次話以降ペースを戻せて行けたらいいなと思っています。
これからもよろしくお願いします。
「幹斗に
今の状況を整理しよう。僕は夕食後玉狛第一メンバーとともにレイジさんの部屋に上がった。僕を含めた5人がそれぞれ違う場所に腰掛けたり、壁にもたれかかったりした。配置に着くと重苦しい雰囲気が漂いレイジさんが口を割った。そして放たれたセリフがこれであった。
マジかよ。しかもあの小南が驚いてない。僕にだけ隠してたな。烏丸君もあの時知ってて黙ってたのか。熊谷さんとの会話で正常な思考ができてなかった。だから気づけなかった可能性がある。烏丸君だからわざと意識をそらしてた可能性もなくはない。どっちにしろ僕以外の四人はこの話を打ち合わせしていたと思う。さすがレイジさんだ。
「理由を聞かせてもらってもいいですか」
「勿論だ。わかってる通り仲良しこよし戻ろうって訳じゃない。
本物だ。仏頂面でポーカーフェイスのレイジさんが若干感情的になった。だけどまだ何か話したいことも内包している。でも今話したことだけでは戻ることはできない。1人なのはそんなことじゃない。
「俺は若宮先輩の背中が頼もしかったです。小南先輩の相方であって、1人でも器用な立ちまわり。
師匠譲りの鋼鉄の表情筋。彼もまた何かを包んで隠している。だけどこの言葉は本音だ。いつも小南に向ける嘘の言葉じゃない。熱い気持ち、本心で訴えかけている。冷めた見た目と裏腹な心。本気さの結晶ととらえてもいいかもしれない。
確かに僕と小南で前を張って、後方支援をレイジさんと烏丸君に託してた。僕の役割は『器用な二番手』だった。小南のようにガツガツ攻めるわけでもなく、
小南と2人で前張るときは、息の合った斬撃と射撃の噛み合い。針の穴に糸を通すよりも高度な技術とシビアなタイミング、そして歯車のように精密でブレることのない身のこなし。超攻撃的な小南のスタイルと殲滅シフトの僕、これの組み合わせはたくさんの敵を葬ってきた。当時はこれがとても強かったらしい。ボーダー内で『ワカコナ』と呼ばれていたそうだし、太刀川さんもそう言ってた。
後衛2人と組むときは守備シフト。3人背中を合わせて対応する。個々の実力はあるが安全に確実に仕留めるのが一番だ。レイジさんは『生きて帰ってきてこそ本当の一人前だ』って教えてくれた。だからこそ生きて帰ってこれるための最善の陣形。それが3点シフト。これで3人が3人とも目の前に集中しやすくなる。しかも、2人の時と違って一人の担当する範囲が120度前後にかわる。これは当たり前だが戦いやすい。見える範囲と抑える人数の変化は戦闘の結果に顕著にあらわれる。だから近中を主とする3人にとっては理想の体勢といえる。
僕はこのどちらにも対応できる立ち位置の隊員だった。いなくてもいい、だけどいるといないじゃ全く違う。それ自体僕の性分に合っていたからチームの戦闘スタイルについては問題はなかった。
「わたしも幹斗君が戻ってくるの大歓迎だよ。久しぶりのわかこな見てみたいしね」
宇佐美さんの番だった。玉狛第一のオペレーターとしてはふさわしいと思う。いついかなる時も戦況の把握が上手で勝ち方を知ってる人だ。僕らが今必要な情報を用意していて、聞かれたときにはすぐに対応。又は、自己的に発信する。これができる人は当たり前だが優秀だ。だけどこの人はこれだけのオペじゃない。だってこれだけならB級中位でも簡単にやれる。彼女の特異な点としては『楽しさを求めている』ところだ。オペしてる時の口調は今と変わらないが所々でそれを感じさせる。時に冷静さを乱したり指示を間違える。これはしょうがないと言えるのだが、彼女はそれすらもスリルとして捉える。
ここまでは回るで映画のワンシーンのように、流れとしてはテンプレートだ。そんなのに心動かされるほど涙もろくない。なら、皆が避けているであろう話題を僕から切り出してみる。
「僕が玉狛第一を抜けた理由を知ってますか」
