ソロ以外は僕には苦痛です   作:S1nO

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 今日は日曜日。清々しい一日が待っている。何にも左右されない特別な日だ。

 こんな日はどこかに出かけよう。誰も知らないようなところに。ってわけにはいかないんだけど。

 

「若宮君今日二宮さん来るから話し相手になってあげてねー」

 

げっ……ってか何であの人ここに来るわけ?鳩原さんのこと聞くつもりなのか。でもそのことを知らせてもいいのか。あの事は重要機密事項。あの人のことだし、何も考えてなさそうなのが余計に怖い。

 

「あ、来るの夜だからそれまでは大丈夫だよー」

 

「あの、僕今日出水君に呼ばれてるんですよ」

 

「あちゃー、じゃあ今日の担当はレイジさんになるのか。2日連続だけどしょうがないかー」

 

「烏丸君はどうしたんですか」

 

「とりまるくんはバイトだよ」

 

「そうですか。レイジさんによろしくお願いします」

 

今日の玉狛は何だか忙しい気がする。三雲君たちは本部に向かったらしいし、迅さんも本部。おまけに二宮さんが来るってなったら疲れる。そう言う僕も出水君に呼び出されている。用件は「俺と勝負しろ」的なことだったはず。なんで今更なんだろう。多分僕が挑発したからなんだけど。たまにはそういうことを言いたくなる時だってある。天才に一泡吹かせたい。あ、そろそろ行かないとまずい。

 

「では、僕も行きます。色々とよろしくお願いします」

 

「りょーかーい。気をつけてねー」

 

「勿論ですよ」

 

 

 

 

 

「お、いたいた。幹斗ー!」

 

「そんなにしなくても見えてます。あとワクワクしすぎです」

 

「よし、俺と10本勝負な」

 

「説明も何もなしにいきなりですか。配慮はないんですか」

 

「別に説明しなくてもわかるだろ?」

 

「まぁそうですけど……」

 

「じゃあさっさとやろうぜ。昨日の事後悔させやるから」

 

「随分と自信たっぷりですね。そのお披露目にわざわざ僕を呼んだんですか」

 

「お前相手じゃねぇと判断できねぇだろ?」

 

「確かにそうですね。でも認める気はないですが」

 

「この俺を舐めてもらっちゃあ困るぜ。天才射手出水様をな!」

 

「受けて立ちますよ。僕も全力で迎え撃ちますよ」

 

 

 

 

 

 A級1位部隊所属射手2位 : 『天才射手』出水公平VS孤高の帯刀射手 若宮幹斗。ボーダートップクラスの2人の射手の闘いが始まろうとしていた。射手スペックで言えば出水の方が上だが、その差を埋める若宮の経験と剣術。休日の昼間。試合の様子がピックアップされ、大きなモニターに映し出される。昼食ついでに見ている隊員が多い。C、B、A級問わずその戦闘に釘付けになっている。特に射手や射手トリガーを使う隊員たちは眼を閉じることを知らないのではいかというほどに開ききっている。

開戦の合図を待っているオーディエンス。2人は距離を取り、右手を構えた。2人の手のひらの上にキューブが浮かぶ。

 

「「アステロイド」」

 

キューブが互いの正面に向かっていく。もちろんキューブ同士がぶつかり爆散する。爆散したと同時に2人は動き出した。つまり始まったのだ。天才と孤高の対決が。

 

「幹斗と1対1(タイマン)するなんて久しぶりだな」

 

「そうですね。僕がまだどこにも所属していない時のことですね。あの時は僕の負けでしたね」

 

そんな会話をしながら撃ち合う。アステロイドにはアステロイドを。メテオラにはメテオラを。軌道を変えてもそれに合わせるように。シールドや孤月を使わない超火力の衝突事故。一発の被弾が勝負を決定づける闘い。シールドもグラスホッパーも使わない。射手トリガーのみでの撃ちあい。

 

「トリオン切れなんてつまんねぇ勝ちは無しだろうな?」

 

「勿論です。なら仕掛けてこなくていいんですか。トリオン量は僕の方が多いですよ」

 

「舐めやがって、言われなくてもそうするよっ!バイパー!」

 

挑発を挑発で返され、割り切って仕掛けた。挑発になってしまったように見えるが、これを続けていては勝ち目がない出水。いずれ仕掛けなければいけなくなる。なら完全に対策される前に押し切ればいいという考えのようだ。

