※5/1 一部加筆修正致しました。
「今日は試合見なさいよ」
「わかりました」
小南に釘を刺され、支部のテレビでB級ランク戦第三戦を観戦している。
今回は玉狛第二VS鈴鳴第一VS那須隊。B級ランク戦の規定によりステージと天候の決定権は那須隊にある。
『全部隊転送‼︎』
風間隊オペレーター、今回実況の三上さんが試合開始を告げる。解説は太刀川さんと迅さん。玉狛の先輩としては玉狛第二を応援するべきなんだろうけど、熊谷さんのいる那須隊も応援したいところだ。複雑な心境での観戦。
マップは河川敷。天候は暴風雨。川が増水し、流れが速くなる。水没すれば高確率でマップ外
「は、橋が落ちた!?」
開始早々橋が落ちた。にしても早すぎるな。状況、威力、弾数から見て雨取さんだ。那須隊有利から微有利になったって感じか。分断に成功したけど、三雲君側は那須さんの火力で押し潰される可能性が高くなったように見える。エースを向こうにおいておくってことは
「ヒュース、お前はどう思う?」
「弱い奴が負ける。それだけだ」
「そんなのわかりきってるわよ!
「あながち間違いじゃないかも知れませんよ。東側は那須さんを止めなきゃ点取れなさそうでし、西側も1人しか残らなさそうですし」
「そうね。だけどやっぱりアンタが気に食わないわ。修が死にかけたのよ!」
「おさむは生きてる。もう……すぎたことだ」
「なに大物ぶってるのよ陽太郎」
「迅さんが言ってた最悪の未来じゃなかったってことで良くないですか。今更なにを言っても雰囲気が悪くなるだけです」
「でも……」
「そんなに俺が気に食わんなら拷問でもなんでもすれば良い」
「僕たちはそういうことしませんので。そうですよね支部長」
「幹斗の言う通りだ。捕虜は丁寧扱ったほうが色々と都合がいいしな」
「でもコイツ置いてかれてるじゃない。向こうからもいらない奴って思われてたんじゃないの?」
随分と上からな態度だな。小南は人型と本格的に戦ってないからこう言えるんだろうか。いや、迅さんも太刀川さんも同等かそれ以下って思ってるからきっと同じような感じか。
「仕方なく手放したんじゃないですか?向こうでも結構な実力者だったと思います。迅さんが言ってました。そうですよね若宮先輩」
「迅さんならそう言うと思いますよ」
「へぇ、迅がねぇ……」
「まあ、ウソなんですけど。さっき考えました」
「はぁ!?幹斗!アンタも騙したのね!」
「烏丸君が伝えできたので。それより試合が大事ですよ。そろそろ動きがありそうですし」
モニターには西岸の戦いが映し出されている。空閑君、熊谷さん、村上さんの三つ巴。圧倒的に熊谷さんが、不利な状況。ただ、チャンスがないわけではない。鍵は
「これ、アンタだったらどうする?」
「僕ですか」
「アンタ以外いないでしょ」
小南が指を指して聞いてきた。どの立場で考えた時のことを言ってるのかわからない。小南の心の中は『私だったらこうしてるわ!』と謎の自信だけが佇んでいる。
「当事者ではないのでわかりませんが待ちますね。三つ巴は動けば不利になりやすいので」
「私ならさっさとぶった切るわ」
どう考えたらそうなるのか。
「俺も待ちますね。何があるかわからないので。逃げられそうな雰囲気でもなさそうですし」
「
「じゃあアンタはどうすんのよ!」
「攻める。あとは崩れたところを仕留めるだけだ」
この状況じゃ無理な気がするのは僕……だけじゃなかった。支部長も烏丸君も内心苦笑いしている。小南はよくわからない顔をしている。驚きと呆れと苛立ちのようなものが混ざった感情なのははっきりとわかる。陽太郎君は感情も表情もポカンとしている。難しい話だったのかもしれない。
「動きましたよ。日浦じゃないですか?」
やっぱりこの雰囲気をマズいと思ってたんだ。それをしれっと違和感なく変えられるのは流石イケメン。出来る男だ。小南もヒュース君もさっきのことより画面の中で起きていることに釘付けだ。
状況は日浦さんが浮いた空閑君を狙った。それを躱されて、追い詰められてる。
僕的には
「おー。逃げないか。いい肝っ玉持ってるなー」
支部長も興味を持ち身体が前のめりになる。日浦さんは空閑君を狙撃し続ける。支部長の言う通り逃げない。そして撃ち続けられる肝っ玉。当てられるといいが……。
「メテオラぁ!?」
メテオラ仕込んでたのか。橋を壊すようのやつか。攻撃に転じるのは初めてそうだな。なんとなく慣れてない感じが透けて見える。だから撃った後のことが意識にない。
「遊真の勝ちですね」
爆煙から空閑君の右腕がはっきり見える。
「そこで気づいたなら終わりね」
目つきを変えた小南の一言の直後、玉狛に1つ点が入った。
「「甘いな(ですね)」」
僕とヒュースさんの言葉が重なった。同じ考えだったのか。まぁ、ここにいる人たちからすると「あれくらいは考えておかないと」という雰囲気だ。
