※後書きを一部修正しました。
※内容を一部修正しました。
「おい。あれが噂のソロA級。若宮だぜ」
「あぁ。メンバーと色々あって解散したっていう」
「なぁ。俺ら二人ならあいつ倒せんじゃね」
「たしかにw。あいつの戦闘見た事ねぇし。もしかしたらこねでA級になって置いてかれた系?」
五月蝿い。いつもそうなのにやけに今日は耳に響く。見てないはずなのにこんなにも腹が立つなんて。
俯いても聞こえないふりをしていてもカラカラだ蔑むような笑いが鼓膜のすぐそばで何度も振動を伝えてくる。
足が勝手に二人の方へ向かってしまう。何も悪いことはない。お互いに。喧嘩を売ったわけでも八つ当たりがしたいわけでもない。話はまだだがおそらくこの模擬戦はお互い了承の元になるだろう。
「あのー、僕と模擬戦しよう」
ニタッと笑う。顔を見合わせ、待ってましたと言わんばかりの態度を見せつけてくる。
「いいよ。やってやるよ」
一応先輩なんだけどな。舐められたものだ。
野次馬が騒ぎ立てながらブースへの道を開けてくれる。
二人はニヤニヤし談笑している。僕の殺し方でも話しているのだろう。そんな
それぞれのブースに入り対戦の準備をする。僕はいつものトリガー。これでなきゃあの動きはできない。一応確認を取るか。
「あの、手加減なしでいいですか?」
「んぁ?じゃあシールドなしで。俺らはないからさ」
「お前なんかC級の俺らでも倒せちまうぜ」
シールドくらいなくてもいいか。戦い方に変わりはない。にしても先人に対する敬意が欠けてる。男以前に人らしくない。
転送され、僕の視界には晴れの日の住宅街が広がる。
模擬戦の特殊試合。2対1。3本先取。つまり先に三回相手を倒したら勝ち。
一呼吸置いて動きだす。地面にグラスホッパーを設置し、メテオラの爆風を使って遠くまで飛ぶ。
地面に仁王立ちし、正面から来るのを待っている二人の姿が視認できた。なんと呑気なもの達だろうか。実戦では死ぬぞ。常に周り確認し、周囲の音にすら敏感に反応できるようにしておかなければならない。敵の姿が確認できてから行動を起こすのは遅すぎる。実戦の怖さを教えてやろう。
「施空孤月」
二人の上空から黄色の三日月型の斬撃が二人の胴体を上下半分に切断する。浪速の剣客に敵わないけど、それなりの長さとスピードで斬撃が飛んだ。
二人は自分が切られたことを認識していない。まだかまだかと来るのを楽しみにしていた様子だった。まるでチャンバラだと思っているのだろうか。そう思っていようがいまいが、戦いに情けは無用。目の前の敵を斬る、射抜く。情けのこもった攻撃は相手への無礼にあたる。祖父の言葉だ。孤月を使う以上意識してしまう。
「見つけたぞ!」
もうクールタイムが終わってしまった。彼らの熱はまだ冷めない。それぞれがむしゃらにメテオラとアステロイドを放つ。そんな考えなしの攻撃が通じるのは入隊してたかが数ヶ月。射撃というのはこうやって行うものだ。と教えてあげなければならない。それが先輩の役目でもある。
グラスホッパーを使い再び空中での機動準備をする。地面との距離が周りの家の高さ程になったところで
「バイパー」
そう呟き、右手にコンパクトサイズの冷蔵庫くらいの大きさのキューブを16分割しさらに小さなキューブを浮かべる。そして小さなキューブは2人の方向へ不規則な動きをしながら進んでいく。
2人は必死に回避行動をとるが、バイパーは軌道の曲がる狙撃。逃げたところで無意味なのは基礎を学んだことのある隊員なら当たり前のことだろう。何故ならどこに逃げることなど予測できないはずがないから。だが所詮は
2人の
「思いあがんなよ
吐き捨てた。イライラがなくなるわけではないが、言葉にせずにはいられなかった。
3本目は同じ動きをした。だが今回はバイパーではなくアステロイドを放った。彼らは僕が右手にトリオンキューブを出現させた時点で建物の中に入ろうとした。。予想通りそしてその判断は100点。だがあくまでそれは僕がバイパーを撃てばの話。バイパーなら建物の中で精密仕留めることは非常に困難だ。だが今回はアステロイドだ。僕の手から射撃が真っ直ぐ飛んでいく。鋭さと速さを兼ね備えた小さな弾丸が。
「「うわー!」」
遅いな。距離が近いくせに動けず後手に回る。そんなの動き終わる前に上から貫いてしまえば関係ない。
3本とも違う攻撃手段。油断、焦り、安直。先輩として示した。彼らの足りないところを。これで彼らも成長したであろう。
