アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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妙な動きを見せるアヤベさんのトレーナーさん【後編】

 

────更に更に二日後

 

 

 ウィィィィィィッス! どぉうも~オペラオーTで~……て、さすがにこの挨拶はもう古いか。これの元ネタの事件、もう八年前らしいからな。

 

 改めまして、オペラオーTだぜ。

 トレーナーになったきっかけであるオペラオーと一緒に、ドトウやチケットやヒシアマゾンといった様々なウマ娘を加えながら駆け抜けていって、かれこれ二年だ。早い気もするし、まだ二年しか経ってないのかという気もする。

 

 そんな俺は現在、トレセン学園の前にある広場で作業をしていた。

 作業というのは、会場のセッティングだ。明日ここで、とある『超有名アイドル』のライブが開かれるんでな。今夜中にセッティングを終わらせてやらねばならない。

 本来ならウマ娘の手も借りたいんだが、この件は本人の希望により内密に進めたいそうなんで、こうして俺ら男が汗を流している。

 

「悪いな。ウチが付き合わせちまって」

 

 傍らにいる二人に声をかけると、片方の男が「まぁ別に」と答えた。

 

「オペラオーTには一応恩があるし……協力するのはやぶさかではないよ」

 

 気弱そうな顔をしているアヤベTだ。

 愛バであるアドマイヤベガの前では本当に気弱そうな口振りになるのだが、どうも俺相手には普通にタメ口で話してくる。

 仮にも俺先輩なんだけどな、もうちょっと敬えよ。ほらこんなにも威厳に満ちた顔をしてるのに。くひひひ。

 

「ジブンも、これを手伝うことが結果的にトプロの喜びに繋がるなら。全然良いっスよ」

 

 続けて声を上げたのはナリタトップロードTだ。

 こっちは普通に上下関係を重視してくれるデキた後輩である。アヤベTとは大違いだな。

 少々口調がワザとらしく、キャラを作ってる疑惑があるが。

 

「しっかし……他のウマ娘はともかくとしても、トプロやドトウ、アヤベさ……アドマイヤベガにまで隠す意味あるんスか? このライブ」

 

 今俺トプロからめっちゃ怪しまれてんスよ、と愚痴るトプロTを、まぁまぁと俺は宥めた。

 ここの判断に関しては、主催者ではなく俺の独断だ。

 

「アヤベはまだしも、ドトウやトプロは隠し事できるようなタイプじゃねぇだろ。アイツらの反応から明日の『有名アイドル』の正体がバレちゃ困る。やるなら徹底的にだ」

 

「トプロが隠し事……あー、絶対できないっスね」

 

 その様が容易に想像できたか、トプロTが苦笑いする。対するアヤベTは「そうかなぁ?」という顔だ。

 

「うーんアヤベさんは割と隠し事得意そうだけどなぁ……まぁでも、万全を期すためにはオペラオーTの作戦でも良いと思うよ」

 

 アヤベTの言葉を受け、今度は俺が心の中で苦笑いした。

 アドマイヤベガが隠し事が得意そう……ねぇ?正直俺からは、あまり得意そうには見えないなぁ。

 だってお前への好意も周りに隠せてねぇし……いや、これは言わない約束か。少なくとも本人(アヤベT)には誤魔化せてるんだし。

 

 トプロTも似たように思って気まずさを感じたか、場を仕切り直すように声を上げた。

 

「オペラオーT、スタンドマイクってこの位置でオーケーっスか?」

 

「ん……そうだな、その位置で。あとオ……明日のアイドルは意外と背ぇ低いから、もうちょいマイク下げといて」

 

「りょっス」

 

「あ、それとアヤベT。チケットはちゃんと配り終えただろうな?」

 

「配り終えたよ」

 

 アヤベTはため息をはいた。

 

「オペラオーT達が余分に刷っちゃった分までしっかりと。営業マンになった気分だったよ」

 

「そいつはお疲れだったな」

 

「お疲れの理由の何割かはお前のせいなんだけどな」

 

 さぁ何のことだか。とぼけながら俺は作業を進めていく。

 すると、ふと気になったことがあったので俺はアヤベTに訊いてみる。

 

「そういや、アヤベTは明日のライブにアドマイヤベガを誘うつもりなのか?」

 

