パラレルワールドのギャグです。結構なキャラ崩壊注意です。たぶんこの話のアヤベさん普段よりIQが80ぐらい低下してます。
僕はトレセン学園のトレーナーだ。担当しているウマ娘はアドマイヤベガこと、アヤベさん。
今回は割愛するが、アヤベさんとの生活を続けて、かれこれ二年になる。
突然なのだが、最近アヤベさんの様子がおかしい。
ここ三週間ぐらいだろうか。
いや、どこが『おかしい』かと言われると困るのだが……。なんとなく素っ気ないというか……いやアヤベさんは元からどっちかというと素っ気ないんだけど……それでもなんか素っ気ないような……とにかく何かおかしいような気がするのだ。
具体的に事例を挙げるとだ。
まずはLINEの返信頻度が少し遅くなった。
アヤベさんのLINEの返信頻度は結構早い。本人がマメな方というのもあって、業務連絡などをしたら大抵三分以内に返信が来る(こないだ勇気を出して『お昼ご飯一緒にどうかな?』と送ったら約十秒後に『わかった』と返信があった)。
だが、最近のアヤベさんはなんと……その返信が一時間後とか二時間後とかになっているのだ。
……いや、それだけといえばそれだけだし、返信時間ぐらい本人の好きにさせてやれという意見ももっともなのだが。
それでも、それまで三分以内に返信が来ていた人が急に返信に一時間ぐらい空け始めたら気になるだろう?ましてや相手がアヤベさんなら。
何か悩みでもあるのかと心配になる。
他に例を挙げるなら……やたら単独行動が増えた。
これがどういうことかと言うと……たとえば練習終わり。
『はい。お疲れ様アヤベさん』
『……ん』
『じゃあ、あとはストレッチしたら終わりにしようか』
『……いえ、今日はもう帰らせてもらうわ』
『えっ……そ、そうなの? でもアヤベさん、今までストレッチを欠かしたことなんて……』
『……ストレッチは後で一人でやっておくから。今日は用事があるのよ。……ちょっと出掛ける用事が』
『そ、そうなんだ……そっか。じゃ、じゃあ今日はもう解散で……』
『…………』
みたいな感じだ。練習終わり以外にも、僕が何かに誘ったりしたときなども大抵断られるようになった。
……しかも『レストランに行くから』だの『遊びに行くから』だの、何故か行き先や用事内容をわざわざ伝えて。
そのあたりはプライベートな事情なんじゃないだろうか……?
しかも寮長のフジキセキさんの話によると、最近寮に帰るのも時間ギリギリになってきてるらしい。それだけ夜遊びが増えているということだ。
ひょっとして……誰か変な女友達とでもつるみ始めたんじゃ……?
それに……まぁアヤベさんはウマ娘だから乱暴をはたらいたりナンパしようとする命知らずはいないと思うけど……やっぱり所詮は学生の女の子である。
夜道に出歩くのは心配になってしまう。
……うん。まぁこっちもそれだけと言われればそれだけなのだが……。
かといって『いつも通り』とするには見逃しがたい部分なのだ。
「───というわけなんだけど……どう思う?」
そして時は現在。
僕はファミレスにて、『支払いは僕持ち』という条件で同僚のオペラオーTとトプロTを呼んで協力を仰いでいるわけだ。
「……どう思うと言われても……どうとも言いがたいっスねぇ……」
僕が座っている四人用席の対辺……その更に左側に座っている青年、僕の後輩にあたるトプロTは難しそうな顔をしていた。
