もうすぐ春……というには早い時期。かと言って冬真っ只中とも言えない。微妙な季節。元々三門市は雪がほとんど降らないから、肌寒いと感じる以外冬を実感しづらい気がする。身動きが取りにくい積雪なんてランク戦の時くらいしか無いかもしれない。仮に降ってもトリオン体に換装にすればいい。けど、その状態で行くと色々とめんどくさい。特にあの2人。
「おーい幹斗、飯食おうぜ」
「え?もうそんな時間ですか」
「お前ほんと授業無駄にしてるわ」
よく言われる。集中してないって。そんなつもりはないんだけどな。たまたま僕の気が散ってる時に先生とか出水君がこっちを向くだけだと思うんだけど。成績も悪いわけじゃないし、そこまで言われる要因はないと思う。「気づいたら時間が経ってただけだ」とそう言われるんだろうな。どんなに説明しても理解されないと思う。だからもうそれで良くなった。これで物事が落ち着くんだからいい。
それはそれとして、お昼ご飯を食べよう。午後の分のエネルギー補給は大切だ。授業はなんともないけどその後のごたごたに一番体力を使う。僕の経験が教えてくれた。さっさと食べて読書でもしよう。最近買ったミステリー小説。ポップに惹きつけられてしまった。我ながら不覚と思いニコニコしていた。
「おっ!熊ちゃんどうしたの?」
「若宮君いる?」
「あぁ、幹斗ならここに」
「幹斗、お前に用だってよ」
えっ?僕?誰が?……熊谷さんじゃないですか。本当に僕?全く見当がつかない。わかることは頼み事だってことだけ。あと、恥ずかしがってることも。
「若宮君、わたしに若宮君の闘い方を教えてもらっていい?」
ああ、そういうこと。大体理解した。ランク戦の対策か。空閑君対策と村上さん対策どっちも兼ねるなら僕が適任みたい。グラスホッパーと孤月。スコーピオンなら米屋君とかじゃダメなのかな。いや、攻撃手だからスコーピオンのこと詳しいのか。まぁ、とりあえず返事は
「いいですよ」
「ありがとう。今日の放課後那須隊の作戦室に来てもらえる?」
「わ、わかりました」
約束しちゃったけど、那須隊のみなさんというか熊谷さん以外はじめましてなんですが……。人と話すのが苦手なのに初対面だとより一層……。あれ、確か那須隊のオペって志岐さん……。超絶いたたまれないやつでは……。
「あっ、でも小夜子がいるから……どうしようかな……」
「熊ちゃん、うちのとこ使う?たぶん柚宇さんならぜんぜんオッケーって言うと思うから」
「本当!?ありがとう出水君」
「幹斗もいいな?」
「あ、うん」
これなら僕も志岐さんも落ち着いていられる。一安心。
お昼用の3つのおにぎりを完食し、お茶で口の中をリフレッシュさせる。
「幹斗、お前熊ちゃんとどういう仲なんだよ」
「まさか付き合ってるとかじゃねぇよな?」
「いや何もないですよ。この前スーパーで初めて会いました。話すのは2回目です」
はっきり事実のみ伝えた。自分で口に出して思うけど、なんで僕なんだろうか。次の試合ようだとしても微妙な気がしてきた。詳しいことは見せていなかったから仕方なし。あと、2回目の会話が頼み事って結構すごいと思うんだけど……。けど、頼まれたら断れない人なんだよな。当たって砕けろ精神でいけば何とかなるか。米屋君が前言ってたし、今までだって一発勝負の場面で決めてきたから大丈夫だと信じたい。
「熊ちゃんって意外と大胆に動くタイプなんだな」
うんうん。やっぱり同じこと思ってたんだ。
「俺だけ仲間はずれじゃん」
「お前は槍使って空閑とか緑川と遊んでろ」
「言われなくてもそうするわ!」
楽しいな、この空気感。小さい内輪なのに。いい満足感が得られている気がする。思わず笑みがこぼれそうになる。
「えっと……僕は何を……」
「私に孤月とメテオラの併用の仕方を教えてもらえない?」
「いいですけど、いきなりやって身につくものではないのでまずは『攻撃手トリガーと射手トリガーの兼ね合わせ』について理解してもらいます」
僕自身感覚で覚えたけど、祖父に剣術を教わった時も、トリガーの使い方を教わった時もしっかりとした説明があったから身につけることができた。そういう経験があるから、説明してからやりたい。その方が早く結果を得れると思うし。
「まず、攻撃手で射手トリガーを使ってる人を考えましょう」
「王子さんと樫尾君しか分からないわ」
「あとは小南ですね。まあ、基本的に射手トリガーを使うときは、それに専念します。言い方を変えると「その間は攻撃手トリガーを使えない」ってことです。まぁ、サブとメイン両方使う場合ですが。確か熊谷さんは孤月を両手で握っていたと思うので、片手で孤月を握らないといけないんですが、それだと何かやってくるってバレてしまうのでお勧めできませんね。なのでやっぱりとっておき枠としておいた方がいいと思います」
