アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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アヤベさんとの日常の一コマ

 

───とあるトレーナー室にて。

 

 

 僕はトレセン学園のトレーナーだ。担当しているトレーナーはアドマイヤベガこと、アヤベさん。

 今回は割愛するが、紆余曲折多事多難の末になんとかアヤベさんに担当トレーナーと認められて、かれこれ二年となる。

 ……なる、の、だが。

 

 恥ずかしい話、未だにアヤベさんとの距離感がイマイチ測りきれていない。

 選抜レースで彼女の走り(と彼女自身)に一目惚れして以来、骨を折る気持ちで彼女の勧誘をし続け、途中で本当に骨を折りつつもなんとか口説いてどうにか契約を取り付けたのだが……。

 アヤベさんは相変わらず素っ気ないままだし、彼女は他人との関わりを苦手としているような節があるから、どこまで踏み込んでいいのかもわからない。

 ただまぁ一応、二年間の二人三脚はそれほど無駄ではなかったらしく、クリスマスは一緒に過ごしてくれたし(単に賑やかな場所が嫌いなのかもしれないが)バレンタインデーもチョコをくれた(98%義理だろうけど)。

 ……まぁだからこそ、ますます距離感がわからなくなるのだが。

 

「……ほんと、手っ取り早く距離感を測る方法ってないかなぁ」

 

「何をそんなに悩んでるの?」

 

「おおうわぁっ!?」

 

 完全に独り言のつもりだったのにそれに答える声があったので、僕は椅子の上から飛び上がってしまった。

 入り口の方へ目を向けてみると、いつの間にやらそこには僕の驚いた声に驚いたような顔をしたアヤベさんが立っていた。

 

「……びっくりした。そこまで大袈裟に驚かなくてもいいじゃない」

 

「あ、ご、ごめん……。い、いつからここに……?」

 

「さっき来たわよ。ノックもしたでしょ」

 

「えっ、ホントに?」

 

 まったく気がつかなかった。それほどまでに自分は考え事に集中していたのか。顔が一気に赤くなるのを感じる。

 しかし、そんな僕を前にしても、アヤベさんはいつも通りのクールビューティーである。

 ……嗚呼、やっぱり美人さんだなぁ。

 あのちょっとキツめの表情がいい。見下されたい。足が綺麗。眩しい。蹴られたい。

 

「お望みなら蹴ってあげるわよ」

 

「へっ!!?」

 

「サッカーボールの気持ちを味わいたいって言うんなら止めはしないけど?」

 

「……遠慮しときます。えっ、てか、なんでわかったの? 口に出してなかったのに。アヤベさんってエスパー?」

 

「……アナタの表情がわかりやすいだけ」

 

 はぁ、とアヤベさんが息をはく。

 マジか、そんなにあからさまな顔をしていたのか僕は。『蹴られたい』と思っている顔ってどんな顔だったんだろう。やばい。恥ずかしい。

 

「…………」

 

 どうやら本気で蹴るつもりはないらしく(当たり前だが)、アヤベさんは後ろ手に持っていたらしき文庫本をズイッと体の前に持ってくると、

 

「……『来た』から。しばらくここにいさせて」

 

 といつも通りの声で言った。

 えらく強調して言うので、『来た』が僕らの間で何か特別な意味を示す言葉だったっけ?としばし思考する間を挟んだ。

 

「来た……? あー、はいはいそういうことね。わかった、じゃあ鍵閉めといていいよ」

 

「ん」

 

 合点かいった僕がそう返答すると、それを聞くや否やすぐさま扉の鍵を閉めるアヤベさん。

 そのまま部屋の中を歩くと、備え付けられていたソファに腰を下ろして文庫本を開いて読み始めた。

 ……彼女は本を読む様も綺麗である。というか、基本的に美人は何をしても絵になる。

 その姿を見ていると、急速にさっきまでの思考が冷えてくるのを感じた。

 

(……作業の続きしよ)

 

 マウスを握り直すと、僕はアヤベさんが要望通りのレースに出るためのスケジュールを組む作業に戻った。

 元々、作業に疲れての現実逃避のためにアヤベさんのことを回想していたのだった。

 

 

 

 

 

 ……アヤベさんがさっきのように当たり前のようにトレーナー室にやってくるのには、理由がある。

 

