ど、どうも~トレセン学園所属のウマ娘、メイショウドトウです~。
トレーナーさんやオペラオーさん、チケットさん、ヒシアマゾンさんと一緒にレースを駆け抜けて、かれこれ二年になります~。
そんな私は現在、トレセン学園にあるトレーニングルームにて、トレーナーさん指導による基礎トレーニングに励んでます……。
「ふぅー……ふ、ふぅー……!!」
「ようしドトウ頑張れ!あと二回だ!」
度の強いメガネをかけたトレーナーさんの声を受けながら、私はレッグプレスのウェイト部分を懸命に足で押します。
頬に流れる汗を感じながら二回……!
「ようし一旦休憩だ!よく頑張ったなドトウ!」
所定の回数を終えたので私は楽な体勢に戻りました。トレーナーさんが飲み物を用意してくれていたので受け取ります。
「少し休んだらもう一セットだ。俺はちょっと他の娘のとこに行っとくから、時間が過ぎたら勝手に始めといてくれ」
「わっ……ヒッ、わかりました~……」
整わない息で答えてから、スポーツドリンクを飲む。
そんな私を、トレーナーさんは労うように軽く撫でてから他の娘たちの所へと駆けていきました。
「ほらチケット、ペースが落ちてるぞもっと頑張れ!あ、オペラオーはそれ使うのはやめとけ。数日前にカワカミが壊したらしいから……」
マシンの数の都合で、トレーナーさんのチームに所属するウマ娘はそれぞれバラけて違うトメニューをこなしていますが、トレーナーさんはそれをものともせず慌ただしく指示を出していきます。
日頃おちゃらけてたり『くひひひ』と奇妙な笑い声を上げるトレーナーさんですが、私たちのトレーニングにはとても真摯に向き合ってくれます。だから私もヒシアマゾンさんも、彼を信頼してついていけます。
「ふぅ……」
スポーツドリンクに口をつけつつ、ふと別のとこに目を向けてみると、見知った方々が視界に入りました。
「ふっ……くっ……」
「あ、アヤベさん大丈夫?もうこのあたりに」
「だいっ、じょうぶだから……あなたはちゃんと回数数えといて」
仰向けになって巨大なバーベルを持ち上げるアドマイヤベガさんと、それを心配げに見つめるアヤベTさんの姿がありました。
アヤベさんの体からは滝のように汗が流れています。元々ストイックなアヤベさんですけど……今日は一段とキツめのトレーニングを行ってるそうです。
やがてトレーニングの回数を終えたのか、アヤベさんはゆっくりとバーベルを下ろしました。すぐさまトレーナーさんがタオルと飲み物を手に駆け寄ります。
「お疲れ様アヤベさん!大丈夫?」
「……心配しすぎ……大丈夫よ」
呆れたように言いながらタオルで汗を拭うアヤベさん。
アヤベさんのトレーニング、私よりも遥かに回数が多いものだったのに、楽々とこなしてしまいました……。
(やっぱり、私なんかとは……)
少し前に私のトレーナーさんから、『俺には俺の指導方があるし、アヤベTにはアヤベTの指導がある。それと一緒で、ドトウとアドマイヤベガにもそれぞれのトレーニングペースがあるよ』と慰めてもらいましたけど……やっぱりああいうのを見るとアヤベさんはスゴいなと思ってしまいます。
まぁだからこそ、私も頑張って追い付きたいと思うんですけど。
「……十分休憩したら、もう一セット行くわ」
「え、十分で大丈夫?二十分ぐらい休憩した方がいいんじゃ……」
「別に、平気だから」
「この間のレースでオペラオーに負けて悔しいのはわかるけど、それで体壊しちゃったら……」
「……大丈夫だし、オペラオーのことも気にしてない」
「でも……」
「いいから」
「アッハイ」
アヤベTさんが説き伏せられ、しょぼんとして引き下がる。すっかり見慣れた光景です。
でも、アヤベさんの顔に不満そうな色は見られません。それよりかは、心配性な父親をたしなめるような感じです。
……やっぱり、アヤベTさんと一緒にいるときのアヤベさんって、とっても楽しそうに見えますねぇ。息もピッタリ……とまではいきませんけど、お互いに尊重してるのがわかりますし。アヤベさんが少し羨ましいです。
そんなことを思っていると、さっきまでチームの皆さんの所に行っていたトレーナーさんが、アヤベTさんの元に近寄っていきました。
「あ、そだアヤベT」
「ん?どうしたオペラオーT」
「ちょっと、おい」
「ちょっと?」
「いいから、ちょっと」
「ちょっとって何が?」
