アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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アヤベさんと夏合宿と肝試し【前編】

 

 僕はトレセン学園のトレーナーだ。担当しているウマ娘はアドマイヤベガこと、アヤベさん。

 今回は割愛するが、彼女に担当トレーナーと認められてから、モフモフしてスベスベしてフワフワしてキュルッとなってかれこれ二年になる。

 

 そんな僕は───というか僕らは現在、

 

 

 

「トップロードさん、いって」

 

「アヤベさんナイストスです! 私がアタック決めますよ!!」バチン

 

「さ、させませんよぉ~! って痛ったぁ~!?」

 

「さすがの顔面セーブだよドトウ! よし、後はこのボクに任せたまえ!!」

 

 

 

 

「いや~眼福ですなぁ。たぶん天国ってのがあったらこういう場所なんだろうなぁ」

 

「同意はするが……ちゃんと審判はしろよオペラオーT」

 

 僕たちはトレセン恒例の夏合宿へと来ていた。七月と八月を丸々使って行われる、ウマ娘間ではものすごく壮大な修学旅行みたいな扱いをされている行事である。

 

 建前上は能力をレベルアップさせるための強化合宿で、実際そのためのトレーニングもこなしているのだが、やはりウマ娘たちも学生というか。

 夏、海、ときて『遊び』が連想されないほどストイックにはなれないらしく(たぶん誰でもそうだが)、トレーニングも一段落したということで彼女らは現在ビーチバレーに興じていた。

 ちなみに審判役はコートの外に立つ僕とオペラオーT(正確にはオペラオー、ドトウ、ヒシアマゾン、ウイニングチケットT)が務めている。

 四人制で、チーム分けはオペラオーとドトウ、アヤベさんとナリタトップロードという中等部高等部コンビで分けられた形だ。

 パッと見ると高等部であるアヤベさんたちが有利のように見えるが、ステータスが常にカンスト状態のウマ娘にとって二年や三年ぐらいの歳の差などぶっちゃけ無いに等しい。なんならセンスに限ってはオペラオーやドトウが若干優れているような面もあって、中々に白熱した試合が展開されていた。

 

 

「アヤベさんっお願いします!」

 

「……決める!」バチン

 

「こ、今度こそ~! 痛ったぁ~!?」

 

「ははっすごいガッツだよドトウ! その君の健闘には、ボクも全力でっ、応えなければねっ!!」

 

 人間の目からは彗星にしか見えないほどの鋭いスパイクが(この中では)小柄なオペラオーの手から放たれる。

 ソレにやはり人間離れした反射神経で反応したトップロードがレシーブしようとするが……腕はギリギリ届かなかった。

 ボールが凄まじい勢いでコートの砂を抉り、彼方へと転がっていく。

 オペラオーTがため息を吐いた。

 

「ほら、アヤベT仕事だぞ。ボール取ってこい」

 

「また僕が行くのぉ? うへぇもうあんなとこまで転がってるし……」

 

「君たちも、ドトウの顔が真っ赤になってるから一旦休憩しようか。ずっと試合続けてて、喉も乾いたでしょ」

 

 ボールを取りに行く僕を尻目に、ウマ娘四人に指示を出していくオペラオーT。

 こういう所はやはり優れたトレーナーらしい。ビーチバレーが始まった当初は

 

『おいすげぇぞアヤベT。この場にはゲーム用のヤツの他にビーチボールが八つもありやがる』

 

 とか真顔で言っていたが(直後にオペラオーを見てから「あっごめん六つだったか」と訂正して即座にオペラオーに蹴られていた)、ちゃんと見るべきものは見ていたらしい。

 ドトウの顔を軽く看てから、オペラオーTは日陰に置かれたクーラーボックスを取りに行く。ボールを取りに行った僕と、オペラオーTが四人の元に戻ったのはほぼ同時だった。

 

「はい、開放~」

 

「うわぁ! すごい!」

 

 オペラオーTがクーラーボックスを開けると、思わずと言ったようにトップロードが声を上げた。その声を聞いてオペラオーTも鼻を高くする。

 

「へへん、どうよ! オレンジジュース、メロン、カルピス、コーラ、にんじん、麦茶、天然水、inゼリー、スポドリ、ポカリ……大体は取り揃えてるぜ」

 

「ほう……さすがはトレーナー君だ! 気が利くじゃないか!」

 

 オペラオーTの担当バの中では最古参に位置するオペラオーが素直に彼を称賛する。クーラーボックス内に冷水と共に多様な飲み物が冷やされている様は、飲み物の畑のようにも見え、確かにこれはオペラオーTグッジョブ案件だろう。