僕はブースを出る。周りの野次馬が呆然と立ち尽くしている中を進んでいく。目立たないように。誰も見ないように。あれはイライラの解消というより人として指導しなければならなかった場面だ。
「幹斗」
名前を呼ばれた。高い声。黄緑の隊服。
「何か用ですか。小南」
「ちょっと着いてきなさい」
小南。何かと絡んでくる。元隊員だから恩義でも感じてんのかな?そんなことを今は思ってないけど。
ブースから少し離れた自販機前まで連れてこられた。
「どうしてC級を相手にあそこまでしたの」
「元はと言えば、あの人たちが僕のことを悪く言ってて、僕に勝てると豪語していたので力を見てやろうと思いまして」
事実だ。嘘偽りはない。僕が落ち着いていない状態ってのもあるかもしれない。けど決定的な理由はこれだ。
「力試しにしては本気のようだったけど」
「実戦の厳しさを身をもって教えただけです」
何も間違ったことは言っていない。実戦ではやられればそこで終了。死にはしないが生き残りもしない。生き残って戦場から帰ってこそ勝ちとなる。丸やバツで決着がつく安心安全な斬り合いなど戦いから外れている。生きたものが勝者である。それをわからせるために僕は彼らの前に立ったのだ。
「もういいですか?」
小南は頑固者だ。いくら僕が筋を通して話したことも「納得いかない」の一言で振り出しに戻す。そんなのただの時間の無駄遣い。だったら新しい情報を手に入れたい。
僕が席を立ったとき
「後で玉狛支部にきなさい」
冷たい声で捨て台詞、いや投げ台詞をかけてきた。
「僕も用があったんで行きますよ。何なら今行きますか?」
小南は苦虫を噛み潰したような顔でその場を後にし、支部へと向かった。僕がついてくると信じている。小南は甘い人だ。だから烏丸の餌にされるんだよ。
「あっ。幹斗君久しぶり〜」
玉狛のオペレーター宇佐美さんが手を振って出迎えてくれた。僕は「お久しぶりです」と頭を下げるしかなかった。
「連れてきたわよ、迅」
「どうもどうも」
迅さんが頭をかきながら緩い雰囲気で現れた。小南があんなに強いオーラを出してまでも連行したのに用のある本人がこの調子とは。強者の余裕というやつか。
「早速だが、幹斗。話がある」
「奇遇ですね。僕も迅さんに話があったんですよ」
迅さんが話すんだ。あまり周りに聴かれたくないな。
「迅さん。屋上で話しましょう」
「わかった」
「どっちの話からスタートしますか」
「じゃあ俺からで」
迅さんに先に喋らした方が僕も話しやすい。情報は引き出し方が大切。話したいなら話させる。これだと本来だと伝える必要のない情報ももらえる可能性が高くなる。
「単刀直入に言う。玉狛に戻らないか?」
身震いした。高揚感でも悪寒でもない。形容できない。知らない感情が僕の神経を伝った。返事をすることも、反応することさえもできないほどの感情が走った。
「この先大規模な近界民の襲撃がある。それを防ぎ切るためにお前の力が必要なんだ」
「だからって玉狛に戻る必要はないんじゃないですか」
すんなり言葉が出てきた。落ち着いた。
大規模な襲撃があったとしても僕は敵を倒す。それだけでいいはず。玉狛に戻ったところで僕にメリットがない。
「このタイミングで戻ってこないと監視はさらに厳重になるぞ」
「どこで知ったんですかその噂」
「噂ってほどのことでもないと思うけどな。知ってる人少ないし」
墓穴を掘ったか。だがこのことは噂ではない。本当に監視されている。だから屋上にきた。今の僕はボーダー本部所属、派閥無しであり、特例でのA級隊員。行動に制限をかけられている。常にどこかの隊(城戸派)から監視されている。一応城戸司令がやると明言していたため、不信感は抱かなかったが、息苦しい。人から見られるというのは落ち着かない。
「嘘ついてないみたいですね。迅さんのはなんて言ってるんですか」
「そこまではわからない。だが、お前の生活や戦闘スタイルが大きく変わっているのが見える」
今の戦闘スタイルは『相手に考えさせること』だ。1人でやる分、崩すことが難しい。だから奇襲や空中からの攻撃、モーションの統一などの細かな工夫で補っている状態だ。それが変わるのはどう言う状態だ。生活とともにかわる......。なら単純攻撃しかできなくなるってことか。それはまずい。それではタイマンならトリオン切れや不意打ちで死ぬ。対チームなら余裕で負ける。
