まぁ、何か偉い人の一族っぽい所に生まれたなと思った。熱心な仏教徒でもなかったけれど気がついたら、転生していた。
まじで、びっくりした。
それこそ、驚きのあまり大声で泣き叫んでしまった。というか、子供というか幼さな子だから、しかたがないっちゃあ、しかたがないよね。
ただ不安な気持ちが胸をいっぱいにして、とめどとなく涙が流れていく。
前世の記憶は曖昧というか、思い出そうとすると頭が痛くなる、子供のころはまだ体が出来上がっていないし無理をするのは、怖い。というわけで、ぼっーと過ごしていた。1歳上の兄貴がいたので、気味悪がれないように、子供のふるまいの参考にした。
昔の常識だったら、気味悪い子供だ→忌み子だ→ぽいしなければ、みたいなことがありそうだと思ったから、すごい気を使った。すんごい気を使った。
幼児プレイ、サイコー。そうでも思ってなきゃ、やってられねえよこんな事。ていうか、精神も肉体に引っ張られているのか、意外と楽しい。
よし、庭の木の上に上るのだ。秘密基地を作るのだ。
そんなことしていると親から、見込みのない子認定された。放置プレイ。これってある種のネグレクトだね。
これはこれで辛い。
兄は俺のことをよく馬鹿にしてくる。魔法が上手く使えない、才能なし。とか、言ってくる。
そも論、魔法が使えないわけではない、あまり上手く扱えてしまうと、魔法学校から軍人への特急列車から降りられない。
暴力反対。体育会系最低。肉体言語禁止。
というわけで、魔法は使わない。上手く使えることができない、そんなふりをする。
でも、使えないふりをして馬鹿にされるのは、ガラスのハートをボロボロにしてしまう。
そんな、三角ポッドのゴミを見るような目で見ないでくれ、特に使用人ども、陰口を本人の聞こえるところで言うのは、陰口ではなくて悪口だ。アホンダラ。
何かストレスのはけ口が必要だ。そうだ、冒険者になろう。
前置きが長くなったね。というわけで今、私はどこにいるでしょうか。
ここです。ここ。スポンドリキ山脈の第3洞窟の目の前です。
どこだよ、そんなとこと思った人は多いのではないでしょうか、私もです。この世の中、まだまだ識字率が低いので、当たり前ですね。頼れる情報すじがホントに少ない。どうにかこうにか、頑張って、人脈を手に入れた。この時代コネが生命線です。裏の情報通からあれこれとお聞きしました。まじ、閉塞的社会。差別、偏見なにそれおいしいの。
そもそも、平等、公平なんて概念そのものが存在しない。それが、中世クオリティ。就職の自由なんてありませーん。
でも、なぜか言語は統一言語がたくさんの国で話されてるみたい。どいうことなんだろ。昔は大きな帝国がこの地域一帯を支配していたとかかな。それとも、バベルの塔作る前の神話時代なんかな?
「貴族様。何してるのですか」
「妄想上の友達にこの場所のこと説明しているのだ」
「貴族様。不思議なことをなさるんですねぇ」
目の前には要所に鈍く光を反射する、鱗を貼り付けた皮鎧を着た男がいた。
「それ、他の人の前で言ったら、ヤヴァイよ。見てみぬふりをすべし」
「………。」
男はそっぽを向いている。
「今されたら、それはそれで、困るのだけれども」
眼下では多くの人が洞窟の中に入っていく。今日の夕方ごろには、彼らは今日の糧を持ち帰って宴を始めるのだろう。
「ほんと、ココにこれてよかった。窓際部署だから、気楽に見ていてられる」
「貴族様がここまで視察に来られることなんて、なかなかないですよ」
「お忍びだから、大丈夫でしょ。護衛も君、一人だけだ。露見することはないだろう。あちらで布団にくるまり、連絡くるまで待つのは苦痛だ。居場所ないからとても気まずい。まぁ、無駄な干渉しないよう。邪魔しないよう、高見の見物といきますか」
顔バレ防止用の鉄兜が日の光を受けて少し暑い。
「それでは、じゃあ、中に入りますか」
手袋を嵌めて、馬車から大きなカバン を持ってくる。カバンといっても、グレードを下げたもので、大きな革の袋に幾らかの革袋を結ったものだ。普通の貴族はそんなのは持たないけど、金が無いんだ仕方がない。
「貴族様、何言ってらっしゃるんですか」
手に持った木製の割符を見せる。
「ほら、探索許可証」
「どうやって手に入れたんです。というか、さきほど、高見の見物って言ってませんでしたか」
「うち、家で居場所ないから、よく家出してるのだが、それで、愉快ことないかなって、知り合いの裏組合に聞いたのだ。そしたら、この場所とこれくれた」
