アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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もうとっくに旬が去った感ありますが、ヌオダスに影響された頃に書いたウマ娘ポケモンダービーです。





アヤベさんとバイウールー

 

 時は2XXX年(2022年)。

 この日、トレセン学園は未曾有の危機(仮)に陥った。

 

 

 

 

 

「いやー、私も今回ばかりは反省しているよ。これでも本気でね」

 

 トレセンの廊下にて。正座をして膝の上に特注の石抱を乗せられたウマ娘、アグネスタキオンはそう言った。

 いつもの白衣に、両腕は余り袖ごと縄で縛られており、首からは『私は自分の研究室を五次元に移し変えようとして失敗し、今回の騒動を引き起こしました』と書かれたプラカードがさげられている。

 

「うーん、理論値は完璧だったハズなんだけどねぇ……一体何がダメだったのか、明日までに考えとかないと」

 

「いや……まぁ、タキオンがこの手のアクシデント起こすのは今に始まったことじゃないからもういいとしても……」

 

 そう言いながらアグネスタキオンの対面に立つ青年、アドマイヤベガのトレーナーは腰に手を当てた。その瞳には怒りよりも、呆れと困惑が入り混じっている。

 

「この状況……一体何がどうなって引き起こされたの?」

 

「それがねぇ……おっと」

 

 タキオンが説明を始めようとしたとき、タキオンの肩あたりにとある生物が鼻を擦り付けてきた。

 犬? いや違う。基本フォルムは犬のように見えなくもないが、背中や頭頂部のあたりからはハッキリ炎が吹き出ている。

 明らかにこの世の常識とかけ離れた生き物。アドマイヤベガTが『この状況』と言った原因の生物である。

 

 

「この……『ポケモン』、て言うんだっけ? 一体どこから来たのよこの子」

 

「どうやら、私が五次元の扉を開こうとしたときに、何かの拍子でこことは違う世界に繋がり、その世界から迷い込んでしまったみたいだ。ねぇポニータ」

 

 

 アグネスタキオンが顔を向けると、そのポニータと呼ばれた四足歩行の生物が鳴き声を上げる。

 ポニータ。タキオン調べによると、それがこの生物の名前らしい。背中と頭から派手に炎が吹き出ているわけだが、彼(彼女?)の体温は大丈夫なのだろうか?その『こことは違う世界』では割と当たり前にいる生き物らしいが……。

 すると、不意にポニータを見つめていたタキオンが神妙な顔をする。

 

「しかしなんだろう、この生物の四足歩行のフォルムを見ていると、なにやら記憶の奥底が刺激されるような気がするんだが……あ、こらやめろポニータすり寄るな。白衣に炎が燃え移ったらどうする。この体勢で服が燃えたら私は割と本気で詰みなんだぞ」

 

 なんとか炎に触れずにポニータを遠ざけようするタキオン。確かに彼女の言う通りポニータを見つめているとなにやら思い出しそうな気がするのだが……まぁそれはさておき。

 

「この子たち、ちゃんと元の世界に帰せるんだろうね? このまま帰る手段なくて一生こっちで暮らすとかかわいそうだぞ」

 

「そこは問題ないよ。五次元装置の誤作動によって起きたのは、この世界と向こうの世界を繋いだことだけ。ならば、もう一度起動して世界を繋いでやれば、その間に元の世界へ帰すことができる」

 

「ならいいけど……」

 

 一先ず胸を撫で下ろす。

 トレーナーからすれば見たことも愛着もない生き物だが、こっちの訳のわからないマッドサイエンティストに急に連れてこられて、そのまま故郷にも帰れないというのはさすがに気の毒だ。

 

「ただ、あの装置は多大なエネルギーを必要としてねぇ……。再び使うためにはあと二時間のチャージが必要なんだよ」

 

「二時間もか……」

 

 肩を落とすトレーナー。

 そう。今回の実験でやって来たポケモンなる生物は、目の前にいるポニータだけではなかった。他にも様々なポケモンがトレセンに出現し、今世話だの保護だので皆さん必死になっているのである。

 