「ちょっと難しいけど、ここぞって時に使うのがいいってことね」
「大体そういうことです。それでは実践しましょう。先ずは簡単にタイミングを掴んでみましょうか」
ざっくり説明の「ここぞって時」を掴んでもらうために近接戦をしている。一応僕だったら鍔迫り合いを解いた瞬間か、相手との距離を取った時のどっちか。だいたいここを狙えたら合格。
鍔迫り合いの状態。間合いを切るも切られるのもどっちでもいい。強いて言うなら自分から切ったほうが仕掛けやすい。
「ここっ!」
メテオラが放射された。自分から距離を作って。
「僕が思ういい場面と同じでした」
「とっておき枠なら一度使ったら腐らない?」
「そんなことないです。悩みの種が増えます。技が一つ変われば不安要素は変わった数の何倍も出てくるものです。あとメテオラは距離を保つのにも使えます」
「確かにそうね。他の隊の新情報が出た時の作戦は大変だったわ」
「じゃあ次は模擬戦、仮想戦をします」
村上さんはできるけど空閑君は厳しいな。スコーピオンと弧月じゃ立ち回りが違うからな。やるだけやるけど本当にわかんないだよな。見よう見まねでできることじゃないし、あそこまで動きに磨きがかかった隊員なんて指折りで数えられる程しかいない。練習相手にするのも難しいし、素人がやれるわけがない。何となくやってみるか、孤月と同じ感覚で。
「まずは村上さんからやります。レイガストがないのでシールドとか、アステロイドで代替えします」
「いや、私は本気の若宮君と戦いたい。次のランク戦のために言ってくれたんだろうけど、本気の若宮君なら勝った方が私は自信がつく。ごめんね」
「大丈夫です。本当に本気でやるんですね」
「もちろんよ」
「ルールは熊谷さんが決めてください」
10本先取の全トリガー使用可能。トリオンは通常。どちらかが先に5本取ったら5分の休憩。の単純ルール。熊谷さん微有利にするかと思っていたから少し驚いた。エリアは市街地。天候も晴れ。超対等な状況での勝負。勇気を出してけど、負けてあげる気なんか微塵もない。そっちの方が失礼だし。
「熊ちゃん、幹斗、用意はいいか?」
「大丈夫!」
「僕もです」
「んじゃあ、始め!」
「アステロイド」
「メテオラ!」
出水君の合図で戦闘開始。初手はお互いに牽制。そして僕は後退。相手の出方を伺おう。
やっぱり出待ち。煙が去って現れた熊谷さんは孤月を握りしめ、僕が分からないようにできるだけ感情を殺していた。ただ、目の前に誰もいないことを確認すると、辺りを見回して僕の姿を探している。ここで、後ろから施空孤月が1番良さそうだけど、しっかり後ろも確認してるから通じないと思われる。ならどうにかして気を引きつければいいのだか、何かあるか。置弾を見せてバイパーで起爆させる。いや、それは釣りってわかりやすいか。
やっぱり無難にバイパーで引きつけてからにしよう。
「そっちね!」
読み通り。
「アステロイド」
「後ろ!?」
先ずは1つ。バイパーの起動をわざと遠回りにさせて射撃ポイントを誤認させる。今はバイパーの撃ちだしをわざと遅くさせることで僕が背後に回る時間を確保する。マップもなければ後ろに対する意識なんてないから撃ち落とせる。反撃できない距離からのアステロイド。そりゃあ防御と索敵を並行してやったら気が回らない部分が出てくる。そうなれば後ろから見れば隙だらけ。
2本目。もう一回同じことをしよう。最後だけ変えて。
「さっきと同じ!」
熊谷さんが振り返り、僕を視認した。そしてそのまま距離を詰めた。バイパーの着弾地点はさっきと変わらないから移動されたしまえば、回避されてしまう。おまけに、さっきのアステロイドからか、集中シールドで対策している。でもそんなの見せられたら撃ってくださいって言ってるもんだ。バイパーを。
「施空孤月!」
「バイ……」
それは読めなかった。感情を殺しているからこそさらに分からなかった。シールド単体じゃ防げない施空孤月。それを僕が射撃するタイミングで使ってきた。これはお見事。お互い一本ずつ。
「っ!」
僕と熊谷さんの孤月が競り合う。熊谷さんの両手で握る孤月に対して、僕の左手はフリー。バイパーならどう攻めても詰ませられる。だけどここで弾道のことを考えれば何かのアクションが起きた時に耐えられそうにない。しかも僕のトリオン量だと、体からはみ出してしまうかもしれない。でもまだ1:1。挑戦することが許されてる。なら、やるしかない。
左手を背中に回し、バイパーを起動する。熊谷さんの眉がピクリとした。仕方ない、やられる前にやるだけだ。熊谷さんが身をひく。弾道は目の前にいた熊谷さんに照準を合わせていたので互いに交差し、住宅の塀にあたる。速攻で引いた簡単な弾道だったからそのあとまで考えられなかったのは妥協。けど半分残ってるからいい。ここまでは予想してないでしょ。