不規則にそれでも確実に幹斗に向かってバイパーは飛んでいく。様々な角度から攻撃が降る。出水も第二射を整えている。だが彼は1人でA級を維持している男。1対1、1対複数の対応力、戦術の幅は他隊員とは比べ物にならない。だから右の掌を上に向けトリオンキューブを出すだけだった。

 

「へっ、メガネ君に教えたのはお前か?」

 

「いいえ、僕が三雲君から学びました。コレの使い方を」

 

幹斗の掌にあったトリオンキューブは一粒が大輪金平糖ほどの小ささに分列し飛翔する。

幹斗は細かく分裂されたキューブがバイパーの射線を遮り起爆させる。出水の先手は阻まれてしまった。余裕をもって防ぎきれたのは出水が幹斗の挑発返しに乗ってしまったからだ。そのせいで浅い考えになってしまった。幹斗のSEは出水の一瞬の思考さえ見逃さなかった。

 

「じゃあ一本目は僕がもらいますね」

 

「なっ……!」

 

両者仕切り直しといきそうな場面だったが、そうはならなかった。幹斗の放出したトリオンキューブはただの防御手段ではなかった。実際は弾として機能する。そう、バイパーとして。無数に散乱した光の粒たちが目にもとまらぬ速さで出水の心臓を貫いた。

完全に気を抜いていた出水にとっては衝撃的なやられ方であった。

 出水の体が再構築され、戦闘が再開される。

幹斗は再び小さいキューブを散乱させ、自分のエリアを構築する。隠す必要もないため、1番活かしやすい形で展開する。

 

「またそれかよ」

 

出水が嫌そうに吐き出す。それでも幹斗の浮遊弾を撃ち落としていく。幹斗もアステロイドを放ち出水の余裕を奪う。

 

「難易度アップか?」

 

「……っ!」

 

出水は射出されるアステロイドすら撃ち落とす。本当にシューティングゲームをしているかのような弾捌き。先までの浮いてる弾だけを撃ち落とすのに比べたらレベルアップと揶揄されるのも納得してしまう。幹斗を照らす青白い光の数が減っていく。それでも幹斗は感情を表に出すことなく撃ち続ける。対して出水は距離を詰め弾をまき散らすように幹斗の攻撃を迎撃している。片手分のトリオンキューブで。

 

「弾切れか?」

 

煽りながら幹斗の懐に潜り込む。そのままメテオラを叩き込む。幹斗の体は弾けてなくなった。爆発力が大きい攻撃で辺りの住宅のレンガすら粉々になっていた。

浮遊弾を維持していた幹斗の左手。差し制すための攻撃をする右手。空っぽに近い浮遊弾を切らなかった甘さに付け込まれた。何かを思いついたことしかわからなかった幹斗は警戒心から捨てることができなかった。そんな考え方をすると出水は踏んでいた。

 

「これで同点だな」

 

 お互いの全力と全力。知略と知略。火花のように熱く弾け、輝き、散る。

貫く炎となったのは出水だった。ハイレベルな撃ち合いを本職の天才が制した。安定した勝率を叩き出そうとする幹斗の闘い方に死線を潜り抜けるようにして撃墜した。

 ここから勢いづいた出水は幹斗を圧倒し2,3,4と勝ちを増やしていく。アフトクラトルの黒トリガー使い、ハイレインを相手に耐久し続けた時のように集中し、倒しに来る。

 

 

 

 

 

「とっておきは無しか?」

 

「ないとお思いで」

 

「ま、その前に封じ込めるけどな」

 

「もう見切りましたよ」

 

 五本目が終了。ここから折り返し。現在1対4で出水が優勢。このままのペースでいけば出水の勝ち。

 

「本気でやろう幹斗。縛りはなしだ。フルパワーのお前に勝つ」

 

「いいんですか。勝ちますよ」

 

「シューター勝負じゃ専門職の俺に分がありすぎんだよ。そっちの専門で勝負しなきゃ都合がわりぃだろ?」

 

「その考え後悔しますよ」

 

出水の一言により、後半戦は全トリガー使用可能の通常ルールへ。

外気に触れた弧月が輝きを放ちお目覚めを知らせる。呼応するように出水の両の手に大きなトリオンキューブが顕現する。幹斗の目が殺気を帯びたように鋭さを放つ。まるで明治の人斬り。感情の起伏がほぼない幹斗からそれが感じられてしまうほどに。

 

「いきなりトップギアかよ」

 