 半年ほど前のことだ。トレーナー室でいつものように作業をしていると、突然トレーナー室のドアが激しく叩かれた。

 何事かと思って急いでドアを開けると、そこには珍しく切羽詰まった表情をしたアヤベさんが立っていたのだ。

 

「匿って」

 

 事情を説明している余裕はない、といった様子でアヤベさんは言った。すぐさま頷き、僕は訳もわからないままとりあえずアヤベさんを室内に招く。

 そのままアヤベさんは小走りでトレーナー用の机に向かうと、かくれんぼする子供のように机の内側のスペースにしゃがんで体を押し込んだ。

 足太いから入りくそうだな、なんてバカなことを考えながら扉を閉めようとすると、「あー!待ちたまえ待ちたまえ!!」と廊下の方から声が聞こえた。扉の影から顔を出すと、なぜアヤベさんが必死な顔でここへ逃げ込んできたのか、その理由がすぐにわかった。

 

「テイエムオペラオー?」

 

 アヤベさんから数刻遅れる形でやって来たのは、王冠を被った「世紀末覇王」こと、テイエムオペラオーだった。

 超ナルシストなウマ娘で、この間の皐月賞の時にアヤベさんを一方的にライバルに設定したのは記憶に新しい。

 

「そうだとも! ふふっ、担当でない君にまで名を知られているとは! 嗚呼、僕の輝きはなんと大きく罪深いのだろう!!」

 

「輝き……まぁ確かに大きいかな。ある意味ね」

 

 一方的にアヤベさんをライバル認定したウマ娘のことはそうそう忘れられるものではないと思うが……。そうでなくても、オペラオーほど強いウマなら皆マークしているだろう。

 

「……で、こんな所へ何しに来たんだい?」

 

「おおそうだ!先ほど、ここへアヤベさんが来たと思うんだけどね?」

 

 アヤベさんが隠れている机がビクリと震えたように思えた。

 

「ライバルというのは、プライベートの時でも親交を深めているからこそ対決が盛り上がるのさ! だから、アヤベさんと仲良くなるためにお昼を一緒にしようとしたのだが……逃げられてしまってね」

 

「それはまぁ……なんというか」

 

「たぶん、逃げた方向から考えるにここを通ったと思うんだが……見ていないかい?」

 

 あー、なるほど。

 口に出そうとするのを堪え、手を叩こうとするのを我慢した。大体状況が読めてきたぞ。

 

「うーんと……見てないかな」

 

「あれ、おかしいな。アヤベさんの匂いはここからしていると思うのだけれど」

 

「……えーと」

 

 形の良い鼻を動かすオペラオーの前で、あまり高性能ではない脳を急いでフル回転させる。

 

「最近アヤベさん、ここに来ることが多いからさ……ほら、トレーニングの相談とかで。アヤベさんって結構ストイックな所があるからさ、トレーニングについての時間は誰にも邪魔されたくなくて、よくここに来るんだと思う。それでたぶん、匂いがここに染み付いてるんじゃないかな?」

 

「なっ、なにっ……!?」

 

 口からデマカセだったのだが、どうやらオペラオーは信じたらしくオーバーな態度で驚いてくれた。

 

「なんてことだ……! まさか宿命のライバルが、ボクに秘密で君と密会をしていたなんて……!ボクを倒したいならばボクに直接相談しにくればいいのに……まさか、ボクよりも君の方が彼女に信頼されているというのか!?」

 

「えっ? まぁそうなんじゃない?」

 

 適当に言う。

 ……誤魔化してる側からすれば、勝手に誤解してくれるのは楽で良いが怖くもある。

 オペラオーの中でのアヤベさんのプロフィール欄に勝手な一文が書き込まれたかもしれないが、まぁ背に腹は代えられないだろう。

 

「クッ……まさかボクのライバルを君に取られてしまうとは……。いや、だがそれも良い!恋と同じで、ライバル関係も障害が多いほどより燃え上がるのさ!」

 

(いつの間にか、俺がライバルを巡るライバルとして勝手にオペラオーの演劇に組み込まれてる……)

 

 一瞬落ち込みかけたが、すぐにポジティブシンキングで笑顔に戻るオペラオー。

 こういうところはオペラオーの唯一無二の力であり、恐らく生涯誰にも超えられないであろう分野だ。

 やがてオペラオーは、「それでは邪魔したね!」と言いながらアヤベさんを追うために廊下を走っていった。

 それを見送ると、扉を閉めて鍵をかける。

 

「……行ったよ、オペラオー」

 

