ソロ以外は僕には苦痛です   作:S1nO

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※9月23日加筆修正いたしました
※9月28日減筆修正いたしました


嘘つき達よ

 迅さんと共にボーダー本部会議室に乗り込んだ。乗り込んだと言っても押しかけたわけではない。迅さんの根回しのおかげですんなり入れた。迅さんにとっては簡単なんだろう。迅さんは『ボーダー隊員の中で一番ここに出入りしている』と自負していた。変な自信だ。と思うのも僕以外にもいるだろう。乗り越えてきた経験というのは何事にも変えることのできないアドバンテージだ。差というものは計算や予想、機転などの小さな要素の集合体だ。その集合体をより多く集め、利用したものが物事をうまく進めることができる。それが経験。

 

「城戸さん、幹斗の監視を外してもらいたい。幹斗の管理は誰にもできないことです」

 

忍田さんは面食らった表情をした。林道さんも内心驚いている。それもそのはず。噂話と迅さんをごまかしても話題を『他ルートから仕入れた情報ではない』とおされたこともあり、このことを知ってるのは両手で数えられるほどもいないであろう。忍田さんは城戸さんの方へ勢いよく振り向いた。けれど城戸さんは黙秘を貫いている。本心バラバラなの暗に示してますよ、それ。示さなくてもわかるんだけど。

 

「そんな事実はない。我々は隊員のプライバシーを侵害する行為などしていない

 

「鬼怒田さんって嘘つきなんですね」

 

嘲笑いながら呟く。迅さんは『やれやれ』といった感じで項垂れている。

 

「なんだその態度は!馬鹿にしているのか!」

 

鬼怒田さんが沸騰してやつあたりしてきた。我慢のできない大人は早死にする。なんて僕の祖父は教えてくれたな。でもここは言っていけないことくらいわかってる。

 

「よかろう。若宮幹斗の監視を撤廃しよう」

 

城戸さんが急に承認した。それは監視を認めるということにもなるのに。

 迅さんにやってもらいことはやってもらった。あとは忍田さんに言及させれば大丈夫だろう。

 

「そのかわり、若宮幹斗をB級に降格させてもらう」

 

これは予想外。迅さんはこのことを伝えてくれなかった。問題ないのは確定している。たが、A級かB級かでできることの幅が違いすぎる。B級であれば、A級の時のように自由な行動ができないし、再びここに現れることもなくなるだろう。そして一番の懸念点は『若宮幹斗がB級に下げられた』ということだろう。ただでさえ今の僕はボーダーの中で浮いている存在。舐められた存在。良くも悪くも話題の種だ。そこに『B級降格』なんてのが加わると火に油を注ぐことと同義だ。監視の撤廃の腹いせにそんなことをするとは考えられない。

 

「それは、幹斗の得がないんじゃないんですか」

 

迅さんが入り込んだ。迅さん(いわ)く、元々よくない行いをしたのはそちら側だ。なのに自分達のプラスをフラットに。幹斗のフラットをマイナスにするのは違う。とのことだ。これには会議室の僕を含めた全員が賛成を認めざるを得なかった。

 

「若宮幹斗の監視を撤廃。ランク、ポイントはそのまま。故に処遇はなしとする」

 

城戸さんがそう告げる。鬼怒田さんも根付さんも表情こそ渋っているが、『異論はない』と認めた。どうして城戸派の上層部はツンデレが多いのだろうか。

 「ありがとうございます」と礼をし、その場を後にした。

 

 

 

「城戸司令、どうして彼を監視していたのですか。プライバシーの侵害の件は後です。理由をお聞かせください」

 

「彼は特異なSEを持っている。故に彼は常に精神的に辛いのだよ。そして彼はボーダーの中でも随一の実力者だ。機能できなくなるのは惜しい。だから彼を監視し、我々の戦力を守っているのだよ」

 

城戸が口を割り、理由を説明した。

 SEを持つものは、人とは違う特殊で貴重な経験をしてきた。その反面人よりも傷つきやすい。ある者は未来が見える。故にその人の結末を知ってしまう。ある者は周りからの気配を感じる。だからこそ敏感になり、素直になれない。

