ソロ以外は僕には苦痛です   作:S1nO

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あけましておめでとうございます

めちゃくちゃ遅くなりました。大変申し訳ございません。決してエタった訳ではございません。引き続き投稿していきます。頑張っていきたいと思います。

今年もよろしくお願いします


景色

 俺は幹斗になれないし、幹斗も俺になれない。でも幹斗には勝てる。アイツがまだ剣を握ってなかったときは。徐々にアイツの姿が小さく消えてゆくように思えた。最高のライバル(友達)だと思っていた。アイツの目に俺たちは映っていなかった。呼び声の応えはそっけない。俺が勝手に一から作り上げた理想像なのに。崩れるのが悔しい。

アイツは剣を握って振るって弾を飛ばして。いつの間にか鎖に繋がれて届かない場所へいってしまった。

俺は信じていたんじゃない。俺は望んでいたのかもしれない。いつでも競えあえるって。

 

 

 

 

 

「とっておきはないんですか」

 

「さぁな。あってもなくても変わんねぇよ。俺が勝つ」

 

8本目。出水の勝ち筋は『幹斗を自分の戦場に持ち込む』こと。誰だって自分の領域で勝負したい。得意分野で勝負したがるのは、そっちの方が勝率が高いからだ。そんなことは当然だ。今はそんな余裕のある行動をしている暇はない。どの戦場でも戦える。もしくはどんな状況からも自分の戦場に持って行ける状態でなければいけない。

出水がその状況に持ち込むのは至難の技。身体一つで大木を倒すみたいに。

幹斗の幅広い戦術を前に自分の土俵に持ち込むなんてのは不可能に限りなく近い。

どう考えようと自分が勝つプランが浮かばない。それは自分が無傷で戦った場合。痛み分け、相討ち、道連れ。これはこのままやり続けられれば勝てる。だが8,9,10と決まる可能性は薄れていく。それどころか対策されれば幹斗の勝利へ近づけてしまうリスクも増加する。

出水はは長く一息吐き出し、心を、覚悟を決め幹斗に向かって突撃した。

 

『弾を飛ばしすぐさま生成して動きをさせない。距離を詰めることで対処に時間を割くのに注意を引き付ける。威力重視でシールドと弧月の耐久を削る』

 

「よく思いつきましたね」

 

「うだうだ喋ってる暇あんのかよ!穴だらけにしてやろうか?」

 

「喋ってる暇があるってことですよ」

 

空中に出水が飛ばされる。グラスホッパーを踏まされ距離が一気に離される。幹斗の形勢逆転かと思われたが幹斗はいまだに弾の攻撃から身を守っている。

 

「どうした?足が動いてねぇんじゃねぇのか?」

 

出水の弾は先ほどより小さくなっており威力より弾速メインのチューニングに即座に変更し射出していた。幹斗の視界をふさぐように飛ばされる射撃が命中し続ける。顔を上げ弾の出所を見て違和感を覚えた。2秒ほど出水の手が視認できなかった。

 

「アステロイド+アステロイド  徹甲弾(ギムレット)!!」

 

決め台詞のような声が幹斗の耳に届いた。カモフラージュしながらの空中合成&放出。高威力の高等技術はほんの僅かだけゆったりと進む。普通のアステロイドと比べて半秒程度遅かった。自分の違和感を信じ咄嗟の回避行動に移る。

激しい爆発を起こして着弾した徹甲弾は民家を一つ吹き飛ばした。幹斗の片腕は爆散し頭部が損傷。すなわち身体の再構築が決定されていた。

 

「いつ使ってたんだよ……」

 

出水の体が様々な方角、角度から貫かれる。幹斗が死に際に放った夢幻変則弾《プラネット》が出水を捕捉し捉えていた。合成弾を作り放出しているところでの攻撃。防げる人がいない。被弾してでも勝ちこだわった幹斗の必殺技。互いの必殺技は互いの死にざまが見れない形となった。

変化に対応し弾が切れて警戒されないように小出しにし、しっかり完璧な立ち回りをした出水。グラスホッパーでの距離感を考え軌道を編み出した幹斗。両者の高等技術の詰め合わせは実力の証明の裏付けにもなる。

 3対4。 両者がほぼ同時に倒されたため記録上は引き分け。残るは2回

 

 

 

 

 