今日も地毛である芦毛の上から染めた黒髪を神経質そうに弄っている。
「そりゃ高校生といえば思春期真っ盛りな年頃なんスから。そういうこともあるんじゃないっスか?」
「いやそうかもしれないけど……あのアヤベさんがだよ?」
「そうだな……そういやウチのオペラオーも『アヤベさんが少し変だ』みてぇなこと話してたし……これは案外バカにできんかもしれんぞ」
そう言ったのは、対辺の右側に座る僕の先輩にあたるオペラオーT(正確にはドトウも担当しているのだが)。
いつもふざけている彼にしては珍しく真剣そうな顔をしている。……自分から話を振っておいてなんだが、そこまでマジな雰囲気を出されると逆に困惑もしてしまう。
「ど、どういうこと? オペラオーT」
「最近ニュースで聞いたことないか?ウマ娘を狙った詐欺だの覚……ヤクを売るだのの犯罪が増えてるって」
「あー……確かにそんなニュース増えたっスね」
僕も知っている。
トレセン学園……ひいてはレースウマ娘を育成する学園というのは、要は巨大な女子校のような面がある。そこに通うウマ娘というのはどうしても男性などと関わる機会が少なくなり、警戒心も育ちにくくなってしまう。
そこに付け込んだ卑劣な犯罪である。
「……えっ、まさか、アドマイヤベガがそれにかかってるってことっスか!?」
「可能性はあるんじゃねぇの?」
「そこまで行っちゃうともうジブンらの手に負える話じゃ無くなっちゃうんスけど……」
「……たぶん、それは無いと思う」
僕がそう言うと、オペラオーTとトプロTが同時にこちらを向いた。
「ほう。その心は?」
「……えっと、たぶん……たぶんだけどさ、アヤベさんって結構しっかりしてるから、『騙されてるかも』とかそういうセンサーは強いと思うし……もし仮に引っ掛かったなら、その時は……ちゃんと、ぼ、僕に、相談……してくれるんじゃないかなー……なんて」
思い付いたことをそのまま話していたので気づけなかったのだが、冷静に考えると『アヤベさんは不測の事態があれば僕を頼ってくれるはずだ』なんて恥ずかしすぎることを言っていたことに気づき、後半は酷いコミュ障みたいな台詞になってしまった。
……やばい。マジで恥ずかしい。
ほら、実際にオペラオーTがすごいニヤニヤし始めたし。
「……なるほど。まぁ確かに二年も過ごしてりゃある程度の信頼は築かれてるだろうしな。そんなお前に相談してない以上は、少なくとも犯罪とかに巻き込まれてるわけではない……一理はあるな」
「ですねぇ」
ウンウンと頷き会う二人。
……ちくしょう。同意してもらえたとはいえ、やっぱ言うんじゃなかったかも。
照れ隠しも兼ねて事前に注文していたコーヒーを飲む。
「んじゃ男だな」
「ぶふぅっ!?」
コーヒーを吹き出した。
「え……はっ!? 男!? なんでそうなんの!?」
「そりゃお前……急に
「嘘ぉ!?」
「嘘じゃないだろ。むしろ犯罪じゃないなら真っ先に可能性として上がる事柄だぞ」
「確かにそっスね」
「嘘だぁ!?」
「むしろその可能性にまだ行き着いてなかったのか……」
思わず叫んだ。
アヤベさんに男?? あのアヤベさんに?? 僕が先に好きだったのに?? どこのウマの骨かもわからない野郎に??
思考がまとまらない。
なにより『そんな訳ないだろ』と否定したかったのだが……確かに先のオペラオーTが言った内容は今の状況と合致していたので反論ができなかった。
これは……認めるしかないのか??