幹斗の旋空弧月がものすごい速度で出水の頬をかすめる。出水は避けていない。いや、避けられなかった。

旋空弧月は起動時間と射程が反比例するトリガー。一般的には1秒で15mほど飛ばすが、中には生駒のように起動時間を短くすることで射程を伸ばす高等技術を持った者もいる。

逆に起動時間を長くすることで射程を短くできる。

幹斗はわざと射程を短くして出水の頬を傷つけた。

 出水ははっとした顔を引き締め距離を取り一言いい放った。

 

「挑発のつもりか?」

 

「そうとしか受け取ってないですよね」

 

「それ以外になんかあんのかよ」

 

「勘が鈍った……とかじゃないですか」

 

「自分に嘘つくの下手だなー、相変わらず」

 

「嘘つくことが嫌いなのでしょうがないんじゃないですか」

 

「ならさっさと剣振ってろ!」

 

出水は弾を直線に飛ばした。もちろんそんな簡単な射撃は集中シールドで防がれてしまう。だが出水からすると距離を稼ぐためのもの。立ち止まって防いでくれるだけで意味がある。今はほぼ射手VS中距離万能手。近距離、つまり幹斗の領域に踏み入れてしまえば勝機はない。遠中距離は例え1対4で出水が勝っているとしても撃ち落とすことが極めて難しい。幹斗の対応力と引き出しの多さ。さらにはSE。全てが補完しあってる状態と互角の者が少ない。これを完全に超えたものは片手に収まる程度しかいない。

幹斗は開いた距離をグッと詰め超至近距離での旋空弧月を放った。突然のことを天才の勘で腕一本の犠牲に済ませた出水。シールドの上からでも切り落とされている。お相子として出水のメテオラが幹斗の脇腹を少し(えぐ)った。この程度幹斗にしてみればかすり傷。

だが右腕しか攻撃手段のない出水は窮地。攻撃しようにも防御しようにも隙ができてしまう。

メテオラの爆風に紛れて両者再び睨みあい。

出水の状況がどうなろうと幹斗にとっては良型。斬るのみ。再び地面を強く蹴り、弧月を振りかぶり出水に斬りかかる。その獅子のような目に真っ二つになる出水のビジョン(未来)が映る。

ぐんぐんと縮まる距離。振りかぶられた弧月に向かって笑みを浮かべる出水。そのまま右手を突き出し叫んだ。メテオラと。

 

「バレてますよ」

 

そう添えられた後出水の左肩から右わき腹にかけてを切り裂かれた。2対4。反撃の狼煙が上がり始めた。

 

 

 

 

 

「今のどうやって躱したと思う双葉」

 

「あたしには若宮先輩がシールドのカプセルを作ったように見えました」

 

「よく見てるわね」

 

「ありがとうございます。加古さんは若宮先輩と勝負したことあるんですか」

 

「もちろん。2:8で負けたけれどね。この試合どっちが勝つと思う?」

 

「それは……

 

「幹斗だな」

 

「あら太刀川くん、レポートは終わったの?」

 

「あとでやる。それより幹斗のレベルがまた上がったなぁ。俺から3本くらいとれんじゃねぇか?」

 

「太刀川くんと戦ったらの話はいいとして若宮君が勝つと思う理由は?」

 

「簡単だろ。出水に幹斗を超える手段がない」

 

「悔しいけど同意見ね。あの動きをされた以上正攻法で突破できないと思うわ」

 

「あれ超えるのは二宮でも難しいだろ」

 

「そうかもしれないわね。それより太刀川くん米屋君が待ってるわよ」

 

「あっ、忘れてた。おーい、よーすけ今行くぞー」

 

 

 

「……あたしも若宮先輩が勝つと思います」

 

 

 

 

 

 2対4。幹斗のビハインドは変わらず。脇腹から多少のトリオン漏れがある程度。

出水は考える。このままじゃ勝てない。どれだけ時間稼ぎをしようと目の前の剣客は自分を切り伏せられる。合成弾を作るのは自滅行為。2秒で作れたとしても射出することなく弾ごと真っ二つにされる可能性が高い。それなら爆発力極振りのメテオラを斬らせればいいのではないかと頭の中を駆け巡った。いい案と思った直後に選択肢から外す。幹斗が見えてないわけがない。つまり、思いつくということは対応されるということ。

