翌朝
「いやー、昨日はいいのが見れたぜ」
いつものようにクソ暑い日差しが差し込む渋川のガソリンスタンド、その日陰でお客さんが来るのを待っていた池谷は昨日のバトルを振り返りいいのが見れたぜ…と口にしていた。
もちろん健二も同様に伝説的なバトルの決定的シーンを見れるなんてラッキーだぜと話しており、それを聞いた樹が羨ましそうな表情を見せていく。
「あぁ、伝説的なバトルの決定的なシーンをこの目で見れるなんてなー。いまだに鳥肌もんだよ」
「いいなー先輩達は…、そんな場面に出くわして…」
とはいえこれで赤城で最も早い走り屋は歌姫で確定したため、レッドサンズを倒したってことは安安と他の走り屋達は手出しが出来ないんじゃないですか?と樹がそう話す。
…が祐一はそんな甘いもんじゃないと指摘していき、むしろこれからが山場になるぞと説明する。
「でもこれで赤城最速は友奈ちゃんで決まりっすよね!それなら変に手出しされないんじゃ」
「あほうイツキ、そんな甘いもんじゃないぞ。むしろこれからが本番だ」
なにせ群馬エリアで最も速いとされ県外からも注目されているモータースポーツ出身の走り屋を総なめしたとなれば、余計に他エリアの凄腕走り屋から注目されるのは目に見えて明らか。
「へ?それはどういう…」
「レッドサンズといえば群馬エリアの顔たいなもんだ、その走り屋集団を総なめしたとなりゃ他エリアの走り屋が注目しないわけがない」
実際昨夜のバトルではいつになく県外ナンバーの車も多く確認出来たため、他エリアの走り屋にも間違いなく歌姫の情報は出回っているだろう。
「昨日だって他県ナンバーのそれっぽい走り屋も確認出来た、そうだろ池谷」
「ええっ…、俺のギャラリーしたところも有名な走り屋が……」
「恐らく…いや間違いななく友奈ちゃんの情報は出回ってるだろうな…」
もちろん群馬エリア内も例外ではなく、赤城で勝てなくても自身のホームコースならワンちゃんあるかもしれないということで引き込んでくる可能性だって充分にあり得る。
「それに群馬エリアだってそうだ、赤城じゃ勝てなくてもホームコースに引き込んでしまえば勝てるかも知れないって奴がバトルを申し込む可能性だってあり得る」
これからが忙しくなるだろうな…そんなことを祐一が呟いていると、樹がレッドサンズを総なめしたならどんな奴が来ても負けることはないっすよ!と自信満々に意気込む。
「これからが本番だろうな、きっと忙しくなるぞ…」
「…でも大丈夫っすよ!レッドサンズ総なめした友奈ちゃんならどんな奴にも負けっこないっすから!」
その様子を見ながら健二が拓海に対して、同じハチロク乗りとして負けられないな?と話しかけると、拓海は慌てて否定。
「拓海も同じハチロク乗りとして負けてられないなー」
「えっあっいやそんな…!俺なんか全然…友奈ちゃんと比べられる程でもないっていうか…」
相変わらず謙虚なんだからよーそんなことを健二が指摘していたが、ふと池谷に対してそういや昨日のバトルの時からやけに上機嫌だけどどうかしたのか?と尋ねていく。
昨日聞いた時はバトルだからってはぐらかされたため今日こそは教えてくれよと問い詰める。
「相変わらず謙虚だなー、ってかそういや池谷。昨日からやけにニヤニヤしてるけどどうしたんだよ、ちょっと気味悪いし…」
「ん?そんなにか」ニヤニヤ
「あぁ、バトル勝った嬉しさとはまた違ったニヤけ具合だし…。ってか昨日聞いてもはぐらかされたんだから今日こそは教えてくれよ」
そう聞かれた池谷は確かにこのまま引っ張るのも趣味悪いしな…そんなことを呟きながら相変わらず友奈がバトルに勝ったのとは違ったニヤニヤ具合を見せながら、健二達にその経緯を説明していく。
「まあそれもそうだな…、実は…」ニヤニヤ
「「「えぇぇー!?」」」
その後経緯を聞いた健二達はありえないと言わんばかりの表情を浮かべながら、驚きの声を上げていた。
まあそうなるのも無理はないだろう、健二の指摘通りエンジントラブルで助けたからとはいえどそれだけで初対面の男性に女性が電話番号を教えてくれるわけがない。
「そんなぁ…、初対面の女の子がいきなり電話番号を教えてくれたって!?」
当然そんな話を言われてみればはいそうですか信じられるはずがなく、そういう話にはオチがついてんだよなぁと健二はそう話す。
もちろん樹も同じ気持ちらしく、世の中そんな甘いもんじゃないと食ってかかる。
「そんな信じられっかよぉ、なんかオチがついてんだオチがさ」
「そうっすよ!池谷先輩!!世の中そんな甘いもんじゃないっすよっ!!」