「あのアヤベさんが……? バレンタインデーにチョコをくれたり膝枕してくれたアヤベさんが……アヤベさんがぁ……!?」
「うわぁ先輩が脳破壊されてんスけど。どうするんスかこれ?」
「うーん半分冗談のつもりだったんだが。まさかここまでショックを受けるとは。そんなヘタレだからBSSな事態になってしまうんだろ……うん?」
呆れたように言っていたオペラオーTだったが……不意に何かに気づいたように怪訝な顔をした。
「あっちの方の席にいんの……アドマイヤベガとナリタトップロードじゃね?」
『え?』
僕とトプロTは同時にそっちを向いた。
どうも、こんにちは。
私はナリタトップロード。トレセン学園に所属しているウマ娘です。
今回は割愛しますけど、トレセン学園でトレーナーさんと出会って……えっと……色んなことがあって色々な人と出会って、すごく楽しい時間を過ごし続けて、かれこれ二年になります。
そんな私ですが……今日はとある用事によって、同期で同学年であるアヤベさんにファミレスへと呼び出されていました。
……いえ、実はこれは初めてではありませんし、アヤベさんがどんな用事で私を呼び出したのかも知っているのですが……。ため息がこぼれそうになるのを堪えます。
そんな私の気持ちも知らなそうに、目の前に座る私を呼び出した張本人、アドマイヤベガことアヤベさんはクールに佇んでいました。
……黙っていたらすごく美人なんですけどねこのアヤベさん。
アヤベさんは自分のトレーナーさんを真似して飲みだしたらしいコーヒーを一口飲むと、やがてクールな表情はそのままに告げました。
「三週間ぐらい前から、私が彼の嫉妬心を煽ろうと行動しているのに、彼が一向に嫉妬する気配が無いのだけれど」
「はぁ?」
……今日も訳のわからない『恋愛相談』が始まりました。せっかくここ三週間は比較的大人しくなったと思ってたのに。
表情に出す『困惑』の感情を全体の二割ぐらいに抑えながら私は答えます。
「えぇっと……彼って、アヤベTさんのことですか?」
「そうよ。他に誰がいるっていうの」
「いや、それはそうなんですけど……」
「私は生涯トレーナー以外の男性を『彼』なんて二人称で呼ぶつもりはないから」
「どんな誓いですかそれ……」
おんも……そしてどうでもいい……。
既に頭痛がしかけてきた私を無視して、アヤベさんはいつものクールな顔のまま本題を淡々と話していきます。
「先日、書店で面白い本を見つけたのよ。これ……このスマホに映ってる本」
「なんですかそれ……『マルゼンスキーのこれでチョベリグ恋愛指南書(税込2246円)』……? へぇ、一ヶ月前に発売された本ですか」
「えぇ。本屋の新刊コーナーに大量に積まれてるのを見かけたから買ってみたのよ」
(それ売れ残ってたってことじゃあ……いやでも新刊ですしそんなもんなんですかね……?)
「その中で『恋愛に奥手な彼を嫉妬させちゃって、ゆくゆくは告白させちゃう方法』ていうコーナーがあったから、試してみたの」
「作戦のネーミングが昭和……」
「でもそれを実践してるのに、彼が一向に嫉妬する気配がないのよ」
「それはまたなんと言いますか……でもそういうのって、人によって効果のほどは結構変わったりしますから……」
「まったくもって役に立たないテクニックだったわ。2246円騙し取られた」
「なんと理不尽な……」
「ムカついたからネットで☆2の長文レビューを付けておいたわ」
「そんなみみっちぃことするアヤベさん知りたくなかったです」
決定的に頭痛がしてきました……。
……数か月前、とあるなりゆきで私がアヤベさんの想いを知ってしまって以降、こんな風に『恋愛相談』にしょっちゅう付き合わされています。
最初は『あのアヤベさんの助けになるなら』と喜んで付き合っていましたが……まさかアヤベさんが恋愛が絡むとこんなにめんどくさくなるタチだったとは……。
一時期は『それでも最後まで付き合おう』と思いもしましたけど、最近は『わりぃ。やっぱ無理だ』て感じで限界になりつつあります……。
「役に立たなかったって、具体的にどういう作戦を試したんですか?」
