何番煎じかわかりませんが、一時メッサ流行ってたアヤベさんは告らせたいネタです。
カップルというものは、一見平等に見えてもその実明確な上下関係が存在するものである。まさに勝者と敗者、尽くす側と尽くされる側、表と裏、光と影、ぐりとぐら。
その上下関係を重視するのはこの世界でも、増してやウマ娘においても例外ではない。
実はウマ娘間でも『恋愛における主導権』というのは悩みのタネなのである。
地力で圧倒的に勝るウマ娘は、別にその気になれば力でねじ伏せて無理やり勝者側に居座ることはできる。
だが、それはさすがに大人げなさすぎるだろう。子供の砂遊びにブルドーザーが介入するがごとき暴挙。何よりウマ娘本人があまり良い気持ちはしない。
しかし、かといってニンゲン側にわからせられて敗者側にいくのもそれはそれで面白くない。
未だ狩猟云々の本能が残っているウマ娘にとって、獲物よりは常に上位でいたいのだ。
勝手にどこかに行くのは許さない。あなたはあくまで私のモノ。私だけを見て、私という鳥籠の中で私のためだけに
そのためには勝者側にいる必要があるのである。
……まぁ純粋な力では圧倒的に勝ってるのに夜的な意味になると簡単にねじ伏せられちゃう娘というのは私の性癖には合ってうわなにをするやめr
ともかく。
小難しいことを言ったが、結局要約すると一つ。
この世界においても、恋愛は戦!好きになった方が敗けなのである!
私立トレセン学園。
その昔、色々な障害、難題を何とか乗り越えながら設立された学園である。数多の名ウマ娘、名トレーナーを排出した、文句無しの一流の学園。
教育、設備、飯、全ての部門が他の学園を凌駕しており、所属ウマ娘の実力も遥かに高い。『一般校の天才はトレセン学園の落ちこぼれ』という格言まであるほどだ。
そのとあるトレーナー室にて。
今日もめんどくさいやり取りが繰り広げられようとしていた。
「……ふぅ」
「あ、『アクセルウマ娘ワールド』の新刊読み終えた?どうだったアヤベさん?」
「……面白かったわ。まさか決勝戦の仮面のウマ娘の正体が、主人公の親友のライバルの腹違いの姉だったなんてね」
「予想外だったよね。考察サイトもてんやわんやだったよ」
「でも読み返してみたら伏線ぽいのはあったのよね」
「いや『蹄鉄が左右で違う』だなんて伏線とは思わないって!普通作画ミスかと思うじゃん」
トレーナーとアドマイヤベガ。
共にダービートレーナーとダービーウマ娘であることを除けば、トレセンではそれなりにいるトレーナーとウマ娘のペアである。
もう一つ除くことがあるとするなら、アドマイヤベガがトレーナーに好意を抱いている、ということだろうか。担当されて一年ほど経ってから抱いた感情なので、現在まで約一年超も熟成された想いなのだが、まだどうにもアドマイヤベガは想いを伝えられていない。
ウマ娘の方から告白しては今後の格付けに関わる。無理やり襲うのも得策ではない。
よってトレーナーの方から告白してくるよう誘発すべきなのだが……彼女の奮闘は未だ実を結んでいない。
「『アクセルウマ娘ワールド』か……最近流行ってるねぇ」
そんなアドマイヤベガの駆け引きに、同期であるテイエムオペラオーは全く気づいていなかった!
「へぇ、オペラオー漫画とか読むんだ?なんか意外」
「ボクとて娯楽はある程度嗜んでいるさ。なにせ、将来のボクはその娯楽を出版する側に回るのだからね!」
「そ、そうか……。自伝でも書くのか?」
トレーナーの体がオペラオーの方を向いてしまい、せっかく広がりかけた会話が潰れたのにアドマイヤベガは兎みたいな耳をしぼったが、オペラオーは気づいていないようだった。
「あ、そうだ。あの~皆さんにお渡ししたいモノが……」
同じく、アドマイヤベガの同期であるメイショウドトウは、そんな彼女らの駆け引きを何となく察した上でトレーナー室に居座っていた!