「裏組合」
「あら、知らんの。うちのとこの裏を取り仕切っているところ」
「貴族様はそこに単身で」
「そだね、そこで偉い人と仲良くなってね」
彼の表情が少しだけ強張ったような気がする。
まず、大切なのは彼に警戒感を抱かせること、そして、自分の手で何とか処理できると思わせることが重要だ。
独断専行を引き起こさなければ。
少なくともこの支配からの卒業、をしたい。
「というわけで洞窟の中に入って、アレを取ります」
「アレってなんですか」
「そんなもの、聞かなくともわかるでしょ。ここは鉱物性の蟻の巣なんだから」
「危険です」
「ダイジョブ、ダイジョブ。自由に使えるお金がないと辛いから」
あの兄に巻き込まれる方がよっぽど危険だよ。というか、あいつのセイで、こんな危険な橋を渡る羽目になっているのに。御せよ、父母よ。
この蟻の巣は人が歩くようには作られていない。巣は蟻が歩きやすいように作られている。
つまりどういうことか。地面は起伏に富んでいて、歩きづらい。無数の分岐があり、地形も時々変わるため、というか、蟻が変える。この場所の詳しい人でもない限りは、道に迷ってしまうだろう。
歩きやすいように道が整理されている場所なんてそう多くはない。
洞窟には天然の光源はなんてものはなく、暗い道を腰につけたランタンの仄かな光を頼りに進んでいく。人間の都合のいいように作られてなどいないのだ。
微かな振動を感じる、蟻が出てくるだろう。
流し目で護衛を見る。気がついていないっぽい。
こういうのは慣れていないと難しい。
近くにはあれがあったはず。ふむ、これは使えるな。
俺は蟻と交戦する。足場が悪いためまともにやり合うのは無謀だ。振り下ろされる鋼鉄の足を避けながら、手に持っている剣を関節部に差し込む。
右足の関節を壊す。
飛び散る石屑が体に降りかかる中、四つの小剣を関節部に差し込んだ。
そして、革袋の中から取り出した札に魔力を込めて、蟻に向かって放る。
蟻の両足が吹き飛んだ。
護衛は呆気にとられたようで、俺を見ている。何か企んでいる。そんな顔をしている。
「どうかした、護衛くん」
「貴族様って、そんなにお強いんですね」
「兄さんに比べたら、トカゲとドラゴンだよ」
「ほら、第二波が来たようだよ」
俺が蟻と交戦を始めようとしたときだった。後ろから大剣がこちらに向けられた。大剣の腹が俺の背中を押した。
俺は大きな亀裂の中に落ちた。そして、そこは多くの蟻が潜んでいた。
「ゔぁあああ」
ランタンの光が消えて悲鳴が洞窟内に響いた。
「すみません」小さく護衛が呟いた。護衛は踵を返した。
一つ豆知識を教えよう。光のない世界で蟻たちは何を意思伝達手段にしているのだろうか。それはフェロモンと呼ばれるやつである。分かりやすく言うなら匂いだ。蟻は触覚を使ってフェロモンを識別している。
何が言いたいのかって。
俺は生きているってことさ。
フェロモンを頭からかぶって、蟻のすぐそばで息を潜めている。とても、匂いがきちい。必ずしもこのフェロモンは完璧ではないから、直接触覚で匂いをかがれたらまずい。
奴らを巻くためにはしばらく時間を置く必要がありそうだ。
計画はうまく行ったのか、少し不安だ。
でもそれより、あの鳥かごの中から開放されたかもしれないと考えると、凄く嬉しいな。感動のあまり泣き出しそうだ。それにしても、ある程度は思考を誘導していたとはいえ、躊躇なく俺を突き落としたな。やっぱ、貴族の後継者争いって、恐ろしすぎるだろ。慈悲がなく、殺しにかかってくる。
暗い洞窟のそこで、身の丈ほどの蟻に襲われないことを祈りながら、こんな分が悪いギャンブルに身を賭けなければ自由に生きていけないのは辛い。けれども、それは知識や力を身に着けて行くうえでは役に立ったし、他の貴族が保有している農奴や、戦争孤児などが置かれている状況を見ると、悲劇のヒロインぶるのは、烏滸がましい。
じっと、耐える。
護衛くんと通った入口とは別の出口から、外へ。しばらくぶりの太陽はやけに眩しかった。
前もって準備しておいた、冒険者としての身分証を持って、この国からの脱出を目指す。この国で仕事をしていくには、兄の影響力が強すぎる。
そう、冒険者とは誰もがなることができる代わりに、最低限の身分の保証しかされない最低職。貧民に残された最後の立身出世の手段にして、命を対価に金を得る仕事。
乗合馬車に体を揺らして、次の目的地へと向かうのであった。
ちなみにゲルマン民族は分割相続という、相続の形が行われたそうです。