ソロ以外は僕には苦痛です   作:S1nO

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直線が近道ではない

 今日は12月14日。(きた)る実動の日。現在時刻午前10時。僕は二時間ほど前から近くのビルにて張り込み中だ。今のところ何もない。あるのは荒廃した弓手町駅とその周辺の建物。看板は剥がれ落ち、ビルや道路の真ん中から背丈のまばらな草達が生えている。これがここの平凡だ。今のボーダー本部の周りが綺麗に整備されていることを考えると忌まわしい記憶を物語っている。

 それにしても結構待ちそうな雰囲気がある。だったら迅さんに詳しく聞いておくべきだった。まぁでも僕は待つことも一人でいることもどちらも苦痛ではない。むしろこっちの方が楽だ。誰かに突っかかれることもない。自分と向き合う時間を得ることができる。そっちの方が僕には得に感じられる。太刀川さんみたいに『戦いを繰り返して自分を磨く』っていうスタイルも確かにある。だけど僕は『磨く』ではなく『見つける』だ。太刀川さんとは違う『差』の付け方だ。なら対策もできる。

 今回待ち受けるのは三輪隊か風間隊。目処が立つのも無理はない。迅さんが名指しするほどの人物とあれば出て来るのは城戸派の面々だろう。太刀川隊はないと考えたい。あれが来られたら僕一人では無理だ。もちろん他の隊でも難しい。けどあれは別格だ。三分も持たずにやられてしまう。もしそうなれば迅さんも応戦するだろう。だからないと思いたい。冬島隊は相性が悪いからだし向けることは確実にない。たがら隠密機動隊の風間隊、バランスのとれた三輪隊。どちらかがくると予想できる。城戸さんたちは知っている。僕のSEを。だから個人的には一番隙を作れそうな三輪隊が出向くことになると思いたい。カメレオン三匹は僕との相性最悪だと風間さんも思っているから。僕のSEの前では無意味だから。

 となると三輪隊が80%、風間隊が18%太刀川隊及びその他の城戸派1%ほど。残りの派閥が参戦する確率は1%にも満たないだろう。

 だから僕は三輪隊の対策をしっかりした方がいい。風間隊との戦闘法の構想は完成済みだ。

 あ、思い出した。太刀川隊と風間隊は遠征中だ。だったら三輪隊しかいない。はぁ。無駄な時間を要してしまった。けどまぁ、予想がほぼ100%になったから結構楽になった。

 今回僕が出るタイミングは三輪君たちが三雲君たちに銃を向けた時。ここで牽制弾という名の腕落とし。三雲君たちに興味をひいてもらいながら。そうされたらおそらく三輪君は僕に怒りの感情を向けてくるだろう。彼の弱いところだ。教えてあげよう。「東さんのところでそんなことを習ったのか」と。

 奈良坂君と古寺君は無視でいいだろう。グラスホッパーを使えばほとんど当たらない。僕のグラスホッパーは軌道を読ませない。同じ動きを続けるのは読まれてしまう対象だ。東さんや当真さん相手だとその行動は命取りだ。あの二人がそこまでのレベルに達しているとは考えづらい。だが、油断が最大の命取りだ。ましてやA級隊員だ3、4度見れば合わせられる実力はあるだろう。まぁ、何があっても僕は軌道を統一することはないだろう。どんなに道が単純でも。

 あとは米屋君だな。彼のスタイルは三輪君との連携で生まれた隙、または、隙を作らせること。下手に受け手に回ればやられる。逆にで過ぎれば三輪君か狙撃手二人の的になってしまう。バイパーやメテオラでの目眩しは槍使いの米屋君に有利に働く可能性が高い。

 そして何よりレッドバレットだ。あれをされてしまうと実質的な戦闘継続不可能状態に陥ってしまう。僕は落とされ『三雲君たちを守る』っていう迅さんとの約束を破ったしまうことになる。それだけは避けたい。迅さんは僕を信じたからこのミッションを僕に課した。僕ができると思ってくれたから僕の提案を受け入れてくれた。

 

「そう信じたいですね」

 

ボソッと口からこぼし、対策を練ることにする。いつもの空中戦闘フォームしか今の所見つからないんだけど。

 

 

 

 また少しが時間が経った。あれから特に何もしていない。あれ以上のイメージもあれ以下のイメージも湧かない。良くも悪くも落と(ベイルアウト)されることはないと結論が出ている。何もなければの話だが。地形や特徴は待ち時間中に探索して配慮した。その分も加味すると結構有利に働くのではないかと思う。けれど駅ホーム内で戦闘となれば狙撃手に有利だ。結局いつものなんだよな。

 来たようだ。保護対象が。念のためバックワームをつけて怪しまれないようになければならない。バレてしまっても大きな問題はないが、僕自身の作戦を一部変更しなければならない。自分の中で一番と思っているものを変えるということは成功の可能性も変えてしまう。もちろんそれがさらなる成功へ導いてくれることもなくはない。けれど一流相手にそんなことがあると考えることが愚かだ。なら、変えずにできる方法を徹底することが一番だ。

 

 

 

 

「動くな。ボーダーだ」

 

二人の高校生が修、遊真、千佳の前に現れるや否や、首にマフラーを巻いた人物、三輪秀次が言い放った。

 三人とも突然の登場に驚きが隠せない様子だ。修に至っては「どうしてここにA級が都合よくいるんだ」という感じだろう。

 遊真の「迅さんに伝えたらわかる」という主張も「一枚噛んでやがったか......」と吐き捨てるだけで聞き入れることはない。それどころか

 

近界民(ネイバー)なら容赦はしない」

 

