アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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アヤベさんと夏合宿と肝試し【中編】

 

 むかーしむかし。

 ウマ娘なる存在がようやく人間に受け入れられ、本格的にウマ娘が「社会」に組み込まれてきた頃の話。

 その事件は、トレセン学園二回目(・・・・・・・・・)の夏合宿にて起こった。

 当時のとあるウマ娘とそのトレーナーが、合宿の肝試しにてチームを組んだ。しばらくは二人とも順調に進んでいたのだが、そのウマ娘が不注意によって、肝試し中にちょっとした崖から落ちてしまったのだ。

 しかし、トレーナーは一瞬の出来事だったのもあってそれに気づかず肝試しを続行してしまい、彼女がいないことに気づいたのは合宿所についた後だった。

 慌てて学園総出でウマ娘を探したのだが、その日からの連日の悪天候も相まって捜査は難航……結局ウマ娘が見つかったのは五日後……それも◯体としてだった。

 なお、そのウマ娘は落下の衝撃ゆえか、右足の骨が折れて皮膚を突き破っていたらしい。この怪我のせいで歩くこともできず、痛みで声をあげることもできなかったようだ。

 発見された時には、右足は長時間の雨も相まって壊死しかけていたらしい。なのでやむなく回収時には右足は切断したんだとか。

 

 トレーナーは悲しみ後悔したが、それ以上に青くなったのはトレセン関係者だった。

 なにせようやくニンゲンとウマ娘が共に歩み出した瞬間でのこの事件である。

 ましてやニンゲンとウマ娘の共存の象徴であったトレセン学園での事件。そして事情はどうあれ、第三者から見れば『ニンゲンがウマ娘を見◯した』とも捉えられかねない事件内容。

『使われ方』によってはどんな騒ぎも起こりえた。

 なので苦渋の決断として、トレセンはこの事件をひたすらにもみ消すことを選んだ。マスコミへの情報規制と徹底的な口止めにより、なんとかこの件を『行方不明事件』として処理しきった。

 だがそれは、◯んだウマ娘にとっては到底許せるものではなかった。

 

 幽霊として蘇った彼女はすぐにでも関係者に復讐しようとした。だが、彼女はウマ娘の命である片足を切断されており歩けなくなっていた。

 だから、彼女の霊は未だにこの山に留まっている。自身の右足を取り戻すために。

 

 

 ……月が綺麗な夜、もしも『彼女』と出会ってしまった場合は、すぐに逃げた方が良い。

 さもなくば……彼女に襲われ、耳元でこう囁かれるからだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アナタのその右足を私にちょげっ……ちょうだい?』 てなぁ!」

 

 

「うーん最後に噛まなければ完璧だったのになぁ」

 

 

 懐中電灯でセルフツッコミをかましながら、僕はため息を吐いた。

 

 前置きが長くなってしまったが、僕はトレセン学園のトレーナーだ。担当しているウマ娘はアドマイヤベガこと、アヤベさん。

 現在、僕はオペラオーTと共に裏山で行われている肝試しに参加している。

 あの後シンボリルドルフが指示を出していた列へと並び、やがて順番がきたので出発した。

 裏山自体は僕らも何度も歩いているので道に迷うこともなく、無事にチェックポイントを通過してお札をもらい順調に歩いていた。

 だが、そこでしばらく幽霊が出ないゾーンに入ってしまい、暇になったオペラオーTがおもむろに怖い噂を話し始めた、という流れだ。

 ……そして、最後の一番大事な部分でこの語り部は噛みやがった。勝手に台詞を改変されて、そのウマ娘もたった今無念の思いが強まったであろう。

 

「ていうか、なんだよその噂。トレセンのことは前からそれなりに調べてたけど、僕はそんな噂聞いたこと無かったぞ。最近になって誰かが作った創作なんじゃないのか?」

 

「くひひっ、わかってねぇなぁ。その『最近まで噂になってなかった』てのがミソなんじゃねぇかこの話の」

 

「どういうこと?」

 

 ピッ、と指を立てるオペラオーT。

 

「最近まで噂になってなかったってことは、『それまでは情報規制がしっかりしてた』とも考えられるじゃねぇか。トレセンがもみ消してたっつー証拠だろ?」

 