 見てるだけで渇きが癒されそうだ。

 

「あ、ありがとうございますぅ~」

 

 ヘロヘロになったドトウが最初に飲み物を取ろうとしていたが……なぜかそこで我に返ったようにすごすご引き下がっていった。

 

「あっ、い、いえっ、やはり皆さんからお先にどうぞ……」

 

「……別に気にしなくていいのよ、ドトウ」

 

「そうですよ~!」

 

 周りに遠慮して最後尾に回ろうとするドトウをアヤベさんが止め、トップロードが背中を押していく。

 やがて遠慮がちながらもドトウはにんじんジュースを取り、追従してオペラオーはカルピスを取った。そして「いただきますね!」とトップロードはオレンジジュースを、アヤベさんはポカリを飲む。

 各々の個性がよく表れた一幕、チョイスだった。

 

「アヤベTはなんか飲むか? キンキンに冷えてやがるぞ?」

 

「ありがてぇけど……遠慮しとくかな。僕が飲んだせいでアヤベさんたちの飲む分が減ったら困るし」

 

「おおっ、ウマ娘たちのために我慢ができるトレーナーの鑑だな。んじゃ、俺はドトウが飲みかけのまま置いたにんじんジュースを」

 

「死ねよトレーナーの屑が」

 

 ふぇっ!?と震えるドトウに「冗談だって」と笑うオペラオーT。……ぶっちゃけコイツが言うと冗談に聞こえないので、一応コイツの動向には目を光らせておこう。

 

 ……しかし、覇王たちが水分休憩に入ったので、僕は自ずと暇になってしまった。

 仕方ないので、彼女たちがビーチバレーをしていた場所へ移動し、ラインを引き直したりボールの衝突で抉れた地面を均していく。トンボなんて便利なものはないので、(なら)すのは己の足だ。砂がすっごい熱い。

 

 

 

『キャーーッ! スイカが木っ端微塵にーーっ!?』

 

『カワカミさん強く叩きすぎです!』

 

 

『ちょ、オグリ! それ貝やなくてただの白い石や!』

 

『む……見間違えていたようだ。すまない、タマのお陰で助かった』

 

『仮に貝であったとしても殻ごと食おうとする奴がおるか!』

 

 

 

 ウマ娘たちの声を聞きながら作業を続け、粗方終わる頃には体はヘトヘトで汗はダラダラになっていた。

 

「……ホントに暑いな……」

 

 多少の達成感と共に疲労を覚えながら、僕は少し離れたパラソルの下へ避難した。

 なんだかんだ、これ以前からも審判のためにずっと炎天下の元にいたので、服の下は汗まみれで気持ち悪いことになっている。

 

 しかも予報によればこれから更に暑くなっていくらしい。勘弁してくれ。

 六月あたりからもう既に気温は上がっていたし、地球温暖化が進行していることをまざまざと実感させられた。

 

「……やっぱ、飲み物もらっとけばよかったかも。パラソルの下にいても暑い……」

 

「……確かに、暑いわね」

 

「だよねー。もう肌なんか真っ赤で……てうわぁアヤベさん!?」

 

 完全に老人気分で台詞を紡いでいた最中に、隣にアヤベさんがいたことが判明して、僕は思わず飛び上がった。僕が八十歳とかなら今ので心停止していたかもしれない。

 だがそんな僕の様子も知らずに、アヤベさんはどこか不満げな顔を浮かべていた。

 

「……仮にも愛バに向かって『うわぁ』とは失礼ね。そんな急に驚かれると驚くし……気持ちの良いものではないわよ」

 

「あっごめん……。あのさアヤベさん、隣に来るときはせめて一声かけてよ……ホントにびっくりするから……」

 

「かけたハズだけど。あなた、返事もしたでしょ」

 

「えっうそん……」

 

 全然記憶に無いのだが。

 アレか。自分はアヤベさんが隣に来るときだけ限定でボーッとする能力でもあるのか。

 ウンウンと考え込む僕をスルーして、先ほど取っていたポカリをゴクゴクと飲むアヤベさん。

 

「…………」

 

 やはりあれほどの運動量だと、補給しなければならない水分量も多くなりそうだ。……彼女がポカリを飲んでいる最中、上下運動する彼女の喉や水着の上へ垂れていく汗に思わず目が吸い寄せられてしまったのは内緒である。

 誤魔化すように、クーラーボックスのあたりで騒いでいるオペラオーTたちへ視線をそらす。

 向こうの方では、トップロードがオペラオーにスパイクのコツを教わっていたりと、和やかに会話がされていた。

 

(……あれ?)