「そういうわけだからアヤベさんのトレーナー君、頼んだよ。その『バイウールー』を二時間の間、世話してあげていてほしい」

 

 かくいうトレーナーも、その必死になっている一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「───というわけなんだよ」

 

「ごめん、全然わからないんだけど」

 

 トレーナー室でタキオンから聞いた説明をそのまま聞かせたところ、やはりというか愛バであるアドマイヤベガは意味がわからないという顔をした。

 

「……急にポケモンとか違う世界だなんて言われても……ゲームの話じゃないんだから」

 

「でも、現にこうして起こっちゃってるんだよ」

 

 頭痛を覚えながら、トレーナーはそれまで腕の中に抱いていた四足歩行の生命体を床に下ろした。

 

「……第一、その、なに? その……羊みたいな謎の生き物」

 

「『バイウールー』だってさ」

 

 厳密には名前を聞いていたわけではないので、微妙に答えになっていないトレーナーの返答。

 トレーナーが呟いた名前に反応したか、その生物、改めバイウールーはメェと一声鳴く。

 アドマイヤベガの指摘通り、それは羊に酷似した生き物だった。後ろ向きに伸びた大きな角に、毛刈り前みたいにモコモコとした毛が特徴的で、見つめてるとどこか愛嬌があり気が抜けそうになる。

 

「まぁ見た感じ狂暴では無さそうだし、二時間面倒見る分には大丈夫そうかなぁ」

 

 そう言いながら、タキオンのラボからもらったポケモン用のトイレの砂やら、おやつ(オレンの実とか言うらしい)を準備する。すると、暇になったのかバイウールーはトレーナーの足元へとやってきた。

 

「……わっちょ、すり寄るなバイウールー。くすぐったいでしょもう……あー舐めるんじゃないよスーツがベトベトになる」

 

「メェ~」

 

「ほんとに羊みたいだなお前な」

 

 困ったように言いながらも、どこか満更でも無さそうな表情でトレーナーはバイウールーの頭を撫でる。それに対しバイウールーもまた、飼い犬がするようにより体をトレーナーに擦り付けていく。

 元々バイウールーが人懐っこいのも相まって、もう二人はある程度仲良くなったようだ。

 

「…………」

 

 その様を、アドマイヤベガはなんとも言えない表情で見ていた。えらく楽しげなトレーナーに思う所があるか、無邪気に彼にすり寄るバイウールーが気に入らないか、はたまた両方か。

 とりあえず二時間しのぐための準備をすると、トレーナーは「さて」と一息ついてから言った。

 

「それでアヤベさん、来てもらって早々に悪いんだけど、ちょっとの間この子を見てあげてくれないかな?」

 

「え?」

 

 予想外の頼みに、アドマイヤベガの耳が跳ねた。

 

「あなたは世話しないの?」

 

「いや、したいのは山々なんだけど……ほら前も言ったけど僕、来週の土曜日に放送される『URAが本気で考えたドッキリスペシャル!』て番組のオペラオーへのドッキリにて、仕掛人の一人を頼まれちゃっててさ……その打ち合わせをちょっとしなくちゃいけないんだよ」

 

「……ああ、そうだったわね」

 

 説明されてアドマイヤベガも思い出す。

 そういえば先週ぐらいにも、彼からそんなことを聞いた気がする。とりあえずあのオペラオー相手にドッキリが予定通り進行するとは思えないので、聞いた当時は仕掛人が自分じゃなくて良かったと安堵したものだ。

 

「そういうわけだからさ……打ち合わせ自体はすぐだし、場所もここから近いからあんまり時間はかからないと思うけど……でもやっぱり、その間バイウールーが一人ぼっちになっちゃうからさ……」

 

「……わかったわ」

 

 手を合わせて頭を下げるトレーナーに、アドマイヤベガはため息混じりに了承した。

 まぁ、さっきトレーナーも言ってたようにバイウールーは大人しそうだからトラブルも起こらないだろう。

 どのみち今日はやることもなく暇だったのだ。バイウールーの世話を引き受けても特に不都合も犠牲も無い。せいぜい犠牲になったのは、この部屋に呼び出される手段として『どうしても伝えたい話があるから至急トレーナー室に来て』とLINEで言われてドキドキしっぱなしだったオトメゴコロぐらいである。