「……確かにそうかもしれんけど……じゃあなんで今になって流行り出したんだ?」

 

「そこは……ホラ、壁に耳あり障子に目ありで流出したんだろ」

 

「なんでそこは適当なんだよ……」

 

 どうやら噂としてはターボばあちゃんやメリーさんと同程度の信憑性らしい。結局、陰謀論みたいなものか……。

 

「まったく……やっぱり誰かの創作だろ」

 

 呆れ半分で僕がまたため息を吐こうとしたときだった。

 

 目の前の暗がりから、ボソボソと何か音がしていることに気づいたのは。

 

 

「蹄鉄がひとぉつ……ふたぁつ……みぃっつぅ……」

 

 

 音と共に、どこからか掠れた声が聞こえて来る。日本昔話アニメのアフレコにも使えそうな、オドロオドロしい声質である。

 

 

「やぁっつぅ……ここのぉつ……無いぃ……何度数えても、ウマ娘が使う蹄鉄が一つ足りないぃぃぃ!!」

 

 

 次の瞬間、木の影から長い髪の毛を振り乱し白い衣装を着たウマ娘が現れた。

 恐らく、お化け役のウマ娘だろう。

 

「うおっ、びっくりした」

 

 急に出てきたので、僕の心臓は割と跳ねた。

 

 ……が、言ってしまうとそれだけだった。ぶっちゃけ僕はお化け関連は結構大丈夫な人種なので、ここまでのトラップもあまり驚いてはいない。

 

 たぶんオペラオーTも自分も同類だと思い、彼に話を振ってみる。

 

 

「……前から思ってたんだけどさ、これってウマ娘の霊なの?それとも管理し損ねたトレーナーの霊なの?オペラオーTはどっちだと思u」

 

「ウワアアア!! 幽霊だコワイイイイ!!」

 

「ちょっ」

 

 

 ホラーゲームの実況者みたいなオーバーリアクションを取りながら目を瞑るオペラオーT。そのあまりの怖がりように、僕は内心ドン引きしてしまった。

 おそるおそる女の子みたいな格好で座り込んだオペラオーTに、目線の高さを同じにする。

 

「おい、オペラオーTどんだけ怖がってんだよ。お前ってそんなに霊の類い苦手だっけ?」

 

「いや、別に苦手ってわけではないけど」

 

 小声で話しかけると、オペラオーTはさっきまでの声が嘘のようにケロッとした表情で答えた。

 

「じゃあなんだそのオーバーリアクションは。これからリアクション芸人として売り出してくのか?」

 

「バッカやろうお前……! 愛しのウマ娘ちゃんたちが頑張って俺らを怖がらせようとしてんだぞ? ……だったら、此方も驚かねば……無作法というもの……だろ?」

 

「気持ちはわかるが……お前が驚きすぎてるせいでお化け役の娘が若干引いてるように見えるんだが」

 

「気のせいだろ。……てか、お前はお前でよくそんな驚かずにいれるな」

 

「まぁ僕お化けは結構耐性あるし……ゾンビは無理だけど」

 

「変なヤツだなお前」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

 気づけばすっかりいつものペースで駄弁り始めた時、新たなリアクションをしない僕らに業を煮やしたか、お化け役の娘がまたオドロオドロしい声を上げた。

 

「う、うがあああ!! 蹄鉄が一つ足りないんだよおおお!! これじゃ出世に関わるううう!!」

 

 ……どうでもいいが、口調から察するにどうやらトレーナーの霊のようだった。しかもかなり世知辛い事情を抱えているらしい。

 

 

「おっと。お化け役のウマ娘ちゃんに撮れ高を意識させてしまうとは。いやートレーナーとして不甲斐ない。PCだったらログアウトしたい……と。ギャアアアアア出たアアアア!!」

 

「また給料減らされるうぅぅぅ!」

 

「ヒイアアアアアア!!」

 

(なんだよこの茶番……)

 

 

 三流ヤラセ番組の撮影現場みたいな空気と化した肝試しに、思わず僕は頭を抑えた。

 すると、リアクションが薄いと判断したのか、横目でチラと僕を見たオペラオーTが出し抜けに

 

 

「キャー怖いよアヤベT助ケテェェェ!!」

 