「その~昨日の帰りに福引券をもらえたので、福引をしてみたんですけど……そしたらこんなのが当たって~」
ドトウがスカートのポケットから取り出したのは、なんと二枚の温泉旅行券だった。
機敏に反応したのはトレーナーである。
「うわすごっ、それ特賞じゃん! まだ当てた人は一ケタしかいないって噂の!」
「は、はいぃ~! すいませんすいません、私なんかが当てちゃってすいません~!」
「いや、別に怒ってるわけではないけど……」
同意するように傍らでオペラオーとアヤベも頷く。むしろコレは日頃不運なドトウを見かねた神さまからのプレゼントと受け取っても良いだろう。
だがドトウはそうは思わなかったようで、
「私なんかが持つのはとてもおそれ多いので、よろしければ皆様にお譲りしようかと……」
「まったくドトウ……君のその謙虚さは美点であると同時に欠点でもあるね」
「……まぁ、くれるというならもらうけどさぁ……」
意外とドケチであるトレーナーはそう言いながら温泉旅行券を詳しく見てみる。
「『
「……日酔温泉?」
名前を聞いたアドマイヤベガの耳がピクリと動いた。
それもそのはず。
日酔温泉は、ウマ娘間で知る人ぞ知る温泉だからである。
曰く、その温泉にいったトレーナーとウマ娘は必ず結ばれる……とのことらしい。
ただの迷信と侮るなかれ。過去にこの温泉に行ったトレーナーとウマ娘は、本当に100%結婚しているのだ。
「…………」
……ドトウには悪いが、コレは利用しない手はない。
とはいえ、トレーナーはともかくとして日酔温泉の噂はドトウやオペラオーも知っている可能性が高い。よって彼女の方から誘うのはNGだ。絶対面倒なことになる。
どうにかしてトレーナーの方から誘わせるor仕方なくという体で一緒に行かせねばならないのだが……。
アヤベが頭をフル回転させていると、そこで幸か不幸か、オペラオーからこのような提案があった。
「ふむ。ならせっかくだ、ゲームで決めるというのはどうだろう?」
全員の視線がオペラオーを向いた。
「……ゲーム?」
全員を代表してトレーナーが聞く。
「そうさ。この券はドトウが当てたのに、ドトウが行かずにボクらが行くというのは不公平だと思わないかい?」
「まぁ確かに」
「かといって、ドトウが行きたがってないのに無理やり行かせるのも酷だ。なら、ちょうど四人いるしボクたちでゲームをして、それによる『罰ゲーム』で温泉に行くことにする、というのはどうだろう?」
「罰ゲームって……」
苦笑いするトレーナー。なるほど、あくまで『罰ゲーム』と言うならば受ける側に拒否権はないしお互いに後腐れなく送り出すことができる。
オペラオーなりにドトウを気遣った末の提案なのだろうが、しかし罰ゲームが温泉旅行券というのは中々シュールだった。
「……仮にそうするとして、なら肝心のゲームは何にするの?」
そこでアドマイヤベガは慎重に聞いてみる。何せ相手はあのオペラオーだ。突拍子もないゲームを提案してくる可能性もある。
「実はもう決めてあるよ」
その質問を予期していたか、フフンと笑ってオペラオーは懐から四角形の物体を取り出した。
それは、
「……トランプ?」
「ああ。これを使って、そうだね……ババ抜きも定番だし、ここはポーカーをするというのはどうだろう?」
「…………」
想像の十倍ぐらい普通のゲームだった。面白いかは置いとくとして、悪くはない提案かもしれない。
どのみち先ほど言ったオペラオーの言葉にも一理はあった。当てた本人のドトウが行かないのに自分たちが温泉旅行を楽しむというのはどうにも気が引ける。
かといってこのままだと両者の譲り合い合戦になることは目に見えているので、なればいっそ運否天賦で決めるのもアリかと思ったのだ。
それに、あのまま考え続けていたとしても上手くトレーナーに誘わせる良い策が出ていたとは思えない。ならば、この『罰ゲーム』に賭けるのも一興かと思ったのだ。
「……私はいいけど」
慎重に言葉を選んでアドマイヤベガが言うと、ドトウやトレーナーも追従してきた。
「僕も構わないかな」
「わ、私は皆さんに従いますぅ~」
「よし、なら決まりだね!」
楽しそうに笑ってから、オペラオーはトランプをシャッフルし始めた。
……さて、どうやらここがアドマイヤベガにとっての勝負所のようである。
「……ところでオペラオー、具体的に罰ゲームはどういう形にするの?」
「そうだね……一応賭けているのは温泉旅行券なわけだし、順当にするなら一位と二位の二人で行くことになるけど……」
「一位と二位に罰ゲーム……」
またもやのシュールな言葉に苦笑いするトレーナーを尻目に、アドマイヤベガは再び考え込んでいた。
今の内に策を立てておかなければならない。
どうすれば、トレーナーと自分のペアで温泉旅行券を手に出来るか……つまり言い換えれば、トレーナーと自分で一位二位を独占できるか……。
レースと同じだ。こういうのは早めの下準備がモノを……。
「ふむ、そうだなぁ。一位二位の人が行くというのも普通で面白くないし、ここは一位と三位の人に温泉旅行券を進呈することにしようか!」
は?