多分知らない。話してもないし、伝える気もない。僕が勝手に辞めたんだ。理由なんかないって思われてる辞め方だったと思う。逆に今ここで理由があったことに気がついたと思う。いや、全員が感じていた。小南以外の三人はポーカーフェイスを貫いているが、驚きが勝って心が乱れている。小南は顔に出ていた。が、突然引き締まり、言葉を発した。
「多分だけどアンタのことだから私たちがアンタに対してマイナスな印象を植え付けないためにでしょ」
「……」
「何年アンタと戦ってきたと思ってんの?そんな理由でアタシたちがアンタを見る訳ないでしょ!」
凄いな、小南は。確かに考えてみれば何年もやってるのにレイジさんも小南も宇佐美さんも誰一人僕に対してマイナスの感情を持ってなかった。烏丸君も後から入っても僕のことをよく思ってくれていた。なのに逃げ出したのは僕だ。情けないのは僕だ。馬鹿野郎だ僕は。
「大体ねぇ、アンタは私が認めた
はっきり言うなぁ。でも図星なんだよなぁ。しかも烏丸君とレイジさんが隠してたことをしゃべらせた。さすがだな。
最近というか
………
でもまだ足りない。心の不安が解消されない。違う。そんな自分に納得がいってないんだ。そんな理由で戻っていい場所じゃない。これからのために僕はまだ
「戻れません」
「そうか。俺たちはお前の意見を優先する。決めるのはお前だからな」
「………はい」
チラッと確認した時、4人の表情は沈んでいた。『本当に残念だ』と深く思っている。そんな顔を見せられると申し訳ない気持ちがこみ上げるのと同時に、これでよかったと納得する僕がいる。多分どっちの感情も今は正解なんだ。[うやむやの心のまま戻ってまた疑心暗鬼になって頭を下げる。]この
僕がそう決断したときにはもうほかに人はいなかった。全員退室してしまったようだ。レイジさんの部屋なのに失礼だ。最後部屋を出たらレイジさんにお詫びの会釈をしておこう。
気づいたら支部の屋上に来ていた。ここは落ち着かない気持ちを紛らわせたり、僕が無数にある人間のうち1人だと自覚させたりする。喧騒、孤独、離別、苦悩すらもくだらないものと嘲笑ってくれる。だからここは好きだ。広がる空と微かに揺れる水面。これらが僕の癒しというか精神を整えてくれる。
「戻らなかったんだな」
「知ってましたよね、迅さん」
「一応な」
見透かされてたな。僕がここに来るって。
「でも俺は戻る方に賭けてた」
「意味がありませんでしたね」
「そんなことはないぞ。行動には全て意味があるんだ。このことだったら『幹斗が変わる』とかな」
「人はそう簡単に変われないですよ、特に習慣化された事象は」
「そうだな。ただ思いつきとか心掛けとかでも変わるんじゃないか?小さな物事の積み重ねが明日への一歩を切り開くって言うだろ?そういうことだ」
「そうですね」
言葉ではそっけなく返しているが、その通りだと思う。僕は出水君のように天才的なセンスを持っていなかった。空閑君のように元の戦闘レベルが高いわけでもない。魅力と言われて差し支えないのは
「今更ですけどいいですか」
「なんだ?」
「どうして僕を玉狛第一に入れたんですか」
「俺のサイドエフェクトがそう言ってた。これじゃダメか?」
「それを詳しくってことくらい分かってますよね」
「相変わらず冗談の通じないやつだな」
「くだらないあまりは好きじゃないので」
迅さんの十八番、『お茶濁し』。自分に都合が悪くなったり空気が重くなった時に使う常套手段。僕に確信をつかれれば情景反射的に答えているからわかる。
「そうか。ならまず結論から話そう。お前には俺と同じような感じがしたんだ」
「SEですよね」
「あぁ、俺もお前も対1人より、全体の方に利益があるSEだ。ただその対価が自分も他人も気分を害してしまいやすい。そうだろ?」