「だからちょっと、ほら」
「だから何がちょっとなの?」
「いいからさっさと来いよ!?」
上手くコンタクトが取れなかったようでトレーナーさんが少し怒っていました。それに対し、渋々アヤベTさんはトレーナーさんの元へ行こうとします。
「じゃあごめんアヤベさん、もし僕が帰ってこなかったら、先に始めといて」
「……わかったわ」
静かにやり取りをしたあと、トレーナーさんは去ってしまいました。
そうしてその場には、アヤベさんだけが残ります。
「…………」
急速に無表情に戻って(元からあまり感情を出すような人ではないですけど)飲み物を飲むアヤベさん。その背中は、急速に寂しくなったように思えました。
……やっぱり、アヤベさん……。
私はまだ休憩時間も残っているようなので、アヤベさんの元へ挨拶に行ってみることにしました。
───二日後
初カキコ……ども……。
ジブン、トレセン学園所属の、ナリタトップロードTっス。
今回は割愛するっスけど、愛バであるナリタトップロードと一緒に……えーと、色々頑張って……とにかく頑張って、かれこれ二年になるっス。
そんなジブンは現在、やや先輩にあたる人物であるアヤベTのトレーナー室に向かってるっス。
目的は単純、近い内にジブンとアヤベTと、アヤベTの更に先輩にあたるテイエムオペラオーT(正確にはオペラオー、ドトウ、チケット、ヒシアマゾンT兼任)とでやることがあるから、その誘いっス。
早い話がオペラオーTとの中継役っスね。あの人曰く、この件はなるたけ内密に進めたいそうなんで。
ナリタトップロードの新しい練習メニューを考えながら歩いてると、すぐにアヤベTの部屋の前に着きました。
ノック前に、少し深呼吸します。
「ふぅ……」
あの人自身は良い人でジブンのことも可愛がってくれるんスけど、やっぱり部屋にお邪魔するのは未だに緊張してしまうっス。
落ち着いてから、ゆっくりと扉をノックします。
「すいませーん」
『はーい?』
アヤベTの声と認識してから話を続けます。
「トプロTっスけど、ちょっと話がありまーす」
『おお、いいけど?鍵開いてるよー』
了承をもらい、失礼しますと言いながら扉を開けます。
あらわになった視界には、予想外の人影もありました。
「あれ、アヤ……アドマイヤベガさんじゃないですか」
「……どうも」
いつものポーカーフェイスでコーヒーを飲んでるアヤベさんがいました。先ほどまでアヤベTと談笑でもしてたんでしょうか(とはいえ全くイメージ湧きませんけど)、備え付けのソファーに座ってリラックスしていたように見えました。
……てか、危なかったっス。つい彼女のことを『アヤベさん』と呼んでしまうところでした。
いや、別にこれ自体は彼女の愛称として定着してますし、呼ぶ分には構わないと思うんですけど……。
なぜかアドマイヤベガさん、アヤベT以外の男性から『アヤベさん』て呼ばれるの、死ぬほど嫌がってるフシがあるんですよねぇ。
ジブンが以前アヤベTが呼んでるからってノリで『アヤベさん』て呼んだんですけど……あの時の彼女の露骨な不機嫌ぶりすごかったですからね。
もう耳なんか思いっきり絞ってて、
『あ?なにか?』
とでも言いそうな顔してましたもん。
それ以来、ジブンは『アドマイヤベガさん』と呼ぶようにしましたが……あの顔は正直もう見たくないっス。
しかしなぜあそこまで怒ったのか……。『アヤベさん』という名称は自分が認めた男性にしか許さないのか、それとも単に自分をアヤベさんと呼ぶ男性はアヤベTさんだけであってほしいのか……まぁジブンは後者と睨んd
「トプロT?どうしたんだ?」
「えっ?あ、いえ……」
しまった。しばらく黙り込んでいたので、アヤベTが不審な顔で見てきてます。
早く用件を話しましょう。
「あのー……アヤベT、例の件が……」
「例の件……あーはいはい、あれね。了解」
一応内密にとの指示なので、アヤベさんにも聞こえないように彼に告げます。お世辞にも察し能力が高いとは言えないアヤベTでしたが、珍しくなんのことかすぐにわかってくれました。
「……どうしたの?」
「ごめんアヤベさん、僕これからちょっと用事があるから、今日はこれで失礼するよ」
アヤベさんの問いに、アヤベTは手を合わせて言います。その瞬間、アヤベさんの瞳が僅かに揺れた───ように見えたのは気のせいですかね?