「さて、じゃあ確認するけど。勝負は一回きり、カード交換も一回きり、にんじん類の賭けは無し、そして一位と三位の者は日酔温泉への旅行券を獲得できる、これで良いね?」
「は、はい~」
「僕もそれでいいよ」
「……私も」
オペラオーの確認に生返事をしながら、アドマイヤベガは高速で脳を働かせていた。
何なんだこの状況は。
一位と三位がペアで温泉旅行?当初よりも条件が無駄に厳しくなってしまったではないか。
せっかく罰ゲームという建前のお陰で自然にトレーナーと温泉旅行、それも日酔温泉に行けるチャンスだったのに。
まったく余計なことをしてくれた。後でオペラオーはダートに埋める。
てかちょっと待て。
もしもこれでトレーナーが一位、オペラオーが三位になりでもしたら……。その時はトレーナーとオペラオーの二人で温泉旅行に行くことになってしまうのか?
…………。
「うわっどうしたんだいアヤベさん。ク○リンを殺された直後の悟○みたいな顔になっているけど?」
そんなことだけは絶対に許さない。絶対に、何としても、自分の命に替えてもさせない。
必ず日酔い温泉には自分とトレーナーの二人で行く。
そのためにも、なんとかこのポーカーはアドマイヤベガとトレーナーでワンツーフィニッシュ……いや、ワンスリーフィニッシュを決める必要がある。
「さてと……」
いつの間にかダートに埋められる危機が迫っているのも知らず、オペラオーはトランプの束をシャッフルしていく。
一般に想像される普通のシャッフルを終えてから、ご丁寧にリフルシャッフル(トランプの山二つをV字形に曲げてから一枚ずつ重ねていくアレ)までしていた。
「おいおい、ショットガンシャッフルはカードを傷めるZE☆」
「? 何を言ってるんだいトレーナー君?」
「あ、いやごめん……このセリフ人生で一回は言ってみたくて……」
「ふーん……? まぁいいや、配るよ」
すまん忘れてくれ……と顔を覆うトレーナーを無視して、オペラオーは各自に一枚ずつカードを滑らせていく。
ちなみに皆の位置は、机を挟んでアヤベの対面にオペラオー、左隣にドトウ、そして右隣にトレーナーという形だ。
三枚目のカードが配られたあたりで、アドマイヤベガはこれまでに来たカードをコッソリ手の中で表向きにしてみる。
(……ジョーカーが来てる)
三枚目の時点で、彼女の手札はスペードのQ、ダイヤのQ、ジョーカーとなっていった。
一応知らない方のために解説しておくと、ポーカーにおけるジョーカーはババ抜きとは違い歓迎されるカードである。ジョーカーはワイルドカードという扱いになっており、どんなカードにも化けることができるのだ。
つまりこの時点で、アドマイヤベガの手札はQのスリーカードというわけだ。
出だしとしては申し分ないだろう。だが……。
四枚目のカードを受け取りながらトレーナーを視界の端に入れる。
(自分の手はまぁどうとでもするとして……この場合問題なのはトレーナーの手札よね)
旅行券がもらえるのは一位と三位。つまりトレーナーには、他と圧倒的な差をつけての一位になるか、
麻雀のイカサマなどと違って、ポーカーはゲームが始まった後に相手の手を操作しにくい。
なら……。
「はい、五枚配り終えたよ」
オペラオーの言葉に、他の二人は「待て」を解かれた犬のようにトランプに手を伸ばす。
それを見て、アドマイヤベガは彼らに遅れないように早急に最後の一枚へ手を伸ばした。
だが掴もうとした瞬間、勢いをつけたのがいけなかったのか、彼女は誤ってカルタ取りの要領でカードを思い切り弾いてしまった。
バシン!とウマ娘の筋力によって絶大な推進力を得たカードは、さながら手裏剣のように対面にいるオペラオーの元へと飛んでいく。
「うおおおなんだいっ!? ボクの覇道を転覆させんとする刺客かい!?」
胸に刺さりかけたトランプを寸前で防ぐオペラオー。焦ってるせいか台詞が若干変になっている。
覇王の珍しい素っ頓狂な声にトレーナーとドトウも目を向けた。
現象から一拍ほど遅れて、アドマイヤベガが恥ずかしそうに声を上げる。
「っ、ごめんなさい……ちょっと力んでしまったわ」
そのセリフにオペラオーは意識をカードからアドマイヤベガに移した。
「……悪気が無いならいいけど……トランプゲームで力むことってあるのかい? ましてやアヤベさんが」