 読みが当たったとは思ってないけど超危険信号だけは感じた。唯一の救いとして一撃一撃の威力が低かった。お陰で大技が撃てた。合成ができなかったり落とされる可能性が高いのはグラスホッパーで対処できていた。相討ちに持ち込めて幸運。命拾いした。でも射手の特権である中距離のアドバンテージを捨てるのは予想外。絶対実戦じゃ、やらない動き。しかもグラスホッパー後の動きも予想より上。逆に僕が軌道を作れていたのが奇跡に近い。けどお互いに警戒して次に同じことができない。だとしたら手数は僕のほうが上。数段構えで戦えば問題はない。

 まずは目くらましのメテオラ。煙の中から何も飛び出してこなければ旋空弧月。出てきたらバイパー。

 

「旋空弧月……」

 

手ごたえがない。どこに消えた。無暗に地形を潰したくはない。こっちも動きづらくなる。見えないってことは物陰か。

 

「それは想定内です」

 

バイパーでの遠隔射撃。速度は合成弾ではない。でも本数が少ない。まだ何本かが残ってる。それより先に出水君を見つけてしまえばいいだけの話。グラスホッパーで登って見つけるだけ。周囲に目を見張っていればいい。

 

「そこか……」

 

僕の目に黒いマントが映った。マントの揺れ具合からして囮。僕から見て下と左に障害物。しかも意図的に左に逃げたようにしている。流石に裏の裏はないと思いたい。確実にいくにはまとめて吹き飛ばすこと。1番安定だけど、僕の性格を判断材料に入れてるとするならこの答えを実行してくると容易に考えられる。それでも2つの可能性を同時に潰せる方が価値は高い。答えの正当化は済んだ。あとは放つだけ。

 

「メテオラ……」

 

どっちもハズレ?置き弾もなし?逃げるとしたらどこに?僕の読みが外れた?いや、これは可能性の除去だ。枝の剪定のように、必要なものにだけ絞る過程。でもこれじゃあ、謎が謎を生む状態。いや、落ち着け。ここで精神を疲弊させる方が危ない。

 

「そこか……」

 

違う。確かに飛んできた。座標的にはあっているはず。

 

「くっ……」

 

まずい。乱れている。このままだと一方的にやられる。

ずっと狙われている。飛んでくる度に次の弾の間隔が短くなってる。対応できずに貫かれる。

周囲に気を配れ。気配を感じろ。感覚を研ぎ澄ませ。一瞬でいい。それでわかる。

そこにはいない

ここにもいない

あそこも違う

どこにもいない

だとしたら

 

「……そこ……」

 

「何で見えてんだよ」

 

感覚を頼って正解だった。

刀の一振りは受けられてしまった。だけど感覚は取り戻した。しかもこの感覚久しぶりだ。前に小南と戦った時に感じた感覚。全身が熱く、無尽蔵にエネルギーが沸く感じ。刀と弾を同時に使えるようになった人同じ。負ける未来(ビジョン)が一切見えない。

 

「グラスホッパー……」

 

「来いよ」

 

感覚の限りに斬りかかる。避けられてもいい。攻撃を受けなければいい。そうすれば勝てる。

 

「当たってねぇぞ!」

 

いい。それで。余裕のある言葉を吐けるほど出水君は冷静。それでいて焦っている。あと少し。もう数秒先まで我慢。

 

「メテオr

 

きた。攻撃モーション。これを待ってた。

 

「閃光」

 

 

 

「速すぎんだろ…」

 

これで同点。ここまで来たら必ず勝つ。

 

 

 

 

 

「見た?」

 

「はい、しっかりと」

 

「双葉の技再現されちゃったわね」

 

「そうですね。流石は若宮先輩です」

 

「あら、若宮くんのことあっさり認めるのね。意外と悔しがるかと思ってたのに」

 

「悔しいですけど、若宮先輩は尊敬しているので関心の方が先に来ます。それと、若宮先輩は私を強くしてくれるので」

 

「結構仲良しなのね。でもあんまり関わりに行くと若宮くんが離れていくわ。気をつけてね。私みたいにならないように」

 

「あっ。はい」

 

 

 

 これで4:4。前半5本が本気じゃなかったら負けててたな。でも負けるわけにはいかねぇ。いいや、勝ちてえ!アイツに。若宮幹斗(最高の強敵)に!