 

 ……そんな光景を見てると、不意に疑問が出てきた。

 

 オペラオー、ドトウ、トップロード。

 学年は違えど、彼女らはアヤベさんと共に鎬を削るライバルにして……アヤベさんが本心ではどう思っているか知らないが、『友達』と呼んで良い存在のハズだ。

 そんな彼女ら三人が向こうで固まっているのに……何故アヤベさんはワザワザそこから離れた僕の方へとやってきたんだ?

 ……ダメだ。さっぱりわからない……。

 

 日差しから逃げたかったのだろうか?それとも……

 

「……あの、アヤベさん」

 

「なに?」

 

「もしかして、あんまり楽しくなかった?」

 

「は?」

 

 気になってしまった僕が問うと、アヤベさんは心底不思議そうに首をかしげた。

 

「こ、今回のビーチバレーさ、オペラオーが提案してドトウやトップロードが賛成したから、アヤベさんも無理やり誘ったみたいになっちゃったからさ……。もしかしてアヤベさんは、本当は皆と馴れ合ったりするのは嫌だったんじゃないかなって……」

 

 今でこそ改善されてきたとはいえ、元々アヤベさんは本質的にストイックなところがある。明確な遊びの時間ならともかく、こんな自由時間は、どちらかというと一人で過ごして黙々と自主練したかったのかもしれない。

 そのあたりを懸念して僕は聞いてみたのだが……

 

「……バカじゃないの?」

 

「えっ」

 

 アヤベさんは目を細くして答えた。

 

「……別に、本当に嫌だったらこうして付き合っていないわよ」

 

「で、でも、気を使ってるんじゃ……」

 

「……仮にそうだとしても、ここまで付き合わせておいてそれを聞くのって、すごく今更だと思うけど」

 

「あっ。あはは……確かに。ご、ごめん……」

 

 咎めるように細められたアヤベさんの目に苦笑い半分と罪悪感半分で応える。

 やはり気を使わせてしまっていたのだろうか……。

 だが僕の心配を他所に、アヤベさんは口許に小さな笑みを浮かべると、

 

「別に、気にしなくていいわよ。……誰かさんのお陰で、最近はこういうのも悪くないと思い始めてきたから」

 

「……えっ。それって……」

 

「おーーいアヤベさーーん!! そろそろ試合の続きを始めるよーー!!」

 

 僕が聞き直そうとした矢先に、オペラオーからの知らせが飛んできた。

 やむ無く二人の意識はソッチの方へと向かい、アヤベさんは「今行くわ」と言ってもう一口だけポカリを飲み、パラソルの下へ置いてから彼女たちの元へと向かいだした。

 だが、去る直前にアヤベさんは何故か立ち止まると、半分だけ視線をこっちに寄越して言った。

 

「……それ、飲んでいいから」

 

「? それって?」

 

「……そのポカリ」

 

 アヤベさんの言葉で気づく。

 さっきまで彼女が……口をつけて飲んでいたポカリ。……まだほんの少し残っていた。

 

「あなた、何も飲んでなかったでしょ。そのままじゃ熱中症になるわよ」

 

「ああいや、大丈夫だよ。別に僕、今日はそれほど運動してないし」

 

「……あなた、夏嘗めてるでしょ。私が練習してるときは水分補給を徹底させるクセに。無理せず飲んでなさい」

 

「で、でも君たちが飲む分が減ったら悪いし……第一これ飲みかけ───」

 

「いいから飲んどいて。あなたに熱中症になられると、そっちの方がめんどくさいから」

 

「アッハイ」

 

 念押しするように言った後、彼女はさっさと同期たちの元へと歩き去ってしまう。

 

 そしてその場には、男である僕と飲みかけのポカリだけが残った。

 

(の、飲む? 飲むってなに……。第一コレ飲んだらか……間接キスだし……アヤベさんはどういう感情で言ったの!?)