 机へ声をかけると、ちょうどアヤベさんがモゾモゾと出てきた所だった。

 

「……助かったわ」

 

 ホッ、と胸を撫で下ろしている。

 

「なら良かったけど……。オペラオーと一緒にいるの、そんなに嫌なの?」

 

 純粋な疑問から問いかけてみると、アヤベさんは自分でもイマイチわからないような表情を浮かべた。

 

「嫌では、ない。嫌ではないのよ。ただ……」

 

「……ただ?」

 

「すごく疲れる」

 

「……まぁですよね」

 

「……昨日も一昨日もあのノリに付き合わされたんだから、さすがに今日はやめてほしいわ……」

 

 うんざりしたような顔になるアヤベさん。……お疲れ様、と言おうか迷ったが、少し気安すぎるかと思ってやめた。

 

 

 

 ……この出来事がきっかけだったのか。

 

 この日以来、アヤベさんはどうしてもオペラオーから逃れたいときは、ココへ逃げこんでくるようになった。

 ぶっちゃけ本当に急に来るので毎度驚くことになるのだが、別にトレーナー室には見られて困るモノもないし部屋を提供するだけでアヤベさんの助けになるなら、と僕も特に何も言わなかった。不可抗力というある意味誰にも文句を言われない形で、アヤベさんと新しい繋がりができるのが嬉しくもあったし。

 

 

 

 そうして、アヤベさんがオペラオーに追われてトレーナー室に逃げ込み、僕が口四丁くらいでなんとか誤魔化してオペラオーが去っていって、ほとぼりが冷めるまでアヤベさんと二人っきりでトレーナー室で過ごす、というのがだんだんとテンプレになってきて。

 

 また半年が過ぎて今に至る、というわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 集中して取り組むと、アヤベさんのスケジュール組みはあっさりと終わった。ちょっと集中すると作業はすぐに終わるというのに、なぜ人はその「集中」への一歩が踏み出せないのだろう。

 パソコンを閉じ、何ともなしにアヤベさんの方へ視線をやる。彼女はさっきまでと同じ体勢で文庫本を読んでいた。瞳がゆっくりと左右に動いて、一定おきにページをめくるために手が動く。

 ……どうでもいいけど、アヤベさんってアレだよね。『かわいい』とか『守護らねば』じゃなくて、本当に『美人』だよね。

 スラッとしてるし。スタイルも良いし。モデルとしても充分にやっていけるんじゃないだろうか。

 アヤベさんから視線を外し、彼女の後ろの棚に飾られている日本ダービーのトロフィーを少し見てから、僕は手元に視線を戻した。

 

 とりあえず今やらなければならない作業は終わってしまったし……どうしたものか。アヤベさん、結構集中して本を読んでいるみたいだしなぁ。

 彼女は一人の時間を重視したがる傾向があり、集中しているのを邪魔されることを特に嫌う。加えて音にも結構敏感だ。

 今ここで僕が席を立とうとすれば、その音を聞き付けて集中が乱されてしまい、彼女が機嫌を悪くすることは容易に想像がつく。

 迂闊に席は立てないな……。

 

 なら、僕も彼女を倣って大人しく本でも読んでいようか。幸い今すぐ行かなければならない所があるわけでもないし、たまにはこうやってのんびりとトレーナー室で過ごすのも乙なものだろうし。

 音を立てないようにゆっくり机の引き出しを開けると、そこから一冊の文庫本を取り出す。

 手に取ったのは、シェイクスピアの短編を纏めたシリーズの一冊だ。先日『君も読んでみると良いさ!』とテイエムオペラオーから貸し与えられたのである。

 シェイクスピアなぞ『ロミオとジュリエット』くらいしか知らないし興味もあまりなかったのだが、これが読んでみると中々面白い。独特の言い回しや物語にすっかりハマってしまった。

 まだ半分ほどしか読めてないが、読み終わったらすぐオペラオーに続きを借りに行こうと思っている。

 

(次の話は、『冬物語』か……)

 

 本に挟み込んでいた栞を机の端に置き、新しい話を読み進めていく。優れた話というのは読者をすぐ世界に引き込んでくれるらしく、僕の意識は早々に話の中へと移っていった。

 

 

 ……だから、アヤベさんが横目で僕を見つめていたことに、僕は気がつかなかったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 パタン、と本を閉じる。