 若宮幹斗もその中の一人だ。彼は人と積極的に関われない。それで何度も傷ついてきたから。人の心が読めるからわかってしまう。顔に出さなくても、態度にしなくても。一番の秘密の箱はベッドの下でも鞄の中でもない。心の中だ。心の中は普通本人でなければわかるはずがない。でも彼はどんな心の箱をも開けられる鍵がある。あるだけならまだいいだろう。そうではない。開いてしまうのだ。知りたくない。知られたくない。そんなことはわかっている。でも、見えてしまう。前を向けば知らない誰かの怒り。横を向けば負けて悲しむ者たち。後ろを振り向けば、今まで向けられてきた秘密。彼は引き起こす苦痛ではなく、導かれる苦痛と共存してきた。なるべく知らないように。それが『ソロ』だ。誰にも迷惑がかからない。仲間を見捨てることも見捨てられることもない。それが彼の答えだった。

 彼に中途半端は通じない。心がどちらかに傾いている。人間の考え方は思考を巡らせること。だけれど本能では『はい』か『いいえ』。『YES』か『NO』か。単純な二択問題。取捨選択。どちらかを捨て、どちらかを取る。これすらも幹斗はわかってしまう。だから幹斗自身も『傷つく』『続ける』の二択を自問し、自らが傷つくことを選んだ。それが今の彼だ。どちらを選んだとしても彼が人と関わることに対する関心は変わらないだろう。

 彼は幼少期、常に好かれようと、離されないようにと行動をしてきた。恩は必ず返す。他人を卑下しない。常に受け入れる。これを徹底してきた。だから彼の性格も今のようになってしまった。

 城戸は、彼に干渉しないようにしながら護るために監視・管理という行動に至った。知らせてはいけない。気づかれずに管理することで彼のメンタルストレスを与えないようにしていた。

 忍田は落ち着かない顔をしているが納得したようだ。

 後の話はプライバシーについての話だ。後処理や報告など面白くもなく、幹斗についての情報は飛びかわなかった。

 

 

 

「ありがとう幹斗」

 

この言葉を聞いたのは何回目だろう。数千回は聞いたと思う。恩義のないもの。困ったから使う。とりあえず言えばなんとかなる。勝手に口からこぼれる。どれも僕が見てきたもの。迅さんは何気なく言ったつもりなんだろう。ありがとう。この言葉は嫌いだ。難しいことがある。それがありがとう。なのに挨拶へと変貌してしまった。神に「ありがたや」と祈るのは『自分達の難しいことを乗り越える力をくださってありがたいです』という意味だ。なのに対して難しくもないことにいちいち反応し、「ありがとう」という。嫌いだ。

 

「礼を言われる筋合いはないです。僕が玉狛に協力してからにしてください」

 

僕は監視を外す代わりに玉狛に協力しなければならない。迅さんとの約束であり交渉の結果だ。またあそこに戻ることに抵抗はある。けれど今回はアイツらと隊を組むわけではない。その分楽にできると考えればプラスだろう。

 

「早速だが一つ目だ。三雲修という隊員を知ってるか」

 

「知ってますよ。僕より有名人じゃないですか」

 

「メガネ君も有名人だけどお前はもっと有名だぞ。だから俺みたいに胸を張ってもいいんだぞ」

 

「多分悪い意味で有名だと思ってるんですけど」

 

「そんなことない」と迅さんはなだめてくれた。

三雲修。C級なのにトリガーを使用し、イレギュラーに開いた門の対処をしたという人物。一部の隊員の間では注目の的だ。C級や一部B級は知らないようだが。

 

「そいつの近くに白髪の少年が現れる。それを守って欲しい」

 

「迅さん、それは迅さんの個人的なお願いではないんですか」

 

パッと聞いて玉狛に関係あるようには思えない。私用ではないのか。その場合は受付外だ。

 

「ソイツらは新しく玉狛に入る。だから守って欲しい」

 

本当みたいだ。迅さんはSEの結果に嘘をつけない生態なようだ。まぁデマ情報を流したところで時間の無駄。冗談だとしても必要のないこと。何故ならこの頼み事は確約されたものである。しかも指切りよりも硬い約束だ。

 

「わかりました。場所と日時さえわかれば合わせます」

 

 12月14日、弓手町駅。それだけ教えてもらって迅さんと別れた。僕のしてほしいことはしてもらった。だから次は僕がやらなければいけない。僕は恩をしっかり返すのがモットーだから。裏切られても嫌われても失望されても。それでも僕は受け入れる。変わらず居続ける。

 

「やるか」

 

そう呟き、僕はその場を後にした。久しぶりの自由と任務に興奮を覚えながら。

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