 俺がやれることはもうほとんどない。今のアイツは完全なゾーンに入っている。トリオン体なのに、感覚が強化されている。さっきだって死角からのハウンドを避けられた挙句俺を捉えた。死角からのバイパーは通用しない。何をすれば勝てる。

考えろ。思い出せ。捻り出せ。俺の中にある全部から。

 

全部……。

 

これだ。

 

今、俺ができる全て。これで終わらせる。だから俺のありったけを。

 

「メテオラ+バイパー 変化炸裂弾(トマホーク)!」

 

合成弾で狙う。当たらない。そんなのわかってる。この軌道はお前を誘導するためのもの。だから避けて逃げてろ。

 

「メテオラ+ハウンド 誘導炸裂弾(サラマンダー)!」

 

追撃!ダメージが対して入らなくてもいい!俺にはまだ残っている!最高で最強の相棒が!

 

「追い込まれましたね。どうしましょうか」

 

「安心しろ。これで終わりだ!」

 

 

 

 これでやっと同点。よくやったと思う。まぁ、満足はしてないけど。やっぱ勝って満足したい。気は抜けない。いいや、張り続けなきゃいけない。出水君はまだあれを一回も出してない。大名詞なのに、やるそぶりすらないのはあからさますぎる。こういう時か、勝ちを確信させる時にしか使わないつもりだろう。でも今はその引き延ばしが仇になってる。

 

「メテオラ+バイパー 変化炸裂弾(トマホーク)!」

 

見えてる。ポイントに誘い込むつもりだろう。避けてれば多分予想通りって思うでしょ。なら乗るしかない。予想を裏切ることは頭にない。全力だ。100%を叩き出している。

 

「メテオラ+ハウンド 誘導炸裂弾(サラマンダー)!」

 

初めて見る攻撃だ。でも合成弾は掛け算じゃない。特徴と特徴を足し合わせているから、2つの性質を知っていれば大丈夫。いきなり予測不可能の即死攻撃が飛んでくるわけじゃない。しかも、やりたいことはお見通し。

 

「追い込まれましたね」

 

逃げるのに必死なように見せるのは難しい。被弾ギリギリや、崩れた態勢からちょこんとした反撃をしたり、やることがない動きだからぎこちなかった気がした。でもそのぎこちなさがいいアクセントになってくれたらいいかもしれない。

出水君の思惑通り、袋小路に入れた。あとは疑惑を確信に変えて越えるだけ。

 

「安心しろ。これで終わりだ!」

 

やっぱり両攻撃。最後の最後をそれにしたのはプライドでしかない。あとは絶対的な自信か。でもその自信とプライドに足を引っかけることになってるんだよ、出水君。

 

「施空孤月…二連撃」

 

「家ぶっ壊したところでまだこっちには弾がのこってんだよ!その瓦礫を利用した軌道も分かってるぜ!狭い行き止まりに来たのが敗因なんだよ!」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ……」

 

バイパーを瓦礫の下から通して当てる。僕のトリオン量なら片手分で仕留め切れる。でも片手で散らしたバイパーを出水君の正面にぶつければ防いでくれるはず。

 

「バイパー」

 

「それじゃあ落とせねえだろ!」

 

勝った。防ぐんじゃなくて避けるのは想定外だったけど、そこは曲げられる。

出水君の両攻撃を脇腹に受けたが、バイパーが腹部を完全に亡きものにした。即ベイルアウトではないけどトリオン漏出多量で数秒後には同じ結果だ。出水君も完全に諦めている。胸の内にも炎はない。

 

「やっぱお前は強えな!次は必ず勝つ!」

 

「お互い様ですよ」

 

『トリオン漏出過多。ベイルアウト』

 

試合終了

 

 

 

 

『オイ、そこの2人。オレになんか用か?』

 

「なぁ幹斗、あれマズくない?」

 

「いつも通りならマズいですね」

 

B級2位部隊、影浦隊隊長影浦雅人さん。とある事情によりB級へ降格してしまった元A級部隊。実力は半端ではなく攻撃手4位の村上さんを凌ぐほど。僕よりも圧倒的に強い。それには相性の悪さが起因しているからだけど。そんな影浦さんは今厄介ごとの最中。訳も分からんC級隊員から舐められている。お気の毒だ。

 

『いや、俺らただ雑談してただけだよな?』

 

『そうっす!俺らむしろ影浦さんのファンっていうか……』

 

 

 

『ふ~~、ま…いいやめんどくせえ。解散』

 

