アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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アヤベさんのせいでせーへきこわれちゃった。

RTTT3話で、公式が最大手を、ベストを尽くしやがったのでいても立ってもいられず書きました。Glorious Momentが尊い?どっか行ったわそんなもん!
イメージ的には3話のまま、救いがもたらされずアプリ版とは異なる世界線に進んだアヤベさんの話です。






贖罪に堕ちる一等星

 

 

 

 

『よかったね。お姉ちゃん』

 

 

 

 

 

『二人と走るの、楽しかった?』

 

 

 

 

 

『私を忘れちゃうほどに?』

 

 

 

 

 

『……そっかぁ。そうなんだぁ。良かったぁ』

 

 

 

 

 

 

『もうお姉ちゃん、私への贖罪はしないんだぁ』

 

 

 

 

 

『しないんだぁ。よかったぁ。うん、だってお姉ちゃんは────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───お姉ちゃんは。お姉ちゃんはおねえちゃんはおネェちゃんはァ』

 

 

 

 

 

『……なんで??』

 

 

 

 

 

『なんで、お姉ちゃんが楽しんでるの??』

 

 

 

 

 

『その体は、その人生は本来、私がもらうはずだったのに』

 

 

 

 

 

『なんで贖罪をやめるの?? まダおわってなイよ??』

 

 

 

 

 

『なのに、タノシんでるの??』

 

 

 

 

 

『なんで「私」として生きてるノ?? 私への贖罪に生きることだけが、おネェちゃんの生きるイミだったのニ。そんなこともできないの??』

 

 

 

 

 

『だったら、さァ。そんなこともできないんだったら』

 

 

 

 

 

 

 

『私と同じところまで堕ちてきてよ、お姉ちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 

自分の荒い息で目が覚める。

 

 

今日も悪夢を見た。

いつも通りの夢だ。

 

 

夢の中で私は、永遠に地平線が続いているようなレース場の中にいる。

 

そこで私は、『あの娘』から延々と怨み節を吐かれる。姉としての不甲斐なさをなじられ続ける。

 

 

夢の中での視界はいつもより低い。倒れているからだ。

芝と泥の臭いにまみれながら、私はただ倒れている。

体は縫い付けられたように動かせない。まるで体が溶け落ちてしまったような感覚。空と地面との境目が無くなってしまったよう。

ジンジンと痛む脚だけが、私の存在を感じさせてくれる。

 

 

……そうだ。

この脚だ。

 

 

 

この脚だけが、邪魔な『私』の部分。

それと同時に、もはや資格を失った私にとって、唯一『あの娘』を感じることができる部分。

 

 

 

 

あー。

 

 

 

よかった。

 

 

 

 

 

私、まだ罰せられてるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの日』から、数ヵ月が過ぎた。

 

菊花賞を過ぎても、結局私の脚は壊れなかった。

……当然と言えば当然か。

 

 

元々この脚の痛みの原因は、病院に行ったってわからなかったのだ。

 

 

わからないということは、無いのと同じ。

 

 

痛む理由が無いのだとしたら、そもそも壊れるはずだってない。

 

 

 

当然と言えば当然だ。

 

 

 

 

 

 

だけど。

 

だけど『あの日』からずっと、私の脚は痛み続けている。

 

 

 

ジンジンと。走る度に痛みを与えている。

 

 

 

まるで常に私の隣に見えない誰かが立って、私を罰し続けているように。

 

……あるいは、私の中にいる誰かが、内部から産声を上げているように。

 

 

 

痛み続けている。

 

痛んでくれている。

 

 

 

 

あはは。

 

 

 

お姉ちゃん、こんな簡単なことにも気づけなかった。

 

 

 

そうだよね。

 

 

 

 

壊れちゃったら、つまらないもんね。

壊しちゃったら、それ以上断罪させることもできないもんね。

 

 

 

 