敵意を剥き出しにしてきた。驚きに驚きを重ねるかのように三輪と米屋はトリガーを起動し、三輪は銃口を遊真に向ける。

 二人の距離がさらに縮まる。その一歩を踏み出す時だった。

 

「「「「「!!!!!!」」」」」

 

 三輪の銃を構えている手が駅のホームに落ちた。腕口からトリオンが漏出していく。三輪は無くなった腕を険しい表情で見つめていた。

驚きがさらなる驚きを呼ぶこの場面に現れたのは思いもよらない人物。

 

「一般人相手に銃口向けるなんて最低ですよ。三輪君」

 

若宮幹斗だ。

 

「違う!あれは近界民だ!」

 

「近界民という証拠がないのにどうしてそんなことを言えるのですか」

 

「あれを見ろ!アイツはトリオン兵を従えているんだぞ!」

 

「確かにそれだけ見ると近界民と確信できますね。ですが僕は彼を撃てません」

 

「どういうつもりだ、若宮!」

 

「どうもなにも城戸さんの命令でもなく、君たちに加担しているわけでもない。ましてや僕は今城戸派ではありません。つまり近界民を撃つ理由がありません」

 

「ふざけやがって。なら、お前を倒して近界民も始末する!」

 

三輪はムキになって幹斗との戦闘を開始した。先制攻撃を仕掛けた米屋の玄踊が幹斗の頰を深く掠めた。開戦の幕開けは不意打ちからだった。

 

 

 

 やはりいつも通りのグラスホッパーを使った空中戦闘。射撃手の射線を掻い潜り、攻撃手二人のコンビネーションをかわしていく。その間にアステロイドやバイパーなどで攻撃を仕掛けていく。常に動いていなければ的になってしまう。けれど動き続ければこちらの照準も定まりにくい。一長一短だ。こんなの想定の範囲内。大丈夫。なぜなら仕留める獲物は射手武器じゃない。

 

「施空孤月」

 

結構長い刀身の一撃を喰らわすからである。

 これでもまだ落ちない。持っていけたのは米屋君の左腕と三輪君の右足だけだ。これで三輪君はほぼ戦闘継続ができないだろう。米屋君もメインである槍が使えないのであれば怖くない。

 ならあくまでも平和的に

 

「どうしますか三輪君。これ以上君たちに勝ち目があるというのですか」

 

彼は顔をこわばらせたままで銃を構える。右の腕と足を吹き飛ばされまともにバランスを保たず揺れているのに。あくまで降参する気はないらしい。状況は圧倒的にこちらに有利なのに、なぜ諦めて受け入れないのだろうか。

 これをあまり言いたくはなかったですが

 

「三輪君。何事にも近道っていうのがあります。勉強でも運動でも。もちろん君の目的のお姉さんの仇を取ることもです。けれど今彼を殺すことは違います。彼は君のお姉さんのことも知らなければこの街が襲われたことも知らないようですし」

 

「なにが言いたい」

 

「怒りに身を任せた直線的な行動が近道ではないということです」

あーあ、言ってしまった。今まで黙ってたけど頑固者で自分の中の固定観念(イメージ)を変えず、周りが変わっても自分自身が正しいと思い込んでいるから言われる筋合いはあると思う。

 まぁ慰めの言葉を添えて本部へほうむっ(返還し)てあげよう。

 

「三輪君、君の意志の強さは素晴らしいと思います。けど意思だけの行動は命取りになりますよ。覚えておいた方がいいと思いますよ」

 

三輪君は心底悔しがっている。「こんな奴に......」などと心の中で黒い炎をたぎらせて。

 僕が技を繰り出す前に「ベイルアウト!」と自分で叫び帰還していった。ベイルアウトしたから最後の方はわからなかったが、「屈辱だが、今は戦闘できない。コイツに殺されるのは嫌だ。だったら自分から死んでやる」って感じだった気がする。こういうところが良くないって言ったつもりなんだけどな。

 米屋君はトリガーオフし、来た時と同じ学生服姿に戻っていた。その後ろに古寺君と奈良坂君の狙撃手二人も立っていた。三人は「今回はお手上げ」ということでここを後にした。

 近くに迅さんもいた。あの人心配症じゃん。と思ってしまうのは自分への悔しさだったりする。任されたのに監督されるなんてのはまだ不安と思われているのと同じ。

 

「お疲れ様だな、幹斗」

 

あたかも今登場しましたみたいに装う迅さん。僕はわかってるし、迅さんは今回のことをテストかなんかだと思ってるんだろう。まぁミッションを達成したんだし問題ないか。

 

「僕の役目はここまでです。あとは迅さんがお願いします」

 

 僕は三人に目もくれずに背を向け弓手町駅を後にし、一直線に本部へ戻った。無意識に拳を強く握り締め、唇を噛み締めていた。

 

 

 

「迅さん、あの人は」

 

「若宮幹斗。ボーダーA級隊員」

 

修は問うた。自分達を狙った隊員から守ってくれた一人の人物を。

 

「君達の先輩だ。頼りに頼れ」

 

迅は軽口でつげた。しっかりと役目を果たしてくれた後輩のことを。

 

「信頼していい人なんですか」

 

千佳は確認した。彼が自分たちに刃を向けることはないのかと。

 

「大丈夫だ。あの人は嘘ついてなかったから」

遊真は断言した。そんなことをする人物ではないと。

 四人が今いない幹斗のことについて話す。短いやり取りの後四人の見解は一致した。『問題なし』と。

 そして迅は遊真と千佳をボーダー入隊へ誘った。『夢』と『希望』と『現実と向き合うつらさ』を教えてくれる場所へと。それでも三人が無事であるための方法を迅はとった。待ち受けるものが自分や幹斗のようなものではないことを切に願いながら。




※7月11日加筆修正いたしました。
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