 

 否が応でも視線が引き寄せられ、最低な意識をしてしまう。

 

 ……だが、この暑さで喉が乾いているのも事実。熱中症になったらもっとめんどくさくなるのも事実だった。

 

「……あーもうっ」

 

 やむなく、僕は多少こぼすのも覚悟で、高校生以来の滝飲みをする羽目になった。

 外の気温でややぬるくなった液体が、舌に直接当たりそれから喉へと流れていく。水は少ししか残ってなかったから、水分補給は一瞬で終わった。

 

「……ふぅ」

 

 あまり飲んだ気がしない水分補給を終えてからふとアヤベさんを見てみると、なぜかコチラを見ていた彼女とバッチリ目が合った。

 そして……一瞬だったので確証は持てないが……僕と目が合った彼女は、どこかつまらなさそうな顔をしながらすぐにそらしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 合宿所での晩ご飯を済ませ夜となる。

 朝のセミの声が嘘のように静まり返った合宿所前に、ウマ娘たちとトレーナーが集結していた。

 彼らの前には、学校の朝礼で校長先生がよく乗っている台のようなものがあり、今その台には伝説のシンボリルドルフのトレーナーが乗っている。

 彼はマイクの高さを調節してから、コホンと大袈裟に咳払いした。

 

 

「あー。あー。よし、ではこれより、皆様お待ちかねトレセン合宿恒例の、肝試し大会を開催したいと思いまぁす!」

 

『いえええええいっ!!』

 

 

 ルドルフTの言葉に待ってましたとばかりにウマ娘たちが声をあげた。冷静にその声が収まってから、ルドルフTは説明を開始する。

 

 

「ルールは簡単。ウマ娘とウマ娘、もしくはウマ娘とトレーナーで好きに二人組を組んで、この合宿所の裏にある森を回ってきてもらう」

 

 

 森……所謂『裏山』って感じの場所のことだ。結構広くて道も入り組んでいるから、歩き回るのは意外と難しい。

 ……一部では、そこで道に迷ってしまい合宿所にも戻れなくなって死んでしまったウマ娘の霊がいるとかいないとか……。

 

 

「折り返し地点……所謂チェックポイントには係員がいるから、その人にお札を一枚もらってここに戻ってくるんだ」

 

 

 デモンストレーションか、傍らに立っていたシンボリルドルフからそのお札を受け取り一同に見せるルドルフT。

 お札には赤い字で大きく『呪』とあり、周りにも謎の文字や記号のようなものが書かれている割と本格的なモノだった。夜道で見る分には中々に怖いかもしれない。

 

 

「くれぐれもショートカットとかはせず、ちゃんと正規の道を行けよ? ズルしたらすぐわかるからな。……ちなみにトラップやお化け役の人たちには徹底した消臭をしているから、ウマ娘たちは匂いでトラップを先読みしようとしても無駄だからな~?」

 

 

 意地悪げな言葉に一部から「えっ嘘!?」という声が上がる。……どうやら主催者側の予想通り、一部の参加者にはウマ娘の嗅覚を当てにしようとしていた者がいたらしい。

 一通りムカつく顔でウマ娘たちを嘲笑っていたルドルフTだが、「とはいえ」と今度は表情を引き締めるとまた咳払いをした。

 

 

「せっかくの合宿なんだ。楽しく始めて楽しく終わりたいのは俺ら主催者側も同じ。だからくれぐれも怪我や間違いが無いように、思い出作ろうじゃないか! 夏合宿はトレセンにいれば六回はあるけど、今年の夏合宿は一回しかないんだからな!」

 

『おおおおおっ!!』

 

 

『皇帝のトレーナー』の面目躍如と言うべきか、参加者たちから歓声と拍手が起きる。

 ホッとした顔でマイクを下ろすルドルフTと、その肩に手を置いて笑いかけるシンボリルドルフが印象的だった。

 そのまま彼からマイクと役割を引き継いだシンボリルドルフが指示を出していく。

 

「それでは、これより十分ほど時間を取ろう。組めた者たちから、向こうの方へ並んでくれ」

 

 それと同時に、参加者たちは魚の群れのようにうごめき始めた。

 

 

 

 うごめく中で、さて僕はどうしたものかと辺りを見回した。

 正直、この夜になるまで肝試しの存在など忘れていたので、誰と組むかなど決めていない。

 僕はアヤベさんしか担当していないから、彼女以外のウマ娘と組むのは無理だろうし……同僚のヒシアケボノTは愛バのヒシアケボノとラブラブで向こうの列へ並びにいった。爆ぜろ。

 ……いや、ね?もちろん叶うのなら、僕だってアヤベさんと組んでみたいのだが……。

 

(でもまぁ……たぶんアヤベさんは僕なんかとは組みたがらないだろうなぁ……。青春真っ盛りだし、オペラオー達の内の誰かと組みたいだろう)

 