策なしに突っ込んでくるわけがないことをわかっていない。僕は起点も詰めも全部やらなきゃいけないから余計にわかってしまう。1人でできることを。
分が悪い勝負をしなければならないときだってある。今回であれば狙撃手と攻撃手。遠くから狙える狙撃手の方が有利だ。それでも向かってきているなら考えなければならない。『何か企んでいる』と。空閑君しか狙ってきていないこともわかっている。余計に『空閑君が何かしてくる』ことが透けている。どんなことをしてきたとしてもそれに反応しなきゃいけない。ギミックの詳細がわからなくたって警戒くらいは簡単だ。急に「ここに居てください」って1人で無人の建物の中に放置されたら怪しいと思うのと同じ。
『どんな時でも二手、三手先を読むこと』
その場で組み立てること。対処すること。この試合でも雨取さんが橋を落としたことや、空閑君が片腕を犠牲に1ポイント取ったこと。どちらも即興で行動した。結果、那須隊の作戦は総崩れ。分断や得点にも成功している。つまり、そういうことだ。
だから、焦っていようが終われていようが、冷静に周りを見る力が必要だ。柔軟性や対応力、苦手意識克服の向上に期待できるし。
「私は遊真が上手なように見えたけど」
「俺もそう思います」
「あれくらい誰だってできる。玄界の兵はあの程度で音をあげるのか。ジンというやつはあれよりも賢かった」
ヒュースさんが小南と烏丸君の意見をバッサリ。トカゲの尻尾切りくらいは誰でもできるそうだ。防御にも攻撃にも使えるから汎用性が高くて、教わるんだそう。逆に何をするのかがとても気になる。今度お手合わせ願いたい。
空閑君が居なくなったことで西岸の河原には熊谷さんと村上さんが残された。攻撃手同士の一騎打ち。順位で見れば村上さんが上。だけれど簡単にはやられないと思っている。メテオラをうまく使って粘ってほしい。
「幹斗、アンタ熊ちゃんのこと応援してるでしょ」
「急にどうしたんですか」
「那須ちゃんから聞いたわよ。「熊ちゃんが若宮君との練習を無駄にしない!って言ってた」のを伝えてって言われたのよ」
そういうことは直接言えばよかったんじゃないのか。今ここで言われるより面倒くさくならない気がするけど。まぁ僕は言われても「頑張ってください」しか言えないと思う。人にそういうこと言われたことがないからよくわからない。実際に言われた時に僕は何を思うんだろう。
「応援してないといえば噓になります」
なんとなくこれしか思い浮かばない。お茶を濁すような発言だけどしっかり今は村上さん倒してほしいと思っている。でもなんか悔しいな。人に期待するの。またあんなことになりそうだし。
「なぁヒュース、お前ならこの後どうする?」
「どういうことだ」
「いやぁ、もし今お前が遊真と同じ状況ならどうするかと思ってな。いま
「愚問だな。2人とも倒す」
支部長の突然の質問に即答。この人どんだけ自身に満ち溢れているんだ………。自信がありすぎた結果、自分がアフトクラトルから見捨てられたことを受け入れられなかったり、迅さんに煽られながら負けたりしたんだろうけど。あの質問で「プライドが高い」ってことは簡単に見抜けた。だとしても片腕で堂々と戦線復帰する奴の気が知れない。僕ならことの顛末を見てから1対1。もしくは捨て身上等の割り込み奇襲とかかな。質問自体が答えがなく自由度が高いから自信いっぱいのヒュース君は全部刈り取れると思えるんだろう。
「ほぅ、それがチームだとしてもか?」
試合を差し置いて全員の興味がヒュース君に向く。視線は向いていないが答えが気になっている。支部長の言葉がここにいる玉狛メンバー全員に問うてる気がした。
「かわらんな。倒してしまえば関係はない」
玉狛第一全員が顔を見合わせた。そんなことありえないって顔をしている。ボーダー最強部隊だとしてもそんな考えには至らないようだ。一回限りのぶっつけ本番。どの隊でもそんな細い道に近づかないだろう。ハイリスクハイリターンはこの状況には似合わない選択肢。太刀川さんみたいな人じゃないとやらないかもしれない。あの小南でさえ引いている。
「ほぅ」
支部長も興味深そうに頷くだけだった。あの支部長でも予想外すぎた答えだったから上手く言葉にできていない。そのせいで場の空気が死んでいる。なんとなくみんなそわそわしながら画面を見ている。この空気を変えるには空閑君本人の行動次第なきがする。
村上さんやっぱり容赦ないな。あの表情で斬られるの怖そう。どうやったら綺麗に思い描いたとおりにできるかだけを考えている。この人のタイプ的にそれがベストなのかもしれない。大量の経験と知識で構成された戦闘スタイルは
「そこで切るか」
声が漏れてしまった。しかもいつもの口調にできてない。マズい。小南から後でいろいろ言われるやつだ。熊谷さんがメテオラを見せたことに反応していたらつい………。そんなことよりメテオラのタイミング。正直75点。別に悪いわけじゃないけど自分の動きができなくなったから切り替えたって点が減点。自分の動きと併合できれば強みになっていた可能性が高い。村上さんに勝つには普段通りじゃあ無理だ。いままで通り。逆にダメージを補うために使うのもすべてを引き出せる訳じゃない。だからこそ
