっ歌姫が前だぞ!」

「嘘だろ!?涼介さんが…負けた!?」

「んな馬鹿な!そんなのありえない…!!」

 

 

 その間にもハチロクを先頭にゴールラインを通過したため、ストップウォッチを握っていたレッドサンズのメンバーは止めながらタイムを見て驚愕。

 まあそうなるのも無理はない、なにせ2台のタイムは今まで叩き出したレコードタイムを大幅に上回っているのだ。

 

 

「……!?おっおい冗談だろ…」

「どうした?何かあったか!?」 

「タイムが…今まで涼介さんが叩き出したレコードタイムを大幅に上回ってる!」

「ジョーダンだろ!?レコードタイムをか!?」

 

 

 一体何が起こっているのかギャラリー達でさえ全く見当がつかない…だがこれだけは言える、赤城…いや群馬エリアの勢力図がこのバトルで大きく変わろうとしていることだけは…

 そしてこれからどうなるのか…それはこの場にいる誰も予想は誰にもつかないことも…

 

 

ー……群馬エリアの勢力図が…大きく変わっちまうぞ……一体これからどうなるんだ…ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?あぁ…あぁ…わっ…わかった…、ご苦労…」ピッ

「史浩さん!バトルの結果は!どうなったんですか…!!」

 

 

 同時刻、スタート地点ではゴール地点からの報告を聞いた史浩が驚きを露にしながら無線でやり取りをしていく。

 その後やり取りを終えて無線を終えると、バトルの結果はどうなったのかと尋ねてきた賢太や他のレッドサンズメンバーに対して一間開ける形で答えた。

 

 

「……涼介が…負けたそうだ」

 

 

 高橋涼介が負けた、その一言だけでも充分メンバーには伝わったららしく、賢太をはじめとしたレッドサンズメンバーや他のギャラリー達は唖然とした表情を浮かべていた。

 非常に重苦しい雰囲気、そのため本来勝って喜ぶ側の羽南たちも素直に喜べず何とも言えない雰囲気を見せる。

 

 

「…涼介…さんが……」

「……」

ー勝った…けど…、あんま喜べる雰囲気じゃ…ないよね…ー

 

 

 そんなメンバーを横目に啓介は一人愛車のFDに寄りかかりながら夜空を見上げながら兄貴が負けた…、その受け入れられない事実をひしひしと受け止めていた。

 

 

ー…アニキが…負けた…か…、受け入れられねぇが……受け入れるしかなさそうだー

 

 

 だがそれよりもレッドサンズのリーダーが地元で負けたとなれば群馬エリアの勢力図はこれなら大きく変化を遂げるのは間違いなく、歌姫にとってここからが本番だろうな…そんなことを思っていくのであった。

 

 

ー…だがレッドサンズのリーダーが地元で負けたとなれば…勢力図は大きく変わるぞ…、歌姫にとって…ここからが本番ってことか…ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドド

「……」

「……」

 

 

 ゴール地点から少し下った先の道路、その路肩にハザード焚きながら停車している見慣れたハチロクとFCの姿が…

 近くでは涼介と友奈が無言のまま見つめ合っていたのだが、少しして涼介が先に口を開く形で話始めた。

 

 

「……どうやらあの日の決着は君に軍配が上がったようだな……」

「……」

 

 

 あの日、歌姫と出会い一夜限りのバトルをして…数年後に再会してからこの日まで徹底的に調べ尽くして知り尽くしていたつもりでいた。

 だがそれはあくまで一部にしか過ぎず、今回のバトルでそれを改めて知らされた…と涼介はそんなことを呟く。

 

 

「…あの日出会ってから…オレは歌姫に関して徹底的に分析していた、こうして再会してからも…」

「……」

「そこでオレは知ったつもりでいた…、だがどうやらオレは知ったかぶりでいたようだな…」フッ

 

 

 あのっ、と言いかけた友奈に対して俺の完敗だ…と答えながら、君はいつかお母さんを超えられる走り屋になれそうだと答えていく。

 

 

「…あっあの…」

「俺の完敗だ、…流石だな。君はいつかお母さんを超えられる存在になるだろう」

 

 

 だがそのためには赤城でそのテクニックをとどめておくのは勿体ないと告げつつ、もっと広い世界に目を向けるべきだと話しながらFCに乗り込んだ涼介は、ロータリーサウンドを響かせながその場をあとにしていくのであった。

 

 

「だがそのテクニックを赤城にとどめておくのは勿体ない…、もっと広い世界を見渡すべきだろう…じゃあな」

ボム

ブロロロ

 

 

 走り去るFCのテールランプを見つめながら立ち尽くしていた友奈は、涼介に言われた広い世界か…そんなことを思いながらふと夜空を静かに見上げていくのであった。

 

 

「……」

ー広い世界…か…ー

 

 

 

 






今回でレッドサンズ戦は一旦終わりです
次回からはインパクトブルーがついに本格登場ですー
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