確かにそうだ。全体での利益は大きい。その分僕の心には大きな傷がつく。罪悪感、有痛性、苦痛など。迅さんも同じだ。普通なら共有できない、共有したくない他人の秘密を一方的に知ってしまう。それが僕たちの特性。他人からは喜ばれる第六感。誰かが言っていた。
『人類の進化はあり得ない。それを越えようとするなら大きな苦痛を伴う』
と。
だけど僕らが持っているのは進化した先ではない。特筆した
「そうですね。でも迅さんは未来が、僕には
「あぁ、確かにそうだな。俺には変えられる可能性がある。でもお前は受け止めるしかできない。だろ?」
「流石ですね。あとはもう想像つきますよね」
「勿論だ」
簡単に言えば未来を知るってことは最悪を回避できるということ。実際大規模侵攻の時がそうだった。迅さんが
逆に僕は不変の心しか見えない。要は僕が何かを訴えたところで変わるのは印象と空気だろう。恐らくどっちも底に向かうだろうけど。
言ってしまえば不幸にしかならないってこと。
「言わせてもらいますけど僕には逃げるしかないんですよ」
「わかってる」
「ならどうして
「逆だ」
「どういう………」
「待ってんだよお前を。信じられてる。それだけで十分だろ。後はお前が前を向くだけだ。だから逆なんだよ。逃げるんじゃなくて進む」
「………」
「今のお前ならできる。
「………やって………みます…」
「よし!重い話はここで終わり!じゃあ次の話だ!」
「雰囲気壊すの早すぎです」
やれやれと首を振りたくなるような無邪気っぷりというか自由さがあるな迅さんは。何枚も上手だな。切り替えも戦闘も、自分との向き合い方も。
「気にすんなって、いつものことだろ?」
「そうですね」
呆れながら返事をする。迅さんは何もなかったかのように話を進めた。
「突然だがメガネ君は遠征に行けると思うか」
「無理ですね」
「ほぉ。聞かせてもらおうか、その理由を」
「二宮隊、影浦隊をこえる実力がないからですね」
「やっぱりそうか」
「そうでなくても、B級上位に入れるかも怪しいと思いますよ。鈴鳴第一、那須隊、諏訪隊、荒船隊あたりでも苦戦しそうですけどね」
「それは
「僕の目にはそう映っただけです。実力だけの話ですけど。実力以外も含めると上位には入れると思います」
「案外甘いんじゃないのか」
「そんなことありません。三雲君の戦術技の高さを僕は知ってますので。それでも上位2チームに入って、A級昇格は望み薄だと思います」
「残念ながら俺もお前と同じだ。だからメガネ君たちを助けてやってくれ。これは俺からの頼み事、いや話題提起だ。やるやらないの判断はお前に任せる。もしやるならそれはお前の意思だ。だからやり方も全部お前が考えるんだ」
「考えておきます。と言いたいですがここで宣言します」
「三雲修君を遠征に送り届けます」
「そう言ってくれるって俺のサイドエフェクトが示してくれた」
「奇遇ですね。僕のサイドエフェクトもそう信じてくれてるって言ってました」
間話 とある新参の
「なぁオサム。若宮先輩って
「それは僕が若宮先輩と話したことなかったし、自己紹介の時もいなかったからだ」
「そういえば修君若宮先輩に模擬戦で………」
「ああ、あれは若宮先輩が腕試しでやってくれたんだと思う。弧月とか使ってたけどしっかり射撃タイミングとか、射手の間合いとか考えてて勉強になった」
「ほうほう、だからあの時俺を止めたんだな」
「あと若宮先輩は連携が上手かった。この間のとき、出水先輩や烏丸先輩、小南先輩との連携がきれいだった。受けにも攻めにも回れる立ち回りをしていた」
「今後の俺に必要そうな技術だな」
「私、若宮先輩って怖い人だと思ってた。でも話してみてわかった人のことをちゃんと見てるいい人だった」
「俺もそう思う」
「僕も」
「今度俺たちで若宮先輩に色々教えてもらおう」
「いいね遊真くん」
「修も若宮先輩に負けないように強くならないとな」
「そうだな」
「頑張ろうね、遊馬くん、修くん」
「おぅ」
「3人で絶対遠征に行くぞ!」
「「おう!」」