アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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アヤベさんインベッド

 

 僕はトレセン学園のトレーナーだ。担当しているウマ娘はアドマイヤベガこと、アヤベさん。

 今回は割愛するが、アヤベさんに女性観ならぬウマ娘観を色々と破壊されて、かれこれ二年になる。

 そんな僕は現在、自宅にて歯軋りしていた。

 

 

「ウマ娘が792人……ウマ娘が793人……ウマ娘が794人……」

 

 

 理由は簡単。眠れないのである。

 

 やってしまった。

 今日は日曜日だったので、豪快に昼まで寝てしまったのだ。そして、そこから特に外に出るわけでもなくカップラーメン食べたりアニメ見たりして、全くエネルギーを消費せず夜になりまた適当に飯と風呂を済ませた。

 こんな生活だったのに定時に布団に入ってそのまま眠れるわけがない。

 

 ついさっき暗い部屋で目をこらして見ると、時間は既に布団に潜り込んだ時から四十分以上経っていた。

 

 いかん。

 これ以上眠れないでいると確実に起きるのに支障をきたす。明日も普通に仕事があるのだ。

 なんとしても寝なければ。

 

「ウマ娘が803人……ウマ娘が804人……ウマ娘が806……じゃない805人……あれ、どっちだったけ。えーと……ああもういいや。ウマ娘が805人……」

 

 さっきから脳内でウマ娘を数えてはいるのだが、もはや四桁に達しようとしている。そもそもダメ元で始めたものでもあるし。

 僕だけかもしれないが、幼少期からこの手の数え歌で眠くなった試しがない。

 やむなく布団を被り直す。

 

 

「ウマ娘が806人……ウマが、807匹……じゃない。なんだ『ウマ』って。そんな四足歩行の生物この世にいないっての……。あれ?四足歩行ってイメージはどこから来たんだ……?」

 

 

 思考の渦に囚われ始め、ますます脳が活性化させられかけた時のことだった。

 

 

「……トレーナー、眠れないの?」

 

「……ん、そうなんだよアヤベさん。僕としたことがちょっとね……」

 

「それは困るわね。そんなので明日に疲れた顔で来られたら心配になるわ。せっかく二日越しにあなたに会えるのに」

 

「はは……善処するよ……」

 

 

 また僕は寝返りをうって目を閉じようとした。

 その瞬間に瞼の中の黒目が開いた。

 

 

「アヤベさ───モガっ!?」

 

「しっ。大声出したら皆が起きるじゃない」

 

 

 驚愕の声を上げようとした瞬間にアヤベさんが人差し指を立てる。

 どういうわけか、今目の前───つまり布団の中───には僕の愛バであるアドマイヤベガことアヤベさんが一緒に横になっていた。

 ハリボテでも幻覚でもない。質感や息づかいを見るに紛れもなく本物である。なぜか3Dの状態で彼女が僕の布団の中にいる。

 

 あまりに現実離れした、妄想の中でしか見たことがない景色に頭が混乱した。

 

「ちょっ……あ、アヤベさんどこから入ってきたの!? ここ僕の家だし、気配も感じなかったし……あ、鍵もかけてたハズなんだけど!?」

 

「トレーナー、随分と細かいことを気にするのね?」

 

「いや全然細かくないけど!? むしろ真っ先に疑問に浮かぶことじゃない!?」

 

 とりあえず今の状況を俯瞰して見れば、アヤベさんと二人ベッドの中で密着している状態である。

 

 これはマズイ。

 

 周りからの目とか僕の理性とか柔らかさとかフワフワとか人道的見知とかとにかく色んな方面でマズイ。なのですぐさま僕は布団から抜け出そうとしたのだが、

 

 

「ダメよ」

 

「うぐっ!?」

 

 

 アヤベさんの腕が鎖のように僕の体に絡み付いてきた。そのままウマ娘の力でベッドに押さえつけられる。

 お、おかしい。一年目ならいざ知らず、最近のアヤベさんは僕と接するときはちゃんと力加減してくれてたハズなのに……!

 

「……へぇ。やっぱり、トレーナーって弱いのね。ちょっと力入れただけで、簡単に押さえ込めるんだからぁ」

 

「あ、アヤベさん!? もしかしてっ、酔ってる!?」

 

 力がらしくなければ、言葉遣いもどこからしくない。今のアヤベさんの話し方はなんというか……艶かしいというか……とにかくイケナイ気がする。

 それらの事象は『アヤベさんが酔っている』というピースがあれば全て解決するのだが───

 

「そんなわけないじゃない。学生の集まりであるトレセンでアルコールのつく食べ物が出るわけないし、私が酔ってたら色々と問題でしょう?」

 

「くっ……! なんでここで変に常識的な回答がっ……!」

 

「いいじゃない」

 