「はえ?」

 

 藪から棒の疑問だったからか、アヤベTがバカみたいな声を上げた。それからイヤイヤと手を振ると、

 

「誘わないつもりだけど。アヤベさんってこういうのあまり好まなさそうだし、いいかなって」

 

「えーもったいない。くひひっ、せっかく俺らは主催者権限を発動し放題なのに」

 

 現に主催者権限によって俺はドトウたちを、トプロTはトップロードをチケット無しで(といっても、チケットはお遊びみたいなものだが)ライブに招待しているというのに。

 アヤベTは相変わらず手を振るだけだ。

 

 

「アヤベさん、ああいう騒ぎって苦手だし……誘っても悪いかなぁと」

 

「まぁそりゃそうだけど……」

 

 

 しかし、だとすると……。

 

 

「もしかしてお前、ここ数日秘密で何してたとか、アドマイヤベガにはフォロー無しか?」

 

「?えぇ。だって、特に言う必要も無いかなって」

 

「お前なぁ……」

 

 

 俺は思わず頭を抱えそうになった。そういうとこやぞ、と大声で言いたくなるのを耐える。

 俺やトプロTは、それなりに愛バたちに構えない分フォローもしたから『怪しまれてる』程度で済んでるが……アヤベTは一切フォローをしなかったと考えると、なんか妙なことになってるような気がする。

 ……まぁいいか。どのみちコイツらなら何だかんだで転がっていくだろう。

 なので、代わりに俺は適当なことを言うことにした。

 

「アドマイヤベガの事だから、もしかしたらもうどこかからチケット入手してんじゃねぇの~?」

 

「あははまさか。アヤベさんには今回のアイドルのことなんて全く伝えてないし、無いだろ~」

 

「さぁどうかなぁ。世の中は変なところで物語が進行しているものだからな」

 

「えっ、やめてくれよそんな言い方」

 

 みたいなことを話していると、いつの間にやら作業はかなり進んでいた。

 よし、セッティングも終わりに近づいてきたな。

 

「もうちょっとで帰れるぞお前らー」

 

『うぃっス~』

 

 我ながら即席のステージにしてはかなり上出来だと思う。これなら明日の『超有名アイドル』サマもお気に召されるだろう。

 

 そろそろ終わるという精神的余裕ができたからか、俺らはいつの間にか雑談混じりに作業をしていた。

 

 

「トプロT、最近そっちはどう? トプロは仕上がってきた?」

 

「まずまずと思うっスよ。相変わらず本人のやる気は十分ですし」

 

「こないだ足に痛みがあったとか言ってなかったけ? それは大丈夫なの?」

 

「大丈夫みたいっス心配ありがとうございますアヤベT。ちょっとした筋肉痛みたいなモノだったらしいんで、支障は無いっスよ」

 

「あ、ホント? 実はちょっと心配してたんだよ」

 

「ありがとうございます。これで次のレースも全力で走れるっスよー」

 

「いや良かった良かった。まぁ、どうせ勝つのはアヤベさんだけどね」

 

「は?」

 

 

 聞き捨てならん、と言いたげにトプロTが声を上げた。

 

 

「いやいや、前回もアヤベさんが勝ったし。悪いけど次も一着は僕らだよ」

 

「今回はトプロが勝ちますよ。あれからそちらより何倍も練習して、何倍もレベルアップしたんで」

 

「あ?」

 

 

 寝言言ってんのか、と言いたげにアヤベTが声を上げた。

 

 

「最強はアヤベさんなんだけど?」

 

「違いますジブンとこのトプロが頂点なんで」

 

「先輩にずいぶん言うようになったなえぇ?」

 

「いくら先輩でもここは譲れませんね。ウチのトプロはやりますから」

 

「日本ダービーの悪夢思い出させてやろうか?」

 

「菊花賞で勝ってからほざいてくださいよ」

 

「デコ出してて語彙力無いトプロが?」

 

「そこが可愛いんですよ。先輩とこだってふわキチの癖に」

 

「そこが可愛いんでしょうが」

 

「どうどう、落ち着けよお前ら」

 

 

 なんだか殺伐としてきたので俺が急いで割って入る。

 まったく何だこいつら、くだらないことでケンカしやがって。

 仕方ない、ここは俺がビシッとおさめてやろうじゃねぇか。伊達に複数人のウマ娘を担当してるわけじゃねぇとこ見せてやる。

 