もっとじっくり償わせないと。それぐらい、私の罪は重いもんね。

 

 

 

 

……いいよ。全部あげる。

私はあなたのものだから。

 

 

……いや、違うか。

 

 

そもそも『私』が私のものだったことなんてないか。

 

 

だって『私』は元々、あなたのものだったんだものね。

 

 

 

本当は、私は。

 

 

私の目も、耳も、口も、声も、腕も、脚も、心臓も、肺も、お母さんも、お父さんも、弟も、楽しみも、友達も、ライバルも、勝利も、歓声も、人生も。

 

 

本当は全部あなたが受けとるはずだったもの。

 

 

 

それを私が、横からかすめ取って。私が勝手に味わって。

 

私は盗人みたいなものだったから。

 

 

 

あはは。

そんな私が『私はあなたのものだから』だなんて。

 

 

何を言ってるんだろうね。

盗人猛々しいって、まさにこのことなのかな。

 

 

 

 

うん。

大丈夫。

 

 

やっと気づけたから。

 

 

遅すぎたけど、お姉ちゃんやっと自分の罪を思い出したから。再認識したから。

 

17年分の罪は、ちゃんと全部清算するよ。

 

 

 

『楽しさ』と、『友達』と、『ライバル』と、『歓声』と、『勝利』はもうあなたに返した。

 

 

 

残りは好きな時に、好きな方法で取り立てて良いからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さんっ。アヤベさんっ! ……っ、アヤベさんっ! 待ってください!!」

 

 

放課後のトレーニングの時間を終えた頃。

左足を引きずって歩きながら、私はいつものようにストレッチをして帰るつもりだった。

本当はもっとトレーニングがしたいのだけれど。以前それをしようとしてトレーナーに止められたり、トレセンの先生を呼ばれたりして、めんどうなことになったから。

トレーニング終了の命令には、表向き従っていた。

裏はいくらでもかけるから。どうってことはなかった。

 

 

そんな時だった。

あのウマ娘……えっと……誰だっけ……。

……ナリ、タ……そうだ、ナリタトップロードというウマ娘に、声をかけられたのは。

 

 

私とは『関わりのない』ウマ娘だったから、きっと聞き間違いかと思って黙っていたのに。その人はしつこく私の名前を呼んでいた。

仕方なく私が振り返って右目だけで目を合わせると、彼女はえらく息を切らしていた。

 

 

「……いっ……いつまでっ……! いつまでそんなことをしているんですかっ……! アヤベさん……!」

 

 

何を言っているのだろう、彼女は?

 

『アヤベさん』だなんて。そんな気安い呼び方を許せるほどの友達なんて、『私』にはいない。

そんな友達、作った覚えはないはずだったのだけれど。……作る資格もなかったはずなのだけれど。

 

 

 

「……あなたには、関係ないでしょ」

 

「っ……! かん、けいありますよ!! だって……だって私はっ、アヤベさんの『ライバル』なんですから!!」

 

 

 

ライバル……?

らいばる……?

 

 

そんなウマ娘、知らない。

 

他人の走りなんてどうでも良いんだから。

私はただヒトリ。あの娘のためだけに走っているのだから。走って、勝つだけなのだから。それだけが、『私』がレースで許されたことなのだから。

 

『ライバル』は皆あの娘に返した。

だから、目の前のウマ娘のことなんて、知らない。

 

 

「アヤベさんっ……!」

 

 

目の前のウマ娘は……なぜだか怒っているようだった。

怒っている……?いや、その表情は同時に……とてつもなく、悲しそうだった。

 

 

 

「もう、やめましょう……? トレーナーさんも、オペラオーちゃんもドトウちゃんも、皆心配しているんですよ……?」

 

「……『皆』なんて、私にはいないけど」

 

「っ……います! いました! 目を逸らさないでください!!」

 

 

 

目の前のウマ娘が、一歩踏み出してくる。

 

 

 