 

「ほんっとありがとうアヤベさん! この埋め合わせはまた……それじゃあお願いっ!」

 

 時間が迫っていたのか、埋め合わせというアヤベ側としては都合の良い言葉を発しながら、トレーナーは去ってしまった。

 そうして部屋には、アドマイヤベガとバイウールーだけが残される。

 

「…………」

 

 なんとなしにバイウールーの方へ目を向けてみる。バイウールーはというと、座ったままノホホンとしていた。

 一応ここはバイウールーにとっては別世界だというのに、何とも危機感が無いというか……借りてきた猫ならぬ実家の中の猫みたいなのんびり具合である。

 

 まぁ、この調子なら特別気にしなくても大丈夫か、と思いアドマイヤベガは彼の部屋の中を移動する。

 すっかり置き場所を覚えたコーヒーカップを取り出し、砂糖五つのコーヒーを淹れる。それから、漫画『アクセルウマ娘ワールド』の最新刊を手に取ってソファーに座れば、もう完全に自室でくつろぐウマ娘状態だ。

 

 しかし。

 その気になればこの体勢のまま何時間でも潰せるのだが、今回はそうは行かなかった。

 コーヒーを飲むアドマイヤベガに触発されたか、バイウールーがトテトテと彼女の元へ歩き、足へとすり寄った。

 

 また構ってアピールかとアドマイヤベガはしばらく無視していたが、あまりに頭をぶつけてくるため、彼女はついに立ち上がった。

 

「……なに? もしかしてあなた、お腹が空いたの?」

 

 訊いてみるのだが、バイウールーはメェと鳴くだけである。

 

「…………」

 

 アドマイヤベガはペットを飼ったことがない。飼うとしても、犬よりは猫派である。

 なので、バイウールーのようなタイプの生物とはイマイチ距離の測り方がわからなかった。

 

「……とりあえず、はい」

 

 トレーナーが用意しておいたオレンの実とやらを手の平に乗せて鼻先に持っていく。バイウールーはしばらく匂いを嗅いでいたが、すぐにモシャモシャと食べ始めた。

 やがて食べ終わると、嬉しそうに目を細目ながら『もっとくれ』と言わんばかりにメェ~と鳴く。

 

「……意外と可愛いのね、あなた」

 

 それを見ていると無意識にアドマイヤベガの口角は上がっており、次は二つほどオレンの実を乗せてバイウールーに差し出していた。

 

 

 結局オレンの実は五つほど食べさせた。

 その後、アドマイヤベガは「そういえば」とトレーナーが残していった物から、まだ触っていなかった物を手に取る。

 

 

「……これが『ポケモン図鑑』、てヤツなのかしら?」

 

 

 手に取ったのは、スマートフォンみたいなオレンジ色の機械だった。

 トレーナーの話によれば、時空が繋がったときに一緒にもたらされた物らしい。

 試しに起動してみると、画面に様々なポケモンの姿が映った。そのいずれも、この世界にいる動物の色、常識からはかけ離れた姿をしている。UMAハンターもびっくりだろう。

 

「あ、バイウールーもいた……」

 

 バイウールーの欄を押してみると、分類やら体重やらが電子音声で流れ始める。

『角は異性にアピールするためのものであり、戦闘で使うことはない』という電子音声の説明を聞きながら機械をいじっていると、

 

「……覚えてる技?」

 

 四つの聞いたこともない文字の羅列が図鑑に映った。

 

 そういえば、とアドマイヤベガは思い出す。

 トレーナーが言っていた(正確にはアグネスタキオンからの受け売りである)。

 

 

『どうやら向こうの世界には、ポケモン同士を戦わせる「ポケモンバトル」なるものが流行っていたらしい。この四つの技を使い分けて、敵を倒していたんだとか』

 

 

 図鑑を操作しながら、バイウールーをちらりと見る。

 

(この技を命令したら、そのように動くのかしら?)