 

「そうカッカすんなって。どうせ最後に一着取るのはウチのオペラオーだからさ。皐月賞の時みたいに、お前らはどっちが二着取るかを話し合っとけよ」

 

『あ゛??』

 

 

 あれ、おかしいな。なんか余計にコイツらの殺意が増してしまったんだけど。

 結局、このあたりの口論(?)のせいで作業は想定よりも長引いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───翌日

 

 

 どうもこんにちは。僕は◯◯……て、本名は面白くもないものだから伏せとくとして、まぁ皆からは『アヤベT』と呼ばれているトレセン学園のトレーナーだ。担当しているウマ娘はもちろんアドマイヤベガこと、アヤベさんただ一人。

 今回は割愛するが、彼女に担当トレーナーと認められてから、本当に色んなことがあってかれこれ二年になる。

 

 そんな僕は現在、かねてから予告していた、トレセン学園前で開催されている超有名アイドルのコンサート広場へと来ていた。というか、僕は開催者側なのだからいなきゃおかしい。

 気持ち良いくらいの青空の下で、昨夜の自分たちが設置したステージに立つ『超有名アイドル』を見つめる。

 

「わぁ~……そ、そろそろ始まるんですねぇ~……」

 

 抑えきれない興奮のようなものを滲ませながら、メイショウドトウが言った。その目はステージに注がれている。

 ステージにはスタンドマイクの調節をする『超有名アイドル』の姿と、ギターやドラムをわっせと運んで準備をするオペラオーT、トプロTの姿があった。たぶん彼らももう少しで準備が完了するだろう。

 

 ちなみに、来場者全員分の椅子を用意するのは容易ではなかったので、申し訳ないが皆様には立ってもらっていた。

 

「にしても、まさかこれほどの人が集まるなんて……」

 

 ドトウの隣に立つナリタトップロードが周りを見回す。釣られて僕も見てみた。

 主催者権限によって僕やドトウたちは最前列を陣取らせてもらっているので、振り返れば集まった観客がよく見渡せるようになっているのだが……。

 オペラオーTが金にものを言わせて場所を取り、僕が告知をした広場はなんというか、満員も満員だった。

 

「ははは……」

 

 チケット配りを担当した本人としては、妙な笑いがもれてしまう。

 一応自分は『超有名アイドル』と言っただけで、誰のライブかとは一言も言ってなかった(まぁ親しい人なら察しが付くかもしれないが)のだが……にもかかわらずこんなにも人が集まるとは。

 最近はミーハーな人が増えているのか……それとも娯楽に飢えている人が多いのか。

 まぁどんな理由にせよ、このライブの発案者にとっては嬉しい限りだろう。

 

「ねーぇアヤベさんのトレーナーさん、まだ始まらないのー?」

 

 そう尋ねてきたのは、背丈の関係でトップロードの前で腕を回される形で抱かれているハルウララだ。お互いのキャラなどから、その様子はさながら歳の離れた姉妹に見える。

 

「あぁ、えっと……そろそろじゃないかなぁ」

 

 さっきオペラオーTから連絡がきたことを思い出しながら言う。アナウンスもあったから、そろそろ始まるだろう。

 ちなみに、ここにいる彼女らにはもう『超有名アイドル』とやらの正体は伝えてある、というかもうアイドル自身が(文字通り)ベールを脱いでいるので、もう正体は丸わかりだ。お陰でさっきからドトウの耳と尻尾がすごいことになっている。

 

 そしてしばらく経ったあと。

 ステージに立つ『アイドル』がマイクを構えた。

 

 

『あー、あー……よし。諸君、今日はわざわざ時間を取って僕のライブに来てくれてありがとう! 必ずや、君たちの記憶に残るライブにすると約束しようじゃないか! あ、写真や動画の撮影はもちろんオーケーだよ! なんならウマチューブに上げてくれても構わない!』

 

 

 アイドル本人からお許しが出ると同時に、観客の何人かがスマホを取り出し始める。アイドルは、光るカメラレンズ一つ一つに丁寧にカメラ目線のようなものをやっていた。

 

(ホントこういうのやらせると上手いなぁ……)