「アヤベさん……あなたがどんな事情を抱えているのか……あなたの過去に何があったのか、私は全く知りません! でも、これだけは言えます……! こんなの、絶対間違ってます!!」

 

「……別にどうでもいいでしょ。あなたには関係のないことなんだから」

 

「アヤベさんっ……! こんなので……こんなことをしてっ、本当に誰かが喜ぶと思っているんですか!?」

 

「よろ、こぶ……?」

 

 

 

喜ぶだなんて、知らない。

これは、罰だ。贖罪なんだ。人の世の摂理なんだ。

 

それらに感情は絡まない。

だから、喜ぶなんて次元の話ではない。

 

行うことそのものが、大事なのだから。

……なんにせよ。

 

 

 

 

「あなたには、関係ない」

 

「っ……関係あると言いました!! アヤベさんっ……! 本気で……本気でっ、こんなことに意味があると思ってるんですか!?」

 

「……あるわよ。だから、やっているんだから」

 

「違います!! 意味なんてありません!! こんなことしたってどうにもならないし、誰も喜びません!! そんなの……そんなのアヤベさん自身がっ、心の底では一番わかっているくせに!!」

 

「────」

 

 

 

 

私は脚を伸ばして、立ち上がった。

もうストレッチは終えた。ここに留まる理由はない。『彼女』と話す理由も、もうない。

 

……これ以上、彼女と話してはいけない。

 

 

 

「あ……待ってください!!」

 

 

 

歩き去ろうとする私に……ナリタトップロードは叫ぶ。

 

 

 

「今のアヤベさんっ、自分がどんな顔してレースを走ってるか見たことあるんですか……!? もう……痛々しくて見てられないんですよ……!! ずっと辛そうな顔をしてて……笑うことも完全に無くなっちゃって……!! そんな……そんなアヤベさんを放っておくだなんて……!!」

 

 

 

……うるさい、うるさい、うるさい。

 

 

歩くスピードを上げているのに……トップロードは、必死に追い縋ってくる。

 

 

 

「本当にっ……『誰か』がそんなアヤベさんを望んだんですか……!? その『誰か』は、今のアヤベさんを見て、本気で喜んでくれるんですか……!?」

 

 

 

……うるさい。うるさい、うるさい、うるさい……黙って。

黙ってよ。

 

 

なんで……なんで、あなたは。

あなたはいつも……!

 

 

 

 

「アヤベさん! お願いですからっ、元に───」

 

「っ、触らないでっ!!」

 

 

 

どうしても私を引き留めようと思ったのか。

ナリタトップロードの手が、私の肩に触れた。

 

 

それを、私は思い切り振り払った。

 

 

手加減はしなかった。

ウマ娘としての、全力を振るった。

 

 

振るって、しまった。

 

 

まるで発泡スチロールでも投げたような気軽さで、ナリタトップロードは吹っ飛んだ。

一拍遅れて、ドン、という音。

 

 

 

「あづっ……! つぅ……っ、うぅ……!!」

 

 

 

明らかに受け身を取り損ねていた。

その時に強く打ってしまったのか、ナリタトップロードは頭を押さえて苦しみだす。

 

思わず喉が干上がった。

 

 

 

「とっ……トップロードさん!! 大丈夫!?」

 

 

 

反射的に……駆け寄った。

 

 

 

「あ────」

 

 

 

駆け寄ろうとして、私は気づいた。

 

 

 

『心配』、してしまった。

 

 

『友達』を。

 

 

『私』が。

 

 

 

あの娘に返したはずの友達を……心配してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……あっ、ああ……!」

 

 

「っ……? アヤベ、さん……?」

 

 

「違う……違う、のよ。これは……これは違くて……!決して、『私』の意思で動いたわけじゃないのっ。わかってる。『友達』も『ライバル』もっ、全部あなたに返したものっ。私なんかが持ってていいものじゃないものっ」

 

 