 いやー面白かった。こんなに面白いのならもっと早くから読んどけばよかった。やっぱり、食わず嫌いならぬ読まず嫌いは良くないな。

 明日になったらオペラオーと感想を語り合って続きを借りよう───と僕が明日の計画を立てていると。

 

「……それ、シェイクスピア?」

 

 いつの間にやら、アヤベさんも本を読み終えており僕を見つめていた。

 ……あれ? 彼女、一体いつから見つめていたんだろう? 視線全然感じなかったんだけど。

 

「そうだけど……それがどうしたの?」

 

「別に……。ただ、それ誰から借りたの?」

 

「えっ……。な、なんで誰かから借りたこと前提なのさ?」

 

 どうにもアヤベさんは僕より頭の回転が早いようで、こんな風にテンポがいくつかすっとばされて会話が進行することが希によくある。

 正直心を読まれているようで心臓に悪い。

 

「だってトレーナー、普段は漫画かライトノベルしか読まないでしょう。なのに急にそんなもの読み出すから、大体わかるわよ」

 

「あ、あー……そうなの。な、なるほどね」

 

 ……あれ、おかしいな。

 僕の記憶が確かなら、あまりアヤベさんの前で漫画とかラノベを読んだ覚えはないんだけど。仮にも『大人』としてアヤベさんと接するのだから、なるべく陰気臭い俗っぽい所は見せないようにしていたハズなのだが……。いや、それとも単に覚えてないだけで僕はアヤベさんの前でラノベを読んだことがあったのかもしれない。

 うん、たぶんそうだ。そういうことにしておこう、うん。

 

「で? 一体誰から借りたの?」

 

「え、えーと……」

 

 なんか、アヤベさんから発せられてる圧がいつもよりすごいような気がするんだけど。なんとなく誤魔化したらヤバいような気がしたので、僕は素直に言うことにした。

 

「テイエムオペラオーから借りたんだよ。この前、偶然会ったときにさ」

 

「オペラオーに? ……あの人、読書なんかするの?」

 

「そんな真顔で言わなくても……。君はオペラオーを何だと思ってるのさ?」

 

「変人」

 

「さすがにそんなことは……うんゴメンその通りだわ」

 

 南無、とオペラオーに手を合わせたいが、正直あっちの日頃の行いの方にも非がある感じなので何とも言えない。

 

 ちなみに、アヤベさんはオペラオーのことを苦手としているが、僕自身はオペラオーのことはそれほど嫌いではない。

 確かに第一印象はあまり良くなかったが、レース外で話してみると僕とオペラオーは案外ウマが合ったのだ。

 初めは彼女の偵察のつもりで接触したのだけれど、今では廊下ですれ違ったら立ち話ぐらいはするし、食堂で会えば一緒に昼食も摂る仲である。たまーにドトウも交えての即興オペラオー劇場にも付き合わされるし。

 

 ……だが、一度だけオペラオーと話している時に、突然後ろの方からアヤベさんがすごく険しい顔をしながらやってきて、強引に襟首を引っ張られてオペラオーから引き離されたことがある。

『あれ以上話したらミーティングに遅れてた』ということだったようだが……あの後アヤベさんに引っ張られるままトレーナー室に着いても、ミーティング開始まで十分ぐらい時間に余裕があった気がするんだけどな……。まぁたぶん、自分があまり好きではない相手と僕が話しているというのは、アヤベさん的にはあまり面白くない展開だったのだろう。そう僕は結論づけてこれからオペラオーと話すときは気を付けることにした。

 閑話休題。過去話が長くなりすぎたな。

 

「……まぁともかく、オペラオーに貸してもらったんだよ。彼女、こういう本はたくさん持ってるみたいでさ。興味出てきたし、他にも色々貸してもらおうと思ってるんだよ」

 

「……ふーん」

 

 どこか感情が籠っていないような返事をすると、アヤベさんは急に『身を乗り出す』の一歩手前ぐらいに体を前にやって、先ほどまで僕が読んでいた本の表紙をジロジロと見始めた。アヤベさんも興味が湧いたのかな、と僕は本を彼女が見やすい位置まで動かしてみる。

 すると、アヤベさんは本をひとしきり見た後、ボソッと言った。

 

「私も、持ってるけど。そのシリーズ」

 

「へ?」

 

 あまりにも藪から棒な台詞だったので、咄嗟に何を言っているかわからなかった。

 目を丸くして聞き返すと、アヤベさんは僅かに視線をそらしながら、

 

「……だから、私も持ってる。その本のシリーズ」

 

 と言った。

 

「……あっ、へぇ。そ、そうだったの」

 

「うん」

 

「…………」

 

「…………」

 

 えっ、何この空気。

 頭にハテナマークが浮かび、僕は首をかしげるばかりである。どういうことなのだろう?