「あるわよ」
「あるんだ……」
若干引いたように言いながらも、普通にトランプを手渡しで返してくれる。
なんだなんだ、となっていたトレーナーとドトウもそのやり取りで安心したのか、カードを取り直して扇形に広げる作業に戻った。
「…………」
そんな一連の動作を見てから、アドマイヤベガはフッと息をはいた。
(さすがに不自然だったかしら。でも時間もなくて手段を選んでられる暇はなかったし……一応皆が怪しんでいる様子もないから、作戦としては成功よね)
先ほどカードを弾いてしまったのはもちろん偶然ではなかった。彼女は意図して、わざと弾いたのだ。
とは言っても、弾いたカード自体にはなんの仕掛けも施していない。本命は、カードを飛ばすことでオペラオーのオーバーリアクションを誘発し、皆の注意をソチラに向かわせることだった。
そして思った通りの状況になったので、アドマイヤベガはその隙に手元にあったジョーカーと、まだ手に取られていないトレーナーのカード一枚とを素早く入れ換えたのだ。
入れ換えが完了したら、あとは適当に弁明し誤魔化して終了。
つまり形だけで見れば、アドマイヤベガはトレーナーに自らのジョーカーを移動させたことになる。
(ジョーカーさえ持っていれば、ワンペアは必ず保証される。そうなれば役無しのせいで最下位になることもないし、一位になる確率も上がる。うん、悪手ではない……はず)
手癖の悪さという意味では悪手だけど、と思いながらアドマイヤベガは自分の手札を確認する。
ジョーカーを手放して代わりにトレーナーの元から拾ってきたカードは、何の因果かハートのQだった。
最初の手札で既にQのスリーカードが成立している。経緯を考えると妙な豪運だ。
(……これならとりあえず、一定の強さは保証されるけど……)
口許をカードで隠しながら、目だけを左右に動かしていく。
この場合、問題なのは他のメンバーの手札だ。
温泉旅行券がもらえるのは一位と三位。トレーナーと二人で温泉旅行に行くには、彼が
それによって彼女がどういう手を目指すかも変わるし、場合によっては手を
そのためにも、役を予測しておかなければ……。うん、今さらだけどやっぱり無理じゃないコレ?
(とは言え……まぁこの中でも一番手が読みやすい娘はいるけど)
「じゃ、じゃあ、私は四枚交換で……。えぇ……う~ん……どうしたらいいんでしょう……」
アドマイヤベガが視線を向けると同時に弱りきったような小さい声が聞こえる。
果たして、声の主は左隣にいるメイショウドトウだった。
やはりというかなんというか、今回も彼女は勝負運に恵まれなかったらしい。
というかまず彼女は根本的にゲームの才能自体が無いフシがある。更に運まで悪いのだから、申し訳ないが彼女がゲームで勝てる可能性はほぼゼロと言えるだろう。
あの弱りきった顔と垂れた耳をみる限り、彼女の役は役無しかワンペア止まりと考えて良いだろう。一先ずの最下位は彼女である確率が高い。
となると、手をワンペアに落とせばほぼ確実に三位には入れるか?『Qのワンペア』という若干大きい手なのが気になるが……。
そんな風にアドマイヤベガが方針を固めかけたとき、
「うーん、それじゃあ僕は……あえての交換無しでいくかな」
右隣から聞こえた声に、思わず彼女は顔を向けた。覇王と怒涛からも「おおっ」と声が上がる。
交換無し。
彼女のトレーナーは、不適な笑みを浮かべながら確かにそう言ったのだ。
「ほう……中々大きくでたねトレーナー君……!」
口笛混じりに言うオペラオー。声に出さないだけでアドマイヤベガも同意見だった。
金を賭けないポーカーの場合、カードの交換が戦略の九割を占めるといっても過言ではないハズ。にも関わらずそのチャンスを自ら捨てるというのは……。
「まぁね。だけど最初の手札が結構ツイていて……下手に交換する方が弱くなるかと思ったんだよ」
ツイてる、というのはやはりアドマイヤベガが手札に仕込んだジョーカーのことだろう。結果的にその作戦はプラスな方向に働いたようだ。
トレーナーの言葉はおそらくハッタリではない。
第一、
なので、トレーナーの役が強いモノだというのは間違いないだろう。『下手に交換すると弱くなる』ということは……彼の役はフルハウスかフラッシュ、ストレートか?