 そこで彼女の体がモゾモゾと動き、僕との距離が縮まる。喉の奥から空気が出た。

 

「あなた、昨日新しい布団を買ったんでしょ? コレ。今、あなたと私が一緒に入ってる布団。フワフワよね。だから、つい私も潜り込んじゃった。そういうことでいいでしょう?」

 

「うっ……」

 

 なんと言えばいいのか。

 そのときのアヤベさんの言葉には、どうにも言い返せない……凝り固まった固体を溶かすような魔力というか、魔性?のようなモノがあり、僕は別の意味でクラクラしてきてしまっていた。

 

「そう、だったかな……うん、それでいいかも……」

 

「ほんとにフワフワ……」

 

 ていうか、さっきからなんか妙にアヤベさんの雰囲気がアレだ。

 おかしい。確かにアヤベさんは同期では大人びてる方だったけど、こういう意味の大人びてるじゃなかったと思う。

 もうわからないことだらけだ。

 

 

「ねぇ、トレーナー」

 

「ひゃいっ!?」

 

 

 突如首のあたりに声がかかり語尾が上擦る。

 視線を下げると、またアヤベさんが僕に近づいていた。ちょうど布団に入り込んだ子犬がするように、体を僕に擦り付けようとしている。

 

 

「ま、まってっ……! ホントに、マズイって……!」

 

 

 押し返そうとするのだが、背中には既に彼女の腕が鎌のように回されていた。お陰でいくら押そうとも彼女との差は開かず、むしろ詰められていく。

 そうして僕は自分より一回り小さな彼女の胸元へとすっぽり収まり───小さいっていうかアヤベさんの胸元は一部分が大きああああああああああああ。

 

 

 ヤバイ。何回も言うが、これ以上はヤバイ。もうヤバイのがヤバイしちゃう。ガイドラインに抵触しちゃうアヤベさんのアヤベさんにこのまま触れてたら停職しちゃうってかやかましいわ。

 

 やむなく僕は体の感覚を捨てて、鼻や耳に意識を向けることにした。

 だがそれが間違いだった。

 なにやら良い匂いが鼻腔をくすぐり始めたのだ。

 

 

「あ、やっと気づいたの? 良い匂いでしょ」

 

 

 僕の思考を読んだとしか思えないタイミングでアヤベさんはコロコロと笑った。

 

 

「さっきあなたの家でシャワーを浴びて、同じシャンプーも使わせてもらったもの。これで私もあなたと同じ匂い。これで誰が見ても、私たちの関係がわかるわよね」

 

「え、嘘でしょ?」

 

 

 思わず目が点になった。

 これが僕と同じ匂いとか嘘でしょ? ……いや、嘘でしょ度で言えば、ついさっき彼女が僕の家でシャワーを浴びたという事実もかなりの数値を叩き出したけど……いや嘘でしょ?

 

 マジでこれが僕と同じ匂い? 僕毎日あのシャンプー使ってるけどこんな匂い感じた覚えなかったよ?

 男の子と女の子で匂いの付与のされ方に何でこうも差があるの? 女の子がシャンプー使うと自動でバフがかかる仕組みになってるの??

 

 

「あら。私にとってはあなたもずっとこんな匂いだったわよ」

 

 

 幼子がぬいぐるみを抱き締めるように僕の胸元へ顔を埋めるアヤベさん。

 

「ひゅっ」

 

 原文ママな声である。

 アヤベさんとの密着度がメチャクチャに上がり、先程よりも濃い匂いが顔に……なんで女の子ってこんな良い匂いすんの? てかちょっと待ってさっきまででも充分ヤバかったのにそれ以上引っ付かれるとアヤベさんのアヤベさんがああああああああああああ落ち着け落ち着け滅却しろ滅法しろ異次元とパクパクを思い出せ707270727072……よし、なんとか落ち着いてきた。

 

 

「……良い匂い」

 

 

 ごめんなさい嘘です脳が溶けます。

 アヤベさんは、それはもう幼子が母の腕の中で浮かべるような安らぎの表情になっている。本当に安心しているのだろうかってアカンてアカンて。

 

 そんなアヤベさんらしからぬ表情を浮かべられたらもう理性がゴリゴリである。

 色々と重い宿命を背負ってたアヤベさんがようやく安心できたんだなぁとかホッコリもするけどそれ以上にちょっとキちゃうよギャップが凄まじいよ。こんな安心しきってる子に劣情感じちゃダメってのは承知してるんだけどキちゃうよ悔しいけど感じちゃうよ。

 

 

「……トレーナー」

 

「はへぇっ!?」

 

 

 正直アヤベさんはもう口を開かないでほしい。

 頭が飛びそうなのだ。もう今のアヤベさんは何をしても僕の情にクルという領域に入りかけている。

 