だがその最中に振られた沙織のことを思い出したのか悔し涙を流しながら、拓海に泣きついていく。
「俺なんかぁ…俺なんか…くぅ!!走り屋に女なんて要らないぜぇ…!!」
まあ池谷らしくない展開といえばその通りであり、オチがないと面白くないと健二は弄っていき、それを聞いた池谷がどういうことだと問い詰める。
「第一オチがなくちゃさ、池谷らしくねえよ」
「俺らしくねえってどういう意味だよ健二、そんなに俺をコケにしたいのか?」
もちろんそんなつもりがない健二は弁明しつつ、いくらなんでも話が美味すぎて仕方ないんだと説明していく。
…がそんな親友の言葉に耳を傾けることなく、幸せを妬むような発想は嫌だねぇ…とドヤ顔を決め込む。
「いやそういうわけじゃねえけど、話がうますぎるだろ?」
「…ふっやだねぇ、人の幸せを妬むようなその発想は」
その後真子と出会った時のことを思い出しながら、真面目に働く自分のために神様が地上に遣わした天使何じゃないのかと誇らしげに話していき、それを聞いた4人は思わずズッコケてしまう。
「あの風に靡く栗色の長い髪、俺の方を振り向いた時のあの濡れた瞳。きっと彼女は、真面目に働く俺のために神様が地上に遣わしてた天使じゃないか!と思ってるんだ!」
「だぁぁあ!!?」ズコー
尚早速明日の日曜日に軽井沢で会う約束をしているらしく、樹みたいなくぅーという声を捻り出しながら超ご機嫌のるんるんな足取りで仕事へと戻っていく。
「明日の日曜日は真子ちゃんに会いに軽井沢へ…!!あっくぅー!さっ!お仕事お仕事っ!」ルンルン
その後なんとか体制を立て直した4人だが、ふと健二が樹に対してどんな娘なのか見に行ってみないかとニヤけ顔を浮かべながら提案する。
まあ確かにこれだけ普段見ないテンションをしているとなれば、相手がどんな子なのか気になるのも無理はない。
「あのさ、その娘がどんな子か俺たちもこっそりついていってみようぜ」
「行きましょ行きましょ!その娘がどんな子かこの目で確かめて見ましょう!」
とはいえ拓海はついていってバレたらどうするのかとあまり乗り気じゃない口調で指摘していくが、健二達はバレなければ問題ない(というか今の池谷にそんな余裕はない)と答えていき、真子ちゃんがどんな子か拝ませて貰おうぜとも話していく。
「…でも、池谷先輩にバレたらどうするんですか?」
「心配すんなって、今の池谷にそんな余裕があるわけないだろ?…どんな子かじっくりと拝ませて貰おうぜぇ。噂の真子ちゃんを…」
尚祐一だけは冷静らしく池谷の邪魔をするんじゃないぞと注意するものの、樹はまだ告白すらしていない池谷が振られる前提でフォローすると話しながら、是が非でもついていこうと試みる。
「おいおい、池谷の邪魔をするんじゃないぞ」
「邪魔なんてしませんよ、先輩が振られた時に一緒に泣いてあげるんです!熱い友情っすよ!」
「振られるってお前…」
ちなみに当の本人である池谷はルンルンで給油機を清掃していたのだが、やはり集中出来ないのか頭を打ち付けながらだらしない表情をしており、他人から見てもコイツ大丈夫なのだろうか…と言わんばのテンションを浮かべているのであった。
スタンドやり取りがなされているのとはうってかわり、某高校は夏休みということもあって部活で賑わいを見せている生徒達以外は、まばらといった感じになっていた。
そんな某高校の某所、カンカン照りの日差しが差し込むプールでは、スクール水着を身に着けブラシ両手にせっせっと掃除をする羽南の姿が…
「……」
とはいえこのプールは日除けがほとんどない上にプール自体は足首程度までしか水を張っていないということもあって、灼熱と言わざるおえない暑さ。
流石に普段暑い場所で作業している羽南も答えたのか暑い…と口にしていき、同時になんで自分がプール掃除をやってるのかと愚痴をこぼしていく。
「……暑い、ってかなんで私プール掃除なんかしてるのよ…」
その隣、同じブラシでプール底の汚れを擦って取っていた友奈が、仕方ないでしょと論しながらその理由を説明していく。
「仕方ないでしょー?明日香ちゃんに頼まれちゃったんだから…」
「いやそうなんだけど…」
というのも水泳部をやっている由紀が先生からプール掃除をするように頼まれたことがきっかけ、尚他の水泳部員は現在合宿でパスした彼女一人を除いて誰もいない。
もちろん一人では出来ないということで明日香に手伝ってほしいと頼まれ、こうして掃除をしているらしい。
「いやー3人ともごめんねー、こんな暑い中手伝って貰って」
「全然、この広さ一人じゃ由紀ちゃんも大変だろうし頼まれたからには手伝わないと♪」