なんにせよ、それぐらいの役ならばたぶんトレーナーが一位になる可能性はある。
(なら、最後の問題は……)
対面に座るウマ娘……テイエムオペラオーを見据える。この王冠を被ったふざけた王様こそ最も動きが読めない。
この作戦における最大の障壁と言って良いだろう。後は彼女の動向によるのだが……。
(もし彼女の手札がトレーナーよりも弱そうであれば、私はQを一枚捨ててワンペアで三位に入れるようにする。トレーナーよりも強い役になっているようなら……なんとか交換でそれより更に強い役を作って私が一位、トレーナーを三位にする!)
前者はともかく後者は明らかに無理があるプランなのだが、そろそろ排熱処理が必要なほどフル回転させているアドマイヤベガの脳ではコレが限界だった。
何はともあれ、結局最後の展開はテイエムオペラオーの手札、そしてソレを読みきれるかの勝負になってしまった。
「ふふふ……」
アドマイヤベガの考えを知ってか知らずか、オペラオーは不適に笑うだけだった。そして、『ではボクから行くよ』と五枚のカードの何枚かに手をかける。
「それじゃあ、ボクは二枚交換だ」
そう言ってオペラオーはカードを机の真ん中に積むと、山札から新しいカードを引いていった。彼女の手の動きを全て見逃さないようにしながらアドマイヤベガは顎に手を当てる。
(二枚交換……ということは……)
二枚交換したということは、普通に考えればオペラオーの手札はスリーペアか? ……いやしかし、ポーカーには『キッカー』という役と関係ないカードを一枚手中に残すという───つまりこの場合はワンペアでありながら二枚しか交換しない───テクニックがあると聞いたことがある。
それをオペラオーが行っていたとしたら?
他にもだ。そもそもこの交換でオペラオーの手札がフォーカードにでもなっていたとしたら? トレーナーのフルハウスじゃ勝ち目が無いじゃないか。そうなったらトレーナーは一位になれない。
くそっ、めんどくさい。一体どうすれば……。
「アヤベさん?黙り込んでるけどどうしたの?」
ショートしかけているアドマイヤベガの耳にトレーナーの声が流れ込んできた。
不味い、思考時間もそろそろ限界だろう。早いところカードを出さなければイカサマ諸々を疑われるかもしれない。
……仕方ない。
(論理的に導き出せないなら、オペラオーの性格から推理していくしかない……)
先ほどよりも高速で脳を働かせる。
今考える点は一つだ。どのような意図でオペラオーがカードを二枚交換したのか。
さっき言ったキッカーというテクニックは、謂わば小技だ。オペラオーが、そんな小技をするような性格かどうか……。
考えろ。仮にも彼女と三年間も付き合ってきたのだ。その経験から考えていけば多少は予測がつくが……。
『はいアヤベさん。いつでも一等星を見れるように、ボクの写真を贈っておくよ!』
『はーっはっはっは!ボクが誕生した 輝かしい日を、「覇王記念日」に 制定しようじゃないか!』
『太陽とボク、ふたつの恒星が輝いている……!嗚呼、眩しすぎる……!!』
『さあ、ボクの輝きに酔いしれるといい!』
うん、絶対小技使うタイプじゃないわ。