『『ハ、ハイ!』』

 

 

 

『……オイ、オメーら、やっぱ待て』

 

 

 

 

『な…!』『は?』

 

結局こうなるのか。だから気の毒だと思ったんだ。影浦さんのことを気の毒だとは思わない。こういう事象の時だけは。影浦さんに目をつけられたこういうことになる。だってそんな態度をとる人の方が悪いんだから。

 

「良くないですよ影浦さん」

 

「幹斗か。わかるだろ?オメーにも」

 

「そうですけど……」

 

「なら止めろよ」

 

「……そうでした」

 

影浦さんに今の行いのことを少しだけ責める。が、逆に「わかってたなら止めろ」という反論。影浦さんと僕だからこその意味で通るこの言葉。一応ここで反省しておこう。すいません影浦さん少しだけ先が見たいと思ってしまった僕を許してください。よしこれでいい。ちゃんと反省したしはっきり経緯も述べてる。非の打ち所がない。

 

「オイ、反省するならちゃんと反省しろ。変な謝罪は気持ちわりィ」

 

ですよね――。ちゃんと反省します。見かけたら仲裁します。

 

「影浦さん誰待ちですか?」

 

「鋼待ちだ。オメーらもやるか?」

 

「いや、いいっす。俺らさっきの10戦でヘトヘトなんで」

 

「そりゃそうか。あんなに濃い模擬なんてなかなかないぞ。よくあそこまで集中きれねぇな」

 

見てたのか。しかも結構ガッツリ見てたっぽいな。参考にしようと思ってるところ鮮明に覚えてるし。また手札が何枚か割れてしまった。補充と見極めをまたやらないと。準備は万全に。計画(プラン)は多いに越したことはない。

 

「悪い、待たせたな。カゲ」

 

「ったく遅えーんだよ!目立っちまったじゃねーか!」

 

影浦さんそれは僕達には関係ないです。言うんだったら多分僕に向けてですよ……。

 

「た、助けてください!」「影浦先輩がいきなり俺らのことを……!」

 

ヤバいなこいつら。村上さん来た瞬間これとは。原因自分たちなのに影浦さんの事悪者に仕立て上げやがって。最低だぞ。村上さんに言っても無駄だけど。村上さんと一緒に来た空閑君以外の今の面子はみんな理解している。

 さすが村上さん。頼りになる。簡潔にまとめるの上手すぎる。ちょっと気に食わないところがあったけど。さっきのC級も非を認めてるからこの件は問題なし。ここからは3人の要件。僕と出水君はこのまま解散の流れだろう。何もなければだけど。

 

「んじゃ俺らはここで。お疲れ様でした」

 

「幹斗、少しだけ残ってもらっていいか」

 

「わかりました。出水君、ありがとうございます。お疲れ様でした」

 

なんとなくわかってた。この面子。絶対SEじゃん。村上さんのあの説明じゃ勘違いされるって。空閑君も影浦さんを煽るから空気地獄じゃん。空閑君は煽るのやめた方がいいと思う。いや、空閑君だけじゃなくてほぼ全員。さっきのC級とか絶対煽ってると思う。初心者狩りでポイント稼いで。迅さんとか太刀川さんクラスじゃないとダメだと思う。

 

「ねぇわかみや先輩。先輩の能力とかげうら先輩の能力って何が違うの?」

 

「影浦さんのは『相手が自分に対してどんな風な感情を向けているかわかる』。僕のは『相手の思っていることが見える』。です。例えば空閑君が影浦さんと僕に『怖い人』とという感情を抱いたとします。この時影浦さんは『『恐怖』を向けられている。と感じます』。僕は『空閑君が僕を『怖い人』と思っている。というのが完全に見える』。つまり分かってしまうということです。要約すると、影浦さんは『感情のみ』。僕は『思っていること』の違いです。わかりましたか空閑君」

 

「なるほどなるほど。なんとなく理解した」

 

「そういうことだ空閑。悪いな幹斗、時間取らせて」

 

「そんなことありません。では僕も戻ります。失礼します」

 

 

「若宮先輩、アンタは鳩原先輩のことちゃんと説明してください」

 

「あんまり大きい声出さないでください。鳩原さんのことは結構まずいので。外で話しましょう」

 

今日はとことん予定が舞い込んでくる。しかもよりにもよってサビ残よりも疲れそうな案件だし。

 