「っ!? お前急に抱きついてくんなよ気持ち悪い!!」

 

 

 同い年ぐらいのイイ歳した男が思い切り僕の首に手を回してきた。

 お陰であらゆる意味で首に鳥肌が立った。

 

 

「うごおおおおお!!」

 

「ヒャアアアアアア!!」

 

「耳元で叫ぶなああああああ!!」

 

 

 僕らの肝試しはホラーもへったくれもなく、ただカオスなものとなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

『ウワアアア!!ユウレイダコワイイイイ!!』

 

 

 

「ん?」

 

 肝試し全体の道の四分の一を抜けたあたりにて。

 オペラオーは不意に立ち止まり、その小さな耳をピコピコと動かした。

 

「……どうしたの?」

 

「今、ボクのトレーナー君の声が聞こえた気がしたのだけど……」

 

「……さぁ? 私には聞こえなかったけど」

 

 本当に聞こえなかったようで、オペラオーのペアであるアドマイヤベガは不審な顔をして言った。

 

「おかしいな……。ボクが海外の舞台に進出した暁には、英語版の吹き替え声優を任せられそうなほどのあの爽やかな声は聞き間違えようがないのだけど……」

 

「バカなこと言ってないで早く行くわよ。あ、あとそこにコンニャクあるから気を付けなさい」

 

「うおっ!?ぼ、ボクとしたことがコンニャクに当たってしまうとは……!いやしかし!この覇王にコンニャクというアンバランスさがまた美しく……!」

 

「……置いてくわよ」

 

 軽い段差を猫のようなしなやかさで乗り越え、アドマイヤベガはさっさと歩き去ってしまうので、「ああっ待ちたまえよ!」とオペラオーは慌てて後を追った。

 ……どうやら鉄の心臓の持ち主で大抵のことには動じないアヤベと、お化けとトラップの一つ一つに大袈裟なリアクションを取っていくオペラオーは、あまり相性が良くないようだ。

 

 

 公平なグッパの結果、アドマイヤベガはオペラオーと組むことになってしまっていた。『グッパ』の部分で手がこんがらがったのもあってアヤベはゴネようかとも思ったのだが、他の皆が盛り上がり淡々と進んでいく様子を見ると抗議も諦めたようだった。

 ちなみに、トップロードとドトウのペアは彼女たちよりも少し早く出発している。

 

 

「…………」

 

 オペラオーが懐中電灯で先を照らす係という形で二人並んで歩く。二人の体の距離は、くっついているわけでも離れすぎているわけでもない、微妙な隙間が空いていた。

 

「……ていうか、あなたのトレーナーって英語そんなにできるの?」

 

 先の話を『バカなこと』として切り捨てた割には、ちゃんと聞いていたらしい。アドマイヤベガはふと気になって問いかけていた。

 あのテイエムオペラオーが、『自分の代役』を誰かに任せようとしているのが、アヤベ的には気になったのかもしれない。

 彼女の知るオペラオーならば、『ボクの代役なんてボクにしか務まらないさ!』と即興で覚えた英語で吹き替えをこなしそうだったし。

 

「ああ、そうみたいだよ。どうも、ボクのトレーナー君は何年か前にアメリカへ行っていた時期があるようでね」

 

「アメリカ? なんで?」

 

「さあ? 勉強のため、としか教えてくれなかったよ。ともあれ、彼の英語の発音は見事なモノだよ。ほぼネイティブと相違ない」

 

「……意外と高スペックなのね、あの人」

 

 以前、アドマイヤベガのトレーナーが研修に行ったとき、彼女はオペラオーTの元に預けられたことがある。その時のオペラオーTはあまりキレ者な一面は見せていなかったように思うが……。

 それとも、仮にも『ライバルの尖兵』である自分に余計な情報を与えないように爪を隠したのか。

 

「少し前の、各界隈のお偉いさんとパイプ……親交を深めるために開催したパーティーにも、あのトレーナー君平然とアメリカのウマ娘レース委員会の人を呼んでいたからね……」

 

「……なんでトレーナーやってんの?その人」

 

「あれはさすがのボクも少し引いたよ」

 

 言いながら、獣道に立て掛けられた矢印看板を見つけ「コッチだ」とオペラオーは先導していく。

 その途中、

 