一瞬で確信を得たアドマイヤベガは、素早く手札のQのスリーカードをワンペアに崩す形でカードを手放した。不幸中の幸いか、引いてきたカードから新たに役が発生することもなく、彼女の手札はQのワンペア止まりになる。
「さて……それじゃあ今から勝負になるね……!」
……とりあえず、今出来る手はコレが精一杯だ。当初の予定通りならば、これでトレーナーが一位、自分が三位となって温泉旅行に行くことができる。もしもオペラオーが一位でトレーナーが二位になってしまっていたら……まぁその時は腹を括ろう。
アドマイヤベガがそう結論付けたと同時に「では……!」とオペラオーが声を上げ、数秒後にピシッ、と表向きにしたカードを机に叩きつけた。それが合図だったように他の三人もカードを出していく。
アドマイヤベガはすぐさま他のカードへ目を走らせていく。
「う、うえぇぇ……ひ、一つも役ができませんでしたぁ~……」
半泣きになりながら出したドトウのカードは、やはりというか役無しだった。恐らくは彼女が最下位になるだろう。
「じゃーん、なんとフルハウスでーす!ジョーカー込みだけど……」
それから平時よりテンション高めに言うトレーナー。恐らく待っている間ずっと披露したくてたまらなかったのだろう。
こちらもまぁ予想通りだ。
「うわぁ~! アヤベさんのトレーナーさんすごいです~!」
「いやーなんか最初の時点でこの手札になっててさ、すこい確率だよねー。……アヤベさんは?」
「……Qのワンペアよ。今のところは三位ね」
『三位』の部分をやや強調して言う。あまり派手さがある役ではないので二人は「おー」と相槌を打つだけに留まったが……。
……トレーナーの表情がどこか変わったように見えたのは気のせいだろうか。
「さて、最後はボクだね……」
無駄にもったいぶった態度を取るオペラオー。
そうだ。問題なのはこのウマ娘だった。
すぐさま、彼女の出したカードへと視線を向ける。
件の、扇形に広げられたカードに描かれた絵は……10、J、K、8、7……あれ?
目が点になりかけたアドマイヤベガの頭頂部に、オペラオーの半笑い混じりでの声が叩き込まれた。
「───いやー、覇王であるボクに相応しい役であるロイヤルストレートフラッシュを狙ってみたんだけどねぇ……残念ながら無理だったよ」
「あなたバカじゃないの!?」
思わずといった風にアドマイヤベガは叫んでしまった。
一体何をしようとしているのだ、目の前のふざけた覇王は。無謀にもほどがある。
恐らくポーカーの役で一番有名なロイヤルストレートフラッシュだが……そんなの作ろうと思って作れるモノじゃない。作るにはよっぽどの豪運か、イカサマが必要になるであろう役だ。
しかも今回の勝負では、ロイヤルストレートフラッシュに必要なQを三枚ほどアドマイヤベガが実質握っていたのだから、そんなの作れる訳がないだろう。
「あのっ……あの私が考えていた時間は一体なんだったの……!?」
受け入れ難い現実だった。まさかあれほど自分が脳を回転させて考えていたポーカーの予想が、こんなバカみたいな展開のせいで崩れるなんて。
しかもちょっと待て。オペラオーまで役無しってことは勝敗は……!?