二杯目になるオレンジジュースを飲みながらとりあえず私は訊いてみます。
……ちなみに、本心で気になっているわけではありません。
この恋愛相談モードに入ったアヤベさんは、一度話し出すと日々の触れ合いやら愚痴やら次の作戦やらと、どんどん話の主題から斜め方向へと話を外れさせていきます。
過去にその流れにどんどんノせていった結果、いつの間にか五時間ぐらいすぎていた事件があったので……。
そうなるぐらいなら、たとえ虎穴に飛び込むハメになってでも私の方から話を誘導した方がマシです。
「そうね……まず最初はジャブ打ちとして、『LINEの返信時間をズラす』というのをやってみたわ」
「あーネットでもよく見るあれですか」
ウマ耳がピクリと反応しました。
返信時間をズラすって確かアレですよね。いつも当たり前に返ってきていた返信が急に返ってこなくなることで、相手を不安にして自分のことをより考えさせるっていう。
前々から気になってて私もトレーナーさんに試そうかと思ってた駆け引きですので、どんな効果があったのかつい気になってしまいます。
……我ながら現金なウマ娘ですね。
「あれ、でもダメだったんですか?あのトレーナーさんだったら結構効果ありそうなんですけど」
「私も期待していたわ。……でも、なんだかんだで今日まで続けているのに、彼が危機感を覚えたり心配になっている様子はないの」
「本当ですか?」
少し……いや、かなり意外だ。アヤベさんのトレーナーさんとは、私のトレーナーさんと付き合いがあるので必然的に私とも付き合いがありますが……。
あの人は優しい人ですし、アヤベさんに何かあったら真っ先に心配しそうなんですが……。
「せっかく、いつもに比べて六十倍も時間を空けたのに」
「六十倍も!? ……時間を倍数で表すことってあんま無いのでいまいちピンと来ませんが……そんなにですか?」
「えぇ。ザッと一時間よ」
「全然空けてないじゃないですか」
思わず素で突っ込んでしまいました。
「アヤベさん、ひょっとして時間ナガナガ光線使いました?」
「……なにそれ?」
「ドラえ○んの、『のび太のなが~い家出』って話に登場する十分が一時間ぐらいに感じられる道具で……いやすいません、誰もわからないと思うのでやっぱりいいです」
「ちゃんと時間は空けたじゃないの。一時間も」
「……それってもっと、一日とか空けないと意味が無いんじゃ……?」
「……そうなの?」
私が色々な感情を経てそう言うと、アヤベさんは目を丸くしました。
……なんでアヤベさんは「そんなこと今初めて気づいたわ」みたいな顔をしてるんでしょうか。
「そんなこと今初めて気づいたわ」
「実際に言わないでください。え、でも普通気づきません?」
「別に。ていうかそもそも私は彼のLINEは一秒だって早く返したいのよ。そんな私が一時間も間を空けたのよ?」
「この世で一番この手の駆け引きに向かない精神構造してるじゃないですか。そして今の状況で大事なのは相対的な時間じゃなくて客観的な時間です」
「本当はトレーナーにだって、私のLINEは一秒でも早く返すように要求したいのに」
「束縛きっつ……」
頭を抱えたくなってきました。
この手の作戦で一時間しか間を空けないなんて聞いたことがない。それでは精々「なんか返信遅くなった?」程度で終わりだろう。危機感を覚えさせるなんて夢のまた夢です。
「まぁとはいえ私も、この作戦だけでは心許ないと思ってて、別の作戦も平行してたのよ」
「まだやってたんですか……」
もう既にお腹一杯なんですけど……。
「次はあれね。『やたらと外出を増やす』作戦ね」
「あー、あれですか」
これも私がいつか試してみたいなと思っていたテクニックだ。
『外出を増やす』と言うよりは、外出を増やすことによって『他者と接している場面や誘いを断ることを増やす』ということで、相手の不安感や嫉妬心を煽るという方法ですが……。
「でも、これも上手く行かなかったわ」
「まぁ、なんとなく予想できてましたけど」
どうせアヤベさんがまた変なことしたんだろうなぁって。
「今度はちゃんとしたわよ」
「あれ、そうなんですか?」