幹斗を倒すには『即死の初見殺し』が必要になる。正確に言うと幹斗の想定にない動き。

『この系統に対しての立ち回り』というのが完成形に近いからこそ撃破難易度がトップレベル。

ボーダートップクラスの隊員の多くは『攻撃』に焦点を当てているが、幹斗は『攻撃、機動』の2つを軸にしている。この『機動』が厄介者だ。相手のジゃブをカウンターする要因でもあり自分のジャブをラッシュやスマッシュに繋げることも可能だから。

出水は思いついた。「考えるだけ無駄だ」と。どうせ手の内明かされてんならその場のノリとひらめきで何とかするしかない。

 

「散々考えてそれが結論ですか」

 

「待ったって言ってねぇんだから攻めなくてよかったのか?せっかくのアタックチャンスだったのによ」

 

「公平性を大事に行きましょう。本気の勝負に外道な戦法は相応しくありませんから」

 

「随分と平和ボケした脳みそしてんじゃねぇか。そんなこと言えなくしてやるよ」

 

「それより無策で戦うつもりですか。さっきと同じようになりますよ」

 

幹斗は出水からの返答を待たずに斬撃を飛ばす。出水は軽く放たれたその攻撃をシールドで防ぎ、反撃のハウンドを繰り出した。割れたシールドの破片が相殺されたハウンドの爆発に彩を加える。それに意識を割く間もなく態勢を即座に正し、フルアタックでねじ伏せる。

シールドとバイパーで被弾を防ぐ幹斗。防ぎきれず被弾してしまうものもあるが肌をなぞる程度の僅かなもの。それでも防戦一方。シールドの耐久は無限じゃない。蓄積される量が増えれば砕け散る。そうなれば体に無数の穴が開いてしまう。かといって今からフルアタックに変えたところで劣勢な状態から捲れない。

だが幹斗は知っている。ここからの打開を。この状況の最適解を。

 

「グラスホッパー」

 

数多の加速床が乱雑に展開される。使わないルート上に置かれたものもある。ダミーも紛れ込ませ的を絞らせない狙いのように思える。それを見た出水は感じた。「自滅覚悟の相打ち」だろうと。客観的に見ればそう見える。どうにかして相手の懐に入り込もうとする苦肉の策。だが違うのだ。その本質はこのトリガーの仕様。

 

「そんなんありかよ……」

 

グラスホッパー。触れたトリオン物質を対消滅させる。

大量展開された盾の中に囲まれた幹斗は刀を構えている。

 

「旋空弧月」

 

安定圏からの高速斬撃。出水は確実にかわす。幹斗が好んでいいる縦の戦空弧月。それを知っていたからこその動き。足を1本失っていることに気付かぬまま。

 

「だからどうやってんだよお前は」

 

「手の内明かすのは違いますよ」

 

それでも片膝をつきながらフルアタックを続ける。腹部にダメージを与えることはできても致命傷にできない。対して相手はいつでも殺せる。決定力の差が埋まらない溝。

諦めたくないけど絶望的な状況。態勢が悪ければ移動も難しい。目の前で首をはねられて倒されるなんてこともあり得る。

虫の抵抗を続けるが、フルアタックを潜り抜けて向かってくるバイパーを避けることはできない。何発かは撃ち落とせるが全意識をそこに持っていくと真っ二つ。牽制しながら被弾を抑える。着弾し突き抜ける弾丸は出水の右腕を消し去る。

手足の欠損によりバランスが保てず倒れてしまう。

 

「さっさと倒せよ」

 

「言われなくてもそうします。やっぱり弾避けと攻撃の組み合わせは苦手ですね。完全なタイミングが見当たらないです」

 

「その割には随分とお上手だけどな。嫌味か?」

 

「苦手とできないは別ですよ。出水君もわかりますよね」

 

「当然だ。天才の俺でも苦手なこともある……こういうのとかな」

 

幹斗の背後にて大きな爆発が起こる。トリオンとトリオンの衝突による爆発。出水の置き土産。もしくは1本目の仕返し。幹斗の腹部に向かって飛んでくる弾を左手で対処した。

ひとつ前の、距離を取った時に仕込んでおいたサプライズ。この本数になっても、こうなっても意識していなかったはずなのに読まれている。あり得るとするならば発射を意識したほんの僅かな時間だけ。

 

「見えてますよ」

 

「お手上げだ」

 

残った片方の腕を上げる出水。降伏宣言をした彼を斬り、再出現を待つほんの数秒、呆れ声で言った。

 

「『死なばもろとも』。嫌いです。やられることを想定していたらもう負けてるんですから」

 

 

 

 天才VS孤高 3対4 勝負は8本目へ

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