「……そう。わかったわ」
「ほんとごめん……。あ、アヤベさんはまだ部屋に残ってる?残るなら鍵置いてくけど」
「……いえ、大丈夫よ。私もそろそろ帰るつもりだったし」
アヤベTの言葉にそう答えると、アヤベさんはまだなみなみとコーヒーが入っていたカップを手に取ると、そのままグイッと一気飲みしてしまいました。
(……アレ、明らかに一気飲みを目的とした量じゃなかったっスよね……?)
……口には出さず、心の中だけでそう思います。
あの量って、本来はもっと長くチビチビと飲んでいくのが目的だったかのような量というか───あー……。
そこまで思い至った僕は、思わず額を抑えました。抑えたまま、恐る恐るアヤベTに聞いてみます。
「あのもしかして、これ二人で水入らずな状態でしたか?」
「ぶっ!水入らずてお前、そんな夫婦みたいに……別に何も特別な話はしてなかったよ」
「……そうなんスか?」
「アヤベさん、オペラオーから逃げるために定期的にこのトレーナー室に来るからさ……僕はこの部屋を提供してるだけだよ。まぁそのついでに漫画一緒に読んだり、お昼ご飯一緒に食べたりするけど」
「へぇ……」
このあたりでボクは察しました。
……アヤベさんの様子を見るに、テイエムオペラオーから逃げてるってのは───もちろんガチの場合もあるでしょうけど───ほとんどただのこうじt
「あ、カップはそこ置いといていいよ。僕が片付けとくから」
「……ん」
ボクがその考えに行き着いたのも構わず、二人は話を続けていました。
「それじゃあ、また明日ね」
「えぇ。また明日」
あくまでもいつも通りの調子で答え、僕らの隣を横切って部屋を出ていくアヤベさん。
アヤベさんが通り過ぎる直前、ボクは思わず彼女の肩に話しかけていました。
「あのー……すいませんね。なんかジブン、KYだったみたいで」
言ってから『KYってもう死語かな』と思いました。
ですがアヤベさんはやはりクールビューティーなまま───以前のような不機嫌さを少し混ぜた瞳をボクに向けると、
「……別に、何も怒ってないわよ」
と言ってさっさと歩き去ってしまいました。
背中に見えた彼女の尻尾は、やはりどこか不機嫌そうに揺れていて。
「……悪いことしちゃったっスねぇ」
思わずそう呟かずにはいられませんでした。
「ん?トプロTどうしたんだ?急に遠い目をして」
「先輩はもっと恋愛面での察し能力を鍛えてください」
「えっ、な、なんで恋愛面の?」
「そういうとこっスよ」
なんで気づかないんだろうこの人。
───更に三日後。
やぁやぁ、画面の前の従順なるモルモット君たち。私の名はアグネスタキオンだ。
ウマ娘の可能性を探るために日々実験を繰り返しているよ。
有馬記念への調整も煮詰まり『ライバル』も見つかり、順風満帆な日々を送っていた私だが……とあるハプニングが発生してしまってねぇ。
どうもここに来て、実験体が不足してしまっているようだ。どうしても証明したい理論があるのだが、データのサンプルが少なく、どうにも難しい。うーむどうしてくれようか。
まぁそもそも、実験体の不足は前々からの課題ではあったんだ。
先月分の実験体不足問題は、モルモット君が『試験管を五本一気に飲みながら全力でバックステップしながら私の声援を受ける』という複数の実験を同時に行うという荒業でどうにかなったが……さすがに今回のは彼でも無理だろう。
やはり、早急に新たな実験体の確保が必要だ。そのため、今は多少手荒なマネも行っているが……うまく集まってくれない。まったく、世知辛い世の中になったものだねぇ……。