 

 呆れにも似た称賛をしていると、やがてアイドルはまた咳払いをした。それは演奏開始前の合図だ。

 

 そのことを察した観客たちが、一斉に静まり返る。それを確認してから、アイドルは観客全員に聞こえるように言った。

 

 

『ふふん───それでは聞いてくれたまえ。一曲目、「帝笑歌劇~讃えよ永久に~」』

 

 

 おおっ、と観客から期待に満ちた声変わり上がる。それがまた小さくなるのを少し待って。

 ギターを持つオペラオーTと一瞬目配せした後、ドラムの前に座っていたナリタトップロードTがスティックを握り直した。

 

 そうして、カッ、カッ、カッカッカッ、とお馴染みのリズムが数回刻まれた直後、

 

 

『始めようかぁ! 最高のスクールラーイフ!!♪』

 

 

『超有名アイドル』改め、テイエムオペラオーの(はげ)しい歌声によってライブ演奏が始まった。

 

 

「イェーーイ!!」

「待ってましたぁ!」

「ヒューー!!」

「オペラオーさんこっち向いてー!!」

 

 

 それと共に、一旦は落ち着いていた観客たちのボルテージも再び上がっていく。もうこの時点で成功と言っても良さそうな勢いだった。

 

「う、うわぁ~……! まさかオペラオーさんの生の歌声だけじゃなく、伴奏付きの『帝笑歌劇』が聞けるなんて~!!」

 

 特にドトウの感激ぶりが凄かった。トプロやウララも『いぇー!』とか言っておりさっそくノリノリのようである。

 このまま彼女らの様子を見つめていても良かったが、僕はまだこれからの仕事がある。

 やるべきことを脳内で反芻してから、僕は懐に持っていたマイクのスイッチを入れた。

 

 

『そう! 来たのさ! 伝説が!♪』

 

「ビューティフォー!」

 

 

 オペラオーの歌に合わせて僕が声を上げた。

 突然マイクで叫んだからだろう、ドトウたちが驚いた目を向けてくるが、すぐに合点がいったような表情になる。

 

 

『ふふん、お待たせしたね! ごきげんよう!♪』

 

「ゴージャス!」

 

『そうさ、真の本命の登場さ!♪』

 

「ワンダフォー!」

 

『勝つのは当たり前! 美しくなくちゃ!♪』

 

『ホントにパーフェクト!!』

 

 

 このあたりから、僕の役目を察したらしき観客やドトウたちが一緒に叫んでくれた。

 

 

『キミ達もそう思っているだろう?♪』

 

『最強って、ボクのことかい?』

 

『そうさ、確かに並ぶ者はない!♪』

 

『そーです!』

 

 

 曲の、所謂『()』の部分を観客たちが担当する形でライブが進行していく。そうすることによって、オペラオーと観客たちの一体感が高まり、会場は否応なしに盛り上がっていった。

 特に観客が叫ぶ際にはオペラオーが律儀にマイクを向けてくれるほどである。

 

 そんな光景に、優れた指捌きでギターを弾きながら、オペラオーTは密かに口角をつりあげていた。

 

 

 

 

 今回の僕、トプロT、オペラオーTによってセッティングされたこの路上ライブ。元は『超有名アイドル』こと、テイエムオペラオーによって企画されたものだ。

 なんでも、ある日急にオペラオーが「路上ライブをしたい」とオペラオーTに言ってきたらしい(「なんかそういう漫画でも読んだんじゃね?」と後にオペラオーTは語った)。

 それをオペラオーTは了承して、まず僕が協力することになり、それから高校時代ドラムをやってたからとトプロTも巻き込み(「いやいやもう軽く三年は触ってないんスけど。勘弁してくださいよ」とトプロTは叫んだ)開催することになった。

 セッティングは全員、その内演奏は二人が、告知と『()』部分の音頭は僕が担当することになった。

 ちなみに音頭をする理由はオペラオー曰く、

 

 

『本番ではきっとボクと共に叫びたがる人が出てくるだろう! だが、もし誰も叫んでいなかったら、恥ずかしくてしないかもしれない。そのために、アヤベさんのトレーナー君が率先して音頭を取ってあげてほしいのさ! そうすれは、始めから言おうとしていた人はもちろん、言う気がなかった人たちも釣られて言っていくだろう!』