「彼との誘いも血を飲んで断るようにしたし、寮の消灯時間ギリギリに帰るようにもしたわ」
「それは妙ですね……」
アヤベさんの目を見る限り嘘は言ってなさそうです。
それでしたら確かに妙です。
私が知っているアヤベTさんなら、アヤベさんに何かあったら真っ先に心配以下同文。
「練習終わりのストレッチも『この後用事あるから』でサボるようになったし」
「はい」
「『レストランに行く』って言ったこともあるし」
「ふむふむ」
「『ゲームセンターで遊んでくるから』も言ったことあるし」
「……ん?」
「『カラオケで歌ってきた』もやったわ」
「……んん??」
なんかおかしい気がする。
「あの、アヤベさんちょっと待ってくださいアヤベさん」
「……なによ」
「一応聞きますけど……そのお出かけ群って、『誰と』出掛けるとか言ったことありましたか?」
「……? ないけど?」
「じゃあただの孤独な一人旅になってんじゃないですか!!」
あーもうダメだ。痛い。完璧に頭痛がしてきました。薬飲みたいです。
「あのーアヤベさん……そういうのって『男友達と出掛けるから』みたいな枕詞を付けないと意味がないんじゃ……?」
「はぁ? 何を言ってるのよトップロードさん。迂闊に『男友達と行く』なんて言って、トレーナーが『彼氏いるのかな』みたいに誤解したらどうするのよ」
「アヤベさん自分の作戦の主旨わかってます??」
アヤベさ……いや、この人は何を言っているんだろう。
「あの……まさにそんな風に誤解させるのがこの作戦のキモだと思うんですけど」
「『彼氏いる』なんて誤解されたら、トレーナーが『チャンス無しか』とか思って告白を諦めるかもしれないじゃないの。私はトレーナーの方から告白してほしいのに。そんなのになったら目も当てられないわ」
「ほんとに自分の作戦の主旨わかってます??」
「よしんば誤解されなかったとしても、あのトレーナーはヘタレだから、突き放しすぎたらすぐ諦めてしまうわよ」
「えぇ……『男友達』でもダメなんですか?」
「結構ダメージ受けると思うわ」
「じゃあこの作戦の対象に向いてないじゃありませんか……。なんでアヤベさんこの作戦実行したんですか?」
「手段を選んでられる余裕がないのよ。嫉妬して、危機感持って、もっと構ってほしいからよ」
「よくわかってるじゃないですか真顔で言わないでくださいこっちが恥ずかしくなります」
なんなのこの人。なんで変なところで物分かりよくなってるの。
このあたりの図太さをなんで告白に活かせないんでしょうか。
……いや、まぁ確かに、トレーナーさんがヘタレすぎるが故に『調整』に苦労する気持ちはまぁわからなくはないですけど……私のトレーナーさんだって鈍感ですし。
「もう、本当に騙されたわ。私の三週間と2246円を返してほしい」
ブツブツと言いながらコーヒーを飲むアヤベさん。……あくまで『自分の選択が悪い』という発想は無いんですね……。
まぁともかく、話したいことは話せて満足したのか、どうやら話は一旦落ち着く方向へ向かっているようです。
これは私にとっても良い流れ。
「まぁ失敗したんなら、もう次の作戦にいけばいいんじゃないですか?」
その2246円は授業料だったってことで、と言いかけてやっぱりやめました。
……ツッコミ疲れたのと、今日の相談はもう終わるなという解放感から、ついつい口調が投げ槍になりかけてます。……私ってこんなに短気だったんですね……。
自分の思わぬ欠点が思わぬ形で判明して思わぬダメージ受けてしまいましたが、ともかくこれで終了───
「え? まだ続けるけど?」
「───は??」
思考が飛びました。
「な、なんで続けるんですか?」
「そりゃだって、もう三週間も続けてるし」
「……でも、効果無かったんですよね?」
「そうだけど。……でもここでやめたら何か負けた気がするじゃない。悔しいじゃない。私だけ振り回されてドキドキする羽目になって悔しいじゃない」
「完全に目的すり変わってません!? それに今回の作戦においては勝ち負け以前の問題ですよ!!」
手段と目的が完全に入れ替わってるんですけどこの人!!