 

 クールビューティーのアドマイヤベガと言えどもまだ子供。好奇心は十分にある。

 視線に気づいたバイウールーの瞳から目をそらして、アドマイヤベガは顎に手を当てる。

 

 

(……この『ギガインパクト』って技……なんとなく命令してみたさがあるわね……)

 

 

 何とも言えず語感が良い。どんな技なのか単純に気にもなる。

 しばらくの葛藤の末、やはりとアドマイヤベガは首を振った。

 

(いえいえ、でも……それで変な技が出たらシャレにならないし、やめておきましょうか……)

 

 見た目はただの愛玩動物にしか見えないが、それこそウマ娘と同じで内部にどんな力が秘められているかわかったものではないのだ。

 そう言い聞かせ、荒ぶる好奇心をアドマイヤベガはなんとか抑えた。

 

 ならばと図鑑を見つめ直すと、なにやら気になる文字があった。

 そして、さっき気を付けたはずなのに、つい文字を口に出してしまう。

 

 

「……『コットンガード』?」

 

 

 その声を聞いた瞬間、バイウールーの耳がピンと立った。

 

 命令され慣れているのか、『へい大将いつものヤツっスね!?』みたいな気軽さで技の準備に入る。

 

 

「あっ、ちょっと今のは───!」

 

 

 慌てて止めに入ろうとするアドマイヤベガだが……時既にお寿司だった。

 

 

 ブワワワワワッ!!

 

 

 次の瞬間、石鹸が泡立つかのようにバイウールーの体から多量の綿毛が出てきた。

 いや、毛は前からあったのだが、たった今内部で追加生産がされたかのように更にモフモフになった。

 変化自体は数秒で止まったが……命令前と比べて明らかに毛量が二倍ぐらいになっている。

 

 その様に、アドマイヤベガは一瞬で心を奪われた。

 

 

「あっ……あなた、それっ、大丈夫……なの?」

 

 

 口では心配している風だが、その腕はバイウールーの方へと伸びていた。

 

 

「メェー」

 

「だっ、大丈夫なの? なんともないの?」

 

「メ~エ」

 

「なんともないのね……」

 

 

 とりあえず緊急の事態がないことを確認し胸を撫で下ろす……いや、大義名分を得たことを確認する。

 

「モフモフ……」

 

 確認するや否や、アドマイヤベガはゆっくりとバイウールーへ迫っていった。

 

 その目はいつものクールな色は無く、メイショウドトウのようなグルグル目となっている。今のアドマイヤベガはもはや、獲物(モフモフ)を前にした獣と同じだった。

 

 

「あぁ……!」

 

 

 バイウールーも逃げ出そうとしなかったので、アドマイヤベガは布団に倒れ込むような勢いでバイウールーに抱きついた。

 バイウールーは嫌がりもせず、くすぐったそうにメェと鳴くだけだ。

 まぁ、仮に嫌がってもアドマイヤベガは気にしなかっただろうが。

 

 

「やわ、やわらかっ……!」

 

 

 思わず顔が完全に弛緩した、リラックスしきったものになる。

 

 これはヤバい。

 モフモフだ。モフモフがモフモフしていてモフモフしている。体に力をかければ、さながら高級な低反発枕の如く沈み受け止めてくれる。

 布団乾燥機を使った布団を遥かに上回る心地良さだった。この世のモノとは思えない柔らかさである(実際、本来はこの世にないのだが)。

 

 

(あぁ、幸せ……まさか生きてるうちに、こんなモノに……)

 

 

 あまりの心地良さに一瞬で睡魔が襲ってくる。

 バイウールーもそれを察したのか、アドマイヤベガを起こさぬようにゆっくりと四本の足を曲げて、自分を枕に彼女が横になる形でジッとした。

 

 そのままアドマイヤベガは一瞬で深い眠りに落ち、バイウールーも彼女を見てメェと鳴いてから共に目を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それから約一時間半後、トレーナー室に戻ってきたトレーナーが二人の様子を見て父親の顔になったり、タキオンの装置のチャージが完了したときにアヤベさんがゴネまくったり、最終的にバイウールーの毛のいくらかをもらい、彼女もバイウールーにニンジンをプレゼントするのだが、それはまた別の話である

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