 

『そう上手く行くかなぁ……』

 

『行くとも! そう、さながら中学の文化発表会における、軽音楽部が弾き終わった後に友人たちによって言われる「アンコール!」の掛け声のようにね!』

 

 

 リアルなんだか伝わりにくいんだかわからない例えだった。

 

 

 

 

 まぁ、結果としては成功だったようだが。

 

 

『ホラね、囲まれた……人気者はツライ♪』

 

『究・極・求・心!!』

 

 

 僕が率先して言うまでもなく、もう観客たちがノリ始めた。

 役目も終わりかなと思い、このあたりで僕はマイクの電源を切って懐へしまい息をはいた。

 

(はぁ……まぁとりあえず、成功して良かったぁ……)

 

 騒ぎの影で胸を撫で下ろす。

 今回僕が担当したのはただのセッティングメインで表には出なかったとはいえ、せっかく手間暇かけたのにライブが失敗したら夢見も悪いし脱力感もある。こうして成功してくれれば僕の苦労も報われるというものである。

 

 

『I am the TOP!♪』

 

『王!』

 

『世界の、中心の勝利者ー!♪』

 

『まさに英雄!』

 

 

 さて。

 そろそろ曲もサビへと入る。だがその前に、一つだけ確認しておきたいことがあった。

 

 これまで役目があるからと後回しにしていたこと。今日で一番ビックリしたことだ。

 

 

 僕はゆっくりと隣───ドトウやトプロたちがいる方向の反対へと視線を向ける。

 そこへえらくうなだれた姿で佇むウマ娘へと言葉をかけた。

 

 

「……なんでアヤベさんここにいんの?」

 

 

 そのウマ娘───僕の愛バであるアドマイヤベガは、さっきから額を抑えたまま俯いていた。

 落ち込んでいるというよりは呆れているというか……。豪速球が来るかと身構えていたのにスローボールが来てしまったときのような、力が抜けてしまったような様子である。

 

 しかし、そんな状態でも僕の問いかけは聞こえていたのか、彼女は小さく口を開いた。

 

 

「……もしかして」

 

「うん?」

 

 

 オペラオーの声が大きくなっていたので、僕は更に耳に意識を集中させた。

 

 

「前からあなたがしてた作業って、全部このライブのものだったの?」

 

「前から……えーっと、うん。そうなるね」

 

 

 アヤベさんの言葉に頷く。

 頷きながら、サラっと彼女が前からの僕の暗躍を知っていたらしきことに驚いた。一応、彼女には秘密にしてたし尻尾も出さなかったつもりなんだけど……。

 それに、他に気になる点もあるし……。

 

 

「アヤベさん……なんでこのコンサートのチケット持ってたの? 確かアヤベさんには配ってなかったはずだけど……」

 

「っ」

 

 

 アヤベさんにしては珍しくギクッ、みたいに肩が跳ねた。

 ……本当に珍しいな。まさかアヤベさんからそんな昭和チックな反応を見れるとは。

 アヤベさんはしばらく無言で佇んでいた後、ゆっくりと気まずそうに答えていく。

 

 

「……たまたま……そう、たまたま、拾ったのよ。トレセンの廊下で」

 

「トレセンの廊下で?」

 

 

 現在進行形で台詞を考えていたような間を挟みながらの言葉に、僕は首をかしげた。なんかアヤベさん、やたらと目が泳いでるんだけど……?

 

 それに、仮にアヤベさんの言った通り、チケットを拾っていたのだとしたら……僕が落っことしちゃってたのか?いやでも、配るときにそのあたりは細心の注意を払ってたはずだけど……。

 

 

「アヤベさん……本当に、拾ったの?」

 

「……本当よ」

 

「本当に本当?」

 

「……嘘は言ってないから」

 

「えー本当なのかn」

 

「拾ったから」

 

「……アッハイ」

 

 

 ……なんか怪しいなぁ。無理やり誤魔化された感が半端ない。

 

 すると、そこでアヤベさんは急に顔を上げて僕に詰め寄ってきた。

 

 

「っ、そもそもっ! なんであなたは私に言わずに勝手に準備してたのよ。あんな風にコソコソと動いて」

 

 