「───というわけなんだよアヤベ君。私を助けると思って協力してくれないかい?」
「……なんでそうなるのよ」
授業終わりの休み時間に、たまたまアヤベ君と出会った私は、この
ウマヅテの情報だが、どうも『最近アヤベさんが不調そう』という情報を受け取ってねぇ。
弱味に付け込むようで気が引けるが、気分の浮き沈みは提案の
それに今は、あのアヤベTもなぜかアヤベ君の周りをウロチョロしていない。いつもは私がアヤベ君に狙いを定める度に、彼がボディーガードの如く影からアヤベ君を守るので、小競り合いを繰り返していたのだが……今は別の用事で忙しいのか何故かいない。この機を逃す手もないねぇ。
……ふぅン?アヤベTの不在とアヤベ君の不調……。
サラっと流してしまったが、なにやら因果関係を感じる気がする事柄だねぇ。理論は検討もつかないが。
まぁ、なんにせよ答えを出すのは後だ。今はアヤベ君の勧誘に集中しておこう。
「いやーアヤベ君。実は最近、『足の負担を軽減する薬』のマイナーチェンジ版を開発してねぇ。具体的にどれぐらい性能が向上しているかじっけ……コホン、試してほしいんだよ」
「……どうせまた変な副作用が出るんでしょ。嫌よ」
「往々にして副作用を無くすのは難しいものなのだよ。だが、抑えることはできる。今回のマイナーチェンジ版では、初代が『右足全体が虹色に輝く』だったのを、なんと『右の太ももだけが赤と青に点滅する』ところにまで抑えたんだよ!」
「……それ、余計に酷くなってない?」
まったく、釣れない反応だねぇ。
何故かトレーナー君の方も『ずっと見てたら気分悪くなりそうな副作用だな』とあまり良い顔をしなかったし……。
だがまぁ、ここで引くわけにはいかない。巷で『アグネスのヤバい方』というあだ名を貰っている以上、もっと食い下がろうじゃないか。
「アヤベ君は服用していつも通り全力でトレーニングしてくれればいいんだよ。私が勝手にデータを取るから」
「……集中できないじゃないの。絶対に嫌」
ふぅン……いつにも増して素っ気ない。
これはアヤベTがいないのに乗じたのは失敗だったかもしれないねぇ。
……仕方ない、機を改めるとするか。実験と同じで、事を起こす時期は重要だ。
そう判断し、やむなく私は
「まぁいいさ。気が向いたら声をかけると良い」
と捨て台詞を吐きアヤベ君に背を向けることにした。
だがその時、やや勢い良く振り返ったからか、スカートのポケットから入れっぱなしにしていたとあるチケットが落ちてしまった。
あのチケットは……まぁ拾わなくてもいいか。どう処分したものかと困っていたものだ。放っておけば、トプロ君かバクシンオー君あたりが勝手に拾って処理するだろう。
そうして私は無視して戻ろうとしたのだが。
「……ねぇ」
「ン?」
チケットを拾ったのは、予想外の人物だった。
「……これ、なに?」
先ほどまで私を邪険に扱っていたアヤベ君だった。少し虚をつかれながらも、素直に答える。
「なに、と言われてもねぇ。見ての通り、ただのライブのチケットだよ。私も詳しくは知らないが、とある超有名なスペシャルアイドルのライブのチケットだそうだ。君の───アドマイヤベガのトレーナー君からもらったものだ」
その瞬間、アヤベ君は目を見開いた。
……ほう?正直、これにアヤベ君がそこまで反応するのは予想外だった。てっきり自分のトレーナーの動向だから、彼女は知っているかと思ったのだが。
「……本当に、私のトレーナーからもらったの?」