「それは僕の商売道具潰しですね」
素直な感想を述べる。だがまだ迅さんの表情は緩まない。
「僕の番ですね。僕も同じようなことです。」
少し間を置き、深呼吸した。
「僕も迅さんのような暗躍者になりたいんですよ」
迅さんの表情は揺らがなかったが、心は完全に不意をつかれたと言っている。
「僕のサイドエフェクト知ってますよね」
「あぁ。知ってる」
「どうです?向いてる思うんですけどね」
「向いてはいる。だがお前をその領分には踏み込ませない」
「どうしてですか」
「大人の役目だからな」
「迅さん僕の2個上ですよね。それで僕に大人を名乗るのは無理があるんじゃないですか」
「レイジさんがそう言えば納得するか」
迅さんの意地悪な返しに顔が強ばり歪む。そうとは言えない。お互いに譲れないものがある。それを離さず相手の心を掴む。これが取引。折衷案などない。どのようにして自分の意見を押し付けるか。これが醍醐味であり課題だ。僕にはまだ足りない。でも、暗躍者であり、取引のやり手でもある迅さんと互角のやり取りをしていると思う。
「俺の役割は危険なんだ。一歩間違えば何個ものいい未来が消える。そして人を変えてしまう。性格も運命も」
確かにそうだ。裏で手を回すというのは表よりも大きな影響を与える。そして表にも多大な影響を及ぼす。一つの情報ミス。言葉選び。材料。完璧でなければ最善ではない。ゆえに最善の手立ては少なく、難しい。迅さんは未来が見える。だからそのことを材料にでき、結果が見える。あくまで僕は、その場の交渉をうまく進めることができるだけ。未来を見据えた交渉は難しい。だから
「僕は迅さんみたいに一人でやるんじゃなくて、サポート的な立ち位置に居たいわけなんですよ」
わかってる。僕の力じゃ敵わない。その影響力もない。できることはサポート。戦いの時のように一人で何人もの敵を相手取ることはできない。だからうまく進むための手助けくらいにはなれると思う。迅さんはわかっていると思う。
「気持ちはわかったよ。だけど無理だ」
変わらないか......。知ってたけどな。だって今まで一人でやってきた人だから……。憧れてたんだよ。S級でかっこいい役回りに。
「お互いに負けってことですね」
「一つ提案がある。幹斗は玉狛に戻らなくてもいい、だが協力はしてくれ。俺もお前の力を借りるから」
話し合いとしては最も理想的であり民事の事件を解決するときの基準。半々に分けることだ。相加平均のようにAとBを足して2で割る。迅さんはこれを僕に持ちかけてきた。けど提案というのはやはり自分の理想を押し付けること。傍観の立場でなくても中立だったとしても均等に分け与える提案というものはない。僕は知っている。人は常に取り繕って内面を見せない。見せても本人には絶対に伝えない。伝えられない。怖いから。僕だってそうだから。だから偏りがあっても気づかないふりをしてやり過ごす。僕はそれを見逃さない。
「怪しいですね。僕を玉狛に協力させるだけさせて後の厄介事は一人でやるつもりですよね。見え見えですよ」
迅さんは少し曇った表情を見せた。
「僕からのお願いですけどいいですか」
僕は提案ではなくお願いをした。いわば僕だけが大勝ちすること。幾つもの交渉を乗り越えてきた迅さんにとってあまりか着心地の良くない言葉だろう。だけれど迅さんはすんなりと頷いた。興味があるみたいだ。
「僕の監視を外してください。そしたら玉狛に協力します」
折れたわけではない。僕が考えた中で一番半々に近い答え。
迅さんが僕の監視を外してくれたら僕からの要件は完了。ここで逃げてもいいが、迅さんのSEでどう動くかわかってしまう。つまり協力せざるを得ない。
「いいだろう」と胸を張り、「君を自由にしてやる」と宣言した。
「信じていいんですね」
僕は震える声でそう確認していた。
「安心しろ。俺も幹斗も見えてるはずだ」
「ありがとう......ございます......」
俯いて、小さくなって、緩んでそう言った。
「いくぞ幹斗。自由を手にしに」
迅さんは僕の右肩に左手を置き、背中合わせの状態でいった。新たな未来を手にしに。
若宮 幹斗[わかみや みきと]
A級隊員 (隊には属していない)
射手(シューター)
使用トリガー アステロイド メテオラ バイパー 孤月 グラスホッパー 旋空 シールド
サイドエフェクト(作中ではSE)有り