 

 

『ミミモトデサケブナアアアアアア!!』

 

 

 

「……ん。今トレーナーの声が聞こえなかった?」

 

「えっ? トレーナーって、アヤベさんのかい?いや、聞こえなかったけど……」

 

「……確かに聞こえたわ。覚えがある声だもの」

 

「よく聞こえたね……ボクは本当になにも聞こえなかったけど……」

 

 頭の上にある耳に手を添えて音を拾おうとするオペラオー。だが、彼には聞こえなかったようだ。

 もしくは、音は聞こえたがそれがアヤベTの声と認識できなかったのかもしれない。

 ……ちなみに余談だが、人間はどんな喧騒の中でも、知っている人や親しみを感じている相手の声は三割増しで聞こえやすくなるんだとか。あくまで余談だが。

 

 

 

 そのまま二人で歩いていたとき、ふと思ったようにオペラオーは言った。

 

「……ふむ。今さらだけど、アヤベさんと二人でこんなに話したのは、実は初めてかもしれないねぇ」

 

「そうかしら?」

 

「そうとも。大抵は間にドトウが挟まってるからねぇ」

 

「……そうかも」

 

 回想してみて、確かにとアドマイヤベガも思った。

 これまでライバ……いや、『競走相手』(あくまで。あくまでだ)として二人で争ったことは多々あれど、完璧に二人だけで話したことはあまりない。

 普通に話していると、案外和やか……とまではいかないが、険悪な雰囲気にはならずに会話を続けられていることをアヤベは若干意外に思った。

 

 まぁそもそも、彼女も別にオペラオーが嫌いなわけではない。ただ「疲れる」だけなのだ。いや、ちょっと、ホントに。

 あの時折混じる独特なノリにアドマイヤベガは乗り切ることができず、結果として途中で頭が痛くなってしまう。

 逆に言えばあのノリさえどうにかしてくれれば、アヤベからオペラオーへの不満は別に無い。

 

 むしろ競走相手としては申し分ないし、自分では想像もつかなかった新たな観点から言葉をくれたりもするから───

 

 

「よし、ここはちょうど良い機会だ。かねてよりアヤベさんに聞きたいことがあったんだよ」

 

「……なによ」

 

 

 ようやく自分の中での『オペラオー評』がまとまりだしてきてたのに、水を差される形となり不機嫌になる。

 だが、そんな彼女の不満を気にした様子もなく(こういう所は嫌いだ)、オペラオーはいつもの芝居がかった口調で告げる。

 

「いや~。さすがのボクも、日頃は遠慮してあえて聞かないようにしている質問なのだが……このシチュエーションに思いきって聞いてみようかと思ってね」

 

「……驚いた。あなたに『遠慮』なんて感情あったのね」

 

「それぐらいあるとも!」

 

 失敬な!と言いたげにアドマイヤベガを睨むオペラオーだが、ぶっちゃけそう思われても仕方ない気がする。

 アドマイヤベガはため息をはいた。

 

「……で、なに? 質問なら早く済ませてほしいのだけど」

 

「ふふん。それはね……!」

 

 

 腕を組みながらアヤベが続きを促すと、オペラオーはためのつもりか、顎に手を当てながら横を向いた。

 その様にまたため息を吐きつつ、アドマイヤべはオペラオーと反対の方向に顔を向ける。

 

 そして次の瞬間。

 

 

 

「あっ───」

 

 

「ズバリ! 君は自分のトレーナー君のことをどう思っているんだい!?」

 

 

 

 ズビシィ!と犯人を詰める時の探偵のごとく、オペラオーはアドマイヤベガに人差し指を突きつけた。

 その追求を受けたアドマイヤベガの反応はというと───

 

 

「……あれ?」

 

 

 反応がなかった。

 

 

 ……より正確に言うと、誰もいなかった。

 先ほどまでアドマイヤベガがいたはずの地面には、影も形もなかった。

 

 

「……え?」

 

 

 もう一度、オペラオーはポカンとした声を上げる。

 その声は、周りに誰もいない森の中へと溶けていった。

 

 

 

 一瞬の内に、一人のウマ娘がオペラオーの視界から消え去っていた。

 

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