多少耐えれてるのは村上さんがこの状況で近距離戦を「危険率が高い」と頭の隅に置いているから。実際、爆撃のせいで決定打が決まりづらいのを好ましく思っていない。それでもすぐにでも決着をつけたい。だから多少の犠牲を許容したうえで攻め込んでいる。
「あちゃー」
故に、完全に耐えることはできない。もっと実戦を積んでいればわかっていたかもしれない。最適な試合運びを。
最後の悪あがきすらも看破されている。悪くはない罠だったと思うけどな。見破った村上さんがお見事だ。
「待ちでしたね。遊真が出した答えは」
にしても展開が早いな。この試合は特に。エリアが2つに分断されてるから無駄なことがないんだろう。まぁいつも無駄なことをしている暇などないのだが。というか空閑君待ってたんだ。片腕で。ここは空閑君の発想力勝負になるな。実力、経験、そしてダメージ。全てにおいて村上さんが優勢。でも待つってことは仕留めれる自信があるってことの表れだ。
「勝てますかね。これで」
「0とは言い切れないかもしれません」
「そうよ!鋼さんに負けてから超練習したんだから!」
だからなんでそれを小南が自慢げに話すんだ。練習してたとしても鋼さんには空閑君の癖や戦闘スタイルなどの諸々がバレている。だから発想で勝負しなきゃいけない。普段通りで勝てる相手じゃないことを空閑君もわかっている。
空閑君の攻撃回数が少なすぎる。封じ込められている。機動力を使った戦法を主とする空閑君に防御の意識をさせることは理にかなっている。攻撃こそ最大の防御を体現している。反撃と言えるのは何度か繰り出している
「あぁもう危なっかしい!」
「村上先輩にリードを取ることすら難しいし、凌げてるだけでも優秀だと思いますけど」
「確かにそうですね。でもここからは空閑君の攻撃ターンに入りそうですけどね」
村上さんの猛攻終了後の息継ぎの間。空閑君の目にはおそらく写っている。村上さんが斬られる姿が。
グラスホッパーの大量起動。
「踏ませた!?」
「面白いな遊真のヤツ」
踏ませたとしてもスラスターで残骸に着地できる。逆もまた叱りだ。じゃあこれは悪手だ。残骸が消し飛ばない限りね。
「ありますよね、千佳の狙撃」
橋は見る影もなくなった。そして戦いの舞台は水中へ。身体強化があったとしても川の流れや水圧にあらがえるわけではない。多少は動けるかもしれないが陸上に比べれば大幅に劣る。村上さんの素早い振りが見極めやすくなる。ランク戦で水中戦を見たことが少なすぎて先が読めない。これなら空閑君にも勝機がある。
「遊真の勝ちですね」
烏丸君の言う通り空閑君がスコーピオンで貫いた。激しい水流で思った以上に体を動かせなかったのか。そこで自由自在、変幻自在のスコーピオンが光るってことか。やるな空閑君。いい発想力を持ってる。なんか1つ教えてもらおうかな。
感心してるけどこのままだと空閑君エリアオーバーで緊急脱出だけど………。彼ならまだ何かやってくれそうな気がする。
「西岸の決着が尽きましたね。あとは修と千佳ですね」
「大分終盤っぽい雰囲気だけどね」
東側も終局が近い。三雲君の動き次第だ。那須さんにどう勝つつもりなのか気になる。
「うぉっしゃー!!ウチが三連勝!!次からB級上位よ!!」
結果は玉狛第二の勝ち。鈴鳴の来間さんが那須さんを削って反撃をくらい離脱。大ダメージを負った那須さんがトリオン切れで離脱し試合終了。
「幹斗。今日はキムチ鍋パーティーよ!準備しなさいよね!」
わかりました。と軽く返事し、リビングから台所へ向かう。
ヴゥ~ ヴゥ~
スマホの着信音がした。マナーモードにしていたから控えめな主張だ。液晶画面には知らない番号からの電話だった。なんとなく気が引けるような思いで電話に応える。
「もしもし………」
『ごめんなさい若宮君………』
「あの、えっと………」
『ごめんなさいいきなり。熊谷です』
「あ、熊谷さんですか」
『ごめん。若宮君に教えてもらったのに私………私、何もできなかった』
「だ、大丈夫です…よ………。そんなこと………」
『でも私、若宮君に申し訳なくて………』
「得るものはありましたか」
『えっ…』
「負けたり失敗することなんて当たり前ですよ…。そこで何を身に着けるかが大事なんです…。それが見つかったなら僕はいいと思います」
『………。ありがとう、若宮君。私、もっと強くなる。新しいものが見つかった』
「はい、頑張ってください。応援してます」
『………』
そう言って電話は切れた。最後、言葉はなかったけど微笑んだようなかすかな音が聞こえたような気がした。何もできなかった無力感。もう嫌だ。あれに付きまとわれるのは。