「そうだよ。まぁ、別に信じてくれなくても良いが」
「いえ……信じるわ。……このチケットに書かれてる文字、確かにトレーナーのと一致してる」
え、彼女は自分のトレーナーの筆跡を完全に把握しているのかい?……私が言うのもなんだが、変な所があるな……。
「……これ、どこで行われるのか知ってる?」
「三日後、学園の前でやるそうだよ。所謂『路上ライブ』というヤツだそうだ。もっとも、どんな曲が歌われるのか、誰が歌うのかは完全にシークレットだけどね」
アヤベTから聞いたことをそのまま伝える。
とはいえ路上ライブといっても、企画にはあのオペラオーのトレーナー君も関わってるらしいから、学園の前を少し貸し切りのような状態にして派手にやるそうだ。
それで一人でも観客が来るようにと、先日からアヤベTがビラも兼ねたチケット配りをしていたのだ(アヤベ君のこの様子を見るに、おそらく彼女には内密に)。
まぁ、チケットの文字がアヤベTの手書きで書かれているところから察せられるように、コレは本気のチケットというよりも銀行ごっこの時のオモチャの貨幣のような、あくまで『それっぽさ』を味わうための品なのだろう。
諸々の発案者の要望だろうか。私には利点が全くわからないけど。
そもそも、『超有名アイドル』という触れ込みなのになぜ歌う人物その他諸々をシークレットにしているのか。意味がないじゃないか。正直、ただのイタズラかと思っていたよ。
だが、どうもアヤベ君は私ほど軽くは捉えていないらしく、さっきからチケットを親の仇でも見るようにしながら
『どういうことよ……最近見ないと思ったら、なんで私に何も言わずこんなことを……せめて私に一言伝えてから……いやそもそも、なんで私がいるのにアイドルのライブの手伝いなんかしてるの……?意味がわからない……』
とかブツブツと言っている。
……ほう、何やら黒いオーラが見える。アヤベ君って、結構面白いウマ娘だったんだねぇ。
その時、ふと私の頭の横で豆電球が発明された。
「アヤベ君、一つ提案があるのだが」
「……なに」
「君さえ良ければこのチケット、無料で譲渡しようじゃないか」
「え……」
アヤベ君は、まるで敵のゾンビから回復魔法をかけてもらった時のような、不思議な顔をした。少々心外だねぇ。
「このチケット、実は私とモルモット君とで二枚もらっていてねぇ。ただ、その日はモルモット君が用事があるそうだから行けなくて、一枚余っていたんだ。その分を君に譲るということだ」
「……条件は?」
話が早い、と私は口角を上げる。
「さっきの実験の件、前向きに検討してもらおうじゃないか。とはいえ、君の意見も尊重はするし、なるべく実験の日までに副作用を抑える努力もしよう。これでどうだい?」
私の言葉を聞いたアヤベ君は、十秒ほど脳内で葛藤を起こしたような間の後、どうやら背に腹はかえられないと結論を出したらしい。
「……わかったわ」
「ふふふっ、交渉成立だねぇ」
ようやく魂を売り渡す覚悟をしてくれたようだ。そう来なくてはねぇ。
正式に私からチケットを譲渡されたアヤベ君は、もう私には用はないと言わんばかりに去っていった。
その後ろ姿を見届けながら、私はポケットから二枚目の、今は私だけのものとなったチケットを取り出す。
「……このライブ。特に興味を抱いていなかったが、大量のウマ娘とファンが集まると考えれば……」
これは使えるかもしれないねぇ。
アヤベ君周りのゴタゴタがどうなるかは知らないが。後は野となれ山となれ。