「えーてことは……僕が一位でアヤベさんが二位で……えっと、役無し同士の場合はどうやって順位を決めるの?」
「んーと……どうやら役無し同士の場合は、お互いの五枚の中で一番高いカードを比べて勝敗を決めるようだよ」
スマホ片手に告げるオペラオー。
「てことは……オペラオーはKでドトウは7だから……オペラオーが三位、ドトウが四位てことになるのか」
「と、ということは、日酔温泉の旅行券は、トレーナーさんとオペラオーさんの物になりますねぇ~……」
チラリとドトウが気の毒そうな感情をアヤベに向けていたのだが、彼女は項垂れてそれに反応する暇がなかった。
……最悪だ。
色々と予測していた展開の中でも最も嫌な展開になった。
終わった。なんで、三女神様はこうも意地が悪い展開を用意するのだ。よりにもよって、あの忌まわしいオペラオーとトレーナーに一緒に温泉に向かわせるなんて……。
「ふふん、やったねトレーナー君! 覇王であるボクと共に温泉旅行に行けるなんて、異世界転生を五回繰り返しても一度あるか無いかだよ!」
「はは……そうかもね」
ああもうダメだ。明日からの生きる希望を無くした。
もういいや。いっそ私の方からダートに埋まりに行こう。それじゃあ、このシリーズはここでサヨナラということで……。
「……あれ?」
もう数秒経てばアドマイヤベガの瞳からハイライトが消失しそうだったのだが、その前に不意にトレーナーが声を上げた。
「どうしたんだい、トレーナー君?」
「ドトウが持ってるその紙……ちょっと貸して」
「ふぇっ?」
顔を上げる気力はアドマイヤベガにはなかったので、声だけを聞いておく。ドトウがチケットを渡しているような空気の動きがあってから、更に数秒ほど経ったあと……こんな台詞が全員の耳に刺さった。
「これ……旅行券じゃなくて割引券じゃん。しかも、有効期限が昨日までになってるし」
『えっ?』
全員の声がハモった。
アヤベは思わず顔を上げ、オペラオーもさすがに驚愕し、ドトウは顔を真っ青にした。
「えっ、そそ、そんなハズは~!!」
慌ててトレーナーの手からチケットを取り返し、近視の老人がするように限界まで顔を近づけるドトウ。
だが、どうやら先のトレーナーの指摘は真実だったらしく……やがてワナワナと震え始め、もはや顔が白にすらなっていく。
「うっ……うっ、ひっく、えぐ……」
「あ、あの、ドトウ……?」
「すびばぜんこんな私で……今から責任取ってダートに埋まって来ますので……」
「おおう早まるんじゃないよドトウ!」
すぐさま彼女を止めにいくトレーナーとオペラオー。やがて室内に「うわーーん!死なせてくださいーー!!」と泣き声が響いててんやわんやな状況になっていく。
その空気の中で、アドマイヤベガはしばらくポカーンとしていた。
だが、やがて現実が飲み込め始めると、
「……あぁ」
ゆっくりと胸を撫で下ろした。
もう先の時間だけで、寿命が五十年は縮んだと思った。
(……ドトウには悪いけど、こんなオチになって良かった……。もしあれで本当にオペラオーとトレーナーで日酔温泉に行ってたら……私どうなってたかわからないし)
頭脳戦(笑)自体は骨折り損のくたびれ儲けみたいな展開になってしまったが、結果的にとはいえ負けたことが有耶無耶になったのだ。この場はコレで良いということにしおこう。
それよりも今は……。
「ちょ、アヤベさんも手伝って! ドトウをなんとか慰める方法を……!」
「うわーーん! やっぱり私なんて愚図でノロマなんですぅーー! タヌキさんにベッドを取られてヤギさんにご飯を取られてればいいんですぅーー!!」
「落ち着きたまえよドトウ!」
さっきまでの頭脳戦はどこへやら。一気に騒がしくなった三人にアドマイヤベガはコメカミを抑えた。
───と、そのときだ。
一時的にクールダウンしたせいか、妙案をアドマイヤベガは思い付いたのだ。
「……ねぇ」
「ん? どうしたのアヤベさん」
「……今週の土日を使って、皆で行かない?」
『え?』
ピタ、と三人の動きが止まった。
「……だから四人でお金を出し合って、皆で日酔温泉に行くっていうのはどう? どのみち、こんな事でもないと温泉なんて滅多に行かないでしょう?」
「……あ。あぁ~、確かに。……それいいかもしれないね」
一度脳内で吟味したような間を挟んでから、トレーナーが最初に口を開いた。
他の皆も顔を見合わせる。
「ふむ……確かに良さそうだ! なんにせよ、この覇王にも休息は必要だからね!」
「わ、私は……その、口を挟む資格はありませんのでぇ……皆さんの意見に従います」
「おお! どうやら反対意見は無いようだね! では、これで決定といこうか! では日時は今週の土日で……」
意見が纏まっていくと、オペラオーが持ち前のリーダーシップのようなものでメンバーを引っ張っていく。
その横でトレーナーも顎に手を当て、
「じゃあ、車は僕が出そうか。一応社会人だからお金は僕が多目に払うとして……あとでサイトから料金見とかないとな」
さっきのポーカーのときよりも明らかに活気が出てきたメンバーの様子に、アドマイヤベガは腰に手を当てながら小さく笑った。
(……まぁ、こういうのもたまには悪くないか)
本日の勝敗結果
『無効試合(前提が無くなったため)』
書き終えてからナリタトップロードがいないという致命的すぎることに気づきましたが、まぁ彼女は伊井野さん枠ってことでいいでしょ(適当)