「アステロイド」
「さっきと同じよ」
ハズレです。
「残ってたのね。さっきの」
熊谷さんが気づく頃にはシールドを避け、心臓付近に風穴が開いていた。2本目。
3本目、まだ仕掛けのターン。さっさとグラスホッパー施空孤月で優勢とろう。
グラスホッパーで一気に詰めて、上、右、左に2つずつ設置。どのルートからも斬れる。先ずは安直に左から後ろにまわる。左足で地面を蹴り、右足で1枚目のグラスホッパーを踏む。もちろんこの程度、目で追うくらいはできる。左ルートが安定な理由、鞘に手をかけているのかそれとも弾を用意しているのか見分けがつきにくい。そしてどちらとも有効射程。判断しづらいはず。
「施空孤月」
真っ二つにして3本目。1つ目から2つ目に行く間に攻撃する。これは完全に心理をうまく利用した技。グラスホッパーが2つあれば両方踏むと思い込んでしまう。なら相手は2つ目を踏むあたりでアクションを行す。動いてる敵を狙うより、止まっている敵を狙うのは普通だ。トリックは多めに仕掛けておくと通りやすい。
もう一回同じ手法でやる。多分さっきの対策というか対応みたいなのはとられる前提で進めたほうがいいな。一本取り返されたときがそうだったから。主導権は僕が握る。
グラスホッパーを2枚ずつ起動。迷わず左ルート。
「さっきと同じ?いや、そんなわけない」
ご名答なんだけど、トリックを見破れなきゃ意味がない。マジシャンに「なんかやってるんでしょ?」ってだけ聞くのと変わらない。やることがわかってるけど核心をつけない。一枚目を左足で踏む。僕は逆サイド、右ルートに乗り換え。そのまま右の2枚目を踏んで孤月で切り裂く。これやると狙いが定まらないから射撃しづらい。この動きでメテオラとか撃てれば強い。練習しなきゃ。それでも相手は対応できないと思うけど。さっきの見せてる分気づかない。2枚目のグラスホッパーの角度を1回目より内側に傾けていることに。『途中で道を変える』なんて思わないだろう。
ソロってのはどれだけ理想を押し通せるかだ。なら戦いの主はこっちじゃなきゃいけない。カウンターでも打開でも結局は作戦、つまりは理想だ。まぁそんなのはチームでも変わらないけど。妥協が少ない分1人の方がお似合いな言葉だ。
4:1。さっきの可能性の分岐の数は多い。さらに悩ませる要素も与えた。見せれば見せるほど対策が無に帰す。初見じゃ完璧な対策なんて見つけられるわけがない。僕が小南を打ち負かすために作ったんだから。小南が対策を打ち出す頃には勝負が終わってる。次からはばっちりメタられたけど。まだまだ行く。
「また来る!」
6枚を設置し、踏み切る素振りを見せる。案の定驚いてくれた。そりゃそうだ。グラスホッパーを使わないんだから。咄嗟ににシールドを張って距離をとろうとする熊谷さん。いくらトリオン体だといえ、反応してからの動きが極端に早くなるわけじゃない。そのまま弾速重視のアステロイドでシールドごと吹き飛ばせる。
これも頭に入れなきゃいけないってきついでしょ流石に。5:1か。休憩タイム突入。熊谷さんが防戦一方すぎて対策のしようがない。理想を押し通すことを考えよう。確実に倒せる技は2種類ある。あとはさっきのの繰り返しでもいいかもしれない。対策見つけられれば終わりだけど。
ーーー太刀川隊作戦室
「柚宇さん、柚宇さん。幹斗やりすぎじゃないです?」
「いやぁ、くまちゃんは閃いたっぽいけどねー」
「俺は一応しってるんすけど、気付きます?」
「そこは若宮君の優しさじゃないかな?」
「というと?」
「今回何を若宮君は教えたの?」
「そういうことっすか。やるなー幹斗の野郎」
私と若宮君のポイント差は4。安心していい差じゃない。私は本気の若宮君に勝ちたい。そのためにはあのグラスホッパー戦術を突破しなきゃいけない。弱点は絶対ある。
あの戦法の確認を先ずはしてみた方がいいかもしれない。右、左、上に2枚ずつグラスホッパーを使ってる。しかもどのルートも私の後ろをとれるようになってる。1回目は左側の1つ目と2つ目の間で施空孤月。2回目は途中で右側に移動して後ろから。3回目は私の不意をついたアステロイド。私がグラスホッパーに気を取られすぎなだけ?いや、そんなことない。なら私から仕掛けるべき?でもそれだと応用技としてさっきのより手前に置けば済んじゃう。集中シールドでも孤月は防ぎきれない。なら距離を取るのが一番いいかもしれない。でもどうやって……。
「距離を保つのにも使えます」
これよ!
思わず飛び上がってしまうほどに心地良い。ピースがピッタリはまった。若宮君はわざわざこれを気づかせるためにあれをやってたの?だとしたらすごい!これなら一矢報いれる。あとはここぞって時を見つけること。
『2人とも、休憩の時間は終わりだよー』
後半は巻き返す。絶対に!