「やめたらそこで試合終了、だけど続けたら勝てる見込みがある。なら続けるしかないでしょ。続けてればいつかは勝てるわ」
「どのみち私たちいつかは卒業するんですからいずれ試合は強制終了しますよ!! それぐらいならまた別の作戦を……」
「うるさいわね……なんとしても2246円の元を取らなきゃいけないのよ」
「さっきらなんで2246円にそんなに拘ってるんですか!! 2246円なんてレースで大成した私たちにとってはもう端金じゃないですか!! しかも恋愛における2246円ってあんまり大きな比率占めてなさそうなんですけど……」
……どうやら、私の『恋愛相談』はまだ続くことになりそうです……。
「……なぁトプロT」
「なんスかアヤベT」
「あれ、見たか?」
「……しかと見たっス」
「まさか、アヤベさんとトップロードが同じ席にいるだなんて……!」
「前々から仲良いのは知ってたっスけど……あのクールなアドマイヤベガさんと、コロコロと表情が変わるトプロ……! ありゃやべぇっス、理想の凸凹コンビっス……!」
「して、トプロTはアヤベさんとトップロードがここにいるって聞いてたか? 僕は聞いてない」
「ジブンも聞いてないっス……ハッ! てことはまさか、アレが……!」
「そうなのかも……」
「まぁ……なんだ、二人とも。自分の愛バ二人があんな会話してるって知ったら気まずさは半端ないと思うが……特にアヤベT……」
「た、確かに……」
「だよなぁ。明日からどう接すりゃいいのかって話になるし……まぁ俺も一緒に考えてやるから───」
「まさかだよ……」
「本当にまさかっス……」
『まさかアヤベさん(トプロ)とトップロード(アドマイヤベガ)が内緒で愛の密会をしていたなんて……!!』
「……は??」
「なるほど、確かにこれなら色々と辻褄が合う……!」
「件のアドマイヤベガの夜遊びの相手がウマ娘だったなんて、まさに青天の霹靂、寝耳に水、目から鱗、蛙飛び込む水の音っス……!」
「待て、ちょっと待て」
「これは予想外というか、そうきたかって感じっス……! いや、考えてみたらそれも全然あり得たんスけど!」
「しかし、マジかぁ……これはこれでショックだ……。相手が僕よりイケメンの優男だったら失恋もやむ無しと思ってたけど……まさかウマ娘とは……」
「けど、年頃のウマ娘が二十超えたオッサンと同学年の可愛いウマ娘どっちを選ぶかと言われたら……確かに後者な気も……」
「不本意は不本意だが当然か……。」
「待て。待て待てちょっと待ておかしい。今俺とお前らの間で思考ルーチンに二巡ぐらい差が生じてる」
「なんだようるっせぇなオペラオーT黙ってろ」
「えっなんで俺そんなキレられてんの。……一応尋ねるが、お前らあの二人の会話聞こえてたか?」
「え? 聞こえてたわけないじゃん」
「ジブンもっス。ちょい周りの雑音が酷すぎて……逆にオペラオーTは聞こえたんスか?」
「え、いや、まぁ……」
「いいんだよトプロTにオペラオーT……鈍感な僕でもさすがにわかるよ……。あれだけ二人の仲良い様を見せつけられたらねぇ……」
「アヤベT先輩……」
「百合なんてpixivだけの産物かと思ってたけど、ちゃんと現実にもあるんだね……。ましてやあのアヤベさんとトップロードがそんな仲に……!」
「いやそこまでは(その思考には)至らんやろ」
「(今アヤベさんとトプロが)なっとるやろがい!!」
「しかしこうなると、明日から本当にジブンらはどうすればいいんでしょうか……二人が百合ってることが判明した以上、もはやジブンらは邪魔者なんじゃ……」
「いや待て。今は二人とも表向き担当ウマ娘をやってくれてるのなら、僕らも表向きは担当トレーナーを続けるべきだ。……明日からちょっとトプロTとの合同練習は増やす形で」
「!? アヤベT、本当は失恋していて自分が辛いはずなのに……それでもアドマイヤベガの恋を応援するんスか!?」
「仕方ないよ……。本当に相手のことが好きなのなら、その幸せを応援するべきなんだから……」
「あ、アヤベT……漢っス……! そういえば今どうでもいいことに気づいたんスけど、今の関係って相関図にすれば大体『アヤベT→アヤベ↔️トプロ←トプロT』って感じになるんだろうスけど、この場合のジブンらって『百合の間に挟まる男』ならぬ『百合を挟む男』になるんスかね?」
「それは知らない」
勝手に盛り上がり続ける二人を尻目に、オペラオーTは心底疲れたようにコメカミを押さえた。
(……この場で真実を告げるのと、告げずに誤解が解けるのを待つの、一体どっちが楽に終わるか……)
結局、彼らのこの誤解とめんどくささとプライドを積み重ねた状況は、あと一ヶ月ぐらい続いた。
真面目なアヤベさんばっか書くの疲れてきたんだよ……たまにははっちゃけたい……