 あまり他人と馴れ合うことを良しとせず、孤独に生き続けていたアヤベさん。

 そんな彼女が今、明確に『ライバル』として認めるウマ娘が出てき始めている。

 

 ……ほんの少し寂しいと思ったりもするが、ちっとも悪いことだとは思わない。むしろ良い兆候だろう。

 なれば、そんな彼女の歩みをイイ歳した大人が邪魔するわけにはいかない。

 密かな決意を胸に抱いていると、背中にかかってくる声があった。

 

「なぁ~……アヤベT……」

 

「ん、オペラオーT。どうしたんだ?そんなヘトヘトになって」

 

「それがよ~……さっきまで俺の愛バたちに『肝試し一緒に組まないか』て聞いて回ってたんだけどさぁ……だーれも組んでくれなかったんだ……」

 

「……まぁ残当だな。むしろ何で組んでくれると思った」

 

「俺の何がダメなんだよ……声は申し分ないハズだぞ?」

 

「言葉遣いを直せ」

 

 ブレないオペラオーTの様子に呆れ半分となるが……彼のお陰で僕もボッチにならないで済みそうだし……まぁ良しとしてよう。

 

「……じゃ、僕らで組もうか。僕もちょうど相手がいないところだったし」

 

「なんだよ……お前も俺と同類だったんじゃないか」

 

「お前と一緒にするな。あらゆる意味で」

 

「てーことは……今頃ドトウやアヤベとで組んでたりすんのかなぁ……くひひっ、それはそれでいいけどぉ……」

 

「愛バ同士の仲が良いのも考えものだね」

 

 こうして余り物同士くっついた形で出来たペアで、僕とオペラオーTはシンボリルドルフが指導している列の元へと歩いていく。

 

「じゃあ順番待ってる間暇だし、ウマ娘の名前でしりとりでもするか」

 

「別にいいけど」

 

「ほんじゃ、最初はテイエムオペラオーの『オー』からで……」

 

 そうして歩いていこうとした時だった。

 不意に背中に鋭い視線を感じた。レーザー光線か何かだったら、そのまま僕の背中を貫通して前にある森まで通過してるんじゃないかというほどの鋭い視線だった。

 心なしか背中に熱を感じながら振り返ってみる。

 

 

「…………」

 

 

 アヤベさんがいた───ような気がした。

 気がした、としているのは彼女の姿を捉えたという自信がないからだ。

 僕が振り向いた時、一瞬だけこちらを見るアヤベさんの顔が見えたような気がした。

 だけど、今は彼女の姿は見当たらない。ただペアを組もうと歩き回るウマ娘がいるだけだ。視線をあちこちに散らしてみるが……言ってはなんだけとアヤベさんはそれほど目立つウマ娘ではない。

 体も細くて小さい方だし……耳が大きいウマ娘だって意外といる。

 何よりこの人混みだ。彼女の場所を特定するのはほぼ不可能だった。

 

「なにしてんのアヤベT? 早くいくぞー」

 

「あ……うん」

 

 不審に思わなかったわけではない。だが、こちらからアヤベさんを見つける手段が無い以上、探しても仕方ないしここに居続けても邪魔かと考えたのだ。

 だから僕は、一応後でアヤベさんに話を聞いてみることを決めてから、順番待ちの列に並びに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 所変わって、アヤベTたちとほぼ反対の場所に位置する広場では、オペラオー、ドトウ、トップロード、そしてアドマイヤベガの四人が集結していた。

 

「アヤベさん、どうしたんですか?」

 

 その内の一人、ナリタトップロードがアドマイヤベガに訊く。

 ほんのついさっきここに集まったばかりなのだが、彼女の目からは、アドマイヤベガがどこか……気落ちしているように見えたのだ。

 当の本人は

 

「別に……なんともないわよ」

 

 といつもの調子で言っているが……。やはりどこかボーっとしているような気がして、トップロードは首をかしげる。

 ……その視線はどこか……既にペア成立した者たちが並んでいる列に向けられているような……。

 

 

「さて!」

 

 

 ───と思いかけたところで手を叩く音がウマ耳に届き、二人は音の主へと目を向けた。

 

「皆も揃ったことだし、そろそろペア分けといこうか!」

 

 この『オペラオー軍団』(非公式)である四人を纏めるリーダー格(非公認)、テイエムオペラオーが高々に音頭を上げた。

 その様にドトウは「はい~」と遠慮がちに続き、トップロードは「おー!」と元気よく腕を上げ、アドマイヤベガは無言で腕を組みながら三人に歩み寄った。

 どうやら彼女らは『特に事情が無ければこの四人でペア分けする』というのを予め決めていたらしい。そしてその『特別な事情』とやらが誰にも起きなかったので、こうして集まれたわけだ。