 どこか非難するような……怒っているような口調だった。

 何やら話を無理やり変えようとするような意図が感じられたが……。そこについて僕が追求する前に、更にアヤベさんは問い詰めてくる。

 

 

「……せめて、一言くらいあっても良かったじゃない」

 

「あー……確かに一言は言ってた方が良かったかもだけど……」

 

 

 僕はそこで髪を掻く。確かにそこは反省点かもしれない。

 しかしだなぁ……。

 

「いやーだって……」

 

「だって、なによ?」

 

 詰め寄ってくるアヤベさん。

 少し悩みながらも、やがて僕は答えることにした。

 

 

「……オペラオーのライブだし、アヤベさんは関わりたくないかなぁって……」

 

「…………」

 

 

 困った顔で僕はそう言った。

 

 ……これが僕がアヤベさんに伝えなかった理由なのだが……それを聞いた彼女は深いため息を吐き、また静かに額に手を当てた。

 一瞬どういう感情による動作かわからなかったが、アヤベさんの顔を横から覗き込んでみると、

 

 

「……そうね……その通りね……」

 

 

 小さくそう呟いていた。

 ……うん、やっぱり僕の懸念は間違ってなかったよなぁ。

 

 現に今日、ライブ会場でいつの間にか僕の隣にきていて、そのときに

『超有名アイドル』の正体がオペラオーだと知ったときのアヤベさん、顔すごいことになってたもん。

 まるで某エンドレスエイトの四週目を見ているときのような顔してたよ。

 

 

 僕が一人でウンウンと頷いていると、アヤベさんはその後も「あー」とか「うー」とか小声で唸ったあと、やがて

 

 

「ごめんなさい……私が早とちりしてしまったわね……」

 

「そ、そう? アヤベさん大丈夫?」

 

 

 なんかすごい疲れ切った目で言われた。

 僕としては何がなんだかよくわからない状況なのだが……。そもそも、なぜアヤベさんはあんなにも焦ったような顔をしていたのだろうか?

 

 ……ま、まぁ、アヤベさんの顔を見る限り解決はしたらしいので良しとするが……。

 やがて反省しきれたらしく、アヤベさんはいつものような、疲れた半目のような表情で僕に言った。

 

 

「今回は……あなたが私のことを気遣ってくれてたみたいだけど……。でも……それでもやっぱり、次からはせめて一言はつけてね」

 

 

 まぁ、確かにそうだったな。

 後に知ったことだけど、オペラオーTやトプロTはしっかりとその辺フォローしてたみたいだし。変ないざこざが起きても困る。次からは気を付けるようにしよう。

 そうした旨を伝えると、アヤベさんは

 

「えぇ、本当に……お願いするわよ」

 

 と応える。

 そして、先の言葉を僕が咀嚼しきる前に、ボソリと呟いた。

 

 

「……もう私に興味を失くしたのかって、邪推するから」

 

「え? アヤベさん今なんて───」

 

 

 なにやら意味深な発言が聞こえたかと思って聞き直そうとした瞬間、

 

 

 

『今こそ! 我が名を、たーたーえーるー時ー! 高らかにねー! Say My Name!』

 

『テイエムオペラッオー!』

 

 

 アヤベさんと僕の間に漂っていた空気は、オペラオーたちの歌に見事に掻き消され、消えてしまった。

 

 

「それにしてもなんというか……本当にはた迷惑な王様ね」

 

 

 ため息を吐きながらアヤベさんはオペラオーを見つめていた。その姿は完全にいつも通りに戻ったようで。

 

(……ま、いいか)

 

 アヤベさんの中では解決したそうだし、僕も困ったことにはならかったしで、スルーしておくこととしよう。

 まぁ僕にはよくわからないが……もしかしたら裏で何やら色々と起きていたのかもしれない。

 

 そのあたりはよくわからないが、とにかくライブは上手くいきアヤベさんの誤解(?)も解けたしで。

 

 別に知らなくても大丈夫かな。

 

 

 

 

 そのまま僕たちは、オペラオーという超有名アイドルのライブを楽しんだのだった。

 

 

 

 





あんまり話題にならないけど、オペラオーのキャラソンである『帝笑歌劇~讃えよ永久に~』は色んな意味で神曲ですので、是非とも皆、聞こう!(提案)




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