ちなみに2人以外にも水着姿の明日香や由紀はもちろんのことを、何故か駆り出された祐也も含めた5人でプール掃除を行っているとのこと。
「…んでなんで俺まで巻き込まれてんの」
「だって祐也暇って言ってたからさー、樹君や拓海くんはバイトだし…。男手欲しかったら!」
「……最初に暇って答えたの不味かったな」
ちなみに由紀が合宿をパスした理由は、表向きは体調不良としつつも実際はその期間峠で走れなくなるためそれが嫌だったからというもの。
まあ確かに1週間ほどの合宿で走れなくなるだけでも勘は鈍るかもしれないが、巻き込まれた羽南からすればたまったものではない。
「ってかなんで由紀ちゃんは合宿パスしたのー…?」
「いや合宿期間中走れないじゃん、そんなの嫌だからさ。それならプール掃除取ったほうがマシかなって」
「…そのお陰でこっちは巻き込まれたんだけどね」汗
とはいえ5人で作業している分プール掃除は早く進み、気づけばあと2割を残してというところまでやってきていた。
だが長時間カンカン照りの中での作業は倒れてしまうリスクが生じるため、終わりの兆しも見えてきたことだし一旦休憩を挟みましょうかと汗を拭いながら明日香がそんなことを口にする。
「ふぅ…そろそろ休憩しましょうか、終わりの兆しも見えてきたことだし」
「だねっ、おーい祐也と羽南ちゃんー、休憩するよー」
「はーい…ようやく休憩出来る…水着っても汗だくだから変な感覚…、早くシャワー浴びたい…」
「…あちぃ…水分補給しないと倒れる」
そんなこんなでシャワーを浴びて水分補給をしながら日陰で一休憩挟んでいると、ふと由紀が今日はありがとうとお礼の言葉を述べていき、明日そのお詫びに自分の奢りで遊びに行かないかと提案していく。
「ふぃぃ…シャワー浴びたからさっぱりしたー……」
「今日はありがとう…、正直助かったわ。あの…もしよかったら一緒に明日遊びに行かない?私の奢りで…」
もちろん明日はみんな予定やアルバイトはたまたま入っていないため全然それは構わないと答えながら、祐也が本当にいいのかと尋ねる。
当然暑い中わざわざ急に来てもらって手伝ってもらった身としてはこれぐらいのことをしないと気がすまないらしく、それを聞いた友奈がなら甘えよっかな?とそう口にした。
「いやそれはいいんだが…、いいのか?場所によっては4人分おごるってなるとそれ相応の金額になるぞ?」
「全然、ってか急な頼みを引き受けてこんな暑い中手伝ってくれたんだからそうじゃないと気がすまない」
「なら甘えちゃおうかな♪せっかく提案してくれたんだしっ!」
ちなみに何処か行く当てはあるのかと明日香が尋ねると、由紀はこの時期なら軽井沢がいいんじゃないかと提案していき、それを聞いた羽南が目を輝かせながら反応していく。
「でも何処連れて行くか宛はあるの?」
「んーこの辺なら軽井沢…かな?」
「軽井沢!?」ガバっ
軽井沢って何かあったっけ?と尋ねる祐也に対して、友奈が軽井沢・プリン◯ショッピングプラザがあるじゃんと話す。
近年徐々に規模を拡大しているリゾート型アウトレットモール、どうやら羽南がいま一番いきたい場所だったらしく、軽井沢に行くならそこに行こっ!と一同に提案する。
「軽井沢ってなんかあったっけ?」
「ほらっあれ!プリン◯ショッピングプラザがあるじゃん、最近規模拡大してる!」
「あー、あれか」
「軽井沢行くならそこ行こうよっ!私いま一番いきたかったところなんだ…!」
するとどうやら由紀もそのつもりだったらしく、なら明日〇〇のコンビニで落ち合って一緒にアウトレットモールに行こうということで話が纏った。
「いいわねっ、じゃあ明日はアウトレットモールにいきましょう。〇〇のコンビニに7時集合で、そこから一緒にいきましょう」
「ほーい」
「オッケー!」
「はーい♪」
楽しみだなーそんなことを口にしながら上機嫌な表情を見せていた羽南は、そうと決まればさっさとこの掃除を終わらせようとブラシ片手に再びプールへと飛び出していく。
「いやー楽しみだなー、よしっ!ならさっさとこのプール終わらせちゃおう!!」だっ
「…なんか急に元気になったわね…、どんだけアウトレットモールにいきたいのよ」
「あははー、羽南ちゃんらしいよー」
相変わらずな親友を微笑ましく眺めながらも早く掃除を終わらせるために、友奈たちも立ち上がりながらブラシ片手にプールへと向かっていくのであった。
「よーし、私たちもいきましょうか!さっさと終わらせたいし」
「賛成、こんな暑いとこさっさと終わらしてエアコン効いた部屋でゆっくりしたい」
「羽南ちゃんに負けないように頑張るぞー♪」
「やれやれ…あと一息か…」