 アヤベさんの発言の意図がイマイチわからない。

 ただでさえアヤベさんの方からコミュニケーションを取ってくることなんて珍しいのに、なんでわざわざそんなことを言うんだろう?アヤベさんはあまり意味のない雑談をするようなタイプでもないし……。

 まさか、『こんなカード俺は36枚持ってるよ……』的な自慢だろうか? ……いやいやそんな訳ないよね。アヤベさんはそんなことするキャラじゃないし……。

 訳がわからないままアヤベさんを見つめていると、やがて彼女はNGワードゲームで相手が狙い通りの言葉を言ってくれないときのような顔をした。

 

「だからさ……!」

 

 彼女はズイッと強く僕へ向けて踏み込んできた。

 

「私から借りればいいじゃない」

 

「……え?」

 

 今度はちゃんと聞き取れたのだが、思わず聞き返してしまった。

 

「……ど、どういうこt」

 

「その本は私も持ってるんだから、オペラオーに借りるよりも担当ウマ娘である私から借りる方が色々と楽でしょ。その方がいいに決まってるわ」

 

「えぇ!? い、いやでも突然すぎるし……もうオペラオーにも続きが欲しいって言っちゃっt」

 

「あの人は別に強情な人ではないから、ちゃんと事情を話せば納得してくれるわよ。そもそもあの人にも予定があるんだから、そうやって一々時間を取らせるのも悪いしだろうし。ていうか最近あの人と会いすぎだし。大体、あなたはオペラオーオペラオーって、担当ウマ娘は私なのにそんなにオペラオーに会いに行ってることに疑問は感じないの?この間だって廊下で話し込んでたし、昼食も一緒に摂ってたし。えらく楽しそうだったし」

 

「あ、アヤベさん!? なんか掛かってない!?」

 

 話が途中から変な方向に向かってたような気がする。

 アヤベさんも僕に叫ばれてそのことに気づいたのか、さっきよりも微妙に頬を赤くして、

 

「……後半の部分は忘れて」

 

 と場を仕切り直すように咳払いした。

 

「とにかくっ。あの人に気に入られたってロクなことないから。必要以上に関わりすぎたらあの人の中での『オペラオー軍団』に勝手に入れられて面倒なことになるだけよ」

 

 果てしなく実感の籠った台詞とはいえ、さすがに言いすぎな気がする。

 それに……。

 

「あ、アヤベさんは、良いの?」

 

「何が?」

 

「その……ぼ、僕なんかに貸しても」

 

 前より僕と関わることになるんだけど、という台詞を言外に滲ませたつもりだったのだが、

 

「別に良いから。だからその本は早くオペラオーに返してきて。明日私が続きを持ってくるから」

 

 アヤベさんはそんなの関係ないとばかりに更に距離を詰めてくる。

 

「そういうわけで、わかったわね?」

 

「いや、あの」

 

「わかったわね?」

 

「アッハイ」

 

 ……否定は許されなかった。

 

 

 

 

 

 

 てなわけで翌日、僕はアヤベさんに言われた通りオペラオーへ文庫本を返しに行き、これからはアヤベさんが貸してくれるようになったという旨を伝えた。

 

「ほう?……なるほど、さすがはアヤベさんだ。この僕をシンデレラに対する王子様ではなく、意地悪な姉役として配置していたとは! いやーこれは悪いことをしてしまったねぇ。では、ぼくは大人しく引き下がっておこう!」

 

 どういう意味なのかよくわからなかったのだが、オペラオーはそれ以上説明を追加してくれなかった。代わりに何かすごくニヤニヤしてた。

 

 

 

 その後、僕とアヤベさんの間でシェイクスピアがプチブームを起こした。

 





オペラオーはシェイクスピアを読まないというか、苦手としている的な設定があったことを書き終えてから気づいたんだけど、まぁ書いちゃったものはしょうがないよね理論でそのまま投稿してます。

まだこの頃はいまいちキャラを把握しきれてなかったのでキャラに違和感があるかもなのと、アヤベさんがめんどくさい女化してるかもなので注意です。でも自分の中でのアヤベさんはこういうイメージなんや……。
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