 だがアヤベさんは、そんな僕の心を見透かしたように、わざと耳元に顔を近づけ、小声で言った。

 

 

「……触る?」

 

「えっ」

 

 

 耳を引きちぎって付け直そうかと思った。

 

 

「……触る? 私は別にいいけど」

 

「さっ……触るって、どこを?」

 

「……どこでも。あなたが、触りたいとこ」

 

 

 するとアヤベさんは、先程までの鎖のように背中に絡ませていた腕をそっとほどくと、今までとは正反対に柔らかく温かく僕の腕を両手で包み込んだ。

 そしてそのまま、ゆっくりとアヤベさんの方へと向かわせていく。

 

 

「い、いやっ、ダメでしょ色々と!」

 

「……どうして?」

 

 

 僕が拒否の言葉をかけると、腕はそこで止まる。……どうやら、あくまでも僕の意思を尊重するつもり……らしい。

 

 

「どうしてって……まだアヤベさん学生でしょ!? そんな内からコンナコトはダメだって!!」

 

「……私はどうでもいいのよ。大切なのはあなた」

 

「えっ」

 

「ていうかそもそも、私が義理や気まぐれでこんなことすると思ってる?」

 

「え、いやっ、それは……」

 

「……もう、覚悟、できてるから」

 

 

 ドックン、と心臓から大量の血液が押し出されたような気がした。

 

 回る回る。血が回ってくる。

 

 目が変わってくる。目の前のアヤベさんを見る目が……変わってくる。

 

 

 

『傷つけたくない愛バ』から……『魅力的なウマ娘』になって……『好きにできる相手』に……。

 

 

 

 

 それから、『瑞々しく新鮮な食べ頃のメ───』

 

 

 

 

「…………」

 

 

 僕の手を包み込んでいるアヤベさんの手が、再び動き出していた。

 

 だが、アヤベさんは一切力を加えていない。

 ならば、推進力はダレによるモノか。

 

 

「……ふふっ」

 

 

 小さく笑うアヤベさん。

 果たしてその笑みにどのような感情が渦巻いているのか、うかがい知ることは出来ない。少なくとも、『拒否』は無いだろうか。

 

 無意識に、生唾を飲み込んでいた。

 

 たぶん今の自分はもう警察に通報されてもおかしくないほど、血走った目をしているだろう。だけど心配する必要はない。

 

 今その顔を見ているのはアヤベさんだけだから。彼女は、そんな僕を見ても受け入れてくれるから。

 

 

 最後に、なけなしの理性によってもう一度アヤベさんと目線を合わせる。

 

 アヤベさんは、小さく頷いた。ゆっくりと唇が動く。

 

 

 

『……来て』

 

 

 

 ───彼女は、大義名分まで与えてくれた。

 

 そう、これはあくまで僕の意思じゃない。彼女に言われたからだ。

 自分より強い存在に命令されたら、従うしかない。

 

 そうだ、僕は悪くない。僕の意思じゃない。

 これから起きること、起こすことは全て僕の本心じゃない───

 

 

 

 そのまま僕の手の平は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 固く冷たい機械に触れた。

 

 

 

 ジリリリリリリリリリリリ

 

 

 

 目を見開く。艶かしそうな声の代わりに、僕の耳に届いたのは規則的で、やかましいだけの音だった。

 

 

「…………」

 

 

 ピッ、と無言で目覚まし時計を止める。

 そのまま僕はフーっと息をはき、起き上がる

 

 

「……うん、今日も良い朝だ」

 

 

 一つ伸びをする。朝日が眩しい。今日も良い一日になりそうだ。

 

 

「さて」

 

 

 僕はゆっくりと目覚まし時計を鷲掴むと、

 

 

 

 

「パーツから出直してこいやこのクソ文明の利器がァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 思い切り壁に投げつけた。

 部品が飛んだ。ヒャクパー壊れた。

 後悔はしていない。ただ、確実にどうかしていたのは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、当然のように寝不足の僕は眠い目を擦ってトレセンへと出勤した。

 

 

 

 驚くことに、なぜかトレーニングの時間で会ったアヤベさんも眠そうな顔をしていた。

 

 

『昨日眠れなくて羊を数えてたんだけど、いつの間にか寝て……それで変な夢を見てしまった』

 

 

 とは本人の弁だ。

 

 最近は変な夢が流行っているらしい。

 

 

 

 

 

 

 終われ

 





過去にpixivにおいて、アヤベさんへの欲望が抑えきれなくなり書いた一作。とはいってもガイドラインによって極限までチキンになったので、さほどえっちすけっちわんたっちにはなってないと思われます。
最近どうにも暇がなく、間が空きすぎているので射出します。ちなみに当然ですがパラレルワールドです。

楽しんでいただけたら幸いです。
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