 

「あの~今さらですけど、トップロードさんは自分のトレーナーさんと組まなくて良かったんですかぁ?」

 

「大丈夫ですよ!」

 

 おずおずとしたドトウに落ち込んだ様子なく答えるトップロード。

 彼女と彼女のトレーナーの仲が良いというのはそれなりに有名な話であり、ドトウはそんな二人の仲の邪魔をしてしまったのではないかと心配しているようだ。

 

「そもそもトレーナーさんは怖がりだから、私と組むのにあんまり乗り気じゃなかったみたいで……。『仮装のお化けにガチビビリする様をトップロードに見られたら、たぶん男としてのプライドが死ぬ』と言われてしまって……」

 

 その時を思い出しているのか、トップロードは苦笑いしながら頬を掻いた。

 続けてボソッと、

 

「……別にカッコ悪いところなんて私の方がたくさん見せてますし、今さら怖がりなことぐらいでトレーナーさんを嫌いになんかなりませんのに……」

 

「……トップロードさん?」

 

 他人の機微には鈍感な方のメイショウドトウだが、それでも今のトップロードの瞳が……恋する乙女のようなモノになっているのがわかったらしい。藪をつついてハムスターが出てきてしまった時のような、どう反応していいかわからない微妙な表情をしている。

 ちなみにそんなトップロードの様子を、端からアドマイヤベガが複雑そうな羨ましそうな顔で見ていたのは誰にも気づかなかったようだ。

 

「コラコラ君たち、盛り上がるのはいいけど、そろそろ決めないと時間が無くなっちゃうよ?」

 

 こういう時に良い意味で空気を読まないオペラオーは重宝される。

 彼女の呼び掛けで、それぞれ悶々としていた三人はまた輪を構成し直した。

 

「でも、どうやって決めますか~?」

 

「学年で分けるのは、昼のビーチバレーでもうやっちゃいましたし……」

 

 ドトウとトップロードの言葉に「ふむ……」と考え込んでいたオペラオーは、やがて指を鳴らした。

 

「では、『グーとパーで分かれるアレ』で決めるのはどうだろうか?」

 

「『グーとパーで分かれるアレ』って……アレのこと?」

 

 怪訝そうにアドマイヤべガは左手でグーを、右手でパーを作るジェスチャーした。

 

「そのアレだよ! これなら手早く平等さ!」

 

「……まぁ確かに」

 

「そうですねぇ~。それでしたら私でも……」

 

「時間も無いですし、ソレにしましょうか!」

 

 どうやら決定されたらしい。時間がないのも事実なので、四人はすぐさま準備をした。

 

「それじゃあ行くよ……」

 

 全員が頷いたのを確認して、オペラオーは小さく笑みを浮かべる。

 そうして、四人同時に掛け声を上げた。

 

 

 

「グッパでホイ!」(オペラオー)

「グーとパーで合った……え?」(ドトウ)

「グッパで分かれま……え?」(トプロ)

「グッパで組んでも文句な……え?」(アヤベ)

 

 

 掛け声は見事にバラバラのメロディを奏で、オペラオー以外の三人は出す前に手がこんがらがってしまった。

 そしてそうなったことにより、また綺麗にペアが分かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───そこからさらに離れた場所にて。

 

 

 

「…………」

 

「おや、どうしたんだいカフェ?寒気がするのなら、私が調合したこの『体温を急上昇させる薬』を……」

 

「……いりません」

 

「残念だ。チャンスかと思ったのにねぇ……」

 

「……タキオンさんは」

 

「ン?」

 

「この山に関する噂を知っていますか?」

 

「君の言う『噂』がどの噂のことを指しているかは知らないが……一つは知っているね」

 

 

 話が話だからか、タキオンはいつもの怪しげな笑みをほんの少し引っ込めた。

 

 

「かつてこの山で、未来あるウマ娘が不幸にも……という話だ」

 

「……その話で相違無いです。……かつてこの山で皆とはぐれてしまい、孤独のまま死んでしまったウマ娘の噂……。その彼女の思いが今一瞬、視え(・・)てしまったような気がしたんですけど……」

 

 

 そこまで言って、マンハッタンカフェは目を細めた。

 

 

 

「……何事も起きなければ良いのですが」

 

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