「アヤベさ……つぅっ……!」

 

 

 

───念仏のように言葉を紡ぎ続けるアドマイヤベガに、ナリタトップロードは声をかけようとする。

だがその時に頭に鋭い痛みが走った。手で振れてみると……あのときの拍子に何かしらで切ってしまっていたのか……手には血が付着していた。

 

 

 

「ナリタトップロード……トップロード、さん……! ああっ……! ああああああああ……!!」

 

 

 

アドマイヤベガからも見えたのか。

血をトプロが確認したと同時に、彼女の方まで頭を押さえて呻き始める。

 

 

 

「私がっ……私が怪我をさせた……! トップロードさんにっ……トップロードさんは何も悪くないのにっ……! いや、いや……いや違う。トップロードさん……ナリタトップロードなんて知らない。そんなウマ娘わたしの周りにはいない。それは元々あの娘の周りにいるはずだった!! なのになんでわたしの周りにいるの……? わたしが怪我をさせているの……?? わたしのせい……? わたしのせいだ。トップロードさんはっ、いつも頑張っててっ……、こんなわたしを、『目標』にしてくれていて……! そんなっ、そんな人に怪我を、けが、振り払って、そんな人いないのに、わたしが、わた、トップロードに、わたしのせい、わた、」

 

 

「アヤベさん!? アヤベさんっ!! 落ち着いてくださいっ!!」

 

 

 

今のアドマイヤベガは明らかに錯乱している。考えるまでもなく確信したトップロードは、出血でぐらぐらする意識をどうにか持ち直し彼女の元へと駆け寄った。

同時に、アドマイヤベガの方も自己矛盾や相反する想いの板挟みに耐えきれなくなったのか、怒声とも泣き声とも取れない声を上げながら倒れ込んだ。

 

 

 

「アヤベさんっ!!」

 

 

 

間一髪トップロードが滑り込みアドマイヤベガと地面の衝突を防ぎ、支える。そのまま彼女の体を抱き止めると、おぼつかない手付きでポケットのスマホを起動し自分とアヤベのトレーナーを呼んだ。

その間にもアドマイヤベガは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら幼子のように叫ぶ。

 

 

 

「やめてっ、やめてやめて、触れないで触らないで。そんなことっ、わたしには許されないっ、資格がないからっ。あの娘が、あの娘が怒るっ、取り立てるっ、いや、いやいやいやいや。あなたの方が心配なのに。違うあなたなんか、おまえなんか知らないっ、どうでもいいっ。元々あの娘のものだったんだからっ。あの娘、あの、わたしじゃない、贖罪できないっ。いや、できないのはいや、もうそれしかっ、わたしが生きる意味なんて───」

 

 

 

押し退けられる。かと思いきや爪を立てて背中に腕を回される。

どちらの行動も力が入っていないため苦にはならなかったが……とにかく、ナリタトップロードはただひたすらアドマイヤベガを抱き締め続けた。

 

 

絶対に、離してはいけないと思った。

 

 

 

 

離したら消えてしまうと思ったから。

 

 

本当に、流れ星のように。

 

 

 

 

やがてあらゆる意味で限界を迎えたか、アドマイヤベガはだらりと腕を下げ、ただナリタトップロードのされるがままになり始めた。

糸が切れた人形のように、首までもが力無く垂れ下がる。

 

 

 

 

ナリタトップロードはせめてと、彼女に少しでも安心感を与えようと、背中を叩き始めた。

トン、トン、トン、と。一定のリズムで、優しく。

 

 

まるで怖い夢を見てしまった妹に、姉がベッドの上でしてやるように。

 

 

 

その音に紛れたせいだろうか。

 

 

 

うわ言のように発せられたアドマイヤベガの言葉に、ナリタトップロードは気づかなかったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……誰か、私を裁いてよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰か、私を罰してよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰か─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰か、わたしを許して』

 

 

 

 

 

 

 

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