 

 

ボーダー本部屋上。生気も活気もない建物群が嫌でも写り込んでくる。空っぽでハリボテなのに錆びる事なく真剣に立ち尽くしている。

 

「僕も詳しいことは知りません。絵馬君の予想だと『二宮さんのパワハラ』みたいに思ってるみたいですね」

 

「そうだけどよく覚えてるな。このこと」

 

「見ればわかります。この前と同じ流れですよ。僕と話すときはもっと警戒した方がいいかもしれませんよ。ましてや、僕がこんな事を長々と話す事自体避けるべきです。話を戻しますがこんな風に思ったことはありませんでしたか。鳩原さんが『自分のせいで自分の目的を果たせない。それでチームにも迷惑をかけている』と。迷惑というのは言葉通りの意味ではなく、『気を使わせすぎている』とかですかね」

 

「俺はそんなことないと思ってる。あの人が鳩原先輩を……上層部が認めてないだけ……」

 

「では事実の話をしましょう。絵馬君の言葉はきっと真実なのでしょう。鳩原さんの真実、二宮さんの真実、上の真実。これは人それぞれあります。ですが事実は変わりません。過去には一つしか刻まれないですから。今から僕の言う事実は絵馬君や鳩原さんを知っている人の共通認識や出来事についてです。僕がやろうとしていることが理解できますか」

 

「あぁ、勿論」

 

「鳩原未来、女性、狙撃手、二宮隊。狙撃の正確さはボーダートップレベル。人が撃てない。何らかの理由により二宮隊及びボーダーを抜ける。そして現在まで音信不通。これに間違いはありますか」

 

「ない……」

 

「ここからは可能性の御話しです。絵馬君の真実は否定しません。ですが、もしそうだとしたらボーダーまで辞める理由にはならないはずです。もし絵馬君が影浦さんから自分の存在を否定されるほどに言われたとします。ここには二つの分かれ道が存在します。『やめる道』と『変える道』。変える道を選んだ場合どこか違う隊にいるでしょう。もう片方の『やめる道』はどうでしょうか。頭の中に思い浮かんできませんか、大事な、大切な人物が。その時こうは思いませんか。『引き留めてほしい』と。恥ずかしくて言えないはずですよ。堂々と『ボーダー辞めます』なんて。自分に当てはめてみてください」

 

「アンタ、俺のことわかって言ってるだろ……」

 

「裏事情なんて知りません。ただの妄想です。真実を突き詰めるのは酷なんですよ」

 

「じゃあアンタはどう思ってんだよ……」

 

「答えたところで何かありますか。僕は考えを押し付けてる訳じゃありません。ヒント…というより考え方。視点の話です。新しい解決策を見つけるための。僕が答えてしまったら絵馬君は僕を「信じる」「信じない」の2つの選択肢しか残らなくなってしまいます。つまり僕の意見を元に考えてしまいます。それでは望んだ結末へは辿りつかないと思いますよ」

 

「一々回りくどい説明をする……そんなに言われなくても理解して

 

「理解はしてますよ。受け入れてないだけですからね。わかりやすいですよ絵馬君。自分でも気づいてますよね。それを僕が見過ごしていると思いますか。そんなことは今は置いておきましょう。何かありますか」

 

「結局アンタの意見はなんなんだ」

 

「客観的に『人が撃てないこと』が関係してると思います。これがどう結び付けば今に至るのかは知りませんが大事な要因だと思いますよ。何も知らない人からすると。噂ってやつですよ。こういうのは本人しか知らないんです。僕はそれが見える失礼な奴なんですよ」

 

「アンタもわかんないのかよ」

 

「曖昧な立場で断定的な発言をするのは無礼ですので。言葉は武器です。二宮さんがそうしたかもしれないんですよね」

 

「……!!アンタと話すのは疲れる。俺はもう戻る」

 

「前の話の続きをしましょう。0と1の」

 

「その話は俺には

 

「理解できますよ。簡単なので。0+1=1、0×1=0。これは数学の話です。でも国語や様々な実験、生活ではどうでしょうか。言葉を巧みに操り、自由な発想と展開ができ、快適に暮らす。誰かが土台を作ってくれたから成り立っているんですよ。当たり前や根底を見つめたことはありましたか」

 

「……」

 

「自分の考え方を見直せとは言いません。見聞を広めることや成長することで新しい景色が見えると思いませんか」

 

「それでも俺はあの人が……」

 

「そう思うならそうで結構です。柔和な考え方は培っていた方がいいですよ。これから先必須ですから。遠征に向かうのであればなおさら早くするべきです」

 

「わかった……。じゃあアンタにとってボーダーでの1ってなんだよ」

 

「精神論や根性論のようなくだらないことを除けば『敵を殺すこと』でしょうかね」

 

「そうか……」

 

「勘違いしているようなので少しだけ補足させてもらいますが、『殺すこと(雨取さん)』と『撃つこと(鳩原さん)』は別物ですよ」

 

「……」

 

「それでは僕はここで失礼させていただきます。長話に付き合っていただき申し訳ないです。お詫びに飲み物の1本は奢りますよ」

 

「いい、俺は戻る」

 

「そうですか……お気をつけて」

 

ヒント与えすぎたかも。彼はそれを否定しているけど。知ってる身としては隠し通したいけど、あの様子じゃ大分強い執念を抱えている。思春期の成長にもあの思想は影響すると思う。実際僕がそうだし。

いざとなったら上が動くか。僕に接近禁止令をだすか、記憶処理。ただ、引っかかるのは自力で嗅ぎ回ってる二宮さんも含めて、割と自由にさせているところ。上も情報が欲しいのか、洗ったところで何も出てこないのがわかっているのか……。

どうにしろ鳩原さんの件はプライバシー的な問題もある。誰もが深追いできない。会って解決しかないと思っているけど。

 というかあの時のせいでこんなことになってるんだよな。根付さんが怪我してるせいで。まさか聞かれてるなんて思ってなかった。具体的な名前を根付さんが出しちゃったから。本当に危機感がない。常にリスクを考えていないと。こういうことになった時困るのは僕なんだよな。まぁメリットもないことはないけど。そのメリットは『絵馬君から鳩原さんの情報引き出せること』。極秘任務を堂々と行う。字面だけなら「馬鹿なのか?」と言われること間違いなし。でもそれは極秘任務と知っている人からしたら……の話。別に知られなければ良い。知らないのだから何も心配要らない。堂々とやれるのはそういうことだ。

 絵馬君が何処か行ったから僕も帰るとしよう。これ以上本部(ここ)にいる必要はないし。

 

 

 

 

「ふー、疲れた」

 

なんで帰る途中に那須隊の防衛任務手伝わなきゃならないんだよ。たまたまゲートが開いてて。たまたま敵の数がそこそこ多くて。たまたまそこに俺が通りかかったから。一応許可が出たから戦ったけど。断れなくてやったけど。にしても時間がかかったと思う。那須隊で対処できたと思うけど量が異常だった。この前の侵攻の余波なのか新しい侵攻の初期微動なのか。トリオン兵に心がないからわからない。無限供給まではいかないけど相当な数を倒した気がする。嫌な予感がしない方が不自然なくらいに。

 それはそうととりあえず戻ってきた玉狛支部。気づけば日は沈んだ。遅っそ!となるけどコンビニとかに寄り道しながらきたから「そらそうなるよね」は普通の感想。逆にそれ以外ない。「なんかあったの?」なんて聞く方が変わり者だ。

 よしあとは橋を渡るだけ。だけどあの見たことのある面影は……

 

「若宮か」

 

「そうですよ。玉狛に何か用があったんですか」

 

「例のことだ。雨取の兄が関係しているらしいから確かめにきただけだ」

 

「自ら足を運ぶようなことがあるんですね」

 

「一応聞きに行く立場なんだ。自分から行くのが礼儀だろ」

 

「その通りですよ。もういいですよね」

 

「ああ、今お前と話すことはない。都度お前に連絡する」

 

 

 

僕の返事を待つことなく……。別に話すこともないし、長話する方がおかしいか。普段は「接点がない」風を装っている。少しの挨拶程度、と思ってもらいたい。野次馬みたいな奴が玉狛にはいるから。

あの人の大きい背中。何もないと思わせる立ち振る舞い。結局鳩原さんを諦められないのに。色んな意味で。

 

「今までよりも忙しくなりそうだな……」

 

玉狛支部に灯るあかりを見て不意にそう溢してしまった。らしくないな。きっと疲れてるんだ。特に今日はタスクが多かったな。ゆっくりしよう。

 

「ただいま戻りました」

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